「誰だこの女は」
突然の闖入者――輝明学園の制服を纏い、その上からポンチョを纏った銀髪の少女に視線を注ぎながら、
最初に言葉を発したのはパピヨンだった。
「エミュレイターの上位種、裏界の魔王……その中でも筆頭とされる”蝿の女王”ベール=ゼファーだ」
「ほお……コレが魔王か」
ナイトメアの言葉を聞きながらパピヨンはしげしげとベルを眺めやる。
その脇ではカズキと剛太が驚くと言うより呆気にとられたといった感じの表情で彼女を見つめていた。
「ま、マジか……」
「女の子……?」
「あら、新鮮な反応。最近そういう顔してくれる人間って少ないから嬉しいわ」
二人の視線を心地良さそうに受け止めてみせてベルは微笑を浮かべ、そして席から立ち上がったまま絶句
している蓮司に目を止めた。
「いつまで固まってるの、柊 蓮司?」
「! おっ……お前、なんでここにいる!?」
ベルの声で我を取り戻した蓮司は、僅かに震える手でベルを指差し、搾り出すような声を上げた。
すると彼女は端整な眉を僅かに潜め、不機嫌そうに蓮司をねめつける。
「なんで、って。ファーストフード店に食事しにくる事の何がおかしいっていうの?」
「魔王がハンバーガーとか食いに来てんじゃねえよ……!」
ベルが座っている席のテーブルに置かれたトレイ……既に紙屑として丸められているバーガーの包みに
目をやり蓮司は叫ぶ。
「何よ、だったら魔王らしくこの辺一帯更地にしろって言うの? しょうがないわねぇ……」
「うお!? 待て待て待て待て!!」
嘆息しながら立ち上がりかけたベルを慌てて制止する。
そんな蓮司の様子を愉しむように彼女は笑った。
「冗談よ。今の所は穏便にするつもりだから」
「――という事は、今回の件はキミの仕業ではないのだな」
僅かに緩みかけた空気に鋭く響いたのは、沈黙を保っていたキャプテンブラボー。
ハットの奥から静かに見据える彼の眼光を受け止めて、ベルは口の端を歪めて応えた。
そして彼女はまるで世間話でもするかのような何気ない調子で、
「ええ、今回私は部外者よ。
そしてマーニとか言うホムンクルスを唆してこの饗宴(パーティ)を開いた主催者は”秘密侯爵”リオン=グンタ」
「――!?」
場を凍りつかせるような言葉を放った。
突然の闖入者――輝明学園の制服を纏い、その上からポンチョを纏った銀髪の少女に視線を注ぎながら、
最初に言葉を発したのはパピヨンだった。
「エミュレイターの上位種、裏界の魔王……その中でも筆頭とされる”蝿の女王”ベール=ゼファーだ」
「ほお……コレが魔王か」
ナイトメアの言葉を聞きながらパピヨンはしげしげとベルを眺めやる。
その脇ではカズキと剛太が驚くと言うより呆気にとられたといった感じの表情で彼女を見つめていた。
「ま、マジか……」
「女の子……?」
「あら、新鮮な反応。最近そういう顔してくれる人間って少ないから嬉しいわ」
二人の視線を心地良さそうに受け止めてみせてベルは微笑を浮かべ、そして席から立ち上がったまま絶句
している蓮司に目を止めた。
「いつまで固まってるの、柊 蓮司?」
「! おっ……お前、なんでここにいる!?」
ベルの声で我を取り戻した蓮司は、僅かに震える手でベルを指差し、搾り出すような声を上げた。
すると彼女は端整な眉を僅かに潜め、不機嫌そうに蓮司をねめつける。
「なんで、って。ファーストフード店に食事しにくる事の何がおかしいっていうの?」
「魔王がハンバーガーとか食いに来てんじゃねえよ……!」
ベルが座っている席のテーブルに置かれたトレイ……既に紙屑として丸められているバーガーの包みに
目をやり蓮司は叫ぶ。
「何よ、だったら魔王らしくこの辺一帯更地にしろって言うの? しょうがないわねぇ……」
「うお!? 待て待て待て待て!!」
嘆息しながら立ち上がりかけたベルを慌てて制止する。
そんな蓮司の様子を愉しむように彼女は笑った。
「冗談よ。今の所は穏便にするつもりだから」
「――という事は、今回の件はキミの仕業ではないのだな」
僅かに緩みかけた空気に鋭く響いたのは、沈黙を保っていたキャプテンブラボー。
ハットの奥から静かに見据える彼の眼光を受け止めて、ベルは口の端を歪めて応えた。
そして彼女はまるで世間話でもするかのような何気ない調子で、
「ええ、今回私は部外者よ。
そしてマーニとか言うホムンクルスを唆してこの饗宴(パーティ)を開いた主催者は”秘密侯爵”リオン=グンタ」
「――!?」
場を凍りつかせるような言葉を放った。
パピヨンとカズキ、剛太を除いた四人の表情が僅かに強張る。
裏界に数多存在する魔王達が一枚岩ではない、という事はウィザード達にとって周知ではあるが、仮にも敵である人間に
対して彼女はあっさりとそれを暴露してしまった。
ある意味ではベルに相応しいやり方だと思わないでもないが、それでも情報を得た事よりも警戒が先走るのは当然だった。
「……部外者だってんなら、お前はなんでここにいる? 何が目的だ?」
「そうね。目的は三つほどあるけど……」
蓮司の問いかけにベルはまっすぐに正面の彼を見据え――そしてその脇で今だ呆然としているカズキを眺めやった。
「?」
金色の眼を見けられて小さく首を傾げたカズキに、彼女は彼には何も言わず再び蓮司に向かって口を開く。
「……今の所の最優先は今やってるリオンの行動を潰す事ね。
他の奴等なら放っておいても貴方達でどうにかできるでしょうけど、リオンが直に動く場合かなり厄介だから」
「奴の持つ『秘密の書』だな?」
ナイトメアの声にベルは小さく鼻を鳴らし、肯定しながら席に身を沈ませた。
リオン=グンタが”秘密侯爵”と仇名される所以とも言える、彼女が手にする巨大な書物。
埋葬された事実、秘匿された事象、覆い隠された運命。
消え去った過去と埋もれた現在と隠された未来を暴く神秘の書。
「……あの子が動くという事は、その結末に至るまでの運命も読み切った上で行動を起こしているというコト。
コレを覆す事は何者にも不可能……それこそ『奇跡』でも起きない限りはね」
「ふざけんな」
ベルの言葉を拒絶するかのように声を上げたのは蓮司である。
彼はその目に怒りを称えて、座する蝿の女王を睨みすえて言葉を継ぐ。
「運命だとかな、そういう安っぽいモンで俺達のやる事が決められてたまるか。
実際、運命だ何だとほざいてた奴とは二度ほど闘ったが両方とも結末は変わった。忘れたとは言わせねえぞ」
「……」
当然、ベルがその事を忘れるはずがない。
何故なら蓮司の言う二度の闘いには、他ならぬ彼女自身が関わっていたのだから。
――”だからこそ”彼女はこうして彼等の前に現われたのだ。
「……打てる手は打っておかないと、ね」
「あ?」
「別に。ちなみにその二つの闘いだけど、リオンによれば最初から結末が変わるのは決まってたみたいよ?」
「後付の予言なんざどうだって言える。そんなモンが――」
「……で、この下らん問答はいつまで続くんだ?」
ベルに向かって更に喰ってかかる蓮司に、パピヨンのうんざりとした声が割って入った。
裏界に数多存在する魔王達が一枚岩ではない、という事はウィザード達にとって周知ではあるが、仮にも敵である人間に
対して彼女はあっさりとそれを暴露してしまった。
ある意味ではベルに相応しいやり方だと思わないでもないが、それでも情報を得た事よりも警戒が先走るのは当然だった。
「……部外者だってんなら、お前はなんでここにいる? 何が目的だ?」
「そうね。目的は三つほどあるけど……」
蓮司の問いかけにベルはまっすぐに正面の彼を見据え――そしてその脇で今だ呆然としているカズキを眺めやった。
「?」
金色の眼を見けられて小さく首を傾げたカズキに、彼女は彼には何も言わず再び蓮司に向かって口を開く。
「……今の所の最優先は今やってるリオンの行動を潰す事ね。
他の奴等なら放っておいても貴方達でどうにかできるでしょうけど、リオンが直に動く場合かなり厄介だから」
「奴の持つ『秘密の書』だな?」
ナイトメアの声にベルは小さく鼻を鳴らし、肯定しながら席に身を沈ませた。
リオン=グンタが”秘密侯爵”と仇名される所以とも言える、彼女が手にする巨大な書物。
埋葬された事実、秘匿された事象、覆い隠された運命。
消え去った過去と埋もれた現在と隠された未来を暴く神秘の書。
「……あの子が動くという事は、その結末に至るまでの運命も読み切った上で行動を起こしているというコト。
コレを覆す事は何者にも不可能……それこそ『奇跡』でも起きない限りはね」
「ふざけんな」
ベルの言葉を拒絶するかのように声を上げたのは蓮司である。
彼はその目に怒りを称えて、座する蝿の女王を睨みすえて言葉を継ぐ。
「運命だとかな、そういう安っぽいモンで俺達のやる事が決められてたまるか。
実際、運命だ何だとほざいてた奴とは二度ほど闘ったが両方とも結末は変わった。忘れたとは言わせねえぞ」
「……」
当然、ベルがその事を忘れるはずがない。
何故なら蓮司の言う二度の闘いには、他ならぬ彼女自身が関わっていたのだから。
――”だからこそ”彼女はこうして彼等の前に現われたのだ。
「……打てる手は打っておかないと、ね」
「あ?」
「別に。ちなみにその二つの闘いだけど、リオンによれば最初から結末が変わるのは決まってたみたいよ?」
「後付の予言なんざどうだって言える。そんなモンが――」
「……で、この下らん問答はいつまで続くんだ?」
ベルに向かって更に喰ってかかる蓮司に、パピヨンのうんざりとした声が割って入った。
眉間に皺を寄せたまま蓮司が振り向くと、彼はセットのオマケでついてきたマスコットを弄くりながら、誰に語るでもなく言葉を紡ぐ。
「運命とやらの真偽などどうでもいい。重要なのはソイツがここにいるという事実だろう」
そして彼は自分に視線が集まったのを感じるとゆっくりとマスコットをテーブルに置き――口の端を歪めてベルを見やった。
「コイツ等に何をさせたいのかさっさと言ったらどうだ、”蝿の女王”?」
「……ふぅん、格好のワリに中身はまともなのね」
「格好を見て理解できんとは、裏界のセンスもたかが知れているな」
パピヨンの視線を受けてベルも不敵に嗤う。
挟まれた格好になる蓮司は両者を交互に眺めながら、おずおずと声を出した。
「ど、どういう事だ?」
「……頭が悪いな、柊 蓮司」「……頭が悪いわね、柊 蓮司」
「う、うるせえ……だからフルネームで呼ぶんじゃねえよ!」
「ゴメン、オレもよくわかんなかった」
照れ臭そうに頬をかいて告白するカズキに、パピヨンは小さく鼻を鳴らしてからベルを指差す。
「運命とやらが決まってようが決まってなかろうが、コイツにはそのリオンとかいう奴の行動を”どうにかできる”方法があるという事だ」
「そ、そうなのか?」
「まあね。ただ、そう何度もできる事じゃあないから見極めが難しいのよ。流れを決定的に覆せる機を掴まないといけない」
「そのために俺達を『利用する』という訳か」
「その通り。叩けば潰れるっていうならあたしだけで十分なんだけど、今回はそう簡単にはいかない。
そして現状あたしは『不確定要素』である事が望ましい。そこで貴方達の出番と言うワケ」
「……何を狙っている」
蓮司達四人とは違い気を張り続けてベルと相対するナイトメア・ブラボーの両者を見据えながら、彼女はおどけるように肩を竦めて口の端を歪めた。
「決まっているでしょう? 世界を救ってもらうのよ……いずれあたしがこの手で滅ぼすためにね」
「運命とやらの真偽などどうでもいい。重要なのはソイツがここにいるという事実だろう」
そして彼は自分に視線が集まったのを感じるとゆっくりとマスコットをテーブルに置き――口の端を歪めてベルを見やった。
「コイツ等に何をさせたいのかさっさと言ったらどうだ、”蝿の女王”?」
「……ふぅん、格好のワリに中身はまともなのね」
「格好を見て理解できんとは、裏界のセンスもたかが知れているな」
パピヨンの視線を受けてベルも不敵に嗤う。
挟まれた格好になる蓮司は両者を交互に眺めながら、おずおずと声を出した。
「ど、どういう事だ?」
「……頭が悪いな、柊 蓮司」「……頭が悪いわね、柊 蓮司」
「う、うるせえ……だからフルネームで呼ぶんじゃねえよ!」
「ゴメン、オレもよくわかんなかった」
照れ臭そうに頬をかいて告白するカズキに、パピヨンは小さく鼻を鳴らしてからベルを指差す。
「運命とやらが決まってようが決まってなかろうが、コイツにはそのリオンとかいう奴の行動を”どうにかできる”方法があるという事だ」
「そ、そうなのか?」
「まあね。ただ、そう何度もできる事じゃあないから見極めが難しいのよ。流れを決定的に覆せる機を掴まないといけない」
「そのために俺達を『利用する』という訳か」
「その通り。叩けば潰れるっていうならあたしだけで十分なんだけど、今回はそう簡単にはいかない。
そして現状あたしは『不確定要素』である事が望ましい。そこで貴方達の出番と言うワケ」
「……何を狙っている」
蓮司達四人とは違い気を張り続けてベルと相対するナイトメア・ブラボーの両者を見据えながら、彼女はおどけるように肩を竦めて口の端を歪めた。
「決まっているでしょう? 世界を救ってもらうのよ……いずれあたしがこの手で滅ぼすためにね」
※ ※ ※
「……もしもし」
携帯を耳に充てて斗貴子は声を出した。
声音が変わるのは避けられたが、携帯を持つ手が僅かに震えるのだけは、止められなかった。
『あ、斗貴子さん。よかった、繋がって』
「さーちゃん……一体どうしたんだ?」
『斗貴子さん、あかりんと出かけたみたいだからどうしてるかなって。カズキ先輩も出てるみたいだし』
「……。キミも知ってる通り、最近物騒だからな」
『あはは。物騒だったら外に出ちゃダメだよ、斗貴子さん』
携帯の向こうから聞こえてくる河井 沙織の声は普段と全く変わらない。
なのに、つい先ほど灯達から話を聞いたためだろうか、どこか彼女の声に違和感を感じてしまう。
その違和感を振り払うために――恐らくそれは無意味な事だとわかっていながら――斗貴子は努めて平常を装い沙織に向かって問いかけた。
「……キミは今、寄宿舎にいるのか?」
『ううん。いま、外。なんだかお腹が減っちゃって』
「ダメだろう。最近は物騒だし、それでなくとも夕食後の外出は禁じられている」
『斗貴子さんに言われても説得力ないよー』
くすくすと沙織の笑い声が聞こえる。
――早く寄宿舎に戻りなさい。
普通ならそう言わなければならないはずなのに、もうその言葉を出す事ができない。
「……斗貴子」
「……」
後ろから響いた灯の声に、頷いて返す。
教えられる必要など全くなかった。
恐らくは、一番最初に気付いたのは彼女自身であっただろうから。
「――寄宿舎に、戻らないのか?」
口に出せない言葉に代えて、斗貴子が紡いだのはそんな言葉。
沙織は今だくすくすと笑い声を漏らしながら、応える。
『それなんだけど……』
答えが帰ってくる前に、斗貴子は携帯を耳から離した。
もう何の意味もないからだ。
彼女は屋上から眼下に広がる校庭に目を向ける。
深海のような暗がり、月の光を受けてぼんやりと浮かぶグラウンドに、一つの影が在る。
斗貴子は眉を歪め、唇を噛み締めて、呻くように漏らした。
「――寄宿舎に、”戻れない”のか?」
グラウンドの中央に立ち尽くす少女――河井 沙織は、斗貴子の声に応えるように目を向けて、まるで人形のように嗤った。
携帯を耳に充てて斗貴子は声を出した。
声音が変わるのは避けられたが、携帯を持つ手が僅かに震えるのだけは、止められなかった。
『あ、斗貴子さん。よかった、繋がって』
「さーちゃん……一体どうしたんだ?」
『斗貴子さん、あかりんと出かけたみたいだからどうしてるかなって。カズキ先輩も出てるみたいだし』
「……。キミも知ってる通り、最近物騒だからな」
『あはは。物騒だったら外に出ちゃダメだよ、斗貴子さん』
携帯の向こうから聞こえてくる河井 沙織の声は普段と全く変わらない。
なのに、つい先ほど灯達から話を聞いたためだろうか、どこか彼女の声に違和感を感じてしまう。
その違和感を振り払うために――恐らくそれは無意味な事だとわかっていながら――斗貴子は努めて平常を装い沙織に向かって問いかけた。
「……キミは今、寄宿舎にいるのか?」
『ううん。いま、外。なんだかお腹が減っちゃって』
「ダメだろう。最近は物騒だし、それでなくとも夕食後の外出は禁じられている」
『斗貴子さんに言われても説得力ないよー』
くすくすと沙織の笑い声が聞こえる。
――早く寄宿舎に戻りなさい。
普通ならそう言わなければならないはずなのに、もうその言葉を出す事ができない。
「……斗貴子」
「……」
後ろから響いた灯の声に、頷いて返す。
教えられる必要など全くなかった。
恐らくは、一番最初に気付いたのは彼女自身であっただろうから。
「――寄宿舎に、戻らないのか?」
口に出せない言葉に代えて、斗貴子が紡いだのはそんな言葉。
沙織は今だくすくすと笑い声を漏らしながら、応える。
『それなんだけど……』
答えが帰ってくる前に、斗貴子は携帯を耳から離した。
もう何の意味もないからだ。
彼女は屋上から眼下に広がる校庭に目を向ける。
深海のような暗がり、月の光を受けてぼんやりと浮かぶグラウンドに、一つの影が在る。
斗貴子は眉を歪め、唇を噛み締めて、呻くように漏らした。
「――寄宿舎に、”戻れない”のか?」
グラウンドの中央に立ち尽くす少女――河井 沙織は、斗貴子の声に応えるように目を向けて、まるで人形のように嗤った。
屋上と校庭。 姿の見えるはずのない距離、声の届くはずのない距離。
にも拘らず斗貴子達は河井 沙織の姿を視認し、その声を聞く。
『常識』が傾ぎ始めた空間の中で、両者は対峙していた。
「寄宿舎にはちょっと帰りにくくて。どうしちゃったのかな」
声質だけは普段どおりの沙織の声を聞きながら、斗貴子は横目でくれはをみやる。
くれはは辛そうに眉を寄せて、小さく頭を左右に振った。
彼女が寄宿舎に敷いた結界はあくまでヒトならざるモノを退けるためのもの。
人狼族や吸血鬼などのウィザードには効果が出てしまう可能性があるが、一般人ならその存在に気づく事はまず在り得ない。
「キミこそ、どうしたんだ」
「なにが?」
「……キミは、寄宿舎を抜け出して外に行くような子ではなかっただろう」
それは無意味な会話だ。斗貴子はそれがわかっている。
にも関わらず、何故か彼女は沙織に敵意を抱けない。
武藤 カズキに手を引かれて訪れたこの場所。
たった数ヶ月にしかならない、それだけのことで――
「――ガンナーズブルーム」
「灯!」
空気を穿つような声が響き、灯が身の丈を越える箒を取り出した。
斗貴子が制止するよりも早く、灯はガンナーズブームを沙織に向けて一切の躊躇なく引鉄を引いた。
砲口に魔方陣が浮かび、銃弾が放たれる。
目視すら困難な速度で撃たれた一撃を――沙織は踊るように身を引いてかわした。
「ふふ。あかりんって案外気が早いんだね」
グラウンドが轟音と共に土砂を巻き上げる。その中でなおはっきりと響く沙織の笑い声。
「……別に。もう会話をする意味なんて、ないもの」
そう、もはや会話など何の意味もない。
ウィザードの放つ攻撃に対処できる一般人など存在しない。
灯は蓮司の報告を全く疑いはしなかった。
何故なら私的な部分は別として――否、私的な部分を踏まえるからこそ、柊 蓮司というウィザードが語った事は真実なのだ。
彼は疑惑程度で他人を巻き込む事は絶対にしない。故に、彼が彼女をエミュレイターと断ずるならば、疑う余地などありはしない。
「敵は斃す。総て、斃す」
斗貴子の目の前で、感情のない紅の瞳の少女は静かに謳う。
それはかつて、この場所に辿り着く前に斗貴子自身が刻んだコトバ。
「大丈夫だよ、斗貴子さん。まだ間に合うから」
「……ああ」
くれはの言葉に彼女は頷いて返し、彼女は地上の沙織を見つめる。
「――さーちゃん」
視線の先には日常の証だったはずの少女が居る。
何時の間にかそちらに傾いてしまっていた自分を、恥じるつもりはなかった。
灯にも語った通り、それは決して悪いことではないと信じているから。
だから彼女は、眼下の少女に向かってこう言った。
自分をこんなにも変えてしまった彼が、きっと言うだろう言葉を。
「――キミを、助ける」
にも拘らず斗貴子達は河井 沙織の姿を視認し、その声を聞く。
『常識』が傾ぎ始めた空間の中で、両者は対峙していた。
「寄宿舎にはちょっと帰りにくくて。どうしちゃったのかな」
声質だけは普段どおりの沙織の声を聞きながら、斗貴子は横目でくれはをみやる。
くれはは辛そうに眉を寄せて、小さく頭を左右に振った。
彼女が寄宿舎に敷いた結界はあくまでヒトならざるモノを退けるためのもの。
人狼族や吸血鬼などのウィザードには効果が出てしまう可能性があるが、一般人ならその存在に気づく事はまず在り得ない。
「キミこそ、どうしたんだ」
「なにが?」
「……キミは、寄宿舎を抜け出して外に行くような子ではなかっただろう」
それは無意味な会話だ。斗貴子はそれがわかっている。
にも関わらず、何故か彼女は沙織に敵意を抱けない。
武藤 カズキに手を引かれて訪れたこの場所。
たった数ヶ月にしかならない、それだけのことで――
「――ガンナーズブルーム」
「灯!」
空気を穿つような声が響き、灯が身の丈を越える箒を取り出した。
斗貴子が制止するよりも早く、灯はガンナーズブームを沙織に向けて一切の躊躇なく引鉄を引いた。
砲口に魔方陣が浮かび、銃弾が放たれる。
目視すら困難な速度で撃たれた一撃を――沙織は踊るように身を引いてかわした。
「ふふ。あかりんって案外気が早いんだね」
グラウンドが轟音と共に土砂を巻き上げる。その中でなおはっきりと響く沙織の笑い声。
「……別に。もう会話をする意味なんて、ないもの」
そう、もはや会話など何の意味もない。
ウィザードの放つ攻撃に対処できる一般人など存在しない。
灯は蓮司の報告を全く疑いはしなかった。
何故なら私的な部分は別として――否、私的な部分を踏まえるからこそ、柊 蓮司というウィザードが語った事は真実なのだ。
彼は疑惑程度で他人を巻き込む事は絶対にしない。故に、彼が彼女をエミュレイターと断ずるならば、疑う余地などありはしない。
「敵は斃す。総て、斃す」
斗貴子の目の前で、感情のない紅の瞳の少女は静かに謳う。
それはかつて、この場所に辿り着く前に斗貴子自身が刻んだコトバ。
「大丈夫だよ、斗貴子さん。まだ間に合うから」
「……ああ」
くれはの言葉に彼女は頷いて返し、彼女は地上の沙織を見つめる。
「――さーちゃん」
視線の先には日常の証だったはずの少女が居る。
何時の間にかそちらに傾いてしまっていた自分を、恥じるつもりはなかった。
灯にも語った通り、それは決して悪いことではないと信じているから。
だから彼女は、眼下の少女に向かってこう言った。
自分をこんなにも変えてしまった彼が、きっと言うだろう言葉を。
「――キミを、助ける」
それが日常の世界の終幕。
現実が虚構になり、虚構が現実へと変わる。
天に昇るは禍々しい紅の月。
暗闇を暁に侵食するその世界の中、少女たちは床を蹴って屋上から身を躍らせる。
地上に君臨する少女の周囲になお昏い闇が湧き上がる。
闇から生まれ出るは異形のケモノ達。
迫ってくる地上と、そこに待ち受ける者共を見据えながら、斗貴子は手にした核金を胸の前に掲げた。
決意と掌握。そして咆哮。
解き放つその力を、彼女は叫ぶ。
「――武装錬金!!」
現実が虚構になり、虚構が現実へと変わる。
天に昇るは禍々しい紅の月。
暗闇を暁に侵食するその世界の中、少女たちは床を蹴って屋上から身を躍らせる。
地上に君臨する少女の周囲になお昏い闇が湧き上がる。
闇から生まれ出るは異形のケモノ達。
迫ってくる地上と、そこに待ち受ける者共を見据えながら、斗貴子は手にした核金を胸の前に掲げた。
決意と掌握。そして咆哮。
解き放つその力を、彼女は叫ぶ。
「――武装錬金!!」
※ ※ ※
「――!!」
瞬間、蓮司とナイトメア、そしてベルは弾けるようにその方向を見た。
「来たか……!」
「この方角……学校!?」
この場においてただならぬ気配を察せない者は存在しない。
パピヨンとベルを除いた六人は立ち上がって互いに顔を見合わせた。
「学校ってまさか……」
「斗貴子さん達か!?」
全員が慌しく外へと向かう中、蓮司は席に座ったままのベルに目を向ける。
しかし、彼女は最初こそ反応はしたものの何事もなかったかのように席に腰を沈め、ドリンクのストローに口を付けていた。
「あたしはパスよ、さっき言った通り今は動く気はないから」
「……お前、俺達を利用するって言ってたな。何をさせるつもりだ?」
「別に何も。あんた達はそのままやってリオンを追い詰めてくれさえすればそれでいい……一つだけ助言をしてあげるわ」
言いながらベルはドリンクをテーブルに置き、金色の瞳で蓮司を見据える。
「リオンは運命を読む。故に、貴方達にとって最善の行動は、あの子にとって望む展開になる可能性が高いって事よ」
「……? どういう意味だ?」
「自分で考えることね。元より協力するような間柄でなし……ま、精々必死に運命に抗ってみなさい」
嘲るように言ってのけるベルに蓮司は舌打ちすると、五人を追って走り出した。
そして残ったのはベルとパピヨンの二人。
席から立とうともせずに退屈そうにしているパピヨンへ、ベルは問いかけた。
「……アンタは行かないの?」
「俺は傍観だと言っただろう。舞台に出損ねた錬金術師がどう踊り狂おうと食指なぞ動かん。まあそういう意味でなら――」
パピヨンは空になったポテトの器を拾い上げて、中身が空になっているのを確認するとそれを握りつぶして投げ捨てる。
そして彼はベルに顔を向けて、鋭い目を僅かに歪めた。
「――虚言で以てアイツ等を踊らせようとする大魔王の方にこそ興味は引かれるがな」
「……!」
ベルの金色の瞳が僅かに見開かれ、次いで彼女の纏う空気に殺気が混じる。
「……本当に、格好だけではないようね」
「当たり前だ。俺は蝶天才だからな」
言って両者は互いを見つめた後――どちらからともなく愉快そうな笑みを浮かべた。
瞬間、蓮司とナイトメア、そしてベルは弾けるようにその方向を見た。
「来たか……!」
「この方角……学校!?」
この場においてただならぬ気配を察せない者は存在しない。
パピヨンとベルを除いた六人は立ち上がって互いに顔を見合わせた。
「学校ってまさか……」
「斗貴子さん達か!?」
全員が慌しく外へと向かう中、蓮司は席に座ったままのベルに目を向ける。
しかし、彼女は最初こそ反応はしたものの何事もなかったかのように席に腰を沈め、ドリンクのストローに口を付けていた。
「あたしはパスよ、さっき言った通り今は動く気はないから」
「……お前、俺達を利用するって言ってたな。何をさせるつもりだ?」
「別に何も。あんた達はそのままやってリオンを追い詰めてくれさえすればそれでいい……一つだけ助言をしてあげるわ」
言いながらベルはドリンクをテーブルに置き、金色の瞳で蓮司を見据える。
「リオンは運命を読む。故に、貴方達にとって最善の行動は、あの子にとって望む展開になる可能性が高いって事よ」
「……? どういう意味だ?」
「自分で考えることね。元より協力するような間柄でなし……ま、精々必死に運命に抗ってみなさい」
嘲るように言ってのけるベルに蓮司は舌打ちすると、五人を追って走り出した。
そして残ったのはベルとパピヨンの二人。
席から立とうともせずに退屈そうにしているパピヨンへ、ベルは問いかけた。
「……アンタは行かないの?」
「俺は傍観だと言っただろう。舞台に出損ねた錬金術師がどう踊り狂おうと食指なぞ動かん。まあそういう意味でなら――」
パピヨンは空になったポテトの器を拾い上げて、中身が空になっているのを確認するとそれを握りつぶして投げ捨てる。
そして彼はベルに顔を向けて、鋭い目を僅かに歪めた。
「――虚言で以てアイツ等を踊らせようとする大魔王の方にこそ興味は引かれるがな」
「……!」
ベルの金色の瞳が僅かに見開かれ、次いで彼女の纏う空気に殺気が混じる。
「……本当に、格好だけではないようね」
「当たり前だ。俺は蝶天才だからな」
言って両者は互いを見つめた後――どちらからともなく愉快そうな笑みを浮かべた。