静寂が、訪れる。
紅き世界で、喋るものはただ1人。
「いやあ。本当に楽しめたわ」
ファルファルロウがどこか嬉しそうに言う。
ゆっくりと、崩壊を始めた月匣の中で。
「大公はんがなんだってあんなに世界侵略が好きなんか、ちょっと分かった気がする」
ルーラーを失い、月匣が崩れ去るのに連動して、裏界の穴も小さくなって消滅する。
それを気にも留めずファルファルロウはその手を胸元へと持って行く。
「負けるのも…意外と楽しいもんなんやな」
完全に、いっそすがすがしい位なにも無くなった胸の穴へと。
「まさか最後の最後で、あんな隠し玉出てくるとは思わんかった」
そちらを見る。その…光で焼きつくされ、全身が焼け焦げた吸血鬼の方を。
「まったく、とんでもない適応能力やな…」
ファー・ジ・アースの吸血鬼の中にすら、その使い手は少ない。
使えるとしたら、そいつは気が遠くなるほど長生きした吸血鬼か、血反吐を吐きまくって戦い続けてきた吸血鬼だけだ。
「ええやろ。この告発者ファルファルロウが認めたる」
死に瀕したとき、人間はとんでもない力を引き出すことができる。
それは…元は人間だった吸血鬼でも同じこと。
「アンタの最後の一撃。最高やったで」
吸血鬼の最後の必殺技に対してそう、言い残し。
月匣と共にファルファルロウはこの世界から消滅した。
紅き世界で、喋るものはただ1人。
「いやあ。本当に楽しめたわ」
ファルファルロウがどこか嬉しそうに言う。
ゆっくりと、崩壊を始めた月匣の中で。
「大公はんがなんだってあんなに世界侵略が好きなんか、ちょっと分かった気がする」
ルーラーを失い、月匣が崩れ去るのに連動して、裏界の穴も小さくなって消滅する。
それを気にも留めずファルファルロウはその手を胸元へと持って行く。
「負けるのも…意外と楽しいもんなんやな」
完全に、いっそすがすがしい位なにも無くなった胸の穴へと。
「まさか最後の最後で、あんな隠し玉出てくるとは思わんかった」
そちらを見る。その…光で焼きつくされ、全身が焼け焦げた吸血鬼の方を。
「まったく、とんでもない適応能力やな…」
ファー・ジ・アースの吸血鬼の中にすら、その使い手は少ない。
使えるとしたら、そいつは気が遠くなるほど長生きした吸血鬼か、血反吐を吐きまくって戦い続けてきた吸血鬼だけだ。
「ええやろ。この告発者ファルファルロウが認めたる」
死に瀕したとき、人間はとんでもない力を引き出すことができる。
それは…元は人間だった吸血鬼でも同じこと。
「アンタの最後の一撃。最高やったで」
吸血鬼の最後の必殺技に対してそう、言い残し。
月匣と共にファルファルロウはこの世界から消滅した。
「サフィー!」
静が駆け寄り、小さな身体を抱きかかえる。
「なんだって、こんな真似…」
その身体は軽かった。悲しくなるほど。
「…うっさいわね。さっき言ったじゃない…」
「サフィーちゃん!?」
抱きかかえられたまま、サフィーがうっすらと目を開く。
「あんな目にあうのは…1回で…十分よ」
温かい。生きてる人間の腕だ。
その腕の感触が酷く懐かしくて泣きそうになりながら、サフィーがささやくように言う。
(死ぬときには今までの思い出が全部蘇るって言うけど…)
もう助からないことを自覚しながらサフィーは回転が止まりそうな頭でぼんやりと考える。
(嘘だったのね、あれ)
思い出されるのは最近のできごとばかりだ。あの、クリスマスの夜より後ばかり。楽しかった思い出ばかりだ。
(ま、いいか…ん?)
顔に生温かい感触を感じる。唇から入ったそれは…しょっぱい。
「もう…そんなに、泣かないの」
そう言いながら静の涙をぬぐおうと小さな右手を上げた瞬間…その右手が土くれに返って崩れ去る。
「ちぇ…もうちょっとくらい気を…きかせろっての。だらしのない…身体」
今度は足。くるぶしより下が無くなる。
「しょうがない…1回しか…言わないわ」
今度は左手。時間はそんなに無さそうだ。そう悟ったサフィーが目の前で泣く少年に伝える。
「ありがと。あんたのお陰で、結構楽しかったわ。じゃあ…さよなら…」
そう言うとサフィーはゆっくりと目を閉じて。
動かなくなった。
静が駆け寄り、小さな身体を抱きかかえる。
「なんだって、こんな真似…」
その身体は軽かった。悲しくなるほど。
「…うっさいわね。さっき言ったじゃない…」
「サフィーちゃん!?」
抱きかかえられたまま、サフィーがうっすらと目を開く。
「あんな目にあうのは…1回で…十分よ」
温かい。生きてる人間の腕だ。
その腕の感触が酷く懐かしくて泣きそうになりながら、サフィーがささやくように言う。
(死ぬときには今までの思い出が全部蘇るって言うけど…)
もう助からないことを自覚しながらサフィーは回転が止まりそうな頭でぼんやりと考える。
(嘘だったのね、あれ)
思い出されるのは最近のできごとばかりだ。あの、クリスマスの夜より後ばかり。楽しかった思い出ばかりだ。
(ま、いいか…ん?)
顔に生温かい感触を感じる。唇から入ったそれは…しょっぱい。
「もう…そんなに、泣かないの」
そう言いながら静の涙をぬぐおうと小さな右手を上げた瞬間…その右手が土くれに返って崩れ去る。
「ちぇ…もうちょっとくらい気を…きかせろっての。だらしのない…身体」
今度は足。くるぶしより下が無くなる。
「しょうがない…1回しか…言わないわ」
今度は左手。時間はそんなに無さそうだ。そう悟ったサフィーが目の前で泣く少年に伝える。
「ありがと。あんたのお陰で、結構楽しかったわ。じゃあ…さよなら…」
そう言うとサフィーはゆっくりと目を閉じて。
動かなくなった。
「せんせい…」
「静さん…」
我に帰ったいのりと目を覚ました銀之介がサフィーを抱きかかえたままの静に声をかける。
何を言っていいのか、2人には分からなかった。ただ、静のどうしようもない悲しみだけが伝わってくる。
沈黙が、再び訪れる。ただ、ボロボロと少女の肉体が崩壊して、土くれに帰って行く音だけが辺りに響く。
「あんなのは…1回で十分…」
それを破ったのは…静の言葉だった。
「奇遇だね。僕もさ」
ギリッと唇を噛みしめる。唇から血が流れおちる。
「目の前で、女の子を助けられないで終わり…そしてずっと後悔し続ける」
体内に残ったプラーナをかき集める。
「そんなのは…1回で十分だ!」
うまくいく可能性がどれだけあるのかは分からない。
「だから…」
だから、ただ信じる。信じてやる。目の前の女の子の悪運の強さを!
「帰って来い!サフィー!」
そう、静は叫んで。
サフィーの唇に自らの唇を重ねた。
「静さん…」
我に帰ったいのりと目を覚ました銀之介がサフィーを抱きかかえたままの静に声をかける。
何を言っていいのか、2人には分からなかった。ただ、静のどうしようもない悲しみだけが伝わってくる。
沈黙が、再び訪れる。ただ、ボロボロと少女の肉体が崩壊して、土くれに帰って行く音だけが辺りに響く。
「あんなのは…1回で十分…」
それを破ったのは…静の言葉だった。
「奇遇だね。僕もさ」
ギリッと唇を噛みしめる。唇から血が流れおちる。
「目の前で、女の子を助けられないで終わり…そしてずっと後悔し続ける」
体内に残ったプラーナをかき集める。
「そんなのは…1回で十分だ!」
うまくいく可能性がどれだけあるのかは分からない。
「だから…」
だから、ただ信じる。信じてやる。目の前の女の子の悪運の強さを!
「帰って来い!サフィー!」
そう、静は叫んで。
サフィーの唇に自らの唇を重ねた。
*
(どこよ?ここ…)
気がつくと、サフィーは川べりにたっていた。辺りには無数の花が咲いている。
(確かアタシは魔法で焼かれて…)
いつの間にやら傷どころか服の破れすら無くなっている。不可思議な現象に首をかしげる。
(何がど~なって…)
「サファイア」
声をかけられて、サフィーの体がピクッと反応する。その声には聞き覚えがある。
サフィーの知る限り、ありえないはずの声。とっくの昔に、死んだはずの奴の声。
「…なんでアンタがここにいんのよ」
不機嫌な顔で顔を上げる。
川の向こうには一人の男が立っていた。背の高い壮年の男。ロマンスグレーの髪と異様に悪い顔色と黒い服。そしてとどめに黒マント。
どっからどう見てもあれ以外には見えないその男。
「クソ親父…」
「相変わらず元気そうで何よりだよ。サファイア」
老齢吸血鬼、フロイデッドは相変わらずの自らの娘にちょっとだけ苦い微笑みを返した。
気がつくと、サフィーは川べりにたっていた。辺りには無数の花が咲いている。
(確かアタシは魔法で焼かれて…)
いつの間にやら傷どころか服の破れすら無くなっている。不可思議な現象に首をかしげる。
(何がど~なって…)
「サファイア」
声をかけられて、サフィーの体がピクッと反応する。その声には聞き覚えがある。
サフィーの知る限り、ありえないはずの声。とっくの昔に、死んだはずの奴の声。
「…なんでアンタがここにいんのよ」
不機嫌な顔で顔を上げる。
川の向こうには一人の男が立っていた。背の高い壮年の男。ロマンスグレーの髪と異様に悪い顔色と黒い服。そしてとどめに黒マント。
どっからどう見てもあれ以外には見えないその男。
「クソ親父…」
「相変わらず元気そうで何よりだよ。サファイア」
老齢吸血鬼、フロイデッドは相変わらずの自らの娘にちょっとだけ苦い微笑みを返した。
「ここはな、いわゆる…あの世とこの世の境目って奴らしい」
フロイがサフィーに語りかける。
「…そう」
それを聞いて、サフィーはむしろ冷静さを取り戻した。
胡散臭いが、本当ならば逆に色々と説明がつく。
まったく覚えのない場所に傷一つ無い身体、そして、とっくの昔に死んだはずの男。
そう言えば普段なら非常にゆっくりとだが確実に動いているはずのものの鼓動がまったく感じられない。
どうやら今のサフィーは…
「…そういや昔トナが言ってたっけ。死ぬと川が見えるとかどうとか」
「その通り。ここはそう言う場所だ」
サフィーの考えをフロイが深く頷いて肯定する。
「そう。じゃあやっぱりアタシは…」
冷静に考えればむしろ当然だ。あれだけのダメージを受けて生き伸びれるほど化け物だった覚えは無いし、実際肉体の崩壊だって始まっていた。
あそこから蘇れる吸血鬼なんて…サフィーの記憶にある限りでは、いやしない。
「あ~あ…とうとうアタシも終わりか」
「不満かね?」
溜息をついて呟いた言葉に、フロイが聞き返す。
「う~ん、そうね…」
その言葉にサフィーは今までの人生を振り返って。
「…まあ、いいわ」
そう、結論した。
「本当だったらあの時に死んでたはずだから、6年分得したって思う事にする。今さらあっちに未練も無いし、ね」
微笑んで、言う。
だが、その言葉に、フロイはむしろ意外そうな顔をする。
「…そ、そうなのか?」
「何よその顔は?」
その顔に不満を隠そうともせずサフィーが問い返す。
「別に迎えとかそ~ゆ~つもりじゃあ無かったんだが」
う~んと考え込んでしまう。まさか娘がここまで覚悟してるとは思わなかった。
「は?じゃあど~ゆ~つもりだったのよ」
怪訝そうに問い返す。迎えじゃなかったら、なんなのだ。
その言葉に、フロイはこう答えた。
「いやなに。ちょっとだけ、話をしておきたい、そう思ってな」
「話?なんの?」
「ああ、話だ」
そう言って、フロイはその言葉を口にする。
フロイがサフィーに語りかける。
「…そう」
それを聞いて、サフィーはむしろ冷静さを取り戻した。
胡散臭いが、本当ならば逆に色々と説明がつく。
まったく覚えのない場所に傷一つ無い身体、そして、とっくの昔に死んだはずの男。
そう言えば普段なら非常にゆっくりとだが確実に動いているはずのものの鼓動がまったく感じられない。
どうやら今のサフィーは…
「…そういや昔トナが言ってたっけ。死ぬと川が見えるとかどうとか」
「その通り。ここはそう言う場所だ」
サフィーの考えをフロイが深く頷いて肯定する。
「そう。じゃあやっぱりアタシは…」
冷静に考えればむしろ当然だ。あれだけのダメージを受けて生き伸びれるほど化け物だった覚えは無いし、実際肉体の崩壊だって始まっていた。
あそこから蘇れる吸血鬼なんて…サフィーの記憶にある限りでは、いやしない。
「あ~あ…とうとうアタシも終わりか」
「不満かね?」
溜息をついて呟いた言葉に、フロイが聞き返す。
「う~ん、そうね…」
その言葉にサフィーは今までの人生を振り返って。
「…まあ、いいわ」
そう、結論した。
「本当だったらあの時に死んでたはずだから、6年分得したって思う事にする。今さらあっちに未練も無いし、ね」
微笑んで、言う。
だが、その言葉に、フロイはむしろ意外そうな顔をする。
「…そ、そうなのか?」
「何よその顔は?」
その顔に不満を隠そうともせずサフィーが問い返す。
「別に迎えとかそ~ゆ~つもりじゃあ無かったんだが」
う~んと考え込んでしまう。まさか娘がここまで覚悟してるとは思わなかった。
「は?じゃあど~ゆ~つもりだったのよ」
怪訝そうに問い返す。迎えじゃなかったら、なんなのだ。
その言葉に、フロイはこう答えた。
「いやなに。ちょっとだけ、話をしておきたい、そう思ってな」
「話?なんの?」
「ああ、話だ」
そう言って、フロイはその言葉を口にする。
「おめでとう。サフィー」
「は?」
意味が分からないと言った顔のサフィーを気にも留めず語り続ける。
「実はね。少しだけ後悔していたんだよ。お前を、幼いままの姿で吸血鬼にしてしまったこと。
あのままくたばるよりはマシかも知れんが、その姿では永遠を共に過ごすものを得るにはあまりに不利だ、とね」
「…いいわよ。もう。その話は」
苦虫をかみつぶしたような顔でサフィーが言う。
サフィーだって考えなかったわけじゃあない。むしろ何度も考えたし、フロイを恨んだことだってある。
自分が、あと10歳年を取ってから吸血鬼になっていたら、もう少しましだったんじゃないかって。
永遠の7歳は、男女の愛を育むには、あんまし向いていない。
「だが、その心配はどうやら無用だったようで、安心したよ。流石は我が娘だ」
「ちょっと、ど~ゆ~意味よ?」
「なかなか知的な好青年じゃないか。少し胡散臭いがそれもまた、味のうちだ」
「だから、ど~ゆ~意味かって聞いてんの!」
サフィーの問いを無視して延々と語る。時間が無いのだ。
…娘が帰ってしまうまで。
「なぁにお前ならすぐに隙の1つや2つ…「《ヴォーティカルカノン》!」げふぁ!?」
そうだった。こいつは思い込んだら一直線だったと思い出しながら、突っ込みをいれる。
射程4sqは伊達じゃない。きっちりと川の向こうまで届いた。だが…
「痛いじゃないか。サファイア」
顔面へのクリーンヒットをもろともせず、フロイはサフィーに抗議する。
効いて無い。流石はサフィーの父親と言ったところか…もう死んでるからかも知れないが。
その様子にサフィーは溜息と共に返した。
「だから、話が見えないって言ってんの」
「おお、そうか。そう言えばおめでとうとしか言ってなかったな。改めて、言いなおそう」
今気づいたとでも言うようにポンと手を叩いて、フロイが言う。
そして、その言葉を口にした。
「お前にも、恋人が見つかって本当に良かった。おめでとう。サファイア」
意味が分からないと言った顔のサフィーを気にも留めず語り続ける。
「実はね。少しだけ後悔していたんだよ。お前を、幼いままの姿で吸血鬼にしてしまったこと。
あのままくたばるよりはマシかも知れんが、その姿では永遠を共に過ごすものを得るにはあまりに不利だ、とね」
「…いいわよ。もう。その話は」
苦虫をかみつぶしたような顔でサフィーが言う。
サフィーだって考えなかったわけじゃあない。むしろ何度も考えたし、フロイを恨んだことだってある。
自分が、あと10歳年を取ってから吸血鬼になっていたら、もう少しましだったんじゃないかって。
永遠の7歳は、男女の愛を育むには、あんまし向いていない。
「だが、その心配はどうやら無用だったようで、安心したよ。流石は我が娘だ」
「ちょっと、ど~ゆ~意味よ?」
「なかなか知的な好青年じゃないか。少し胡散臭いがそれもまた、味のうちだ」
「だから、ど~ゆ~意味かって聞いてんの!」
サフィーの問いを無視して延々と語る。時間が無いのだ。
…娘が帰ってしまうまで。
「なぁにお前ならすぐに隙の1つや2つ…「《ヴォーティカルカノン》!」げふぁ!?」
そうだった。こいつは思い込んだら一直線だったと思い出しながら、突っ込みをいれる。
射程4sqは伊達じゃない。きっちりと川の向こうまで届いた。だが…
「痛いじゃないか。サファイア」
顔面へのクリーンヒットをもろともせず、フロイはサフィーに抗議する。
効いて無い。流石はサフィーの父親と言ったところか…もう死んでるからかも知れないが。
その様子にサフィーは溜息と共に返した。
「だから、話が見えないって言ってんの」
「おお、そうか。そう言えばおめでとうとしか言ってなかったな。改めて、言いなおそう」
今気づいたとでも言うようにポンと手を叩いて、フロイが言う。
そして、その言葉を口にした。
「お前にも、恋人が見つかって本当に良かった。おめでとう。サファイア」
*
「まだ違うわよ!?」
サフィーが叫ぶ。顔が熱い。ついでに心臓もドキドキ言っている。
…ドキドキ?
思わずサフィーは心臓へと手をやる。いつもより大分元気に動いている。ここまで跳ね上がったのは6年ぶりだ。
…手?
自分の手の方を見るといつの間にやら新しく手が生えていた。崩れ去って土くれに帰ったはずの手が。
肌寒い。空にはいつも通りの黄色い満月が輝いている。
そして…口の中にはなぜだか覚えのある味がまざまざと残っていた。
「え?これって…」
「良かった!生き返ったんだね!」
頭が状況を認識する前にギュッと抱きしめられる。
端正で知的な顔が、泣いたせいで台無しになってる。
「シズク…?」
その少年の名をサフィーが呼ぶ。
「一体、何が、どうなってんのよ?」
サフィーの問いに、静は涙をぬぐい、笑顔で答える。
「言っただろう?サフィーちゃんは…ウィザードに“なった”って」
ヒーラーがいないことを嘆いていても始まらない。こういう場合こそ冷静に可能性を模索する。
そして、静はその方法に達した。
「いいことを教えて上げる。ファー・ジ・アースの…ウィザードの吸血鬼はね…」
静の血をすすったことでサフィーはウィザードになった。ウィザードの“吸血鬼”に。
だから、自らの血液を媒介にプラーナを分け与え、あとは信じる。
「灰からだって…蘇る!」
目の前の少女が“ウィザードの吸血鬼”であることを。
「本当に…本当に良かった…また、失うところだった」
再び抱きしめる。涙が止まらない。でもいい。だってこれは…嬉しいから出てる涙だから。
サフィーが叫ぶ。顔が熱い。ついでに心臓もドキドキ言っている。
…ドキドキ?
思わずサフィーは心臓へと手をやる。いつもより大分元気に動いている。ここまで跳ね上がったのは6年ぶりだ。
…手?
自分の手の方を見るといつの間にやら新しく手が生えていた。崩れ去って土くれに帰ったはずの手が。
肌寒い。空にはいつも通りの黄色い満月が輝いている。
そして…口の中にはなぜだか覚えのある味がまざまざと残っていた。
「え?これって…」
「良かった!生き返ったんだね!」
頭が状況を認識する前にギュッと抱きしめられる。
端正で知的な顔が、泣いたせいで台無しになってる。
「シズク…?」
その少年の名をサフィーが呼ぶ。
「一体、何が、どうなってんのよ?」
サフィーの問いに、静は涙をぬぐい、笑顔で答える。
「言っただろう?サフィーちゃんは…ウィザードに“なった”って」
ヒーラーがいないことを嘆いていても始まらない。こういう場合こそ冷静に可能性を模索する。
そして、静はその方法に達した。
「いいことを教えて上げる。ファー・ジ・アースの…ウィザードの吸血鬼はね…」
静の血をすすったことでサフィーはウィザードになった。ウィザードの“吸血鬼”に。
だから、自らの血液を媒介にプラーナを分け与え、あとは信じる。
「灰からだって…蘇る!」
目の前の少女が“ウィザードの吸血鬼”であることを。
「本当に…本当に良かった…また、失うところだった」
再び抱きしめる。涙が止まらない。でもいい。だってこれは…嬉しいから出てる涙だから。
(親父が言ってたのは…このことだったのね)
静を抱き返してサフィーは目を閉じる。
いい匂いがする。サフィー好みの匂いだ。
頭がよくて、皮肉屋で、プライドの高くて、優しい…少年の匂い。
(ったく。そんなに泣かないの。男の子でしょ)
母親のように、泣きじゃくる少年をあやし、抱きしめながら。
静を抱き返してサフィーは目を閉じる。
いい匂いがする。サフィー好みの匂いだ。
頭がよくて、皮肉屋で、プライドの高くて、優しい…少年の匂い。
(ったく。そんなに泣かないの。男の子でしょ)
母親のように、泣きじゃくる少年をあやし、抱きしめながら。
―――少女は、生涯2度目の、恋をした。