「な、なんで…」
春美の様子にいのりが声を絞り出して、問う。それに春美は笑顔のまま、答えた。
「いのりさん、ひとついいことを教えてあげます」
トレードマークのぐるぐるメガネの下に隠された瞳はうかがい知れない。
「三石春美って言う人間は、最初から存在しなかったんですよ」
春美の言葉に、いのりがビクッと体を震わせる。
「知ってます?この街って吸血鬼と人狼が住んでたせいか常識の壁がとっても薄いんです。裏界と繋ぐのにはもってこい。
特にこの学校は完璧ですね。この街でも特に繋ぎやすい。古い血筋の吸血鬼が2人もここで死んでて、狼人間が通ってたお陰ですかね?
だから潜りこんだんですよ。この学校の生徒として」
もっとも半ばこの学校の守護霊と化していた方を黙らせるのに半年くらいかかっちゃいましたけどと何気なく言う少女を見て、銀之介の尻尾がきゅっと巻き込まれる。
いつの間にか、様々なことをわめいていた銀之介の中の狼の声がたった1種類に統一されていた、すなわち、今すぐ全力で逃げ出せ、と。
「それにちょうどいい彷徨える魂も拾えましたし。本当、蘇らせてちょっと力を与えるだけで、あれだけ強くなるんですから。本当にお得でした」
サフィーは知らず知らずのうちに唇を噛みしめる。やはり目の前のコイツが…
「あ、そうだ。忘れてました。新聞部の春美ちゃんは偽物だったんだから、お教えしとかなきゃ駄目ですよね」
そう言うと春美はゆっくりとメガネを外した。その下に隠されていた瞳があらわになる。
見た目だけなら、ごく普通の可愛い女の子。だが、同時に開放された魔力の量に気づいて静は驚かされた。
強すぎる。魔王の名前は、伊達じゃない。
「改めて自己紹介…させてもらうで?」
クシャッと。
手にしたメガネが握りつぶされる。女の子とは思えないほどの握力。当然だ。彼女は…人間じゃないのだから。
「うちの名は、ファルファルロウ。裏界で男爵やっとる。まあ、平たく言うと…魔王って奴や」
宣言と同時に今まで秘められてきたとんでもない量のプラーナが解放される。
2体のエミュレイターを遙かに凌駕する量のプラーナに、全員が身をすくめる。
あるものは経験で、またあるものは本能で感じ取っていた。
春美の様子にいのりが声を絞り出して、問う。それに春美は笑顔のまま、答えた。
「いのりさん、ひとついいことを教えてあげます」
トレードマークのぐるぐるメガネの下に隠された瞳はうかがい知れない。
「三石春美って言う人間は、最初から存在しなかったんですよ」
春美の言葉に、いのりがビクッと体を震わせる。
「知ってます?この街って吸血鬼と人狼が住んでたせいか常識の壁がとっても薄いんです。裏界と繋ぐのにはもってこい。
特にこの学校は完璧ですね。この街でも特に繋ぎやすい。古い血筋の吸血鬼が2人もここで死んでて、狼人間が通ってたお陰ですかね?
だから潜りこんだんですよ。この学校の生徒として」
もっとも半ばこの学校の守護霊と化していた方を黙らせるのに半年くらいかかっちゃいましたけどと何気なく言う少女を見て、銀之介の尻尾がきゅっと巻き込まれる。
いつの間にか、様々なことをわめいていた銀之介の中の狼の声がたった1種類に統一されていた、すなわち、今すぐ全力で逃げ出せ、と。
「それにちょうどいい彷徨える魂も拾えましたし。本当、蘇らせてちょっと力を与えるだけで、あれだけ強くなるんですから。本当にお得でした」
サフィーは知らず知らずのうちに唇を噛みしめる。やはり目の前のコイツが…
「あ、そうだ。忘れてました。新聞部の春美ちゃんは偽物だったんだから、お教えしとかなきゃ駄目ですよね」
そう言うと春美はゆっくりとメガネを外した。その下に隠されていた瞳があらわになる。
見た目だけなら、ごく普通の可愛い女の子。だが、同時に開放された魔力の量に気づいて静は驚かされた。
強すぎる。魔王の名前は、伊達じゃない。
「改めて自己紹介…させてもらうで?」
クシャッと。
手にしたメガネが握りつぶされる。女の子とは思えないほどの握力。当然だ。彼女は…人間じゃないのだから。
「うちの名は、ファルファルロウ。裏界で男爵やっとる。まあ、平たく言うと…魔王って奴や」
宣言と同時に今まで秘められてきたとんでもない量のプラーナが解放される。
2体のエミュレイターを遙かに凌駕する量のプラーナに、全員が身をすくめる。
あるものは経験で、またあるものは本能で感じ取っていた。
目の前の存在は…女の子なんかじゃない。あの2人よりさらに恐ろしい何かだ、と。
「最初はカミーユはんがなんや面白いことやっとる言うから見に来ただけだったんやけどなあ…」
おかっぱ頭を結いあげてポニーテールにしながらどこか嬉しそうにファルファルロウが語り出す。
「プラーナは豊富。世界結界は無し。ウィザード級の連中がごろごろおるから遊び相手にも困らん。ほんま、ええところや」
カミーユが狙ったのも分かる。良質なプラーナを求めるのならば、これ以上好条件の世界も無いだろう。
特に、公爵より下の、プラーナが切実に必要なエミュレイターにとっては。
「もともとうちは領地とかにはあんまし興味が無い方なんやけどなあ…」
爵位や領地にこだわりは無い。だからこそ、男爵に甘んじていた。
面白いことを見に行けるだけの写し身と力があれば充分。そう考えていたから。
「この世界の連中と、裏界の連中つぶさせあったらホンマおもろい記事になると思たら、我慢できへんかったわ」
この世界にはまだまだ面白い連中がたくさん潜んでいる。そう、ファルファルロウは確信していた。
「せやからな、まずは飛び地作ることにしたんや。いうなればファルファルロウ領、飯波支局ってところやな」
そのために、邪魔な奴らには退場してもらう。
「ちゅうわけで、あんたらには、ここで消えてもらうで?」
紅き月の光が濃さを増す。世界が紅で塗りつぶされる。
「さ、はじめよか」
何気ない口調で、飯波高校の制服に身を包んだ魔王、ファルファルロウが戦いの始まりを宣言した。
おかっぱ頭を結いあげてポニーテールにしながらどこか嬉しそうにファルファルロウが語り出す。
「プラーナは豊富。世界結界は無し。ウィザード級の連中がごろごろおるから遊び相手にも困らん。ほんま、ええところや」
カミーユが狙ったのも分かる。良質なプラーナを求めるのならば、これ以上好条件の世界も無いだろう。
特に、公爵より下の、プラーナが切実に必要なエミュレイターにとっては。
「もともとうちは領地とかにはあんまし興味が無い方なんやけどなあ…」
爵位や領地にこだわりは無い。だからこそ、男爵に甘んじていた。
面白いことを見に行けるだけの写し身と力があれば充分。そう考えていたから。
「この世界の連中と、裏界の連中つぶさせあったらホンマおもろい記事になると思たら、我慢できへんかったわ」
この世界にはまだまだ面白い連中がたくさん潜んでいる。そう、ファルファルロウは確信していた。
「せやからな、まずは飛び地作ることにしたんや。いうなればファルファルロウ領、飯波支局ってところやな」
そのために、邪魔な奴らには退場してもらう。
「ちゅうわけで、あんたらには、ここで消えてもらうで?」
紅き月の光が濃さを増す。世界が紅で塗りつぶされる。
「さ、はじめよか」
何気ない口調で、飯波高校の制服に身を包んだ魔王、ファルファルロウが戦いの始まりを宣言した。
「まずは二手に分かれて!僕とサフィーちゃんが下がるから2人は春美ちゃん…いや、ファルファルロウの方へ!」
このまま固まっていては《ジャッジメントレイ》の格好の的。そう判断し、静が指示をだす。
「ほお…やっぱ腐ってもウィザードやな。なかなかの司令塔っぷりやで」
それを見てもファルファルロウの余裕は崩れない。そうなることは予測済みだ。
伊達に魔王は名乗っていない。
「春美ちゃん…どうして」
ファルファルロウに迫ったいのりが悲しげに呟く。友達だと思っていた。それを最悪の形で裏切られた。
だが、そんないのりをファルファルロウはへっと鼻で笑った。
「きまっとるやん。裏切られて絶望した人間のプラーナはな。最高にうまいんや。ウィザードなら余計にな。
1ヶ月前からわくわくしとったで。いつばらしたろかってな。ばらしたらええ顔みしてくれるやろうから。
…ほんま、期待通りの顔やで?今の自分」
けらけらと笑う。
「さ、今度はうちと遊ぶ時間や。力の限りを尽くして敵わなかったときの絶望したウィザードの顔、みしてくれ」
その笑顔のまま、ファルファルロウはいのりに言った。
「まずはあんたらが先でええで?」
プラーナを開放し、行動力を底上げするのを見て、ファルファルロウが不敵に笑う。
別に早く動く必要は無い。後攻でも問題なし。そう、彼女の瞳は語っていた。
「う、うおおおおおお!!!!!!!!!!」
迫りくる恐怖を必死に抑え込んで銀之介がファルファルロウに全力で襲いかかる。
狼人間の超再生能力で回復したお陰か、動きにダメージは感じられない。
銀之介は悟っていた。目の前の魔王は…手加減とか考えていい相手じゃない!
「春美ちゃん…いや、魔王ファルファルロウ!行くよ!」
一方のいのりにはまだ迷いがある。魔物と魔物使いは一心同体。主の動揺が、ファイアーワークスの攻撃を鈍らせている。
銀之介といのりの同時攻撃!だが、ファルファルロウは動じない。
「…《ヴァニシング》」
光の結界を展開し、その攻撃の大半を減衰させる。
「くっ…」
「嘘!?」
並みのエミュレイターなら一瞬で消滅するほどの連携。だがそれはファルファルロウにわずかなダメージを与えるにとどまった。
「甘いで。この程度じゃあ、うちは倒せん。ちなみに…」
「《ヴォーティカルカノン》!」
「《ヴォーティカルショット》!」
たたみかけるように放たれた魔法の守りを貫通する特性を持つ虚の魔法にも動じない。
虚無の弾丸がファルファルロウの身体を貫く。人間ならばかなりのダメージ。だが、元よりプラーナの塊である写し身には大したダメージとはならない。
「使徒の魔法防御と魔王の体力、なめたらあかんで?」
その攻撃でも、ファルファルロウには有効な一撃とはならない。
「くっ…《ドロウルーン》で目いっぱい強化して、この程度か…」
「硬すぎる…」
静とサフィーが悔しそうに呟く。
「さ、お次はこちらの番や」
そう宣言すると同時にファルファルロウの手の中に、闇が発生する。
「まずは、前衛からや…《ダークフォール》!」
ファルファルロウの言葉と共に、漆黒の闇が広がっていのりと銀之介を飲み込む。
「ぐうう!?」
「きゃああ!?」
闇の魔力が取り込まれた2人の体力を容赦なく奪っていく。
その闇が消えたとき。
2人はひざをついていた。
「く…これは…」
「何これ…」
2人が身体に違和感を覚える。身体が重い。力が出ない。
「こんなの…勝てないよ…」
いのりの心が折れそうになる。強すぎる。
ファルファルロウの力はかつて戦った夢を喰らうものを遙かに凌駕している。
確かな死の予感。それは16歳になったばかりの少女には、ひどく重いものだった。
このまま固まっていては《ジャッジメントレイ》の格好の的。そう判断し、静が指示をだす。
「ほお…やっぱ腐ってもウィザードやな。なかなかの司令塔っぷりやで」
それを見てもファルファルロウの余裕は崩れない。そうなることは予測済みだ。
伊達に魔王は名乗っていない。
「春美ちゃん…どうして」
ファルファルロウに迫ったいのりが悲しげに呟く。友達だと思っていた。それを最悪の形で裏切られた。
だが、そんないのりをファルファルロウはへっと鼻で笑った。
「きまっとるやん。裏切られて絶望した人間のプラーナはな。最高にうまいんや。ウィザードなら余計にな。
1ヶ月前からわくわくしとったで。いつばらしたろかってな。ばらしたらええ顔みしてくれるやろうから。
…ほんま、期待通りの顔やで?今の自分」
けらけらと笑う。
「さ、今度はうちと遊ぶ時間や。力の限りを尽くして敵わなかったときの絶望したウィザードの顔、みしてくれ」
その笑顔のまま、ファルファルロウはいのりに言った。
「まずはあんたらが先でええで?」
プラーナを開放し、行動力を底上げするのを見て、ファルファルロウが不敵に笑う。
別に早く動く必要は無い。後攻でも問題なし。そう、彼女の瞳は語っていた。
「う、うおおおおおお!!!!!!!!!!」
迫りくる恐怖を必死に抑え込んで銀之介がファルファルロウに全力で襲いかかる。
狼人間の超再生能力で回復したお陰か、動きにダメージは感じられない。
銀之介は悟っていた。目の前の魔王は…手加減とか考えていい相手じゃない!
「春美ちゃん…いや、魔王ファルファルロウ!行くよ!」
一方のいのりにはまだ迷いがある。魔物と魔物使いは一心同体。主の動揺が、ファイアーワークスの攻撃を鈍らせている。
銀之介といのりの同時攻撃!だが、ファルファルロウは動じない。
「…《ヴァニシング》」
光の結界を展開し、その攻撃の大半を減衰させる。
「くっ…」
「嘘!?」
並みのエミュレイターなら一瞬で消滅するほどの連携。だがそれはファルファルロウにわずかなダメージを与えるにとどまった。
「甘いで。この程度じゃあ、うちは倒せん。ちなみに…」
「《ヴォーティカルカノン》!」
「《ヴォーティカルショット》!」
たたみかけるように放たれた魔法の守りを貫通する特性を持つ虚の魔法にも動じない。
虚無の弾丸がファルファルロウの身体を貫く。人間ならばかなりのダメージ。だが、元よりプラーナの塊である写し身には大したダメージとはならない。
「使徒の魔法防御と魔王の体力、なめたらあかんで?」
その攻撃でも、ファルファルロウには有効な一撃とはならない。
「くっ…《ドロウルーン》で目いっぱい強化して、この程度か…」
「硬すぎる…」
静とサフィーが悔しそうに呟く。
「さ、お次はこちらの番や」
そう宣言すると同時にファルファルロウの手の中に、闇が発生する。
「まずは、前衛からや…《ダークフォール》!」
ファルファルロウの言葉と共に、漆黒の闇が広がっていのりと銀之介を飲み込む。
「ぐうう!?」
「きゃああ!?」
闇の魔力が取り込まれた2人の体力を容赦なく奪っていく。
その闇が消えたとき。
2人はひざをついていた。
「く…これは…」
「何これ…」
2人が身体に違和感を覚える。身体が重い。力が出ない。
「こんなの…勝てないよ…」
いのりの心が折れそうになる。強すぎる。
ファルファルロウの力はかつて戦った夢を喰らうものを遙かに凌駕している。
確かな死の予感。それは16歳になったばかりの少女には、ひどく重いものだった。
「くそ!負ける…もんかあー!」
一方の銀之介の心は、いまだ折れてはいない。
心を奮い立たせて再び襲いかかる。
銀之介は、今までで最高に…怒っていた。
守りたい人がいる、大事な思い出のたくさんつまったこの街をくれてやるわけにはいかない。
自分勝手な理由で魔王なんかの好きにはさせない!
1撃目は、ファルファルロウの結界に阻まれた。だけど。
「僕には…守りたい人がいる!絶対に守って見せる!」
大声で宣言する。そこでへたりこんだいのりにも聞こえるように。
無茶するな!死ぬぞ!逃げろ!と叫ぶ自分の中の狼を黙らせるために!
「喰らええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」
無理な動きに傷を負った身体から血が噴き出す。だが、気にしない。痛くない。
痛がってる暇があったら…全力で攻撃しなくちゃならない!
ズバンッ!
間髪入れず放った2発目。銀之介の爪がファルファルロウの結界をも貫きその身体に深い爪痕を刻み込む!
「くぅ!?」
ファルファルロウの顔が初めて苦痛に歪む。
とっさにいのりの方を見る。畳みかけられたら…ちょっとだけやばい!
だが、いのりは俯いたまま動かない。
「残念やったな…うちを倒すには…まだまだ足りん…まとめて消えろや!」
にやりと笑って高速で詠唱。目標は前の2人にあの魔術師!
「《ヴォーテックス…トライデント》ー!!!!」
ファルファルロウの放つ闇の三叉槍が銀之介といのり、そして静を襲う。
爆発するように、一瞬紅き世界を黒い闇がおおった。
一方の銀之介の心は、いまだ折れてはいない。
心を奮い立たせて再び襲いかかる。
銀之介は、今までで最高に…怒っていた。
守りたい人がいる、大事な思い出のたくさんつまったこの街をくれてやるわけにはいかない。
自分勝手な理由で魔王なんかの好きにはさせない!
1撃目は、ファルファルロウの結界に阻まれた。だけど。
「僕には…守りたい人がいる!絶対に守って見せる!」
大声で宣言する。そこでへたりこんだいのりにも聞こえるように。
無茶するな!死ぬぞ!逃げろ!と叫ぶ自分の中の狼を黙らせるために!
「喰らええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」
無理な動きに傷を負った身体から血が噴き出す。だが、気にしない。痛くない。
痛がってる暇があったら…全力で攻撃しなくちゃならない!
ズバンッ!
間髪入れず放った2発目。銀之介の爪がファルファルロウの結界をも貫きその身体に深い爪痕を刻み込む!
「くぅ!?」
ファルファルロウの顔が初めて苦痛に歪む。
とっさにいのりの方を見る。畳みかけられたら…ちょっとだけやばい!
だが、いのりは俯いたまま動かない。
「残念やったな…うちを倒すには…まだまだ足りん…まとめて消えろや!」
にやりと笑って高速で詠唱。目標は前の2人にあの魔術師!
「《ヴォーテックス…トライデント》ー!!!!」
ファルファルロウの放つ闇の三叉槍が銀之介といのり、そして静を襲う。
爆発するように、一瞬紅き世界を黒い闇がおおった。
「はぁはぁ…どうや…」
わずかに肩で息をしながらファルファルロウは辺りを確認する。
静の方はボロボロになりながら、辛うじて立っていると言う様子だ。
どうやら防御魔法とプラーナを駆使してぎりぎり生き延びたらしい。
銀之介の方は地面に倒れ伏している。わずかに息があるのを見ると、死んではいないのだろう。
だが、すでに限界を超えているのは明らかだ。立ちあがるだけの余力は、ない。
「これで、1人。あとは…!?」
銀之介の戦闘不能を確認して、残りの1人を見たファルファルロウが目を見開く。
わずかに肩で息をしながらファルファルロウは辺りを確認する。
静の方はボロボロになりながら、辛うじて立っていると言う様子だ。
どうやら防御魔法とプラーナを駆使してぎりぎり生き延びたらしい。
銀之介の方は地面に倒れ伏している。わずかに息があるのを見ると、死んではいないのだろう。
だが、すでに限界を超えているのは明らかだ。立ちあがるだけの余力は、ない。
「これで、1人。あとは…!?」
銀之介の戦闘不能を確認して、残りの1人を見たファルファルロウが目を見開く。
そこには、いのりが立っていた。
酷いありさまだ。全身傷だらけ。恐らく、ほんの少し小突かれただけで、いのりは昏倒するだろう。
だが、ファルファルロウが驚いたのは…いのりの瞳。
立ち上がったいのりの瞳は…死んでいない。
「さっき…攻撃…しなかったのは…」
ゆっくりと、いのりがファルファルロウに言う。
「こうなるの…待ってたから…」
銀之介の叫びはいのりの心に確かに届いていた。
「あたしも…おんなじ…」
京介、ねがい、静、輝明学園にいるみんな。
「いっけえ…」
ここで負けたら、2度と会えない。そんなの、嫌だ。
「ファイアー…ワークス…」
だからこそ、いのりは選んだ。捨て身の賭けを。
「全てを…」
自らの命すらも魔物に分け与え、最大最強の一撃を放つことを!
「焼き滅ぼしちゃえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
主の命令を受けて、ファイアーワークスが己が全てを攻撃力へと変換してファルファルロウへと突撃する。
赤を超えた白。数万度に達してプラズマと化したファイアーワークスは、ファルファルロウの防御結界を易々と貫く。
そしてその肉体がファルファルロウへと達した瞬間。
ファイアーワークスは、盛大にその熱量を吐き出し、爆発させた!
酷いありさまだ。全身傷だらけ。恐らく、ほんの少し小突かれただけで、いのりは昏倒するだろう。
だが、ファルファルロウが驚いたのは…いのりの瞳。
立ち上がったいのりの瞳は…死んでいない。
「さっき…攻撃…しなかったのは…」
ゆっくりと、いのりがファルファルロウに言う。
「こうなるの…待ってたから…」
銀之介の叫びはいのりの心に確かに届いていた。
「あたしも…おんなじ…」
京介、ねがい、静、輝明学園にいるみんな。
「いっけえ…」
ここで負けたら、2度と会えない。そんなの、嫌だ。
「ファイアー…ワークス…」
だからこそ、いのりは選んだ。捨て身の賭けを。
「全てを…」
自らの命すらも魔物に分け与え、最大最強の一撃を放つことを!
「焼き滅ぼしちゃえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
主の命令を受けて、ファイアーワークスが己が全てを攻撃力へと変換してファルファルロウへと突撃する。
赤を超えた白。数万度に達してプラズマと化したファイアーワークスは、ファルファルロウの防御結界を易々と貫く。
そしてその肉体がファルファルロウへと達した瞬間。
ファイアーワークスは、盛大にその熱量を吐き出し、爆発させた!
「どう…なったの?」
爆炎に包まれて様子が分からない。頭が朦朧とする。
いのりは自らのプラーナを限界まで使い切っていた。
「勝った…の?」
確認するように、おずおずとさっきまでファルファルロウのいた方へと手を伸ばす。
その、瞬間だった。
ガシッ!
力強くその手がつかまれ、いのりがビクッと痙攣する。
「そんなに…怖がらないでくださいよ…」
「い、いや…」
空っぽになった心に、恐怖が注ぎ込まれる。
ありえない。だって、あたしは全部つぎこんだもの。あれで死なないなんて…
「ほら…もっとよく見せてください…」
正真正銘の化け物じゃないか。
「私…言ったじゃないですか」
確かに大きなダメージを与えてはいた。制服だって原型をとどめないくらいボロボロだし、体中に血の流れない傷が刻まれてる。
だけど、それでも…
「力の限りを尽くして敵わなかったときの絶望したウィザードの顔…見せてくださいねって」
魔王は、生きていた。
「いやああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
いのりの恐怖の絶叫が響き渡った。
その場にへたりこんでしまったいのりに、ファルファルロウはそっと耳を寄せた。
「いのりさん…ちょっとだけ、待っててくださいね」
ビクリと、いのりが身体を震わせる。
「いのりさん以外、ぜ~んぶ殺したら、選ばせてあげますから」
天使のように慈愛に満ちた笑みで、ファルファルロウは囁く。
「私の落し子になるか、ここで仲良く死ぬか…いのりさんは友達だから…特別ですよ?」
悪魔の囁きを。
爆炎に包まれて様子が分からない。頭が朦朧とする。
いのりは自らのプラーナを限界まで使い切っていた。
「勝った…の?」
確認するように、おずおずとさっきまでファルファルロウのいた方へと手を伸ばす。
その、瞬間だった。
ガシッ!
力強くその手がつかまれ、いのりがビクッと痙攣する。
「そんなに…怖がらないでくださいよ…」
「い、いや…」
空っぽになった心に、恐怖が注ぎ込まれる。
ありえない。だって、あたしは全部つぎこんだもの。あれで死なないなんて…
「ほら…もっとよく見せてください…」
正真正銘の化け物じゃないか。
「私…言ったじゃないですか」
確かに大きなダメージを与えてはいた。制服だって原型をとどめないくらいボロボロだし、体中に血の流れない傷が刻まれてる。
だけど、それでも…
「力の限りを尽くして敵わなかったときの絶望したウィザードの顔…見せてくださいねって」
魔王は、生きていた。
「いやああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
いのりの恐怖の絶叫が響き渡った。
その場にへたりこんでしまったいのりに、ファルファルロウはそっと耳を寄せた。
「いのりさん…ちょっとだけ、待っててくださいね」
ビクリと、いのりが身体を震わせる。
「いのりさん以外、ぜ~んぶ殺したら、選ばせてあげますから」
天使のように慈愛に満ちた笑みで、ファルファルロウは囁く。
「私の落し子になるか、ここで仲良く死ぬか…いのりさんは友達だから…特別ですよ?」
悪魔の囁きを。
「さてと…あとは、あんたらだけやな」
うつろな目のままへたりこんでいるいのりの様子を見て、ファルファルロウは立ち上がり、残った2人の方を見る。
「せっかくだから教えといたるわ。うちは次に《ジャッジメントレイ》でアンタらを焼きつくす。
止めようとしても無駄やで?うちの魔法の方が…あんたらより速い」
それは、残念ながら事実だった。2人の魔法より、ファルファルロウの魔法の方が速い。
そしてその魔法は…2人同時に焼きつくすのには十分過ぎるほどの威力がある。
「さ、終わりにしよか…」
ファルファルロウの魔法が詠唱される。
「…サフィーちゃん」
「何よ」
苦渋に歪んだ顔で、静がサフィーに話しかける。
「僕にはもう、あいつに対抗する手段は、1つしか思いつかなかった」
「…奇遇ね。アタシも色々考えたんだけど、こっからの逆転の手は1つしか思いつかなかったわ」
そう、戦局判断に長けた2人は同じ結論に達していた。
すなわち《ジャッジメントレイ》に耐え抜いてからの反撃。
銀之介といのりのお陰で崩壊寸前の今のファルファルロウなら、あと1撃で、ぎりぎり倒せるかもしれない。そのためには…1人だけ生き残ればいい、と。
「…ちなみに僕は、サフィーちゃんの方が可能性が高いって思うよ」
《ジャッジメントレイ》は広範囲をなぎ払う魔法。単体を相手にするのなら《ヴォーティカルカノン》の方が、強い。
「…いいの?」
「構わないさ」
2人とも、既にボロボロだ。防御魔法くらいでは耐えられない。片方を生き残らせるには…もう1人が捨て身で受けきるしか無い。
「僕は…ヴァンスタインの人間だ」
全滅するか、1人で済ませるかだったら、考えるまでも無い。
それに…と、静は考える。
「サフィーちゃんが死んだら、悲しむ人がいるだろう?だけど、僕らは…ヴァンスタインはそんなでも無い」
魔術師の名門として星の数ほどウィザードを輩出してきたヴァンスタイン家では、様々な任務、使命で命を落とすのは良くあることに過ぎない。
そういう家なのだ。ウィザードの名門ってやつは。
「だからさ…サフィーちゃんには僕の分まで生きて欲しいんだ。サフィーちゃんには、まだまだ沢山、楽しいことが待ってるはずだから」
そう、静は言って笑う。邪気も何も無い満面の笑顔。すべてを諦めた…悲壮な決意のにじみ出た笑顔。
それを見てサフィーの決心は、完全に固まった。
「分かったわ…」
「…そっか。ありがとう」
サフィーが頷いたのを確認し、再びファルファルロウの方を向く。
「…で、お別れの挨拶は終わったんか?」
不敵な笑みでファルファルロウが聞く。それに静はあえて頷いた。
「ああ…いつでも来いよ。クソ魔王!」
「…よう吠えた!こいつでしまいや!《ジャッジメントレイ》ー!!!!!!!!!!!」
天に無数の光点が刻まれ、それが急速に大きくなる。
それをメガネに反射させながら静はサフィーをおおうように仁王立ちし…
ガシッ
「え?」
足をつかまれて。
「うわあー!?」
真後ろに投げ飛ばされた。
「サフィーちゃん!?何考えてるんだ!?」
「覚えときなさい。女は、嘘つきなの。いつだって、必要な嘘なら平気でつけるものよ」
静の位置からはサフィーの顔は見えない。サフィーも振り向かない。
「それと…もう一つ」
迫りくる光に臆することなく、ゆっくりと右手をファルファルロウに向ける。
「アタシはね…50年も生きてないようながきんちょに捨て身で命を救われる趣味はないの」
雄々しく、揺らぐことなく、サフィーはただ立つ。
「そんなのは…」
最後は、優しい声で。まるで我が子を守ろうとする母親のように。
「1回だけで十分よ」
「サフィーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
静の絶叫は。
空から降り注ぐ光にかき消された。
うつろな目のままへたりこんでいるいのりの様子を見て、ファルファルロウは立ち上がり、残った2人の方を見る。
「せっかくだから教えといたるわ。うちは次に《ジャッジメントレイ》でアンタらを焼きつくす。
止めようとしても無駄やで?うちの魔法の方が…あんたらより速い」
それは、残念ながら事実だった。2人の魔法より、ファルファルロウの魔法の方が速い。
そしてその魔法は…2人同時に焼きつくすのには十分過ぎるほどの威力がある。
「さ、終わりにしよか…」
ファルファルロウの魔法が詠唱される。
「…サフィーちゃん」
「何よ」
苦渋に歪んだ顔で、静がサフィーに話しかける。
「僕にはもう、あいつに対抗する手段は、1つしか思いつかなかった」
「…奇遇ね。アタシも色々考えたんだけど、こっからの逆転の手は1つしか思いつかなかったわ」
そう、戦局判断に長けた2人は同じ結論に達していた。
すなわち《ジャッジメントレイ》に耐え抜いてからの反撃。
銀之介といのりのお陰で崩壊寸前の今のファルファルロウなら、あと1撃で、ぎりぎり倒せるかもしれない。そのためには…1人だけ生き残ればいい、と。
「…ちなみに僕は、サフィーちゃんの方が可能性が高いって思うよ」
《ジャッジメントレイ》は広範囲をなぎ払う魔法。単体を相手にするのなら《ヴォーティカルカノン》の方が、強い。
「…いいの?」
「構わないさ」
2人とも、既にボロボロだ。防御魔法くらいでは耐えられない。片方を生き残らせるには…もう1人が捨て身で受けきるしか無い。
「僕は…ヴァンスタインの人間だ」
全滅するか、1人で済ませるかだったら、考えるまでも無い。
それに…と、静は考える。
「サフィーちゃんが死んだら、悲しむ人がいるだろう?だけど、僕らは…ヴァンスタインはそんなでも無い」
魔術師の名門として星の数ほどウィザードを輩出してきたヴァンスタイン家では、様々な任務、使命で命を落とすのは良くあることに過ぎない。
そういう家なのだ。ウィザードの名門ってやつは。
「だからさ…サフィーちゃんには僕の分まで生きて欲しいんだ。サフィーちゃんには、まだまだ沢山、楽しいことが待ってるはずだから」
そう、静は言って笑う。邪気も何も無い満面の笑顔。すべてを諦めた…悲壮な決意のにじみ出た笑顔。
それを見てサフィーの決心は、完全に固まった。
「分かったわ…」
「…そっか。ありがとう」
サフィーが頷いたのを確認し、再びファルファルロウの方を向く。
「…で、お別れの挨拶は終わったんか?」
不敵な笑みでファルファルロウが聞く。それに静はあえて頷いた。
「ああ…いつでも来いよ。クソ魔王!」
「…よう吠えた!こいつでしまいや!《ジャッジメントレイ》ー!!!!!!!!!!!」
天に無数の光点が刻まれ、それが急速に大きくなる。
それをメガネに反射させながら静はサフィーをおおうように仁王立ちし…
ガシッ
「え?」
足をつかまれて。
「うわあー!?」
真後ろに投げ飛ばされた。
「サフィーちゃん!?何考えてるんだ!?」
「覚えときなさい。女は、嘘つきなの。いつだって、必要な嘘なら平気でつけるものよ」
静の位置からはサフィーの顔は見えない。サフィーも振り向かない。
「それと…もう一つ」
迫りくる光に臆することなく、ゆっくりと右手をファルファルロウに向ける。
「アタシはね…50年も生きてないようながきんちょに捨て身で命を救われる趣味はないの」
雄々しく、揺らぐことなく、サフィーはただ立つ。
「そんなのは…」
最後は、優しい声で。まるで我が子を守ろうとする母親のように。
「1回だけで十分よ」
「サフィーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
静の絶叫は。
空から降り注ぐ光にかき消された。