ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話03

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クライマックス


紅い月の輝く空、柊はテンペストに乗って麻帆良上空を飛んでいた。

この世界にも魔法使いが存在することは柊も知っている。
それならば、月衣に護られたエミュレイター、そしてウィザードへも攻撃は通るだろう。
――実際に柊はエヴァンジェリンの攻撃をばっちり喰らったのだから。

それでも、あの魔王――アンゼロットの呼ぶところの魔王ロリショタ(仮名)――に対抗できるだけの低年齢の魔法使いは存在するのか?
ファー・ジ・アースでさえ、アンゼロットがまともに戦力を集められなかった相手だ。
――単に柊で遊びたいから嘘をついた、という可能性が脳裏をよぎるが、なかったことにする。
さすがにそこまでして自分の楽しみをとるヤツが世界の守護者だとは思いたくない。
それでも、アンゼロットの普段の行いを考えると否定しきれないところが嫌だ。

とりあえず月衣の中からとりだしたポーションで体力を回復する。
――本当に知らない間に月衣の中に回復薬が送り込まれていた。
ロンギヌスの技術力は確実に進歩しているらしい――時々、変な方に進歩している気がするが。

とにかく、これから確実に戦闘になるのだから、準備は必要だ。
手早く体力を回復し、エミュレイターの位置を探るため、感覚を研ぎ澄ませ、周囲を見渡す。

「――あそこか!」

感覚でエミュレイターの位置を捉える。

箒を操り、移動しようとすると同時に、背筋に冷たいものがはしった。

その感覚と同時に、箒に一気に加速をかけて旋回する。
その直後、柊がそれまで居た場所を吹雪が吹き荒れた。
通常なら起こりえない、魔力によって引き起こされた現象。
――即ち、魔法。

「どこへ行くつもりだ、小僧?」

長い髪をなびかせて、夜空に君臨する少女――エヴァンジェリン。

夜の闇に浮かぶ、紅い月の光に照らされた姿はまさしく最強と呼ばれる悪の魔法使い。

夜風に吹かれた金色の髪が紅い光を浴びて赤金色の糸のように揺れる。

両手から下げた魔法薬の入った試験管やフラスコは月光を反射し煌めいていた。

そしてその姿から発せられる威圧感は並の魔法使いならば裸足で逃げ出すほどのものであった。

だが。

「わりぃ、急ぐから後でな!」

しかしそんなエヴァンジェリンの姿も柊の目にはろくに映ってなかった。
柊の目的は魔王を倒すことであって、異世界の魔法使いであるエヴァンジェリンが自分が悪の魔法使いだと主張したとしても、全く戦う必要性を感じないだろう。
関係ない戦闘をしている余裕はないとばかりに、さっさと箒を操ってその場を去る。

「なっ……またんか、このくそガキがあぁぁぁぁ!」

あっさりとスルーされたエヴァンジェリンは大声で怒鳴った。
いらだちをこめて右手の試験管を強く握るが、柊の乗った箒はすでに光の軌跡だけを残して離れていってしまっている。

「あいつはっ、どこまでっ、私をっ、馬鹿にするつもりだっ!」

そして柊の後を追う。それと同時に、追撃するように氷の矢を放った。
しかし、それも箒がバーニアを吹かし、軽く回避されてしまう。

「ええい、避けるな!」

「無茶言うなっ!」

エヴァンジェリンの台詞の直後に柊がツッコミをいれる。

逃げるなと言われて逃げないやつはいないし、避けるなと言われて避けないやつはいない。
だいたい、この状況で追いつかれたらどうなるかは目に見えている。
きっと、機嫌の悪い幼馴染みを相手している時と同様危険な目に会うに決まっている。
柊はそう確信していた。

次から次へと飛んでくる氷の矢を回避しつつ、目的地を目指す柊。

そしてようやく敵を確認する。

――しかし、こちらから相手を確認できるということは、同時に相手もこちらを確認できるということだ。

魔王が箒の軌跡へと視線を向けると、天属性の魔法を詠唱する。

「げっ」

魔王の詠唱を止めるため、箒を加速させ、魔剣を抜こうとしたところで、背後から迫る氷の矢の存在に気づく。

(ま、またタイミングの悪い!)

このままだと、魔王の詠唱を止めたところで、エヴァンジェリンの魔法が背後から直撃してしまう。

逆にエヴァンジェリンの攻撃を回避すれば魔王に隙を見せることになる。

ならば、柊に残された選択肢はひとつ。

「だああああああ!」

魔王が魔法を放つ。

その光線状の魔法が目前まで迫ったところで、一気に上空へと方向を変える。
回避性能を上げるために搭載されているアポジモーターが悲鳴を上げるようにバーニアを吹く。

柊を追っていた氷の矢と、柊に向けられた光線は互いに打ち合い、空中に水蒸気をまき散らしながら消えていく。


視界を埋める蒸気の中から飛び出すように、柊は魔王へと迫る。
魔王との距離が縮まったところで、空中で箒を月衣へしまい込み、魔剣を抜きはなつ。
そして重力に引かれるまま、真下にいる魔王へと刃を振り下ろした。

『グ、ガッ――』

柊の魔剣は魔王を護る世界律を突破し、その左肩を深く切り裂いた。

しかし魔王もやられたままというわけではない。

肩を切り裂かれる痛みに耐えながらも、着地した柊を狙い、右のかぎ爪を振るう。
柊は魔剣でそれを受けようとしたものの、力で押し切られ、吹き飛ばされた。
何本もの樹木をなぎ倒しながら吹き飛ばされ、土煙が舞い上がる。

「――っは、ギリギリセーフってやつだな」

薄れていく土煙の中、柊は碧い光――プラーナを纏って立っていた。

『やはり貴様も来ていたか、柊蓮司……!』

「いちいちフルネームで呼ぶなっ! ……っていうかしゃべれたのかよ」

まあ、しゃべるエミュレイターも珍しくないけど。
むしろデフォルトでしゃべれるものなのか?

『僅かだがプラーナを補充したのでな……』

そう言うと、柊の与えた傷がぼこぼこと泡立つようにして再生していく。

『この地にも結界はあるようだが……ここは世界結界の外』

朗々と唄うように魔王は告げる。絶望を。

『ファー・ジ・アースと違い、世界結界のないこの地であれば、我々は本来の力を発揮できる。
 つまり――お前が勝利することは万に一つもない、柊蓮司』

増していくプレッシャー。
だが、それにも臆さずに柊は口を開く。

「はっ……どうだか。
 余裕ぶってる割にはやたら口数が多いじゃねえか」

内心では魔王の放つ力に気圧されてはいるが、表には出さない。

「実際のところ、プラーナの回復もそこまで多くはないんじゃないか?
 世界結界の外とはいっても、前に戦った魔王連中よりかは見劣りするぜ?」

『減らず口をッ……!』

柊の挑発に、魔王へ魔力が集まっていく。
高まる緊張感。柊は魔剣を握る手にさらに力を込め、構える。

『いいだろう……この魔王ローリー=ショ=タ、全力で』

「ちょっと待てっ、それは仮名じゃなかったのかよ!? 本名!?
 っていうかそんな名前拾うなよっ!?」

魔王ローリーの台詞を遮って柊が叫ぶ。
勢いで微妙にメタなことも口走っている。

がらがらと音を立てて崩れる緊張感。

なんというかもう、いろいろと台無しだ。

私の見立てに間違いはなかったでしょう、などと笑顔でサムズアップしながらのたまう脳内世界の守護者をファー・ジ・アースの方へ押し返し、柊は魔剣を構えなおした。

「ああ、もう、細かいことはどうでもいい!
 さっさと終わらせ――」

「ええい、ようやく追いついたぞ、このクソガキ!」

またややこしいのが。
仕切り直そうとしたところで登場したエヴァンジェリンを横目に柊はがっくりと肩を落とした。
柊は面倒くさそうに言う。

「説明してこいつを放っておくわけにもいかねえだろ……」

「ほう、このバケモノは知り合いか?」

「知り合いっつーか、俺がここに飛ばされることになった元凶というか……まあ、敵だな――ッ!」

その言葉が終わると同時に柊は剣を振るった。
それによって魔王の撃った魔法がはじき飛ばされる。


「うるせえっ、ふざけた名前してるお前が悪いんだよ!?」

『下がる男などというふざけた二つ名の男に言われたくない!』

「下がる男言うなっ!」

子供のような言い争いを始める柊と魔王ローリー=ショ=タ(本名)。
なんというか、もう、ぐだぐだである。

『とにかく死ねッ、柊蓮司!』

「うおっ!?」

言い争いの延長線上といった感じのまま、なし崩しに戦闘が始まった。
よほどさっきの言い争いが頭にきているのか、魔王と名乗った敵は柊へと連続して魔法を放つ。
柊はその攻撃を回避し、または剣で受け流し、防ぎきっている。

「ええいっ、私を無視するな、貴様ら! まとめて死ねッ! 氷爆ッ!」

そして放置されたことに耐えかねたらしいエヴァンジェリンが柊と魔王の両方を巻き込む勢いで氷魔法を放つ。

「――ッ、≪エア・ダンス≫!」
エヴァンジェリンが魔法を放つと同時に、風属性の魔法で移動力を上げて範囲外へと逃れる。

「この状況で俺を巻き込みかねない範囲で魔法撃つか!?」

これだから異世界は、と呟くが、次の瞬間には元の世界でも似たような扱いだという事実に気づき軽く落ち込む。

魔王ローリーの方はというと、エヴァンジェリンの魔法には抵抗したようで、軽く凍傷を負っているようだが、それほどはダメージは通っていないようだ。

――それでも、世界律を突破しているのだ。

『クッ、我が躯に傷を負わせるとはな――』

そう言ってエヴァンジェリンの方へ目玉をギョロリと動かす魔王。
そして歯をむき出しにして豪快に笑う。

『なるほど――幼女だな!』

「まて、名前のままの性癖なのかよっ!?」

嬉しそうに幼女と言う魔王ローリーに向かって柊が叫ぶ。
魔王の台詞の気持ち悪さに、二の腕に鳥肌が立っている。

一方、エヴァンジェリンはというと。

「誰が幼女だ、誰がッ!
 私はこれでも六百年以上の時を生きる真祖の吸血鬼だ!」

幼女呼ばわりが余程気に入らなかったらしく、顔を真っ赤にして怒鳴っている。


『六百歳以上でも幼女。そう……永遠の幼女。
 なんと素晴らしい……!』

「だ、ダメだこいつ……」

ダメな性癖を垂れ流す魔王に、柊もドン引きだ。
そしてその発言にエヴァンジェリンも完全に堪忍袋の緒が切れたようだ。

「ふ、ふふふふふ……殺スッ――!」

どす黒いオーラと殺気をまき散らして魔王ローリーを睨む。

「柊蓮司!」

「お、おう。なんだ?」

迫力に押されつつ返事をする。

「あいつは貴様の敵だと言っていたな……」

「あ、ああ、そうだ」

黒いオーラを辺りに撒き散らすエヴァンジェリンに引きつつ頷く。
そんな柊の様子を気にもとめず、彼女は尊大に言い放った。

「光栄に思え――手を貸してやる」

「は?」

「ヤツを倒すのに手を貸してやると言ったんだ……
 ――何が幼女だ……何が永遠の幼女だ……ふ、ふふふふふ――」

エヴァンジェリンは完全にブチキレていた。
某連邦の黒い悪魔並に。

エヴァンジェリンはありったけの魔法薬を取り出すと、鋭い声で詠唱を開始する。

「リク・ラク ラ・ラック ライラック!
 来たれ、氷精、大気に満ちよ。
 白夜の国の凍土と氷河を……!」

エヴァンジェリンの両手に握られた魔法薬の瓶が、音を立てて砕け散る。
大気中に散った液体は、媒介となり大気へ冷気を呼び込む。

「凍る大地(クリュスタリザティオー・テルストリス)ッ!」

詠唱が終わる。
大気へと呼び込まれた冷気は魔王ローリーの足下へと収束し、瞬間的に爆ぜた。
一瞬にして、地面から花が咲くように氷が突き出した。

『グッ……だが、この程度……!』

魔王ローリーは氷に拘束された腕や足を力ずくで引きはがす。
魔力のほとんどが封じられた状態のエヴァンジェリンの魔法ではこれが限界だった。


だがその僅かな隙は、彼にとっては十分過ぎた。

エヴァンジェリンの魔法が着弾した瞬間、柊はプラーナを開放し駆けだした。
プラーナによって強化された脚力で、柊が駆け抜けた後の地面が抉れる。
その足跡は瞬く間に氷に戒められた魔王へと迫る。

「≪魔器解放≫ッ!」

本来の力を解放した魔剣を魔王ローリーへと力任せに叩きつけた。
三日月の様に魔剣の軌跡が弧を描く。
魔剣の生み出した斬撃は魔王を真っ二つに斬り、その衝撃で氷塊を砕き、舞い上がらせる。

それだけの攻撃を行った柊はというと、自分で生み出した攻撃を今の年齢の体重では支えきれず、後方へと転がっていた。

「っくしょ、いってー」

「ふん――片付いたか」

そんな転がる柊を完全に無視し、エヴァンジェリンが制服の裾を払いながら呟く。

「俺のことは完全に無視かよ……」

そんなエヴァンジェリンをいろいろ諦めた視線で見つめた柊は、魔剣で体を支えて立ち上がる。

そこへ。

『よくも……よくもやってくれたな……!』

魔王の声が頭上から響く。

「――ッ!」

「ふん、しぶといやつだ……」

その声に二人が身構え、空を見上げる。

そこには躯が半分になった魔王ローリーが浮かんでいた。
半分欠けた顔が怒りの表情を浮かべている。

『ウィザード風情が……貴様は絶対に許さん、柊蓮司!』

「……だったらなんだってんだ」

魔剣を構え直し、挑発するような態度で言う柊。
魔王は残った片手の指を柊へ向け、まるで呪いをかけるような声で言う。

『……次は、貴様に魔王の真の怖ろしさを味わわせてやる……!』

その言葉と同時に、魔王ローリーの周りの空間が歪む。

「――ッ! 待てッ!」

柊がその言葉の意味に気づいた時には遅かった。
魔王は歪んだ空間へと姿をかき消し、どこかへと消えていった。
月匣が解除され、紅い月は本来の月の色へと戻る。

――つまり、魔王ローリー=ショ=タは逃げたのである。
柊に向けらた言葉も結局のところ、ただの捨て台詞だった。

「に、逃げやがった!?」

辺りの気配を探るが、エミュレイターらしき気配は微塵も感じられない。

「本気で逃げたのかよ……。
 ――まあ、これで一段落つい……た……?」

これで一安心、とばかりに魔剣を月衣にしまい込む。
だが、それと同時に柊はあることに気づいた。

「って一段落じゃねえ!」

そう、ここはファー・ジ・アースではなく異世界である。
この世界の常識にもそぐわないエミュレイターを放置するわけにもいかない。
それに。

「がっ……学校は!?」

これで彼が学校へ行くのも、元の年齢に戻るのも、何時とも知れなくなってしまったのである。

その事実にがくりと膝をつき座り込む柊。
肩を落として黄昏れる柊にエヴァンジェリンが歩み寄る。
そして、彼の首根っこをひっつかみ、

「さて……詳しいことを聞かせてもらおうか、柊蓮司。
 ――もちろん返事は『はい』か『イエス』だ」

凶悪な笑顔で言った。
誰かを思い出すようなその言葉にとどめをさされたかのように、柊はがっくりと項垂れ、力なく頷いた。



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