ミドルその2
柊が目を覚ますと、そこは知らない場所だった。
洋風の執務室といった雰囲気の部屋。
一瞬、アンゼロット宮殿なのかとも思った。
しかし、柊が寝ていたソファーから身を起こした時、その正面にあった執務机の向こうに見えた老人の姿はアンゼロットではなかった。
――まさか、アンゼロットが老けたあげく男になったなどということはないだろう。
そんなアンゼロットが聞いたら酷い目にあいそうなことを考える。
一瞬、アンゼロット宮殿なのかとも思った。
しかし、柊が寝ていたソファーから身を起こした時、その正面にあった執務机の向こうに見えた老人の姿はアンゼロットではなかった。
――まさか、アンゼロットが老けたあげく男になったなどということはないだろう。
そんなアンゼロットが聞いたら酷い目にあいそうなことを考える。
「目が覚めたかの?」
起きあがった柊を見た老人が声をかけてくる。
頭が長いというなんとも特徴的な容姿をした老人は、顎から長く伸びた髭をさすっている。
変なライフパスでも引いたのかなーなどとメタなことを考えつつ隣のソファーを見れば、
先ほど柊相手に魔法をぶちかましたり蹴りをいれたりした吸血鬼の少女が不機嫌そうな顔で座っていた。
人造人間の少女はその後ろに慎ましく控えている。
起きたばかりのあまりはっきりとしない頭――むしろ、蹴りを入れられたせいでまだ少し痛む頭でどういう状況なのかを考えようとするが、まったく見当がつかなかった。
そんな柊へ、老人が問いかけてくる。
頭が長いというなんとも特徴的な容姿をした老人は、顎から長く伸びた髭をさすっている。
変なライフパスでも引いたのかなーなどとメタなことを考えつつ隣のソファーを見れば、
先ほど柊相手に魔法をぶちかましたり蹴りをいれたりした吸血鬼の少女が不機嫌そうな顔で座っていた。
人造人間の少女はその後ろに慎ましく控えている。
起きたばかりのあまりはっきりとしない頭――むしろ、蹴りを入れられたせいでまだ少し痛む頭でどういう状況なのかを考えようとするが、まったく見当がつかなかった。
そんな柊へ、老人が問いかけてくる。
「どうやら君は『こちら側』の関係者のようだが……名前と所属を教えてはもらえんかのう」
老人の言う『こちら側』とはやはり、ウィザード関係のことだろう。
所属と言われても今は組織に所属しているわけではないし――アンゼロットにこき使われ入るがロンギヌスに入隊したおぼえはない――柊は簡単に名乗った。
所属と言われても今は組織に所属しているわけではないし――アンゼロットにこき使われ入るがロンギヌスに入隊したおぼえはない――柊は簡単に名乗った。
「柊蓮司、輝明学園秋葉原分校高等部三年二組――」
そこまで言ったところで、吸血鬼の少女が声を挟む。
「貴様ッ、なにふざけたことを言っている!
どこが高校生だ、どう見ても小学生だろうがッ!」
どこが高校生だ、どう見ても小学生だろうがッ!」
「うるせえよっ!
俺だって好きで年齢下げてるわけじゃねえ!」
俺だって好きで年齢下げてるわけじゃねえ!」
「はあ? 年齢を下げるだ? ふざけたことを言うな!」
「ふざけて年齢下げられてたまるか!
レベル下がるのも学年下がるのも年齢下がるのも大変なんだぞ!」
レベル下がるのも学年下がるのも年齢下がるのも大変なんだぞ!」
特に下がった学年を戻すにはかなりの代償が必要だとか言われてるし。
「むっ……確かに下がるのがつらいのは同意する。
くっ、……私だって中学三年が終わったかと思えば一年に逆戻り――!
これもすべてあのサウザンドマスターのやつが――」
くっ、……私だって中学三年が終わったかと思えば一年に逆戻り――!
これもすべてあのサウザンドマスターのやつが――」
「……よくわからないが、お前も大変なんだな」
怒鳴りあいを始めたかと思えば、何故か話が下がる方にそれていったあげく、連帯感ムードを漂わせ始める二人。
そのぐだぐだ具合にちょっと頭痛を感じたらしい老人が話を戻す。
そのぐだぐだ具合にちょっと頭痛を感じたらしい老人が話を戻す。
「あー、話を戻してもいいかの、二人とも。
それで柊くん、何故この麻帆良学園へ来たのか、目的を聞かせてもらえるかの?」
それで柊くん、何故この麻帆良学園へ来たのか、目的を聞かせてもらえるかの?」
何気ないように振る舞いながらも、鋭い眼光で柊を見る老人。
しかし、柊からすれば同じウィザードなのにこれだけ警戒される理由がいまいちわからない。
まさかこの学園が秘密の研究施設とか、部外者立ち入り禁止の超お嬢様学校だったりするわけではないだろうし。
いや、それならば最初の問答無用具合に説明はつくが。
しかし、柊からすれば同じウィザードなのにこれだけ警戒される理由がいまいちわからない。
まさかこの学園が秘密の研究施設とか、部外者立ち入り禁止の超お嬢様学校だったりするわけではないだろうし。
いや、それならば最初の問答無用具合に説明はつくが。
「――目的?
いや、目的も何も、たぶん魔王ぶっ飛ばした余波で飛ばされたんだと思うが……
そうだ、じーさん、あんたウィザードだろ?」
いや、目的も何も、たぶん魔王ぶっ飛ばした余波で飛ばされたんだと思うが……
そうだ、じーさん、あんたウィザードだろ?」
「……確かにワシは魔法使いじゃが?」
柊の問いに警戒した様子で答える老人。
その返答を確認した柊はのんきに話し出す。
その返答を確認した柊はのんきに話し出す。
「だったら、アンゼロットに連絡とれないか?
0-Phoneが壊れて連絡とれないんだよ」
0-Phoneが壊れて連絡とれないんだよ」
特に魔王がどうなったのかは確認しなければ。
さすがに魔王倒せないままぶっ飛ばされたとかだと問題だし。
そう思っていた柊へと返ってきたのは予想外の言葉だった。
さすがに魔王倒せないままぶっ飛ばされたとかだと問題だし。
そう思っていた柊へと返ってきたのは予想外の言葉だった。
「……アンゼロット? 誰じゃ、それは」
「へ? アンゼロットを知らないのか?」
いつの間にか人望なくしたのか、あいつ。
確かにいろいろと非道なことをするが、こんな反応が返ってくるのは想定外だ。
そう思い首をかしげる柊。
まさか、世界魔術協会の長だとか世界の守護者でありながら、実は割と知られていないのか?
確かにいろいろと非道なことをするが、こんな反応が返ってくるのは想定外だ。
そう思い首をかしげる柊。
まさか、世界魔術協会の長だとか世界の守護者でありながら、実は割と知られていないのか?
「あー、そこのちっこいのも知らないのか、アンゼロットのこと」
そう吸血鬼の少女に問いかける柊。
「誰がちっこいのだ! だいたいお前の方が小さいだろう!」
柊の台詞に少女はだんっ、とテーブルを強くたたく。
その激しい剣幕にちょっと引く柊。
その激しい剣幕にちょっと引く柊。
「い、いやだって名前知らねえんだからしょうがないだろ……」
「知らないにしてももっとマシな呼び方があるだろう!」
そう怒鳴ってから、何か悪いことを思いついたような表情になる少女。
そして悪人のような笑みを浮かべて名を名乗った。
そして悪人のような笑みを浮かべて名を名乗った。
「――私の名は、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」
「エヴァンジェリンか。そっちのじーさんとロボは?」
吸血鬼の少女――エヴァンジェリンの名を聞いたついでに、名前をまだ聞いていない二人について問いかける柊。
「絡繰茶々丸です」
「ワシは……」
老人が名乗ろうとした時。
拳を握りしめて顔を真っ赤にしたエヴァンジェリンが怒鳴った。
拳を握りしめて顔を真っ赤にしたエヴァンジェリンが怒鳴った。
「待て、貴様! 私の名を知らないと言うのか!?」
「え、いや、知らねーけど」
その柊の返答にエヴァンジェリンが体を震わせる。
どうやら怒っているようだが、柊にはその理由がわからない。
どうやら怒っているようだが、柊にはその理由がわからない。
「な、なんでそんなに怒ってんだ?」
わからなかったので直接訊いてみた。
その瞬間、何かが切れる音が聞こえた気がした。
その瞬間、何かが切れる音が聞こえた気がした。
「――死ねッ!」
「マスター、落ち着いてください」
エヴァンジェリンは柊に飛びかかろうとするが、後ろの茶々丸がそれを羽交い締めにする。
その勢いにこっそりとエヴァンジェリンと距離を置く柊。
ついでに怖いので視線を逸らし、老人の方を向く。
その勢いにこっそりとエヴァンジェリンと距離を置く柊。
ついでに怖いので視線を逸らし、老人の方を向く。
「あー……ワシは近衛近右衛門じゃ。
この麻帆良学園の学園長にして、関東魔法協会の理事を務めている」
この麻帆良学園の学園長にして、関東魔法協会の理事を務めている」
「関東魔法協会?
それって世界魔術協会の仲間か何かか?
ならなんでアンゼロットを知らないんだ?」
それって世界魔術協会の仲間か何かか?
ならなんでアンゼロットを知らないんだ?」
不思議そうに首をかしげる柊。
その発言に少し考えから学園長は聞き返す。
その発言に少し考えから学園長は聞き返す。
「……その世界魔術協会というのは?」
「あー、なんか魔術師の集まりみたいなのだろ?
同じウィザードでも俺は魔術師じゃねえから詳しくはしらねーが」
同じウィザードでも俺は魔術師じゃねえから詳しくはしらねーが」
うろ覚えの知識で返答する。
しかし、エヴァンジェリンにはそれよりも後半の発言が気にかかったらしい。
しかし、エヴァンジェリンにはそれよりも後半の発言が気にかかったらしい。
「まて。お前が魔法使い(ウィザード)だと?
いや、そもそも魔法使い(ウィザード)と魔術師は違うものなのか?」
いや、そもそも魔法使い(ウィザード)と魔術師は違うものなのか?」
柊が目をぱちくりさせる。
変な質問するな、と思いながら言う。
変な質問するな、と思いながら言う。
「そりゃ違うだろ。何言ってんだ」
訳がわからない質問だ、と思う柊。
同様にエヴァンジェリンも訳がわからないといった顔をしている。
同様にエヴァンジェリンも訳がわからないといった顔をしている。
「……それで貴様はウィザードで、魔術師ではない、と?」
「ああ。見ればわかるだろ、魔剣使いだって」
さっき魔剣使って戦ったわけだし。
まさかあれが箒(ウィッチ・ブレード)に見えたとか転生者の遺産と勘違いしたというなら話は別だが。
まさかあれが箒(ウィッチ・ブレード)に見えたとか転生者の遺産と勘違いしたというなら話は別だが。
「それは戦士タイプの魔法使いということか?
いや、しかしそうだとすると先ほどの剣……魔法使いであり、従者だと?
またややこしいヤツが……」
いや、しかしそうだとすると先ほどの剣……魔法使いであり、従者だと?
またややこしいヤツが……」
ぶつぶつ呟きだし、自分の世界に入ってしまうエヴァンジェリン。
学園長もなにか考えてるようで、放置される柊。
なんだこの状況、と思っていると、制服のポケットに突っ込んでいた0-Phoneが鳴った。
慌てて取り出し、通話ボタンをおす。
学園長もなにか考えてるようで、放置される柊。
なんだこの状況、と思っていると、制服のポケットに突っ込んでいた0-Phoneが鳴った。
慌てて取り出し、通話ボタンをおす。
「――ッ、もしもし!?」
『柊さん? 聞こえますか?』
聞こえてきた声は、ここ一年くらいで聞き慣れた声。
世界の守護者“真昼の月”アンゼロットの声だ。
世界の守護者“真昼の月”アンゼロットの声だ。
「アンゼロットか!
助かった、連絡がつかなくて困ってたんだよ。
なんだかしらねえが、あの後日本の麻帆良学園ってとこに飛ばされたらしくてな、それで――」
助かった、連絡がつかなくて困ってたんだよ。
なんだかしらねえが、あの後日本の麻帆良学園ってとこに飛ばされたらしくてな、それで――」
状況を話そうとする柊を、待ってください、とアンゼロットが制す。
『――よく聞いてください、柊さん。
そこは、貴方の知っている日本――第八世界ファー・ジ・アースの日本ではありません』
そこは、貴方の知っている日本――第八世界ファー・ジ・アースの日本ではありません』
「は?」
柊の知っている日本ではない。
その言葉に、柊はとてつもなく危険な予感がした。
過去のいろいろな思い出が脳裏に浮かぶ。
この言い方だと、可能性はほぼ一つしかないだろう。
その言葉に、柊はとてつもなく危険な予感がした。
過去のいろいろな思い出が脳裏に浮かぶ。
この言い方だと、可能性はほぼ一つしかないだろう。
『そこは間違いなく異世界です』
アンゼロットが断言した。
やはりという思いと信じられない思いが頭の中を回る。
やはりという思いと信じられない思いが頭の中を回る。
「――マジで?」
『はい、本気と書いてマジです』
「そんなベタな台詞はいい。――本当に異世界なんだな?」
できればここで、実は冗談でしたー♪とか言ってくれると嬉しいんだけど。
その柊の思いも虚しく、アンゼロットが非情にもあっさりと肯定し、説明し始める。
その柊の思いも虚しく、アンゼロットが非情にもあっさりと肯定し、説明し始める。
『ええ。あの時、柊さんの魔剣と魔王の力がぶつかり合った結果、時空が不安定になり、異世界へのゲートが開いたのです。
それにより、柊さんと魔王はそちらの世界へと飛ばされたのです』
それにより、柊さんと魔王はそちらの世界へと飛ばされたのです』
「ま、また異世界!? またなのか!?」
走馬燈のように浮かぶ、いきなりクレーターができるような杖で殴られそうになったとか、フルネーム連呼されて追い回されたとか、そんな異世界の思い出。
いや、今回は生死判定してないけど。ああ、でもいきなり戦闘にはなったなあ。
いや、今回は生死判定してないけど。ああ、でもいきなり戦闘にはなったなあ。
『はい、異世界です♪
異世界慣れしている柊さんなら問題ないでしょう。
そっちの世界でちゃちゃっと魔王をぶっ潰しちゃってくださいね』
異世界慣れしている柊さんなら問題ないでしょう。
そっちの世界でちゃちゃっと魔王をぶっ潰しちゃってくださいね』
害虫を退治してね、ぐらいの軽さで言うアンゼロット。
頑張ってくださいねー、と酷いぐらい軽い応援もおまけについてきてる。
頑張ってくださいねー、と酷いぐらい軽い応援もおまけについてきてる。
「簡単に言うなよ!?
さっきだってあれだけ苦戦してたんだぞ、回復もなしにどうしろと!?」
さっきだってあれだけ苦戦してたんだぞ、回復もなしにどうしろと!?」
実際、魔王との戦闘で消耗していたせいで、さっきのエヴァンジェリンと茶々丸の二人と戦闘した時もあまりダメージを受けていないのに倒れてしまったのだから。
……防御に失敗(ファンブル)したというわけではないはず、たぶん。
……防御に失敗(ファンブル)したというわけではないはず、たぶん。
『あ、回復薬や装備に関しては支援します。
柊さんの月衣にいろいろ補給物資を送っておきますので、それでなんとかしてください』
柊さんの月衣にいろいろ補給物資を送っておきますので、それでなんとかしてください』
「まてっ、ひとの月衣に勝手に物を入れるなよ!?」
いや、前にそういうことした連中いたけど。
そういえばあれも異世界の関係だったなあ。
ちょっと切なくなる柊。
今居る場所も異世界なら、似たようなことをされるのだろうか。
そういえばあれも異世界の関係だったなあ。
ちょっと切なくなる柊。
今居る場所も異世界なら、似たようなことをされるのだろうか。
『仕方ないのです、そちらの世界へ物を送るのは困難なことなのですから。
魔王の影響もあるのでしょうけれど、時空がとてもとても不安定になっているのです。
だからこそ、こちらの状態に一番近い柊さんの月衣の中に送る。
これがベストの選択です。
目印になる0-Phoneもありますし』
魔王の影響もあるのでしょうけれど、時空がとてもとても不安定になっているのです。
だからこそ、こちらの状態に一番近い柊さんの月衣の中に送る。
これがベストの選択です。
目印になる0-Phoneもありますし』
「ぐ――」
アンゼロットが比較的真面目な口調になったので、文句が言えなくなった。
『それと、もしかしたら気づいているかもしれませんけれど』
「あ?」
さっきまでのちょっと真面目な口調から、明らかに何かを面白がっている口調に変わるアンゼロット。
その口調に、経験上いい思い出のない柊はちょっと身構える。
その口調に、経験上いい思い出のない柊はちょっと身構える。
『ぶっちゃけ魔王倒さないと時空が安定しません。
つまり柊さんも帰ってこれないんで、必死こいてがんばってくださいね♪
もちろん、倒すまで年齢も戻りませんので♪』
つまり柊さんも帰ってこれないんで、必死こいてがんばってくださいね♪
もちろん、倒すまで年齢も戻りませんので♪』
「なにぃ!?」
何故かとてもとても楽しそうなアンゼロット。
「まて、アンゼロット!」
それよりも柊には重要なことがあった。必死さを滲ませた声で尋ねる。
「が……学校は!? 学校はどうなるッ!? 俺の単位っ!」
『…………』
「…………」
不自然な沈黙。
何故か、電話の向こうのアンゼロットはとてもイイ笑顔をしているイメージしか浮かばない。
なんとか言えよ、と柊が叫ぶが。
何故か、電話の向こうのアンゼロットはとてもイイ笑顔をしているイメージしか浮かばない。
なんとか言えよ、と柊が叫ぶが。
『ああ時空が不安定なせいで回線にも影響が……! ぷち』
無情にも通話が切れた。
あとはツーツー、という電子音だけが聞こえてくるだけ。
あとはツーツー、という電子音だけが聞こえてくるだけ。
「っていうか今、ぷちって自分で言っただろ! 絶対自分で切ったな!?」
切れた0-Phoneに向かって叫ぶ柊。
アンゼロットには聞こえていないとわかっていても言わずにいられないらしい。
そして返事を返さない0-Phoneを前に、がっくりとうなだれた。
その様子は、見た目が小学生の状態から考えると不釣り合いなほどに哀愁が漂っていた。
何故かその哀愁漂わせた姿が似合うところが、彼の普段の不遇をよく表していた。
アンゼロットには聞こえていないとわかっていても言わずにいられないらしい。
そして返事を返さない0-Phoneを前に、がっくりとうなだれた。
その様子は、見た目が小学生の状態から考えると不釣り合いなほどに哀愁が漂っていた。
何故かその哀愁漂わせた姿が似合うところが、彼の普段の不遇をよく表していた。
*****
エヴァンジェリンが森で遭遇した少年はまさに謎の人物としか言いようのないほど、訳の分からない少年だった。
柊蓮司と名乗ったその少年は、吸血鬼に遭遇しても平然としているわ、どう見ても小学生のくせに高校三年生だと名乗るわ(自分が見た目小学生のくせに中学生やっていることは棚に上げている)、あげくに年齢が下がったなどとわけのわからないことをほざく。
そして魔法世界で有名な≪不死の魔法使い≫エヴァンジェリンの名も知らなければ、関東魔法協会も知らない様子だ。
これが演技ならば相当なものだが、それにしては明らかに失言が多すぎる。
柊蓮司と名乗ったその少年は、吸血鬼に遭遇しても平然としているわ、どう見ても小学生のくせに高校三年生だと名乗るわ(自分が見た目小学生のくせに中学生やっていることは棚に上げている)、あげくに年齢が下がったなどとわけのわからないことをほざく。
そして魔法世界で有名な≪不死の魔法使い≫エヴァンジェリンの名も知らなければ、関東魔法協会も知らない様子だ。
これが演技ならば相当なものだが、それにしては明らかに失言が多すぎる。
アンゼロット。
世界魔術協会。
魔法使い(ウィザード)ではあると言うくせに、魔術師ではないという、魔剣使いを名乗る少年。
これらから幾つか推測できることはある。
これらから幾つか推測できることはある。
まず、彼にはおそらく一般的な魔法の知識がないこと。
エヴァンジェリン達の知らない呼称が出ることも、なにか一般的なものとは違う環境で育ち、変わった呼称を教えられたのかもしれない。
例えば、後衛タイプの魔法使いを魔術師と呼び、前衛タイプの魔法使いを魔剣使いと呼ぶのかもしれない。
もしくは、従者を魔剣使いと呼ぶ可能性もある。
どちらにせよ確実なのは、彼が魔法使いの従者であるということ。
先ほどの戦いで使用していた、炎を発する剣。
あれが彼のアーティファクトであることは確実だろう。
仮契約カードは巧妙に隠したようで見つけられなかったが、間違いなく柊蓮司は魔法使いの従者だ。
エヴァンジェリン達の知らない呼称が出ることも、なにか一般的なものとは違う環境で育ち、変わった呼称を教えられたのかもしれない。
例えば、後衛タイプの魔法使いを魔術師と呼び、前衛タイプの魔法使いを魔剣使いと呼ぶのかもしれない。
もしくは、従者を魔剣使いと呼ぶ可能性もある。
どちらにせよ確実なのは、彼が魔法使いの従者であるということ。
先ほどの戦いで使用していた、炎を発する剣。
あれが彼のアーティファクトであることは確実だろう。
仮契約カードは巧妙に隠したようで見つけられなかったが、間違いなく柊蓮司は魔法使いの従者だ。
そうなれば、もうひとつ問題がでてくる。
彼が従者だというならば必ず存在するであろう、彼の主人となる魔法使いの存在だ。
そう、例えば柊蓮司が学園側の人間と遭遇して騒動を起こし、その隙に行動を起こすつもりなのだとしたら。
だとすれば、子供を一人で行かせることも納得がいく。
要は彼はおとりであり、捨て駒なのだとすれば。
ならば事情が飲み込めていない、常識はずれのこの少年にもある程度説明がつく。
自分にとって不利なことがこちらにわたらないように、嘘の知識を教え込んでおく。
それによりこちらを混乱させることもできる。
さらに、立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指す人間ならば、柊のような幼い子供を手荒に扱ったりはしないだろうから、詳しいことを知ろうとすれば時間がかかる。
つまり足止めにもなる。
実際、学園長も彼が起きる前に魔法で彼の記憶を探ることはためらっている。
そして少々アンバランスではあるが、あの戦闘能力。
力ずくでいこうにもあれでは普通の魔法生徒などが相手ならば簡単にはいかないだろう。
さらに、学園の結界をものともせずに柊蓮司を麻帆良まで送り込んだ魔法使いの実力は侮れないものがあるだろう。
彼が従者だというならば必ず存在するであろう、彼の主人となる魔法使いの存在だ。
そう、例えば柊蓮司が学園側の人間と遭遇して騒動を起こし、その隙に行動を起こすつもりなのだとしたら。
だとすれば、子供を一人で行かせることも納得がいく。
要は彼はおとりであり、捨て駒なのだとすれば。
ならば事情が飲み込めていない、常識はずれのこの少年にもある程度説明がつく。
自分にとって不利なことがこちらにわたらないように、嘘の知識を教え込んでおく。
それによりこちらを混乱させることもできる。
さらに、立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指す人間ならば、柊のような幼い子供を手荒に扱ったりはしないだろうから、詳しいことを知ろうとすれば時間がかかる。
つまり足止めにもなる。
実際、学園長も彼が起きる前に魔法で彼の記憶を探ることはためらっている。
そして少々アンバランスではあるが、あの戦闘能力。
力ずくでいこうにもあれでは普通の魔法生徒などが相手ならば簡単にはいかないだろう。
さらに、学園の結界をものともせずに柊蓮司を麻帆良まで送り込んだ魔法使いの実力は侮れないものがあるだろう。
『おい、ジジイ』
念話で学園長に話しかける。
柊蓮司は突然なり出した携帯電話を慌てて取り出している。
その話している内容も気になるが、茶々丸が記録しているであろう。
柊蓮司は突然なり出した携帯電話を慌てて取り出している。
その話している内容も気になるが、茶々丸が記録しているであろう。
『あのガキの話……どう思った?』
『どうもこちらと話がかみ合っておらん感じじゃのう。
彼の言うアンゼロットという人物や、世界魔術協会も聞いたことがない。
嘘をついているようには見えんが……』
彼の言うアンゼロットという人物や、世界魔術協会も聞いたことがない。
嘘をついているようには見えんが……』
『――嘘を本当だと信じ込まされている可能性はある、だろう?』
横目で学園長を見れば、無言で頷いている。
おそらくは、エヴァンジェリンと同じ結論を導き出しているのだろう。
おそらくは、エヴァンジェリンと同じ結論を導き出しているのだろう。
『そうなると、本命がどこを狙っているのかが問題だな――』
『彼が出現した近辺を中心に先生方で調査してもらうつもりじゃ』
後手後手にまわるわけにもいかぬからの』
後手後手にまわるわけにもいかぬからの』
『ふん、まあ妥当なところだな――』
これだけ得体の知れない相手だ。
学園側としても慎重になるのだろう。
だが、それもエヴァンジェリンからすれば、日々の退屈を紛らわせるための絶好の機会だ。
不敵な笑みを浮かべながら少年、柊蓮司の方を見やる。
――何故か携帯片手にうなだれていた。
そのがっくりと肩を落とし、黄昏れている姿は計り知れないほど哀愁を漂わせている。
むしろ垂れ流しているといってもいいかもしれない。
しかも何故か「学校……単位……」などと小声で繰り返しているため、不気味である。
学園側としても慎重になるのだろう。
だが、それもエヴァンジェリンからすれば、日々の退屈を紛らわせるための絶好の機会だ。
不敵な笑みを浮かべながら少年、柊蓮司の方を見やる。
――何故か携帯片手にうなだれていた。
そのがっくりと肩を落とし、黄昏れている姿は計り知れないほど哀愁を漂わせている。
むしろ垂れ流しているといってもいいかもしれない。
しかも何故か「学校……単位……」などと小声で繰り返しているため、不気味である。
「……茶々丸、こいつになにがあったんだ」
ひとが真面目な話をしてる間に、どうしたらこんなおかしなことになっているんだ。
片手で頭を押さえながら尋ねる。
片手で頭を押さえながら尋ねる。
「はい、携帯電話による通話終了後、約十八秒間は携帯電話へ文句を言い続けていましたが、その後この状態になりました」
「……わけがわからんな。茶々丸、通話記録を――」
そこで突然、少年が弾かれたように立ち上がった。
*****
突如感じた感覚に、柊は現実へと舞い戻った。
弾かれたように立ち上がり、窓へと向かう。
弾かれたように立ち上がり、窓へと向かう。
「おい、何をやっている、ガキ?」
エヴァンジェリンが声をかけてくるが、それを無視して柊は窓を開け放つ。
そして、そこにそれを見た。
そして、そこにそれを見た。
――紅い月を。
「月匣――エミュレイターか!」
先ほど柊が感じた感覚。
それは月匣のものだった。
紅い月が見えるからには、エミュレイター――この場合、確実に件の魔王だろう――がいる場所はそう遠くないだろう。
月匣が張られたのだから、一般人に気づかれることはない、と柊は月衣から箒(ブルーム)を取り出す。
箒に乗ると、後ろからエヴァンジェリンが柊を呼ぶ。
それは月匣のものだった。
紅い月が見えるからには、エミュレイター――この場合、確実に件の魔王だろう――がいる場所はそう遠くないだろう。
月匣が張られたのだから、一般人に気づかれることはない、と柊は月衣から箒(ブルーム)を取り出す。
箒に乗ると、後ろからエヴァンジェリンが柊を呼ぶ。
「待て、どこへ行くつもりだ!?」
そう言われ、柊は少し悩む。
異世界人であるらしいこの二人は魔法使いではあるようだが、エミュレーターの存在は知らないだろう。
そうすると、一から説明しないといけないということだろうか。
異世界人であるらしいこの二人は魔法使いではあるようだが、エミュレーターの存在は知らないだろう。
そうすると、一から説明しないといけないということだろうか。
「……悪い、説明は後で!」
面倒そうなので投げだした。
後ろから聞こえるエヴァンジェリンの怒鳴り声を聞かなかったことにして、柊は地を蹴り、窓から飛び立った。
後ろから聞こえるエヴァンジェリンの怒鳴り声を聞かなかったことにして、柊は地を蹴り、窓から飛び立った。
――紅い月の昇る空へと。