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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第07話

最終更新:

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「赤羽代表代行。ラグシア城跡 最下層にて、強力な魔力反応を確認しました。反応の強さは・・・・・・計測器が振り切れて測定出来ません」
「ねえ、コジマメさん。その計測器、いっつも振り切れてる気がするんだけど、役に立つの?」

 アンゼロット宮殿 司令室。
 エルンシャの潜む忘却世界をモニターしていたロンギヌス・コジマメの報告を聞き、くれはは疑問に思った事を率直に聞いた。

「ロンギヌスが対応出来ないレベルだと振り切れるんです。魔力パターンの識別、完了しました。エルンシャです」
「はわっ、ひーらぎ、説得に失敗しちゃったの?」
「間接的な観測結果から推測される能力は、宮殿襲撃時及び、先程に比べて大幅に下がっています。
 少なくとも、柊プラーナを摂取させる事には成功しているものと思われます」
「はわー。どーなっちゃってるんだろーねー」

 つい先程も、ベルとエルンシャの魔力反応が一瞬だけ跳ね上がった。
 そして、まずベルの反応が消失し、ついでエルンシャの反応が弱まり観測出来なくなっていたが、その消え方から判断するに、後者はただ
気配を消したに過ぎなかった。
 つまり、その観測結果はベルがエルンシャと交戦し、敗退した事を示していた。

 しばらくして、今度は未知の巨大な魔力反応が第八世界の外から遣って来てラグシア城跡に突入した。
 その能力は、土星会戦時のベルの写し身と、シャイマールの中間程度であった。
 そして、その反応は忘却世界内で何者かとの交戦を示すように増大し・・・・・一瞬だけ、特に巨大に膨れ上がった後、急速に縮小していた。

 今まで確認されていなかった、極めて強大な力を持つ個体がこうも続けて現れるとは。
 世界は、大きく変わろうとしている。そんな予感に、くれはは身震いした。

「赤羽代表代行。ロンギヌス・コイズミに途中経過を報告させま―! エルンシャの魔力反応、消失しました!!」
「はわっ! ひーらぎが倒しちゃったの?」
「―!! 新たに別の魔力反応が発生! これはベール=ゼファーで―?! ベール=ゼファーの魔力反応、消失しました!」
「はわっ?! べっ、ベルったら、どーしちゃったの?!」

「また新たな魔力反応が発生。これは、今までに観測されたことのない個体で― え? 何、この計算結果?」
「はわ? どしたの?」
「例によって間接的な観測結果から能力を推測したんですが・・・・先日交戦したシャイマールに、楽勝出来そうな数字が出てきたんです」
「はわー。そりゃ計算間違ってるわ。そんなとんでもないもんいるわけないしー」

「そうですね。いるとしたら、アンゼロット様の父神か、そのライバルだった古代神くらいでしょう。
 以前、アンゼロット様が仰っておられました。
 アンゼロット様のお父上は、シャイマールの80倍強いのだとか。そして、そのライバルだった古代神も、同様に」




 柊蓮司の目の前に、一人の戦姫が立っていた。

 肉体的な年齢は、15歳くらいに見えた。
 無論、見た目通りの歳である筈などないが、ソレは「若々しく瑞々しい風情を湛えた、美しい少女」のカタチをしていた。
 「神の手による美術品の如く、整った容貌の少女」の姿をしていた。

 波打つ、黒絹のような髪を腰まで伸ばし
 決して長身ではないが、発達した肢体に漆黒の甲冑を纏い
 その背に、天界を嘲笑い冒涜する、瘴気を凝り固めた黒き翼を広げ

 顔の造りそのものは、清楚可憐な面差しなれど
 夜空のように黒い、大きな瞳を邪で満たし
 鮮やかな紅い唇に、裂けるような禍々しい笑みを浮かべ

 どこかアンゼロットを思わせる、だが、それを遥かに上回る古ぶるしい気配を発し
 想像を絶する歳月の重みに磨かれた、支配者の威厳に身を包み

 麗しさと凛々しさを兼ね備えた、淫靡かつ妖艶な、暗黒の魅力に満ちた美姫が立っていた。

 美しい。美しい。美しい。
 麗しい。麗しい。麗しい
 怖い。恐い。こわい。
 古い。旧い。ふるい。
 綺麗。コワイ。旧い。
 遠い。大きい。凄い。
 麗しい。おぞましい。古ぶるしい。
 怖れる。恐れる。畏れてしまう。



 胸が締め付けられる。呼吸が浅く、早くなり、落ち着かない。
 視界が狭くなる。ソレから目を離せない。
 頭に霞がかかる。意識がはっきりしない。
 身体に力が入らない。手から魔剣が落ちそうになる。床に膝を突きそうになる。頭を下げそうになる。

 ソレは何もしていない。柊の方を見てすらいない。

 ソレは其処にいるだけだ。

 それだけで。
 ただ、それだけで。

 生きているのが苦しくなる。
 存在の違いを思い知らされる。
 己の卑小さを突き付けられる。

 ソレは人が相対しべきモノではなかった。
 天上の者達こそが、対処すべきモノだった。

 遥かな高みから、巨大なナニカが下りてくるように思える。
 とても古い、とても旧いナニカが其処に居る。
 圧倒的な存在力が、意識を精神を魂を塗りつぶす。



 かつて感じた事のない強烈な気配が伝わってくる。

 それは殺気ではなかった。
 それは鬼気ではなかった。
 それは神気。



 魂の根底から、ただひとつの感情が吹き上がってくる。

 それは恐怖ではなかった。
 それは嫌悪ではなかった。
 それは畏怖。



 ソレは魔王ではなかった。
 ソレは神。その力がではなく、その在り方が人を超えたる者

 ソレは脅威ではなかった。
 ソレは驚異。その力がではなく、その在り方がこの世ならざる者。



 平伏せよ  定命なる人間よ
 賛美せよ  卑小なる人間よ
 信仰せよ  愚劣なる人間よ
 崇拝せよ  愚昧なる人間よ

 かの者が、かの者こそが神なれば。

 この界を、この界のみならず主八界総てを造りし創造神の一柱なれば。

 ソレは原初の火を齎す天
 ソレは底知れぬ深淵を隠す海
 ソレは悠久の歳月を過ごしせし古き巨木を揺らす風
 ソレは鍛え抜かれた刀金を振るう皇帝
 ソレは広大なる大地の底に広がる冥府

 ソレは混ざり合う色

 多色なる者の、多彩なる其の内から

 風が吹き荒ぶ。

 心を打ち据える、風が吹く。
 意思を吹き飛ばす、風が吹く。
 魂を消し去る、風が吹く。

 かの者こそが闇風姫(シャドウ★ゼピュロス)。108の古代神が1柱たる、古女王エルヴィデンスが写し身なり。



 柊の前に降り立った戦姫の、美貌とプラーナと瘴気とオーラは、常人を圧死させて余り有る― 否、存在を構成するプラーナの配列をかき乱
し、存在し続ける事すらも難しいほどだ。

 エル=ネイシアの民であれば、魂を捧げた主への信仰を支えに、その存在に抗する事も出来た。
 かの聖姫戦争の折、聖姫達に率いられた精鋭達は幾度となくこの者の軍を退けた。
 そして、遂にはその依り代を砕きすらしたのだ。200人の勇士が挑み、199人の犠牲と引換えに。

 それほどの存在を前にした柊は、如何なる神にも仕えぬ神殺しの魔剣使いは、卑小なる人の心のみで神の顕現に相対した青年は―

―主よ!―  「おおぅ!!」

 自らの魔剣からの自らへの信仰を受け取り、自らの“精神”という神への信仰を持って


 やっとの思いで、震える声を絞りだした。


「・・・・・・おい、アンタ・・・・いったい、誰なんだよ?」

 突然の事態の変化に理解の追いつかない柊に、闇姫は自らの絶大なる気配を押さえて妖艶な笑みを向けた。
 魂を押しつぶす重圧から開放され、ほっとする間もなく艶笑を向けられて、柊は思わず頬を染めた。
 自他供に認める朴念仁が見惚れるほどに、魅力的な笑みだった。

 そのとき感じた感情を、なんと呼べばよいだろうか?

 恋? 愛情? 肉欲? 劣情?

 否。それは同胞への仲間意識に近かった。共に、アンゼロットの幸せを願う者同士の共感だった。
 そのように、感じた。
 が、直後、猫を被っているときのアンゼロットを連想して警戒した柊に、闇姫は甘く、優しい声音で問いに答えた。

「私は、アンゼロットと同郷の者だ。今迄、直接の面識は無かったがな。あやつの事は、此の儘そっとしておいて遣れ」

 未だ虚空を見つめて涙を流し続ける銀髪の少女に、黒翼の美姫は柔らかな視線を送った。

「エルンシャ様・・・・・・・・・エルンシャ様が・・・・・・・・・・・・」
「アンゼロットよ。エルンシャの仇は取って遣ったぞ。此れからは私が共に居よう。お前は何も考えず、心安らかに過ごすが良い」

 言って、アンゼロットに歩み寄る闇姫に、柊は慌てて声をかけた。

「待てよ! コイツを何処に連れてく気だよ! コイツがいなきゃ、世界を守れねぇんだ。連れてかせる訳にゃいかねぇんだよ!」
「お前は、アンゼロットに同胞の死を悲しむ暇すら与え無い心算なのか?」
「―――それは・・・」
「どうしてもアンゼロットが必要なら、私が代わりをしようか?」

 言葉に詰まる柊に、エルンシャに植えつけていた意識の一部でベルの写し身を乗っ取った古代神が妖しく囁き。

「断る! お前は信用できねぇ! ・・・・・・つか、あんだけ邪気剥き出しにしといて、今更何を言ってやがる」

 柊は、真正面から闇姫を見据えて言い返した。

 黒髪の闇姫は薄く哂い、柊からアンゼロットへと視線を移し。
 アンゼロットの金色の邪眼に、意志の光の消えた右目の奥に、渦巻く瘴気を認めて、柊へと目を戻す。
 柊は魔剣を構え、ゆっくりと間合いを詰め。
 対する闇姫は・・・・・・・腕を組み、胸を反らした。

「ベルの記憶が教えてくれる。お前はとても甘く、愚かな男だとな。お前に、無抵抗の相手が斬れるのか?」
「斬れる」

 一瞬の迷いもなく言い切り、超巨大魔剣箒を振りかぶる。

「ベルも、他の奴も皆、俺を誤解してる。英雄だの、聖人だの、甘いだの頭が悪いだの・・・・・・俺は自分が守りたいものしか守らねぇ。
 その為なら世界中を振り回しても一切気にしない、身勝手な男だ」
「そうなのか? ベルの記憶と違うようだが?」

「俺がくれはを斬らなかった所為で、他の男が自分の幼馴染を斬る羽目になった。
 アイツは入学初日だったよ。だから、俺が代わりに学校に行って、卒業する事で供養にしようと―
 いや、違うな。供養をしていると思い込む事で、アイツにツケを回した重荷から逃げようとしたんだ。

 俺は青葉がまだ小学生なのに、もう戦場に出ていると聞かされても、まるで気にしなかった。
 俺はくれはを助けるために、ベルに騙されてただけの連中を何人も斬った。
 俺は晶が行方不明になったとき、アイツの心配を全くせずに無くした魔剣の事ばかり考えていた。
 俺は灯が薬の副作用で寿命を削りながら戦っている事よりも、自分の出席日数の方が大事だった。
 俺がヒルコを取り込んだ所為で命は昏睡状態になったが、俺は一度も見舞いに行った事はねぇ。

 俺がエリスを殺させなかった所為で、シャイマールとの戦いで何人ものロンギヌスが犠牲になった。
 俺は奴等の葬式に出てないし、顔も名前も知らないし、知りたくもねぇ。

 俺が誰も犠牲にしたくないと言っているのは嘘だ。
 知らないところで、知らない誰かが犠牲になる分には全く構やしねぇ。
 俺は―」

「ひょっとして、私が身構えるのを待って居るのか?」
「!?」

 その言葉に凍りついた柊を、愉快そうに、闇姫は見つめた。

「やはり、な。お前の本能は私を邪悪と断じ、1秒でも早く滅ぼせと絶叫していよう。だが、お前に無抵抗の相手は斬れんのだ」

 邪に満ちた双眸が柊の瞳を覗き込み。
 背筋にゾクリとしたものを感じた柊は、ソレを己の精神への干渉だと、“攻撃”だと自分に言い聞かせた。

 全身から金色のプラーナを吹き上げる。魔剣に命を注ぎ込む。
 刀身にIRYOKUZETUDAIKAMIGOROSINOKENの文字を輝かせる。
 箒に組み込んだエネルギー・ブースターを起動する。

 そして意識を空にして、渾身の力を込めて魔剣を振り下ろす。

 それは、柊蓮司の生涯において、過去最高の斬撃だった。
 安藤来栖といえど、その一撃を防ぐ事は出来なかっただろう。
 普段戦っている魔王の写し身なら、その一撃だけで裏界に追い返されるだろう。
 それほどの速度と威力を持った一撃が、闇姫の左肩に打ち込まれ。

 肌に触れる1mm手前で静止した。その身を包む、瘴気によって。

「攻撃力150、か。よくぞ、人の身で此処まで練り上げた。全く、大したものだ。但し・・・・・・人間にしては、だが」
「何・・だ・と・・・・・・」

 驚愕のあまり声も出ない柊に、闇姫は優しく囁いた。

「最強の魔剣使いなどと呼ばれて増長したか?
 鍛え上げても所詮は人間。
 神々の戦場においては、辛うじて捨て駒に成れるかどうか、といったところだ。
 参考までに教えてやろう。
 私の防御力は520だ。つまり、私にかすり傷の一つでも付けたくとも、今の3倍の威力でも、まだ足りぬ。
 とは言え、お前の真価は別のところにある。ソレに比べれば、お前の戦闘力など何の価値も無い」
「な・・・・・・何の・・・事・・・だ・・・・・・?」

   コイツは何を言っている? まさか、柊力の事を言っているのか?

「話は変わるがな、神殺しの魔剣使いよ。お前はアンゼロットをどうしたいのだ?」
「どう・・・って、どういう意味だよ?」
「つまり、連れ帰って傷心のアンゼロットに、今までと同様にロンギヌスを死地に送ったり、魔王の転生体の子供達を殺させたりさせたいのか、と
聞いているのだ」
「なっ!?」
「こう言い換える事も出来るな。
 世界を守る為に、アンゼロットを犠牲にしたいのか、と。
 苦しみが終らない分、アンゼロットの犠牲者達よりも遥かに悲惨だな。
 それに、死んだウィザードや魔王の魂は、まだ、狭界の一角に転生する事がある。
 つまり、“あの世で幸せになる” 可能性もあるのだ」

 苦しむ柊を見つめる闇姫の顔には、いつしか他者の苦しみを悦ぶ亀裂めいた笑みが浮かんでいた。

「なあ、柊蓮司。お前は、アンゼロットが自ら望んで“世界の守護者”を務めていたと思うのか?
 アンゼロットが、好きで部下や魔王の転生体の子供達を殺してきたと思うのか?」

 たっぷりと。舌の上に毒を載せ。この諦めの悪い、お人好しの、頭の悪い青年の耳に注ぎ込む。

「総てはゲイザーのかけた制約の呪いの所為だ。
 奴はアンゼロットに新たな命を与える際、決して自分に逆らえぬよう呪いをかけたのだよ。
 即ち、『如何なる犠牲を払ってでも、世界を守れ』という、な。
 世界を守る為の犠牲に、ゲイザー自身が含まれる事になったのは誤算であっただろうが。
 ゲイザーは消え、其の呪いも、もう解けた。アンゼロットは自由だ。これでやっと、一個人として己の幸せを追求出来るように成ったのだ。
 其れをお前は、世界の為に犠牲に成れと、罪も無い人々を犠牲にする苦しみを味わい続けろと言うのか?
 嗚呼、お前はなんと残酷な男なのだろうな。
 世界を守る為に、アンゼロットを犠牲にしようなどとは・・・・・」
「・・・せない」
「うん?」

 大仰に嘆いて見せる闇姫に向けて、柊は血を吐くように叫んだ。

「そんな事はさせない! アイツに誰かを犠牲になんて、させない! 俺が!」
「お前はこれから、ラース=フェリアに往くのだろう?」
「!」
「何をするにも、それなりの代償が必要だ。総てを救うには、お前の血と汗と涙と、レベルと年齢と学年と出席日数だけでは到底足りぬ」
「そこで面白くするなよ! つーか、お前は何がしたいんだよ!」

 分が悪い事に気付いた柊は話題を反らしたが、闇姫は艶然とした笑みを浮かべてその問いに応じた。

「私はただ、エルンシャとアンゼロットの中を取り持って遣りたかっただけだ。見ていて、どうにも歯痒かったのでな」
「それで、あの物好きな莫迦にとり憑いて、けしかけたのか」
「そうだ」

   本当は、エルオースが復活して自分の本体の封印が解けるまで、足止めが出来れば充分だったのに。

「それが、こんな事になったのは、お前があの蝿を連れて来たからだ」

   全く、困ったものだ。こんなにも・・・・・・・都合の良い展開になってしまっては、つい、欲が出てしまうではないか。

 エルヴィデンスが胸の内で呟く一方、柊は胸を突かれた思いだった。

   俺はアイツに何をさせたい?
   世界を守る為に手を汚すように言うのか?
   いや待てよ、アイツはこれから里帰りするんじゃなかったか?
   だったら、こんなトコで一人で泣いてるより・・・・

「結論が出た」
「ほう?」
「アイツを故郷に返す。家族のいる故郷で、あの物好きな莫迦の墓守をさせるんだ」
「ならば、私が連れ帰ろう。さっきも言ったが、私はアンゼロットとは同郷だ。本人とは面識が無かったが、家族や友人とは付き合いがある」
「馬鹿言え! 魔王の写し身を乗っ取るような奴に任せられる訳ねーだろ!」

 柊は、再び、真正面から闇姫を見据えて言い返した。

「何故、そこまで警戒するのだ、柊蓮司?」
「お前こそ、俺を騙す気ねーだろ。遊んでんじゃねーぞ! そもそも、あの物好きな莫迦を冥界に突き落としておいて何を言ってやがる」
「其のくらいせんと、素直に成らなそうだったのでな。お前も、同じくらい往生際が悪そうだが」
「るせぇよ!」
「惚れた女は早めに口説いておけ。他の男に取られてから嘆いても遅いのだぞ」
「余計なお世話だ! とにかく! アンゼロットは俺が連れて行く!」
「そうか。では・・・・・・少し、試させて貰うぞ」

 闇姫が気配を“解き放つ”。気配を消していたのをやめる。
 それだけで、ただそれだけで、柊は心臓が止まりそうになった。
 膨大な神気を浴びて、魂が砕けそうになった。
 頭の中が真っ白になり、喉がからからになり、舌が上顎に張り付いた。
 全身を構成するプラーナの配列に乱れが生じた。
 以前、輸血され、未だ体内に僅かに残っていた九天玄女の血が誤作動した。
 人間と古代神の、圧倒的な存在レベルの差に精神が崩壊を始め― る直前、闇姫は再び気配を消した。

「良く耐えた。では、アンゼロットに話しかけるがいい」
「―――――――――お、おう・・・・・・・」

 荒い息をつきながら、心身に異常がないか、確認する。
 性別が変わっていたが、んなこたーどうでもいい。他は、特に問題はないようだ。
 面白そうに此方を見遣る闇姫を警戒しつつ、アンゼロットに近付いて。
 床にへたり込み、虚空を見つめて涙を流し続ける銀髪の少女の正面に立ち、その頬を軽く叩いた。

「おい、アンゼロット。しっかりしろ」
「・・・・・ひ・・い・・・・らぎ・・・さ・ん・・・・?」
「一緒に帰ろう。みんな心配してる。それから、故郷まで送ってやるよ」

 柊はアンゼロットを優しく抱き寄せ、その頭を自らの胸に押し付けた。
 女性となった、その柔らかい感触を頬に受けたアンゼロットは・・・・・・不快げに、眉を顰めた。

「・・・・・・何ですか、この胸は。わたくしに対する嫌味ですか・・・」
「え」

 アンゼロットは紅葉のような小さな手で、柊の胸を掴み、握り潰すかのように力を込めて引っ張った。

「痛てて、痛いって! やめろ、潰れる、もげるだろ、おい!」
「もげてしまえばいいんですわ、こんなもの!」
「だから、やめろって!」

 少女の小さな手を掴み、胸から?ぎ放すと、アンゼロットは悔しげに俯き、肩を震わせながら呟いた。

「・・・・・柊さんはいつも、わたくしがどんなに望んでも得られないものを、いとも簡単に手に入れるのですね」
「アンゼロット?」

 只ならぬ気配を感じ、柊は悪い予感を覚えた。

「柊さん。貴方は、わたくしが何故、毎晩寝ないでネトゲをしていると思いますか?」
「い、いや、わからねぇけど・・・・」

   何だ? 何が起きようとしている? 何か、とてつもなく悪い事が起ころうとしている・・・・。

 アンゼロットは顔を上げ、金と蒼の瞳で柊を睨みつけ、叫んだ。

「怖いからですよ! 眠るのが! 魘されるんです! 夢に出てくるんですよ!
 今まで死なせて、いえ! 殺してきた部下が! 魔王の転生体の子供達が! ユウが! 晶さんが!
 恨み事を言いに来るんです! 自分達が犠牲になる必要はなかったって!!
 わたくしは今まで、世界を守るために大勢の人々を犠牲にしてきましたが、そんな必要はなかったって!
 柊さんは犠牲を出さずに世界を救ったじゃないかって!
 こんな事は・・・・・こんな事は、貴方に会うまでなかったのに!」
「・・・・・・・・・アンゼロット」

   コイツは、こんなにも苦しんでいたのか?
   優雅にティーカップを傾けながら、意地悪そうに俺を弄りながら。
   笑顔の下に、こんな苦しみを隠してしたのか?

 アンゼロットの右目の奥に、どす黒い瘴気が蟠り始める。

「わたくしが、何故、貴方にばかり任務を押し付けていたのか分かりますか?」

 瘴気に濁った瞳に、戸惑う柊の顔が映る。

「貴方が憎いからですよ! 幸運の女神に溺愛されてる癖に、不幸そうな顔をしている貴方が!」
「俺は自分を不幸だと思った事は一度もねぇ!」
「嘘おっしゃい! 顔に書いてありますよ! 自分は不幸だって! わたくしは貴方が憎い!
 わたくしが少しでも犠牲を減らそうとしているのに邪魔をしておいて、英雄面している貴方が!」
「ま、待てよ。お前、俺の事、気に入ってたんじゃないのか?」

 自分でも、らしくないっていうか、みっともない事言ってるな、と思いつつ抗議する。

「自惚れないでください!
 世界の守護者たるわたくしが、世界総てに等しく愛を注ぐ事を勤めとするわたくしが、一個人に心奪われるなどありえぬ事です!
 ですが、わたくしは貴方への憎しみを無視出来ませんでした。だから、せめてこの執着を恋だと思い込もうとしていたのですよ!
 その過ちなら、前科がありますからね。ですが! もう・・・・・・遠慮はしません!」

 アンゼロットの金色になった右目から、冥界の瘴気が零れ出す。

わたくしは生まれたとき8人姉妹でしたが、今はもう、わたくししか残っていません!
 妹同然に可愛がっていた5人の聖姫達は、既に3人が殺されています!
 わたくしは命を投げ出してさえ、イクスを救えませんでした!
 しかも、その後で、わたくしは二回もイクスを殺させられました!

 わたくしがどんなに努力しても、必ず犠牲者が出るのに!
 貴方はエリスさんもチハヤさんも救った!

 わたくしがどんなに代償を支払っても出来ない事を、貴方は容易く成し遂げる!

 わたくしが30レベルの超女王だったときは、敵も味方も60レベルで完全に戦力外だったのに!
 貴方は、たった10レベルで最強の魔剣使いと呼ばれる!

 わたくしは2回も目の前でエルンシャ様を殺されたのに!
 貴方は3回もくれはさんを助けた!!!

 ずるいです! 理不尽です! 不公平です! 
 わたくしは女神なんですよ! 貴方より、ずっと優れているんですよ!
 貴方より、ずっと努力してるんです!
 貴方より、ずっと多くの代償を支払って来たんです!
 そのわたくしに出来ない事を、貴方は容易く遣って見せて、当たり前のような顔をして!

 こんな・・・・・・こんな世の中・・・・・・間違っています!!!!
 こんな歪んだ世界など・・・・・・・・滅んでしまえ!!!!」

 アンゼロットの口調が変わり、金色の邪眼が輝いて、全身から膨大な瘴気が吹き上った。



「赤羽代表代行! また、強力な魔力反応を確認しました!!
 推測される能力は・・・・・シャイマールの8倍? 明らかに間違ってますね。この計算式、見直しましょう。
 魔力パターンの識別、完了しま― え? 嘘? こんなはずは・・・・・・・・・」
「はわ? どーしちゃったの、コジマメさん?」
「この反応は・・・・・・・・・・アンゼロット様です!!!!!」



 月光を束ねたが如き銀髪が波打ち、夜闇の如き黒へと染まる。
 小柄な身体が成熟し、背が伸びていく。
 痩せた体躯が、豊満な双丘を持つ大人の女性のそれへと変わる。
 目付きが鋭くなり、表情も大人びたものとなる。
 瘴気を凝り固め、星の錫杖と月の鎧のレプリカを生み出し身につける。

「な・・・・・・なんなんだよ・・・・何が・・・何が・・・起きてんだよ・・・・・・・」

 柊は自分の目が信じられず、呆然と、“彼女”を見つめた。

 そこにいるのは、外見年齢27歳の黒髪長身巨乳美女。

 10万年に及ぶ古代神戦争を生き延びた偉大なる戦女神
 エル=ネイシアの夜を治めた女王神
 アレイシア大陸の半分を支配した超女王

 月女王アンゼロット

 否、心身ともに瘴気に染まった、その者の名は―

「あっはっはっはっ、ハッピーバースディ、“冥魔王”アンゼロット! さあ、その胸の内に溜め込んだ、総ての憎悪を解き放つがいい!」

 封印の間に、歓喜に満ちた闇姫の凶笑が響き渡った。


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