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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第11話01

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nwxss

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 一瞬で背後を取った黒翼の戦姫は、柊の背骨と肩甲骨の間に槍を突き立て、背中から胸を貫いていた。

「ぐ・・・がぁっっ・・・てめっ・・・・・・く、空間転移・か・・・・・・」

 呻きながら首を捻り、背後に視線を向けようとした柊を
 凛々しさと妖艶さを兼ね備えた少女の左手と両の翼が優しく抱きしめ
 豊かな双丘が、鎧越しに柊の背中に押し当てられる。

 たおやかな腕が肩越しにまわされ、細く美しい指が柊の胸を妖しく撫でまわし。
 右の黒翼が、ウィッチブレードを握る右腕を押さえ。
 左の黒翼が、晶の魔剣を握る左腕を押さえ付けた。

「柊蓮司よ。お前の誤りも正しておこう」
「ぉ・・・おおっぉぉっぉ・・・ぉ・・ぁ・・・」

 右手で槍を捻り、柊の喉から漏れる苦悶の声を心地良さそうに聞きながら。

「お前が私を倒せないのは、私が運命に守られている為、ではない。私は、如何なる運命にも縛られてはいないのだ。
 私はより弱き者には敗れず、より強き者にのみ打ち倒される。そして、お前の力は私に及ばぬ。それだけの話だ」

 黒髪の戦姫は色鮮やかな唇を柊の耳元に寄せ、甘い声で囁いた。

「ベール=ゼファーとて、其の気に成りさえすれば、何時でもお前を殺せたのだ。とても、とても簡単にな。
 だが奴は下らぬ縛りゲーに拘り、幾度となく敗退を繰り返してきた。他の魔王にしても、大規模な儀式魔法に力の大半を注ぎ込んで
 弱体化して尚、充分な護衛を置かず、無防備になった瞬間を狙われて倒されてきた。
 裏界の魔王は、決して本気を出そうとしない。其ればかりか、自らハンデを付けたがり、折角手にした優位を容易く溝に捨てたがる。
 何故だと思う、柊蓮司?」

 言葉とともに、槍を持ち上げる。柊の足が床を離れ、声にならない苦鳴が上がる。

「裏界の三下雑魚魔王どもは、な。既に、諦めているのだよ。天界への復讐も、表界の侵略も、な。
 あの下司どもは、ただ、弱者を虐げる事で自分達の弱さを忘れたいだけなのだ。
 だから、“本気を出しさえしたら、自分はとても強い”と思い込み続ける為に、絶対に本気を出さないのだ。

 其れにな。もしも表界を滅ぼせてしまったら、次は天界と戦わねば成らぬが、奴等にそんな気概は無い。
 奴等は、無力な人間を相手に威張り散らしたいだけなのだ。本当に表界を滅ぼす気などありはせぬのだ。

 お前はそんな情けない連中の隙を付いて倒してきた。
 其れが出来るように、幻夢神が取り計らっていたのだと思っていたのだが・・・・・・
 裏界のぽんこつどもの愚昧さは、幻夢神が手を下すまでも無いほどだったのだな。

 お前に運命の加護が無かったのならば、お前が魔王に勝ってこれた理由は他に考えようも無い。
 私が奪ったベルの力と、お前の貧弱な実力を照らし合わせるに、な」

 槍を更に高く持ち上げ、より強く柊を抱き締める。柊の耳に唇を押し当て、睦言のように囁く。

「痛いか? 苦しいか? 柊蓮司。痛いだろうな。心臓を、貫いたのだからな。
 だがな。お前は死ねんよ。お前の取り込んだ星王神の力が、死ぬ事を許さぬ。
 首が飛ぼうが、脳が潰れようが、エルンシャがお前を死なせはせぬ。なあ、そうだろう、エルンシャよ?」
『当然だ。何があろうと、柊君を死なせはしない』

 激痛に声も無い柊を措いて、古女王は仇敵に語りかけ。
 異世界の“世界の守護者”は、頼もしくもあり、聞きようによっては残酷にも聞こえる答えを返した。
 柊の体内ではエルンシャの治癒力が駆け巡り、その命を繋ぎ止めてはいたが、瘴気の槍が刺さったままではそれ以上の回復は適わず、
ただ、柊に致命傷の苦しみを与え続けるのみだったのだ。

 いっそ・・・・・・このまま死なせて欲しい気も・・・少しだけ・・・ほんの少しだけ、しなくもないぜ。

 柊が頭の片隅でつい気弱な事を考えている間も、異世界の神々は更に言葉を交わし続けた。

「エルンシャよ。私は此れから、この男に己の無力さを思い知らせて遣る心算だ。
 そして心を砕き、体内からお前を引き抜き、私の操り人形にしてアンゼロットに差し向け、奴に殺させるのだ」
『愚かな。あの優しいアンゼロットが、大切な友人を手にかけるはずがなかろう』
「かけるさ。世界を守る為に必要ならば、な。実際に、イクスィムにはそうしたのだ」

 エルヴィデンスは薄く哂い、柊を抱えたまま身体の向きを変えると、広間の向こうにいるアンゼロットとコイズミの後ろ姿を、胸の
痛みに耐え続ける柊の視界に入れた。
 二人は冥魔の群れへの対処に追われて此方の様子を覗う余裕もなく、柊の苦境に気付かぬまま、ダンジョン中からこの部屋を目指し
て集まってきた白狼と海魔と魔梟と黒豹と黒天使へと魔力を込めた光を放ち続けていた。

「アンゼロットは柊蓮司を倒すだろう。そして、悩むのだ。
 本当に、そうする事が必要だったから殺したのか? それとも、心の底ではこの者を羨み、憎んでいたからなのか、とな。
 其の迷いこそが、私の精神干渉への抵抗力を下げるのだ。お前は実に便利な道具だよ。“下がる男”」

 戦姫は再び向きを変えて翼を開き、柊の背中に左手を当て、アンゼロット達とは逆側へと、掌から放った超高密度の圧縮空気で勢い
よく打ち出した。

「ぬぉぉぅっっ!!」

 血の帯を引いて宙を飛び、広大な封印の間を横断する。明滅する魔術文字がびっしりと掘り込まれた壁が瞬く間に近づいてくるのを
しかと見据え、柊は空中で姿勢を整えて両脚で壁に“着地”、全身をバネにして衝撃を吸収し、床に飛び降りて。
 直後、熱いものが喉をせりあがり、盛大に吐血した。

「ご、がぁっ・・・・ごほっ・・・・・げほっ・・・・・」
『今、治療しよう、柊君』

 慈父神の優しい声が脳裏に響くや、暖かいものが全身を満たし、気付けば背中から胸へと開いた穴は跡も残っていなかった。
 まだ少し肺の中に血が溜まっていて気持ち悪いが、闘争の高揚がすぐに忘れさせてくれるだろう。

「お・・・・・・さんきゅ、な。さっきは不意を付かれちまったが、もう二度とあんなヘマはしねぇぜ!」
『頼りにしているよ、柊君。君も私を信じて、防御と回復は私に任せて攻撃に専念してくれ』
「言われるまでもねぇ!!」

 言って柊は晶の魔剣を月衣に仕舞うと、自分の魔剣を両手で強く握り締め。
対する戦姫は、大きく黒翼を広げて左手を振り上げた。

「さあ来い、柊蓮司。お前の無力さを教えてやろう」
「いちいちフルネームで呼ぶんじゃねぇ!!」

 柊は咆哮とともに床を蹴り― 直後、正面から吹きつけた突風に出鼻を挫かれた。
 次いで、柊を包み込むように球状の結界が形成され、月衣の“常識”遮断の力すら書き換えて死を齎す真空を作り出す。
 柊の全身の毛細血管が破裂し、噴出した血潮が結界の内側に張り付いて内部を覆い隠し―

(ミスったな!)

 エルンシャの治癒魔法に癒されながら柊は心の中で快哉を叫び、血煙を隠れ蓑に床に転がっていた金ダライ ― 上の階で柊が落と
し穴に投げ込み、丁度、この部屋でエルンシャに挑んでいたベルの脳天を打った物 ― を敵のいる方向に蹴り飛ばして囮にすると同
時にウィッチブレードに飛び乗り、真上から真空結界を脱出して奇襲をかけ― ようとして。
 横殴りの突風に吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。

「ぐ、ふぉっっ、つっ、ぃってぇ―」
「素人の浅知恵だな」

 顔を床に打ち付けた柊の耳に、エルヴィデンスの嘲笑が突き刺さる。

「お前も神々の戦場に立つつもりなら、プラーナの反応で敵を“視”ろ。肉眼など―」
「―っるせぇよ!」

 柊は叫び、敵の台詞を遮って身を起こし。
 迎え撃つ戦姫は左手を一振りして鎌鼬を、翼を羽ばたかせて高密度に圧縮した瘴気の散弾を撃ち放つ。

 無数の鎌鼬と瘴気の弾丸が織り成す弾幕の中を、ジグザグに走りながら掻い潜る。
 その一発一発が、先日スクールメイズで出会った錬金術師見習いの少女の放ったディバインコロナを遥かに凌ぐ威力を持った攻撃魔
法の数々を、或いは避け、或いは魔剣で迎撃し、或いは多重障壁を信じて自らぶつかり、プラーナを振り絞って耐え忍び、少女の姿を
した邪神を自らの剣の間合いに捕らえるべく距離を詰める。

 ウィザードが魔王に挑む際には、先手を取って一気に畳み込み、何もさせずに倒すが鉄則。
 その定石に則るべく全身からプラーナを吹き上げて迫る柊に、戦姫はその手の槍を向け―

「タンブリング・ダウン」

 意識を刈り取った。

 一瞬の空白の後、肩に鋭い痛みが走り、すぐに痛みの質が変わる。
 視界が大きく揺れ、目の前に黒髪の戦姫の顔が見えたかと思うと、天地が逆転し、戦姫の姿が瞬く間に遠ざかっていく。

 戦姫が槍で肩を刺し、グイと捻って持ち上げ、投げ飛ばしたのだと気付いたときには背中に強い衝撃を感じていた。封印の間の中央
付近からアンゼロット達のいる戸口近くまで投げ飛ばされ、ロンギヌス・コイズミに抱きとめられたのだ。

「す、すまねぇ、コイズミ。助かっ―」「失礼!」

 皆まで言わせる事なく、コイズミは慌てて柊を後ろに投げ、両手を広げて前に出た。
 戦姫が、圧縮した瘴気の弾丸を打ち出して追い討ちをかけていた。

「やべぇっ!」

 態勢を崩して床に倒れ込み、なすすべもない柊の目の前で。
 戦姫の放った攻撃魔法が、アンゼロットとエルンシャが張った多重障壁に威力を減じられつつも、コイズミの肩を胸を腹を打つ。

「がぁはっ!」「コイツッ!」

 崩れ落ちるコイズミの姿に激怒し、柊は背筋だけで床から跳ね起きて。

『待ちたまえ、柊君!』

 エルンシャの静止も聞かず、正面から突進した。

 魔剣を振るう。槍で捌かれる。体勢を崩される。刺突が繰り出される。身を捻って避けようとして―

(間にあわねぇ!)

 戦姫の槍がエルンシャの張った泥の障壁を貫き、アンゼロットの展開した魔力障壁を打ち破り、柊の腹に突き刺さり。
 咄嗟にその槍を掴もうと手を伸ばすより早く槍が引き戻され、剣の間合いから逃げられ、追撃を封じる圧縮空気の砲弾が放たれる。

「集え、風の精!『エアリアル・ストラーイク』!」「生命の刃・護法剣!」

 多重障壁を打ち抜いた大気の破城槌に魔剣を叩きつけ、身体の両側を凶風が吹き抜ける中を鋭く踏み込み、間合いを詰める。
 いつものように、左肩を狙って袈裟斬りに切りつける。
 戦姫の左の黒翼が弧を描くように動き、柊の斬撃を撫でるように捌いて脇に除け。
 柊が魔剣を引き戻すより先に槍が突き出され、アンゼロットとエルンシャの展開した多重障壁に速度を下げられながら心臓に迫る。
 身を捻り、辛うじて刺突を避けながら、漸く落ち着いてきた頭で柊は対策を思案した。

 エルヴィデンスは柊の動きを完全に見切り、どんな動きにも遅滞なく対応している。
 今日、初めて会ったにも拘らず、まるで旧知の仲であるかのように柊の癖や太刀筋を完全に把握しているのだ。

(多分、奪ったベルの記憶を元に対策を立ててるんだろうが・・・・・・・・・・・・それなら、これはどうだ?)

 左手を、魔剣の峰の中ほどに添える。

“脇取り”。

 ロンギヌス史上最強の魔剣使いと呼ばれた男との手合わせの中で、見様見真似で覚えた型だった。

「この技をベルに見せたこたぁねぇッッ! 流石に初見じゃあ見切れねぇだろっ!」

 喉を狙って切っ先を突き出す。槍で捌かれるや、受けた槍を軸に「梃子の原理」で柄頭を横薙ぎにして顎を狙う。
 戦姫が槍を傾けて柄頭を止めると、柊は添えた左手で刀身を押し出し、戦姫の首筋に刃を押し当てようとして。
 滑るように動いた槍の軸によって防がれた。

「未熟者め。この程度、初見でも充分に見切れるわ」
「ちっ! やっぱ、付け焼刃じゃ駄目かよッ!」

 構わず、一歩踏み込んで。正面から魔剣を槍に押し当て、両の腕に力を込める。いかに戦姫、いかに古代神といったところで、肉体
的には十代半ばの小娘だ。実戦で鍛えぬいた大の男を相手に、純粋な力比べに持ち込まれては―

 ビクともしなかった。

「って、おい!」
「いくら鍛えたところで所詮は人間。神の力に抗えはせぬさ」

 事も無げに言われる。逆に押し込まれる。膝が床に付く。槍の穂先が、首筋に近づく。
 このままでは頚動脈を掻き斬られると、柊が戦慄したそのとき。

『火界の守護者の
 ひとりにして
 次元のかなたにありし
 異界の“炎”を守護する
 ジュグラッドよ・・・』

 エルンシャが呪文を唱える声が響き、柊の足元に魔法陣が展開され、“火”の属性のプラーナが吹き上がり。
 それを見た戦姫もまた、美しい唇で呪を紡ぎ、呼びかけに応えて邪精の群れが舞い集う。

「古代に生まれし
 天駆ける白き魔獣よ
 四精霊界の彼方より
 その姿を我が前にさらし

 我に従属せよ」

『遥かなる元界に燃ゆる
 聖なる白炎を
 我がもとにもたらさん・・・』

「スピリチュアル=ファング!」『ヘブン=フレイム!』

 鍔競り合う柊と戦姫の間で、呼び込まれた大量の邪精と火界の聖なる白炎が激突し、爆発し、双方を大きく弾き飛ばし。
 床に叩きつけられた柊が身を起こすより早く、瘴気を孕んだ闇風が吹き荒れ、柊のみならずアンゼロットを、まだ床に倒れたままの
コイズミをも巻き込み、咄嗟にアンゼロットが展開した魔力障壁を打ち破り、全身を打ち据えて体力を削ぎ取った。

「ぐぁ・・あ・・・・く・・・・ぁ・・・・・・・・・・・・ア、アイツ・・・今、呪文だけで精霊獣を呼びやがった・・・・・・」

 ベルですら、ここまで簡単に精霊獣を召喚し、支配出来た様子はない。事前に、それなりの準備をしていたようだったというのに。

『ん? 驚くほどのことではないだろう? ただの八神魔法だと思うが。あの技は闇天姫もよく使っていたよ』
「そう・・なの・か? ・・・・にしても、目茶苦茶動きが速えぇ・・・・動きに驕りとか侮りの欠片もねぇし・・・・・魔王の戦い方じゃねーぞ」
『戦姫達は長年の間、同格の相手同士で戦ってきたからね。驕りなど持ちようもないのだよ』

 魔王が鈍重な戦車なら、戦姫は戦闘機に例えられるだろうか。パワーと耐久力よりも、スピードとスキルの高さが目についた。
 尤も、パワーもまた、多重障壁に遮られてイマイチ威力が分かり難いが、並の魔王ならば一撃で倒して余りあるだろう。

「そーいや、アイツ、俺の攻撃力が150とか言ってたが、アイツのはどのくらいなんだ?」
『520だよ。と言っても分かりにくいか。大陸斬が200だと聞いたから、大陸が二つ沈む程度の威力になるのかな?』
「俺は、んなモンで殴られてんのか・・・・・・・・」
「それよりも、本当に警戒すべきなのは戦術ですわ」

 アンゼロットがコイズミに蘇生の光を浴びせつつ、通路に姿を見せた巨大なヤドカリに三日月型の魔力を投げつけて両断しながら注
意を促した。
 もしも、範囲型の攻撃魔法を最初に使っていたならば、コイズミのワイドカバーで攻撃を一人に集め、アンゼロットとエルンシャが
多重障壁を張って被害を最小限に済ます事も出来たのだ。
 だがエルヴィデンスは、まず最初にコイズミを倒し、、更に、そのスピードを生かした連続攻撃を行なって何度も何度も防御魔法を使
わせた後で範囲攻撃を仕掛けてきた。
 守護者といえど、一定時間内に連続して行使可能な防御魔法の回数は限られる。古女王は巧みにその隙を狙ったのだ。

「メタな表現をしますと、防御魔法を重ねがけするのに必要な行動カウントが足りなくなったのを見計らって範囲攻撃を行ったのです」
「ほんとにメタな表現だな、おい」
「それより、柊様・・・・怪我の手当てを―」
『それは私に任せてくれ。コイズミ君の傷も治そう』

 エルンシャの言葉と共に、ポタリ、と一粒の雫が落ちた。

「雨?」
「まさか。ここは百階ダンジョンの最下層なんだぜ?」
「何を言っているのですか。エルンシャ様の治癒魔法ですわ」

 困惑する柊とコイズミの上に、温かい慈雨が降り注ぐ。瞬く間に傷が癒える。四肢に力が漲る。指先まで感覚が鋭敏になる。
 もう一度、活力を取り戻す。戦う力が、湧いてくる。

「ありがてぇ! 全快したぜ!」「ありがとうございます、エルンシャ様!」

 柊とコイズミは頷きあい、力強く床を踏みしめて。柊はエルヴィデンスに、コイズミは戸口に迫る冥魔の群れへと向き直った。

「エルンシャ様、柊さん。わたくし達も冥魔を一掃してすぐ援護に向かいます。もう少しだけ堪えてください!」
「へっ! 先に片付けて手伝いに来てやるぜ!」

 幻夢神から切り離され、直接介入禁止の制約から解き放たれた今のアンゼロットにとって、一体一体の冥魔はさしたる脅威ではない
が、あまりにも数が多すぎる。しかも、冥魔達はワイドカバーや連続波状攻撃によって範囲攻撃の効果を最小限に押さえていた。
 総てを片付けるには、まだまだ時間がかかるだろう。

 仲間達に背中を預け、柊は再び敵を睨みつけた。火界の聖なる白炎を浴びたにも関わらず、火傷一つ負った様子のない、古代神を。

『柊君。エルヴィデンスの槍術は我が娘の一人、闇風姫(シャドウ★エア)を依り代としたときに写し取ったものだ。あの姿もな。
 私は娘達の記憶を吸収した事がある。今から君に、闇風姫の槍術に関する記憶を送る。参考にしてくれ』
「おぉ! なんか、何から何まで済まねぇなぁ」
「ふん。私の動きを読めたとて対策の取りようもあるまいに。エルンシャよ、そやつは剣を取って二年にも成らぬ素人なのだぞ」

 エルヴィデンスの嘲りを無視し、柊は改めて敵を見た。いくつか隙を見つけたが、与えられた知識が、それらは総て誘いだと告げた。

「おっし、いける! これだけ分かりゃ、負ける気なんか全然しねぇぜ!」

 今まで様々な戦いを経験してきたが、敵について此処まで多くの情報を得て戦った事など一度もない。
 それに、今日はレベルも年齢も下がっていない。
 月衣には上質の魔石がぎっしりと詰まり、無限とも思える魔法力を持ったファンブルしないヒーラーが供にいる。
 敵は(柊の割り当て分は)たった一人。しかも、何の因縁もない、ただ倒せば良いだけの敵だ。
 柊のウィザード人生の中で、最高に恵まれた条件で戦えるのだ。
 相手が ― 今までに戦ってきた誰よりも ― 戦いの駆け引きに長じているくらい何だというのだ。

 戦姫が槍を構え、流し込まれた情報が柊に次の手を教えた。
 三段突きが来る。一突き目は顔への牽制。二突き目は右足を浅く刺し、本命の三突き目が喉に来る、と。

「いくぞ」

 鋭い踏み込みとともに、戦姫が槍を突き出す。一突き目は顔への牽制。完全に見切り、微動だにせずに見送る。
 二突き目が下段を狙う。柊は右足を庇うように槍の軌道上に剣を置き― 左の太ももを浅く刺された。

「―!」

 驚愕から立ち直るより先に三突き目が喉に迫る。慌てて魔剣を持ち上げて防ぐも、戦姫はすぐに槍を杖のように持ち替え、石突きを
横に振ってコメカミを狙う。柊は魔剣を翳してその一撃を受けたが、戦姫が素早く石突きを引き戻すと同時に逆側から槍の穂先が襲い
来て、エルンシャの張った多重障壁を引き裂き柊の頚動脈を掻き切った。
 鮮やかな紅い噴水が上がり、傷口から噴き出す“再生の火”に灼かれて蒸発する。瞬く間に血が止まる。
 柊はよろめきながらも倒れるのを堪えて魔剣を振ったが、戦姫は易々と受け流し、槍を構えなおした。

 “エルンシャの娘”闇風姫(シャドウ★エア)の記憶が柊に、古代神の写し身・闇風姫(シャドウ★ゼピュロス)の次の手を教える。
 穂先で牽制し、石突きを振って顎を打ち上げ、鳩尾に石突きを突き込んでくる、と。

 柊が魔剣を打ち込む。戦姫が槍を杖のように握って捌く。槍の切っ先が柊の目の前に来る。

(これは牽制― !)

 一旦引いた穂先が、再び顔に突き込まれる。咄嗟に半歩横に跳び、同時に首を傾ける。槍が頬を抉り、素早く引き戻される。
 柊は魔剣を振りかぶり、振り下ろそうとして― 一瞬早く、戦姫の槍が魔剣の鍔を突いた。

「うおっ!」

 柊の身体が後ろに揺らぐ。反射的に踏ん張ろうとして― 自分から倒れ込む。
 一瞬前まで顎のあった位置を石突きが打ち上げ、次いで鳩尾を狙って突き下ろされた。
 咄嗟に転がって避ける。石突きに打たれた床が打ち抜かれ、忘却世界の次元構造に穴が開き、火の精霊界に繋がった。
 プラーナを開放し、吹き上がる業火に耐えた柊は、身を包む衣服状の魔道具・スターイーグルの飛行機能を起動して床を滑るように
飛んで即席の精霊門から遠ざかると、跳ねるように床から身を起こし― 呻いた。

「・・・・お、おい、記憶と動き違うみてぇだぞ?」
「当然だ。お前の動きに対応して、途中で動きを変えているのだからな。其処まで見切れなんだは、お前の未熟よ」

 戦姫は喉の奥でクククッと笑い、片手を翳して床の精霊門を閉じ― その隙を狙い、柊は再度、正面から突進して間合いを詰めた。
 又しても魔剣と妖槍が交錯し、黒翼が翻り、多重障壁が展開されては打ち破られる。

 激しい打ち合いの中、一瞬の間を見つけた柊は大きく跳び退り、魔剣を寝かせて右脇に引き付け。
 対する戦姫は、左手を突き出しながら身を屈め、右手に持った妖槍を脇に引き寄せて、まるでビリヤードのキューのように構え―

「魔器ッッ! 開ッッ放ゥゥッッ!!」「ふっっっ!」

 裂帛の気合を込め、音速を超えた刺突を繰り出した。

 突き出された二条の閃光は正面から激突し、双方の切っ先同士がぶつかり合い。
 魔剣の切っ先が、槍の穂先に食い込んだ。

 槍が裂ける。槍が裂ける。槍が裂ける。
 戦姫の槍が裂けていく。柊の手にした魔剣によって。鋭い刺突によって。縦に二つに裂けていく。
 その様に柊が勝利を確信した瞬間、戦姫は槍を手放し、刺突の勢いも其の侭に、柊に喉輪落としを決めていた。

「ぐがっっぁ!」

 喉を握り潰され、後頭部を床に叩きつけられた柊の上に戦姫の身体が覆い被さり、一対の黒翼が柊の両腕を押さえ込む。

「油断したな、柊蓮司。私にとって、槍は手札の一つに過ぎぬのだ。が、今の刺突、人の身にしてはなかなかのものだったぞ。
 どれ、我が槍を砕いた褒美をやろう」
「でめ゛っ、放じや゛がれ゛っ!」
「ふふっ、女に押し倒されるのは初めてか? だが、これくらいはした事もあるだろう?」

 戦姫は左手で柊の頭を掴んで固定し、ゆっくりと顔に近づけ―

『いかん! 口移しで瘴気を吹き込み、君を冥魔に変えるつもりだ!』
「や゛、や゛め゛ろ゛ぉぉぉぉぉぉ!」

 色々な意味で危機感を覚えた柊は喉を握られたまま叫び、身を捩ったが、神と人とでは肉体の基礎能力に差があり過ぎた。
 組み伏せられたまま身動きの取れない柊の口元に、瘴気を湛えた艶やかな唇が近づき―
 重なり合う寸前、戦姫は柊から身を?ぎ放し、弾かれたように跳び退くや、一瞬前まで彼女がいた空間を銀色の魔弾が通過した。

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