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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第11話02

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だれでも歓迎! 編集
「エルンシャ様から離れなさい!」
「妬いたか、アンゼロット!
 この程度で嫉妬するようでは、お前が第八世界に去った後、私がエルンシャと何をしたか知ったら憤死してしまうのではないかな?」
「エルンシャ様! この女とナニをされたのですか!!」

 冥魔の掃討の合間に此方の戦局を伺い、柊たちの危機を救ったアンゼロットに向けてエルヴィデンスはからかいの言葉を投げかけ。
 揶揄されたアンゼロットは、たちまち眦を吊り上げると、殺気を剥き出しにして柊を、その中に宿る初恋の相手を睨みつけた。
 それは柊の心に、シャイマールやゲイザーと対峙したときでさえ感じなかった怖れを齎したほどの、実に鬼気せまる表情だった。

「ま、待てよ、アンゼロット・・・・・・い、今はそんな話してる場合じゃねぇだろっ! 後にしろよ、後に・・・・・・
 つか、なんで俺が言い訳してんだ? お、おい、アンタもなんか言えよ」
『何もしていないよ、アンゼロット。どうか落ち着いてくれないか?』
「はっ・・・・・・申し訳ありません、エルンシャ様。わたくしとした事が、邪神の戯言に惑わされてしまいましたわ」
「・・・・・・普段と全然態度が違うじゃねーか。不気味で仕方ねーぜ」

 常日頃暴虐極まるアンゼロットの殊勝な姿に先程とはまた違った怖気を覚えつつも、柊は床から身体を起こし、戸口の様子を覗った。

「おい、冥魔の方はどうなってんだ?」

 こちらの闘いに介入する余裕があるのなら、概ね片付いたのだろう。
 アンゼロットの助けがなければ、組み伏せられて身動きの取れないまま唇を奪われ、瘴気を吹き込まれて冥魔にされていた筈だ。
 さっき、大口を叩いておいて情けないが、アンゼロットには、なるべく早くこっちを手伝いに来て欲しい気分になっていた。

「後少しで片付きますから、もうちょっと堪えて下さい。それとエルンシャ様? 後でお話がありますから、覚えておいて下さいね?」
『? ああ、わかったよ、アンゼロット』
「いや、アンタ、わかってねぇだろ・・・・・・」

 どうやら、この後にもう一つ、世界の危機が待っているようだ。
 気が重くなった柊の視界内で、戦姫が振り上げた左手に新たな槍を生み出し、投擲する構えを見せた。

「“ダンシング・スピア”!」

 戦姫の手を離れた槍は空中で踊るように軌道を変え、柊の死角に回り込む。更に戦姫は両手の中に弓を作り出し。

「ボウ オブ ゼピュロス!」

 圧縮空気の矢を撃ち放つ。

「ええい、くそ!」

 柊は踊る槍への対処をエルンシャに任せて風の矢のみを打ち払い、防御結界に阻まれた槍を意識から外して強引に接敵した。
 魔剣を一閃させて弓弦を断ち切ると、戦姫は弓を杖のように持ち替えてクルクルと回し始め―

「はっ! あ、あれはっっ! ル・ムリネ!!」
「知ってんのか、コイズミ!」
「フランス式杖術の一種に似ています! 遠心力で威力が上がっていますので、お気をつけくださ―」

 コイズミに皆まで言わせず、丸ノコのような音をたてて回転する弓が打ち付けられる。魔剣で受けた柊の手がジンと痺れ、握力がな
くなったところへ更にもう一撃を受け、手から魔剣が打ち落とされた。

「しまっ―」

 慌てた柊の目の前で戦姫は床に落ちた魔剣を足で跳ね上げて手に取ると、一振りしてバランスを確かめた。
 艶やかな唇の両端が、ついっと、笑みの形に吊り上る。

「良い剣だな。少し借りるぞ」
「てめっ、返しやがれ!」

 柊は月衣から晶の魔剣を引き抜き、鋭い斬撃を繰り出して。
 一太刀で戦姫の弓を斬り飛ばしたが、二の太刀は自分の魔剣に受けられた。
 魔剣に刻まれた魔術文字が ― 本来の持ち主の手に無いにも関わらず ― 淡い光を放ち、柊は愕然とした表情でそれを見た。

「在り得ねぇ・・・・俺の魔剣が、俺以外の誰かに力を貸すなんて・・・・」
「ふふ、驚いているな、柊蓮司。エルンシャの娘たちを攫い、自分の部下として使っていた私だ。魔剣一本手懐けるくらい造作も無い。
 さあ、自らの魔剣の切れ味、とくと其の身で味わうが良い」

 戦姫は弓を捨て、舞うような動きで魔剣を振るい、柊はたちまち全身を切り刻まれたが、それらの攻撃はエルンシャの防御魔法に遮
られて致命傷には至らず、更に、エルンシャの治癒魔法により傷付く端から癒えていった。

 湯気を吹き上げて癒えていく無数の傷を意識の外に追いやって、間に割って入った踊る槍を叩き折り、苛烈な斬撃を繰り返す。
 その猛攻を捌きつつ、古女王は呪詛を混ぜた言霊を発し、柊の耳に注ぎ込んだ。

「柊蓮司。お前は本当に未熟で、頭が悪く、臆病で、我儘な、甘やかされた子供なのだな」
「何を言って―」『聞くな! 呪言による精神攻撃だ!』
「お前の太刀筋には無駄が多い。速度も足らん。技量も足りん。覚悟も足りん」

 淡々と、柊の剣の“欠点”を指摘していく。

「人の子にしては出来た方だが、神と戦うには全く足りぬ。
 敵を捕捉するのに肉眼に頼り、碌に制空圏も築けず、縮地も動作の最適化もごく偶にしか出来ない。
 よくもまあ、この程度の腕で神々の戦場に出てきたものだ」
「待てこら、それはハードル高すぎだろう!」
「甘ったれるな、小僧。お前のレベルに合わせて手加減してくれる古代神など、裏界のぽんこつどもくらいなものだ」

 易々と魔剣を受け流しながら、心を刻む言葉の刃を投げつける。

「正式な訓練を一切受けていない、実戦だけで鍛えた剣。故に技の引き出しが少なく、一度太刀筋を見切られれば更なる対策は取りよ
うもない。お前の剣は、お前より技量の劣る者にしか通用しない。言い換えるなら、弱いものイジメ専用の剣だ」
「てめッ、言いたい放題言いやがって!」

 腕に力を込め、今までに倍する速度で振り下ろす。風すら切り裂く斬撃を、半身になって回避した戦姫はガラ空きになった胴へと無
造作に左手を突き出した。古代神の写し身の手刀が、エルンシャの張った泥の障壁と魔力障壁と水幕結界と木の葉の防御陣を次々と打
ち破り、柊の鳩尾に深々と突き刺さる。一撃で胃が破れ、喉に血が込み上げた。

「ぐぅぁ・・・・・・は・・・・ぁ・・・・・」

「柊蓮司。お前には、下僕のように命を武器とする覚悟も、神の戦士として永遠に闘い続ける覚悟もない。
 目の前で気に入らない事があったとき、その瞬間だけ暴れて終わり。なんとも身勝手で傍迷惑な男よな」
「こんのぉッッ!」

 柊は血を吐き捨てながら怒りを込めて剣を振るい、避けられ、カウンターで神殺しの魔剣を突き込まれ、喉に突きつけられた。

「死ぬ覚悟が無いからこそ、一撃に命の総てを込めず、技に勢いが足りなくなる。
 永遠に闘い続ける覚悟が無いからこそ、一撃で敵を葬ればそれで良いと考え、技を放った後に隙が出来る。
 技量以前の問題として、お前は考えが甘すぎるのだ」

 突きつけた魔剣の切っ先で柊の喉を撫で上げて。

「何か反論はあるか、柊蓮司?」

 太古の邪神は、裂けるような笑みを浮かべて訊ねかけ。
 柊は声を絞り出し、唸るような口調で問いに答えた。

「・・・・・・俺は“人間”だ。下僕にも、神の戦士にもなる気はねぇ」
「ならば、お前は不良品だ。主八界に生きる生物としてな」
「不良品って言うなぁ!」

 柊は叫び、突きつけられた魔剣を振り払うと、後ろに跳んで距離を開け。
 古代神は、柊を蔑みに満ちた瞳で見つめて言葉を継いだ。

「お前達の種族は、本来、神の食料となる愛と安らぎに満ちたプラーナを生産させる為に創られた。
 後に、一部は食用から軍用に転用されたがな。
 下僕にも神の戦士にもならんなら、お前は無価値だ。乳を出さん牝牛に、戦わぬ闘牛に、一体何の価値がある?」
「人間は家畜じゃねぇ!」
「家畜なのだよ! そのように創ったのだ! 我等108の古代神がな!」

 今は邪神と呼ばれる原初の創造神は、不遜なる神殺しの魔剣使いの反論を一蹴し、更に柊を否定する。

「人の子は、神無くしては生きられぬ!
 創造主たる我らに総てを捧げ尽くす事こそ、人の子らの在るべき姿!
 そして、人の子らに、あらゆる苦悩から開放された無上の幸福を与える事こそ、我等神々の在るべき姿!
 神殺しよ! 如何なる神にも仕えず、気紛れに暴れ回るだけのお前は、世界に苦痛を撒き散らす害悪に過ぎぬと知るがいい!」

「俺だって、神と名の付くモンを片っ端から殺して回ってる訳じゃねぇ! ガッコの屋上の神社には時々手ぇ合わせてんだよ!
 それと! 誰が、てめぇなんぞに世界を任せるかってんだッッ!」

 怒号とともに、柊の猛攻が始まった。魔剣をきつく握り締め、腕に力を込め、石造りの床に足跡が着くほど強く踏み込み、剣を振る。
 対する戦姫は柊の動きを先読みし、脚を踏み出そうとした場所へ、腕を振り下ろそうとする場所へと魔剣の切っ先を突き出し。
 柊はそれを避け、不自然な体勢、不自然な軌道で刃を振るい、容易く受けられ、捌かれた。

(く・・・・何もかも、見透かされてやがる・・・・・)

 やることなすこと、片端から封じられる。すべて、気勢をそがれてしまう。

 風が吹く。風が吹く。風が吹く。胸の中を、冷たい風が吹き抜ける。魂を冷やす、風が吹く。

 “成功のイメージ”が、湧いてこない。
 何をしても防がれる。カウンターを取られる。
 動きが縮む。踏み込みが浅くなる。次第に押されだす。防戦一方になる。

「そろそろ、自分の無力さが分かってきたか、柊蓮司。
 お前の剣技も、お前の覚悟も、聖姫戦争にて我が依り代と刺し違えた200の英霊の誰よりも劣るわ!」
「―っく!」

 戦姫の左手が一閃し、動きの鈍った魔剣使いを殴り倒す。
 もう何度目になるのか。またしても床を這う柊を冷ややかに見下ろして、エルヴィデンスはその中に宿る仇敵に語りかけた。

「腹立たしくはないか、エルンシャよ?
 私は封印に縛られ、お前は身体を打ち砕かれ、お互い、儘ならぬ身を押して八方手を尽くして手勢を集め、泣く泣く下僕を殺し合わ
せてきたというに、その間、第八世界では此奴如きが最強と呼ばれるような、実に温い馴れ合いしかしていなかったのだぞ?」
『それは違うぞ、エルヴィデンス。我等は互いに、相手を殺すために戦っていた。だが、柊君達は仲間を守るために闘っている。
 目的の違いが闘い方の違いとなって現れた。それだけの事だ』
「ふん。お前も父親なら、子供は甘やかすばかりでは碌な育ち方をせんと知るがいい」

 言って、エルヴィデンスは左手に瘴気の塊を作りだし。

「“黒の魂”!」
「ぁぐぅがぁッ!」

 床から身を起こした柊の胸へと抉り込んだ。

 意識が、弾けた。
 完全な虚無に落とされた。
 そして、暖かく安らぎに満ちた、逞しい父の腕に抱き上げられて。
 意識を回復した柊は即座に剣を振って戦姫の手を振り払い、今一度、敵との距離を開けた。

「くっ、かはっ、・・・・・・や、やばかった・・・い、今のはヤバかった・・・・・・・」
『ふっ、エルヴィデンスよ。忘れたか。瘴気を浄化する“星の錫杖”を創ったのは、私だよ』
「ふん、精神を侵食する瘴気を一瞬にして浄化しおったか。エルンシャめ、思ったより遣りおるわ」

 喘ぐ柊を、その身に宿る星王神を見つめてエルヴィデンスが毒つき。
 柊は ― どうにか、正気を保ちはしたものの ― 胸の中を冷たい風が吹き抜けていくのを感じていた。

「・・・・・・・・・なあ。ひょっとして・・・・・・・俺、いらないんじゃないか?
 なんだか、俺とアイツが戦ってるっていうより、アンタらの綱引きの綱になってる気分なんだが・・・・・」
『いいや、そんな事はないよ、柊君。わたし一人では今のエルヴィデンスには敵わないだろう。君が居てくれるから―』

 慈父神の励ましが、遠くに聞こえる。

 風が吹く。風が吹く。風が吹く。胸の中を、冷たい風が吹き抜ける。魂を冷やす、風が吹く。

 自分は、なんて無力なのか。
 剣が、当たらない。攻撃に、耐えられない。
 エルンシャの助力がなければ、立つこともままならない。
 頭が重い。身体がだるい。気が重い。目の前が次第に暗くなってくる。

 思えば、立ったまま戦闘を終えられるようになったのは、アンゼロットの依頼を受けるようになってからではなかったか?
 それ以前は、戦うたびに致命傷を負い、地に這わされていたのではなかったか?
 自分の勝利は、アンゼロットに用意されたものばかりではなかったか?

 自分には、何も出来な―

『柊君。この迷宮は、私が冥魔王化している間に創造し、配置した冥魔で溢れていたのに、君はどうやってこの部屋までこれたのかな?
 自分で言うのもなんだが、そう簡単に突破出来る防御ではなかった筈だ』

 無力感に苛まれた少年の心に、慈父神の暖かい思念が問いかけた。

「それは・・・・・・落とし穴の底をブチ抜いて・・・・・・・出来る限り、戦闘を回避したんだ・・・・・・・」
『そんな突破法があったのか。柊君、それは誰が考えたものなのかな? アンゼロットか? 幻夢神か?』
「いや・・・・・・・違う・・・・・・・これは、俺が・・・・・・・」
『なら、君は道のないところに、自分で道を切り開いて此処まで来たのではないか。
“自信を持て。君はもっと輝ける。”
 娘のガイアが、良く仲間に囁いている言葉だが、君にもこの言葉を贈りたい』
「・・・・・・・いい、娘さんだな。抱き締めて頭を撫でてやりたいよ」

 柊は、上の階で武器を交えた幼姫と同じくらいの歳の幼女が、お姉さんぶってプリンセス・モンスターを叱咤している光景を思い浮
かべて頬を緩ませた。優しく、力強いプラーナが胸の中を満たしていく。
 チラリと戸口を見た。冥魔の攻勢は大分収まりつつあるようだ。たぶん、もう少しで片付くだろう。なら、自分にも時間稼ぎくらい
は出来たのだ。いや、出来るのだ。なら、出来る事をするだけだ。一人や二人では敵わない相手でも、頼もしい仲間たちと一緒に知恵
や力を合わせれば、きっと勝てる。勝つ方法が、きっと見つかる。だから、今は。

(1分でも、1秒でも、アイツを引き付けておくんだ!)

 その眼差しに強い決意を込め、魔剣を構え直す。気配を探る。慎重に、間合いを計る。

「さあ、来いよ。俺は、まだまだ戦えるぜ」
「ふむ、これほど斬り刻んでも心折れぬか」

 古女王は感嘆の声を上げ、しげしげと柊を見つめ直し。

「お前のプライドは、お前の剣技に支えられえている訳ではないのだな」

 呟いた、その瞬間。
 柊は全身が総毛立つのを感じた。
 背筋に氷を流し込まれたような感覚がする。身体が震えだす。またもや、呼吸が乱れていく。

「手段に拘って目的を見失うのも馬鹿らしい。お前は別の使い方をするとしよう」

 柊は敵の瞳を見た。其処に憎悪の色はなかった。殺意もなかった。敵意すらも存在してはいなかった。
 柊は、その目付きを見たことがあった。それは敵を見る目ではなかった。
 そう、あの目付きは・・・・・・姉が、壊れたバイクをどうやって直すか思案しているときと同じもの―――!!

「舐めやがって・・・・・・・」
『舐める? それは違うぞ、柊君。エルヴィデンスは君を高く評価しているよ。
 ただ、同じテーブルを囲んだプレイヤーとしてではなく、盤上の駒として見ているだけだ』
「そーゆーのを舐めてるっていうんだよ」

 荒く、浅く、早くなっていく呼吸を、無理やり整える。
 今までも、決して手を抜いていたわけではないが、殺すためではなく心を傷付けるための攻撃だった。しかし、この先は・・・・・

『気付いていたか、柊君。エルヴィデンスは、奪った神殺しの魔剣では、君に致命傷を与えていないという事に』
「ああ。俺を操り人形として使うために、心を狙っていやがったから―」
「エルンシャよ。お前にも少しはいい目を見させてやろうと思ったが、お前の事はもう良い」

 戦姫の細い指が、エネルギー・ブースターのトリガーにかかり。
 戦姫の細い腕が、巨大なウィッチブレードを脇に引き寄せ、刺突の構えをとった。

「アンゼロットは、私が、何の苦しみも悲しみも感じぬようにしてやるから安心するがいい」
「てめッ! この物好きな莫迦を神殺しの魔剣で殺して、アンゼロットの心を壊すつもりか!」
『・・・・・・柊君。神殺しの魔剣で斬られては、私も意識が無くなるかもしれない。
 だが、今までの闘いから分かるとおり、完全な防御は無理だ。
 勝算は低いが、エルヴィデンスに憑依を試みてみよう。肉体の制御を阻害しながら、我が浄化の光によって内側から瘴気を払えば―』
「待てよ! それじゃ、アンタが取り込まれるかもしれねぇじゃねぇか!」

 叫んだ柊の脳裏には、先程、エルンシャがベルに倒されたときのアンゼロットの泣き顔が鮮明に浮かび上がっていた。

(あいつのあんな顔、初めて見たぜ・・・・・・いや、“あの顔”だけじゃねぇ)

 アンゼロットがエルンシャの前で浮かべた表情は皆、今まで柊が見た事も、否、アンゼロットでも、あんな顔をする時もあるのだと
想像した事すらなかったものばかり。

 柊はギリッッと歯を食いしばり、次いで、自らの中に宿るアンゼロットの同胞に向け、吼えた。

「アンタはぜってぇ殺させねぇぜ! 俺に考えがあるから、このとおりにしてくれねぇか!」
『待て、柊君。それは―』「言い争ってる暇はねぇ! やれる事を全部やるしかねぇんだよ!」

 心を読んだ慈父神の抗議を捻じ伏せ、柊はありったけのプラーナを解放し、その全身を金色の爆光で包み込んだ。

「ほう・・・・・・」

 眩い閃光を放つ柊の姿に、エルヴィデンスは感嘆の声を上げた。

 与えられた勝利を実力と勘違いした、甘ったれた未熟な餓鬼だと思っていたが、この短時間で驚く程の成長ぶりだ。
 自分にもう少し余裕があれば、是非とも捕獲して手元に置きたいものだ。さぞや、調教のし甲斐がある事だろう。
 だが、手を抜く訳にはいかない。裏界の敗因は、正に、其処にこそあるのだから。

 柊の身体を覆い尽すプラーナの輝きは、内に秘めた星王神の欠片の光が隠れる程だ。
 油断すれば、掠り傷くらいは負うかもしれない。
 そして、その程度の傷であっても、この後に控えるアンゼロットとの闘いに響く可能性は無視出来ない。

「お前の心意気に免じて一太刀くらいは受けて遣りたいが・・・・・・生憎、此方も余裕が無くてな。全力で迎え討たせて貰うぞ」
「抜かせよ。実力で一本取ってやるぜ!」

 柊は叫び、心眼で敵を捕らえ、神速の踏み込みで間合いを詰め、最適化された動きで魔剣を振るい―

「遅い」

 エルヴィデンスは神速の超反応で其の斬撃を捌き

 柊の胸に、神殺しの魔剣を突き立てた。

「肉体のポテンシャルを此処まで引き出せたのは大したものだが・・・・・・ポテンシャルそのものが足りなさ過ぎた」

 魔剣を引き抜き、柊を“視”る。その身には、もはや命の輝きも、星王神のプラーナも感じ取れはしなかった。

「クックック。エルンシャよ。幾らお前でも、流石に神殺しの魔剣で刺されては―」
『リザレクションソウル!』
「何ッ!」

 晶の魔剣のシャードが輝き
 柊の命の灯火が再び燃え上がり
 その手の魔剣が跳ね上がり

 意表を突かれ、その刺突を避け損なった戦姫の
 鎧の
 隙間に
 魔剣の切っ先が、食い込んだ。

「そうか! プラーナの輝きを目晦ましに、エルンシャの魂を魔剣に移―」
「生命のッッ、刃ぁぁっっっ!!」

 古代神の驚きの声を掻き消して。

 忘却世界・ラグシア城跡 最深部に、柊の咆哮が轟いた。


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