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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話01

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 小等部の終鈴が鳴ってしばらく時が経った。

「ミユ、お待たせ」

 そう言って、笑顔で教室の一室から外に出て、待っていた少女に笑顔で駆け寄る少女が一人。
 長い銀の髪。赤い瞳。白磁のような肌と、まるで妖精のような風貌でありながら、その纏う空気は神秘的というよりは快活に明るい。
 制服なのだろう、胸元の大きな赤いリボンが揺らして勢いよく飛び出してきた少女を見て、それまで茫洋と虚空を見ていた、ミユと呼ばれた少女が少し頬を染める。

「お疲れ様、イリヤ」
「待たせちゃってゴメンね。掃除当番がなかなか終わらなくって」

 いかにも待ちわびていました、という様子がありありと取れる黒髪の少女―――美遊=エーデルフェルト。
 そんな空気を微塵も気にせず、重ねて謝る銀髪の少女―――イリヤスフィール=フォン=アインツベルン。

 彼女達はこの学園だらけの町に転移した学園の一つ、穂群原学園小等部に在籍する、いわゆる小学生である。
 廊下にはごく普通の小学生の女の子が二人、連れ立って歩いているだけ。
 の、はずであるのに。

『いや~、もう美遊さんの待ちっぷりってばまるで子犬かメイドのごとくですね!』
『姉さん。美遊様は事実 侍女(ハウスメイド)です』

 その二人の鞄から飛び出したのは、羽が生えてふよふよと浮く五角星のリングと青いリボンが生えてふよふよ浮く六角星のリング。

 彼女(?)達の名は『愉快型魔術礼装カレイドステッキ』。
 リングは仮の姿、有事にはステッキになるなんか愉快で不思議な凶悪反則魔術礼装である。
 なお、このリングたちには人工的に作られた精霊が宿されており、
 羽ステッキに宿っている方が『ルビー』、リボンステッキに宿っている方が『サファイア』という固体識別名があったりする。

 イリヤと美遊はひょんなことから彼女たちのマスターとなり、ひょんなことから知り合い、ひょんなことから友だちになったのである。
 ひょんなことがありすぎだというツッコミは心の内にしまっておくように。

 ともかく。
 そんな超のつく強力な魔術品のマスターをやっている小学生の女の子達は、喋る丸い物体達に動じることもなく同じ速度である場所を目指して歩く。
 ルビーがふわふわ浮きながら、イリヤに面を向けて(どっちが顔かはわからないが)話しかけた。

『けどまーイリヤさん。学校がこんなことになって最初はかなりテンパってましたが、なんだかんだで慣れちゃいましたねぇ』
「……まあ、わたしよりもリンさん達の方がすごいテンパりっぷりだったけどね」
『仕方のないことかと。わたし達の創造主ですら無茶苦茶、と称した事象のようでした。その後非常に面白おかしそうに笑っていましたが』
「通常の魔術的事象からはやはり筆舌に尽くしがたいほど『魔法』なせいもあると、思う」

 この世界における魔法と魔術の違いについては、まぁ後ほど。長くなるしあとがきあたりで。

 ともあれ。イリヤと美遊は、なんだかんだでこの世界に慣れてしまっていたのだった。
 自分の兄や知人が同じ学校内におり(高等部だが)、ちょっと不思議な事象にもやけに順応の早いクラスメイトたちに囲まれていたというのも慣れに拍車をかけていた。
 また。隣り合う見知らぬ学校も、通っているのは同じく子ども。子ども同士が仲良くなるのに、そう時間はかからなかったのである。

 彼女達は今日あったことを笑顔でおしゃべりしながら、穂群原の校門を抜け、町並みを歩く。


 ***

 次々と転移する学校の中で、学生達が生活するために必要な施設を全て有している学校は少ない。
 麻帆良学園や、『学園都市』、リオフレード学園などのように一つの「町」を有する学園は第一次産業から学園内に存在するものの、
 ひがな増えていく『学園』の全ての人員に対する供給が可能なはずもない。
 よって、まず食物をなんとかしようということで地下に農業施設を突貫工事で設立。成長促進技術の限りを尽くしてなんとか食料の自給を保っている。

 次に必要になるのは学校以外の住居だ。
 これもまた、居住区が完成するまでの間は学校でなんとか暮らし、突貫工事を敢行。
 なんとか人数に見合う必要最低限の住居空間ができて、ライフライン系も整備された。
 各文化スタイルに合わせ、多種多様な―――あけすけに言えば雑多な居住区ができたはいいが、きちんと整備されるのはこれからの話になるだろう。

 閑話休題。
 食と住がなんとか人間の増加に追いついてきた現状で、これから必要になってくるのは『整備』である。
 たくさんのものが必要に応じて生産されるシステムが整った後、今度はそれをよどみなく行き渡らせるために様々なものの流れを整理するというシステムが必要になる。
 それは各校の代表である『極上生徒会』が管理していくことになるだろう。

 しかし、それでは対応しきれぬ問題がある。
 様々な思想と様々な思惑を持った人間の集まる一つの「学校」が、一つの場所に大量に転移してくるのである。
 特に交流のない人間が大量に集まっていれば、ささいなすれ違いを起こすのは当然のことだ。
 また、それが一つの校内ならば学校内でいくらでも対処ができる。

 けれど、問題はその『ささいなすれ違い』が、他校間で起きた場合だ。
 決着をつけるのは最近発足されたばかりの学園の長の集合体・『極上生徒会』だが、他校間のすれ違いを話し合いができる程度の落とし所に持っていくのは非常に難しい。
 よって、『極上生徒会』はとある『委員』の設置を決定した。

 他校間のあらゆる揉め事やトラブルを調停し、両者の言い分を聞き、『すれ違い』を『悲劇』に発展させぬために。
 日夜この学園世界中を飛び回る、地位も権力もなく、特別な報酬も用意されてはいない。
 それでもこの町で『悲しいこと』を生まないために駆けずり回る、もの好きな集団。

 この学園世界では知らぬ者のない委員たち。その名を。

 ―――『生徒会執行委員』という。


 ***


 学園世界中央部、最近作られた極上委員会管理棟。
 3棟ある内の並び立つ北側が会議棟。南側が来賓の待合や、委員会専用食堂などのある予備棟だ。
 寄り添うように存在する、壮麗な装飾や大きな門のある二つの棟に比べ、
 1kmほど離れたところにひっそりと立つ、やけに普通の学校の、それも部活棟のような雰囲気満載の棟が東棟である。
 東棟は、初期の極上委員会の寝泊りに使われていた宿泊施設だったところを、現代の教室のような形に改装しただけの場所だ。
 居住区が完成した今は大本の存在意義を失いはしたものの、最近になってその施設を使う者ができたため、東棟の最上階は今も無駄なく使用されている。

 そんな東棟5階―――最上階にある、一番大きな教室の前に、イリヤ・美遊とステッキたちは歩いてきていた。
 イリヤが、いつもの通りに真新しい白い木の戸を開く。そこには―――

「あ―――っ! また! またですかっ!?
 ですからっ、ここの書き方はこうじゃないって何回言ったらわかってくれるんですかっ!?」

 ―――セーラー服に、頭に花畑を繰り広げている中学生の少女と。

「……だから、俺はこういうの書くのは向いてないんだって……」

 ―――なにやら机に突っ伏して脱力した様子のやたらとガタイのいい目つきの悪い不幸そうな青年がいた。

 花畑の少女の名は初春 飾利(ういはる・かざり)。
 超能力者開発に力を入れる『学園都市』。
 その風紀を守る『風紀委員(ジャッジメント)』の一員でありながら、執行委員の手伝いを申し出た中学一年の少女だ。

 実のところ、あらゆる問題をあらゆる手段を用いて禍根を残さぬよう調停することを使命とする執行委員であるものの、
メンバーとして登録されている人間は、どちらかというと実力行使系の能力者が多い。
 彼女のような特技を持つ(情報処理力・デスクワーク特化)メンバーの加入は、組織として大きな力となるため、
『風紀委員』の二束の草鞋でも構わないので、と加入が即決されたという経緯があったりする。

 なお、イリヤたちが入ってきた戸に近い側面の壁には、壁一面の地図が、反対側の壁には黒板の代わりにホワイトボードがある。
 ホワイトボードには「相良」・「エルフィール」・「植木」とかいった名前の印字された磁石が貼り付けられており、一枚につき一行分のスペースが用意されていた。
 そこには「本日日直のため遅れる」とか、「エルクレストに別種の薬草をもらいに行くため来れませーん」とか、
「3日後には来ると思う」とか、「眠いから家帰って寝る」なんてピンキリの内容が書いてあったりする。

 実にフリーダムな予定表だ。


 ところで。
 なんだか燃え尽きている様子の青年に、羽をばたつかせながらルビーが近寄り話しかける。

『あらあら、また始末書ですかー?
 始末書の書き方を 12歳(ちゅうがくせい)に教わる 19歳(しゃかいじん)とか、本っ当に見てられませむぎゃっ!?』

 ルビーの言葉をえらく中途半端な場所で途切れさせたのは、先ほどまで魂が抜けたように突っ伏していた青年だ。
 顔を上げることまではしないものの、右手に思い切り力を込めて、ルビーをわし掴んだのだ。

 めりめり、とか。みしみし、とか。なんだか怪しい音がルビーの全面から響きだしている。
 地獄の底から響くような低い声で、青年がルビーに告げた。

「……来て早々、言いたい放題言ってくれるじゃねぇかこの馬鹿ステッキが……っ!」
『なっ、なんですかこの暗黒面の全開さ加減は―――っ!!
 普段の不幸から来る諦めっぷりからはありえないくらい積極的に破壊衝動に身を任せていませんかこの人―――っ!?
 しーきゅー、しーきゅーっ!
 サファイアちゃん、今こそ理不尽な暴力に対して姉妹愛からくるパワーオブラブで敢然と立ち向かう時です―――!!』

 テンパってる時もおちゃらけは失わないルビーちゃんに乾杯。
 そんなルビーに対し、助けを求められたサファイアはどこまでも冷静だった。

『……私が思うところ、柊様は慣れないデスクワークのストレスをため過ぎ、臨界点に達しているものと推測されます』
『わーぉサファイアちゃんてば 超冷静(クールビューティー)ー!
 さあ、そのクールな思考で今こそ私を救う時です、ファイトっ! 頑張れサファイアちゃんっ!!』
『そんなところに藪をつついた姉さんの自業で自得です』

 姉妹愛からくるパワーオブラブ、5秒で崩壊。

 閑話休題。
 今まさにルビーを握り潰さんとしているのが、ほぼ一日中この部屋で待機しているこの部屋のヌシ。
 『肩書き:学生』にして『特別執行委員』を拝命したただ一人のこの学園世界の住人。
 デスクワークのストレスで潰れかけている、柊蓮司その人だった。

 とまぁそんな感じでいつもの通りの喧騒に包まれている執行部室。
 それを止めたのは、執行部室に先にいてオセロに興じていた二人の内の一人だった。

「図星つかれたからってモノに当たるってのは、ちょっと了見狭すぎッスよ柊さんハイ角取りー」
「あぁぁこれでもう角三つ目っ!? 勝てるわけないじゃないこんなのっ!」

 角を取りながら言ったのはメガネの地味そうな黒髪セーラー服の少女。その制服は初春のものとはまた違い、違う学校の生徒であることがわかる。
 彼女の名はベホイミ。
 割と初期にこの『学園世界』に転移した「桃月学園高等部」に在籍する高校一年生だ。

 ベホイミの言葉に自分のやったことを振り返ったのか、力なくルビーから手を離し、今度こそ本当に燃え尽きたように脱力する柊。


 明るい茶色の髪を振り乱しつつベホイミにオセロでボロ負けしつつ涙目になっていた少女が、そんな柊に目を向けてベホイミに一言。

「―――ちょっとアンタ。言いすぎなんじゃない? 本当の屍みたいになってるわよアレ」
「だいじょぶッスよー。たぶんもうすぐ帰ってくる頃ッスから―――お、角4つ目取り」
「ちょっ……アンタには容赦ってもんがないワケっ!?」

 完全なる敗北の決まった少女がばん、と机を叩く。
 少女の名は御坂 美琴(みさか・みこと)。
 初春と同じく『学園都市』のうちの能力者180万人の第三位。たった7人しか存在しない 超能力者(レベル5)の一人。
 超電磁砲(レールガン)の異名を持つ、『学園都市』の中でも五指に入る超名門お嬢様学校「常盤台中学」の誇る電撃姫。
 お嬢様学校に通う質実剛健の中学2年生である。

 群れるのが苦手な彼女がここにいるのは、『学園都市』がこの世界に転移してきた当初、色々と柊に(彼女視点で)借りを作ってしまい、
それを解消するために彼女いわく仕方なく手伝いをしている、というのが経緯である。
 最初は仕方なく、といった様子が強かったものの、今では執行部のクセの強い人間達との交流にも慣れたのか、意外にも順応しながら活動に参加している。

 それはともかく。
 ベホイミが言った『帰ってくる』はずの存在は、まるで出待ちしていたかのように扉を開いた。

「ただいまー、であっりますよっ。
 おや、美遊にイリヤ。今日は遅めでありましたな、何かあったのでありますか?」

 銀髪。ツインテール。ゴシックロリータ。赤い双眸。~であります。
 絶滅社の誇るおバカ吸血鬼傭兵・ノーチェである。

 学生でもない彼女がなぜこの世界にいるかというと、彼女の所属組織が原因である。
 彼女が所属するのは傭兵派遣会社・『絶滅社』であるわけなのだが、絶滅社と契約していたり所属していたりする人材が輝明学園には幾人もいる。
 その輝明学園秋葉原分校が通称・『学園世界』という特殊な結界内に強制的に転移されてしまった。
 結界内と外で連絡は取れるものの、結界内に転移してしまった『学校』に『所属している』と認識されてしまった人間は結界外に出ることが不可能であると判明。
 よって、その世界の調査兼『なんとかしてその状況を打破してこい』というなんとも抽象的な命令を受け、調査能力に長けたノーチェが派遣されたのだ。

 とはいえ、派遣されたノーチェが『所属』を決めてしまってはミイラ取りがミイラになる。
 よって特定の学校内ではなく、またさまざまな学校が起こす揉め事の解消にも役立ち、さらに学校の垣根を越えて行動することが可能な執行委員に任じられたのだった。

 閑話休題。
 柊ほどではないものの、この部屋にいることの多いノーチェが自分達より後から入ってくることに驚きつつ、イリヤが挨拶を返す。

「あ、ノーチェ。
 今日はわたしが掃除当番だったんだ。ミユには待っててもらったの」
「おぉ、それはお疲れ様でありますよ。一本いっとくでありますか?」

 ノーチェが月衣からするりと取り出したのは、一本の缶ジュース。
 そこには「あんこ生クリーム炭酸」の文字。キャッチコピーの『ぎちっと!しゅわっと!』という文字がなんだか微妙に飲む気を無くす。
 イリヤは困ったような笑みを浮かべながら、この学校世界の無駄なチャレンジ精神をちょっと恨んでみたりした。

「も、もーちょっとマシなのない……?」
「ふつーなのでありますか?
 『濃い恋乳酸よぉぐると』と『超絶☆誓って普通のオレンジ! -果汁0%-』ならあるでありますが……」
「えーと……じゃあオレンジの方で。ミユにはもう一個の方あげるね」

 「あんこ生クリーム炭酸」を片付けると、今度は両手にまた違う怪しい缶ジュースを取り出したノーチェ。
 好意を無碍にするのもためらわれたため、両方を受け取ると左手の乳酸飲料のクセに真っ黒い缶を美遊に渡す。
 イリヤからもらった、というだけでそれを好意的にキラキラした瞳で見つめながら小声で「……ありがとう」と礼を言う美遊。
 なんでこんなにこの子はルートを攻略されたかのごとくイリヤへの好感度がMAX状態なのかは原作を読んでいただきたい。

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 ともあれ。
 ノーチェは先ほどイリヤに勧めたばかりの「あんこ生クリーム炭酸」と、「体液変換効率10割オーバー 最強のスポーツドリンク」をオセロをしていた机の上に置く。
 さーんきゅ、と美琴が炭酸を受け取るところを見ると、彼女のお使いで缶ジュースを買いに行っていたらしい。
 と、そこでなにやら屍になっている柊に気づいた彼女は、初春に「野菜炒めジュース・レバニラ風味」を手渡しながら声をかける。

「蓮司ー、どうかしたのでありますか? もう明日の矢吹並に死んでるでありますよー?」

 ほらほら「特別キャンペーン!カフェイン増量中プレミアムコーヒー」でも飲むでありますよー。と笑顔で缶コーヒーを差し出す。
 その言葉にようやく顔を上げる柊。
 しかしその目にはやはり覇気がない。

「……遅いっつーの。お前がいない間に俺がどれだけ死ぬ気で紙と格闘してたと思ってんだ」
「何言ってるでありますか。
 蓮司がこれまで解決してきた事件を一つ、各方面に提出するために必要な手続き書類全部書こうとすると、蓮司がこれまで書いた紙の量の3倍は必要でありますよ?」
「……マジでか?」
「命令違反に特例のオンパレードでありますからな。
 その仕事量を他の誰かが肩代わりしてくれていたというのをかみ締めながら、たまにはお前も苦労を味わえというめぐり合わせでありましょう」

 今度こそ肩を落とす柊。
 そんな様子を見て、初春が困ったように笑いながらノーチェに言う。

「まぁでも、人間適材適所とかありますしね。
 柊さんに始末書を書かせるよりは、代理人が書いた方がよほど効率が上がります」
「確かにその通りではありますが。頼り切られても困るのでありますよ、もともと蓮司の仕事なわけでありますし。
 蓮司にも少しくらいデスクワークのいろはを覚えてもらおうかと思って飾利にコーチを頼んだでありますが、少しくらいは成果あったでありますか?」
「短時間すぎるのでどうにも……でも、最初に比べればまだマシなんじゃないですかね」

 初春は渡された缶ジュースを丁寧に鞄に入れると、自分のペットボトルを取り出す。

 事実問題。
 ノーチェがここに配属されたのは、事務処理能力が0に近い柊の補佐、という意味もあったりする。
 戦力を行使する必要のある『調停執行』を行う『特別執行委員』である柊蓮司が、デスクワークに気を取られては一番大切な実務に障害が出る。
 彼個人単独で一日平均8.5件の事件調停をしているため、報告書作成の時間がないのだ。
 なお。『執行委員』というのは、柊一人ではいくらなんでも日々増え続ける学校間のいざこざに対処するのが不可能であると『極上生徒会』が判断したため、
各校に公募告知を行ったところ、一部の学校の生徒会から貸し出された者もいれば、個人的に手伝いを申し出た者もいたりする『調停執行』を行うための委員だ。

 ノーチェはそんな初春の言葉を聞きながら、うんうんと頷きつつ答えた。

「向上心は大事でありますな。とはいえ、やはり一朝一夕では不向きな仕事を完璧にこなすのは無理でありますか。
 蓮司にデスクワークって、飾利が肉体労働に従事するくらいムダなことでありますし」
「ノーチェさん酷いですよー。いくら私が腕立て一回もできないほど体力ないからって」

 それは十分役立たずだと思う、と本人以外の全員が思うもののさすがに声に出す者はいなかった。
 空気を読まないノーチェすらもツッコミを入れぬまま、話をそらそうとする。

「え、えぇと……。
 あ。でも蓮司っ! せっかく途中まで書いたのですから、その報告書くらいは自力で―――」

 書くでありますよ、と言おうとしたその時。
 イリヤたちがいるのに近い側の壁の一部に赤い光が点滅した。
 そちら側の壁はこの学園世界の地図となっており、その地図の一区画が赤い光を放っている。全員がそちらに視線を向けた。
 一番はじめに動いたのは初春だ。彼女は自分のデスクに駆け寄り充電中の携帯をいじり、叫ぶ。

「―――事件発生ですっ! 場所はB-13地区『アッシュフォード学園』前!」
「……って。また都合よく事件が起きるでありますなぁ。
 それで、どうするでありますか蓮―――」

 司、とたずねようとノーチェが地図から目を離し、先ほどまで話していた柊の方を振り向くと―――

 そこには誰もいなかった。
 一瞬あっけにとられるノーチェ。
 がらがら、と反対側から音がした。反射的にそちらに目を向ければ、いつの間にか窓まで移動していた柊が窓を開け、窓のさんに足をかけていた所だった。
 先ほどまで屍のようにどろりとした濁った瞳をしていた柊が、いつものように悪いながらも強い眼差しに戻っている。
 彼は、イタズラしにいくやんちゃな子どものような表情で、窓から身を乗り出しながら一言告げる。

「悪ぃ。やっぱ俺にはこっちの方が性に合ってるみたいだ。
 つーワケで。ノーチェ、その報告書も含めて俺の書類仕事任せた」
「れ、蓮司っ!? ちょっと待っ―――」
「じゃーなっ!」

 にやりと笑いながら、窓から身を躍らせる。

 ――― 先にも書いたとおり、ここは五階。
 当然のように重力が彼の身を掴み、地面へと叩きつけんとする。そんなことはあの部屋のヌシである柊は百も承知。

 4階。  彼はその不敵な笑みのまま、空中で身体を捻る。
 3階。  虚空―――月衣から鉄の塊を引き抜いた。
 2階。  最近新たに取り付けられたイグニッショントリガーに指をかける。
 1階。  フルスロットル。

 彼の身長よりもさらに大きな鉄の塊が、柊を乗せたまま青い魔力光を吹き上げながら墜落寸前で空へと一直線に駆け上がる。
 最近改造された彼の魔剣に、ウィッチブレード型になった際追加された機能である。

 瞬きほどの時間で空を駆け上がり、空気を引き裂き箒星の如く駆けていくその姿を見ながら、部屋に残された全員は同時に呟いた。


『……逃げたな、あの野郎』


 まぁ、確かにああやって駆け回っている方があの男らしいといえばそうなのだが。

 部屋に一陣の風が吹き込むと同時、地図に新たな二つの光点が灯る。さらに、執行部に取り付けられているテレビ電話回線に入電。
 初春はテレビ電話の入電先が今さっき柊が向かったばかりのアシュフォード学園であることを確認し、ノーチェに応対を任せた。
 自身はレッドアラームの点滅先を特定する。

「二ヶ所同時に事件発生の模様です。
 B-09地区・『楯神高校』と『牙の塔』の境で一件、D-21地区『アキハバラ第三中学校』内グラウンドで一件起きてます。
 御坂さんにB-09地区、ベホイミさんは下の転移経路使ってD-21地区の調停をお願いできますか?」
「あーはいはい。任せときなさいって」
「了解ッスよ。下に行ってるんで転送先指定とかよろしくッス」

 二人はのそのそとオセロの台を片付けると、さすがに柊のように窓から降りるようなことはせずに戸を開けてそれぞれの現場に向かう。
 ノーチェはなにやら黒髪に紫色の瞳の線の細い青年となにやら話し込んでいる。どうやら向こうの生徒会の人間のようだ。
 それを目の端でちらりと確認しながら、初春はこの東棟の下の階にある転送陣に必要事項を入力。
 転送のロックを解除し、手元のマイクのスイッチを入れる。

「じゃ、行きますよベホイミさん。転送先は目標近くの舞島学園高校の屋上です。
 うっかり悪魔に会っちゃっても無視決め込んでサクっと目標に向かってください」
『舞島って……あぁ、<落とし神>の桂木君のいるトコッスね。りょーかい無視決め込むッス』

 じゃ、ディーヴァが出てくる前に片付けてくださいね。お願いしますー、と言いつつ赤いボタンをぽちっとな。
 転送陣の起動音が消えるよりも早く、初春の指が分身したかのように超高速―――亜音速に近い速度で閃いてみっつの現場近くの配置カメラ映像を呼び出した。
 そして事件の下手人と思われる人間を能力・外見・生命力波長・言葉使い・心拍数・目の毛細血管配置などから即座に割り出す。
 マイクに向かって話しかけた。

「ベホイミさん転送無事ですか?
 アキハバラ第三中学内で起きてるのは、赤毛の内、メロンパンで洗濯板の方のシャナさんと死武専のマカ・ソウル=イーター組のケンカみたいです」
『うわ、またッスか。いーかげん大人になってほしいもんッスね―――と。
 視認したッス。んじゃ、これから一人で拳で語りに行ってくるッスっ!!』

 赤毛の少女―――シャナはちょっと異界の存在にぴりぴりしやすいところがある。
 それで起きたトラブルも実は数少なくはない。ストッパーの坂井悠二がいれば少しは緩和されるのだが、今はいないようだ。
 ともあれ、ベホイミは無理とは言わなかった。ならばなんとかなるのだろう。

 0-Phone の通話ボタンが切れるのを聞いて、初春はマイクを切り替える。

「あ、御坂さんですか?」
『はいはーい。初春さん、何かわかった?』
「はいっ!
 御坂さんに向かってもらってるところですけど、楯神高校内の能力者『ゲートキーパー』と牙の塔の『魔術士』がちょっとしたいざこざ起こしたみたいです。
 具体的に言うと、でっかい怪獣みたいなパンダが楯神高校内で顕現しちゃって、それに驚いた牙の塔の『魔術士』が攻撃。
 どっちもおさまりがつかなくなってるみたいですね」
『メンドいなぁ……確かどっちも遠隔攻撃能力者いたわよね?』
「そうですね。『牙の塔』側は教師たちまでは出ない、って宣言してますからそこまで危険なことにはならないと思いますが―――」
「もしもーし、美琴ー? まだ現場到着してないでありますなー?」

 と。初春の背後にマイクがかっさらわれた。
 当然、声の主は先ほどまでテレビ電話で話していたノーチェである。情報交換は終了したらしい。
 彼女はいつのまにか出していた大きな水晶玉に手を当てたまま、美琴に話しかけた。

「実はここにちょっといいお話があるのでありますよ」
『……なにそのすごく怪しい発言』
「まぁまぁ、ダマされたと思って今走ってる所の次の角を左に曲がってみてほしいであります」

 ノーチェの言葉に、美琴は疑問を持ったようだったが、納得いかないながらも『……? わかったわよ』と言いながら左に角を曲がる。
 その変化は劇的だった。

『な……ちょ、アンタ……っ!?』
「ふっふっふ、わたくしからのプレゼントでありますよー。
 『一つ 執行委員への一般生徒の手助けは、当人が了承した場合のみいかなる場合にも優先して構わない』。
 たぶんその人は断らない人だと思うでありますから思い切り使っちゃって構わないでありますよー」
『なっ、ぐっ―――うー、色々と納得いかないから帰ったら、絶対、アンタを、焼く。
 けどとりあえず礼だけは言っとくわ、ありがと』

 ほら行くわよこのヘンテコ! ぐぁっ!? なんですかなんなんですかレールガンのミコト様っ!? ふーこーうーだーっ!!
 ……などというドップラー効果を引き連れながら、唐突にぶちんと通話は切れた。
 定期的な電子音を聞きつつ、遠い目をしてノーチェは呟く。

「やっぱり焼かれるのでありますかー。なかなか複雑な愛情表現でありますなー……」

 それがツンデレとゆーもんである。諦めろ吸血鬼。
 黄昏ているノーチェからマイクを奪い返しつつ、初春が言う。

「もう、マイク返してくださいね。
 それで。お話は終わったんですかノーチェさん?」
「あー……なんか厄介なことになってるみたいでありましてな。
 蓮司に回線つなげてもらえるでありますか? あと現場周辺の映像出してほしいでありますよ」

 言われ、初春の指が再び閃く。
 モニターに現れた映像を見て、初春が絶句した。
 それも無理はない。アッシュフォード学園の敷地ギリギリを、なんだか踊るように5mほどの高さの人型兵器ががしょんがしょんと動いている。
 この学園のあった世界に存在する「ナイトメアフレーム(KnightMare=騎士の馬)」と呼ばれるタイプの人型兵器だったはずだ。
 ノーチェが状況を補足した。

「いやぁ、なんかアッシュフォードの生徒会長、ミレイが何をまかり間違ったかあれに乗ってしまい、
 さらによくわからない自動操縦プログラムを押してしまってあんなことになったらしいのであります。
 ついでに、ほらこっちも見るでありますよ」

 ノーチェが指した違うカメラ映像を見ると、そのナイトメア大の人形がとなりの学校から出現した。
 いや、人形というには機構のようなものが見当たらない。正確には塊というのが正しいかもしれない。
 白単色のロボットのような人形は、学校の垣根を踏み越えて真っ向からナイトメアと組み合った。

「……あの隣の学校、『南陵高校』ってトコでありましてな。
 実は『神』として作られた人たちとか、それと互角に戦うような人間がわんさかいる学校なのでありますよ……。
 アレは『重力神』・更科 遊風稜(さらしな ゆせみ)の土塊人形『無尽(つくな)』でありますか。
 なかなかに壮観でありますなぁ」
「いやいやいやいや『壮観でありますなぁ』じゃありませんって!
 土塊人形ってことは、アレ無人機でしょう!? アッシュフォードの生徒会長さんに何かあったらどうするんですっ!
 その遊風稜さんになんとかアレ止めてもらうとかできないんですかっ!?」
「遊風稜なら今テスト中とかで携帯出られないみたいなのでありますよ」

 テスト中ならテストに集中しておいてほしいモンである。

 ともあれ。テンパっている様子の初春に対し、ノーチェは乾いた笑いを吐き出してマイクを再び初春から奪う。

「―――とまぁ、そんな感じなのでありますが把握できたでありますか、蓮司?」
『ようするに、遊風稜が制御に本気出せるようになるテスト終了までにアッシュフォードの生徒会長さん助けろってこったな?
 具体的にあとどれだけ猶予あるんだ』
「遊風稜は、姉の小春と同じようにそこまで勉強得意な類ではないでありますからな。
 たぶん最後の最後まであがくと思うでありますから―――終鈴まで。ざっとあと10分というところでありますか」

 その言葉に彼は溜息。
 しかし、どこか楽しそうに柊は言った。

『相変わらず無茶なこと言うよな、お前』
「蓮司は誰かれ構わず無茶なことさせられてるではありませんか。
 あの8倍はある魔王を叩き斬ったことがあるならこの事態もなんとかできるでありましょう?」

 初春はそのやりとりを聞いていたが、どう考えても無理だとしか思えない。

 たった一人。時間制限がある。バックアップはない。自分の何倍も大きな敵。数も向こうが上。誰にも被害を及ぼさぬようにしながら、一人の少女を救い出す。

 そんなことは、まるで童話の中のできごとである。
 なのに、なぜ。
 この二人はそれを『できる』と確信に満ちた顔のままで、軽口を叩きながら実行に移そうとしたがるのか。
 ノーチェは続ける。

「アッシュフォード側に確認はとったであります。生徒会長さえ無事なら、ナイトメアがどんな形になってても問題ないそうであります」
『景気のいい話だな。
 ―――了解。多少は派手になると思うから始末書よろしくな』
「ちょっと蓮―――」

 ぶち。
 ……デスクワーク漬けの毎日は彼の心にトラウマを残したらしい。
 先ほどまで見せつけられた信頼関係が無に帰すようなやりとりであった。
 電話を切られた彼女は、脱力して顔を伏せる。

「……結局、わたくしが肩代わりするハメになるのでありますな……」
「ざ、残業なら手伝いますよ? 今日は風紀委員のお仕事も持ってきてますからずっとここでお仕事できますし」

 がくりと肩を落とすノーチェをなんとかはげまそうとする初春。
 そんな二人を見ていたイリヤがぽつりと呟く。

「大人って、大変なんだね……」
「……おそらく大人かどうかはあまり関係ない」
『信頼関係見せつけるのかと思いきやこの仕打ち。なかなかやりますねー柊さん。
 イリヤさんのお兄さんと鈍感さでは同レベルと見ましたが、サファイアちゃんはどう思う?』
『フラグを、ブレイカーです』

 別にノーチェには柊フラグは立っていないのだが。

 閑話休題。
 と、オペレーター二人が沈んでいると、再びの入電。
 今度は麻帆良学園都市からだ。電話を取ると、モニターに出るのは大きなメガネに広いおでこの、髪を結んだ少女だった。
 葉加瀬 聡美(はかせ さとみ)。麻帆良学園都市内麻帆良学園中等部3-Aに所属し、大学部ではロボットの研究を行う理系の天才少女である。

『やっほー……って、あれ。
 なんか、お取り込み中でした?』
「ハカセさん。なにか御用ですか?」
「うぅ、ちょっと人間関係について本気出して考えてみただけでありますからお気になさらずでありますよ……」

 ようやく精神ダメージから回復したノーチェはモニターの向こうの葉加瀬に話しかける。

「それで、どうかしたのでありますか? この部屋に聡美が電話なんて珍しいでありますな」
『あぁ、それなんですがー』

 この執行部室に直通のテレビ電話は、各学校生徒会室か大きすぎる学校内の場合は職員室にも置いてある。
 ノーチェはこの少女と実際に友人であるものの、生徒会に所属しない一学生がこの回線を使用することはほとんどないと言っていい。
 それを指摘された葉加瀬は少しばかりバツの悪そうな顔をした後、両手を顔の前で合わせ、叫んだ。

『ごめんなさいノーチェさんっ!
 ちょっとうっかりウチの工学部が発射したミサイルが麻帆良外に出ちゃったみたいなんですっ!』

 沈黙。

「う。う、うっかりで済ませないでくださいよおぉぉぉぉぉぉっ!?」

 初春、爆発。
 当然である。火気管制にうっかりなんてあってほしくない。

「さ、聡美っ!? もし本当にうっかりだったとしても軽すぎではありませんかっ!?」
『ですからごめんなさいって言ってるじゃないですかー! しかも私のせいじゃないんですけどー!?
 と、ともかくっ!
 麻帆学内ならある程度迎撃もできたんですけど、学外に行ってしまいましてっ! 下手に対空撃墜とかしちゃうと被害が出てマズいと思って電話したんですっ!』

 葉加瀬自身もやや混乱気味なのか、聡明な彼女には珍しく語気が荒い。
 あわてても仕方がない、と思い直し、ノーチェは初春を振り返った。

「そ、そうでありますか……。
 初春っ、そのミサイル捕捉できたでありますか?」
「しましたっ。えーと、目標は今火の国中学上空を通過中―――墜落予定地点は、雛見沢分校です!」
「さーとーみぃぃぃぃぃ―――っ!?」
『ごっ。ごご、ごめんなさーいっ!?』

 唐突にバイオハザードの恐怖に叩き込まれる世界であった。
 どうなんだそれ。

 閑話休題。
 初春がさらに状況を報告する。

「そんなことでテンパってる場合じゃありませんっ!
 目標着弾まで、あと83秒しかありませんよ、どうするんですっ!?」
「えぇとうわーそんなこと言ってる間にあと80秒切ってるでありますしっ!?」

 と。この部屋に残る二人の少女が互いの顔を見合わせる。

「……この流れは、わたし達が行くしかないよねミユ」
「あと80秒……階段を下りるまでに5秒、転身に3秒、転送準備に10秒、転送完了までに2秒―――充分可能」

 イリヤは困ったように頭をかきつつ、美遊に話しかけた。
 美遊はいつものように冷静に言葉を告げて、頷く。
 二人で頷きあうと、イリヤが初春に向けて言った。

「じゃあ、そういうことなんで転送準備お願い! 行こう、ルビー!」
『アイアイサーですよイリヤさんっ! 全国のトロピカルなファンにストロベリーな血みどろの夢を!』
「サファイア」
『存じて上げております、美遊様』

 それだけ言うと、二人(と二つ)は返事も待たずに部屋を後にする。

 なお。
 雛見沢分校で毎日行われる『部活』。
 今日の敗者である『口先の魔術師』前原 圭一(まえはら けいいち)に与えられた罰ゲームは、『魔法少女のコスプレで家に帰ること』になったとか。

 それはともかく。
 部屋に、窓から一陣の風が吹く。
 ノーチェが肩から力を抜き、ぽつりと呟く。

「なんというか、学生ってたくましいのでありますなぁ……」


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