執行委員の楽観
『学園世界』。
小さくて大きな 結界(セカイ)の中に次々に『学校』が転移してくる「この場所」の通称である。
最近は『学校転移(インターポート)』の頻度も減り、当初あったほどの混乱からは抜け出している者も多い。
また、『学園世界』そのものの規範を決める統率役として、各校代表が集う『極上生徒会』が結成されたことにより、
様々な状況の整備が始まっていることも混乱を収める重要な要素だろう。
小さくて大きな 結界(セカイ)の中に次々に『学校』が転移してくる「この場所」の通称である。
最近は『学校転移(インターポート)』の頻度も減り、当初あったほどの混乱からは抜け出している者も多い。
また、『学園世界』そのものの規範を決める統率役として、各校代表が集う『極上生徒会』が結成されたことにより、
様々な状況の整備が始まっていることも混乱を収める重要な要素だろう。
『学園世界』に転移してきた学校は、『極上生徒会』の定めた『学校ID』を発行されており、各校にナンバリングがされている。
『極上生徒会管理棟』と呼ばれる、基本的に極上生徒会の執務が行われている棟を中心とし、
半径1㎞圏内を『A』区、さらにその外から5㎞圏内を『B』区というようにアルファベットで中心からの距離を、数字で学校転移が何番目に起きたのかを表している。
なお、この『学園世界』が出来てから完成した建物は、一つを除いてアルファベットと4ケタのナンバーで呼び表すことになっている。
『極上生徒会管理棟』と呼ばれる、基本的に極上生徒会の執務が行われている棟を中心とし、
半径1㎞圏内を『A』区、さらにその外から5㎞圏内を『B』区というようにアルファベットで中心からの距離を、数字で学校転移が何番目に起きたのかを表している。
なお、この『学園世界』が出来てから完成した建物は、一つを除いてアルファベットと4ケタのナンバーで呼び表すことになっている。
その、除かれた一つ―――『例外』が、『学園世界』内『A-0』というIDを持つ建物だ。
具体的に言うのなら、この世界の中心とされた場所にある『極上生徒会管理棟』である。
3棟ある管理棟の内、『A-0<n>』―――つまり、会議棟とも呼ばれる『北棟』の数ある執務室の一つ。
その中には今、青年と少女が一人ずついた。
具体的に言うのなら、この世界の中心とされた場所にある『極上生徒会管理棟』である。
3棟ある管理棟の内、『A-0<n>』―――つまり、会議棟とも呼ばれる『北棟』の数ある執務室の一つ。
その中には今、青年と少女が一人ずついた。
***
「―――『カゲモリ』ってのが、いるらしいな」
青年は、壁にもたれかかったままそう言った。
その表情はいつもの通り無愛想そのもので―――しかし、少女は彼との付き合いの長さから、相手が少し不機嫌なのを察知した。
この部屋を執務室として使う、この部屋の主の少女―――赤羽くれはは、自分用の机と自分用の椅子に座り、曖昧に笑った。
その表情はいつもの通り無愛想そのもので―――しかし、少女は彼との付き合いの長さから、相手が少し不機嫌なのを察知した。
この部屋を執務室として使う、この部屋の主の少女―――赤羽くれはは、自分用の机と自分用の椅子に座り、曖昧に笑った。
「はわっ? な、なにそれ。何のこと?」
「とぼけんな。
お前が理事長代理やるって言ってる時から、なんか変だとは思ってた。
あのじいさん本業は忍者だし、なんか探るために代役立てる必要があって―――また貧乏くじ引かされたんだろ、お前」
「とぼけんな。
お前が理事長代理やるって言ってる時から、なんか変だとは思ってた。
あのじいさん本業は忍者だし、なんか探るために代役立てる必要があって―――また貧乏くじ引かされたんだろ、お前」
うぅ、とくれはの口から悔しい気持ちとともにうめき声が漏れた。
この青年は、基本的に(恋愛的な事柄はともかく)空気の読める人間で、身内を責めるような真似はほとんどしない。
にも関わらず今回容赦してくれないのは、くれはが彼に大切なことを隠していたからであり、隠したまま、自分が大変なことを背負い込んでいたからである。
この青年は、基本的に(恋愛的な事柄はともかく)空気の読める人間で、身内を責めるような真似はほとんどしない。
にも関わらず今回容赦してくれないのは、くれはが彼に大切なことを隠していたからであり、隠したまま、自分が大変なことを背負い込んでいたからである。
彼は目の前で誰かが泣くのに憤る人間であり、自身のことで泣かれるのは困る人間であり、知人が知らないところで一人で困っているのを見過ごせない人間である。
だからこそ、一人で抱え込もうとしていたくれはに対して少し不機嫌な態度をとっている。
これだけ長い付き合いなのに、何も言ってくれなかった彼女に対してよりも、これまでそのことに気づけなかった自身に対して。
だからこそ、一人で抱え込もうとしていたくれはに対して少し不機嫌な態度をとっている。
これだけ長い付き合いなのに、何も言ってくれなかった彼女に対してよりも、これまでそのことに気づけなかった自身に対して。
赤羽くれははそんな彼が頼もしいながらも、少し悔しく思っていた。
けれど、疑問点は解消しておくべきだ。どこかから情報が漏れているのなら、それは管理責任を問うべきである。
けれど、疑問点は解消しておくべきだ。どこかから情報が漏れているのなら、それは管理責任を問うべきである。
「どのくらいのこと、知ってる?」
「そういう連中がいて、じいさんが作った組織だってこと。
で……あと、2年の斎堂だっけ? そいつがいるってことくらいか」
「そっか。けど、どうしたの?
執行委員の仕事、すごく忙しいって聞いてるよ。他のことなんか調べてられないくらい忙しい、って」
「あのな……。
ウチにアイツを外部協力者ってことで入れたのお前だろうが。一応絶滅社から出向で、斎堂とも同僚で何度か顔合わせてる。
ついでに言うと、アイツが絶滅社から受けた任務ってのは『この異変の調査・解体』だ。
妙な人の流れとか力の流れとかを探っていって、そっちを調査してたら結果そうなったってこった」
「そういう連中がいて、じいさんが作った組織だってこと。
で……あと、2年の斎堂だっけ? そいつがいるってことくらいか」
「そっか。けど、どうしたの?
執行委員の仕事、すごく忙しいって聞いてるよ。他のことなんか調べてられないくらい忙しい、って」
「あのな……。
ウチにアイツを外部協力者ってことで入れたのお前だろうが。一応絶滅社から出向で、斎堂とも同僚で何度か顔合わせてる。
ついでに言うと、アイツが絶滅社から受けた任務ってのは『この異変の調査・解体』だ。
妙な人の流れとか力の流れとかを探っていって、そっちを調査してたら結果そうなったってこった」
青年の表情に呆れが混じる。
くれはは頭を抱えたくなった。そういえば、彼の側に便利だろうと思ってつけた少女の存在を忘れていた。
彼女自身の戦闘能力は、そう高いものではない。しかし、それが情報収集能力に限定すると話は別だ。
彼女の情報収集力はこの『学園世界』内でも5指に入るほど。彼女自身がそう頭が良いように見えないため忘れがちではあるが、けして侮ることの出来ない類の相手だ。
青年自身がいかに調査に向かない能力な上、そういった技能を持ち合わせていなくとも、これでは情報が筒抜けである。
くれはは頭を抱えたくなった。そういえば、彼の側に便利だろうと思ってつけた少女の存在を忘れていた。
彼女自身の戦闘能力は、そう高いものではない。しかし、それが情報収集能力に限定すると話は別だ。
彼女の情報収集力はこの『学園世界』内でも5指に入るほど。彼女自身がそう頭が良いように見えないため忘れがちではあるが、けして侮ることの出来ない類の相手だ。
青年自身がいかに調査に向かない能力な上、そういった技能を持ち合わせていなくとも、これでは情報が筒抜けである。
うぅ、ともう一度だけうめいてくれはは答える。
「―――うん、そうだね。いるよ」
「……最初っから素直に認めときゃ、そんなに追い詰められる必要ないだろうが」
「だって……実際、秘密なんだよ?
あたしだって校長先生に色々と頼まれてるから多少知ってるだけで、正確な人数も誰がそうなのかもきちんとは把握してない。知ってる人は本当に少ないの。
そうでなきゃ、『カゲモリ』の意味がないんだもん」
「……最初っから素直に認めときゃ、そんなに追い詰められる必要ないだろうが」
「だって……実際、秘密なんだよ?
あたしだって校長先生に色々と頼まれてるから多少知ってるだけで、正確な人数も誰がそうなのかもきちんとは把握してない。知ってる人は本当に少ないの。
そうでなきゃ、『カゲモリ』の意味がないんだもん」
なんだか納得がいかなそうに……というよりもスネたように見つめてくるくれはを見て、青年は一つ溜息。
「『カゲモリ』―――各学校への内定兼諜報活動と、『学園世界の敵』を排除するために生まれた特殊機関、か」
青年が同僚から聞いた話としてはこうだ。
『カゲモリ』と呼ばれる特殊機関は、『生徒会執行委員』と同じくこの『学園世界』が形成されてからできた学校の垣根を越えた機関―――『越校機関』である。
なお、同じく学校の垣根を越えた『越校機関』に、『極上生徒会』や『執行委員』が存在する。
さておき。
『カゲモリ』という機関は、各学園内では自身の力を存分に振るえず、正体を隠して暮らしていた者がその力をもってこの『世界』の平和を守ろうとしている集団である。
その業務はというと、各学校内の不穏因子の内定や『掃除』、そしてこの世界を敵にまわしてでも己の望みを叶えようとする『学園世界の敵』を影から影へ排除すること。
『学園世界』に生きる人々のいさかいを調停し、目に見える『敵』を掃討する『執行委員』を表とするなら、まさに裏の機関と言えるだろう。
『カゲモリ』と呼ばれる特殊機関は、『生徒会執行委員』と同じくこの『学園世界』が形成されてからできた学校の垣根を越えた機関―――『越校機関』である。
なお、同じく学校の垣根を越えた『越校機関』に、『極上生徒会』や『執行委員』が存在する。
さておき。
『カゲモリ』という機関は、各学園内では自身の力を存分に振るえず、正体を隠して暮らしていた者がその力をもってこの『世界』の平和を守ろうとしている集団である。
その業務はというと、各学校内の不穏因子の内定や『掃除』、そしてこの世界を敵にまわしてでも己の望みを叶えようとする『学園世界の敵』を影から影へ排除すること。
『学園世界』に生きる人々のいさかいを調停し、目に見える『敵』を掃討する『執行委員』を表とするなら、まさに裏の機関と言えるだろう。
青年は頭をかきつつ、くれはに問う。
「んで? 俺にああいう仕事まわしたのは、『カゲモリ』の隠れ蓑が必要だったから校長に頼まれたってことか?」
「あ、それは違うよ?
それはあたしの―――っていうか生徒会の意思。
『カゲモリ』の人たちは事実隠れて動くのは得意だけど、全面的に争いが起きてる真っ只中に行って『止まれ』って言える人は立場とか能力上多くなくてさ。
隠れ蓑とかそういうのじゃなくて、必要とされたからできたのが『執行委員』だよ」
「あ、それは違うよ?
それはあたしの―――っていうか生徒会の意思。
『カゲモリ』の人たちは事実隠れて動くのは得意だけど、全面的に争いが起きてる真っ只中に行って『止まれ』って言える人は立場とか能力上多くなくてさ。
隠れ蓑とかそういうのじゃなくて、必要とされたからできたのが『執行委員』だよ」
くれはは笑顔で答えてやる。
彼女が語ったのは事実だ。実際、彼が『執行委員』に任命されてから、学校間のいさかいで怪我をする人間が大幅に減った。
それは意味のないことでは断じてないのだから、妙にへそを曲げられても困るのだ。
彼自身も子どもじみた問いであったことを自覚したのか、もう一度溜息。
彼女が語ったのは事実だ。実際、彼が『執行委員』に任命されてから、学校間のいさかいで怪我をする人間が大幅に減った。
それは意味のないことでは断じてないのだから、妙にへそを曲げられても困るのだ。
彼自身も子どもじみた問いであったことを自覚したのか、もう一度溜息。
「―――事情は把握した。とりあえず、ノーチェの奴には他の連中に話さないようには言ってある。
もっとも、あいつらも別に気にはしないと思うけどな。何しろ物好きばっかりだ」
「そうしてくれたなら嬉しいな。『執行委員』に今いなくなられると困っちゃうもん」
「それで。もう一つ確認させてもらうが―――」
もっとも、あいつらも別に気にはしないと思うけどな。何しろ物好きばっかりだ」
「そうしてくれたなら嬉しいな。『執行委員』に今いなくなられると困っちゃうもん」
「それで。もう一つ確認させてもらうが―――」
そう言って、特に気負いを見せず青年は告げる。
いつものように、自然体のまま。
いつものように、自然体のまま。
「その、『学園の敵』とやらが出た時に、俺が近くにいた場合は勝手に対処するぞ?」
くれはは目を瞬かせた。
それは、青年から出るとは思っていなかった一言だ。
そもそも彼はいつだって事後承諾だ。ただでさえ年がら年中トラブルにつきまとわれているような人間である。
そんな彼が、自分以外の誰かが対処する可能性の高い余計な厄介事を。しかも事後承諾ではなく事前に、厄介事が起これば首を突っ込むと宣言した。
長い付き合いのくれはが言葉を失うほどの行為である。
それは、青年から出るとは思っていなかった一言だ。
そもそも彼はいつだって事後承諾だ。ただでさえ年がら年中トラブルにつきまとわれているような人間である。
そんな彼が、自分以外の誰かが対処する可能性の高い余計な厄介事を。しかも事後承諾ではなく事前に、厄介事が起これば首を突っ込むと宣言した。
長い付き合いのくれはが言葉を失うほどの行為である。
絶句した彼女を見て、青年がバツが悪そうに問う。
「……なんだよ、どうかしたか?」
「はわ~……だって、すごい珍しいじゃない。
あんたが先にこれしますって言うのって。大丈夫? 仕事のしすぎで知恵熱でも出てるんじゃない?」
「はわ~……だって、すごい珍しいじゃない。
あんたが先にこれしますって言うのって。大丈夫? 仕事のしすぎで知恵熱でも出てるんじゃない?」
茶化すなよ、と青年がツッコミを入れた。
彼はいつもの半眼に戻ると、告げる。
彼はいつもの半眼に戻ると、告げる。
「別に。後で余計なことしたって言われるのは面倒だしな。だったら先に言っといた方が気が楽だろ。
今宣言してんのは俺個人であって『執行委員』全員じゃねぇから、あいつらまで範囲に入れるんじゃねぇぞ」
今宣言してんのは俺個人であって『執行委員』全員じゃねぇから、あいつらまで範囲に入れるんじゃねぇぞ」
そう言って、彼は踵を返す。扉に手をかけながら、それに―――と言葉を続けた。
「一応卒業した身分としては、学生には学生時代を思う存分謳歌してもらいたいじゃねぇか。
仕事として受けてる奴がちょっと頑張ればできることなら、なんとかしてやりたいもんだろ?」
仕事として受けてる奴がちょっと頑張ればできることなら、なんとかしてやりたいもんだろ?」
表情は見えない。
その言葉は相変わらずぶっきらぼうで。
けれど、それが彼なりの情の表しかたであることは、聞けばわかるような声音だった。
その言葉は相変わらずぶっきらぼうで。
けれど、それが彼なりの情の表しかたであることは、聞けばわかるような声音だった。
一人になった部屋の中、赤羽くれはは強く拳を握りしめる。
青年の言葉がどういう意味か、彼女にはわかっている。
彼が背負う揉め事の調停を含む出動は一日少なくとも5件、多い時は10件を超える。この一月で巻き込まれて『学園の敵』と戦ったことも1度や2度の話ではない。
当然、毎回無傷で済むはずもない。それだけの殺人的スケジュールの中で、少しのミスから大きなケガをしたこともあると聞いている。
いくらありとあらゆる学園の人間が存在し、医療設備も異様なまでに整っていてすぐに治療できるからとはいえ、ケガをして痛くないはずも、やはりない。
青年の言葉がどういう意味か、彼女にはわかっている。
彼が背負う揉め事の調停を含む出動は一日少なくとも5件、多い時は10件を超える。この一月で巻き込まれて『学園の敵』と戦ったことも1度や2度の話ではない。
当然、毎回無傷で済むはずもない。それだけの殺人的スケジュールの中で、少しのミスから大きなケガをしたこともあると聞いている。
いくらありとあらゆる学園の人間が存在し、医療設備も異様なまでに整っていてすぐに治療できるからとはいえ、ケガをして痛くないはずも、やはりない。
それでもなお。
青年はさらに荷物を背負いこもうとする。誰かが笑えるのなら、と無理を通そうとする。
目の前の全てを助けられないことなど当の昔に知っているはずの彼は、それでもその 無理(ねがい)のために体を張り続ける。
青年はさらに荷物を背負いこもうとする。誰かが笑えるのなら、と無理を通そうとする。
目の前の全てを助けられないことなど当の昔に知っているはずの彼は、それでもその 無理(ねがい)のために体を張り続ける。
それを、文面でしか追うことの許されない自分の立場が、とてつもなく歯がゆく感じたことも少なくはない。
そんな憤りを、一つの溜息に込めて彼女は吐き出す。
天井を見上げて、誰にともなく彼女は呟いた。
そんな憤りを、一つの溜息に込めて彼女は吐き出す。
天井を見上げて、誰にともなく彼女は呟いた。
「アンゼロットって、いつもこんな気持ちでアイツを見送ってたのかなぁ……」
世界の守護者も楽じゃないね。と呟く声が、部屋に響いた。