ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第05話03

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

《オモイの形 ~His love/Her wish~》


「……マジか、バド」
「はい……多分」
 場は、家のリビング。柊が引きつった顔で問えば、バドも固い顔で頷いた。
 くれはとコロナも、緊張した面持ちで同席している。
 一同の視線は、テーブルに並んだ品々に。
 積み木の町、翡翠の卵、石の目玉、ホタルブクロのランプ、壊れた車輪、消えぬ炎を宿すランタン。
 そして、先日の事件の発端となった“獣王のメダル”に、その“獣王”から譲り受けた砂バラと石版。
「これ全部……アーティファクトみたいです」
 興奮が振り切れて返って青褪めてしまった弟子の言葉に、柊は思わずテーブルに突っ伏した。


 先日、アーティファクトの暴発――というより、“本人”の意を汲んだ召還によって果たされた“獣王”との邂逅。
 その際の「アーティファクトは使い手の下に集まる。持ち物を確認してみるといい」という“獣王”の言葉に従い、柊は持ち物を検めることにした。
 しかし、肝心の『アーティファクト使い』である柊は、魔導関連はさっぱりである。いわんや、異界の技術。
 では、片っ端からそれっぽい品を触って、魔剣を使うように意識を同調させてみようか――とも思ったのだが、先日の“メダル”の件からして、それは少々リスキーであると結論付けた。
 また、勝手に知らぬ土地に飛ばされたり――それ以上の何かが起こったらたまらない。
 そこで、バドが一計を案じた。
 先日使った増幅の魔法陣で、確かめられるのではないか、と。
 あれはあくまでアーティファクトの増幅陣。アーティファクトでなければ反応しないし、もし本物だった場合、
魔法陣は反応するが、魔法陣の行使者がアーティファクト使いでないバドである以上、アーティファクト自体の機能は発動しないのではないか。
 上の推論は、先日の“メダル”事件の際を振り返ってみれば、確かに筋が通っているように見えた。
 じゃあ試しに、と柊がこちらの世界に来てから入手した品(流石に消耗品の類は除外した)を、バドが片端から魔法陣に掲げ――
 その結果、上の9品が魔法陣に反応した、というわけである。
「はわ~……まさか、こんなにあるとは」
「これだけあると、なんかもう、ありがたみとかないですね……」
 呆れた声を漏らすくれはに、引きつった笑みを浮かべるコロナ。
「積み木と翡翠と車輪はそうじゃねぇかなぁ、とは思ってたけどよ……」
 柊はテーブルに突っ伏したまま呻く。
 柊が挙げた3品は、手に取った瞬間に“イメージ”が駆け抜けた、心当たりのある品だった。
 しかし、それ以外にも、これだけの数のアーティファクトが自身の手元に集まっているとは思わなかったのだ。
 予想外の事態にげっそりしている柊の横で、くれはがまじまじとそれらの品を眺めながら呟く。
「ホントに“集まる”ものなんだね~。でも、皆何に使うものなんだろ?」
 知らぬ間に手元に集まっていた分は当然として、“獣王”から譲り受けた2品も、“獣王”も効果は知らないという話だった。
「一応、文献をざっと漁ってみたけど……“メダル”以外は見当たらなくて」
 わかんないっす、と項垂れるバドに、くれはは慌てて手と頭を一緒に横に振る。
「バドが気にすることじゃないよ! っていうか、全部バド一人にやらせちゃって申し訳ないくらいなんだから」
 あたしも手伝えればいいんだけど、と今度はくれはが項垂れた。
 くれはは、柊と違って魔導関連に対する知識や理解力は高い。しかし、彼女は別の問題を抱えていた。
 魔剣と同化しているユウによって自動翻訳されている柊とは違い、くれはにはこの世界の文字が読めないのだ。
 双子に習えればいいのだが、いかんせん、姉は家事、弟は上記の調べもので忙しい。
 では柊ならどうかというと、彼自身、こちらの世界の語学を理解しているわけではなく、元の言葉に重なって翻訳された『意味』が見えるだけ。
 そのため、単語は教えられるが、文法が理解できていないので、文章になると上手く説明できないのだ。
 そんなわけで、くれはのこちらの世界の文字への理解力は、日常単語の読み書きがやっとで、街中の看板が何とかわかるかなー、というレベルなのである。
 そんな状態で、ただでさえ専門用語が多くて難解な魔導関連の文献など、読めるわけもない。
 結果として、アーティファクトに関する調査は、バドが一手に引き受けている状態なのだ。
 しょぼくれ、頭を垂れたくれはとバドにコロナが慌てたように声を上げ――それに合わせるように、むくり、と柊が突っ伏していた頭を上げた。
「つーか、まあ、この際、効果はどうでもいいんだよな。
 俺の持ち物にアーティファクトがあるなら、それがどれなのか特定したかっただけだから」
「……へ?」
 意外な柊の言葉に、くれはと双子の声がハモる。
「いや、この前の“メダル”みたいに、知らないうちに俺が触って発動しちまったら面倒だろ。
 だから、アーティファクトはまとめて、くれはに預けとこうと思ってよ」
「へ? うん、いいけど――って……」
 頼むな、と軽く言われて、思わず頷いてから――くれはは我に返り、ジト目で言った。
「……あんた、さては、アーティファクト自体には全く興味無いでしょう?」
「あー……正直、わりとどーでもいいな」
 幼馴染二人のやり取りに双子が「はあッ!?」と驚愕の声をあげた。
「――ききき興味ないって……!」
「伝説級の魔導具ですよ!?」
 ガクガクと顎を震わすバドに、目をむくコロナ。しかし、柊は気のない様子で、
「いや、正直、伝説級の代物とか、何か食傷気味になるぐらいお目にかかってきてるしなぁ……
 使い手だって言われて驚きはしたけどよ、別に喜ぶようなことでもねぇっていうか……」
 俺にはもう相棒がいるからなぁ、とそんなことを言う。
 というか、実際、その彼の愛剣自体、『神殺し』の能力(ちから)を与えられた、伝説級の代物である。
 あまりにも淡白な柊の様子に、もはや双子は声もない。
 同じく『伝説級の代物』に耐性のあるくれはだけが、思案しつつ口を開く。
「でも、ユウを助けられるようなアーティファクトも、探せばあるんじゃない?」
「それは俺も考えたけどな。多分、それはねぇと思う」
 ぎし、と椅子の背もたれにもたれながら、柊は告げる。
「密林から帰る道すがら、バドが改めてアーティファクトについて説明してくれたろ?
 あの説明聞く限りじゃ、期待できそうもないんだよな」
 曰く、アーティファクトは人の思念を込めた魔導具である。
 曰く、作り手の込めた思念を使い手が想起することで、辺りの魔力(マナ)と同調し、思念を具現化させる。
 曰く、一つのアーティファクトに込められる思念は一つである。よって一つにつき能力も一つである。
 曰く、その性質上、アーティファクトの能力は、作り手が想像できる範囲の事象に限られる。
「ユウの身に起こった事態は、前代未聞の出来事だって確証が取れてるからな。
 ユウを元に戻せるようなアーティファクトは作られてないだろ」
「はわぁ……そっかぁ……」
 柊の溜息混じりの返答に、くれはもがっくりと肩を落とす。
「まあ、そんな訳だから、頼むな」
「……ん、了解」
 再度柊に促され、くれははテーブルの品に手を伸ばす。
「――へ!?」
 彼女が手に取った瞬間、手品のようにアーティファクトが姿を消していくのに、バドがぎょっと目を剥いた。
 その横で、コロナが、同じように目を見開きながらも確かめるように問う。
「……月衣、ですか?」
「そ。そういえば、実際出し入れする場面を見せたことはなかったね~」
 アーティファクトをしまいながら、笑って答えるくれは。その手元を、バドは食い入るように見つめている。
「すっげぇ……ホントに師匠たちってすげぇよ……」
「いや、これは俺らの故郷の魔法使いにとっては、基本中の基本っつーか、出来て当たり前のことなんだけどよ」
 そんな感動されても、と柊が苦笑し、くれはもちょっと困ったように笑う。
「まあ、とりあえずアーティファクトに関しては、今言った方針で扱うっつーことで」
 柊がそう締めくくり、その場は解散となる。

 そして、その夜――正確には、翌日の朝。

 それは、起きた。

  ◇ ◆ ◇

 七歳にして一家の衣食住を取り仕切る主婦、コロナの朝は早い。
 窓の外ではまだ日が昇りきらず、朝靄が漂っている。
 隣で寝ている弟を起こさぬよう、静かにベッドを抜け出し、手早く着替えを済ませる。
 音を立てずに梯子を降りて、やはりまだ寝ている保護者代わりの青年を起こさないように気をつかいながら、二階の部屋を抜け、一階へと続く階段を下る。
 いつもなら、そのまま台所に直行して朝食の準備に入るのだが、今日からは事情が違う。
 昨夜、夕食の席で柊がコロナの料理を褒めた際に放った『くれはも見習えよ』という一言に、くれはが反応。
言い合いが勃発。結果、珍しく言い負かされたくれはが、『文句言えないような美味しいご飯作って、ひーらぎに目にモノ見せてやるー!』と気炎を上げ、コロナに料理の手ほどきを頼んできたのである。
 『さっそく明日の朝御飯からよろしく!』と言われていたため、とりあえずコロナはくれはを起こしに彼女の部屋へ向かう。
 ノックをするが、反応なし。ノブに手をかけると、鍵はかかってなかったのか、あっさりと回った。
「くれはさ~ん、失礼しますよ~」
 一応声をかけながらドアを開けると、案の定、部屋の主はまだベッドの中だった。
「くれはさ~ん! 一緒にご飯作るんでしょう? 起きてくださ~い!」
 耳元で声を上げるが、くれはの静かな寝顔は揺るぎもしない。
「……くれはさん、意外に寝起き悪い?」
 苦笑気味に呟いて、コロナはふと、やはり寝起きの悪かった母のことを思い出した。
 魔法学校に入学して寮に入る前は、いつも寝起きのいいコロナが母を起こして、一緒に朝食の準備をしていた。
 母は怒鳴っても揺さぶっても起きないため、まだ小さかったコロナは、勢いをつけて彼女の胸にダイブして起こすというダイナミックな手法を用いていた。
またそれは、弟に気兼ねせずにできる、母への甘えでもあった。
 勿論、目の前で寝ているのは亡くなってしまった母ではない。しかし、コロナにとっては姉のように思える、大事な“家族”であることは間違いない。
 何だかんだ言って、自分や弟に甘い彼女のこと、ちょっと甘えても許してくれるはず。
「くれはさ~ん、起きなさ~い!」
 ていっ、と気合一発。コロナはくれはの胸に勢いをつけて倒れこむ。
 突然の衝撃に、くれはは慌てて飛び起きる――と、コロナは想像していたのだが。
「……くれはさん?」
 間近で覗き込んだくれはの顔に、思わずコロナは強張った声を漏らした。
 起きるどころか、くれはは微動だにしない。苦しげな声を漏らすでもなく、ただ静かな顔のままで。
「――くれはさん!?」
 流石に異常を感じて、コロナは悲鳴じみた声を上げながら、くれはの肩を揺さぶる。
 しかし、彼女は静かな表情のままに、されるがままで――その様はまるで、命亡き人形の如く。
「――っ……」
 コロナは大きく息を飲み、くれはから飛び離れた。
 何が起きているのか、どういう事態なのか、思考がついてきていない。ただ、感情が空回りする。
 完全な恐慌状態に陥りながら、それでも、どうにかしなくては、何かをしなくては、という思いが、コロナの身体を突き動かした。
 勢いよく踵を返し、転がるような勢いでコロナは部屋を飛び出し、階段を駆け上がった。

  ◇ ◆ ◇

「柊さんッ!」
「――ぐへっ!」
 悲鳴じみた声と共に、胸に乗った重さで柊は目を覚ました。
「げほっ……な、何だよ一体!?――って、コロナ?」
 完全な不意打ちに咽かけつつ、身を起こした柊は、自身の胸に縋りつくようにして突っ伏す少女の姿を認め、眉を寄せる。
 柊の声に顔を上げたコロナの目には、今にも溢れそうな涙が湛えられていた。
「お、おい! どうした!?」
 一目でただ事でないとわかる表情に、柊の中にあった起こされ方への不満も、僅かに残っていた眠気も、一瞬
で吹っ飛んだ。
「く、くれはさんが……くれはさんがっ!」
「――くれは?」
 それだけ言って声を詰まらせるコロナに、柊は表情を険しくする。
 この状態のコロナから、これ以上何かを聞き出すのは無理だ。しかし、とりあえず、くれはに何かあったのだということはわかる。
 柊は、縋りつくコロナを抱きかかえるような状態で飛び起きると、そのまま階下へと駆け下る。
 目に付いたのは、開け放たれたままの、くれはの部屋のドア。
「――くれは!?」
 叫びながら部屋に駆け込んだ柊の視界に映ったのは、ベッドに横たわって、ただ静かな表情で眠るくれはの姿。
 何でもない、何の異常も見当たらないその光景だというのに。
 柊はその光景に、ぞわり、と背が粟立つような悪寒を覚えた。

 閃くように、一つの記憶が、目の前の彼女の姿に重なる。

 ──老いた桜の巨木の根元に伏した巫女。ただ眠っているかのように見える静かな顔。
 傍らに立つ少年の姿をした神が、静かに彼女の死を告げる――

 浮かんだ不吉な連想に、柊は一瞬棒立ちになり――

「……バタバタうるさいなぁ……どーしたんだよ……」
 後ろから聞こえた、眠そうに間延びしたバドの声で我に返った。
(――何だってんだ、縁起でもねぇッ!)
 強く頭を振って、脳裏に浮かんだ記憶を振り払うと、顔に苦笑を貼り付けて戸口のバドを振り返る。
「――いや、コロナがな、くれはがどうかしたって言ってんだけど……どう見ても、寝てるだけだよな、これ」
 強張る声を誤魔化すように軽い調子で言えば、コロナが弾かれたような調子で叫んだ。
「起きないんですッ! 何しても……怒鳴っても、揺さぶっても、身体に飛び乗ってもッ!」

 刹那、ぴしり、と――柊は凍りつくような音を聞いたような錯覚に陥った。

 もしかしたら、それは柊自身の表情が凍りついた音だったかもしれない。
 荒い足取りでくれはの寝台に歩み寄り、乱暴に彼女の肩を掴む。
「――おいッ! 起きろ、くれはッ!」
 怒鳴りながら、肩の関節が外れそうな勢いで、思い切り揺さぶった。けれど、彼女の寝顔は揺るぎもせず――
 脳裏に再びちらついた、不吉な光景が、柊の焦燥を爆発させた。
「――ッ!」
 気付けば、不吉な記憶を打ち払うように、柊は右手を振るっていた。
 バチンッ! と小気味よくも耳に痛く響く音が部屋に反響し――それを聞いて、柊は初めてくれはの頬を打った自身の行為を自覚する。
 ぎょっとしたような双子の気配が、背中越しに伝わってきた。
 非常事態とはいえ、遠慮容赦なく女性の顔を平手で打ったことに、柊は自身の狼狽度合いを自覚し、羞恥とも焦燥ともつかない感情を覚え――

 その時、寝台に横たわる彼女の瞼が震えた。

「――くれはッ!?」
 彼女が反応を返したことへの安堵と、平手への報復を予感した恐怖。それらが複雑に混じりあった声で、柊は彼女の名を呼び――
 彼女の顔を覗きこんだ先で、交わった眼差しに、息を飲んだ。

 どこまでも深く、柔らかな――青の双眸に。

「――く、れは……?」
 呆然と、目の前の幼馴染の名を呼びながら――柊は、その呼びかけには意味がないと、直感的に悟っていた。

 今、目の前にいる、幼馴染の姿をした者は――しかし、自分の知る幼馴染とは別人だと。

 声もなく、青い瞳を見返す柊の手に、暖かいものが触れた。
 葉を思わせる流線型の紋様を甲に持つ“彼女”の手が――柊の手を握る。

「――伝えて、異界の騎士――」
 よく知る幼馴染の声音で、知らぬ誰かが言の葉を綴る。

「貴方の巫女に――思い出して、と――」
 切々とした響きが、静まり返った空気を振るわせる。

「――私は、ここに――」

 その言葉を最後に――ふ、と力をなくしたように、その瞼が落ちた。

  ◇ ◆ ◇

「――んー……?」
 ふと、誰かに呼ばれたような気がして、くれはは目を覚ました。
 寝ぼけ眼を擦りながら、布団の上に身を起こし、枕もとの明かりを点す。
 花を模した、愛らしく、それでいてどこか神秘的な気品を感じさせるランプ。
 点った明かりで畳の上に生まれた影は、見慣れた家具のものだけで、自身以外の何者も見当たらない。
 廊下に続く襖もきちんと閉じていて、特に可怪しいところはない――はずなのに。
「……なーんか、変な気が……」
 何故だろう。見慣れた自分の部屋にいるのに、いるはずのないところにいるような、強烈な違和感がある。
 何だろう――何か、何か大切なことを忘れているような――
 度忘れで言葉が出てこないときのようなもどかしさを覚え、くれはが眉を寄せた時――異変が、起きた。

 ゆっくりと、ゆっくりと――
 障子越しに差し込む、やわらかな月光が、夜の闇の中に人影を模して―― 一人の女性の姿となった。

 淡く青白い輝きを放つ石で胸元を飾ったその女性は、くれはより幾つか年長に見えた。
 澄んだ銀の髪に、月夜のような深い藍色の瞳。気品ある凛とした美貌を、憂いの色で翳らせていた。

 彼女を見た瞬間、くれはは目を見開く。
 唐突な出現に驚いたのではない。すわ心霊現象かと思わせるこの事態に対して、くれはは自分でも訝しく思う
ほど平静だったのだ。
 ならば、何がくれはの目を見開かせたのか。
 それは――既視感だった。
 彼女の顔は、確実に初めて見るものだ。考えるまでもなく、初対面だと言い切れる。こんな美貌を目にして、そうそう忘れられるものではない。
 けれど――この表情を、あの瞳に浮かぶ感情を、いつか、どこかで見たことがある。
(あれは――いつ、どこで――誰が)
 先程感じた以上のもどかしさと焦燥に、くれはが額をおさえた、その時。
 声が――聞こえた。

『――私は、ここに』

 それが、目の前の女性のものなのか、記憶の中の誰かのものなのか判然としないまま。

 揺さぶられるような感覚と共に――視界が暗転した。

  ◇ ◆ ◇

「――……いっ! くれはっ!」
「……んー……?」
 がくがくと肩を揺さぶられる感覚と、至近距離から響く、馴染みある声。
 重い瞼をゆっくりと開けば――目の前に、ドアップで幼馴染の顔があった。
「――っ! くれは、気ぃついた――」
「……はわぁぁぁぁぁあああああッ!?」
 何やら言いかけた相手の言葉を最後まで聞く余裕もなく、くれはは反射で思いっきり柊を突き飛ばしていた。
「え、何!? なんなの!?」
「……それはこっちのセリフだ、この寝ぼけ巫女……ッ!」
 混乱したまままくし立てれば、床に引っくり返った幼馴染の悪態が応える。
 詳しい事情を聞こうと口を開きかけた時、起こした身体に二つの影が飛び込んできた。
「くれはさんっ!」
「師匠、よかったぁーっ!」
「はわ!? コロナ、バド、どうしたの!?」
 半泣きになって飛びついてきた双子に、くれはの混乱はますます深くなる。
「どうしたの、じゃないよ!」
「くれはさん、何やっても起きなくて……やっと目を開けたと思ったら、なんか目の色が変わってて!」
「なんかよくわかんないこと言ったと思ったら、またいきなり気絶するみたいに目を閉じちゃうし!」
「それでまた柊さんが揺さぶって、今やっと普通に目を覚ましたんです!」
「は、はわぁッ!?」
 交互にまくし立てる双子の言葉を聞いて、くれはは目を点にした。
 全く自覚はないが、さっきまで自分はかなり異常な状態だったらしい、ということはとりあえず理解して――
そこで、ふと片頬にひりひりと痺れるような感覚を覚える。
「っていうか……なんか頬っぺたが痛いんだけど」
「あ、柊さんがさっき引っ叩いた――」
「あ、バカっ!」
 コロナが反射のように答え、バドが慌てて制止するが――既に重要な単語は、くれはの耳に届いた後だった。
「引っ叩いたぁッ!? ひーらぎ、あんた、女の子の顔に何すんのよ!」
「だぁッ! 首! 首絞めんな!?」
 くれはは寝台から飛ぶように降りて、床に座り込んでいた柊を締め上げる。
「確かに悪かったよ! けど、怒鳴っても揺さぶっても起きなかったんだから、しょうがねぇだろッ!?
 つーか、お前だって今、俺のこと思いっきり突き飛ばしたろーが!?」
「うッ……むー……しょーがない、非常事態ということで許す」
 くれははしぶしぶ手を離し、幼馴染を解放する。
「ったく……まあ、そんだけ暴れる元気があるなら、心配ねぇ――」
 解放された幼馴染は、苦笑気味に言いかけ――その表情を凍りつかせる。
「え、なに――ッ!?」
 ただことではない表情に、声を上げかけたくれはの手を、柊が乱暴に掴み、自身の方へと引き寄せた。
「な、なななななにッ!?」
 一瞬、真っ赤になって慌てふためいたくれはだが、無意識に彼の視線を追い―― 一瞬で頬を冷ました。

「――目は戻ったのに、こっちは消えなかったのか……」

 険しい色の、柊の呟き。

 その視線の先には、くれはの手の甲に刻まれた、翠の流線型の紋様があった。

  ◇ ◆ ◇

「……で、夢の中に、このアーティファクトが出てきたんだな?」
 険しい表情で問う柊の視線の先には、テーブルの上に置かれた小さなランプ。
 真珠姫から譲り受け、つい昨日伝説級の品だと発覚し、くれはに預けた――ホタルブクロのランプだ。
「うん……これだったと思う」
 言葉は頼りなさげだが、確かな声でくれはは肯定した。


 くれはが昏睡から醒めた後、一同は一旦それぞれ自室に引っ込んでから、リビングに再集合していた。
 何せ、起き抜けで起きた事件だったため、全員寝巻き姿だったのである。
 とりあえずそれぞれ身支度を整えてからリビングに集まり、先程の事態について話し合う形となり――
 ふと、くれはが思い出したように告げたのだ。「夢を見た」と。
 場所は元の世界にある実家の自室、そこで出逢った不思議な女性。
 そして、その場を照らしていた――そこにあるはずもない、このホタルブクロのランプ。
「――『私は、ここに』か。一瞬目が覚めた時の青い目の“お前”も、そんなこと言ってたな」
「でも、夢に出てきた人は青っていうより、藍色の目だったんだけど……」
 暗かったから見間違えたのかな、と首を傾げるくれはに、柊は苦い顔でがしがしと頭を掻く。
「しかし、お前の夢に出てきたヤツとお前を乗っ取ったヤツが、同じだとしても、そうでないとしても、
 正直、言葉の意味がわからねぇ。
 『ここ』ってどこだ、って話だ」
 そう言ってから、深い溜息をつく。
「……これ以上、“お前”の言葉にも、お前の夢にも手がかりが期待できないとなりゃ――これしかねぇ」
 苦い声で告げ、睨みつける先には――明かりの灯らぬ小さなランプ。
「……何が起こるかわかんねぇからな。前と同じように牧場でやる。お前らはここで待ってろ」
「あたしも一緒に行くよ」
 柊の言葉を速攻で拒否したのはくれはだ。
「あたし自身の身に起きたことなんだから、柊任せにできないよ」
「……わかったよ」
 その目は、何を言っても無駄だと言っていて、柊もそれ以上の説得は諦めた。
「バド、コロナ。二人はここで待ってろ」
「……でも!」
 ハモって声を上げる双子に、柊は有無を言わせぬ視線を向ける。
「もし、こないだみたいに知らねぇとこに飛ばされて、そこがモンスターの群れの只中だったら?」
「……ッ……」
 怯んだ双子に、柊はふと表情を緩め――苦笑に似た表情で、告げた。
「まあ、そういう状況でも、俺とくれはだけなら切り抜けられる自信はある。
 でも、お前らを守ってやれるか、って言われると、ちょっと自信がねぇんだよ」
 遠回しに足手まといになる、といわれ、双子には返す言葉がない。
「――じゃ、ちょっと行ってくるな」
 項垂れた二人の頭を、くしゃり、と両手で撫で――柊は傍らに立てていた魔剣を手に取り、ランプを持った
くれはと共に、家を出た。


「クェッ!」
「クェ?」
「おー、チョコ、ボコ、元気だなー」
 牧場に移動した二人を出迎えたのは、放牧されていたチョコボたちだ。
 チョコとボコ、というのは、“獣王”から聞いた二羽の名前だ。名付け親は当然ユウである。
 安直ではあるが覚えやすい名前であるのは確かだ。
「お前らにもちょっと付き合ってもらうことになるかもな」
「よろしくねー」
 言いながら頭を撫でれば、二羽は嬉しそうに目を細める。
 この懐っこい姿からは想像し難いが、この二羽が歴戦の猛者であることは、先日の密林からの帰路で確認済みだ。
 何せ、小型のモンスターなどその鍛え上げた足で容易く蹴散らすのである。大型のモンスターに出会っても、
恐慌を起こすことなく、その俊足を生かし、逆に翻弄する。
 さすが、ユウ達と共に世界中を旅して回ったというだけはある。双子には悪いが、この二羽の方が旅の供としては頼もしいのだ。
遠方に飛ばされてしまった際の帰宅手段、という意味もある。
「さて――」
 それぞれ、月衣の中の持ち物などを確認。更に、柊は背に負った剣の感触を確かめる。
 問題ない、と頷きあって――くれはは、手にしていたランプを柊に差し出した。
 目を伏せ、一つ深呼吸し――柊は、ランプを手に取った。

 瞬間――意識を凝らした指先から、流れ込むイメージ。

 ───欠けない月に照らされた、永久に明けない夜の町。

「――ロア」

 脳裏に浮かんだその町の名を、柊が呼んだその瞬間、

 先日の“メダル”の際に見たのと同系統の魔法陣が牧場を包み――
 閃光が消えた後、その牧場には、誰の影も存在しなかった。

  ◇ ◆ ◇

 深い夜闇を、ぽかりと浮かぶ真円が、皓々と照らしている。
 月明かりが落とした影を、柔らかい灯りが照らし、夜の色がまたそれを惹き立てる。
 闇と光が溶け合う町――そんな印象だった。
「……ここは?」
「ロア――明けない夜の町、だそうだ」
 目を瞬かせるくれはに、柊が先程感じたイメージのままに答える。
 柊たちが現れたのは、少し開けた広場のらしき場所のようだった。
 と、二人に寄り添うように佇んでいたチョコボ達が、建物の影に視線を向けて首を傾ける。

「クェ?」
「クェ!」
「――ま?」
「ぐま!」
 その声に応えるように、二つ、三つと、小さな影が灯りの下に現れた。
 子供ほどの背丈に、クマを愛らしく模したぬいぐるみのような容姿。
 小さな差異はあるものの、見分けがつかない程度に似た様な姿の彼らは、ちょこちょこと柊たちに――というかチョコボたちに歩み寄ってきた。
「ぐ~ まぐまぐ ま?」
「クェ!」
「ぐ~ ま~ ぐまぐまま ま?」
「クェッ!」
 何やら問われては、チョコボが答えるように鳴いている、というニュアンスは伝わってくるのだが、
「……これ、会話成立してんのか……?」
「さ、さあ……?」
 明らかに別言語同士でやりとりしている人外二種族に、人類二人は首を傾げる。
 まあ、とりあえず、彼らの間に漂う友好的な空気からして、このクマグルミ(仮名)たちに敵意はないようだ、
と異邦人二人が結論付けた時、
「おお! そこの君~!」
 妙に大仰な響きの声が、柊たちの耳に届いた。
「――ぐげ」
 と、楽しそうにチョコボたちと会話(?)していたクマグルミ達が、一斉に嫌そうな顔になり、隠れるように建物の影に散っていった。
 と入れ替わるように新たに現れた影に、異邦人たちは軽く目を瞬く。
「……ケンタウロス?」
 現れた影は、まさに『半人半馬(ケンタウロス)』と称すべき容姿をしていた。
 人の上半身の下に、馬の胴と四肢。
 その若い男の顔の造形は、まさに美貌と讃えられるに相応しいものなのだが――神秘的なその容貌の割りに、纏う空気はどことなくナンパと言うか俗っぽい。
 被った鍔広帽子も、手にした弦楽器も、吟遊詩人というより、故郷のうらぶれたストリートミュージシャンを連想させる。
 どうにもちぐはぐな印象に、柊達が面食らっているところへ、当の青年はお構いなしに言葉をかけてきた。
「やあやあ、ようこそ、我らがロアの町へ。見たところ旅のお方のようだが、ランプに興味はあるかい?」
「……は? いきなり、何――」
「いやいや、君の手にしたものが既に答えだ。言葉による答えは必要としていないよ~」
 柊の手にしたホタルブクロのランプを示し、青年は一方的に決め付ける。
 ひくり、と柊の――そして隣にいたくれはの頬が、奇妙な角度で引き攣れた。
 その気障ったらしい言い回しといい、人の話を聞かない態度といい――
(……う、うっざい……こいつ……)
 幼馴染二人の表情が、心の声が、今、見事にシンクロした。
 なるほど、彼の声が聞こえたなり、クマグルミ達が去っていったわけだ。
 しかし、青年は二人のそんな微妙な空気など気付いた風もなく、更に一方的に言葉を続ける。
「そんなランプ好きの君に耳寄りな情報だ! この町にはリュミヌーという素晴らしいランプ職人がいるのさ~。
 ボクは彼女自身が一番の芸術品だと思うけどね~」
 うっとりと語る青年の様子に、やっと柊たちは何故自分達が声を掛けられたのか理解できた。
 つまり、この青年はそのリュミヌーという想い人だか恋人だかのために、客寄せをしようとしているのだろう。
 ただうざったいだけではなく、中々にいじらしい面もある青年ようだ。ただ、思い込みも激しいようなので、
一歩間違えるとストーキング行為に走りかねない感じもするが。
 まあ、それはともかく――
(――そのランプ職人には会っといた方がいいか……?)
 軽く目を伏せて、柊は一考する。
 当然、この“ランプ”はアーティファクトであり、普通のランプではない。
しかし、そのアーティファクトの能力(ちから)でこの町に飛ばされてきた以上、この町に何らかのゆかりがあるだろうことは間違いない。
 しかし、それ以上の手がかりがない以上、とりあえずはこの形状を手がかりに当たってみるのもいいだろう。
「……ちょっと興味あるな。その店ってどこにあるんだ?」
「お~、来てくれるんだね~! ならば案内しよう、我が愛しきリュミヌーの店へ!」
 柊の問いに、大仰に喜びを示すなり、ポッカラポッカラ蹄を鳴らして歩みだす青年。
 異邦人二人は、妙に疲れた笑みを交し合うと、チョコボ達を連れて、その半人半馬の後姿を追って歩き出した。

  ◇ ◆ ◇

「……ランプ、売れないなぁ……」
 リュミヌーは、深々と嘆息しながら愚痴を漏らしていた。
 狭い店内には、壁一面の棚に個性的なランプが並んでいるだけで、客の姿はない。
「あーあ……」
 もう一度嘆息して、こてん、とカウンターに突っ伏す。
 その暗い心境をそのまま反映してか、背中の翼も心なしか萎れている。
「やっぱ、私だけじゃダメなのかな……」
 その萎れた花の翼の先を、指先で摘まみつつ、リュミヌーはぼやいた。
 リュミヌーは、鳥乙女(セイレーン)である。
 “海の魔女”と畏怖を込めて呼ばれることもある彼女らは、本来海辺に暮らす種だ。
 麗しい女性の上半身に、艶やかな羽毛に覆われた鳥の下肢。その背には、生花で出来た羽根を持つ種族。
 その美しい翼で海上を舞い、その唇から天上の調べの如き歌声を紡ぐ。
 そんな、この世のものとは思えない麗しさに、船乗り達が心を奪われた結果、船が難破するということも多々あるほどだ。
 しかし、彼女たちは悪意を持って歌を紡いでいる訳ではない。歌うことは、セイレーンにとって呼吸に等しい行為であり、
それを怠れば、背中の翼が萎れて枯れてしまうのだ。
 だが、結果として、自身の歌声のせいで船乗り達が犠牲になるという事実に、胸を痛めるセイレーンもいる。
 リュミヌーに言わせれば、歌に聞き惚れて操舵を疎かにするような奴は、そもそも船乗りの資格などない、という感じなのだが。
 ならば、そんな海辺で歌うことに何の罪悪感もないリュミヌーが何故、こんな内陸の町に居を構えているかとうと――理由はこのランプたちである。
 数年前、まだ海辺の町にリュミヌーがいた頃、その町にふらりと現れた旅人。
 月明かりのような銀髪に、夜空を思わせる深い藍の瞳。仲間の美貌を見慣れているリュミヌーですら、思わず息を飲むような絶世の美女だった。
 ムーン、とその容姿に相応しい名を持つ彼女は、魚市で廃棄される貝殻や珊瑚の欠片を引き取って、新たな形で生まれ変わらせたのだ。
 見るものの心に灯を点すような、麗しくも優しい輝きを放つランプに。
 貝や珊瑚に限らず、どんなガラクタでも、彼女の手にかかれば素晴らしいランプに生まれ変わる。
 リュミヌーは、彼女を魔法使いだと思った。
 彼女はリュミヌーにとって、どんな大魔法使いよりも、素晴らしい魔法を使う魔法使いだったのだ。
 彼女の魔法に魅せられたリュミヌーは、やがて町を離れようとしていた彼女へ、同行したいと申し出た。
 セイレーンは歌わなければ翼が枯れるが、逆を言えば歌さえ歌えればどこへでも行けるのだ。別に海辺でしか生きられないわけではない。
 彼女は最初こそ戸惑い、断っていたが、リュミヌーが粘り続けると、最後には折れた。
 そうして、あてもないらしい彼女の旅に同行し、ランプの作り方を教わり始め――
 そうして、この町にたどり着いた。
 この町が気に入ったらしい彼女は、ここに店を持とうと思う、と言った。リュミヌーに否はなかった。
この町ほど彼女に、また彼女のランプに相応しい町はないと、リュミヌーも思ったのだ。
 そうして二人でこの町にこの店を構え、それなりに顧客が着いて生活が安定し、リュミヌーも一人でランプが作れるようになった頃――彼女は、姿を消した。
 彼女の最後の言葉を、リュミヌーははっきりと覚えている。

『昔の知り合いから呼ばれたから、会ってくるわ。ちょっと長くなるかも』
 必ず、帰るから――最後に、そう付け足して。

 最初の一年、彼女が帰ってこないことを、リュミヌーはそれほど気にしなかった。
 彼女の時間感覚が、どうも人よりかなり悠長なことを、長い付き合いで知っていたからだ。
 締め切りや待ち合わせなど、具体的な時間を示せばきっちり守るのだが、曖昧な表現で時間を指定した場合、
リュミヌーの――そして、世間一般の感覚とかなりずれていたのだ。
 例えば、彼女が『ちょっと前』とか『もうすぐ』とかいった場合、その範囲は半年前後。
具体的に訊いた事はなかったが、そのことで、リュミヌーは彼女が自分よりもずっと長寿な種族なのだろうと漠然と察していた。
 だから、そんな彼女が『ちょっと長くなる』と言った以上、一年くらいは帰らないだろうな、と思ったのだ。
 悩みの種は、売れるのは彼女が作り置きしていったランプばかりで、自分のランプがあまり売れないことだけ。
 早く彼女に帰ってきてもらって、素敵なランプの作り方を教えてもらいたい――そう暢気に思っていた。
 けれど――二年が立ち、彼女のランプが全部売り切れてしまった今でも、彼女は帰ってこない。

 そして、彼女の最後のランプが売れた半年ほど前から――リュミヌーは「必ず帰るから」という彼女の言葉が、
酷く気になり始めたのだ。

 ───何故、彼女は、そんな言わずもがなの台詞を、わざわざ告げたの?

 そもそも、時間感覚が互いにずれていると理解した頃から、二人の間では曖昧な時間表現は避け、
できるだけ具体的に時間を指定するようにしていたのに、何故、あのときに限って――
 考えれば、考えるほど、リュミヌーは不安になる。

 ───彼女は、もう帰って来れないんじゃないの?

 彼女が、自分の意志で帰ってこない、ということはないと思う。彼女は本当にこの町が好きだったから。
 けれど、何かの事情で、戻って来れなくなる可能性は――ないとは言えない。
 そんな風に考えてしまうと――ふと、揺らいでしまうのだ。
 売れないランプと苦しい生活を送りながら、いつ帰るか――帰ってくる保証もない彼女を待ち続ける日々に。
 ただ、一月前ほどから一人だけ固定客がついた。
 そのギルバートと言うケンタウロスの青年は、毎日のようにリュミヌーを口説きに来ては、ついでのようにランプを買って行く。
 好意を持たれることに対しては悪い気はしないが、同時にランプ職人としては悔しい気もする。
 こんな半端な生活を続けるくらいなら――
「……こんな店閉めて、別の町にでも行こうかしら」
 どこか、海の見える街に――そんなことを呟いた時、
「おお~、ハニ~! なんてバカなことを言うんだ~」
 この一ヶ月で聞き慣れた、どこか大仰に響く気障な声が飛び込んできた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー