日差し強く、木々青く茂る文月──蝉の元気な合唱が楽しげだ。
ところは日本のとある県、時は日も傾き始めた昼下がり。
ところは日本のとある県、時は日も傾き始めた昼下がり。
「『我が私立風華学園は、小中高一貫教育のもと…』」
てくてくと緩やかな坂を歩く少女がひとり。手に持った一枚のパンフレットを熱心に読み込んでいる。
「『自由な校風は、生徒たちの自主性を伸ばし…』」
そう、少女の名前は志宝エリス。
明るい橙色した風華学園の夏服に身を包み、頭にはトレードマークの白い帽子。新しい生活を前に意気揚々にと言った様子だ。
「『社会の荒波に打ち勝つ人間を育てる』…かぁ…どんな学校なんだろう?」
坂を上りきる。そこには白亜の学び舎がそびえていた。
広大な敷地にいくつもの建物が建ち並んでいて、中でも特異なのは中央に建つ"水晶宮"と呼ばれる建造物だろうか。
その説明は後ほどに回すとしよう。
「うわぁ…」
思わず立ち尽くすエリス。無理もない、彼女の知る"学校"とは輝明学園秋葉原分校だけなのだから。
まあ、あそこもたいがい特異なのは言うまでもないが。
「こんにちは、志宝エリスちゃん…だよね?」
「えっ?」
不意に呼びかけられ、エリスは声のした方…青々とした木々を見上げる。
「やあ♪」
そこにはペーパーバックを片手に、にこやかに微笑む少年がいた。
常闇に似た黒い短髪、瞳は明るい茶色──背丈は自分よりも小さいだろうか。
──エリスはなんとなく彼の事を"道化師"だと思った。
"道化師"……いや、少年は軽快に木の枝から飛び降りる。
「っと。初めまして、僕の名前は……」
そして、エリスに自己紹介をしようとした、その瞬間だった。
「──貴様ッ!?炎凪!!」
「えっ?」
とぼけた声を上げたのは目の前の少年。
怒声を張り上げるのは青みがかった美しい長髪の少女だ。
「久我…なつき?」
「そんな髪を染めたくらいの変装で、私の目が欺けるとでも思っているのか!?今度は何を企んでいるっ!!」
久我なつきと呼ばれた少女の握る青い短銃の銃口が少年に向けられた。
「ちょ、企むだなんて何の事だかわからないよっ!人違いじゃないの!?」
「うるさい!問答無用ッ!!」
銃声と共に弾丸が吐き出される。
「うわぁっ!?」
少年のこめかみをかすった弾丸が後ろの木を叩き折った。
その威力、普通の人間…いや、ウィザードだってまともに喰らえばただではすまないだろう。
「チッ!」
「ちょっと!人の話はちゃんと聞こうよっ!」
「貴様に言われる筋合いはない!」
続いて吐き出される弾丸。地面を転がりながら避ける少年の横を穿っていく。
「エリスちゃん!」
器用に弾丸を避けながら少年が叫んだ。
「は、はい!?」
「ゴメン!詳しい話はまた後で!!」
と、脱兎のごとく森の方へと走り去る。
「逃がすかっ!!」
少女もその後を追いかけて森の中に入っていった。
「あ、あの…」
一人取り残されたエリスは呆然としていた。
彼女がイノセントなら「共学ってすごいなぁ」くらいは言っていただろうが、そこは曲がりなりにもウィザード、状況を冷静に把握していた。
(さっきの女の人、たぶん"高次物質化能力者"──"HiME"よね)
それはここへ到着する前に読んだ資料で知っていた。
少女はおそらく"チャイルド"デュランの主、久我なつきだ。
なら、あの少年は?
久我なつきは彼の事を知っていたようだが、何か様子がおかしい。
(柊さん……ううん、ウィザードならこんな時どうするだろう…?)
てくてくと緩やかな坂を歩く少女がひとり。手に持った一枚のパンフレットを熱心に読み込んでいる。
「『自由な校風は、生徒たちの自主性を伸ばし…』」
そう、少女の名前は志宝エリス。
明るい橙色した風華学園の夏服に身を包み、頭にはトレードマークの白い帽子。新しい生活を前に意気揚々にと言った様子だ。
「『社会の荒波に打ち勝つ人間を育てる』…かぁ…どんな学校なんだろう?」
坂を上りきる。そこには白亜の学び舎がそびえていた。
広大な敷地にいくつもの建物が建ち並んでいて、中でも特異なのは中央に建つ"水晶宮"と呼ばれる建造物だろうか。
その説明は後ほどに回すとしよう。
「うわぁ…」
思わず立ち尽くすエリス。無理もない、彼女の知る"学校"とは輝明学園秋葉原分校だけなのだから。
まあ、あそこもたいがい特異なのは言うまでもないが。
「こんにちは、志宝エリスちゃん…だよね?」
「えっ?」
不意に呼びかけられ、エリスは声のした方…青々とした木々を見上げる。
「やあ♪」
そこにはペーパーバックを片手に、にこやかに微笑む少年がいた。
常闇に似た黒い短髪、瞳は明るい茶色──背丈は自分よりも小さいだろうか。
──エリスはなんとなく彼の事を"道化師"だと思った。
"道化師"……いや、少年は軽快に木の枝から飛び降りる。
「っと。初めまして、僕の名前は……」
そして、エリスに自己紹介をしようとした、その瞬間だった。
「──貴様ッ!?炎凪!!」
「えっ?」
とぼけた声を上げたのは目の前の少年。
怒声を張り上げるのは青みがかった美しい長髪の少女だ。
「久我…なつき?」
「そんな髪を染めたくらいの変装で、私の目が欺けるとでも思っているのか!?今度は何を企んでいるっ!!」
久我なつきと呼ばれた少女の握る青い短銃の銃口が少年に向けられた。
「ちょ、企むだなんて何の事だかわからないよっ!人違いじゃないの!?」
「うるさい!問答無用ッ!!」
銃声と共に弾丸が吐き出される。
「うわぁっ!?」
少年のこめかみをかすった弾丸が後ろの木を叩き折った。
その威力、普通の人間…いや、ウィザードだってまともに喰らえばただではすまないだろう。
「チッ!」
「ちょっと!人の話はちゃんと聞こうよっ!」
「貴様に言われる筋合いはない!」
続いて吐き出される弾丸。地面を転がりながら避ける少年の横を穿っていく。
「エリスちゃん!」
器用に弾丸を避けながら少年が叫んだ。
「は、はい!?」
「ゴメン!詳しい話はまた後で!!」
と、脱兎のごとく森の方へと走り去る。
「逃がすかっ!!」
少女もその後を追いかけて森の中に入っていった。
「あ、あの…」
一人取り残されたエリスは呆然としていた。
彼女がイノセントなら「共学ってすごいなぁ」くらいは言っていただろうが、そこは曲がりなりにもウィザード、状況を冷静に把握していた。
(さっきの女の人、たぶん"高次物質化能力者"──"HiME"よね)
それはここへ到着する前に読んだ資料で知っていた。
少女はおそらく"チャイルド"デュランの主、久我なつきだ。
なら、あの少年は?
久我なつきは彼の事を知っていたようだが、何か様子がおかしい。
(柊さん……ううん、ウィザードならこんな時どうするだろう…?)
しばし考えた後、エリスは二人を追って森へと駆け出した。
―+――+――+――+―
風華学園の周囲は、鬱蒼と生い茂る豊かな自然に覆われている。
探せばきっと遺跡の一つや二つどころか、ごろごろと行列をなして出てきそうな…そんな森の中──少年と少女はおいかけっこを続けていた。
「逃げるな!」
「拳銃振り回す人に追いかけられれば誰だって逃げるでしょっ!?」
「貴様が逃げるから追いかけるんだろう!」
「だーかーらーっ!」
探せばきっと遺跡の一つや二つどころか、ごろごろと行列をなして出てきそうな…そんな森の中──少年と少女はおいかけっこを続けていた。
「逃げるな!」
「拳銃振り回す人に追いかけられれば誰だって逃げるでしょっ!?」
「貴様が逃げるから追いかけるんだろう!」
「だーかーらーっ!」
以下、堂々巡りである。
―+――+――+――+―
「う~…、さっきの人たちどこに行ったんだろう…?」
エリスは文字通り迷っていた。勢い勇んで追いかけてみたものの、二人の健脚にあっさり巻かれてしまった。
とぼとぼと、当てもなくさまよう。
「きゃっ!?」
木の根に足を引っかけ顔面から盛大に転ぶ。
「ったた~…」
地面に座り込んで打った鼻をさするエリス。彼女は僅かに瞳を潤ませている。
「…ダメダメ、こんな事でへこたれちゃダメよ、エリスっ!」
そう言って自分に叱咤激励すると立ち上がり森の奥へと進んでいった。
エリスは文字通り迷っていた。勢い勇んで追いかけてみたものの、二人の健脚にあっさり巻かれてしまった。
とぼとぼと、当てもなくさまよう。
「きゃっ!?」
木の根に足を引っかけ顔面から盛大に転ぶ。
「ったた~…」
地面に座り込んで打った鼻をさするエリス。彼女は僅かに瞳を潤ませている。
「…ダメダメ、こんな事でへこたれちゃダメよ、エリスっ!」
そう言って自分に叱咤激励すると立ち上がり森の奥へと進んでいった。
―+――+――+――+―
「ぜーっ、はーっ…い、いい加減諦めない?」
大木を背に息も絶え絶えな少年。獲物を追いつめたのが嬉しいのか、追跡者は意地悪な笑みを浮かべて答えた。
「貴様が何を企んでいるか吐けば、諦めてやらない事もないな」
なつきは油断なく銃を構える。もちろん、銃口は少年に向けて。
「…それ、論理破綻してるよね」
「フン、相変わらず減らず口の達者な奴だ」
「何度も言ってるように、君に直接会うのは初めてなんだけど」
なつきが微かに怪訝な顔をする。
「どういう意味だ?」
少年は小さく嘆息を漏らした。
「そのままの意味だよ。君と顔を合わせたのは今日が初めて。そもそも…僕の名字は"炎"なんかじゃない」
「?? 何のつもりか知らないが、戯言につき合うつもりはない!」
短銃の引き金が引かれたその刹那──
「ダメですっ!」
少年の前に少女が、エリスが庇うように躍り出た。
「ば、バカ!」
発射された弾丸は一直線でエリスを襲う。
「──!!」
大木を背に息も絶え絶えな少年。獲物を追いつめたのが嬉しいのか、追跡者は意地悪な笑みを浮かべて答えた。
「貴様が何を企んでいるか吐けば、諦めてやらない事もないな」
なつきは油断なく銃を構える。もちろん、銃口は少年に向けて。
「…それ、論理破綻してるよね」
「フン、相変わらず減らず口の達者な奴だ」
「何度も言ってるように、君に直接会うのは初めてなんだけど」
なつきが微かに怪訝な顔をする。
「どういう意味だ?」
少年は小さく嘆息を漏らした。
「そのままの意味だよ。君と顔を合わせたのは今日が初めて。そもそも…僕の名字は"炎"なんかじゃない」
「?? 何のつもりか知らないが、戯言につき合うつもりはない!」
短銃の引き金が引かれたその刹那──
「ダメですっ!」
少年の前に少女が、エリスが庇うように躍り出た。
「ば、バカ!」
発射された弾丸は一直線でエリスを襲う。
「──!!」
堅い金属の弾ける音が森に響きわたった。
「な、に……?」
なつきは驚いていた。
エリスが飛び出してきた事ももちろんだが…一番驚いたのは、自分の撃った弾丸がもう一発の弾丸に弾かれ、それを撃ったのがエリスの背後に立つ少年だった事だ。
「"エレメント"…?いや…」
黒い巨大な銃器──拳銃と呼ぶには大きすぎ、ライフルと呼ぶには短すぎる、不恰好としか言えないその銃を軽々と担ぎ、少年は言った。
「ふぅ…危機一髪…。志宝エリスちゃん」
「は、はい」
「いくらウィザードだって死ぬ時は死ぬんだ。いきなり飛び出すなんて無茶な真似、もうしないでね。いい?」
「わかりました…え?ウィザード…?」
続いて少年はなつきの方に向く。
「それから、久我なつきちゃん」
「な、何だ」
「とりあえず、人の話はちゃんと聞こうよ。僕は君の言う"炎凪"なんて人じゃないから」
「いや、しかし…本当か?」
少年は非難の眼差しを向け無言で頷く。
「わ、悪かったと思っている」
なつきは頬を紅に染めて申し訳なさそうにしている。
なつきは驚いていた。
エリスが飛び出してきた事ももちろんだが…一番驚いたのは、自分の撃った弾丸がもう一発の弾丸に弾かれ、それを撃ったのがエリスの背後に立つ少年だった事だ。
「"エレメント"…?いや…」
黒い巨大な銃器──拳銃と呼ぶには大きすぎ、ライフルと呼ぶには短すぎる、不恰好としか言えないその銃を軽々と担ぎ、少年は言った。
「ふぅ…危機一髪…。志宝エリスちゃん」
「は、はい」
「いくらウィザードだって死ぬ時は死ぬんだ。いきなり飛び出すなんて無茶な真似、もうしないでね。いい?」
「わかりました…え?ウィザード…?」
続いて少年はなつきの方に向く。
「それから、久我なつきちゃん」
「な、何だ」
「とりあえず、人の話はちゃんと聞こうよ。僕は君の言う"炎凪"なんて人じゃないから」
「いや、しかし…本当か?」
少年は非難の眼差しを向け無言で頷く。
「わ、悪かったと思っている」
なつきは頬を紅に染めて申し訳なさそうにしている。
──じぃー。
「ご、ごめんなさい」
──じぃーー。
「ちゃんと謝ってるだろう!?」
──じぃーーー。
「くっ、くそ!覚えていろっ!」
そう悪役じみた捨て台詞を残してなつきは走り去った。
「あらら、ちょっといじりすぎたかな」
少年はいくらか溜飲を下げたらしく、苦笑してなつきの背中を見送った。
「えっと…」
「ああ、ゴメン。やっと落ち着いて自己紹介ができるね」
少年は、居住まいを正しエリスに向き直る。
「僕はナギ、火渡那岐。アンゼロットの依頼で、君のサポートをする事になったウィザードだ」
少年──那岐は優しい笑みを浮かべ、手を差し伸べた。
「…あなたが?」
「そう、よろしく」
エリスは那岐の手を握り返した。それから元気いっぱいで"相棒"になる少年の挨拶に答えた。
「えっと志宝エリスです、まだまだ頼りないとは思うけど精一杯がんばります!」
そう悪役じみた捨て台詞を残してなつきは走り去った。
「あらら、ちょっといじりすぎたかな」
少年はいくらか溜飲を下げたらしく、苦笑してなつきの背中を見送った。
「えっと…」
「ああ、ゴメン。やっと落ち着いて自己紹介ができるね」
少年は、居住まいを正しエリスに向き直る。
「僕はナギ、火渡那岐。アンゼロットの依頼で、君のサポートをする事になったウィザードだ」
少年──那岐は優しい笑みを浮かべ、手を差し伸べた。
「…あなたが?」
「そう、よろしく」
エリスは那岐の手を握り返した。それから元気いっぱいで"相棒"になる少年の挨拶に答えた。
「えっと志宝エリスです、まだまだ頼りないとは思うけど精一杯がんばります!」
──握った少年の手はほんのりと暖かかった。
―+――+――+――+―
「こっちだよ、エリスちゃん」
エリスは那岐に連れられ、この私立風華学園の理事長のもとへと向かっていた。
校門から見て学園の奥の方、緩やかな坂道になっている遊歩道を抜けていくと、学園の理事長の家があるそうだ。
「学園の敷地内にお宅があるなんてすごいね」
「そうだね、でも、実物を見たらたぶんもっと驚くんじゃないかな」
訳知り顔の那岐。
エリスは不思議そうに訪ねる。
「火渡くんもここに来たばかりじゃないの?」
「いや、一足先にこの辺りを一通り調べておいたんだ。一応、理事長にも挨拶したよ」
「そうなんだ…私も早く来て手伝った方がよかったかな?」
「いや、気にする必要はないよ。エリスちゃんのフォローをするのが僕のお仕事だしね」
エリスは那岐に連れられ、この私立風華学園の理事長のもとへと向かっていた。
校門から見て学園の奥の方、緩やかな坂道になっている遊歩道を抜けていくと、学園の理事長の家があるそうだ。
「学園の敷地内にお宅があるなんてすごいね」
「そうだね、でも、実物を見たらたぶんもっと驚くんじゃないかな」
訳知り顔の那岐。
エリスは不思議そうに訪ねる。
「火渡くんもここに来たばかりじゃないの?」
「いや、一足先にこの辺りを一通り調べておいたんだ。一応、理事長にも挨拶したよ」
「そうなんだ…私も早く来て手伝った方がよかったかな?」
「いや、気にする必要はないよ。エリスちゃんのフォローをするのが僕のお仕事だしね」
と、そうこうしているうちに二人はそれらしき建物にたどり着いた。
「これが、理事長さんのお宅?」
「そうさ」
それは趣のある洋館だった。エリスの想像よりもずっと大きく、しかもなんだか由緒ありそうな感じだ。
(これ、いったい何人くらいが住んでるんだろう?)
広さからイメージするに、お手伝いさんが十人以上はいそうである。
古めかしく、時代がかった邸宅は通り抜けてきた学園の建造物のどれよりも歴史を感じさせた。
「さて、と」
那岐が呼び鈴のボタンへ指を伸ばした。古めかしいブザー音が館内に響き渡るのが聞こえる。
ほどなく、二人は桃色の髪のメイドさんに応接室へと案内された。
「これが、理事長さんのお宅?」
「そうさ」
それは趣のある洋館だった。エリスの想像よりもずっと大きく、しかもなんだか由緒ありそうな感じだ。
(これ、いったい何人くらいが住んでるんだろう?)
広さからイメージするに、お手伝いさんが十人以上はいそうである。
古めかしく、時代がかった邸宅は通り抜けてきた学園の建造物のどれよりも歴史を感じさせた。
「さて、と」
那岐が呼び鈴のボタンへ指を伸ばした。古めかしいブザー音が館内に響き渡るのが聞こえる。
ほどなく、二人は桃色の髪のメイドさんに応接室へと案内された。
「火渡さん、どうなさったんですか?そんなにボロボロで」
応接室の扉を開けた途端、那岐は車いすの少女から開口一番、そんなことを言われていた。
身体でも弱いのだろうか? 肌は色白で、日向にはほとんど出ていません、と言った感じだ。
「どうもこうもないよ。さっき久我なつきちゃんに会ってさ。初対面の時の君と全く同じ反応されたんだ」
「まあ、それは大変でしたね」
親しげに話す那岐と少女。エリスは幼い少女の大人びた口振りが、どこかの"守護者"っぽくてちょっとおかしかった。
「ていうか、君の方から"HiME"の子たちに、僕の事を伝えてくれるんじゃなかったの?」
「ああ、ごめんなさい。忙しくてつい伝え忘れちゃいました」
可愛らしくぺろっと小さな舌を出す少女。存外この少女は見た目相応な所もあるらしい。
「……はぁ、まあいいや。エリスちゃん、紹介するよ、彼女がこの学園の理事長、風花真白ちゃんだよ」
「えっ、この子が理事長さん?」
少女が居住まいを正し静かでありながら、よく通る声で言った。
「はじめまして、風花家第1024代目当主、現風華学園理事長と風花真白と申します」
そう言って、その雪のように白い少女は小さく頭を下げた。
「志宝エリスです」
一礼するエリス。
その反応に真白は何やら不満のようだ。
「志宝さんは驚かれないのですね。…皆さん、私が理事長だとわかると目を丸くして驚くのに」
「そりゃ、ねぇ」
「う、うん…」
苦笑いで見合うエリスと那岐。おそらく二人とも考えていることは一緒だ。
応接室の扉を開けた途端、那岐は車いすの少女から開口一番、そんなことを言われていた。
身体でも弱いのだろうか? 肌は色白で、日向にはほとんど出ていません、と言った感じだ。
「どうもこうもないよ。さっき久我なつきちゃんに会ってさ。初対面の時の君と全く同じ反応されたんだ」
「まあ、それは大変でしたね」
親しげに話す那岐と少女。エリスは幼い少女の大人びた口振りが、どこかの"守護者"っぽくてちょっとおかしかった。
「ていうか、君の方から"HiME"の子たちに、僕の事を伝えてくれるんじゃなかったの?」
「ああ、ごめんなさい。忙しくてつい伝え忘れちゃいました」
可愛らしくぺろっと小さな舌を出す少女。存外この少女は見た目相応な所もあるらしい。
「……はぁ、まあいいや。エリスちゃん、紹介するよ、彼女がこの学園の理事長、風花真白ちゃんだよ」
「えっ、この子が理事長さん?」
少女が居住まいを正し静かでありながら、よく通る声で言った。
「はじめまして、風花家第1024代目当主、現風華学園理事長と風花真白と申します」
そう言って、その雪のように白い少女は小さく頭を下げた。
「志宝エリスです」
一礼するエリス。
その反応に真白は何やら不満のようだ。
「志宝さんは驚かれないのですね。…皆さん、私が理事長だとわかると目を丸くして驚くのに」
「そりゃ、ねぇ」
「う、うん…」
苦笑いで見合うエリスと那岐。おそらく二人とも考えていることは一緒だ。
「くしゅん!……誰かわたくしの噂でもしているのかしら?」
「ああ、そうだ、真白ちゃんはこう見えて"HiME"の一人なんだ。これがそりゃもうえげつない能力でね…」
「あっ、火渡さん、今それをバラしちゃ…」
那岐の発言に真白が慌てだした。
「ついでに言うと、車いすに乗っているけど自力で歩けたりするんだよ」
「え?どうしてそんな事を?」
「あっ、あのっ…それは…その…」
恥ずかしそうに俯く真白。白い肌を真っ赤に紅潮させて照れる様は、正に子供のそれだった。
「と、ともかく!お二人にはこの学園の生徒として、事件解決まで過ごしていただきます」
「私は高等部の二年生…なんですよね?」
「ええ、既に寮の方にお部屋をご用意してますよ。同室の方がいらっしゃいますが、よろしいですか?」
「はい、もちろん」
「よかった…あっ、一つ言い忘れていました」
真白はふわっと和やかに微笑んで、二人にこう告げた。
「あっ、火渡さん、今それをバラしちゃ…」
那岐の発言に真白が慌てだした。
「ついでに言うと、車いすに乗っているけど自力で歩けたりするんだよ」
「え?どうしてそんな事を?」
「あっ、あのっ…それは…その…」
恥ずかしそうに俯く真白。白い肌を真っ赤に紅潮させて照れる様は、正に子供のそれだった。
「と、ともかく!お二人にはこの学園の生徒として、事件解決まで過ごしていただきます」
「私は高等部の二年生…なんですよね?」
「ええ、既に寮の方にお部屋をご用意してますよ。同室の方がいらっしゃいますが、よろしいですか?」
「はい、もちろん」
「よかった…あっ、一つ言い忘れていました」
真白はふわっと和やかに微笑んで、二人にこう告げた。
「ようこそ風華学園へ──」
―+――+――+――+―
那岐と別れたエリスは風華学園女子寮を訪れていた。
寮母さんに案内され階段を上がる。
(ルームメイトか…どんな人なのかな)
「さあ、ここがあなたの部屋よ」
寮母さんがノックすると中から元気のよい返事が返ってきた。
「はーい、今開けまーす」
とてとてと足音がした後、勢いよくドアが開く。隙間から覗いたのは赤い髪の少女だった。
うなじから伸びる二本の特徴的なおさげが可愛らしい。
「志宝さん、彼女が今日からあなたと同室になる中等部二年の夢宮さん、仲良くしてあげてね」
「ゆ、夢宮ありかですっ。よろしくお願いします!」
そう言って、おさげを揺らして礼する。
「志宝エリスです。こちらこそよろしくね」
寮母さんに案内され階段を上がる。
(ルームメイトか…どんな人なのかな)
「さあ、ここがあなたの部屋よ」
寮母さんがノックすると中から元気のよい返事が返ってきた。
「はーい、今開けまーす」
とてとてと足音がした後、勢いよくドアが開く。隙間から覗いたのは赤い髪の少女だった。
うなじから伸びる二本の特徴的なおさげが可愛らしい。
「志宝さん、彼女が今日からあなたと同室になる中等部二年の夢宮さん、仲良くしてあげてね」
「ゆ、夢宮ありかですっ。よろしくお願いします!」
そう言って、おさげを揺らして礼する。
「志宝エリスです。こちらこそよろしくね」
部屋はダイニング兼寝室の一部屋のみだが広々としており、バストイレ別はもちろん、システムキッチン完備。
学生寮にしては少々豪華すぎるが、エリスが以前住んでいたマンションに比べれば大した事はないし、何よりエリスにとってはこれぐらいが丁度いいのだろう。
上機嫌で先に届いていた荷物を片づけながら、エリスはありかと雑談を交わした。話を聞くと、どうやら高等部の先輩が卒業してしまい、今学期は一人でこの部屋に住んでいたらしい。
「へぇー…エリスさんは、東京から転校してきたんですか?」
「そ、そうなの。私、身体が弱くって、空気のいいところで勉強したいなって」
「あたし、そこまでして勉強したくないなぁ」
苦笑するありか。エリスは申し訳ない気持ちで笑い返した。
学生寮にしては少々豪華すぎるが、エリスが以前住んでいたマンションに比べれば大した事はないし、何よりエリスにとってはこれぐらいが丁度いいのだろう。
上機嫌で先に届いていた荷物を片づけながら、エリスはありかと雑談を交わした。話を聞くと、どうやら高等部の先輩が卒業してしまい、今学期は一人でこの部屋に住んでいたらしい。
「へぇー…エリスさんは、東京から転校してきたんですか?」
「そ、そうなの。私、身体が弱くって、空気のいいところで勉強したいなって」
「あたし、そこまでして勉強したくないなぁ」
苦笑するありか。エリスは申し訳ない気持ちで笑い返した。
「身体が弱い」と言うのはもちろん真っ赤な嘘だ。
正直に"エミュレイターを退治しに来ました!"なんて事は言えない。
──それでもやっぱり嘘をつくのはいい気分じゃない。
エリスは陰鬱な気持ちを振り払うように、少々強引に話題を変えた。
正直に"エミュレイターを退治しに来ました!"なんて事は言えない。
──それでもやっぱり嘘をつくのはいい気分じゃない。
エリスは陰鬱な気持ちを振り払うように、少々強引に話題を変えた。
「そ、そうだありかちゃんお腹空かない?」
「あ、うん…ちょっと……」
恥ずかしそうにするありかに微笑むと、エリスはバッグの中からマドレーヌを取り出した。
「わぁ、これエリスさんが作ったんですか?」
「うん、お口に合うかどうかわからないけど」
「あむ、もぐもぐ…ほんなほとないでふほ。ほっへもおいひいでふ、もぐもぐ…」
「ふふっ…たくさんあるから慌てないで」
「あ、うん…ちょっと……」
恥ずかしそうにするありかに微笑むと、エリスはバッグの中からマドレーヌを取り出した。
「わぁ、これエリスさんが作ったんですか?」
「うん、お口に合うかどうかわからないけど」
「あむ、もぐもぐ…ほんなほとないでふほ。ほっへもおいひいでふ、もぐもぐ…」
「ふふっ…たくさんあるから慌てないで」
とまあ、こんな具合でどうやらルームメイトとも打ち解けられたようである。
夜も更け──エリスは疲れた身体をベッドに横たえた。
目の前に広がるのは見慣れない天井。
目の前に広がるのは見慣れない天井。
いろいろとあった今日ももう終わる──
エリスの胸の内には明日への期待とは別に、僅かな不安が去来していた。
(柊先輩…今頃何してるかなぁ……)
左手を天井に掲げる。寝間着の袖からブレスレットが覗いた。
ブレスレットには光を失った七つの玉が納まっている。
エリスの胸の内には明日への期待とは別に、僅かな不安が去来していた。
(柊先輩…今頃何してるかなぁ……)
左手を天井に掲げる。寝間着の袖からブレスレットが覗いた。
ブレスレットには光を失った七つの玉が納まっている。
──砕けてしまったこの"ツバサ"は、何の因果がエリスのもとへと舞い戻った。
この"意味"を彼女は知らなければいけない。そして、造物主を否定して手に入れた未来が──間違っていない事を。
(明日も…頑張らなくっ、ちゃ……)
徐々に忍び寄る睡魔に身を委ね、エリスは瞼を閉じた。
この"意味"を彼女は知らなければいけない。そして、造物主を否定して手に入れた未来が──間違っていない事を。
(明日も…頑張らなくっ、ちゃ……)
徐々に忍び寄る睡魔に身を委ね、エリスは瞼を閉じた。
―+――+――+――+―
──紅き闇の世界にひとりの少女がいた。
「まさか…志宝エリスを寄越すだなんて」
──少女は紅き闇の中で愉しげに嗤った。
「ふふっ…アンゼロットにしては気が利く計らいじゃない」
──彼女が嘲うと闇もまた揺らめく。
「あの子たちに借りを返すだけ、"アレ"を使ってファー・ジ・アースを滅ぼすだけ、じゃあ簡単すぎてつまらないもの」
──そう、彼女自身が紅き闇そのものなのだ。
「ふふふ…今度も愉しいゲームになりそうね」
──少女の名は、ベール=ゼファー…空飛ぶものあまねくを従え、人心を闇で縛る"蠅の女王"。
ウィザードの最大の宿敵にして、裏界帝国第一位の大魔王。
ウィザードの最大の宿敵にして、裏界帝国第一位の大魔王。
──闇が揺らめいた。
そこに少女の姿はなく……、
紅の闇は今宵も深く、混沌を孕みまどろむ──
昏き願いを夢見て。