パイララ・ローズ - 架空アニメキャラ用語辞典

概要

パイララ・ローズ（Pairara Rose）は、物語『月とライカと吸血姫』におけるアーナック神聖共和国（UK）側の主要人物である。ツィルニトラ共和国連邦（Zirnitra）が「ノスフェラトゥ計画」を秘密裏に進める中、UKが国家の威信をかけて推進する有人宇宙飛行計画「プロジェクト・ダイアナ」において、最も有力な宇宙飛行士（コズモノーツ）候補として登場する。

Zirnitraのイリナ・ルミネスクが「吸血鬼」という異質な存在として宇宙を目指すのに対し、ローズはUKの最高エリート層を代表する「人間」として、純粋な技術力と訓練によって宇宙到達を目指すライバルとして描かれる。彼女の視点を通じて、Zirnitra側からだけでは見えない東西間の熾烈な宇宙開発競争の側面や、西側諸国特有のプレッシャーが浮き彫りにされる。

生い立ち

アーナック神聖共和国の首都ロンディニウムにて、代々高位の軍人を輩出してきた名門貴族「ローズ家」の長女として生まれる。幼少期から厳格な教育を受け、常に「ローズ家の人間」として完璧であることを求められて育った。

彼女が空に憧れを抱いたきっかけは、幼い頃に父親に連れられて観覧した航空ショーであった。空を縦横無尽に駆ける戦闘機に魅了されたローズは、貴族の娘としての将来（政略結婚や社交界デビュー）を拒否し、空軍への入隊を志願する。

当然、両親や親族からは猛反対を受ける。特に母親からは「女が、それも高貴な血統の者が鉄の塊に乗るなど」と強く反対された。しかし、ローズは「家柄や性別ではなく、私自身の力で空を掴みたい」という強い意志を貫き、半ば勘当同然の形で家を飛び出し、空軍士官学校に入学する。

士官学校では、名門出身であることへの嫉妬や、女性であることへの侮蔑にさらされるが、彼女はそれを全て圧倒的な実力でねじ伏せていく。同期の誰よりも過酷な訓練をこなし、座学でも常に首席を維持。特に操縦技術に関しては教官からも「天性のもの」と評され、卒業時には首席で任官。戦闘機パイロットとして配属された。

配属後も、新型ジェット戦闘機のテストパイロットなどを歴任し、その冷静沈着な判断力と卓越した操縦技術は空軍内でも広く知られるようになる。彼女のキャリアが転機を迎えたのは、東西冷戦の激化に伴い、Zirnitraが宇宙開発で先行しているという情報がUK上層部にもたらされたことだった。

国家の威信をかけ、Zirnitraに対抗する宇宙開発計画「プロジェクト・ダイアナ」が発足すると、UKは国内最高の人材を招集し始める。ローズもその類稀なるパイロット適性を見込まれ、空軍からの出向という形で、宇宙飛行士候補生（コズモノーツ候補生）に選抜された。彼女は、地上のしがらみから解放される「宇宙」という新たなフロンティアに、自らのすべてを賭ける決意を固める。

作中での活躍

物語における彼女の初登場は、UK南部に位置する宇宙飛行士訓練施設である。Zirnitraがスプートニク（劇中では「スプートニク1号」）の打ち上げに成功した直後であり、UK側は強烈な焦燥感に包まれていた。ローズは候補生たちの中でも筆頭と目されており、過酷な遠心分離機訓練や無重力シミュレーションでも、他の候補生が次々と脱落していく中で平然とトップの成績を収め続ける。

彼女は常に冷静であり、Zirnitraの先行を「技術的な遅れ」として客観的に分析し、自らがそれを挽回する責務を負っていると強く自覚していた。この時期、彼女はZirnitraの宇宙開発を「国家体制の優位性を示すためのプロパガンダ」と見なし、純粋な科学的探求心よりもイデオロギー的な対抗心を強く抱いていた。

物語中盤、Zirnitraが「ノスフェラトゥ計画」を実行し、イリナ・ルミネスクを宇宙へ送った（とされる）報道が世界を駆け巡ると、ローズは大きな衝撃を受ける。Zirnitraが「人間」ではなく「吸血鬼」を実験体として宇宙に送ったという事実は、彼女のプライドを二重の意味で傷つけた。

一つは、UKがまだ人間の宇宙到達を果たせていない中、Zirnitraがどのような手段であれ「生物」を宇宙へ送ったという技術的な敗北感。もう一つは、人間ではない「吸血鬼」を宇宙飛行士として扱ったことへの倫理的な嫌悪感である。ローズは当初、これを「Zirnitraの非人道性」の象徴と捉え、軽蔑の色を隠さなかった。

しかし、彼女はZirnitraの動向を探るUK情報部のレポートを通じて、イリナ・ルミネスクという存在の断片的な情報を知るようになる。イリナがZirnitra国内で差別的な扱いを受けていること、そして彼女自身が純粋に宇宙へ行きたがっている可能性を知るにつれ、ローズの心境に微妙な変化が生じ始める。

物語のクライマックスに向け、UK側も「プロジェクト・ダイアナ1号」による有人宇宙飛行計画を具体化させる。ローズは数々の選抜試験をトップの成績で通過し、ついにUK初の宇宙飛行士として正式に任命される。彼女の飛行は、Zirnitraの「非人道的な実験」とは対照的に、「自由主義世界の人間による偉業」として大々的に宣伝されることが決定していた。

彼女はZirnitraのイリナ飛行成功（とされている）の後、世界中が注目する中で宇宙船に搭乗する。その胸中には、国家の期待を背負う重圧と同時に、イデオロギーや人種を超え、同じく宇宙を目指した「もう一人の飛行士」イリナに対する複雑なライバル意識が渦巻いていた。

対戦や因縁関係

イリナ・ルミネスク
ローズにとって最大のライバルであり、物語における「鏡写し」のような存在。直接の面識はない。
当初、ローズはイリナを「Zirnitra体制の駒」であり、「非人間の実験体」として強く軽蔑していた。しかし、イリナが過酷な運命の中で純粋な飛行への憧れを抱いていることを知るにつれ、その感情は「ライバル」としての意識へと変化していく。イデオロギーや種族は違えど、同じく「宇宙」という孤独な高みを目指す者としての奇妙な共感を抱くようになる。

バート・ファイフィールド（※作中オリジナルキャラ）
UK宇宙開発局の訓練教官であり、ローズの才能を空軍時代から見抜いていた人物。元エースパイロットであり、ローズにとっては上官であると同時に、唯一本音を（多少なりとも）漏らせる相手でもある。ローズの強すぎるプライドと、彼女が背負う重圧を理解しており、技術的・精神的な支柱となる。ローズ家の事情も知っており、父親的な側面も見せる。

レフ・レプス
Zirnitra側の飛行士候補であり、イリナの監視役。ローズにとっては「敵国の飛行士」であり、「吸血鬼を扱う男」として、当初は強い不信感を持っていた。しかし、彼がイリナを人間として扱おうと苦悩する姿（が情報部のレポートで示唆される）を知り、Zirnitra側にも単純ではない人間ドラマがあることを認識するきっかけとなる。

性格や思想

極めてプライドが高く、自他共に厳しい完璧主義者。名門貴族としてのエリート意識と、自らの努力と実力で道を切り開いてきたという自負が入り混じっている。

当初はアーナック神聖共和国のイデオロギーに忠実であり、Zirnitraの共産主義体制や、吸血鬼という「異種族」に対して強い偏見と嫌悪感を抱いていた。彼女にとって、宇宙飛行は「優れた人間」にのみ許された神聖な領域であり、Zirnitraの手段はそれを汚すものだと考えていた。

しかし、根底には「空を飛びたい」「未知の領域へ到達したい」という、パイロットとしての純粋な探求心と渇望がある。物語が進むにつれて、国家間の競争やイデオロギーの対立という現実と、自らの純粋な夢との間で葛藤する姿が描かれる。

最終的には、イリナの存在を「敵」や「実験体」としてではなく、同じく宇宙を目指した「先駆者」の一人として（不本意ながらも）認めざるを得なくなる。彼女の思想の変化は、この物語がイデオロギー対立を超えた普遍的なテーマを扱っていることを示唆している。

物語への影響

パイララ・ローズの存在は、『月とライカと吸血姫』という物語に不可欠な「対立軸」と「多角的な視点」を提供している。

もしイリナとZirnitra側の視点だけで物語が進行した場合、宇宙開発競争は単純な「善悪」や「被害者（イリナ）と加害者（Zirnitra上層部）」の構図になりがちである。しかし、ローズという「西側（UK）のエリート」の視点が加わることで、この競争が東西両陣営の国家的な威信と、多くの人々の夢や葛藤を巻き込んだ、より複雑で巨大な歴史的イベントであったことが強調される。

イリナが「差別される存在」として体制と戦うのに対し、ローズは「期待されるエリート」として国家の重圧と戦う。二人は対照的な立場でありながら、どちらも「宇宙を目指す」という一点において共通している。ローズの存在は、イリナの孤独と偉業を、敵対する陣営の視点から逆説的に照らし出す役割を担っており、物語のテーマ性をより深く掘り下げることに貢献している。