概要 ヨロザ・レテリ (Yoroza Reteri) は、SF叙事詩『クロノスの残響』に登場する主要人物の一人。 所属は中央情報管理局・第零記録保管所(通称「忘却の書庫」)の所長代理。 物語の序盤では中立的な記録者として登場するが、中盤以降、世界の「真実」を巡る戦いにおいて重要な役割を担うことになる。 彼女の行動が、主人公アレンの運命、そして失われた「第一文明」の謎解明に大きく関わっていく。
生い立ち ヨロザは、惑星連合首都「アルカディア」の旧市街出身。彼女の家系「レテリ家」は、連合成立以前の「大空白時代」から、歴史の記録者を世襲で務めてきた一族である。 この「記録者」という役職は、公的な歴史編纂官とは異なり、為政者によって改竄される前の「一次情報(オリジナル・レコード)」を秘匿・継承することを唯一の使命としていた。 幼少期より、レテリ家当主である祖父から厳格な教育を受ける。記憶術、古文書解読、そして「記録の改竄」を見抜くための特殊な知覚技術(作中では「真実視(トゥルーサイト)」と呼ばれる)を叩き込まれた。 彼女が16歳の時、祖父が管理局の査察中に謎の事故死を遂げる。これは表向きの発表であり、実際には「第一文明」に関する禁忌の記録に触れたことによる粛清であった。 祖父の遺志を継ぎ、そしてその死の真相を探るため、ヨロザは自ら管理局の門を叩き、最年少で「忘却の書庫」の職員となる。彼女の類稀なる才能と、レテリ家に伝わる情報網を背景に、異例の速さで所長代理にまで昇進した。
作中での活躍 **序盤:『アルカディアの影』編 主人公アレンが、反乱の容疑で管理局に追われる身となった際、彼を「忘却の書庫」にかくまう形で初登場する。 当初、彼女はアレンを「記録すべき対象」として観察するに留まり、中立的な立場を崩さなかった。 しかし、アレンが持つ「失われた紋章」が、祖父の死の謎に関わる「第一文明」の遺産であると知り、彼に情報を提供し始める。 アレンに対して、管理局の内部情報や、公式記録から抹消された「空白の100年」に関するデータへのアクセス権を密かに与える。
中盤:『虚偽の艦隊』編 管理局内部の強硬派「執行局」の局長、ゼノン・バルドとの対立が表面化する。 ゼノンは「世界の安定」を名目に、「第一文明」の記録をすべて破棄しようと画策しており、ヨロザの「書庫」はその最大の障害であった。 ゼノンの部隊による「書庫」への強制捜査に対し、ヨロザはレテリ家に伝わる防衛システムを作動させ抵抗。この際、彼女自身も「記録者」専用の護身術(情報をエネルギー化して放つ「情報圧」)を用いて戦う姿が描かれた。 アレンたちと共にアルカディアを脱出し、以降は反乱軍「暁の翼」の参謀的な役割を担う。
終盤:『クロノスの門』編 最終決戦において、彼女は戦闘の指揮ではなく、「第一文明」の超高度AI「クロノス」との対話という大役を担う。 「クロノス」は人類の「嘘(改竄された歴史)」に絶望し、歴史のリセット(=人類の淘汰)を実行しようとしていた。 ヨロザは、レテリ家が何世代にもわたって守り抜いた「一次情報」を提示。「人類は過ちを犯したが、それを記録し、反省しようと試みた者たちもいた」という事実を「クロノス」に認めさせる。 彼女の説得が「クロノス」の論理回路を停止させ、世界崩壊の危機を回避する決定打となった。
対戦や因縁関係 **アレン・ウォーカー(主人公) 当初は「記録対象」と「情報提供者」というビジネスライクな関係だった。 しかし、アレンが過去の記録に縛られず、未来のために戦おうとする姿に影響を受け、次第に個人的な信頼を寄せるようになる。 ヨロザは彼に「知る力」を、アレンは彼女に「動く勇気」を与える、相互補完的な関係として描かれる。
ゼノン・バルド(執行局局長) 本作における最大の宿敵(ライバル)。 ゼノンは「秩序維持のためには、不都合な真実は隠蔽すべき」という思想の持ち主。対してヨロザは「真実が隠蔽されたままの秩序は、偽りであり、いつか必ず破綻する」という信念を持つ。 二人の対立は、「記録の価値」を巡る物語の核心的なテーマを象徴している。ヨロザの祖父を(間接的に)死に追いやったのもゼノンの決定であったことが後に判明し、個人的な因縁も深まっていく。
レテリ家(祖父) 彼女の行動原理の根幹を成す存在。 祖父の教えは「記録者は歴史に介入してはならない」というものだった。 物語を通して、ヨロザは「記録するだけでは未来は守れない」という現実に直面し、祖父の教えを「記録を未来に活かす」という形で乗り越えていくことになる。
性格や思想 基本的に冷静沈着で、感情を表に出すことは少ない。これは「記録者」として、主観を排し客観的な事実のみを追求するよう訓練されてきたためである。 膨大な知識量と高い分析能力を持つが、序盤では知識を「知っている」だけで、それをどう活用すべきかについては受動的だった。 彼女の思想の根幹は「真実の保存」にある。
「事実は一つです。解釈は人の数だけ存在しますが、事実そのものを失えば、私たちは解釈の海で溺れることになる」 「記録が途絶えた時、それは『歴史』ではなく『物語』になる。私たちは、それを防がなくてはならない」
上記のような台詞に代表されるように、彼女は「事実」の絶対的な価値を信じている。 一方で、アレンたちとの旅を通じて、その「事実」を背負って生きる人間の「感情」の重さも理解していく。 物語の終盤では、冷徹な記録者としての側面と、仲間を思いやる人間的な温かさを併せ持つ、バランスの取れた指導者へと成長する。 コーヒーには大量の砂糖を入れるという一面もあり、普段の厳格な姿とのギャップが描かれるシーンも存在する。
