クロノス・レギオン』の登場人物。 主人公、神楽坂ハヤトが通う「天ノ川学園高等部」の2年生であり、風紀を監督する「執行委員会」の副委員長を務める。 学園に隠された「アーティファクト」を管理・防衛する時崎家の出身であり、時間を操作する「刻印魔術」の使い手。
初登場は第3巻『黄昏の執行者』。当初は能力を制御できないハヤトの前に立ちはだかる「壁」として登場したが、中盤以降は学園都市を狙う組織『虚ろなる影(ウロボロス)』との戦いにおいて、重要な役割を担う主要キャラクターの一人となる。 冷静沈着な性格と、紅葉のような鮮やかな赤毛のポニーテールが特徴。
生い立ちと歴史的背景 ***時崎家と「分家」の立場 彼女の出自である時崎家は、古来より日本各地に点在する「時の歪み」を観測し、管理してきた魔術師の一族である。 その歴史は平安時代まで遡るとされ、当時は陰陽寮とも深い関わりを持っていたとされる(出典:『クロノス・レギオン秘録集』)。 時崎家は「本家」と複数の「分家」で構成されており、本家は「未来視」と「時間遡行」という強力な能力を継承する一方、分家は「時間停止」や「時間加速」など、より限定的・局所的な能力を継承・研究してきた。
もみじはこの分家の一つ、「紅葉(こうよう)の家」の出身である。 分家は本家の決定に従属する立場にあり、危険な任務や「時の歪み」から発生する「クロノクライム」と呼ばれる怪異の討伐を主な任務としてきた。 もみじも幼少期から厳格な訓練を受け、一族の道具として「正しく」あることを徹底的に叩き込まれて育った。彼女の合理的で感情を表に出さない性格は、この頃の環境に大きく起因している。
天ノ川学園への編入 物語開始の半年前、学園都市で観測された「未確認の特異点」――すなわち主人公神楽坂ハヤトの覚醒に対応するため、時崎家本家からの「指令」により天ノ川学園に編入した。 表向きは優秀な学生だが、その真の任務はハヤトの監視、および彼が持つとされる危険なアーティファクト『クロノス・リベリオン』の確保、あるいは破壊であった。 執行委員会副委員長という立場も、学園内の情報を効率よく収集し、実力行使を円滑に行うための方便である。
作中での活躍 ***初期(第3巻~第5巻) 初登場時、神楽坂ハヤトが自らの能力を暴走させ、学園の一部を半壊させた事件(通称「黄昏事件」)に介入。 「対象の時間を固定する」能力、『刹那ノ紅葉(スタグナント・ロック)』を用いてハヤトの動きを封じ込め、圧倒的な実力差を見せつけた。 この際、「お前は危険だ。これ以上の暴走は、私が止める」と冷徹に言い放ち、ハヤトにとって最初の大きな障害となる。
その後も、ハヤトが関わる「クロノクライム」関連の事件に度々姿を現し、監視者として、時には危険を排除する執行者として行動する。 当初はハヤトや彼の仲間たち(浅倉ミコトら)と対立していたが、共に行動する中で、彼らが「時の歪み」に利用されているのではなく、自らの意志で戦っていることを知り、徐々にその認識を改めていく。
中期(第6巻~第10巻) 学園都市を襲撃した『虚ろなる影(ウロボロス)』の幹部、「“残響”のアルベド」との戦闘で転機が訪れる。 アルベドの広範囲時間汚染攻撃に対し、もみじは自らの限界を超える『刹那ノ紅葉』を展開。ハヤトたちを守る盾となるが、能力の酷使により自身も重傷を負う。 これまで「任務」としてしか戦ってこなかった彼女が、初めて「仲間を守る」という私情で能力を行使した瞬間であり、彼女の心境が大きく変化した描写とされる。
この一件以降、本家からの指令に疑問を抱き始め、監視対象であったハヤトたちと「共闘」関係を結ぶ。 執行委員会の権限を使い、『虚ろなる影』に関する情報を秘密裏に収集し、ハヤトたちに提供するようになる。
後期(第11巻~) 本家からの「神楽坂ハヤト抹殺」の最終指令に対し、明確に反逆。 ハヤトを庇い、時崎家本家からの追手である最強の執行者、時崎キリヒト(もみじの従兄にあたる)と対峙する。 現在はハヤトたちと共に『虚ろなる影』の本拠地である「虚数領域アビス」の特定と、時崎家の真の目的に迫るため、行動を続けている。
能力・戦闘スタイル ***刻印魔術「時固定」 時崎家の分家「紅葉の家」に伝わる時間操作魔術。 魔力で術式(ルーン)を構築し、対象の「時間座標」を現在時刻に固定する能力。
- 『刹那ノ紅葉(スタグナント・ロック)』 もみじの基本能力であり、代名詞的な技。 対象一体(人間、物体問わず)の時間を最大10秒間、完全に停止させる。 ただし、制約として「自身が対象を視認し続けていること」「対象が一定以上の魔力抵抗(クロノ・レジスト)を持たないこと」が条件となる。 作中では、この10秒の間に敵の布陣を崩したり、味方を安全な場所へ退避させたりと、サポート役として優秀な能力を発揮する。
- 『赤染ノ円舞(ブラッディ・ワルツ)』 応用技。自身の周囲数メートルに「時間固定領域」を展開する。 領域内に入った物体の速度を著しく低下させ、ほぼ静止状態にする防御・妨害技。 広範囲に効果が及ぶ反面、魔力消費が激しく、持続時間は3秒程度と短い。
- 『終ノ刻(ラスト・モミメント)』(※第10巻以降) 「“残響”のアルベド」戦で覚醒した、もみじの切り札。 自らの生命力(作中では「固有時間」と呼ばれる)の一部を魔力に変換し、『刹那ノ紅葉』の対象と効果時間を大幅に拡張する。 第11巻の時崎キリヒト戦では、この能力を用いてキリヒトの「未来視」による攻撃予測そのものを一時的に停止させ、一矢報いることに成功した。 使用後は極度の疲労、あるいは寿命の短縮という重い代償を伴うため、彼女自身も使用を躊躇している。
戦闘スタイル 能力の特性上、単独での攻撃力は高くない。 そのため、戦闘時は「執行委員会」から支給される魔力伝導率の高い特殊合金製の日本刀『時雨(しぐれ)』を併用する。 時間を停止させ、敵の死角に回り込み、『時雨』で急所を斬りつける、というヒットアンドアウェイ戦法を得意とする。 パーティ戦闘においては、敵の主力や厄介な能力を持つ相手を『刹那ノ紅葉』で拘束し、その間に味方が残りの敵を殲滅する、という戦術の「起点」となることが多い。
対人・因縁関係 ***神楽坂ハヤト 当初は監視・抹殺対象。彼の持つ底知れない力『クロノス・リベリオン』を危険視していた。 しかし、彼の「誰かを守るために力を振るう」という純粋な信念に触れ、一族の「道具」として生きてきた自身の生き方に疑問を持つようになる。 中盤以降は、最も信頼する戦友の一人となる。ハヤトの真っ直ぐな性格に振り回され、冷静さを失う場面も多く、読者からは「ツンデレ副委員長」と呼ばれることも。恋愛感情については作中では明確に描写されていないが、ハヤトが浅倉ミコトと親しくしていると、不機嫌になる様子が見られる。
浅倉ミコト ハヤトの幼馴染であり、同じく彼を支えるパートナー。 当初、もみじはミコトを「ハヤトに依存する弱い存在」と見ていたが、ミコトが持つ治癒能力『生命ノ賛歌(リヴァイブ・ソング)』の「時間を巻き戻す」のではなく「生命力を活性化させる」という特性を知り、時崎家の魔術とは異なるアプローチに驚愕する。 『終ノ刻』の代償を唯一癒せる可能性を持つ存在として、もみじが密かに頼りにしている側面もある。
時崎キリヒト 時崎家本家の後継者候補であり、もみじの従兄。 「時崎家の使命こそが絶対」という思想を持ち、本家に逆らったもみじを「裏切り者」として執拗に追う。 もみじが幼少期に唯一「兄」として慕っていた人物であるが、ある事件(詳細は不明)を境に冷酷な性格に変貌したとされる。 「未来視」と「時間遡行」を限定的に行使できる作中屈指の強キャラであり、もみじにとっては最大のコンプレックスの対象であり、超えるべき壁でもある。
「“残響”のアルベド」 『虚ろなる影(ウロボロス)』の幹部。 時間を「腐敗」させ、対象を塵に変える『忘却ノ砂時計(ダスト・アワーグラス)』の能力者。 もみじの「時間固定」とは対極に位置する能力であり、相性が最悪の相手。 もみじが初めて「仲間を守る」意志を見せた戦闘の相手であり、彼女の成長に大きく関わった因縁の敵。
性格と思想 ***初期 「時崎家の道具」としての教育が徹底されており、感情を排した合理的な思考を信条とする。 任務の障害となるものは、たとえ学友であっても躊躇なく排除しようとする冷徹さを持っていた。 彼女の口癖である「それは合理的ではない」は、あらゆる物事を任務遂行の可否で判断していた初期の彼女を象徴する言葉である。 一方で、旧校舎に住み着いた野良猫に密かに餌を与えるなど、根来の優しさを隠し持っている描写も初期から存在した。
中期以降 神楽坂ハヤトたちとの出会いにより、「任務」や「一族の使命」といった他者から与えられた価値観に縛られていた自身を自覚する。 「“残響”のアルベド」戦での「死の恐怖」と、それを上回る「仲間を失う恐怖」を経験したことで、自らの意志で「守りたいものを守る」という新たな行動理念を確立した。
以降は、以前の冷徹さは影を潜め、仲間を思いやる言動が増える。 特にハヤトに対しては過保護とも言える対応を見せることもあり、浅倉ミコトからからかわれる場面も多い。 一方で、生真面目な性格は変わっておらず、戦闘では常に冷静な分析を行い、チームの参謀役も務める。 時崎家の「業」と向き合い、本家に反逆した現在は、自らの行動が未来にどのような影響を与えるかを常に模索している。
物語への影響 時崎もみじは、『クロノス・レギオン』の物語において、「管理される時間」から「自ら選択する未来」へとテーマを移行させる上で、不可欠な役割を果たしている。
初期において彼女は、主人公神楽坂ハヤトの「自由な意志」と対立する「秩序」や「宿命」の象徴であった。 彼女がハヤトたちと和解し、共闘するプロセスは、主人公サイドが時崎家や『虚ろなる影』といった巨大な「運命」に立ち向かうための第一歩を意味していた。
また、彼女の存在は「時間操作能力」の多様性を示している。 主人公の暴走する力、敵幹部の腐敗させる力に対し、もみじの「固定する力」は、戦術的な幅を大きく広げた。彼女の能力がなければ突破できなかった局面は数多く、物語の展開において重要なキーパーソンとなっている。 本家との対立が明確になった現在、彼女の動向が時崎家という巨大な組織の内部崩壊、あるいは変革に繋がる可能性も示唆されており、最終局面においても物語の根幹に関わるキャラクターの一人であると言える。
