レイリ・モザリは、都市国家「アエテルブルグ」の治安維持組織である中央情報局に所属する人物です。階級は第一級監査官であり、主な任務は、市民の精神活動を接続する「サイキ・ネット」の監視と、違法な情報アクセスの取り締まりです。物語においては、当初は主人公たちの前に立ちはだかる追跡者として登場しますが、中盤以降は都市の根幹に関わる秘密に触れ、その立ち位置を変化させていきます。彼女はサイキ・ネットに対する高い適性を持ち、局内でも有数の情報処理能力を持つ監査官として知られています。
彼女の出身は、アエテルブルグの下層にあたる外周区です。幼少期、彼女の両親はサイキ・ネットを通じて禁止区域のデータにアクセスしたとして、情報局によって「浄化」処分を受けています。この出来事は彼女のその後の人生に大きな影響を与えました。レイリは、両親が処分された原因は無秩序な情報の氾濫にあると考え、秩序を維持する側、すなわち情報局に入ることを決意します。アカデミーでは優秀な成績を収め、特にサイキ・ネットの構造解析とダイブ技術において高い評価を受けました。特に、従来の手法では検知が困難だった微弱な情報ノイズから違法ダイバーの痕跡を特定する技術を開発し、これが局上層部に認められました。卒業後は最短記録で昇進を重ね、第一級監査官の地位に就任しました。彼女の厳格な職務遂行は、過去の経験に基づいています。
物語の序盤において、レイリは違法なデータ・ダイバーである主人公、カイトの追跡任務を担当します。彼女はカイトの行動パターンを論理的に分析し、何度も彼を追い詰めます。特に「旧市街区画データゴースト事件」では、彼女はカイトの逃走経路を先読みし、物理的に包囲網を敷くなど、論理的な追跡能力の高さを見せました。しかし、カイトの予測不可能な行動や、外部の協力者の介入により、決定的な拘束には至りません。追跡を続ける過程で、レイリは情報局の内部データベースに、不自然な改ざんの痕跡を発見します。当初はカイト、あるいは彼が所属する反体制組織の仕業だと考えていましたが、調査を進めるうちに、アクセス元が局の最高幹部レベルからであることを突き止めます。
物語の中盤、彼女は自身の両親に関する処分の記録を再調査します。その結果、両親がアクセスしたのは反社会的なデータではなく、サイキ・ネットに隠された都市管理用プログラム「プロトコル・ゼロ」の存在であったことを知ります。この事実は、彼女が信じてきた情報局の正当性を揺るがすものとなります。レイリは自身の職務と信念の間で葛藤しますが、最終的にはプロトコル・ゼロの全容を解明することを選びます。
終盤では、彼女は局の監視をかいくぐり、カイトに対して匿名の情報提供者として接触します。プロトコル・ゼロを停止させるため、内部からでなければアクセスできないセキュリティ・ゲートの情報や、局の追跡を回避するためのデータをカイトに渡します。最終決戦において、彼女は監査官の権限を利用して局のシステムに意図的な混乱を生じさせ、カイトたちが中枢部に到達する時間を稼ぎました。
主人公のカイトとは、当初は監査官と追跡対象という明確な敵対関係にありました。レイリはカイトの行動を「秩序を乱す危険なもの」と見なし、カイトはレイリを「システムの盲目的な番人」と捉えていました。しかし、共通の目的であるプロトコル・ゼロの解明を通じて、利害の一致から協力関係へと移行します。彼女がカイトの技術を評価する場面も見られますが、最後まで互いの思想的な違いは残りました。
中央情報局の局長であるヴァレリウスは、レイリの上官です。レイリは当初、ヴァレリウスの秩序維持に対する強い姿勢に共感し、忠誠を誓っていました。しかし、プロトコル・ゼロの存在を知り、ヴァレリウスがそれを市民の管理強化のために利用していることを突き止めたことで、関係は決裂します。ヴァレリウスは、レイリの行動を裏切りと見なします。
また、外周区時代の幼なじみであるエラーラは、情報局のデータ保管庫で働くアーキビストです。エラーラはカイトたちの活動に密かに協力しており、レイリとカイトの間で情報を仲介する役割を果たしました。エラーラの存在が、レイリがカイト側と接触するきっかけの一つとなります。
レイリ・モザリは、論理的かつ冷静沈着な人物として描かれています。彼女は感情的な判断を嫌い、常にデータと規則に基づいて行動することを信条としています。これは、幼少期に感情的な行動(と彼女が解釈した両親の行動)によって家庭が崩壊したという過去の経験に起因しています。彼女の行動原理は「社会全体の安定」であり、そのためには個人の自由や感情はある程度制限されるべきだという考えを持っていました。
彼女は情報局の理念である「管理された情報による平和」を体現する存在でした。しかし、物語を通じて、その管理体制自体が腐敗し、個人の欲望のために利用されているという現実に直面します。彼女の思想は、硬直した秩序の信奉から、「真実の探求」へと変化していきます。ただし、彼女はカイトたちのように既存の体制を完全に破壊することを望んだわけではなく、あくまでシステムを内部から是正しようとする立場を取り続けました。
レイリ・モザリの物語への影響は、主に二つの側面にあります。一つは、物語の核心である「プロトコル・ゼロ」の存在を主人公側に明らかにした点です。彼女が内部から情報を提供しなければ、カイトたちはアエテルブルグのシステムの深層に到達することは困難であったと推測されます。彼女は、物語における「内部からの告発者」としての役割を担っています。
もう一つは、アエテルブルグの管理体制の持つ問題点を、体制側の人間の視点から浮き彫りにした点です。彼女の葛藤と最終的な行動の変化は、主人公たちとは異なる形で、都市システムの矛盾を提示します。彼女の存在は、物語のテーマである「秩序と自由の対立」において、秩序側の人間にも正義や信念があること、そしてその秩序がいかにして崩壊し得るかを示す役割を果たしました。彼女の行動の結果、中央情報局は大幅な改編を余儀なくされ、アエテルブルグの社会構造に変化をもたらすきっかけとなりました。物語の結末において、彼女は局に残ることを選択しますが、それはかつてのような盲目的な忠誠からではなく、内部からシステムの透明性を確保するという新しい目的のためでした。