ヘレナ・ブラント - 架空アニメキャラ用語辞典

ヘレナ・ブラントは、漫画およびアニメ『青の祓魔師』に登場する、正十字騎士團ドイツ支部に所属する上一級祓魔師。
銀髪を携え、巨大な剣と銃を手に悪魔を滅する姿から、“銀の魔女（ズィルヴァーネ・ヘクセ）”の異名で知られる。悪魔、特に上位悪魔に対して一切の妥協を許さない苛烈な思想を持つ、若きエリートである。

概要
正十字騎士團の中でも、特に強力な悪魔との戦闘を専門とするドイツ支部の特務部隊に所属する祓魔師。21歳。
取得している称号（マイスター）は、剣で戦う「騎士（ナイト）」と銃火器を扱う「竜騎士（ドラグーン）」で、その両方を極めた戦闘のエキスパート。
悪魔、とりわけ虚無界の王（バール）とその眷属に対して異常なまでの憎悪を抱いており、サタンの息子である奥村燐を最大の敵性存在とみなし、その命を狙っている。
使用する武器は、聖なる力を帯びた大剣と対悪魔ライフルに変形する複合武装「グラム」。

生い立ちと背景
名門ブラント家の悲劇
ヘレナは、ドイツにおいて何世代にもわたり高位の悪魔、特に吸血鬼や人狼といった系統の悪魔を専門に祓ってきた名門、ブラント家の出身である。彼女自身も幼い頃からその才能を示し、将来は一族を率いる存在になるだろうと期待されていた。

しかし、彼女が15歳の時、その運命は一変する。ブラント家が管轄する領域に、虚無界の王（バール）の一角である地の王アマイモンの眷属とされる上位悪魔が出現。一族は総出でこれにあたったが、戦闘の最中、ヘレナが最も尊敬していた兄が悪魔に憑依されてしまう。
暴走し、かつての仲間に牙を剥く兄を前に、他の祓魔師たちが躊躇する中、ヘレナは自らの手で兄を討ち果たした。この事件により、ブラント家はその責を問われて没落。彼女は英雄であると同時に、兄殺しの烙印を押された。

悪魔への絶対的な憎悪
この悲劇は、彼女の心に深い傷と、決して消えることのない憎しみを植え付けた。「悪魔に心などない。彼らはただ奪い、破壊するだけの存在だ」「力を持つ悪魔との共存などありえない」。この考えが、彼女の全ての行動原理となっている。
特に、人の心に付け入り、体を乗っ取る憑依を得意とする悪魔や、人の形をして人を欺く悪魔の王（バール）に対しては、異常なまでの敵愾心を示す。彼女が祓魔師として戦い続ける理由は、世界平和のためという大義よりも、二度と自分のような悲劇を生まないために、全ての元凶たる上位悪魔を根絶やしにするという、極めて個人的な復讐心に基づいている。

作中での活躍
日本支部への派遣
彼女が物語に登場するのは、京都・不浄王編の終了後、騎士團上層部がサタンの息子の存在を本格的に問題視し始めた時期である。ヴァチカンからの特命を受け、彼女は「サタンの仔の危険性評価および、必要と判断した場合の即時処分」という密命を帯びて、正十字学園に派遣されてくる。

奥村燐との対立
学園に到着したヘレナは、祓魔塾の候補生（エクスワイア）たちの前に、臨時教官として姿を現す。彼女は、模擬戦闘訓練において、燐が青い炎の力を制御しきれていないことを見抜き、情け容赦のない猛攻を仕掛ける。
「その力は仲間を守るものではない、いずれ全てを焼き尽くす災厄だ」と断じ、彼の存在そのものを否定。以降、燐に対して事あるごとに監視の目を光らせ、時には公然と敵意を向け、彼の祓魔師としての資格を問い続ける、最大の障害の一人として立ちはだかる。

メフィスト・フェレスへの反逆
ヘレナは、日本支部の支部長でありながら悪魔の王でもあるメフィスト・フェレスを「騎士團を内部から蝕む最大の癌」と断定し、一切の敬意を払わない。
騎士團の幹部会議の席で、彼の計画の危険性と、悪魔を祓魔師組織の要職に就かせていることの矛盾を、他の上一級祓魔師たちの前で公然と弾劾する。これは、メフィストの絶対的な権力に対する明確な反逆行為であり、彼女の思想の苛烈さと、目的のためには自らの立場が危うくなることも厭わない覚悟を示している。

他の登場人物との関係
奥村燐
ヘレナにとって、燐は「歩く災厄」であり、駆除すべき最優先ターゲットである。燐が仲間を思う気持ちや、人間として生きようとする意志を、彼女は「悪魔の欺瞞」と一蹴する。二人の関係は、悪魔との共存の可能性を信じる者と、それを断固として拒絶する者という、作品の根幹に関わる思想的な対立を象徴している。

メフィスト・フェレス
彼女が最も憎む悪魔の王（バール）の一人。メフィストの道化めいた言動や、本心を見せない態度を、人間を弄ぶ悪魔の悪趣味とみなし、激しく嫌悪している。彼女は、メフィストが燐を利用して何かを企んでいることを見抜いており、その計画を阻止することも自らの任務の一つと考えている。

霧隠シュラ
同じく女性の上一級祓魔師であり、騎士（ナイト）の称号を持つことから、強いライバル意識を抱いている。シュラが燐の師として、彼の力を制御し、導こうとしていることを「甘い」と批判。悪魔に情を移すシュラのやり方と、悪魔をただ滅するべき敵としか見なさないヘレナのやり方は、指導方針においても戦闘においても、度々火花を散らすことになる。

性格・思想
絶対的な殲滅主義
彼女の思想は、「悪魔、特に知性と力を持つ上位悪魔は、例外なく人類の敵であり、発見次第、即座に滅するべき」という、極めて厳格なものである。彼女の中には、対話や共存といった選択肢は存在しない。この uncompromising な姿勢は、彼女を強力な祓魔師たらしめている要因であると同時に、彼女を孤立させる原因ともなっている。

罪悪感と自己犠牲
彼女の冷徹で非情な振る舞いは、自らの手で兄を殺めたという、消えることのない罪悪感の裏返しでもある。彼女は、「あの時、もっと力があれば兄を救えたのではないか」「兄のように、誰かが悪魔の犠牲になるくらいなら、自分が全ての悪魔を滅するしかない」という強迫観念に近い使命感に囚われている。そのため、自らの命を顧みない無謀な戦いに身を投じることも少なくない。

物語への影響
騎士團内部の対立軸の明確化
ヘレナ・ブラントの登場は、正十字騎士團という組織が、一枚岩ではないことを明確に示した。燐の存在を容認し、利用しようとするメフィストや藤本獅郎のような一派に対し、彼女は、悪魔を断固として許さない保守的かつ過激な強硬派を代表する存在である。彼女の存在が、騎士團内部の政治的な対立に、より深いリアリティと緊張感をもたらした。

燐に突きつけられた「世界の声」
彼女は、燐が向き合わなければならない「世界からの拒絶」を、最も純粋な形で体現したキャラクターである。仲間たちに受け入れられ、少しずつ居場所を見つけ始めた燐にとって、ヘレナの抱く根源的な憎悪と拒絶は、自らの出自がいかに世界にとって異質であるかを改めて突きつける、厳しい試練となる。
彼女の存在は、燐が「人間と悪魔の架け橋になる」という理想を追い求める上で、避けては通れない、最も高い壁の一つとして物語に大きく貢献している。