長澤 恵美 - 架空アニメキャラ用語辞典

長澤 恵美（ながさわ えみ）は、PlayStation4用ゲームソフト『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』の追加シナリオである「3学期」に登場する、怪盗団の新たな仲間。
内気で気弱な性格だが、優れた洞察力と、誰よりも強い「真実」への渇望を胸に秘めた少女。物語の最終局面において、自らの意志でペルソナ能力に覚醒する。
怪盗団でのコードネームは「エコー」。アルカナは「審判」。

概要
喜多川祐介と同じ、佼成美術高校に通う2年生の少女。17歳。
ウェーブのかかった髪を三つ編みにし、大きな眼鏡をかけている。極度の社会不安と、それに起因する吃音（きつおん）に悩まされており、他者と直接言葉を交わすことが非常に苦手。普段は、スマートフォンへのテキスト入力や、筆談でコミュニケーションを取ることが多い。
しかし、その物静かな外見とは裏腹に、極めて明晰な頭脳と鋭い分析力を持つ。物語の最終局面で発生した、東京の「異変」の違和感に誰よりも早く気づき、主人公たちに接触を図る。
ペルソナは、ギリシャ神話の妖精の名を冠した「エコー」。

生い立ちと背景
完璧な兄の影
恵美は、幼い頃から常に、数歳年上の完璧な兄と比較されて育った。彼女の兄は、容姿端麗、成績優秀、そしてカリスマ的な弁論術を持つ、絵に描いたような好青年であった。学生時代は常に生徒会長を務め、卒業後は若くして政界入りを果たした、まさに一族の誇りとも言える存在だった。
両親や親戚は、事あるごとに内気で口下手な恵美を、その完璧な兄と比べ、「お前は兄さんと違って」「もっと兄さんを見習いなさい」と、無意識のうちに彼女の自尊心を削り取っていった。この長年にわたる精神的なプレッシャーが、彼女の社会不安と吃音を悪化させる大きな原因となった。彼女は、自らの意見を口にすることを諦め、本の中にだけ自分の居場所を見出すようになっていった。

静かなる観測者
自分の意見を表明することはできないが、彼女は優れた観察眼を持っていた。物語本編で怪盗団が世間を騒がせていた頃、彼女はマスコミの報道や、ネット上の噂の断片から、独自の分析を行い、怪盗団の真の目的や、その正体が自分たちと同じ高校生であるという事実に、極めて早い段階で気づいていた数少ない人物の一人である。
彼女は、怪盗団が決して世間で言われるような悪人ではないこと、そして、自分には到底できない「歪んだ大人社会への反逆」を実践している彼らに対し、密かな共感と憧れを抱いていた。しかし、自らの無力さから、その事実を誰かに告げることも、彼らに接触することもできず、ただ事態の推移を静かに見守ることしかできなかった。

作中での活躍
「完璧な世界」への違和感
彼女が物語の表舞台に立つのは、「3学期」で、東京が謎の認知存在によって「誰もが幸福な世界」へと作り変えられた後のことである。
この新しい現実では、彼女を長年苦しめてきた吃音は完全に消え、彼女は学校のディベート部でエースとして活躍する、明朗快活で雄弁な少女へと変貌していた。兄もまた、理想に燃える清廉な政治家として、国民から絶大な支持を得ていた。誰もが幸福で、誰もが理想の自分を生きる世界。
しかし、恵美の明晰な頭脳は、その完璧な世界に、拭い去ることのできない「違和感」を感じ取る。「これは、本当に私が望んだ私なのか？」「苦しみから解放されたけれど、これは『本当』の私じゃない」。この認知のズレが、彼女が作り変えられた世界の真実に気づくきっかけとなった。

ペルソナの覚醒
彼女は、自らの分析に基づき、同じく世界の異変に気づいているであろう怪盗団、すなわち主人公に接触を図る。そして、世界の異変の中心であるパレスに同行した際、彼女は自らのシャドウ、すなわち「理想の世界で、幸福を享受する完璧な自分自身」と対峙することになる。
シャドウは彼女に問いかける。「吃音に苦しむ現実と、誰からも愛されるこの現実、どちらが幸福か？」と。この問いに対し、彼女は震える声で、「たとえ…苦しくても、自分の足で、自分の声で、本当の人生を生きたい…！」と叫ぶ。その決意が引き金となり、彼女の心の力、ペルソナ「エコー」が覚醒した。
以降、彼女は怪盗団の新たな仲間「エコー」として、偽りの現実を打ち破り、真実の世界を取り戻すための最後の戦いに身を投じる。

怪盗「エコー」として
戦闘スタイルと能力
コードネーム「エコー」は、彼女の初期ペルソナの名に由来する。戦闘での武器は、音叉を模した一対の短剣。
ペルソナ「エコー」、およびその進化形である「カッサンドラ」は、音波や声、振動を操る特殊なスキルを得意とする、後方支援・妨害（サポート・デバフ）タイプのペルソナである。
敵全体を状態異常「混乱」や「忘却」にするスキルや、味方一人の次の魔法攻撃の威力を倍増させる「レゾナンス」、敵のクリティカル率や回避率を低下させる固有スキル「偽証」など、戦況を有利にコントロールするための、多彩な補助スキルを習得する。

ペルソナの由来
初期ペルソナ「エコー」は、ギリシャ神話に登場する、他人の言葉を繰り返すことしかできなくなった妖精の名。これは、自分の言葉で意見を言えなかった、彼女の過去を象徴している。
最終ペルソナ「カッサンドラ」は、同じくギリシャ神話に登場する、真実の予言を告げるが、誰からも信じてもらえない呪いをかけられた悲劇の王女の名。これは、たとえ世界に受け入れられなくても、自らの信じる「真実」を叫び続けるという、彼女の成長と決意を象徴している。

他の登場人物との関係
主人公（ジョーカー）
吃音や内気な性格といった表面的な部分ではなく、その内にある知性や洞察力を最初から評価してくれた主人公に対し、絶対的な信頼を寄せている。彼がリーダーだからこそ、彼女は勇気を出して戦うことができた。
彼女のコープ活動は、主人公の助けを借りながら、現実世界で少しずつ自分の「声」を取り戻していく物語として描かれる。最初は筆談でしか会話できなかった彼女が、最終的には自らの声で、主人公に感謝の言葉を告げるシーンは、このコープのクライマックスである。

喜多川 祐介
同じ佼成美術高校に通う先輩後輩だが、当初は互いを認識していなかった。祐介は、恵美の持つ「現実での臆病な自分」と「異世界での理知的な自分」という二面性に強い芸術的インスピレーションを感じ、彼女をモデルに「内なる声」というテーマの作品を描こうとする。二人は、周囲から少し浮いた「変人」同士として、独特の美的センスで共感しあう。

佐倉 双葉
双葉とは、共にコミュニケーションが苦手なインドア派として、すぐに意気投合する。二人の会話は、主にスマートフォンのチャットアプリを通じて行われ、そのタイピング速度と内容は、他のメンバーには到底理解できないほどの高速で専門的。情報収集やハッキングにおいて、二人は怪盗団の最強の頭脳コンビとなる。

性格・思想
「語られざる真実」へのこだわり
彼女の行動原理は、常に「真実」への強いこだわりにある。たとえそれが、耳障りの良い嘘よりも、ずっと苦しく、厳しいものであったとしても、彼女は偽りの幸福よりも、不完全な真実を選ぶ。
これは、彼女が常に完璧な兄と比較され、本当の自分を押し殺して生きてきた反動でもある。彼女の戦いは、世界の真実を取り戻す戦いであると同時に、偽りの自分を脱ぎ捨て、「長澤恵美」という一人の人間の、ありのままの真実を取り戻すための戦いであった。

不完全さを受け入れる勇気
物語の最終局面で、敵が提示する「誰もが幸福になる完璧な世界」を、怪盗団の中で最も論理的に、そして最も強く否定したのが彼女である。「欠点や苦しみがあるからこそ、それを乗り越えようとする意志が生まれる」「完璧な幸福は、思考の停止と同じ」という彼女の言葉は、仲間たちの迷いを断ち切り、困難な現実と戦う覚悟を改めて固めさせる、重要な役割を果たした。

物語への影響
3学期のテーマを象徴する存在
長澤恵美というキャラクターは、『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』の3学期で描かれる「厳しい現実か、偽りの幸福か」という中心的なテーマを、プレイヤーに最も分かりやすく提示する役割を担っている。彼女自身の物語が、まさにそのテーマの縮図となっているからだ。
彼女が偽りの幸福を拒絶し、怪盗団に加わるという決断は、物語の最終的な結末の方向性を決定づける、極めて重要なターニングポイントである。

怪盗団の最後のピース
彼女の加入は、怪盗団のテーマである「反逆」に、新たな側面を加えた。これまでのメンバーが、社会や大人といった「外部からの抑圧」に対して反逆してきたのに対し、恵美の戦いは、社会不安や自己否定といった「内部からの抑圧」に対する反逆である。
彼女という最後のピースが加わることで、「心の怪盗団」は、あらゆる形の抑圧から人々を解放するという、その名の意味を、真に完成させるのである。