景近 - 架空アニメキャラ用語辞典

景近（かげちか）は、アクアプラスによるゲームソフト『うたわれるもの 偽りの仮面』および、そのアニメ版に登場する人物。
帝都で最も名高い劇団「泡沫（うたかた）」を率いる、天才的な劇作家である。その裏では、大國ヤマトの政治に深く関わる、密偵としての一面も持つ。

概要
ヤマト帝都の社交界において、その名を知らぬ者はいないとされる人気劇団「泡沫」の座長。年齢は30代前半。
狐を思わせる耳と、雅やかな銀色の尾を持つ。常に優美な着こなしで、物腰も柔らかく、その言動はまるで彼が書く戯曲の一節のように詩的で、含みがある。
彼が書く物語は、英雄譚から悲恋、政治的な風刺まで多岐にわたり、帝都の民衆だけでなく、多くの皇族や貴族たちをも魅了している。
しかし、その華やかな表の顔とは別に、彼はヤマト八柱将の一人、トキフサに仕える密偵であり、帝都に集まるあらゆる情報を収集・分析する、恐るべき観察眼の持ち主である。

生い立ちと背景
物語で命を繋いだ孤児
景近の出自は、帝都の華やかな世界とは程遠い、戦乱で滅びた辺境の小村である。幼い頃、國同士の小競り合いに巻き込まれて村は焼き払われ、彼は天涯孤独の身となった。
戦災孤児として各地を放浪する中で、彼は生き抜くための唯一の術を身につける。それは、「物語を語る」ことであった。彼は、他の孤児たちに自作の物語を聞かせることで、わずかな食料や寝床を得て、かろうじて命を繋いでいた。この経験から、彼は「人の心を動かす物語は、時として剣よりも強い力を持つ」という、自らの哲学の原点を学ぶことになる。

トキフサとの出会い
そんな彼を拾い上げたのが、当時まだ将軍ではなかった、若き日のトキフサであった。トキフサは、景近が持つ、人の心の機微を読み解く天賦の才と、物事を俯瞰して物語として再構成する知性を見抜いた。
トキフサに引き取られた景近は、読み書きから、歴史、政治、そして諜報の術に至るまで、生きるために必要なあらゆる知識を叩き込まれる。そして、トキフサの命により、彼は帝都に赴き、劇団「泡沫」を立ち上げた。
劇作家という立場は、貴族の秘密、民衆の噂、そして役人たちの企みといった、帝都に渦巻く情報を、誰に怪しまれることもなく収集するための、完璧な隠れ蓑だったのである。彼の書く戯曲の登場人物や筋書きの多くは、彼が密偵として得た、生々しい人間模様が元になっている。

作中での活躍
帝都の案内人として
物語中盤、ハクたちが帝都を訪れた際に、彼は初めてその姿を現す。帝都で最も有名な文化人として、彼はハクたちを自らの劇に招待し、帝都の文化や、複雑な貴族社会のしきたりなどを、面白おかしく解説する、親切な案内人として振る舞う。
特に、記憶を失い、この世界の常識に疎いハクにとって、彼の存在は、帝都という巨大な舞台で立ち回るための、重要な情報源となった。

水面下の暗躍
しかし、その親しげな態度の裏で、彼はトキフサの目となり耳となり、ハクたちの動向を逐一監視していた。彼は、ハクが持つ、常人離れした頭脳と、その出自の謎に強い興味を抱く。
彼は、時にハクを試すかのように、意図的に不確かな情報を流したり、対立する貴族の情報をリークしたりと、水面下で暗躍する。彼の目的は、ハクという規格外の「役者」が、ヤマトという舞台にどのような混乱と変化をもたらすのか、それを間近で観察することにあった。

正体の露見
物語が、ヤマトの皇位継承を巡る政治的な動乱に突入すると、彼の本当の立場が明らかになる。トキフサが、オシュトルやミカヅチといった他の八柱将と対立する派閥の長として本格的に動き出すと、景近もまた、単なる劇作家ではなく、トキフサの腹心として、情報戦の最前線に立つことになる。
友好的な文化人から、冷徹な策略家へと変貌した彼の姿は、ハクたちに、帝都の政治の恐ろしさと、これまで信じていたものが、全て誰かの描いた筋書きの上にあったのかもしれないという、深い疑念を抱かせる。

他の登場人物との関係
ハク
景近は、ハクのことを「作者の意図を超えて、物語を面白くしてくれる、最高の主人公」と評し、強い執着を見せる。彼は、ハクの怠惰な振る舞いの裏に隠された、底知れない知性といち早く気づき、自らと同じ「観察者」としての資質を感じ取っていた。二人の会話は、常に互いの腹を探り合う、高度な頭脳戦となる。

オシュトル（ウコン）
表向きは、互いの立場を尊重しあう友人関係。ウコンとして身分を隠している頃のオシュトルは、よく景近の芝居を観に訪れていた。しかし、その裏では、景近はトキフサの命により、オシュトルの動向を常に監視していた。
景近は、オシュトルの持つ、あまりに実直で、自己犠牲的な正義感を「悲劇の主人公にふさわしい」と評しており、その生き様に、ある種の敬意と、そして憐れみを抱いている。

クオン
クオンが、かの大國トゥスクルの皇女であるという事実は、彼の情報網によって、かなり早い段階で知られていた。彼は、クオンの存在が、ヤマトの物語を根底から覆しかねない、最大の「不確定要素」であると理解しており、彼女に対しては常に最大限の警戒を払い、決して深入りしようとはしなかった。

トキフサ
幼い頃に自分を拾い、生きる術を与えてくれた、唯一無二の主君。景近の忠誠心は、全てトキフサ個人に向けられている。彼が密偵として働くのは、トキフサの描く「ヤマトの新たな物語」を実現させるためであり、そのためならば、自らが物語の「悪役」となることも厭わない。

性格・思想
「世界は一つの舞台である」
彼の根幹をなす思想は、この世の全ての出来事は、一つの壮大な演劇である、というものである。彼は、戦争も、政治も、恋愛も、全てを「物語」の構成要素として捉える。そのため、個々の出来事の善悪や、倫理にはあまり関心がなく、それがいかに「面白い物語」を生み出すか、という独自の価値基準で物事を判断する。
この視点は、彼に、常人にはない冷静な大局観を与える一方で、他者の命や感情を、物語を盛り上げるための駒のように見てしまうという、非情な側面をもたらしている。

芸術家としての矜持と、密偵としての諦観
彼は、芸術家として「美しい物語」を愛している。特に、私欲を捨てて大義のために生きる、オシュトルのような人物の生き様には、素直な感動を覚える。
しかし、密偵として数多の人間たちの醜い欲望や裏切りを見てきた彼は、そのような美しい物語が、現実の世界ではほとんどの場合、悲劇的な結末を迎えることも熟知している。この、理想を愛しながらも、現実を冷徹に見つめる二面性が、彼のキャラクターに深い奥行きを与えている。

物語への影響
帝都の政治劇の象徴
景近というキャラクターは、『偽りの仮面』の物語が、単なる冒険活劇から、複雑な政治群像劇へと深化していく上で、極めて重要な役割を果たした。彼の存在を通じて、プレイヤーは、ヤマト八柱将の間の水面下の権力闘争や、帝都に渦巻く陰謀を、より具体的に知ることができる。彼は、物語の舞台裏をプレイヤーに見せる、案内人のような存在である。

ハクの対になる存在
彼は、主人公ハクにとって、ある種の「鏡」のような存在でもある。ハクが、流されるままに物語の「当事者」となっていくのに対し、景近は、常に物語の外から、全てを操ろうとする「作者」の視点に立とうとする。
「観察者」としての資質を持つ二人が、物語の「内」と「外」という、異なる立場から、ヤマトという国が迎える結末にどう影響を与えていくのか。この対比は、本作の大きな見どころの一つとなっている。