導きの令呪 ◆LuuKRM2PEg
見月そはらの命を奪った外道、織斑一夏を見つけるために
セイバーは空美中学校に訪れたが、そこには誰もいない。
仲間である
阿万音鈴羽を連れて、ここまで来なければならないと無意識の内に感じていたが、今になって思うと何故そうなったのかがわからなかった。一夏を追うとはいえ、どうして突き動かされるように学校まで来たのかという疑問はあるが、深く考えても仕方がない。
セイバー自身は知らないが、ここはマスターである
衛宮切嗣が復活した令呪を使ってセイバーの召喚を命じた場所だった。制限によって内容は完全には届いていなかったが、それでも切嗣の意図だけは伝わっていたので、彼女は鈴羽と共にここまで来ている。
尤も、そのせいで本来の敵である織斑一夏に化けた怪物強盗XがいるD-3エリアとは、正反対の場所に進んでしまったが。
「一応、この部屋で最後だけど……やっぱり誰もいないみたいだね」
「ええ……ですがスズハ、どうか油断をしないように。敵はあの外道だけではないのですから」
「わかってるよ……あたしだって、もうあんなことは嫌だからさ」
鈴羽の表情が微かに曇るのを見て、セイバーはほんの少しだけ罪悪感を抱く。そはらを犠牲にしてしまった悲しみが残っているのはわかるが、だからこそ釘を刺す必要があった。
鈴羽が隙を見せるような人物ではないことはわかっているが、やはり普通の人間でしかない。サーヴァントのような存在が跋扈するこの殺し合いでは、魔術師でもない彼女が生き残れるのかどうか、セイバーは不安だった。
そして、油断をしてはいけないのは私自身も同じだと、セイバーは心の中で呟く。これから戦場は夜の闇に包まれるので、その機に乗じて不意を仕掛けてくるような下劣な者が出てくるかもしれない。例えるなら織斑一夏や……あの衛宮切嗣のように。
(特に切嗣は何としてでも止めなくては……彼は放置したら何をしでかすかわからない。アイリスフィールには悪いが、いざという時の覚悟も必要か)
恐らく切嗣は生き残るためならば、どんな手段でも取るだろう。それも、そはらや鈴羽のような未来ある少女を捨て駒として利用するような、考えるだけでも反吐が出る行為を。
もしも奴が一夏のように誰かを犠牲にするのならば、この手で斬ることも考えなければならない。無論、アイリスフィールのためにもできる限り、何事も起こさせないように力を尽くすしかないが。
「スズハ、そろそろ行きましょう……もうここには、誰もいないようですから」
「そうだね。みんな、無事だといいけど……」
その言葉には同意したかったが、あの切嗣の無事を願うことにセイバーは抵抗を抱いてしまう。奴がいなければ聖杯戦争で不利になるのはわかっているが、それでも信用することはできない。
(だが、ここでいつまでも考えていても仕方がない……今は切嗣よりも、あの外道を追わなければ)
ここにいないマスターのことなど考えたところで何の意味もないから、今は殺し合いを止めることを第一に考えなければならなかった。
そう思案を巡らせているセイバーは、すぐ近くの森林に目を向けている。木々が生い茂っていて、身体を休める為に隠れるには絶好の場所かもしれないがそこまで広くない。だから、探そうと思えばすぐに見つけられるかもしれなかった。
「ねえセイバー、君はさっきからあの森をずっと眺めてるけど……もしかして、気になるの?」
そんなセイバーの気持ちを察したのか、鈴羽が声をかけてくる。
「なら、あそこに行ってみる?」
「いいのですか?」
「どうせ行く宛もないし、何よりああいう所ならば隠れるには絶好の場所かもしれないしさ。今はあいつを追うことを、最優先にしよう?」
「ですね……しかし、気を付けてください。織斑一夏でなくとも、森の闇に乗じて不意を仕掛けてくる輩は大勢いるのですから」
「わかってるよ。あたしだって、油断する気はないって……そはらの為にも、ね」
「……わかりました」
何処となく寂しげな表情を浮かべている鈴羽に対して、セイバーは静かに頷いた。
これからの時間、どんどん暗くなるのだから何としてでも鈴羽を守らなければならない。もしも彼女に何かがあっては
岡部倫太郎という者達に顔向けができないし、何よりもそはらの遺志を無駄にしてしまう。
辺りを包みこむ闇すらも照らすような眩い決意を胸にしながら、鈴羽と共にトライドベンダーに乗り込んだセイバーは、エンジンを力強く唸らせた。
その道が、マスターである衛宮切嗣が進んだ道と全く同じであることをセイバーは知らない。切嗣が使った令呪の影響なのか、無意識のうちに彼女は彼の元に向かうかのように進んでいたのだった。
仲間を連れて、衛宮切嗣の元に召喚。それは彼女にどんな影響を与えるのかは、まだ誰もわからなかった。
○○○
建物の外に生い茂っている緑豊かな森から、ゆっくりと涼しい風が吹きつけているが、どれだけその身に浴びても阿万音鈴羽の心はちっとも穏やかになれない。見月そはらが死んでから、ずっと鈴羽は落ち込んでいた。
そはらを殺したこの世界にあるもの全てが、作り物のように見えてしまう。先程まで素晴らしいと思っていた空見町も、結局はあの真木清人の息がかかった複製コピーなのだ。
彼女が住んでいる本当の空見町は素敵な場所かもしれないからこそ、それを汚したグリード達に対する憤りが強くなってしまう。しかし、一時の感情に支配されては不意を突かれてしまうかもしれないと考えて、鈴羽は湧き上がる憤りを抑えた。
怒りや苛立ちは、視野を狭める上にいざという時の判断を誤らせてしまう恐れのある悪い感情。それに胸を満たしてはいざという時、最悪の事態を引き起こす恐れがあった。
故に鈴羽は深呼吸をする事で自分の精神を落ち着かせて、改めて前に進む。石造りの廊下は、まるで毎日誰かが掃除をしているかのように綺麗で、埃が全く見当たらない。そんな様子からは人の住んでいる雰囲気が全く感じられず、まるで自分が生まれた時代に戻ったかのようだった。
ディストピアとなった嫌な世界、そしてワルキューレのみんなが殺されてしまう光景が脳裏に蘇ってしまい鈴羽は一瞬だけ表情を顰めてしまう。
きっかけを作った真木清人に対する憤りを覚えるが、それを振り払う為に隣を歩くセイバーに振り向いた。
「ねえセイバー、やっぱりここは君が知っているアインツベルン城って所と同じなのかな?」
「ええ……気味の悪いほど似ています。まるで、そのまま城をこちらに持ってきたと言っても過言ではありません」
「そうなんだ……」
鈴羽は軽く頷きながら、周囲に目を配る。
セイバーが言うには、地図に書かれていなかったこのアインツベルン城という建物は本来、冬木という町の山奥に建てられているらしい。だが、それが何の関係もないこんな森の中にある。せめて
マップ上部の冬木を模したエリアならまだわかるが、どうして空見町にあるのか?
だが、ここでそれを解明しようとしても意味はない。そもそも主催者達が何を考えて殺し合いを強制させたのかもわからないから、戦場の配置について考えても仕方がなかった。
(まさか、あの真木って奴はみんなの思い出を汚すためだけに、町や建物をそっくりそのままコピーしてるの……?)
しかし鈴羽は、不意に心の中で呟く。
この世界にはそはらの自宅やアインツベルン城だけでなく、ラボメンのみんなにとって憩いの場とも呼べる秋葉原まであった。加えて、参加者に選ばれている大切なみんな。
ここまで来ると、偶然似せたのではなく真木清人が意図的にフィールドをこんな形にして作ったとしか考えられない。そうした理由なんてまるでわからないが、どうせ碌でもないに決まっている。
もしもワルキューレのみんなが生きたアジトまでがあったら……一瞬だけそう思うも、すぐに鈴羽は思考を振り払った。あんな男の汚い手が、自由を求める為に戦ったみんなの場所にまで伸びているなんて考えたくもない。
鈴羽は警戒心を再び蘇らせながら城を見渡したが、他の参加者は一人も見当たらなかった。念の為に全ての部屋を調べたが、あの織斑一夏どころか虫一匹すらもいない。
しかし、時間を無駄にしたとは思いたくなかった。悔んでる暇があるなら、一歩でも前に進まないといけない。
「スズハ、そろそろ行きましょうか……どうやら、ここには誰もいないようなので」
そんな気持ちを察したように語るセイバーに、鈴羽は軽く頷いた。
出来ることなら、彼女はこれからもずっと味方であって欲しい。もしもセイバーまで敵になったら自分だけで止められるかはわからないし、何よりもそはらだって悲しんでしまう。
セイバーはまだ完全に信用できないが、それでも頼りになる仲間なのは確かだった。彼女がいなかったら、きっと自分はこうして生きていないかもしれない。
だから鈴羽は祈った。みんなが無事でいたまま、セイバーと力を合わせて殺し合いを打ち破れる事を。
(あと、できるなら自転車も無事だといいけど……あたしが戻るまで、そのままでいてくれたらいいなぁ)
そして、健康ランド前に置きっ放しにしていた愛用の自転車も、無事でいることを願った。
本当なら今からでも取りに戻りたいが、今は殺し合いを打ち破ることを最優先に考えなければならない。今から健康ランドに向かっても誰かがいるとは限らないし、そんな事で時間を潰すのも馬鹿馬鹿しかった。
……そんなことを考えているが、彼女はまだ知らない。
彼女が父と呼んでいた
橋田至が、怪物強盗Xの協力者である
葛西善二郎によって命を奪われている事実を。
そして、放送では確実に橋田至の名前が呼ばれる事も。彼の死を聞いた時、阿万音鈴羽は何を思うだろうか。
【一日目-夕方】
【D-1/アインツベルン城内】
【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、そはらを喪った哀しみ、織斑一夏への怒り
【首輪】195枚:0枚
【コア】サイ
【装備】なし
【道具】基本支給品、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、イエスタデイメモリ+L.C.O.G.@仮面ライダーW、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
0.見月そはらの分まで生きる。
1.知り合いと合流(岡部倫太郎と橋田至優先)。
2.
桜井智樹、イカロス、ニンフ、
アストレアと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
3.織斑一夏を警戒。油断ならない強敵。一刻も早く見つける。
4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
5.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
※見月そはらのコアメダルとセルメダルを受け継ぎました。
【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】健康、織斑一夏への義憤
【首輪】75枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破。
1.騎士として力無き者を保護する。
2.衛宮切嗣、
キャスター、
バーサーカーを警戒。
3.
ラウラ・ボーデヴィッヒと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
4.織斑一夏は外道。次に会った時は容赦なく斬る。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※セイバーが空見中学校を目指したのは衛宮切嗣が発動した、令呪の影響によるものです。
※ただし彼女自身にその自覚はなく、あくまでも無意識の内の行動に過ぎません。
【全体備考】
※アインツベルン城の外にトライドベンダー@仮面ライダーオーズが放置されています。
※二人が何処に向かうかは、後続の書き手さんにお任せします。
最終更新:2012年11月16日 23:33