ハーメルンのバイオリン弾きの最終回 (テレビアニメ版)

パンドラ「お願い…… 箱を開いて。そしてあの人を、ケストラーを…… 箱を開けて……」
ホルン「そんな……!?」

パンドラ「お願い、サイザー……」
サイザー「私は、パンドラに…… 母に愛されていた……? なのに、なのに私は……」

夫である大魔王ケストラーをパンドラの箱に封印してしまったことを後悔するパンドラ──



終わりなき ひとつの道



サイザー「私は……」

サイザーが母パンドラに触れようとするが、限界の近づいているパンドラの体は、触れただけで霧と化してゆく。

パンドラ「サイザー…… お願い…… お……ね……」

パンドラの姿が跡形もなく、完全に消えてしまう。

サイザー「母……さん……」
ギータ「そ、そんな!?」
ベース「バカめが!」
オーボゥ「な、なんということだ……」
ハーメル「パ、パンドラ母さんが…… わああぁぁ──っっ!!」

母パンドラに一瞥もされなかったハーメルが、魔族と化した姿のまま、慟哭する。

オカリナ「父上……」
オーボゥ「オカリナ…… わしらはな、妖鳳(ようほう)の翼を持つ者は、決して大魔王を魔族どもに渡さぬためだけに存在する。なぜなら大魔王とは、魔族にとっての生命の源!」
フルート「えっ!?」
ベース「ちっ!」
オーボゥ「そう、ヤツらにとって欲しいものは、大魔王としての力ではなく、その存在そのもの。大魔王は魔族たちに生きる力を与えるエサ!」
サイザー「魔族のために生きる大魔王…… それが父上、ケストラー……?」
オーボゥ「サイザー、その箱を潰せ! その箱を! さぁ、早く!」
ギータ「黙れぇぇ!」

ギータの腕が巨大な竜のような怪物と化し、オーボゥに炸裂する。

オーボゥ「ぐおおぉぉ──っ!」
ライエル「な、何っ!?」
トロン「あれは!?」
コルネット「ひ、ひどい……」
ギータ「フフフフ、ハハハハハ!」
ベース「やはり、お前だったか。道理でわしの言うことを聞かぬ死霊がいると思ったが」
ギータ「そう、超獣王(ちょうじゅうおう)は倒した者の血を食べて、相手の能力を自分のものにできるんですよ」
オーボゥ「う…… う……!?」
ギータ「残念でしたねぇ、妖鳳王オーボゥ様。どうです、ドラム様の竜の味は?」
オカリナ「ち、父上……!?」
ライエル「やめろぉぉ!」
トロン「ギータ──っ!」

ライエルたちがギータに挑むも、次々に返り討ちに遭う。

一同「わああぁぁ──っっ!?」
ギータ「ハハハハハ! もはや私には、敵などないのですよ! ハハハハハ!」

しかし、怪物と化したギータの腕の中から、ギータに喰われたはずの幻竜王(げんりゅうおう)ドラムが出現する。

ギータ「ハハ…… は?」
ドラム「待っていたぞ…… このときを! お前の血の中で、お前が俺様を解放してくれる、このときをなぁぁ!」

ドラムがギータに突撃。

ギータ「ギャアアァ──ッッ!?」

ドラムもギータも肉片となって弾き飛び、双方とも消滅し、ボロボロのオーボゥが地面に投げ出される。

オーボゥ「うぅ……」
ベース「わきまえることを知らぬ。たかがイヌの分際で」

その隙にサイザーは、箱の蓋に手をかけている。

オーボゥ「や、やめろ、サイザー! うぅっ、お前も翼を持つ天使、我々と同じ神の使い! その使命を怠れば、真の堕天使の道を歩むことになろうぞぉぉ!! やめんかぁ、サイザー!!」
サイザー「くッ…… うるさぁぁ──い!!」
一同「……!?」
サイザー「何もかも知っていたクセに、何も教えてはくれなかったクセに、勝手だ! 勝手すぎるぞ! 都合のいいときだけ、言うことを聞けというのか?」
オーボゥ「そ、それは……」
サイザー「すぐそばにいたクセに、肝心なことは何もおしえてやくれなかった……! 誰1人として……」
ホルン「確かに、私たちには何を言う資格もないのかもしれない……」
ハーメル「……」
サイザー「ねぇ、兄さん…… そう思うでしょう?」

父ケストラーの封印されている箱を、サイザーが開いてゆく。

ライエル「だ、大魔王の……」
トロン「復活……」
コルネット「これで……」
オーボゥ「世界は…… 終わるのか?」
ホルン「それも、また……」

そして箱の中身は──

サイザー「はっ……!?」

それは、鳥になれなかった鳥のように見えた

箱の中には、小さな化石のような石片。
呆然としたサイザーの手から箱が落ち、地面に転がる。一同も愕然としている。

オカリナ「サイザー……様……」
フルート「これが…… 箱の中身……? これが…… こんな、こんなもののために、私、私たち…… こんなもののために、私たち!!」

フルートがその箱の中身を拾い上げ、地面に叩きつけ、粉々に叩き割る。

ベース「ハハハハハ…… ハハハハハ!」
クラーリィ「何!?
ホルン「まさか!?」
クラーリィ「ホルン様!?」
ホルン「まさか、そのようなことが!?」
ベース「さすがはホルン、気がついたか? 箱を開き、大魔王をこの世に解放したことを!」
ホルン「はっ…… や、やはり!?」
人々「ホルン様、一体どういうことです!?」

突如、ハーメルに異変が起こる。 体から瘴気が吹き上がり、顔つきがみるみる変ってゆく。

ハーメル「グウゥッ……!」
フルート「はっ……!?」
ベース「そうだ! たとえケストラー様の姿はなくとも、大魔王として受け継がれてゆく魂は滅びぬ! 再び、その魂がハーメルという体に宿り移れば、復活は成る!!」
ライエル「そんな……!?」
フルート「ハーメル!?」
ハーメル「グウウゥゥッ……!」

変貌するハーメル目掛け、オーボゥが突撃。

オーボゥ「ハーメル、許せぇ! 今ならば、わしの命と引き換えることもできよう! 許せ、ハーメル! 大魔王を、大魔王を復活させるわけにはいかんのだぁ! 死ね、ハーメルぅぅ!!」
サイザー「させるかぁぁ!!」

サイザーがオーボゥ目がけて大鎌を振るが、ライエルが精霊を放ち、かろうじて2人の衝突は避けられる。
だがトロンとコルネットもまた、涙を流しつつ剣を手に、サイザーに挑もうとしている。

サイザー「お前たち……!?」
オーボゥ「サイザー、まだわからんのか!?」
サイザー「翼を持つ者の使命、そんなものに何の意味がある? 己の想いこそが、己の想いこそが…… 私の成すべきことを決める」

ハーメルの肉体の変貌が続く。

オカリナ「サイザー様…… 泣いていらっしゃるのですか? サイザー様……」
ベース「ハハハハハ! でかしたぞ、サイザー! もはや、こんなところに用はない! 私もそちらへ行く!」
ホルン「お待ちなさい、ベース」
ベース「むっ?」
ホルン「私の息子を、返していただきます」
パーカス「ホ、ホルン様!?」
ベース「な、何ぃ!?」
ホルン「死ね、ベース!」

ホルンとベース、双方の魔法攻撃が激突。

ベース「うおおぉぉ──っっ!」
ホルン「ああぁぁ──っっ!」
一同「ホルン様!?」「ホルン様!?」

ホルンとベース、2人とも地面に叩きつけられる。

パーカス「ホ、ホルン様……? ホルン様ぁぁ!」
ベース「う、うぅ…… か、体が動かん……」
クラーリィ「ベース! 覚悟ぉぉ!!」

クラーリィがベースに挑むが、逆にベースの魔法で吹っ飛ばされる。

ベース「バカめ! こんな操り人形のような体など動かなくとも、まだまだ貴様らなどに……」

だが、ベースが肉体として操っていたホルンの息子リュートの体が、自ら立ち上がる。

ベース「な、何!? まさか…… そのような!?」
リュート「16年…… 長かった」
ベース「き、貴様……!?」
リュート「母上の最後の法力によって、我は甦った!」
クラーリィ「……リュート様!?」
リュート「母上。ただ今、帰りました」
ホルン「リュート…… 私の息子……!」
ベース「お、おおぉぉ──っ! リュート、貴様ぁぁ──っ!!」
リュート「スフォルツェンド公国、女王ホルンはただ今をもってその王座を、正当なる第一王位継承者にして我が妹、フルートに譲り渡すことを決した! さぁ、新しき女王よ! 全世界にその威を示せ! 見事、すべての不幸を断ち切って見せよ!!」


しばし呆けていたフルートが、地面に転がっていたパンドラの箱を拾い上げる。

オーボゥ「フルート……」
サイザー「そんな……!? そんなはずはない!」
フルート「ごめんね、ハーメル…… 私…… 世界を救える、たった1人の女の子なんだって」

すでに人間とはかけ離れ、完全に魔物の姿と化したハーメル。
フルートの脳裏を、ハーメルとのさまざまな思い出がよぎる。

オーボゥ「大魔王の心を、愛を奪った者こそが、開放と封印の資格を持つ」
フルート「私、今でも…… そんな姿になっても、あなたのことが大好き!」
ハーメル「グウウゥゥッ……!」
フルート「でも、私はスフォルツェンドの女王…… 世界を救える、たった1人の女の子なの」
コルネット「姫ぇ!?」
サイザー「やめろぉぉ!」

フルート「こうすれば…… この箱の中で、あなたを私のものにできる……」


箱が完全に閉じられ、フルートは箱を、愛おしそうに抱きしめる。


サイザーはトロンとコルネットに武器を突きつけられ、閉じられた箱を前にして固まっている。
呆然として一部始終を目の当たりにしたライエル。
事切れたオーボゥ、オカリナ。


スフォルツェンドではベースが、自分の操っていたリュートの手により、塵と化していた。


すべての終わったスラー島に、サイザーは1人、取り残される。

サイザー「本当に、1人きりになってしまったのか…… 復讐、それさえ私には残されていない…… さて、どこへ行く……?」

すべてを失ったサイザーが翼をはためかせ、夕陽に向かって飛び立つ。


だが、気を落とすことはない。サイザーよ。
これでいい、これでいいのだ。
すべては再び、時が解決してくれるだろう。

なぜなら、フルートが本当にこのまま、
箱を開かずにいられると思うか?
そうだ。間違いなくフルートもまた、
パンドラと同じように、
箱を閉じたことを後悔するに違いない。
開こうとするに違いない!
フルートは心の底から、
ハーメルを愛し続けているのだから!

そのときを、そのときを楽しみに待つとしよう──


ライエルは旅一座を継ぎ、喪失感に満ちた表情で、旅を続けている。


トロンは故国ダルセーニョの王となり、コルネットを妻に迎えた。


スフォルツェンド王国。女王となったフルート。
クラーリィ、パーカス、リュートに囲まれ、笑みを失ったフルートが、ハーメルの封じられた箱を前にバイオリンを奏でている。


(『ハーメル、何してるの? もう朝ごはん食べたの? お片づけやお掃除やお洗濯は、今日じゃなくてもいいでしょ? 何グズグズして…… ──あら、なぁ~んだ。お出かけの支度してたとこなのね』)


故郷・スタカット村、丘の麓の道を行くハーメルとフルートの元に、傷だらけの老人が転げ落ちてくる。
第1話とまったく同じ光景。フルートの回想か、もう一つの物語か──?

フルート「きゃあっ!」
老人「う、うぅっ……」
フルート「ひどい……」
老人「あな……たは……」
フルート「しゃべらないで」
老人「も……もしや…… フ、フルー……」
フルート「ハーメル、何してるの? 手伝って! ねぇ、ケガしてるんだから早く!」
ハーメル「……フルート、俺は村の掟を守る。よそ者にかかわる気はない」
フルート「えっ……?」
ハーメル「急げ、フルート。今日は祭りだ」

第1話で老人を救ったときとは正反対に、2人は老人を見捨て、祭りへ向かう。


夜、スタカット村の広場での収穫祭。
音楽の演奏を一休みしたハーメルが、フルートともに長老レシクのもとへやって来る。

フルート「お爺さん!」
レシク「おぉ、フルート。ハーメルも一休みか?」
ハーメル「はい」
レシク「どうした、フルート? あまり元気がないようじゃが」
フルート「えっ? うぅん、そんなことないよ。とっても楽しい」
レシク「おぉ、そうかい。ほら、見てごらん」

星に満ちた夜空を、レシクが見上げる。

レシク「今夜は星が多い…… わしらの幸せを、祝福しているかのようじゃ」
フルート「本当、きれい……! まるで……」


星の満ちた夜空、それは不吉の前兆──


(終)

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最終更新:2014年08月06日 04:26