この世に邪悪がはびこるとき、 必ずや現れるという希望の聖闘士──
その昔、闘いの女神アテナを 常に守る少年たちがいた。 彼らは女神の聖闘士と呼ばれ、 己の肉体だけを武器として闘った。 その拳は空を引き裂き、 その蹴りは大地を割ったという。
そして今── 真の勇気と力を持った少年たちが、 新たな聖闘士として甦った!
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現代の日本。大財閥・グラード財団によって建造された闘技場、グラードコロッセオ。
ここでは聖闘士同士によるトーナメント戦「銀河戦争」が開催されていた。
聖闘士同士のすさまじい死闘に、観客たちが歓声を送る。
主催者は13歳にしてグラード財団の事実上の最高権力者、城戸沙織。
沙織「お爺様、ご念願の聖闘士による黄金聖衣争奪戦『銀河戦争』が始まりました。沙織がお爺様に代って、主催者を務めております。どうぞ天国から、ご覧になっていてくださいね…… 星矢、何をグズグズしているんです? 早くペガサスの青銅聖衣を持って帰って来なさい! ギリシアから……」
聖闘士の総本山、ギリシア・聖域の闘技場。主人公の星矢と、巨漢カシオスが対峙する。
そして聖闘士の最高指導者・教皇。
教皇「お前たちは今日まで各々5人の戦士と戦い、勝ち抜いてきた。1024人いた戦士の中で、残ったのはもはやお前たち2人のみ。さぁ闘え、2人とも! 勝者には栄誉あるアテナの聖闘士の証、このペガサスの聖衣を与えよう!」
ペガサスのレリーフの刻まれた箱。
星矢「あれがペガサスの聖衣か! あの聖衣を手に入れるため、俺ははるばるこのギリシアまで来たんだ!」
箱に見惚れる星矢の隙を突き、カシオスがいきなり星矢を吹き飛ばし、さらに片手で安々と体を掴み上げる。
星矢「うわぁっ!?」
カシオス「フハハハ! 星矢、聖衣はお前にはやらんぞ! ギリシア人であるこのカシオス様のものだからな!」
周囲でほくそ笑む兵たち。星矢の師匠である仮面の女戦士・魔鈴が飛び出す。
魔鈴「カシオス!? 不意を突くとは卑怯だぞ!」
カシオスの師匠である、同じく仮面の女戦士シャイナが返す。
シャイナ「魔鈴、闘いを前に隙を見せたほうが愚かなのだ。やれ、私のカシオス!」
カシオス「さぁ、ひと思いにこのまま握り潰してやる。いや、最後はゆっくり…… そう、お前の体を少しずつ引き裂いていこうか」
魔鈴「星矢!?」
星矢「うぅっ! くそぉ……っ!」
カシオス「まずは耳を落としてやる!!」
カシオスが拳を振り下ろす。血しぶきが飛び、耳が地面に転がる。
だがそれは星矢ではなく、カシオス自身の耳。星矢が束縛から逃れ、手刀でカシオスの耳を斬り落としていた。
カシオス「あぁ~っ!? み、耳がなくなったぁ! き、貴様ぁ!」
シャイナ (今まで感じなかったオーラが、星矢の周囲にあふれている…… 魔鈴、星矢をあそこまでに育て上げるとは!?)
カシオス「わ、わからねぇ…… ヤツがオレの耳を!? あの泣きベソ星矢が!?」
数年前まで、幼い星矢は常にカシオスに負け続けていた──
星矢「カシオス! 俺はもう、昔の星矢じゃないんだぞ!」
カシオス「な、何ぃ!? 殺してやるぅ!」
突進するカシオスをかわし、星矢が飛び蹴りを見舞う。
兵たち「おぉっ!?」「またカシオスがやられた!?」
カシオス「バ、バカな…… 一度も俺に敵わなかった星矢が!?」
星矢「カシオス! お前には相当の借りがある。全部返してやるぜ! 行くぞ!」
カシオスの攻撃は一向に決まらず、星矢の攻撃が次々に決まる。
星矢「6年間この聖域で生き延びた俺たちだ。命だけは助けてやるぜ!」
兵たち「拳にも蹴りにも、星矢の魂と力が見事に集中している……!」
シャイナ「バカが! 何を感心している!?」
兵たち「シャ、シャイナ様……」
シャイナ「このままでは星矢に聖衣を持って行かれることになる」
カシオス「渡してたまるかぁ……! 聖衣は古代ギリシアの大いなる遺産だぁ! 日本人のお前なんかに、あの聖衣を纏う資格はねぇ!」
星矢「まだわからないのか? 資格がないのはお前のほうだ!」
カシオス「な、何をぉ!?」
星矢「お前は聖闘士の表面的な破壊力を身につけただけだ。お前は、自分の体の中に宇宙を感じたことがあるか?」
カシオス「う……宇宙だとぉ!?」
魔鈴 (星矢……)
星矢が幼かった頃の修行の回想──
魔鈴が星矢に石を示す。
星矢「素手でか?」
魔鈴「そう。その石を素手で割ってみて」
星矢「無理だと思うけど…… はぁっ!」
星矢が石に手刀を叩きつけるが、石は割れず、血が滴る。
星矢「わぁっ! 痛ぇっ……!」
魔鈴「バーカ。ここにきて3年も経つというのに、こんな石一つ割れないの? いい? 石は原子でできている」
魔鈴が石を軽々と握りつぶしてみせる。
魔鈴「私もお前の体も、原子ででき上がっている。この地上にあるものはすべて! 夜空に輝くあの星も。いい? 破壊するということの根本は、原子を砕くということなの」
星矢「……うん!」
魔鈴「星矢、&ruby(パワー){力}を集中させて! お前の体内にある、すべての&ruby(ソウル){魂}を集中させるの。破壊しようとするその一点に、その拳に!」
星矢が渾身の力を込め、石に拳を叩きつける── 石が砕け、大地に大穴が空く!
星矢「……魔鈴!」
魔鈴「星矢。宇宙は150億年前に、ひとつの塊からビッグバンの爆発によって誕生したの。いわばお前の肉体も、爆発によって生まれた&ruby(コスモ){小宇宙}の一つなのよ」
星矢「コスモ……?」
魔鈴「真の聖闘士は、自己の体内にあるその小宇宙を爆発させることによって、超人的なパワーを生み出すんだわ。そして大地を割り、星を砕くのさ。星矢、お前の小宇宙を爆発させてごらん。自分の拳を流星と化すのよ。流星と!」
星矢「流星……!」
魔鈴「お前の守護星は、ペガサスよ!」
夜空に光るペガサス座の星々──
星矢が奇妙な構えをとる。
兵たち「な、なんだ!? あの星矢の構えは!?」
星矢「カシオス! もう一度言う。お前の負けだ!」
カシオス「バ、バカめ! 本当にお前の体に宇宙が見えたら、聖衣はくれてやらぁ!」
シャイナ「あれは…… 天馬座!? 星矢の拳が、天馬座の13の星の軌跡を描いている!」
カシオス「く、くそぉ! こんな子供騙しに……!」
シャイナ「やめろ、カシオス! 星矢に近づくな!」
星矢「おおぉ──っ! ペガサス流星拳──!!」
百発近くの必殺拳が流星のごとく降り注ぎ、カシオスに命中──!
カシオス「何ぃ!? うわぁぁ──っ!?」
とどめの一撃を浴びたカシオスの巨体が地面に沈み、星矢は見事、勝利を収める。
教皇「アテナは星矢を、新たなる聖闘士と認めた! ここに聖闘士の証である聖衣を授ける」
星矢「やったぁ! やった、やった! ついに手に入れたぞ、聖衣を!」
教皇「なお、星矢に忠告しておく」
星矢「え!? あ、あ……」
教皇「聖闘士は古代よりアテナを守護し、正義を守ってきた。その聖衣も、正義を守るためにのみ身に纏うのだ。決して私利私欲のために纏ってはいけない」
シャイナ「おのれぇ…… 星矢め!」
その夜、魔鈴と星矢の宿。星矢がそっと、聖衣の箱に手を伸ばす。
魔鈴「星矢」
星矢「わぁっ!? ……お、脅かさないでよ。びっくりするじゃないか」
魔鈴「用もないのに聖衣の蓋を開けちゃ、いけないよ」
星矢「はい……」
魔鈴「気持ちはわかるけどね」
星矢「でしょ? ねぇ。ハハ……」
魔鈴「聖衣は自分の身を守るための…… はっ!?」
夜の岩道を魔鈴が駆け、聖衣の箱を背負った星矢が続く。
その頃、シャイナ配下の兵たちが星矢たちを追っていた。
「追えぇ──っ!」「星矢から聖衣を取り戻すんだぁ──っ!」
星矢「ちょ、ちょっと待ってよ、魔鈴さん! なんで逃げたりするんだよぉ!? 俺は明日、堂々と日本へ帰れるはずなのにぃ!」
魔鈴「明日になったら星矢、お前は死体になってたよ!」
星矢「えっ!?」
魔鈴「聖衣を取られたシャイナの一味が、お前をやすやすと帰らすわけがないさ! ……ん!?」
魔鈴が突然立ち止まり、星矢が勢い余って転倒。
星矢「痛ぇ! 急に止まらないでよ!」
魔鈴「……結局、遅かったようね」
星矢「えっ!?」
目の前にシャイナが立ち塞がっている。
星矢「やいやい、なんで俺を目の仇にするんだ!? 俺は正々堂々とカシオスに勝ったんだぞ!」
シャイナ「魔鈴! 星矢をおとなしく引き渡してもらえる? それとも星矢を救うために、このシャイナと闘う?」
魔鈴「フン、こいつにそんな義理はないさ」
星矢「えぇっ!? そんなぁ!」
魔鈴「星矢。どうやら日本へ帰るには、シャイナを倒すしかなさそうだね」
毒ヘビの牙のようなシャイナの拳が、電撃のごとく星矢を捉える。
星矢「うわぁ──っ!?」
魔鈴「サンダークロウ!?」
星矢「痛ぇ…… まるで全身を、何万ボルトもの電撃で抉られたみたいだ」
再びシャイナが構えをとる。
星矢「おぉっと、冗談じゃないぜ! これ以上同じヤツを食らったら、本当に殺されちまうよ!」
シャイナ「サンダークロウ!!」
星矢「ペガサス流星拳──!!」
2人が同時に拳を繰り出す。星矢の放つ無数の拳が、シャイナの拳によって次々にかわされてゆく。
シャイナ「ハハハ、何が流星拳だ! 私にはお前の出す拳のすべてが見えるわ、パンチの数までも。1秒間にたった85発!」
星矢「すべてのパンチが、かわされてゆく!?」
シャイナ「サンダ──クロウ──!!」
渾身のシャイナの拳で、星矢が聖衣の箱ごと大きくふっ飛ぶ。
(魔鈴『星矢…… 聖衣は身を守るためのもの。自分の身が危うくなったときには、迷わず箱を開けなさい!』)
谷底に落ちた星矢。地面に転がっている聖衣の箱に、必死に手を伸ばす。
(魔鈴『悪霊が出るか、希望が出るか……』)
意を決して箱の蓋を開く。強烈な衝撃──! 箱の中から現れたのは、有翼の馬・ペガサスを模したオブジェ。
星矢「これが…… ペガサスの聖衣か!?」
ペガサスが宙に浮く。
星矢「なんだぁ!?」
ペガサスが分解。頭部がヘルメット、胴が腰のガード、4本脚が四肢のガード──
各部のパーツが聖衣のパーツとして星矢の体に装着され、ペガサスの聖衣が完成する。
星矢 (これで…… 俺は最強になったのか!? 神話から受け継がれた聖衣を身につけた今、拳は空を裂くという……)
試しに拳を振るう星矢。空を裂くような衝撃とともに、大地が燃え上がる。
星矢を捜しに来たシャイナ。
シャイナ「おかしい、確かこの辺りに…… はっ? これは…… 恐ろしいほどの小宇宙を感じる」
突然、一陣の衝撃。シャイナの肩が裂け、血が滴る。
シャイナ「うっ!? まさか、星矢がマッハの拳を!? どこにいる、星矢!?」
ペガサスの聖衣を纏った星矢が、姿を現す。
星矢「ここだ! 俺はここにいるぜ!」
シャイナ「その姿は!?」
魔鈴「ついに纏ったか、星矢…… 聖闘士の証、全宇宙でただ一つの、ペガサスの聖衣を!」
シャイナ「本当のお前が聖衣と一体になれたか、試してやる!」
2人が同時にジャンプ。星矢の拳が決まる前に、シャイナの拳が星矢の胴にめり込む。
シャイナ「思ったとおりさ。こいつ、聖衣に振り回されている。せっかくの聖衣も纏う者がお前では、役に立たないさ!」
星矢は思うように攻撃ができず、逆にシャイナの攻撃が次々に炸裂。
星矢 (うぅっ…… どうなってんだ、何が聖衣だ!? まるで鉛のように重たい…… こんなものを付けて闘えるわけがない! でも……)
最初に聖衣を纏い、拳を振るったときの回想──
星矢 (そうだ…… あのとき俺の拳は、空を引き裂きマッハを超えたんだ! だからあれほど遠くからでも、空気の衝撃波でシャイナさんの肩を傷つけられた! この聖衣の重さもまるで感じなかったのに…… なぜ? なぜ今は、この聖衣が役に立たない!? なぜなんだ!?)
魔鈴「聖衣を身に付けただけで力が出ると思ったら大間違いさ! 聖闘士は自己の体内にある小宇宙を爆発させて、超人的なパワーを発揮すると教えたはずじゃないか。聖衣も同じように、魂と力が一致するのさ!」
シャイナ「ほら、お前の師匠が教えてくれてるよ。よぉく耳をかっぽじって聞くんだよ!」
一向に反撃できない星矢を、シャイナはなおも痛めつけ続ける。
魔鈴「心にわだかまりがあったり闘志がなければ、聖衣はただの重いプロテクターに過ぎない。初めて聖衣を身につけたときの興奮を思い出してごらん。そのときは、マッハを超えたろ!?」
ついに星矢が倒れる。
シャイナ「さぁ、燃えてみな。この私に闘志を漲らせてごらん!」
星矢「そんなの、ムリだよ……」
シャイナ「何!?」
星矢「いくら強くたって、本気で女の人に闘志を燃やして拳を振るうなんて、男にできるだけないよ……」
魔鈴「星矢!? たとえ女でも、相手は牙を持ってるんだよ!」
星矢「で、でも……」
シャイナ「おのれぇ…… とどめだ! サンダークロウ!!」
シャイナがとどめを刺す前に、シャイナ配下の兵たちが割って入る。
兵たち「シャイナ様、待ってください!」「ここは、我々に!」「こいつめ、逃げ切れると思っていたのか!」「聖域へ連れ戻して処刑だ!」「さぁ、立て!」「ほら、立てと言ってるのが聞こえないのか!?
倒れている星矢を起こそうとした兵が、慌てて手を離す。
兵「あ、熱ぃ!?」
1枚の木の葉が舞い、星矢の体に触れ、燃え上がる。
兵たち「おぉっ……!?」
星矢「ふざけるな…… お前らザコどもに勝手なことを言われる筋合いはねぇ! 死にたくなかったら、引っ込んでいろ!」
兵たち「な、何!?」「この場で息の根を止めてやる!」
星矢「男のお前らには遠慮しねぇぜ! 食らえ! ペガサス流星拳──!!」
容赦のないペガサス流星拳が炸裂──! 数人の兵たちがまとめて吹っ飛ばされる。
シャイナ「見えない!? 今の星矢の拳は、マッハを超えた!」
その余波を浴び、シャイナの仮面が真っ二つに割れ、美しい素顔が露わとなる。
シャイナ (しかもその風圧で、私のマスクまで飛ばすとは……)
星矢「へぇ…… シャイナさんって、そんな顔してたのか。もっと鬼みたいな顔かと思ってたよ」
シャイナ「星矢! 今度会ったときは、私も聖衣を付けて闘う。その時はお前も、本気で闘え!」
星矢「なるべくなら…… そんなことで逢いたくないな」
聖域の出口まで来た星矢と魔鈴。
魔鈴「星矢。この6年間、よくがんばったね。ただ、お前の闘いはこれから始まるんだ。あの山を越えればアテネ市内へ出られる」
星矢「うん……」
魔鈴「星矢。聖衣を日本へ持ち帰って、どうするつもりなんだい?」
星矢「教えたら、魔鈴さんの素顔も見せてくれるのかな?」
悪戯っぽく笑って問う星矢だが、魔鈴は無言だった──
最終更新:2015年04月12日 09:12