とある日、文殿にて

「旧き友よ、貴様また冒険者に入れ知恵したな?」

「はて?なんのことやら?儂は本棚の掃除をしておっただけじゃよ?」

「惚けおってからに、そもそも問答を行うのは新たな知識を得るためでもあるが相手を見極めこの我が城に招くに値する輩か見極めるという大切な役割がなぁ…」

「なら貴様が掃除をするがいい、その図体で本棚の奥の細かい埃まで綺麗にできるのならば、な!
それよりもさっきの冒険者の娘っ子から香を貰ったぞ、あな嬉や」

「むぐぅ、それを言われると…と言うか貴様嗅覚あったのか?見たところ鼻の穴はあるようだが?」

「いや、ないぞ?だがこんなところにいるとそれだけで体に黴と埃の臭いが染み付いてしまいそうだわい」

「相変わらず妙な奴よのう、ああ確かにこれは良い香りだわい、ロブラヌア年中咲いておる花の香りよ」

「なんじゃ、儂の本体の居る所ではないかあまり有難味がないのう」

「何を言う、一年中このような良い香りに包まれている国などそうは無いぞ?」

「逆に聴くが一年中そんな香りに包まれていて飽きぬと思うのか?しかも何から何までこの香りがするのだぞ?」

「それは…流石にちと想像したくないな」

「じゃろう?」

「それにしても貴様は甘い、この前など入れ知恵した冒険者から妙な渾名を付けられた程度で喜びおってからに」

「ああ、あれか…ククク、あれはな傑作だったなぁ…偶然とは言え薫桜ノ皇国風に名付けてくれるとは」

「確かその冒険者は魔族だった筈だが…貴様は一体どちらに与するのだ?」

「どちらに与する等と、儂は只ここを訪れた子らにちと知恵を貸してやるだけよ」

「そうは言ってもな旧き友よ、人間と魔族の確執と言うのは…」

「人間も魔族も無い!生きとし生けるものは皆我が愛しき子らに過ぎぬわ!…ちと強く言い過ぎたな…許せ」

「…いや、貴様はそういう奴だったのを忘れていたのは此方だ、此方こそ許せ…しかしだからこそ貴様のやっていることが解せぬのよ」

「どちらかに与して争いを早急に終わらせる…と言う事でもないのなら貴様は何故…?」

「旧き友よ、生とは苦しみ満ちている。
「生きているが故に我が愛しき子らが怪我や病や餓えや老いに怯え相争い傷ついている。
「儂にはそれが可哀想でならんのだ。
「皆が不死者とならばその苦しみから解放してやれる…。」

「それが貴様の理想か…」

「ああ、貴様さえ良ければ貴様も儂が意識を保ったまま不死者にしてやるぞ?どうだ?」

「ふん、寿命が来たら考えてやろう」

「かかか、一体何千年後の話やら……っと、どうやら儂の方に客人があったらしい、此方の体は少し留守にするぞ…。
「悠久の時を生きる竜の賢者、エンシェントドラゴンよ」

「…何の事だかな、屍竜将軍ヨモツマガツチノミコト

「ククク、今の儂は只のスケルトン…いや、スケさんじゃよ」


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最終更新:2021年11月19日 12:35