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レミリア6

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orz1414

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「○○、何してるの?」

 珍しく○○の部屋に遊びに来ていたレミリアが、○○が耳に細い棒のようなものを入れているのを不思議そうに見ていた。

「ああ、これですか? 耳かきですよ。里で見付けたんです」
「耳かき?」
「耳掃除するとき使うんです。耳は垢がたまりやすいですから」

 懐紙に耳垢をまとめて捨てながら、○○は首を傾げる。

「レミリアさんのもしましょうか?」
「え?」
「人にやってもらうと綺麗に掃除できるんですよ。それに、興味あるんでしょう?」

 ベッドに座って、○○は膝をポンポンと叩いた。

「そ、そんなことはないけど……そこまで言うならさせてあげるわ」

 羽だけを楽しそうにはためかせながら、レミリアが膝に頭を乗せる。落ち着く体勢になるのを待って、○○が手を伸ばした。

「では失礼して」
「……ひゃうっ!?」

 声に驚いて、○○は耳に触れた手を離す。

「びっくりした……」
「それは僕のセリフですよ……続けて大丈夫ですか?」

 どうもくすぐったいようだ。下手に動かれると危ない気がする。

「だ、大丈夫よ。続けなさい」
「わかりました……でも、危ないから動かないでくださいね。手元が狂うと怪我しますし」
「大丈夫よ、すぐに治るのはわかってるでしょう?」
「それは身をもって。でもそういう問題じゃないです。レミリアさんを傷付けるのが嫌なんですから」
「……わかったわ」

 少しの空白の後、レミリアはそう頷いた。そういうことをさらりと言うなとか何とか聞こえた気がしたが、よく聞き取れなかったのであえて訊かない。
 とはいえ、耳に触れるとビクリと震えるため、危なくて仕方がない。

「耳かき、中に入れられないですよ」
「し、仕方がないじゃない」
「うーん、では失礼します」

 ○○は片手でレミリアの肩を押さえ付けた。これなら安定する。

「さ、これなら大丈夫でしょう。続けますよー」
「……何だか楽しそうね」




 さてどうしたものか。
 ようやく耳掃除をしながら、○○は困惑した表情を浮かべていた。
 無事に始められたまでは良かったのだが――

「ん……ひゃ……」

 くすぐったいのが我慢できないのか、レミリアが微かに震えながら、小さく声をあげているのだった。
 身をよじるのは何とか身体を押さえて止めてはいるが、何だかこのままではいろいろな意味でまずい気がする。

「痛くないですか?」
「それは、大丈夫……ん」

 他愛も無い会話でもしていないと、何だか自分がやましいことでもしているかのような錯覚に陥ってしまう。
 いや、会話していてもどうかという話なのだが。

「あ」

 少し陰になって見えないので、身体を押さえていた手を離して耳に触れる。

「ん……っ!」
「ちょっとじっとしていてくださいねー」

 びく、と身体が震えるのが大きくなったが、大人しくじっとしている。丁度いいので、このまま掃除してしまおう。
 誰かの耳掃除というのはそう経験はなかったが、なかなか面白いものなのだ。

「いっ……」
「すみません、ちょっと我慢しててください」
「う、ん……んん」
「はい、取れましたー」

 懐紙に取って、ふむ、と○○は呟く。そろそろこちらはいいかもしれない。

「ん……終わり?」
「こちら側は終わりです。次は反対側をしましょうか」
「ま、まだやるの?」

 少し息が荒いまま紅い顔を向けたレミリアに、○○は笑顔を向ける。

「片方だけだと気持ち悪いでしょう?」
「……まあ、そうだけど」
「だから、はい、反対側」
「…………楽しんでるわね?」
「いえいえそんなことは」

 まったく誤魔化す気の無い返答に、レミリアは微かに涙目になった目で上目遣いに睨みながら、一言だけ言った。

「後で覚えてなさいよ……」



 逆側の耳に触れるときにも身体をびくと震わせたが、諦めたのか慣れたのか、時折震えながらもレミリアは○○の成すがままになっている。

(……とか言うとものすごく変なことしてるみたいだけど)

 そう心に思いながら、掃除を始める。

「ん……ん」
「痛かったら痛いって言ってくださいね」
「……うん」

 こちらに顔を向けているが表情は見えない。それでも何となく可愛らしくて、○○は顔を綻ばせた。

「……何、ん、笑ってるのよ」
「いや、可愛いなと思いまして」
「……そういうこと、さらりと言わない」

 さらに紅くなったのだろう顔を○○に擦り寄るように伏せて、レミリアは○○の服を握った。

「こっちはくすぐったいんだから、早く終らせなさい」
「はいはい」

 大人しいうちに、○○は手早く掃除を続けていく。時折漏れる声を少しばかり楽しみながら。





「んー、何だかすっきりした気がするわ」
「でしょう? 気持ちいいものですよ、耳掃除って」
「ちょっとくすぐったかったけどね」

 くすくすと笑いながら、だが機嫌は悪くないようで、○○は安堵する。

「またしてあげましょうか?」
「そうね、また気が向いたら」

 膝の上で横になったまま、レミリアは○○を見上げた。

「どうしてあんなに楽しそうだったの?」
「いやだって可愛かったですし。それに」
「ひゃ!?」
「耳が敏感だなんて知りませんでしたしね。新たな発見です」

 レミリアの耳を、つっ、と指でなぞって、○○は楽しそうに笑う。

「……っ……」

 びくっとなった後、レミリアは○○を睨み上げ、そして、えいとばかりに手を跳ね除けて起き上がった。

「貴方が横になりなさい」
「はい?」
「私が耳掃除するから、貴方が横になるの」
「でも、僕さっきまでやってましたが……」
「いいから! やられっぱなしは気に喰わないの。さっさと横になりなさい」

 言われるままされるがままに、○○はレミリアの膝の上に頭を乗せる。さっきとは逆の体勢だ。

「……レミリアさん、やったことは?」
「ないわよ。でも今されたばかりだからわかるわ」
「……では、お願いします」

 一抹の不安を抱えながら、○○はレミリアが気が済むまで大人しくしていることにした。












 後日、図書館にて。修行の休憩中の会話。

「……それで、どうだったの?」
「は? 何がですか?」
「耳掃除。レミィにしてもらってたって聞いたけど。レミィが誰かに何かするなんて珍しいから」
「……あのときほど、自分が吸血鬼になってよかったと思ったことはありませんでしたね……まあ、悪くなかったというかむしろ良くはあったんですが」
「……そう。仲が良さそうで何よりね」

>>うpろだ1020

───────────────────────────────────────────────────────────


「○○、今日も後でするわよ」
「いいですけど、随分楽しそうですねえ」
「楽しいもの。慣れてきたしね」
「それは僥幸。もう血を見るのは勘弁ですからね?」
「し、仕方ないじゃない、初めてしたんだから」


「……会話だけだと、かなり妖しいこと言ってるわよ、二人とも」

 呆れた声で、パチュリーが話に加わった。午後の紅茶の時間、紅魔館のティールームのいつもの光景である。

「ん? パチェにも耳掃除してあげようか?」
「遠慮しておくわ。危険には近付かない主義だもの」
「むー、そんなことないわよ。ねえ、○○?」
「向上の後は見られる、とだけは」
「それはどういうことよ?」

 問いには答えず、○○は紅茶をすすった。

「○○さんの部屋からたまに悲鳴が聞こえてたとか聞いたけど」
「最近はわりと大丈夫ですよ。鼓膜の被害もなくなりましたし」
「そこまで酷くはないわよ」
「最初は今までに体験したことのない恐怖を味わいましたけどね?」

 楽しそうにからかう○○を、レミリアが軽く睨んだ。

「随分と意地悪を言うのね」
「いえいえそんなことは」
「じゃれあうのもいいけど、私達がいるのも忘れないようにね?」

 レミリアがいつの間にやら○○の膝の上に座を移しているのを見て、パチュリーがさらに呆れながら咲夜と頷きを交わした。

「妖精メイド達の噂になっていましたよ。何やら声が聞こえてきていたと。そのメイド達は当然嗜めましたが」
「あら、別に後ろ暗いことをしてるわけじゃないわよ?」

 くすくすとレミリアは笑う。

「妖精メイド達にも勧めたらどうかしら」
「今以上に仕事をしなくなりますよ?」
「んー、確かに楽しいものねえ」
「そんなに頻繁にやるものでもないはずなんですけどね」

 どこか呆れたような微苦笑で○○が相槌を入れた。

「レミィが楽しんでいるんだからいいんじゃないかしら。
 それに、レミィがそんなに楽しそうにしてることにも興味はあるわ」
「あ、やっぱりパチェもやる?」
「レミィにされるのは怖いから、するなら○○さんにしてもらおうかしら」
「それは駄目。○○がしていいのは私だけだもの」
「はいはい」

 呆れたような微笑みでパチュリーは親友の言葉に頷いた。

「……レミリアさんは、この前咲夜さんにもしてもらってませんでした?」
「私はいいの」
「じゃあ咲夜に」
「かしこまりました」
「むー、私は駄目なわけ?」
「○○さんに太鼓判押されるようになってからにして頂戴」




 そんなこんなで、紅魔館はひそやかな耳掃除ブームになっていたのだった。




 そして事の発端達は――

「○○ー」
「はいはい」

 呼ばれて、○○はベッドに腰掛けているレミリアの膝に頭を乗せた。
 本来なら喜ぶべき状況であるはずなのだが、どうも反射的に身構えてしまう。身構えたところでガード不可だが。

「そんなに警戒しなくてもいいじゃない」
「いや、反射で」
「大丈夫よ、今日は怪我させないから」

 羽がパタパタと動いていて、機嫌がいいのがよくわかる。

「それでは、お願いします」

 ○○は観念することにした。というか、それ以外そもそも選択肢は残されていなかったが。
 ――が、意外に上達していたらしい。

「あー、上手になりましたね」
「気持ちいい?」
「そうですねー。気持ちいいです」

 痒いところに手が届く、というのか、それとも以前に慣れてしまっていたからそう思うのか。
 ともかく、怪我もなく順調である。それが当然の姿であるとも思うが。

「私も、こういうのが気持ちいいってわかったから」
「はい」
「○○も気持ちいいといいな、くらいは思ってるんだから」
「ありがとうございます」

 素直に礼を言って、とりあえず身を任せることにする。うん、思わずうとうとしてしまいそうなほど気持ちが良い。

「……寝ると危ないわよ?」
「ん、ああ、すみません」
「それで怪我しても私の所為じゃないからね」
「はい、ごめんなさい」

 そう会話しながら両耳の掃除を終え、○○は起き上がって照れくさそうに笑った。

「いや、すみません、気持ちよくてつい」
「それは嬉しいけど」

 言いながら、レミリアは勝手に○○の膝の上に横になった。

「ふふ、でもようやく一矢報いた気分だわ」
「報いる、って、耳掃除は勝負じゃないですよ」
「でも……ん、だって、私ばかりだったもの」

 耳に触れられるとくすぐったさそうにしながら、レミリアはくすくす微笑う。

「いつも○○には痛い思いさせてたみたいだし……ん」
「そんなに気にしなくても良いのに」
「それは嫌なの」

 甘えたような拗ねた言葉が可愛らしい。口に出すと怒られるので声にはしないが。

「んー……でも、○○にやってもらうのが気持ち良いわね」
「そうですか?」
「ええ、咲夜にもしてもらったのも気持ち良かったけれど、やっぱり○○が良いわ」
「光栄です。はい、反対側」

 何と応じたものかと悩みながら、とりあえずそう返す。

「ん……でも、慣れない、わね」
「どうしました?」
「くすぐったいのよ、まだ。そろそろ慣れるかなって思ってる、のに。○○に触られるのが、くすぐったくて」

 確かに耳に触れると、まだびくりとしたり、目をぎゅっと閉じたりしている。

「むしろ、何だか、ん、どんどんくすぐったくなってきてる、気も、するのよね」
「……あまり喋ってると危ないですよ」

 その発言はいろいろヤバいと思いながら、常識的なことだけを口にする。

「あら、どうして?」
「わかってて言ってませんか?」

 悪戯っぽい声を出してきたので、一時中断して耳をなぞって仕返しをすることにした。

「……んっ、だから、くすぐったいってば」
「変なこと言うからです」
「……随分意地悪になったわね」
「レミリアさんの扱いは慣れてきたつもりですが」
「…………貴方こそ、わかってて言ってるでしょう?」
「いえいえそんなことは」

 しれっと白々しい声を出してみたが、一瞬だけかなり強く頬を引っ張られ、相当痛い思いをすることになった。





「ところで、どうして僕は誰かにしちゃ駄目なんですか?」
「当たり前じゃないの、○○がしていいのは私だけ、○○にしていいのも、ね」

 ○○の膝の上に座って、半ば振り返りながらレミリアは言う。

「○○は私のものだから。例えパチェや咲夜でも駄目」
「……それは、もしかして、妬いてくれてたりします?」
「煩い」

 ぷい、と顔を背けてしまうが、少し耳が紅くなっている様子が見えた。思わず、頬が緩む。

「何、にやにやしてるのよ」
「いや、可愛いなあって」
「だから煩い」

 レミリアは怒ったように言って、○○の方に向き直った。

「あまり減らず口を叩くなら……」
「……っ」

 急に口唇を塞がれて、○○は驚く。口唇が離れる頃には、レミリアは○○の上で楽しげな笑みを浮かべていた。

「塞ぐわよ、こうやって」
「……もう、やってるじゃないですか」
「私が主だ、っていうこと忘れてるみたいだから。しっかり教えないと、ね」

 何だか理不尽な気がするが、それでも○○は両手を挙げた。そもそも最愛の人に勝てるわけが無い。

「好きにしてください」
「よろしい」
「ですが、後ろ暗いことはしないんじゃなかったんですか?」
「あら、何も後ろ暗いことなんかないわよ」

 恋人同士なんだから、と言って、レミリアはもう一度○○に口付けた。

>>うpろだ1061

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「ふぃ~、生き返るぜ~」

 守矢神社の方々が運営している温泉に入りながら俺はそう独り言をいう。
 文々。新聞にも載っていたがここの一番の目玉である日替わり露天風呂。
 天然温泉であるにもかかわらず日毎に産出地を変えている。しかもその管理は諏訪子様がしているらしい。
 諏訪子様が神であることを改めて感じさせられる。ちなみに今日は群馬の老神温泉らしい。

 ちゃぽん

 ふむ、誰か入ってきたらしい。かなりの湯気でぼんやりとした人影しか見えないが邪魔になるといけない。
 俺は真ん中でぷかぷかと浮かぶのをやめると端の方に移動した。
 ゆっくりと進んでくるぼーっと見ているとそこに一陣の風が吹き――

 一糸纏わぬレミリアがそこにいた。

「れれれれっ、れみりゃっ!?」
「なによ、その言い方。私はそんな変な名前じゃないわよ」

 ざぶざぶと水面を掻き分けてこっちに近づいてくる。

「ちょっ!? なんでこっち近づいてくるのっ!? こんなに広いんだから他の場所に行った方がいいかと!」
「こんだけ広いのに○○しかいないから側にいくのよ」
「さいですか。でも吸血鬼が温泉入って大丈夫なの?」
「流水じゃないから別になんのは問題ないわ」
「あとちゃんとタオルで隠してください。胸とかあそことか」
「あら、私は○○に見られても別にかまわないわ」

 そのまま俺の横にちょこんとレミリアは腰掛けてしまった。
 うう、目のやり場に困る。澄ました横顔、なだらかな胸丘や、まだ産毛も「そこまでよ!」おおぅパッチェさんが。自重せねば。

「ふふっ、カチカチね」
「どこみてるんですかぁっ!? それに絶対キャラ間違ってると思います!!」
「私は○○の態度を見ていったのだけれど? ○○はいったいどこだと思っていたのかしら?」
「うう、いいように弄ばれている気が……」

 と、俺はある物を持ってきていたことを思い出した。

「レミリア、ちょっと待っててくれ」

 そう言い残して俺は風呂の縁に置いてあった桶を持ちレミリアの所に戻った。

「早苗に少しだけならってことで許可してもらったんだ。一緒にどうだい?」
「へぇ、桃のリキュールね。それじゃお言葉に甘えようかしら」
「あ、でもグラスが一つしかないや」
「それでもかまわないわ」
「それじゃお先にどうぞ」
「ええ、いただくわ」

 氷でキンキンに冷やしたリキュールをグラスにトクトクと注ぎ、レミリアはそれをとても上品に飲み干した。

「ふぅ、すごく濃厚な桃の味なのに後味はスッキリ。あなたにしては中々の物を見つけたわね」
「お褒めいただき、光栄でございます。お嬢様」
「ふふっ、やめて。○○にそんな口調で喋られるとなんだかこそばゆいわ」
「うわっ、ひどいな」
「じゃ、今度は私が注いであげる」
「ああ、ありがとう。――っとと。それじゃいただきます」
「――うん。たしかにおいしい」

 交互に酒を注ぎながら二人きりの酒宴を楽しみながらふと空を見上げると綺麗な紅い月が真上に見えた。

「どうしたのよ? 急に上を見上げて」
「いや、今日は月が綺麗だなってさ。そしてうまい酒にとっておきの美少女がいる。これ以上の贅沢はないかなって思っていただけ」
「○○どうしたのよ。今日は変なことばっかり言って。もしかして酔っ払ってる?」
「かもね」

 横に視線を向けるとくすくすと笑うレミリアがいた。
 普段のどこか嘲笑が混じった笑みとは違い、外見に相応しい少女のように笑うレミリアはとても魅力的に映った。

「なに? じっと私の顔を見つめて? なにかついてる?」
「いや。レミリアってそうやって笑うとすごくかわいいなって見とれてた」
「なっ!? ばっ、は、恥ずかしいセリフ禁止っ!!」
「あいたっ」

 ゆでだこみたいに顔を真っ赤にしたレミリアに頭をはたかれた。
 そしてそっぽを向いて何かぶつぶつ言い出した。

「まったくこいつは……(ぶつぶつ)わたしの気持ちも知らないで……(ぶつぶつ)」

 断片的に何か聞こえてくるが、聞かないのが紳士であろう。
 他に視線を移しているとまた誰かがやってきたらしい。カラカラと戸を開ける音がした。

「お嬢様、そろそろお上がりになられた方が……なぜ○○がここにいるのかしら?」

 うひゃあ……今この状況で一番会いたくないお方がいらっしゃいました。
 めちゃくちゃドス黒いオーラが漂ってきます。

「いいのよ咲夜。○○が先に入っていたんだから。それじゃ私は先に上がるわね」
「ちょっと、お嬢様。お体くらい隠してください」

 どこも隠そうとしないレミリアにバスタオルを巻く咲夜さん。この手際のよさはさすがメイド長。
 などと下らないことを考えているとレミリアがこっちを見ていた。

「今日は楽しかったわ。今度はフランも連れてくるからそのときは3人一緒に入りましょ。約束ね」
「あ、ああ……」
 
 そう言ってレミリアは微笑んだ。その姿はまるで月光に照らされた花のように美しかった。
 レミリアが出て行った後も暫く惚けたまま動けなくなっていた。

「まずい……当てられた……」

 うーん、これものぼせた部類に入るんだろうか? あの笑顔が焼きついて今夜は眠れそうにないや……

>>うpろだ1030

───────────────────────────────────────────────────────────

7年ほど勤めいていたホテルを退職した。

退職した理由だが、俺が研修した新人があろうことかパーティーの配膳中、主賓に料理をこぼしてしまった。
あわてて謝罪と処理をし、なんとかその場は納め事なきを得た。
そして後日、もう一度フロア長であった俺と上司とで謝罪にいった。
先方はその時の新人に責任を取らせろ。と行ったが、研修したのは俺であり、配置を考えたのも俺だった。
結果として俺は責任を取って退職する事にした。
長年勤めた職場で未練もある、だが筋は通しておきたかったし、事を円満に収める為には誰かが退職しなければならないような剣幕だったので俺が退職する事にした。


高校を出た後、実家の旅館に嫌気が差し、次男に後を任せて勘当同然で飛び出しサービスの道に進み、今の職場に就職し、とにかくがむしゃらに勤めてきた。
そのかいあって功績は認められ、フロア長にもなった。日々忙しい中でも仕事の時間は実に充実し、これからも更に頑張ろうとしていた所での退職だった。
職場の上司や部下に挨拶を済ませ、荷物をまとめて外に出た。
いつもは従業員用の出入り口から入るのでホテルの外観をあまり見なかったが、改めて眺めてみるとずいぶんと大きく感じた。
見ていると涙腺が緩むのを感じたので、俺は足早に慣れ親しんだ職場を去った。


帰路、長い間張り詰めてきた糸がきれたかのように何もやる気が起きず、かといって家に向う気も起きず、とにかくどこか遠い所へ行きたかった。
何も考えずに電車に乗り、降り、また乗る。
そうこうしているうちに夕方になり、駅の看板を見るとどうやら岩手まで辿りついていた。
岩手といえば幼少の頃、岩手にある叔父の家によく兄弟で遊びに行っていた事を思い出した。
今ではすっかり疎遠になってしまったが、ここまで来たのなら久々に叔父の家に行ってみようと思った。
叔父に話してみれば今のこの気分も少しは晴れるかもしれない。そう考えると足取りも少し軽くなった。
なんとかバス停の名前だけは憶えていたので、そこまでバスに乗って行く事にした。

町外れのバスを降りると、辺りはすっかり暗くなり、空は雲のおかげで月も出ていないが、初秋の心地よい風と虫の声に包まれた。
深呼吸すると都会とは違う清々しい空気が体内に送り込まれ、退職してから初めてすがすがしい気分になった。
そして、幼少の記憶を手繰り寄せるように道を歩んでいった。


・・・が、見事に道に迷った。
途中で分かれ道を間違えたのだろうか?一時間ほど歩いて何も無いというのは、やはり道を間違えたのかもしれない。
だが、いざとなったら一晩ぐらい野宿しても死にはしないだろう、という確証もあった。
どうせ昼になれば見晴らしは良くなる。


そのまましばらく歩いて行くと、急に足に感触があり、その場で後ろ向きに転んだ。
一瞬何が起こったのか理解できなかったが、少なくとも頭はうたずに済んだ事はわかった。
何か変なものでも踏んだのだろうか・・・。倒れた時に背中を打ったらしく、少々痛みを感じたが、起き上がって足元を見回した。
見回したが、何もそれらしいものは発見できなかった。
辺りは溢れんばかりの月光に照られているので、それらしいものがあればすぐにわかるはずだが・・・。

・・・そういえば月なんて出ていただろうか。
少なくとも、俺がバスを降りた時には出ていなかった筈だ。だが、今は真っ青な月により、辺りは照らされていた。

気がつけば辺りの様子も先ほどまでとは何かが違う事にも気づいた。
さっきまでは周囲で虫の鳴き声しかしなかったが、今は時折犬だか何か良くわからない動物の鳴き声が聞こえてきて気味が悪い。
明らかにおかしい。
道路はいつのまにかアスファルトですらなくなっていた。

いくら幼少の頃の記憶を辿っても、こんな所は思い出せない。
俺は迷うことなく元来た道を戻ろうとした。
だが、振り返ってみると後ろには森が広がっていた。
いくら暗かったとはいえ、森を歩いていたら流石に気づく。
いつのまにこんな所に迷い込んだんだ。一体ここは何処なんだ?
携帯を開いてみると圏外、俺の頭は完全に混乱状態に陥った。
時刻を見てみると20時を回ったところだった。まだこの時間ならば誰かいるかもしれない。混乱した頭でとにかく助けを求めて叫んだ。


叫びながらも歩き続け5分が立ったところだろうか、後ろから何かの気配を感じて振り返った。
そこには熊・・・だろうか大きさ2メートルほどの4足の獣が目を光らせていた。本能がヤバイ、と告げていた。
間髪置かずに俺は荷物を放り出し、反転して駆け出した。

後ろから獣が追ってくるのが気配でわかった。
いくら走れども背後の気配は一向に消えない。それどころか距離が縮まってくるのを感じる。俺は全速力で走り続けた。
ろくな呼吸もなしに駆け出したので、心臓が悲鳴をあげている。
そもそも俺は何故こんな所にいるんだろうか、あの時新人に責任を取らせれば今もいつもと変わらない日常ではなかっただろうか?
そんな考えが頭をよぎりつつも、とにかく俺は逃げ続けた。

駆け出して数分、すでに肺も心臓も限界を迎え、走るスピードも見る見る遅くなっていく。
同時に足がもつれ、前のめりに倒れた。
起き上がろうとするも、目の前には獣が回りこんでいた。
それでも逃げよう、と思い、膝をついたが足が震えてどうも立ち上がれない。
見上げると月夜に照らされた長い爪が振り下ろされようとしているところだった。
おそらく数秒後に来るだろう痛みに向け、俺は反射的に顔を背けた。

バシュッ!という空気を切る音がした後、顔に温かく、生臭い液体がかかったのを感じた。

十秒ほど経っただろうか、まだ痛みは感じない。
何が起こったのか、未だに体を襲わない痛みを不審に思い、俺は恐る恐る目を開けた。
そこには、俺の目の前に立っていた獣が串刺しになり、血を噴出しながら倒れている光景だった。
真紅の槍が突き刺さり、俺を襲おうとした格好のままで絶命していた。
いつのまにか真赤になっていた月が、さっきまで獣だったものを照らしている。
助かったのか、もしそうならば助けてくれた人がいるはずだ。
そう思って槍の柄の方を目で追っていくと必然的に月を見上げる事になった。

そこには月を背負って人影があった。
背丈は少女のものだが、背中には不釣合いな羽。間違いなく異型の存在だった。
だが、月を背負うその姿はとても美しく、貴く、恐ろしかった。
何かこちらに向けて話しかけたのが聞こえたが、その姿を見ての感動と恐怖、先ほどの逃走劇の疲れで俺の意識は途切れた。








目が覚めると、知らない天井だった。
俺は何故こんな所にいるのだろう、と考えていると昨夜の出来事を思い出した。
得体の知れない獣に追われ、その後に何者かに助けられた所で俺の記憶は終わっている。
悪い夢であればいいのだが・・・。とりあえず、今の時間を確認する為に腕時計を見ようとすると、手と腕に昨夜の獣のものであろう赤黒い血の跡がこびりついている。
やはり昨日の出来事は夢ではなかったのだろうか。
それでも信じられなかった俺は、試しに頬をつねってみる。鈍い痛みを感じ、現実であるという事実に引き戻される。
とりあえず現状を把握しようと周囲を確認すると、どうやら建物の一室のようだ。
ぱっと見ただけで調度品は高価な物であるという事がわかり、掃除も行き届いている。
だが、全体的に窓が少なく、配色が赤く、一般的な建築ではない。この館の主の趣向なのだろうか。

念のために携帯を取り出すが、やはり圏外。電池の問題もあるので、俺は電源を切っておく事にした。
それにしてもここは一体どこなのだろうか・・・。
これだけ立派な部屋には電話なりで使用人を呼ぶ手段があるはずだ。
それらしきものがないか確認すると、扉の隣にチャイムが置いてあった。
鳴らすと、独特の高い金属音が扉の外から響いた。

使用人が来るまでの間、窓から外を眺める事にした。
窓からは屋敷の庭と門、その奥には湖が広がっている。屋敷全体が湖に囲まれているのだろうか。
それにしては船着場も橋も無いのにどうやってこの館に入るのか、不思議だった。

考えているうちに、コンコン、とノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
答えると「失礼いたします」と、女の声がして、ゆっくりと扉が開いた。
礼儀正しく入ってきたのは、銀色の髪、整った顔立ち、そして奇妙なメイド服を身にまとったメイドとおぼしき女性だった。
10代後半に見えるが、全体から醸し出す雰囲気はもっと大人びている。

「何の御用でしょうか?」
メイドの声で思考をやめ、一番聞きたかった事を口にした。
「一体ここは何処なんですか?」
俺は最初に疑問に思っていることを口にした。
「ここは紅魔館。主のレミリア・スカーレットの館ですわ」
随分と日本語離れしてきた名前が出てきたが、気にせず質問を続ける事にした。
「紅魔館とは?携帯も繋がらないのですが、ここは日本の何処にあたるのでしょうか?」
メイドは少し考え、こう答えた。
「ここは幻想郷、あなたの住んでいた世界とは少し違う世界ですわ」
違う世界とは一体何なのだろうか・・・、どうも話が噛み合っていない気がする。
一先ずこの件はおいて、質問を換えることにした。
「昨夜、獣に襲われていた私を助けてくれたのはあなたですか?」
「いえ、私ではなく主のレミリア様ですわ。ちなみに血まみれだったあなたを運んだのは私」
こんな少女に運ばれるとは・・・、少々恥ずかしかったが、感謝の意を伝えておいた。
「それは有難うございました。あなたの主にも礼を言いたいのですが、あわせて頂けませんか?」
「お嬢様はただ今お休みになっていますので、また起きた時に連絡いたしますわ」
「感謝します。それと、できればお風呂を貸して欲しいのですが」
いい加減この獣の血を洗い流しておきたかった。衛生的にも良くないし、血まみれと言うのは不快だ。
「それでしたら部屋の奥に添えつけのバスルームがありますので、そちらをお使いください」
メイドが指した方向にはバスルームに繋がっていると思われる扉があった。
「それでは、御用がありましたらまたおよび下さい」そう言ってお辞儀をし、メイドは出て行った。
いろいろ腑に落ちない事はあったが、まず風呂に入って落ち着くことにした。


全身についた血を洗い流し、風呂から出た後は添えつけのバスローブを纏ってベッドに寝転んだ。
寝転んでから気づいたが、いつのまにかベッドのシーツも布団も換えられている。
メイドの手際の良さに驚きながらも、思考を巡らせていた。
どうしてこんな所にいるのか、昨夜は一体何があったのか・・・。

だが、いくら考えても結論は出ない。唯一確かなのは、ここは日本ではなく、幻想郷の紅魔館という事だけだった。
物思いに耽っていると、いつのまにか時刻は16時を回っていた。
こんな時間まで休んでいるとは、この家の主はどんな不摂生な生活を送っているのか不思議に思った。
そういえば、着替えはどうしたのものかと気づいた。命の恩人に血まみれの服やバスローブで挨拶など失礼極まりない。
ふと添えつけのタンスの方を見ると、退職する時に持ってきた大き目のカバンが目に入った。
獣にから逃げる時に慌てて放り投げて来たのだが、先ほどのメイドが拾ってくれたのだろうか。
あの中には仕事で使っていた道具と燕尾服が入っているはずだ。奇妙な格好かも知れないが、少なくとも汚れた服よりはマシだろう。
俺はカバンを開け、いつも仕事で着ている服に着替えた。

着替えを済ませ、身嗜みを整えた。鏡にはいつもの仕事着の自分が映っている。
まあ、これなら失礼ではないか・・・。そう思っていると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「お嬢様がお目覚めになりましたので、お客様の準備が整いましたらご案内いたしますわ」とメイドの声が聞こえた。
「はい、すぐ行きます」
俺は答え、扉を開け、初めてこの部屋の外に出た。
出てすぐに気づいたが、廊下も赤かった。そして窓が少ない。やはりこのデザインは館の主の趣向で一貫しているのだろう。
ふとメイドを見ると、少々驚いた表情をして俺を眺めている。流石に血まみれだった男がいきなりこの格好になるのは驚いたのだろう。
数秒後「それでは、ご案内いたしますわ」と、メイドは何事も無かったかのように俺の先導をした。

主の部屋までは長い廊下が続いていた。
途中、格好はメイド風だが羽の生えた人と度々すれ違ったので、あれは何なのかとメイドに聞いてみた。
「うちで働く妖精メイドですわ」と、またしても変な答えが返ってきた。
妖精といえばおとぎ話に出てくるあの妖精だろうか・・・。
それにしても動きが雑なメイド達だった。彼女らが俺の招かれた部屋の掃除等をしていると思うと腑に落ちない。
ここはどうもに理解できないことが多すぎる。

そうこうしているうちに、先ほどから歩くごとに威圧感が増してきているのがわかる。歩くたびに空気がピリピリしている。
どうやら、この威圧感は主の部屋に近づく毎に増してきているようだ。

そして立派な扉の前まで来た。
「ここがレミリア様の部屋ですわ」メイドは威圧感などまるで感じない様子で、扉をノックした。
中から「入りなさい」と少女らしき声が聞こえた。
メイドが扉を開けると、中からは先ほどまで感じていたものとは比べ物にならない程の威圧感が溢れ出して来た。
思わず足が硬直しそうになったが、足元を見て、一歩一歩としっかり踏みしめ、部屋に入った。
ようやく部屋の中ほどまで進むと、後ろで扉の閉まる音が聞こえる。メイドが扉を閉めたのだろう。
足元を見て進んでいくと、高価そうな椅子が行く手を阻んだ。
目線を少しあげると、椅子の先には机があり、机の後ろに威圧感の元凶が鎮座しているのがわかった。
俺は意を決し、それに目を向けた。

そこには、昨夜見た、少女が、真赤な月明かりに、照らされていた。
透き通るような白い肌、ウェーブのかかった青い髪、見られるだけで震え上がるような真紅の瞳、そして背中の不釣合いな羽。
忘れるはずも無い畏怖の存在。俺を襲った獣とは比べ物にならない威圧感があった。
そして月夜を浴びる少女の姿は昨夜にも増し、美しかった。

「こんばんわ、今日も良い月夜ね」
呆然としていると、少女が先に口を開いた。
「は、はい」つい間抜けな返事をしてしまう。
それを聞くと、少女は無邪気に笑って言った。
「ふふっ、別にお前を獲って食おうって訳じゃない。恐れるのはいいけど、それじゃあ会話にならないよ」
俺は昨夜の礼を言うべく、深呼吸をして心臓を落ち着けた。
「さ、昨夜は命を救っていただいただけでなく、安全に寝る場所まで提供して頂きありがとうございました」
と言い、俺は頭を下げた。
「構わないわ、夜の散歩でたまたま私が通りがかっただけだもの。自分の運の良さに感謝しなさい」
こんな所に来た時点で運が良いのかどうかはわからないが、死なずに済んだ自分の悪運に感謝した。
「それよりお前の格好は何?随分と着慣れているみたいだけど。そんな服はあった?咲夜」
少女は俺の着る燕尾服を見て、不思議そうにメイドに尋ねた。
「いえ、私が呼びに言った時にはその格好でした。恐らく、彼のカバンに入っていたものでしょう」
メイドが答えると、少女は面白そうにこちらを眺めた。
「ふーん。そう言えば、まだ名前を聞いていなかったわね。あなたの名前は?」
しまった・・・、感謝のする事に必死でに自己紹介を忘れていた、威圧感にも少し慣れ、ようやく頭が正常に回転してきたのがわかる。
「私は○○と申します。この服装は先日まで働いていた職場のものです」
「私はレミリア・スカーレット。この紅魔館の主をしているわ」
目の前にいる少女がメイドの言っていたレミリア・スカーレットで、この館の支配者だと言う事がわかった。
「そういえば、先日まで働いていたと言ったけど、今は?」
「それは私も興味がありますわ」後ろで聞いていたメイドも口を挟んだ。
俺は仕事を辞めた経緯、そしてこの奇妙な地に迷い込んだ事を簡単に話した。

「またスキマ妖怪の仕業か。それにしても数奇な運命ね」
スキマ妖怪が何のことかはよくわからなかったが、運命、と言う言葉には脳が反応した。
退職し、この辺鄙な所に迷い込み、命を救われ、この館に招かれたのも、運命なのだろうか。
そしてこの少女に出会ったのも運命なのだろうか。
初めて出会って一日やそこらだが、俺はこの少女、いや、レミリア・スカーレットの虜になってしまった。
美しさ、貴さ、そして、恐ろしさの虜に。

「それより、これからはどうするつもり?帰りたいなら、明日にでも咲夜に神社まで送らせるよ」
そう聞かれたが、俺の答えは一つだった。俺はこの方の為に働きたい。
その思いが現実への未練をはるかに凌駕していた。
「もし叶う事なら・・・」
「もし叶う事なら、私をこの館で働かせてください」

うpろだ1121

───────────────────────────────────────────────────────────

「本当に行くのね、○○」
「ああ、長いようで短かったけど、おかげで旅資金が出来たよ、ありがとなレミリア」
「・・見つかると、良いわね。」
「ああ、アテは無いけど、動かないと始まらないしな」

「じゃあ、みんな世話になったな」

「あ、○○・・」
「?どうしたパチュリー」
「これ、持って行って」
「また分厚い本だな」
「長い旅になるかもしれないから、暇つぶし用に貸してあげるわ」
「そうか、あんがとな。じゃあまた返し行かなきゃだな」
「・・ええ、待ってるわ。」







           ~月夜の訪問者~








―5ヶ月後。




「ふぁぁ~あ、眠くなってきたし、そろそろ寝るか・・」

俺はパチュリーに借りた本に栞を挟み、
電気を消そうとしたその時・・

バサッ バサッ バサッ!

「・・・ん、何だ・・?窓からなんかこっち向かって来る・・?」

小さな影がだんだん大きくなったかと思うと、
そのまま窓を突き破ってきた

ガシャァァァァーーーン!!!

「んのわああああああああああ!!!」




俺は腰を抜かして間一髪で避けた。(結果的に)

「よっと。つい勢い余っちゃったわ。久しぶりね○○」

窓の事など全く気にもせず、最初に出た台詞はコレである。
紅魔館の主、レミリア・スカーレットだった。

全くこんな時間に一体なんだってんだ、血ならやらんぞ

「お前・・こんな夜中に何しに・・」

「あら、お客様に失礼じゃない、せっかく遊びに来て上げたのに」

窓壊しといて失礼も何もないだろう。

「それはともかくだ、少しは人間の寝る時間というのをだな・・」
「だって昼間だと動きにくいし、まあ実際起きてたから良かったじゃない♪」
「・・いや俺は寝る直前だったわけであって・・
「あら、結構いい~家じゃない。私には狭いけど。」

・・わざとらしいスルーである。

「ま、相変わらずでよかったよ、色んな意味で。」
「どういう意味よ?それ。 それより、お客に出すお茶はまだかしら?」
「・・・・」

もうちょっとお客さんらしく出来ないものかね。

コポポポポ

「紅茶でいいか?」
「任せるわ」

「俺は眠みぃから珈琲にしようっと・・」
「まったく夜が愉しい時なのに・・人間というのは人生損しているわねえ。」
酷い言われようだ。

「あら、なかなか美味しいじゃない、この紅茶」
「ああ、これはアリスに貰ったんだ。なかなか良いだろ?」
「いつだったかご馳走になった時、つい『美味い』と言っちまったんだよ。」
「・・・それであんなに棚が紅茶でギッシリ埋まってるのね。・・何となく読めたわ。」
「ああ、嬉しそう~にドッサリ渡されたよ、帰りに。」

というような全くどうでもいい会話をしているが、
本当にわざわざ遊びに来ただけなのか?このお嬢様は。
何か企んでそうな気がしてならないんだが・・


「そういえばあなたが紅魔館を離れてどれくらいになるんだっけ」
「そうだな、もう5ヶ月位になるんじゃないかな。
 てことは俺が此処(幻想郷)に飛ばされてもう半年以上になるのか・・」
「早いものね。みんな会いたがってたわよ、たまには帰ってきなさいよね~」
「はは、そうだな。紅魔館のみんなは元気か?」
「ええ、変わらず騒がしいわ」

「・・でも、紅魔館に活気が出たのも、あなたがうちで働いてからなのよね。」
「そう、なのか」
「そうよ。まったく、あなたにはホント驚かされるわ。パチェもフランも
 あなたが来る前までは食事の時間に顔すら出さなかったのに。昔と比べて食卓が賑やかよ。」
「そうか、そりゃよかった」
「あなたが去って二人ともまた元に戻らないか心配だったけど、
 ・・・ちゃんとあなたの言いつけ守ってるみたいね。全く、どんな催眠術を使ったのよ」
「まあ・・ちょっと説教(?)したら思ったより二人とも素直だったってだけさ。」
妹様の方は命掛けだったが。マジで。



「そういえば、こんな時間にこんな所に居て咲夜が心配してないのか?」
「そりゃ心配してるでしょうね。」

「・・いやいや普通に落ち着いて飲みながら言うなよ。まさか黙って来たのか?」
「勿論。あなたの所って知ったらみんな騒ぎそうだし」
「なんだそりゃ。」

「さっきも言ったけど皆もあなたに会いたがってるからよ」
「パチェは、あなたに貸した本の感想が聞きたいとか何度かボヤいてたし
 美鈴なんて『愚痴を親身になって聞いてくれる唯一の仲間が・・』とか酒を呑む度に口にしてるわね。」

アレを親身になってるように見えてたなら周りの普段の扱いが容易に想像できてしまう。
本の方は・・まだ読み終わってないんだよな。なんせ分厚い上に俺は読むのが遅い。

「咲夜は、時折あなたの心配をしてたわよ。弟のように想ってるかもね」
「まあ、咲夜には一番世話してもらったからな。。俺に仕事のイロハを教えてもらったのも咲夜だし」
「ま、とうてい真似は出来なかったケドネ」

「ふふ、気をつけた方がいいよ~?1度咲夜に心配されるようになると
 私みたいに自由に動けなったりするかもよ。気も遣わせちゃうしね」
「はは、それは困るな」

「ま、そんな空気で私だけ出し抜いたなんて知られると、後で何言われるやら分かったもんじゃないわ」
「そっか。みんな元気ならよかった。」

少しの沈黙の後、レミリアは聞く


「で、外の世界に戻る目処はついたの?」

・・正直、これを答えるのが辛かったから自分から言わなかった、
でも聞かれてしまったなら本当の事を言うしかない。

「ああ、ついたよ。」

「・・そ、そうなの」

「境界を操る妖怪に会って、そいつに頼めばいつでも、だそうだ。」
「・・そう、あいつ(紫)に接触したのね」
「やっぱり、知ってたか。」
「・・・。」

「全くみんな人が悪いよ、どういう訳かみんな知らない振りしてるような感じだったんだよな。
 ま、自分で探すと決意して、旅をしながら幻想郷を知るいいキッカケになったからいいが、
 紫に辿り着くまで冥界に行ったり鬼にも会ったり、なんか振り回された感じで色々大変だった」

「あいつは神出鬼没だからね。会おうと思って会えるような奴じゃないのよ」


「・・それで、いつ?」
「ん?」

「いつ、帰るの?」

さっきからレミリアお嬢様のお顔が怖いです。



「まだだよ、パチュリーにもまだ本返してないし」
「でも、返したらその後帰るんでしょ?」

「・・まあ、そりゃ・・。俺は此処の住人じゃないし、いつかは帰らないといけないだろう」

カチャン

という、俺の言葉をさえぎる様にカップを少し力強く机に置いてレミリアが言った。

「・・焦らなくてもいいんじゃない?」

眼が怖い。これ怒ってる・・よな。
俺は怒られてるのか。

「・・俺は妖怪たちと違って寿命が短いんだ、俺には時間に余裕がないんだよ。」

「はぁ、全く・・あなたも相変わらずね・・。」
レミリアが急に立ち上がり、俺の隣に来て座った。

「・・私があなたにまだ帰って欲しくないって言ってるの察しなよ・・」

「・・・悪い。レミリアはそう思ってくれて嬉しいが、他の人は・・」
「不器用ね・・ほんと。」

またしばらく沈黙の後、紅茶を飲み干すレミリア。
「ごちそうさま。」


「・・パチェが貸したその本、本当に旅のお供にっていう意味だけと思ってる?」
「どういう事だ?」

「あなたが紫に会ったとき、何故すぐに帰らなかったかを考えれば分かるはずよ。」

「この本をまだ返してないからだが、、それが一体・・ってまさか」
「・・そうよ、あなたにまだ帰って欲しくないからそんな分厚い本をあなたに貸したのよ。」
「ほんと、こんな回りくどい事するのパチェらしいわね・・」
「・・・」

「あと、周りが紫の事知らない振りしてそうみたいな事さっきあなたが言ってたけど、多分それ本当よ」
「何故そう思うんだ?」
「あなた気に入られやすい性格なのよきっと。」
「いやいや答えになっとらんぞ?」
「・・一生悩んでなさい」

「・・まあ、あなたがそう言うなら止めない。あなたの問題だもの。私がどうこう言う事じゃない」
 

  そう、普通の人はこう言う・・でも私は・・」


「・・?」






「ごめん、私は我儘な吸血鬼なの」




突然ぎゅっとしがみ付いて来た。


・・なんだこの展開は。



ボソっと何か言ってるみたいだが、よく聞き取れない。



「お願い・・ないで・・」


「・・何?」






「お願い、まだ帰らないで・・」








・・・つまり我儘なのを開き直ったって事でよろしいのでしょうか。



まったく、カリスマの欠片もないな。
でもこれがレミリア・スカーレットなのだろう。
こういう時のおぜうさまは妹様より子供っぽい。

「いやだからすぐには帰らないってば、『いつか』だよ」

「・・人間の『いつか』は私たちにとっては『明日』と同義なの。
 100年なんてあっという間なのよ?私たちにとって」

やれやれ・・

レミリアはさっきから俺にしがみ付いたまま離れない。

「レミリア・・お前そろそろ帰らないと夜が明けちまうぞ?」
「やだ。帰らない。」
ぷくーっと膨れっ面をしながら言った。
まったく、さっきまでの高慢なお嬢様は何処に行ったんやら。
これじゃただの駄々っ子と変わらんぞ。

「・・まいったな」

「分かった分かった、しばらく此処に残るから」
「・・しばらく・・?」

「まだ先だから・・」
「まだ先・・?」



「ああもう、分かった、ずっと居てやるから機嫌直してくれ、な?」
「本当・・?」

「・・ああ、約束する」

もうほんとガキの頃の俺にソックリ。
つか、こんな約束しちまってよかったんだろうか。

現金に笑顔を見せたかと思ったらそのまま寝やがった。

「・・やれやれ。」

レミリアをベッドに移し、布団を掛けてやった。
「ふぁ・・ぁぁ、・・俺が早く眠りにつきたかったのに、
 先に寝るたぁ、全くどういうお客さんだよホントに」

・・って、ベッド1つしか無いんだった。

・・・・。


ま、いいか。いいよね?いいよな。俺のベッドだし。


じゃ、ちょっと失礼しますよっと。

・・ちょっと狭いかな。仕方ないか、一人用のベッドだし。

しかし、我儘に屈服したとはいえ、こんな約束してしまって良かったのか・・。



それにしても



「すぅ・・すぅ・・」



こいつの寝顔初めて見たな・・。
こいつがこの時間に寝るって滅多に無いんだろうな。


・・・。


ああいかんいかん。変な気起こす前に俺も寝よう。


窓の外を見ると、大きな月が眩しいくらいに幻想郷を照らしている。
「月、綺麗だな。永遠亭のあいつらも元気してるかな・・」

永遠亭を出る時も、冥界を出る時も、
みんなにまた帰ってくるって約束したんだったっけか・・。


破っちゃ、駄目だよなぁやっぱ・・。





急に光に包まれた。それと同時に聞いたことがある声が聴こえる・・


『あなたにはまだ色々やるべき事がいっぱい残ってるわ。』

「やるべき事・・?」

『それは自分で考えなさい。』

「・・・・。」
  
『でも、ヒントをあげるわ。』

「・・なんだ?」




『幻想郷を・・もっと深く知る事・・よ。』






「今のがヒントか?っておい、待てって!」

『ふふ、それじゃあね。』



・・・・


「くかー、くかー」
「すぅ・・すぅ・・」


そう、これは夢の中の声。

夢って分かる夢ってのも変な気分だな・・。

答えは自分で探す・・か。分かったよ。



様々な場所で妖怪、人間、宇宙人、幽霊、鬼等に出会い、別れ、
そして様々な地に足を入れた俺ではあるが

それでもまだ、俺はこの幻想郷のほんの一部しか知らないんだろう。


もっと知るためにも、やるべき事を見つける為にも、
またみんなに会わなきゃ・・な・・。










―窓の外、

 そこから少し離れた木の上。そこには一人の妖怪が居た。


「(・・ふふ、あなたはまだ此処(幻想郷)に必要なの。
  私にとっても、そして幻想郷にとっても、ね。)」

「(それにしても夢に出るのはちょっと卑怯だったかしら・・ま、念は押しとかないとね。)」

ズズズズズ・・・

安堵の笑みを浮かべながら、その妖怪は空間の裂け目からゆっくりと姿を消した。


~月夜の訪問者~ 

完。

うpろだ1239

───────────────────────────────────────────────────────────

「カリスマ溢れるお嬢様を世に知らしめる!」
「紅魔館の威厳を世に知らしめる!」
昼に生きるもの達は寝静まった丑三つ時。
夜に生きる者の王、レミリア・スカーレットと、自称その下僕である○○の叫びが唐突に、その静寂を破った。
「流石は分かっているじゃない、○○!」
「もちろんです、お嬢様!」
同じような答えに行き着いた二人は親しげに握手を交わす。
レミリアと○○、この二人は非常に気の合う者同士なのである。
そのために○○は、時折彼女のティータイムにお呼ばれをして、紅魔館に足を運んでいるのだ。
ただの人間に、レミリアがここまで気を許すとは、いやはや世の中分からないものである。
「……さて、そうは言っても、どのようにすればいいかしらね」
「任せてください! 俺に考えがあるんです。名付けて、『スカーレットプロジェクト』!」
「……へぇ、私達の輝かしい第一歩に相応しい名前じゃない」
……ついでにこの二人、破滅的なセンスの持ち主でもある。
主にネーミング的な意味で。
「それで、どのような物なのかしら、その『スカーレットプロジェクト』とやらは」
期待を込めた眼で○○を見つめるレミリア。
「はい、簡単に言ってしまえば、紅魔館改造計画です。この館の全ての格を上げれば、自ずとそこの主であるお嬢様のカリスマは跳ね上がる。そして同時に紅魔館の名前も威厳も上げられるという一挙両得の計画です!」
「素晴らしいわ、○○! 流石は私の見込んだ男」
「光栄に存じます」
「それで、具体的にどのようにするのかしら?」
「はい、まずはお嬢様本人ですが、こちらに関してはなにも問題はありません。
その麗しいお姿と、漂う気品は見るもの全てを虜にしますし、強さに関しては他の追随を許しません」
「ふふん、当然ね」
誇らしげに胸を張るレミリア。
「それからこの館、紅魔館ですが、確かに幻想郷一美しい屋敷と言えますが、お嬢様が住まうには少し役不足です」
「……ふむ」
「夜の王たる貴女が住むからには、そこに在るというだけで、見るものを震え上がらせる恐ろしさと、存在感がなければいけません」
「……成程」
「そこで俺が外の世界の知識を参考に、イメージ図を描いてみたのですが、如何でしょうか?」
○○が取り出した紙に描かれていた屋敷に目を見開くレミリア。
「これは、……素晴らしいわ○○! まさか貴方にこんな才能もあるなんて」
「お気に召していただけましたか」
「文句なしよ! そうよね、私ともあろうものが、この程度の屋敷で満足していては駄目よね」
「もちろんです! あなたはもっと上に行く御方だ!」
お互いの認識を深め、二人で盛り上がる○○とレミリア。こんな夜中にやかましいことこの上ない。
「……そして、他の住人のことですが、やはりお嬢様の下につくには、少々力不足です。
並み居る強者を従えてこそ、王者の中の王者。
お言葉ですが、皆お嬢様の供としての自覚が足りません」
「それは私もうすうす感じていたわ」
「そこで、単純な手段ではありますが、スペルカードを考えてみました。これらを各々が使いこなせるようになれば、かなりの戦力になること間違いありません!」
「……これはまた、凄まじい物を考えたわね。
これが使えれば、霊夢もスキマも敵ではない。残念ながら、私には勝てそうにないけど」
「この世界でお嬢様に勝てる者など、いるわけがありません」
「しかし、私以外を相手にするのならば十分ね」
「有り難きお言葉」
「早速全員にこのスペルカードを作らせるようにしましょう」
「では、明日からとりかかりましょうか?」
「そうね。さあ、これから忙しくなるわよ。レミリア・スカーレットこそ、幻想郷最強ということを、知らしめてやるわ!」
レミリアと○○は拳を高々と突き上げて、不敵に笑いあった。

美鈴は後ろで聞こえた破砕音に振り向くと、あんぐりと口を開いた。
見えたのは紅魔館の変わり果てた姿。
外観の一部が砕かれたのだろうか、瓦礫が庭にうず高く積まれている。
紅の塗装もあちこちがぼろぼろに剥げ落ち、地の色とまだらになりみすぼらしい。
玄関の扉は、その機能を果たせずに、だらしなく蝶番ひとつでぶら下がっていた。
そしてその扉の目の前には、最近紅魔館に入り浸る人間○○が、満足げに扉を見つめている。
「……ちょ、ちょ、ちょ!? ○○さん!? なにしてるんですか!?」
「紅魔館を、そしてお嬢様の名を幻想郷中に轟かせる記念すべき第一歩だよ」
「はあ!?」
意味を理解できず茫然とする美鈴に、○○は紙切れを渡す。
「丁度良かったよ美鈴。その紙に描かれたスペルカードを今すぐ作ってね。これはお嬢様の命令だから」
「いや、そうでなくて、咲夜さんやお嬢様に怒られますよ!」
「平気平気。これはお嬢様の意思だから」
「訳分かりませんから。……ってちょっと待って、○○さ~ん」
上機嫌で館へと入っていく○○を美鈴は必死に追いかけた。

咲夜は館の惨状に頭を抱えていた。
まるで妹様が暴れまわったかのように、あちこちが破壊されている。
その景観はそう、外の世界にあった、幽霊屋敷その物だ。
何が起こったのか知らないが、このままではお嬢様に叱られてしまう。
何とかしなくてはと思った矢先、紅い砲弾が目の前をかすめ、廊下の角にあった調度品を砕いた。
何事かと振り反るとそこに現れたのは、主であるレミリア。
「……お嬢様!?」
「あら、咲夜。どうしたのそんなに慌てて」
「どうしたもこうしたも、この惨状。一大事です」
「ああ、いいのよいいのよ。これはスカーレットプロジェクトの一環なんだから」
「はあ?」
「だから、スカーレットプロジェクトよ。咲夜にはこのスペルカードを作ってもらうわ。こっちはパチェに渡しといて」
「え、ちょっと、お嬢様。お止めください!」
「○○さ~ん!待って……」
「レミィ、さっきから何の騒ぎ!? 本がめちゃくちゃなん……」
「お姉様! お気に入りのカップが割れちゃったじゃない! どうしてくれ……」
○○を追いかけて来た美鈴と、この騒ぎの被害を受けたフランとパチュリーが、ロビーに来て絶句する。
「……何コレ?」
「……さあ、私にも分かりかねます」
「わ~い、わたしもまぜて~」
一番最初に立ち直ったフランは、嬉々として破壊活動に加わる
残された三人は目の前の風景に呆然とする他なかった。
「……なんでこんなことになってる訳?」
「……プロジェクトがどうとか。そういえば、パチュリー様にと、お嬢様が」
咲夜が先程レミリアからもらった紙切れをパチュリーにわたす。
「何コレ? ……ええと、『月月火水木金金符、年中むきゅ~。とにかく色んな弾をばらまく』?」
「スペルカードらしいです」
「「「……」」」
果たして、喘息持ちの彼女の体力は考慮されているのだろうか。
「ひょっとしてわたしのもですか? 「なになに『名刺、紅美鈴。紅、美、鈴の形にした米弾をばらまく』?」
「「「……」」」
そこまで彼女の名前は浸透してないのだろうか。
「咲夜も貰ったわけ?」
「はい。『瞬殺、メイドインアサシン』だそうです。時を止めてその間にナイフで相手を一刺し」
「「「……」」」
不可避弾幕禁止というルールがあったはずだが。
「……これらをスペルカードとして作るようにと」
「……で、これはまあ、いいとして、アレはどういうこと?」
無茶な要望に少し苛立ちながらパチュリーが尋ねる。
「……あの、ひょっとしたらこれじゃないですかね?」
美鈴が差し出したのは、館の絵が描かれた紙。
足元に落ちていたらしいそれには、上部にスカーレットプロジェクトと書かれ、描かれた館は妖怪屋敷と呼ばれるような外観。
「……つまり、ここをこんな風にするために、あんな真似をしているのかしら?」
魔導書の一部を駄目にされたパチュリーは、怒り心頭。
いい感じに額に青筋が立っている。
「……ご安心下さい、パチュリー様。いきすぎた主をたしなめるのも、従者の役目」
穏やかな、あまりにも穏やかな声で答える咲夜。
この後の作業を考えれば、あの二人には、言っておかなければならないことがある。
それはもう、たっぷりと、こってりと。
「……妹様、危ないですから降りてきてください」
スペルカードといい、妖怪屋敷(門前で啜り泣く悪霊役)といい、あんまりな扱いを受けた美鈴も、普段とは違う笑顔でフランに呼び掛ける。
暴れ足りなくて不満そうに振り向いたフランは、しかし、三人の殺気に、慌ててロビーに舞い降りる。
「……さて」
美鈴が腰を低く落として構える。
「……二人とも」
パチュリーが、いつも抱えている魔導書を開く。
「……いい加減に」
咲夜が自身の後ろに無数のナイフを展開する。
「「「しなさーーーい!!!」」」
怒りの弾幕一斉掃射。
ただの人間である○○はもちろん、全く気付いて無かったレミリアも、ルナテイック越えのこの弾幕をかわせるわけもなく。
ピピチューン!
「「う~~~~~~!!」」
紅魔館の一部とともに見事なまでに吹っ飛んだ。


紅魔館、原因不明の半壊
昨日未明、霧の湖付近にある屋敷、紅魔館が半壊するという事件が起こった。
住民からの取材協力を得られず、目撃者もいないことから、詳細は不明だが、最近紅魔館に頻繁に出入りしている、とある人間は「これは、お嬢様の輝かしい栄冠の第一歩に過ぎない。幻想郷を紅魔郷と改め、レミリアお嬢様が支配する日は、そう遠くないだろう」と、レミリア・スカーレットの関与を仄めかす発言をしている。
紅霧異変以来、大人しくなったかと思われた紅魔館だが、また何かしら騒ぎを起こすつもりなのだろうか?
少なくとも、博麗の巫女の世話になるようなことは、御免こうむりたいものである。
ーとある日の文々。新聞一面

「なかなか良い受け答えをするじゃない、○○」
新聞を片手にご満悦といった様子で、レミリアは言う。
「ありがとうございます。実はこれも計画の一つでして」
「計画?」
「結果を急いだために失敗した前回を教訓に、新しく計画を打ち出したのです。名付けて『スカーレットストライクバック』」
「ほう……」
果てしなく同レベルの、素晴らしいネーミングに、食い付くレミリア。
「こうして紅魔館の、そしてお嬢様の恐ろしさを世に広めるわけです。事実あのブン屋は、お嬢様を恐れてこんな記事を書いた。
これを他の者が読めば、お嬢様の恐ろしさを思い知ることになる。
そのうちに、すきまや巫女の方から、お嬢様に跪くことになるでしょう」
「……○○、貴方は本当に、なんて冴えているのかしら」
「恐れ入ります」
「人間にしておくのはもったいないわ。わたしの右腕になりなさい」
「……と、いいますと」
「貴方を眷族として、迎え入れてやろうというのよ」
「……お嬢様!」
最高の褒美に歓喜する○○。
「不肖この○○、どこまでも貴女の側でお仕えさせていただきます!」

後に⑨血鬼と呼ばれる夜王の眷族が、幻想郷縁起に掲載される、ほんの少し前の話である。



新ろだ150

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 暖炉の火がパチパチと音を立てる、紅魔館の大広間。

「クリスマスの予定?」

 クリスマスの数日前、夕食に呼ばれて来ていた僕の質問に、レミリアさんは目を丸くした。
 何も予定がないなら一緒にどこかへ、と思い、思い切って聞いてみたのだが。

「何を言ってるの、クリスマスは我が家で家族と過ごすものでしょう。
 私の場合は、紅魔館で咲夜やパチェと」

 がっくりと肩を落とした僕に、レミリアさんは楽しそうに笑いながら言葉を続ける。

「だから○○、貴方もイブからいらっしゃい。私の大切な想い人だもの、家族も同然よ」
「……レミィったら、またずいぶん見せつけてくれるわね」

 二人きりでいたいという気持ちよりも、それだけ受け入れてもらえていることの嬉しさが勝った。

「まあ、どこぞの大工の誕生日を祝う義理もないけれどね。季節の祭りとして楽しむには悪くないわ」

 不敵に微笑むその顔は、まさしく悪魔だ。
 美しく、威厳に満ちた、幼い悪魔。僕は彼女に畏敬の念を感じるとともに、すっかり惹きつけられている。



「ところでお姉さま、今年もサンタさん来てくれるかな?」

 フランちゃんがわくわくしてしかたないといった顔でレミリアさんに尋ねる。

「そうね、きっと来てくれるわ。フランはもう手紙は書いたの?」
「うん、お姉さまは?」

 ああ、お姉さんしてるなあ。僕はいつごろまでサンタクロースを信じていただろうか。

「ええ、私も書いたわ。咲夜、メイド達には手紙を書かせたかしら?」
「はい、既に回収してありますわ」
「それは何よりね。当主の不手際でサンタさんに来てもらえないメイドがいては紅魔館の沽券に関わるもの。
 ……ところで咲夜、私の手紙読んでないでしょうね?」
「読んでませんとも。ちゃんと届けておきますから、ご安心ください」

 ……何だか違和感が。
 サンタについて話しているレミリアさんの雰囲気は、
 フランちゃんに気付かせないように、という感じではない。
 それにしては目がきらきらしている。

「○○は人間だから……もうサンタさんが来てくれる歳ではないかしら?」

 ふと我に返ったようにこちらを見たレミリアさんが問いかけてくる。
 どう答えたものかと思案する僕に、咲夜さんがそっと目配せした。
 お茶を濁すような答えしか思い浮かばなかったけれど、慌てて口を開く。

「……そうですね、さすがに僕はもう」
「残念ね。生きた年月だけなら私の方がずっと上なのだけれど」

 心から気の毒そうに、レミリアさんが言った。




「サンタクロースって幻想入りしてたんですか」
「そんなわけないでしょう」

 一蹴された。まあ、そうだよな。

「……咲夜がここへ来てしばらく経った頃だったかしらね、レミィがサンタについて知ったのは」

 帰り際に寄った図書館で、僕は咲夜さんとパチュリーさんに話を聞いていた。

「『私のところには来たことがない』と仰ったお嬢様があんまり悲しそうだったから、
 『きっと手紙を出してなかったからですよ、今からでも出してみては』って言ってしまって」
「私もつい『レミィは吸血鬼としてはまだ幼いんだから大丈夫じゃないの?』って」
「私やパチュリー様、美鈴はもうサンタが来ないぐらい大きくなったから、ということで納得していただいたのだけれど」
「メイドさん達の分は用意することになったわけですか」
 
 さっきの会話を思い出し、合いの手を入れる。

「そう。妖精メイド達もなんだかんだで信じてはいるようだから、緘口令を敷く必要はないけど……
 お嬢様と妹様と、住み込みのメイド山ほどのプレゼント、毎年眠ったところを見計らって、時間を止めて配っているわ」
「……お疲れ様です」
 
 外の世界にいて、まだ小さかった頃、僕の両親もこんな苦労をしたのだろうか。

「それでね、○○。貴方にはクリスマス特別任務を与えるわ」

 パチュリーさんが意を決したように口を開く。
 どうも愉快犯的なところがある気もするけれど、
 ちゃんとあれこれ動いているあたり、友達思いなのだなと思う。

「特別任務、ですか」
「咲夜の苦労を少しでも軽減するために、それと私からもレミィにプレゼント、かしらね」





「無理に付き添ってくれなくてもいいのよ○○」
「いえ、僕もサンタに会ったことがないので、ここで待ってれば会えるかな、と」

 イブの夜。僕はレミリアさんの部屋にいた。
 吸血鬼であるレミリアさんにとっては、普段ならこれからが活発に動く時間帯だ。
 だがサンタというのは寝ている子のところに夜プレゼントを置いていくものだ、と聞いているらしく、
 ふかふかした冬用のパジャマを着たレミリアさんは、既にベッドに入っている。
 とはいえ、普段起きている時間になかなか寝付けるものではない。
 去年までは眠れるまで咲夜さんが付き添っていたそうだが、それではなかなかプレゼントを配ることができない。
 どのみち時間を止めるとはいえ、余裕を持ってプレゼントを配れるように、今年は僕がレミリアさんに付き添うことになったのだ。

「それに……」
「?」
「二人っきりで過ごせるのも、ちょっといいかなと思って」
「……そうね」

 後者については本心からの気持ちだ。



 寝室に二人でいるからといって、別に何をするわけでもない。
 ベッドサイドに腰掛けて、布団の中のレミリアさんと他愛もない話をしながら、レミリアさんが眠れるのを待つだけだ。
 ベッドの支柱を見ると、ずいぶん大きな靴下がぶら下げてある。いったい何をお願いしたんだろう。

「じゃあ、私が眠っている間にサンタさんが来たら、よくお礼を言っておいてちょうだい。
 フランやメイドたちの分も含めて、毎年苦労をかけていると思うから」
「わかりました、無事会えたら伝えておきます」

 咲夜さんに、になるが、後でちゃんと伝えておくことにしよう。

「ねえ○○……」
「なんですか」

 そろそろ眠気が差してきたらしく、小さくあくびをしながらレミリアさんが言う。

「今すぐそうなってくれ、というわけではないけれど……
 いつか私がサンタさんからプレゼントをもらえないくらいまで大きくなって……
 その時も、貴方は私の側にいてくれるかしら?」

 その言葉の意味するところをしっかりと理解した上で、肯く。
 何しろ五百歳で今の姿なのだ。
 ただの人間のままなら、レミリアさんが成長する頃には僕はもうこの世にいないだろう。

「許してもらえるのなら、ずっと、ずっと側にいたいです」

 ただの人間をやめてでも。ただの人間として生き、死んでいくことがどんなに尊ばれていても。
  
「……そう」

 レミリアさんは満足そうに笑うと、布団の中から優しく手を差し出した。

「私が眠るまで、手を握っていてくれるかしら」

 差し出された手を、両手でそっと包み込む。
 目を閉じたレミリアさんは、しばらくして寝息を立て始めた。





 ふと我に返る。窓のない部屋なので朝日が差し込んでくるわけではないが、
 おそらくは朝だ。どうやら僕も寝てしまったらしい。 
 レミリアさんはまだ眠っているらしく、静かな寝息が聞こえてくる。
 傍らの靴下には結構な大きさのプレゼント箱が入っている。
 咲夜さん、いい仕事してますね。

「んー……○○、サンタさんは?」
「……すみません、僕も寝てしまいました」
「そう……残念ね」
「はい、でもプレゼントはちゃんと届いてるみたいですよ」

 その言葉を聞いて靴下に目をやったレミリアさんの表情は、ぱっと輝いた。

「開けてみたらどうですか?」
「そうね……ああ、ちゃんと頼んだとおりのものだわ」
「日傘、ですか?」

 箱から出てきたのは、日傘だった。普段外出の時に使っているものよりも幾分大きい。
 
「ええ。昼間に貴方と外に出る時に、少し大きめの日傘があるといいかと思って。
 ほら、その……相合傘、とか」

 頬を染めてこちらを上目遣いに見るレミリアさんを見て、何だか胸が熱くなるのを感じる。
 と、いけない、渡し忘れるところだった。

「あの……これ、僕からです」

 小さな箱を取り出す。サンタクロースにはかなわないけれど、せっかくクリスマスなのだから。

「……開けてもいいかしら」
「どうぞ、ささやかなものですが」

 笑みを浮かべながら、レミリアさんは箱の中身を取り出した。

「これは……ブローチね」

 香霖堂で綺麗な紅い石を見つけたので、つてを頼って細工してもらったブローチ。
 価値、とかはわからないけれど、それでも何かプレゼントを贈りたかった。

「ありがとう、大切にするわ。
 ……ところで○○、ベッドの下に袋が置いてあるから取り出してくれる?」
「はい、これですね……よいしょ、と」

 何か色々と入っているらしいその白い袋はずいぶんと大きく、まるでサンタクロースが背負っているような……

「咲夜達にはもうサンタさんが来ないから。代わりに当主の私からプレゼントをあげるのよ。
 今年は貴方にも手伝ってもらおうと思って」

 ベッドから降りたレミリアさんは、ドアの方に向かった。
 袋を担いで後に続く。

「咲夜に、パチェと小悪魔に、美鈴に……」

 指折り数えていたレミリアさんは、不意に大輪の花のような笑顔で振り向いた。

「○○、ちゃんと貴方の分もあるからね」
「……ありがとうございます」
「さあ、出発しましょう」

 幻想郷に来て初めてのクリスマスの朝。
 愛しいサンタクロースに付き従い、プレゼントを配りに行くのはなかなか幸せな気持ちだった。 
 

新ろだ232

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- れみりあといっしょ 或いは『夢見る少女じゃいられない』





 ふと。
 手に触れた冷たい感触に、少年は目を覚ます。
 いつもと同じ暗いばかりの夢から目覚めても、そこはやはり闇。ただ違うのは、窓から差し込む半月の飛沫に包まれた、柔らかい闇だった。
 自分の左手があるはずの方向へ、胡乱な意識のまま頭を巡らせる。
 飛び込んできたのは、白磁の肌に、蒼白の髪、そして爛と輝く、紅玉の瞳。
「……お嬢様、どうかしたんですか」
 視界に結ばれた見知った少女の像に、少年は声をかけた。
 少女は──レミリア・スカーレットは何も言わず、彼の手の平を自分の頬に宛がっていた。
 レミリアの体温は人のそれより遥かに低く、だが冬の夜気よりは幾許か優しい。
「──夢を」
 うっすらと開けた目を夢見るように泳がせながら、レミリアは言う。
「夢を、見たの」
 今ここにいるレミリアを、少年は知らない。
 少年にとってレミリア・スカーレットという少女は──少女の姿をした吸血鬼は、傲岸不遜で高潔で、しかしどこか子供じみた仕草を見せる、そういう人物だった。
 けれども。今の彼女は、孤高なる狼の王というよりも、今すぐにでも霧になって消えてしまいそうに弱々しく見える。
「お前が死ぬ夢だったわ。お前はまるで眠っているかのように死んでいたの。
 腐ることも枯れることもなく、ただ真っ白な部屋の中で真っ白なシルクの上に横たわっていた。
 そこには私とお前しかいなくて、私はお前に薔薇を捧げた。真っ赤な真っ赤な血の色をした薔薇を捧げた。
 けれどもお前ときたら、まるで冬の月のように真っ白な肌をして、目を覚まそうとはしなかった。
 とてもおかしな話。そこでは、私とお前は同じ温度をしていたのに、私だけが動いていて、お前は死んでしまっていたの」
 歌うようなレミリアに、少年は返す言葉を持たなかった。
 それは、夢語りをするレミリアの姿が、彼の知るレミリアからあまりにかけ離れていたからだった。
「お嬢様……」
 そう言葉を搾り出しても、続く言葉が出てこない。
 何より、どう言葉をかけて良いのかも、まだ幼い彼には分からなかった。
 怖い夢を見ることくらい、誰にだってあることだろう。ただそれは、彼の中のレミリア・スカーレットと、どうしても結びつかない。
 悪夢ゆえに、こうして夜中に人の部屋を訪れることも。
 吸血鬼である彼女が、少年が死ぬことに恐怖するという、それ自体にも。
「どうして、ここに?」
 それが少年が出せた問いだった。
 少年は、レミリアの『私物』として紅魔館にいる。
 記憶も何もかもを喪っていて、湖畔に浮かんでいたところを拾われ、とても珍しい血液型の持ち主として、レミリアの舌を満足させるためにいる。
 拾われてから、つい昨日、一年が経った。
 その時間の中で彼が知ったレミリア・スカーレットという人物は、少なくとも、人前で弱音を吐くような性格ではなかったと思う。
 レミリアもまたそれを自覚しているのか、くすくすと笑った。
「そうね、どうかしているわ。お前程度死んだところで、私の何が変わるというわけでもないのに」
 少年は、この幼い吸血鬼のモノだ。その事実は変わらない。
 それは両者が正しく認識している。普通の人間なら到底受け入れられる関係ではないが、生憎と少年には何もない。
 産んでくれた母親も、十と少しの歳月を過ごした環境もあるはずだが、それらは全て彼の中から喪われた。
 だから少年にとって、自分と同じ背丈のこの真白い吸血鬼こそが、世界の中心だった。
 一年間生きてきて、色んなことを学び、それでもなお。
 ここがまともな人間の住む場所ではないと知って、それでもなお。
 どうしてかと言えば、それはきっと──とても簡単な、一つの理由。
「でもね、夢を見て、目覚めて──どうしても、お前の顔を見たくなった。
 お前がまだ生きていることを確かめたかった。
 ついでに、この喉の渇きを癒そうと思って、ね?」
 ツゥと伸ばされた手が、少年の寝巻きのボタンを弾き、首筋を露出させる。
 そこには二つの小さな傷痕が残っている。レミリアが少年の血を飲むときに、いつも牙を突き立てる場所だった。
「ああ、でも、どうしたことかしら」
 傷痕を、ゆっくりと、優しく──まるで愛でるように、レミリアは愛撫した。
「今はもう、お前の味が、全然美味しそうだとは思えないの」
 そう口にする吸血鬼は、笑っていながら泣いていて、喜びながら悔やんでいて、その全てを押し殺すように、表情を歪めた。
 何にかは分からないけれど、苦しんでいるのだと、少年は思った。
 だからどうにかして、それを取り除いてやりたいと思った。
「うまく、言えないと思いますけど、いいですか?」
「良いわ、言いなさい」
 許可を得て、はい、と頷いてから、
「あの、僕は──咲夜さんもですけど──人間だから、きっとそのうち死んじゃうと思うんです」
「……そうね」
「それは仕方のないことで……えーっと、その前に、僕って、死んでもどうでもいい存在ですか?」
「……だったら私はここに来ていないわ」
 少し憮然とした表情で、レミリアは応えた。心外だ、と言わんばかりに。
 しかしそこまで言ったところで、はたと何かに気づいたように表情を変え、
「ええ、でもそうだということは、そうなんでしょうね。どうでもよくは、ないのよ、もう」
「あ、それはありがとうございます」
「いえいえ」
 少年に釣られるようにレミリアまでもが頭を下げてから、
「いやそういうことじゃなくってですね」
「ええ、そういう話ではなかったと思うわ」
 仕切り直し。
「えっと。僕は多分、そのうち死にます。
 絶対に、ってわけじゃないですけど。死ぬのを、ずっと先にすることだってできると思いますし」
「そうね」
 レミリアは吸血鬼だ。人の血を吸い、自らの眷属とすることができる。
 そうして生まれた吸血鬼は、既に五百年を生きたレミリアと同様、途方もない長寿を得ることができるだろう。
「……私の眷属になるつもりは、ないの?」
 そう、レミリアは口にした。
 それを言うことは、彼女が本音を吐き出したのと同義だった。
 ヒトである少年を、自らと同じ存在にしてまで生かそうとしているのだから。
 咲夜にも以前、同じようなことを言ったことがある。そのときは断られ、レミリアも受け入れた。
 それが自分と咲夜の最も正しい関係であると、レミリアが思ったからだ。
 でも、今はどうだろう。
「ええ、そうよ、きっと怖いんだわ、私」
 レミリアは少年の手を離し、代わりに両手で包み込むように頬に触れた。
「お前がいなくなるのが怖いの。私の時間の五百分の一しかないお前がいなくなるのが、とても怖いのよ。
 どうしてだかは分からない。でも今は、眠るのが怖い。またあの夢を見てしまうのが、怖い」
 少年は、ただの少年だ。珍しい血液型という以外には、何の変哲もない。
 この感情の名を、レミリアは知らない。ただ、とても大切にしたくて、だから、喪われてしまうのが怖い。
「お前は私と同じ時間を生きてくれる? 私の永遠に近い旅路についてきてくれるの?」
 声は哀願するようであり、強制するようでもあった。
 普段ならば、少年がレミリアの頼みを拒むことはない。彼は彼女の所有物だから。
 でも、今は。
「……僕はまだ、人間でいたいです」
 真っ直ぐにレミリアの瞳を見つめて、そう返した。レミリアは、まるで最初から分かっていたとばかりに「そう」とだけ答え目を細めた
「でも」
「でも?」
「お嬢様とは、ずっと一緒にいたいです。……今は、それじゃダメですか?」
『まだ』は、『いずれは』と言い換えることもできる。
 この一年、少年は一言も館の外に出たいとは言わなかった。ただレミリアの所有物であることを望み続けた。
 それは彼が記憶を失くしていたからという事情もあったのだろう。
 だが、最も大きな衝動は、彼がここで目覚めてから初めて見た、少女の姿。
 横たわった自分を見下ろすレミリア・スカーレットを、『綺麗だ』と思ったから。
 単に、鳥の雛の刷り込みのようなものだったのかもしれない。正常な触れ合いで獲得した感情ではなかったかもしれない。
 けれども、彼はその理由だけで全てが足りているのだ。
「……そう」
 今度は、レミリアは微笑んだ。処女雪のように柔らかな笑顔だった。
「そうね。あなたは人間で、いつか死んでしまう人間で、でもまだ生きている人間だものね。
 ええ、そうね──仕方がないから、今はそれで満足してあげるわ」
 そう言いながら、レミリアは顔を近づけていく。
 血を吸われるときと同じ動作だったので、少年はなすがままそれを受け入れた。
 だがいつまで待っても、皮膚を食い破る鋭い痛みはなく──代わりに、そっと唇に何かが触れる。
「…………」
 何が起きたか理解できていない彼に、レミリアは悪戯っぽく微笑みかけてから、ベッドから飛び降りた。
「おやすみなさい」
 そして返事を待たずに部屋を出て行く。
 月光の薄明かりに浮かぶ顔には、心なしか、朱が差しているように少年には見えた。


































 と、そんなことがあったのが十年前。
「あの頃はまだ、あんな可愛い子供だったのにねぇ」
 そう言いながらレミリアは、もう少年ではなくなった彼の肩に頭を寄せた。
 時間が経つのは、早い。吸血鬼であるレミリアはそうでもないが、少年はおとなになった。
「ああ、そんなこともありましたね。今と同じような季節でしたか」
 月明かりの差す窓辺で、二人は並んで椅子に座っていた。
 何をするでもないこの時間を、たまらなく幸福だと、レミリアは思う。
「それで、目処は立ちそうなの?」
「ええまぁ、二、三年内にはなんとかしたいところですね」
「本当かしらね? もう少しパチェをつっついておくべきかな」
 彼は現在、パチュリーの教えを受け、少しずつ魔法を学んでいる。
 今はまだ『職業:見習い魔法使い』だが、いずれは捨虫の魔法を使って『種族:魔法使い』になるつもりでいた。
「そんなことしなくても、言えばいつでも眷族にしてあげるのにねぇ」
「まぁ、半ば意地みたいなものですけど。やっぱり、お嬢様と一緒にいるなら、自分で努力して並び立ちたいなって」
「別にいいけれどね。でも、本当に早くしてよ? 不老不死になったよぼよぼのおじいちゃんなんて、嫌よ、私」
「……いや、流石にそこまではないと思いますけど」
 苦笑し、レミリアを抱き寄せた。
「大丈夫ですよ。パチュリー様も、ちゃんと教えてくれてますし。だから僕が魔法使いになったら、そのときは」
「ええ、そのときは」
 手を、重ね合わせる。レミリアの左手薬指には、銀の指輪が光っていた。
 鍍金とか錫入りとかそんなことはなく、純銀製だ。
「こんな、つけてるだけで痛いものまで嵌めてあげてるんだから……約束破ったら殺すわよ?」
「破りませんよ。でも結婚したら、もっと大きいのプレゼントしますからね」
「……意外と攻め手なのね、貴方」
 言いながら苦笑しつつ、でも、とレミリアは空いている右手で、自分の下腹部をゆっくりと撫でた。
「本当、急いでもらわないと、どっちが先になるか分からないわ」
「滅多にあることじゃないと思うんですけどね……今までだって大丈夫だったんですし」
「どうかしらね? 何となく、そろそろかなぁって思うのだけれど」
「運命の糸が見える人が言うと、洒落にならないですよ、それ」
 そうしてまた、二人で笑い合った。





 紅魔館が上へ下への大騒ぎになるのは、これよりもうちょっと後の話。



新ろだ239

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