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ハーレム?6

最終更新:

orz1414

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「唐突だけど○○、一つ聞いていいか?」


「本当に唐突だな」


「気にするな。それで聞くが、胸は大きい方と小さい方どっちが好みだ?」


「………また随分な質問だな。何で急にそんな事聞いてくるんだよ?」


「実は今日、仕事の仲間内で貧乳派と巨乳派による論争が起きたんだ」


(………何でそんな論争が起こるんだろう?)


「そして数時間の間激しい意見のぶつかり合いとなったんだが、結局平行線のままでな」


(数時間………力を注ぐべき部分を明らかに間違ってる)


「そこで日頃から多種多様な美女美少女に接しているお前の意見を聞こうと思った訳だ」


「それは個人の趣味趣向の話だから僕の意見も何もないと思うんだけど……」


「とにかく答えろ! お前が答えないと話が進まないんだ」


「強引な奴………あくまでも個人的な意見だからな? 僕は…」

























友人とそんな会話をした翌日、僕は買い物に行くため人里へと向かっていた。


「こ、こんにちは、○○さん」


その道中、何の前触れもなく妖夢さんと遭遇した。
ほぼ必ずと言っていいほど幽々子さんの傍にいる妖夢さんが一人で出歩いているのは結構珍しい。
幽々子さんから買い物か何かを頼まれたのだろうか?


「妖夢さん、こんにちは………ん?」


そんな訳で挨拶を返したのだが、妖夢さんの様子がどうにもおかしい。
まるでペンキでも塗りたくったかように真っ赤になっている顔。
そわそわとしていて落ち着きがなく、時折こちらの方を向いては目が合いそうになると顔を逸らす。
いつもの彼女とはまるで別人のようだ。


「………………○○さん」


一体どうしたんだろうと思いながらしばらく待っていると、妖夢さんの方から声をかけてきた。
真っ直ぐ向けられた顔は依然として赤いままだが、その表情は何かを決意したかのように真剣そのもの。
しかし、その瞳は清廉潔白な彼女からは考えられないほどに艶のあるものだった。


(妖夢さん、こんな顔もするんだ……)


普段の妖夢さんとはあまりにもかけ離れたこの姿。
僕はまるで金縛りにでもあったかのように身動きがとれなくなってしまう。
それを知ってか知らずか、妖夢さんは次なる行動に出た。
自由自在に刀を振り回せるとはとても思えない小さな手を伸ばし、僕の右手を掴む。
そしておもむろに自身の方へ引き寄せると、僅かなの躊躇の後にそこへ押し当て………え?


「よ、よよよよ妖夢さん?!」


何? 何だ? 一体何が起こったんだ?
何で僕は妖夢さんの胸を触ってるんだ?
何で妖夢さんは僕に胸を触らせてるんだ?
もしかしてこれは夢?
しかしこの掌から伝わってくる僅かだが確かな柔らかさは? 温かさは?
もうなにがなんだか全然わからない。


「……○○さん。○○さんが好きなら、私は……」


って、なんか妖夢さんが聞いてしまったら後戻り出来なくなりそうな事を言おうとしてる!?


「あらあら、随分と大胆な事してるのね」


えっ、大胆? そんな言葉で済むようなレベルじゃないですよ!
大体、妖夢さんの事を一番よく知ってるのは貴女じゃないですか!
そんな暢気な事言ってる場合じゃない事くらい解るでしょうに!
そもそもなんでいつもと変わらない笑顔でいられるんですか幽々子さ………


「………もしかして、幽々子さんですか?」

「もしかしなくてもそうよ、○○」


その瞬間、僕は血の気が引いていくと言う比喩表現が現実的に起こりえる現象だと知った。
こういった状況を何も知らない第三者に見られた場合、
それまでの経緯がどのようなものであろうとも99%以上は男性側が悪いとみなされる。
しかも幽々子さんは妖夢さんにとって仕えるべき唯一の主。
つまり僕はこの状況を一番見られてはいけない人物に見られてしまったのである。
だが、意外なことに幽々子が矛先を向けたのは僕ではなく妖夢さんの方だった。


「ゆ、幽々子、これはその…「まったく、妖夢ッたら油断も隙もないわね」…ひぅ!」


即座に僕の手を離し、凄く動揺しながら幽々子さんに弁解を始める妖夢さん。
しかし、幽々子さんは言い訳など許さないと言わんばかりに一刀両断。
いつもと同じほんわかとした笑顔が今は果てしなく怖い。


「悪かったわね、○○。妖夢が迷惑をかけたみたいで」


得体の知れない恐怖によって妖夢さんが完全硬直した後、
幽々子さんは空恐ろしい笑顔を浮かべながらこちらに謝罪してきた。
それを見ただけで背筋が凍りついてしまう。


「い、いえ、別に気にしてませんから」

「そうはいかないわ。従者の不始末は主人である私の責任なんだから」

「でも、役得もあり…「何か言ったかしら?」…何でもありません」


余計な事をいいかけた僕は即座に謝罪。
半端な発言は死を招くと本能が告げていた。


「とにかく、今回のお詫びは後日必ずさせてもらうから」


幽々子さんは硬直している妖夢さんの首をグワシッ! と掴み、そのまま空へと舞い上がる。
その体勢だと妖夢さんの生命に間違いなく危険が生じるだろうがツッコまない。
僕だって命は惜しいのだ。
そんな事を思っていると、ふと幽々子さんがこちらの方を振り向いた。


「本当なら私が妖夢の後押ししてあげないといけないんだけど、私もまだ諦めたわけじゃないのよね」

「えっ、何をですか?」

「だから○○、今度会ったらゆっくりと良さを教えてあげるわ。期待しててね」


イマイチよく解らない事を言いながら今度こそ飛び去っていく幽々子さん。
最後のは一体どういう意味だったんだろう?




















思いがけないハプニングに遭遇した後、僕は改めて人里へと向かっていた。


「やっほ~、○○~」


その道中、何の前触れもなく萃香と遭遇した。
相変わらず昼間から酒を飲んでいるらしく、既に出来上がっているのか顔が真っ赤だ。
でも、何となく酔っ払っているのとは違う気がするのはどうしてだろう?


「やぁ、萃香。こんな所で会うなんて珍しいね」

「実は○○を探してたんだ。一緒に飲もうと思ってね」


人懐っこい感じの笑顔を浮かべた萃香はどこからともなくそれを取り出した。
いつもながら一体どこから出てくるのだろうと思う。
まぁ、そんな疑問はどうでもいい。
今考慮すべきなのは萃香の取り出したそれ……封の切られていない瓶についてなのだから。


「前にも言ったと思うけど、僕じゃ萃香のお酒は飲めないよ」


一応言っておくが、僕はお酒に強い方である。
仕事仲間と飲んだりしたときも酔い潰れるような事はまずない。
だが、それはあくまでも一般的な人間を基準とした場合。
人外の方々、まして幻想郷一の酒豪である萃香など比較にもならないのだ。
それを知らずに過去彼女の用意した酒を飲んだ僕は地獄を見たのだから。


「大丈夫。自分用に持ってきたお酒は別にあるから」


僕の返答は予想済みだったのか、別の瓶を取り出す萃香。
どうやら今回は僕が飲めるお酒を別に用意してくれていたらしい。
萃香にしては珍しく気が利いてるな。


「そういう事なら喜んで付き合うよ。
 でも、今から買い物に行かないといけないからその後でいいかい?」

「うん、いいよ」


そう言って両手に持っていた瓶を何処かにしまう萃香。
なんだか今日の萃香はみょん…妙に素直だな。
いつもなら『ダメ! 今すぐ飲む!』とか言って駄々をこねる所なのに。
そんな事を考えている隙に萃香は僕の目の前から消えていた。


「あれ? ちょっ…おっと!」


次の瞬間、背中に大きな何かが圧し掛かってきたような衝撃を受ける。
と言うか考えるまでもなく萃香だ。
いきなりの事に焦ったが、それでも飛び乗ってきた萃香を落とすわけにはいかない。
僕は素早く背中に手を回して彼女を抱えあげる。


「おいおい、いきなり飛び乗ってきたら危ないだろ?」

「えへへ。それじゃあ買い物にしゅっぱ~つ!」


何故か萃香をおんぶする羽目になってしまった。
しかもこのまま人里まで行けと?
確かに萃香はそれほど重くないけど、それでも人里までとなるとかなり距離が………


「ほらほら、早く行こうよ○○♪」


そんな笑顔で言われたら降りろなんて言えないじゃないか。
オマケにがっちり手を回してきて、意地でも離れないって感じだ。
何がそんなに嬉しいのか解らないけどこのまま行くしかないみたいだな、これは。


「まったくもう、仕方がな……あれ?」


苦笑しながらも了承の意を伝えようとしたその時、背中にかかっていた重さが消える。
驚いて振り向くと、つい今の今おんぶしたばかりの萃香が忽然と姿を消してしまっていた。


「萃香? 何処行った?」


慌てて辺りを見回してみるが、萃香の影も形も見えない。
能力を使って霧になったのかとも思ったが、それにしてはあまりにも不自然。
そもそも萃香は何も言わずに消えてしまうような真似は絶対にしないはず。
あんなに嬉しそうにしてたんだし、尚更だ。


「あら、○○さん。こんにちは」

「え?」


誰かが僕を呼ぶ声。
萃香を探していた僕は反射的にそちらの方を向く。
そこにいたのは萃香ではなく、紅魔館メイド長の咲夜さんだった。


「あっ、咲夜さん。どうも、こんにちは」


レミリアさんの御付である彼女が一人で外出しているのは珍しい。
何か用事でも頼まれたんだろうか?
って、妖夢さんの時も同じ事考えてたな。


「こんな所で会うなんて奇遇ですね」


完全で瀟洒という二つ名に相応しい素敵な笑顔の咲夜さん。
その笑顔に流されてつい世間話に興じてしまいそうになるが、萃香の事を思い出し我に返る。


「咲夜さん、萃香を見ませんでした?」

「…あら、どうかなさったんですか?」


ん? 一瞬咲夜さんの顔が強張ったような気がしたけど、気のせいかな?


「実はついさっきまで一緒にいたんですけど、急に何処かに行ってしまったみたいで」

「そうなんですか。○○さんを放っておくなんて、もう本当に生きる価値のない屑なんですね」

「え?」

「そんな薄情な鬼の事なんて忘れてしまった方が○○さんのためですよ」


何だか萃香に対して棘…どころではなく確実に悪意の篭った発言をしている咲夜さん。
前の宴会の時はそんな感じしなかったんだけど、咲夜さんって萃香のこと嫌いなのかな?


「いや、でもそういう訳には……」

「あんなアル中にまで優しく接するなんて、さすがは○○さんです。でも……」


そう言って咲夜さんは何故かこちらに接近してくる。
僕は何となく身の危険を感じて距離を取ろうとするも、気付けば抱きつかれ地面に押し倒されていた。
勢いよく倒れこんだので背中がちょっと痛い。
いや、気にするべきところはそこじゃない。


「あの、咲夜さん?」

「○○さん。今はその優しさを私だけに向けてください」


僕の言葉をスルーして事態をどんどん進めていく咲夜さん。
その表情は先に出会った妖夢さんの見せたそれと酷似していた。
そして彼女は僕の服に手を掛けて素肌を……って、ちょっと?!


「咲夜さん?! いくらなんでもまずいですって!」

「うふふっ、愛する二人の前には些細な事です」


真昼間でいつ人が通るとも知れない道のど真ん中での暴挙の何処が些細な問題ですか!
それに愛する2人って何です?!
別に咲夜さんの事は嫌いじゃありませんけど、だからって愛す……違う違う! 問題はそこじゃない!
混乱して冷静さを失うな!


「と、とにかく離れてください!!!」


何とかこの状態を打開せんと必死にもがくが、一向に咲夜さんを引き剥がす事が出来ない。
それどころか咲夜さんはより一層身体を密着させてきており、
これでもかと言わんばかりに女性特有の柔らかさやら何やらを意識させられ続けていた。
やばい、妖夢の比じゃないぞこれは!


「咲夜さん、お願いですから離れてください!」


急速に消滅しつつある理性を必死に奮い立たせる僕。
男として情けないけど、腕力で勝てない以上は何とか言葉で説得するしかない。


「それは無理です。予定とは少々違いましたが、こんなチャンスは滅多にありませんので」


しかし、完全にトリップしている様子の咲夜さんには全く通じなかった。


「予定?! それにチャンスって何ですか?!」

「据え膳食わぬは何とやらです。それではいただ…「○○から離れろッ!」…ッ!」


もはやこれまでと諦めた瞬間の出来事だった。
咲夜さんの欲情にまみれた瞳が一転して鋭さを帯び、いきなり僕の上から飛びのく。
直後に僕の真上を通過していく紅蓮の火の玉。
咲夜さんが離れるのが僅かでも遅ければ、それはきっと彼女に命中していたであろう。


「○○、大丈夫!?」


そして火の玉が飛んできた方を向くと、
そこには僕の(ついでにスレ的な意味の)危機を救って恩人、萃香が立っていた。


「ああ。萃香、ありがと…って、ナイフ刺さってるぞ?!」


が、萃香は僕とは違った意味で危機的な状態だった。
簡単に言うと全身のいたるところにナイフがぶっ刺さっていたのである。
しかしこのナイフ……もしかして、萃香を何処かにやったのは咲夜さん?


「これくらい平気だよ、○○。それにしてもやってくれたな」


そんな僕の心配に笑顔で答える萃香だが、
その顔は咲夜さんを見ると同時にたった一つの感情のみを宿したものへと変化。
ついでに口調まで威圧感たっぷりなものに変わっていた。


「あらあら、せっかく○○さんと二人っきりだったのに。無粋な鬼だこと」


まるで萃香に呼応するかのように咲夜さんの様子もまた変化する。
僕を押し倒していたときの名残など微塵も感じさせない氷のような冷たい表情。
しかしながらその本質は萃香と同じ……すなわち『相手に対する絶対的な怒り』のみ。


「最初に邪魔をしたのはそっちだろう?
 しかも白昼堂々○○に無理矢理関係を迫るという暴挙。
 そんな浅ましい女には○○の傍にいる資格などない」

「あら、自分に色気の欠片もないからと言って僻むのは見苦しいわよ。
 貴女じゃ精々、兄にじゃれついてるうっとおしい妹ですものね。
 単に成長が足りてないだけのチビ鬼さん?」

「日頃から見栄を張って真実を偽ってるような奴に言われたくないね。虚乳メイド」

「………そう、どうやらお仕置きが必要みたいね」

「………人間風情が調子に乗るなよ」


そこで言葉のやり取りは終わった。
代わりに飛び交い始めるのは大量のナイフと火球、そして弾幕。
加速していく事態は留まるところを知らず、ついに一般人の踏み込める領域を飛び越えてしまった。


「………………早く人里に行こう」


そんな人外の争いを目の前にして僕が事はたった一つ。
自分がいなくなった場合に起こるであろうリスクを無視し、全力で立ち去る事だけだった。




















早々に脱出を計り人里へと向かった僕だったが、それから後がまた大変だった。
まるで狙ったかのようなタイミングでチルノやらルーミアやらてゐやら輝夜さんやらと次々に遭遇。
オマケに全員が全員と言うわけではないものの、大半が妖夢さんや咲夜さんのような暴走状態だった。
おかげでここに至るまでに多大なる精神的疲労を負う羽目になってしまった。


「………あぁ、やっぱりお店閉まってる」


それでもどうにか里に到着した僕だったのだが、到着時間は予定よりも大幅に遅れていた。
当然買い物をするはずだった店の営業時間は過ぎ去っており、もはや手遅れ。
無理を言えばお店を空けてもらえるかもしれないが、さすがにそれは気が引ける。


「それにしても、どうやって帰ろう?」


そして目的が果たせなかった事以上に問題なのが帰路だ。
既に時刻は夕方から夜へと差し掛かっており、今人里を出たとしても帰り着くのは真夜中。
妖怪の領域でもある夜間の外出は僕のような一般人にしてみれば死を意味していた。
いくらなんでも自分から妖怪達のご飯になりにいくつもりはない。


「こんばんわ、○○さん」


どうしたものかと途方に暮れていたそんな時、思いもよらない人物から声をかけられた。
四季映姫・ヤマザナドゥ様である。


「どうも、こんばんわ」


反射的に挨拶を返したものの、僕は意外な人物の登場に驚いていた。
閻魔という役職上、常に多忙な日々を送っている映姫様。
そんな映姫様がこんな時間に人里にいるなんて考えもしなかったからだ。


「今日はお仕事はお休みなんですか?」

「ええ。大切な用事が出来たので今日から一週間休みを取ったんです」


映姫様の答えで更に驚く。
あの仕事熱心な映姫様が一週間も休みを取るなんて、余程大切な用事なんだろう。
どんな用事か聞いたら失礼かな。


「ところで○○さん。一つ質問をしてもよろしいですか?」

「えっ? あ、はい、どうぞ」


ん、また随分と唐突だな。
映姫様が僕に質問って一体なんだろう?


「この記事の内容は本当ですか?」


そう言って映姫様が差し出してきたのは今日付けの文々。新聞だった。
その一面にデカデカと掲載されている記事を見て僕は絶句。


『驚愕! 外界人○○さんは貧乳フェチ?!』


見も蓋もないどころか侮辱罪で訴えてもよさそうな見出しで始まっているその記事。
それは驚くべき事に昨日友人としていた会話をさらに脚色したものだった。
しかしどこからこの話を聞きつけたのか知らないけど、いくらなんでもあんまりだ。
大きな胸なんて胸じゃない? 貧乳はステータス? 貧乳こそ究極にして至高の存在?
見出しの段階で既にアレなのに、書かれてる内容なんてまるっきり僕の事変態扱いしてるじゃないか。
しかもこの辺の発言は全部僕じゃなくてアイツなのに……


「○○さん。それでどうなんですか?」


おっと、悲観してる場合じゃなかった。
今はまず確実に誤解しているであろう映姫様に真実を説明しないと。
万が一肯定でもしようものなら徹夜でお説教されかねない。


「あのですね、映姫様。
 率直に言いますとこの記事は射命丸さんが面白おかしく大げさに書き散らしているだけです。
 確かに僕がスレンダーな体型の方が好みというのは事実ですが、
 だからと言ってここに書かれているような事は断じてありません」

「そんな事はどうでもいいのです。
 いえ、本当はどうでもよくないのですが、今は置いておきます。
 私が聞いているのはこの記事の一番最後に書かれている一文についてです」

「最後の一文?」


映姫様の言葉を受けて僕は記事の一番最後を見る。
そして再び言葉を失った。


『なお、○○さんは現在恋人募集中。
 御本人のコメントとして『僕と付き合ってくれるという人はいつでもどこでも大歓迎!』との事です』


確かに今の僕には恋人なんていないけど、だからってこんな事は一言も言ってないぞ?
てかなんだこのアホ丸出しなコメントは。
射命丸さん、僕に何か恨みでもあるんですか?


「これは完全に射命丸さんの捏造です。僕はこんな台詞を口にした覚えなんてありません」


ここは完全に事実無根なのでキッパリと否定しておく。


「そう、なんですか………」


が、僕の答えに何故か落ち込んでしまう映姫様。
そして落ち込んだまま、まるで一縷の望みでもかけているかのような目でこちらを見つめてくる。


「ですが、○○さん自身恋人が欲しいと思っている事は間違いではありませんよね?」

「……それはまぁ、やっぱり恋人は欲しいですよ」


懇願するかのような映姫様にクラッときた僕は、おそらく映姫様が望んでいるであろう答えを返した。
もっともこれは嘘ではない。
何しろ昨日僕と話していたアイツにさえも恋人がいるのだ。
この歳になって独り身なのはいい加減に寂しいというか空しい。


「そうですか。それを聞いて安心しました」


今度は一転して嬉しそうな笑顔になる映姫様。
それにしてもどうして僕の言葉でここまで一喜一憂するんだ?
今日の映姫様はどこかおかしい……ハッ、まさか映姫様まで妖夢さん達みたいに?!


「それでは○○さん、行きましょうか」


いつの間にか僕の腕を掴んでいる映姫様。
マズイ、このまま良からぬ場所にでも連れて行かれたら今度こそ本当にアウトだ!!!
何が何でも断らなければ!!!


「あの、映姫様? お気持ちはありがたいのですが僕はもう家に帰らないといけませんので…」

「はい。ですから私が○○さんのお家まで送っていきますよ」

「……え?」

「この時間だと○○さんお一人で帰るのは危険ですから。あっ、それともご迷惑ですか?」

「い、いえ! そんな事ありませんよ!」


映姫様の厚意を勝手に邪推して変な事を………完全に疑心暗鬼に陥っていたな。
すみません、映姫様。
僕の家に着いたらキチンと謝罪させていただきます。


「それじゃあ映姫様、申し訳ないですけどよろしくお願いします」

「いえいえ、お気になさらないでください。それでは行きますよ」


そんな訳で僕は映姫様に手を引かれ、闇に染まっていく空へと舞い上がった。
何にしても無事に帰りつけそうで良かった良かった。

























きっと、そんな暢気な事を考えていた所為だろう。


「そうですよ、○○さん。気にする必要なんて何処にもないんですからね……フフッ………」


映姫様がまるで獲物を捕らえた肉食獣のような笑みでこんな事を口走っていたのに、僕は全く気付かなかった。



────────


人里で偶然出会った映姫様の厚意に甘え、僕は自宅へと送って貰っていた。
大切な用事のために休暇を取ったという映姫様に余計な面倒をかけてしまい、
僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
そう、申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが………


「映姫様。一つお聞きしたい事があるんですけど、いいですか?」


どうしても腑に落ちない、というか聞かずにはいられない事がある。


「どうしてこの状態で飛んでるんでしょう?」


それは現在の僕達の状態…というか体勢。
人里から出発した当初はただ手を繋いでいるだけだったのに、
いつの間にやら真正面から抱き合うような格好で空を飛んでいるのだ。
おかげで映姫様の綺麗な顔がすぐ目の前に迫っており、
また映姫様の身体がこれ以上ないほど密着しているため、僕は邪念を鎮めるので大変だった。


「この方が安定するんですよ」


微笑みながらさも当然の事のように言う映姫様だが、
自力で飛ぶ事の出来ない僕でもそれはありえないと思う。
どう考えても手だけ引いてもらっていた時のほうが飛びやすいはずだ。
とは言え送って貰っている以上、映姫様の行動に文句をつけるわけにはいかなかった。
映姫様がそう言うのならばそうなのだろうと納得するしかないのである。


「きゃ♪」

「ッ!!!」


そう、咄嗟に身体を押し付けられたりあわやキスされそうになったとしても耐えるしかないのだ。


「ゴメンなさい○○さん。何だか急にバランスが崩れてしまって♪」

「い、いえ。大丈夫です」


映姫様、そう言いながらも悲鳴とか台詞とかが妙にワザとらしい気がするのは何故ですか?




















結局そのままの状態で運ばれる事約三十分。
何とか自宅まで耐え切る事が出来たものの、精神的疲労はピークに達していた。
出来る事なら今すぐにでも布団に入って泥のように眠りたい。
だが、その前にわざわざここまで送ってくれた映姫様にお礼を言わないと。


「映姫様、わざわざ送っていただいてありがとうございました」

「気にしないでください、○○さん」


ああ、映姫様の笑顔が眩しい。
こんなにも温かくて純粋な笑顔の出来る人がワザとあんな事をするはずないじゃないか。
そもそも街で会った時だって、映姫様が他の人みたいに変な暴走してるんじゃないかって勘ぐったし。
僕は心の中で映姫様に対する勝手な想像への謝罪を行った。


「……あれ?」


と、ここで僕は足元のある物に気がついた。
それは僕が外出前に描けておいた南京錠の存在。
その鍵が何故か真っ二つにされた状態で転がっていたのである。


「どうかしましたか?」

「いえ、その……これが」


とりあえずボロボロになったそれを拾い上げ、映姫様にも見せた。
周囲に人が住んでいないため、僕は万が一を考えて必ずこの鍵を掛けてから外出している。
それが壊されていると言う事はつまり、何者かが僕の家に無断で侵入したという事だ。
いや、もしかしたら未だに僕の家の中に居座っている可能性だってある。


「有罪です」

「え?」


そんな感じの説明を終えた後、映姫様のそんな呟きが聞こえてきた。


「○○さんの家に忍び込むなど言語道断ッ!
 そのような不貞の輩はこの四季映姫・ヤマザナドゥの名において見過ごすわけにいきません!!!」

「え、映姫様? ちょっ、落ち着いてください」

「落ち着け? 落ち着けですって!? 何を言ってるんですか○○さん!!!
 誰とも知れぬ者が○○さんの家に不法侵入したのですよ?!
 これが落ち着いていられるわけ無いじゃないですか!!!
 ○○さんの家に無断で進入するなど、どんな理由があっても許されません!
 それにもし家の中を物色でもされていたらどうするんです?!
 いえ、間違いなく物色されているでしょう。
 何しろ○○さんの私物という超激レアアイテムの宝庫、見逃す手はありませんよ!!!」


げ、激レア…何だって?
映姫様の口から物凄く違和感のある単語が……いや、きっと疲れてる所為で聞き間違えたんだ。
そうに違いないという事で納得しておこう。


「あの、映姫様? 僕の私物なんて盗んでもどうしようもないですよ?」

「何を暢気な事を言ってるんです!!!
 もしも犯人が盗み出した○○さんの私物で善からぬ事をしていたらどうするんです!!!
 そんな羨ましい事断じて認められません! 私だっていつも我慢しているのに!!!」


あ、あれ? 映姫様がさらにトンでもない事を口走った気が……いや、これもきっと聞き違いだ。
今日の僕はどうしようもないくらいに疲れているし、うん、きっとそうに違いない。
清廉潔白を地でいく映姫様が日頃から変態じみた犯罪行為を妄想しているなんてありえない。


「とにかくまずは犯人に繋がる証拠を見つける事が先決ですね。○○さん、行きますよ」


などと軽く現実逃避している間に家へ突入しようとしている映姫様。
それに気付いた僕は慌てて映姫様を止める。


「映姫様、それは危険ですよ! まだ犯人が家の中に居るかもしれないのに……」

「それこそ好都合と言うものです。
 神聖な聖域を汚した屑がどんな目にあうのか、魂の奥深くにまで刻み込んであげます。
 安易な死など絶対に与えてやるものですか!!!」


だが、今の映姫様にはそんな制止など無意味だった。
むしろ犯人が居た方がいいとまで言い放つ始末。
それ、絶対に閻魔様が言っていい台詞じゃないですよ。


「○○さんの家に侵入した不届き者!!! 居るのならば出てきなさい!!!」


そうこうしている間に映姫様は玄関の扉を開け放って家内に突入してしまった。
仕方なく覚悟を決めた僕も映姫様の後について自宅へと足を踏み入れると、


「お、お帰りなさいませ、○○さん」

「「………………は?」」


何故か三つ指ついて待機していた妖夢さんを前にして言葉を失ってしまうのだった。




















全く予想だにしていなかった人物の登場にしばし放心状態だった僕と映姫様。
妖夢さんの呼びかけで我に返った後、彼女に事情の説明をお願いした。


「……なるほど、そういう事だったんですか」

「お騒がせして申し訳ありませんでした」


正座して深々と頭を下げる妖夢さん。
当たり前だが、南京錠を破壊したのは彼女だった。
その理由を要約すると、

『白玉楼に強制連行された妖夢さんは今日の件で幽々子さんと盛大な喧嘩を繰り広げた。
 その後カッとなって勢いのまま家出したものの、行く当てがなかったのでとりあえず僕の家に。
 しかし鍵が掛かっていて中に入れなかったのでやむを得ず』

との事。
どうして最後がやむを得ずに繋がるのかはさておき、
入った後は鍵を壊してしまったお詫びに掃除や洗濯などの家事をしてくれていたらしい。
しかし、妖夢さんが幽々子さんと喧嘩するとは驚きだ。
今日の事は2人にとってそんなにも大きな問題だったのか。


「ですが、器物破損と住居不法侵入に変わりはありません」


僕の横で映姫様が無表情で言い放つ。
先程までの興奮状態から一転して氷のように冷たく感じられる映姫様。
自分に向けられているわけではないと解っているのに、一言一言聞く度に反応してしまう。


「映姫様。妖夢さんなら知らない間柄でもないですし、僕はもう気にしてませんから」

「○○さん。罪は罪です」

「でも掃除や洗濯とかの家事をしてくれた訳ですし、それでチャラという事にはなりませんか?」

「………………○○さんがそう言うのでしたら仕方ないですね」


明らかに納得していない感じの映姫様だったが、最終的には僕の意見を尊重してくれた。


「ありがとうございます、映姫様」

「ッ!? べ、別にお礼を言われるような事ではありません」


とりあえず笑顔でお礼を述べると、顔を真っ赤にして思いっきり目を逸らされてしまった。
もしかして照れたのかな?
普段は凛とした雰囲気で格好いいけど、こういう仕草は素直に可愛らしいと思う。
まぁ、可愛いなんて口にすると怒られそうだから実際には言わないけど。


「それでは○○さん、私は夕食の準備をしてきますね」

「あ、僕がやるからいいですよ」

「いえ、後は温めるだけですから。
 それに私は今日から居候の身なのですから、お気遣いは無用ですよ」


そう言って台所に向かう妖夢さ……ん、居候の身?
ひょっとして妖夢さん、このまま僕の家に住むつもりなのか?


「あの、妖夢さ…「貴女が○○さんの家に住むなど、断じて認めるわけにはいきません!!!」……ん」


僕の台詞を掻き消して妖夢さんに詰め寄る映姫様。
さっきまでの冷徹さが一転し、表で騒いでいた時のように熱を帯びていた。


「これは私と○○さんの問題ですので、別に四季様に認めていただく必要はありません」


しかしながら妖夢さんは怯まない。
幽々子さんが相手だった時とは比べ物にならない程の覇気を放ちながら映姫様と対峙している。


「○○さんの身の安全を考慮した上での至極真っ当な意見です!!!」

「身の安全を考えたのならば、私が一緒に居た方がより効果的だと思いますが?」

「戯言を! 二人きりという状況を利用してか弱い○○さんを襲おうという魂胆が見え見えです!」

「お、襲うなんて破廉恥な事言わないでください!!! 私はただこの機会に既成事実を…」

「同じ事です!!! そんな抜け駆け許しません!!!」


何だか男として情けなくなってくる2人の言い争いだが、この流れは非常に危険だ。
このままヒートアップしていけば間違いなく萃香と咲夜さんの二の舞になってしまう。
この二人に暴れられたら僕の家なんかひとたまりも無いだろうし、それ以前に僕の命が危ない。


「ふ、二人とも冷静に、ね? とにかく落ち着いて話し合いましょうよ」


僕は可能な限りの笑みを浮かべて2人の説得に入る。
結論を先延ばしにするだけのような気もするけど、まずは2人を落ち着かせないと。


「○○さん! ○○さんは同居を認めるというのですか?!」

「○○さん! ○○さんは私に出て行けというんですか?!」


しかし、余計な横槍は自らの死期を早めるだけの結果となってしまった。
二人の矛先が揃って僕の方に向けられ、何の覚悟も出来ぬまま究極の選択を突きつけられてしまう。


「「どうなんですか!? ハッキリしてくださいッ!!!」


どうして僕が責められないといけないんだろう、と心の底から思う。
だが、こうなってしまった以上は理不尽な現実を嘆いても意味が無い。
この状況を切り抜ける返しを考えなくては。
何か無いのか? 全てが丸く収まるようなアイデアは……


「それなら私達皆で○○の家に泊まればいいんだよ」

「……は?」


えっ、何で萃香がここにいるんだ?
萃香は咲夜さんと殺し合いスレスレの弾幕ごっこをしてたはずでは?
ハッ、まさか咲夜さんを亡き者に?!


「全員一緒ならば不用意な抜け駆けは出来ません。
 もちろん不満は残りますが、○○さんと一つ屋根の下という状況を考えれば妥協できるレベルです」


あっ、咲夜さん死んでなかったんだ。
よかったよかった……じゃなくて、何で咲夜さんと萃香が揃ってここに?!
全然気配とか感じなかったけど、いつの間に入ってきたんだ?!
それに映姫様も妖夢さんもどうして驚いてないんですか?!


「そういう事ならば仕方ありません」

「不本意ですが、ここは引き下がった方が良さそうですね」


すっかりパニックな僕をそっちのけで4人は話を進める。
そして僕が我に返ったとき、僕にとって最悪と言って過言ではない条件で話がまとまっていた。
いや、ひとえに最悪というよりは天国と地獄のせめぎ合いという方が正しいかな。


「そういう訳だからさ、○○。今日は宜しくね~」

「「「宜しくお願いしますね、○○さん」」」

「………………はい」


とにもかくにも、こうして僕の長い夜が始まったのだった。





続く

うpろだ1322、1389

───────────────────────────────────────────────────────────

 話は2時間ほど前に遡る。
 永遠亭には現在男性一名が収容されている。入院、ではなく収容である。
 その彼が脱走したのだ。
 これにたいそう驚いたのが、永遠亭の当主蓬莱山輝夜。
 随分彼に良くしてやっていたものだから、逃げるとは夢にも思わなかったのである。

「イナバ、捜索状況はどうなってるの!」
 効果音と集中線を伴いながら、輝夜が言う。
「機械化兎兵中隊二個で探索に当たらせています」
「少ないわ、もっと出しなさい!」
「いや、これで全力ですので」
 黄昏時に竹林外まで遠征できる兎は少ない。
 遠征能力のある兎でも、群れていないと食われる危険性があるので全く安心できない。
「永琳は何処に行ったのかしら、こんなときに」
「師匠は里まで出張しています。もうじき帰ってくると思いますが……」
「うーん、永琳が居ないと発信機が使えないのよね」
「いつの間にそんなの埋め込んでいたんですか……」
 ため息をつく輝夜と鈴仙。しかし両者のそれの意味は大分異なるものであった。

「ただいま戻りましたー」
「永琳お帰りなさーい」
 作戦会議の最中に永遠亭のブレイン、八意永琳が帰ってきた。
 彼女が帰ってきたならもう安心。てゐの能力と合わせてポコロコ永琳となり、きっと彼を見つけてくれるだろう。
「姫、こんなの捕まえました」
「捕まえられました」
 その手の中には奴が居た。どうやら早速見つけてきたらしい。
「どうしましょう。拓でも取りますか?」
「とりあえず、真ん中に持っていきましょう」
 そう言って輝夜は彼の右手を取る、なので永琳は左手だけを持つ。
「なんていうか捕まったグレイみたいね」
「宇宙人にそんなこと言われるとは思わんかったぜよ」
 輝夜の軽口に適当に付き合う。しかし、輝夜はそれ以上は付き合ってこなかった。
「それで、何で脱走なんてしたの?」
「脱走? 誰がそんなことしたんだ?」
 全員の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
 脱走したのではない?
「じゃあ何で居なかったの?」
 輝夜が聞くと、彼は平然と答えた。
「いや、屋台から竹串の大量注文をもらったんで材料調達に」
 そういう彼の右手には鋸と、背中の籠にはぶつ切りにされた竹が入っている。
「ああ、だから竹を選んでいたの」
「なあんだ、じゃあ姫様の早とちりだったんですね」
「あら私としたことが、しくじっちゃったわ」
 一同大笑い。これにて大団円と相成りまする。
「……ところでその屋台って妹紅のじゃないわよね」
 と言うわけには行かない。瞬時に場が凍り、皆の視線が一点に集中する。
「Oooooops!」
「ごまかそうとするんじゃないの!」
 輝夜が頬を引っ掴んで伸ばす。輝夜は常々良く伸びるこの頬を気に入っていた。
「大体なんでそんなことやってるのよ」
「なんでって、シノギをみつけないと里で暮らせないでしょ」
 里と言う言葉に、輝夜は更に激昂する。
「里? 何で里に行く必要があるの! ずっとここに居ればいいじゃない!」
「いやいや、いつまでもここで微温湯に浸りながら暮らすって言うわけにも行かないでしょう」
 言うと、輝夜は愕然とした表情になる。
「そんな……じゃあここを出て何処にいこうって言うの」
「んー、それほど考えていたわけじゃなかったけど、慧音さんと妹紅さんが世話してくれるって言うからちょっと甘えてみようかと」
「永琳、ちょっと妹紅殺してくるわ。あとお願い」
 言うや否や駆け出す輝夜。それにかしこまりましたと答える永琳。
「まあ体も良くなったみたいだし外に帰ってもって、あれ何処行った?」
 彼は輝夜の足跡を即座にロストしていた。それだけ輝夜の移動速度が速かったということだ。


「とは言われたものの、どうしようかしら」
「師匠、やっぱりこういうときは再教育じゃないですか?」
「再教育ね、まあ自己反省と総括というのもたまにはいいでしょうね」
 ゆっくりとした足取りで、永琳が近づいてくる。それと合わせるように鈴仙も近づいてくる。
「さて、何から反省させてやりましょうか」
「それなら軍隊仕込みのいいのがありますよ。これでもう逃げる気も無くすというのが」
 ニヤリと口の端を吊り上げて哂う鈴仙。
「ウドンゲ、ウドンゲ」
 それにひらひらと手を振りながら、軽い調子で永琳が言う。
「それは敵前逃亡兵が言う台詞じゃないでしょ」
 さすが永遠亭一のSと言われる女。古傷抉りも躊躇が無い。
「大体こういうことなら私に任せておきなさい。オルグもアジもなんでもござれよ」
 胸を張って言う永琳。確かにこの手のことは得意だろう。
「でも師匠大丈夫なんですか?」
「あら私のことを信用しないのかしら」
 多少不機嫌そうに永琳が言う。鈴仙はそれに物怖じせずに返す。
「だってまだ地上の兎達を思ったより懐柔出来てないじゃないですか。てゐ頼りで」
「それを言われるとちょっとつらいわね」
 永琳も兎の統括がてゐなのは事実なので反論はしない。、
「師匠、それに彼をオルグするなら私のほうが適任だと思いませんか?」
 鈴仙がスカートを少したくし上げ、その真白い太腿を露にする。
「あらそれはどういう意味かしら」
 永琳が腕を組み―無論胸を誇示するためにだ―鈴仙を詰問する。
「率直に言わせてもらえば、師匠はもう古いんですよ。ここは新しい人材に任せてください」
 そういう鈴仙も、ネクタイをはずし、シャツの第二ボタンまでをあけている。
「私の何が古いって言うのでしょうねえ」
 永琳は目を大きく見開き、まさしく威圧するように鈴仙を見下ろす。
 鈴仙も鈴仙で狂気の瞳を常時強力に発動させ、永琳を狂わせようとしている。
 永琳も狂気耐性があるが、その精神保護をトンネルするか大出力で破壊して発狂させようという魂胆のようだ。
「まずは今更自己反省とか言っている事ですねえ」
 鈴仙は不必要に語尾を延ばし、煽る様に話している。
「あら、肉体オルグなんていうのも十分古いんじゃないかしら?」
 永琳も声に十二分の威圧感をこめて鈴仙に言う。
 この一声だけでも、一発殴られるよりもよっぽど精神に堪えるのではなかろうか、と言う声色だ。
「どうでしょう。誰がやるかによるんじゃないですか?」
 鈴仙はあくまでも視線を外さず、永琳に挑戦的な目つきで言い返す。
「それは私が年寄りだといいたいのかしら? ウドンゲ」
 言いながら永琳がゆっくりと傍らにあった鞄に手を伸ばし――そして戦闘が開始された。


「ひでえなこりゃあ」
 その言葉のとおり、今永遠栄の一室は台風でも通過したような有様になっている。
 主な原因は鈴仙の精神攻撃の余波が物理世界に侵出してきたのと、永琳の直接攻撃だ。
「なんか、今日はみんな性格が変わったみたいだな」
 ぼやきながら、とばっちりを食わないように部屋の端のほうに移動する。
 さてどうしたものかと辺りを見回していると、ちょいちょいと襖の奥から手招きをする者が居る。
 はて誰かねと思い襖を開けると、てゐといくらかの妖怪兎がいた。
「なに、どうしたの?」
「ねえ、ミスティアの屋台にヤツメウナギ食べに行かない?」
 てゐからの食事の誘いは奏珍しいことではない。今までもちょくちょく誘われては少しつまみに行っていた。
 ただ、そのたいていを奢らされると言うことが問題なのだが。
「ん、そうだな、行くか」
 きょろきょろと襖の内側を見て決めた。今ここに自分が居るのはあまりにも危険すぎると言う判断だ。
 妖怪兎達も嬉しそうに飛び跳ねる。
「おごりだー」
「おごりだー」
「いや、奢んないって」
 妖怪兎達が残念そうに飛び跳ねる。
「おごれー」
「おごれー」
「ああもう、一杯だけだぞ」
「みんな、いっぱい奢ってくれるって」
 てゐによって単語の意味を刷りられると、皆から歓声が上がる。
「たくさんじゃないのよ、ひとつだけだって」
「さー行こっかー」
 その歓声の意味を打ち消そうと手を振るがなんらの意味は無く、てゐは号令をかけて出発する。
 仕方が無い、大した金額にもならないし奢ってやろうと財布を確認する彼。
 これがてゐと駆け落ちしたと誤解される2時間前の出来事である。



────────



 Q:目の前に蓬莱山輝夜がいます。どうしますか?
 A:妹紅が燃やす前に逃げる。

「燃えろー!」
 猛火が空気を喰う音と共に輝夜の体から勢いよく火柱が上がる。
 妹紅のファイア16を食らって、すぐに輝夜は表面からこんがり炭と化していった。
「更に燃えろー!」
 もう一発ファイア16を放つ妹紅。俺はと言うと、すぐ近くで頭を抱えてうずくまっている。
「とどめに燃えろー!」
 妹紅がまたファイア16を使う。地面はぐずぐずに融け、あたりには嫌な臭いが広がっている。
 周りにあった竹はすでに焼け、影も形も見えない。
 それは輝夜も同じ事で、着物は無くなり、体も真っ黒に炭化している。
 それを妹紅が蹴りつけると、グスリという音と共にあっけなく輝夜の体だったものは崩れていく。
 何度か炭の塊を踏みつけ散らすと、妹紅はこちらを向いて歩いてきた。

 なぜこんなことになったのかというと、だ。話は少し前に遡る。
 激戦地となった永遠亭を離れ、てゐや妖怪兎と共にヤツメウナギの屋台にやってきた。
 そこでは兎達が串の取り合いをした以外何事も無く、おおむね平和なものである。
 しかし、その後が拙かった。喧嘩をする輝夜と妹紅に出会ってしまったのだ。
 爆音と焦熱から嫌な予感はしていたし、回避行動はとったが、それも間に合わなかった。
 そして接触したとき、輝夜は一瞬こちらに気を取られ、その隙を逃さず妹紅は輝夜を燃やした。
 それが今の顛末だ。

「大丈夫だったか」
 手を差し出しながら妹紅が言う。
 危険に晒したのはお前だろうが、という言葉を必死で飲み込んで、妹紅の質問に首を縦に振る。
 妖怪兎達は一目散に永遠亭に向かって走り去っており、すでにいない。
 ここにいるのは俺とてゐ、妹紅に輝夜だった炭だけだ。
 ちりちりと灼ける皮膚を無視しながら、ゆっくり立ち上がる。
「おかげさまで」
 精一杯の皮肉を込め返答する。妹紅はそれでも満足そうに頷いた。
「怪我も無いね」
 その問いにも頷いて返す。てゐも何事も無いらしい。
 ただ、必死に腕を引っ張っているのはここから早く逃げ出したいためだろう。
 俺を置いて行かないのは、置いて行ったとき永琳に何をされるか判らないからか。
「それじゃ、うちらは永遠亭に帰りますかね」
 手を引っ張るてゐを先導に、一路永遠亭に向かって歩き始める。
 そのはずだったのだが熱気にやられたか体がよろけ、地面に膝を着く。
 多少驚いたが、頭がふらつくということはないし問題は無いと判断して立ち上がろうとする。
 しかし、それを遮る様に妹紅が俺の体を突き飛ばす。
「ふらふらじゃないか! 本当に大丈夫か」
 つくづくお前のせいだろうが、と思うが口にはしない。怖いから。
「ちょっと行けば私の家があるから、そこで休んでいこう、なっ!」
 言いながら妹紅が俺の体を起こし、抱えようとする。
 血走った妹紅のその目は、俺の心に恐怖心を植えつけるのには十分すぎた。
 しかし、俺を抱き上げるという妹紅の目論見は成就することは無かった。

「だめよ妹紅、彼は渡さないわ」
 ぞくりと背筋が震える。今確かに殺されたはずの輝夜の声は、全く真後ろからした。
 輝夜の真白い腕が首に回される。そのか細い指が俺の喉笛を撫で上げる。
「た……確かに今死んだはずじゃあ」
「そうね、一回死んだわ」
 そんなことは瑣末事だとでも言いたげな口調で輝夜が言う。
「でも、一回死んだだけなのよ。蓬莱人にはそんなのどうって事ないでしょう」
 蓬莱人。そうだ、こいつらは不死化しているんだった。
 なのに何で殺しあっているんだろう。無駄なのに。

 輝夜は他方の手で妹紅の首を掴んでいる。
 対する妹紅は俺が盾になってるために輝夜を燃やせずにいる。
「さよなら、妹紅」
 そして妹紅の首元ゼロ距離で、弾幕になるはずだったものが弾けた。


「大丈夫だった? 妹紅に何か変な事されたりしてない?」
 輝夜が俺の頭をがくがくと揺さぶる。傍らには首の肉の大半を削ぎ落とされた妹紅の死体が転がっている。
 なんでもないと手を振り、肩を掴んで揺するのを止めさせる。
 その動作に納得したのかは知らないが、輝夜は無事でよかったとでもい痛げに抱きついてきた。
「それでてゐ、こんなところで何をしていたのかしら?」
 抱きついている最中に話と声色のベクトルが180度反転する。
 話の矛先が自分に向くと、明らかに動揺した様にてゐは身をすくませた。
「え…、永琳様と鈴仙が喧嘩しているから逃げるついでに食事し痛たたた」
 てゐの話を遮ってぎりぎりと輝夜のアイアンクローが炸裂する。
「私を差し置いて二人っきりで食事なんていい度胸してるじゃない」
「いや、他にも幾らか兔がいたぞ」
「あらそうだったの」
 言って輝夜はてゐのこめかみから手を離す。
「そう。おかげで財布がすっかり寒くなった」
「なら暖めてあげようか。勿論働いてはもらうけど」
 真横から声がする。同時に背中に荷重がかかる。どうやら妹紅が復活したらしい。
「離れなさい、妹紅」
 輝夜が冷たい声で言う。
「お前とは話してないだろ。割り込んでくるな」
 妹紅が返す。言いながら頬擦りをしているあたり抜け目無い。
「どうする? いつから働く? 別に明日からでもいいよ。もち住み込みで」
 ごろごろと甘えた声を出しながら妹紅が言う。輝夜はその間に殺意を充填していた。
「うふふ、妹紅あなたどうあっても邪魔をしたいようね」
 大量の殺気を振りまきながら輝夜が言う。
 妹紅はそれをちらりと見ると、また俺の頬に頬擦りしてきた。
「いいから離れなさい! 邪魔そうでしょ」
「邪魔なのはお前のほうだろ」
 返す返す言うが、俺は前から輝夜に、後ろから妹紅に抱きつかれている。
 つまりは怒鳴り声がステレオで聞こえてくるということだ。
「あー、喧嘩するなら離れてくれ」
 堪り兼ねてそう言うと輝夜と妹紅は素直に俺を放し、少し離れたところで相対した。

「妹紅、率直に聞いておくわ。あなた彼のことどう思ってるの?」
「明日にでも祝言を挙げたいと思ってる。お前はどうなんだ」
「すでに婚姻届にサインしてスタンバイしているわ」
 そして二人でため息をつく。
「つまり私達は恋のライバルということね」
「そういうことだ。嬉しいな、殺しあう理由がまた増えたぞ」
 息を整えるように一拍置くと、二人息を揃えたように叫んだ。
「人の恋路を邪魔する奴は!」
「馬に蹴られて死んじまえ!」
 両者共に左足を前に出し大見得を切る。つかお前ら仲いいんじゃねえか。
「でもここに馬はいないので!」
「代わりにあんただ!」
『上白沢慧音!』
「誰が牛か!」

 言うや否や妹紅の頭に強烈な手刀が振り落とされる。
 憐れ妹紅は死んでしまった。しかし即座にリザレクションした。
「お前達はパンピーのいる前で何をやっているんだ!」
「恋の鞘当て?」
 輝夜が小首をかしげながら答える。
 その仕草が癇に障ったのか慧音は握り締めた拳を震えさせると、やがて諦めたように言った。
「もういい、奴はうちで預かる」
「ちょっと彼は永遠亭預かりよ。何勝手に決めてるのよ!」
「慧音、今日から泊まってっていい?」
 三者三様のいいざまだが、その実俺は何処に居るなどと決めた覚えはない。
 成る程、ということは連中の言う奴は別のところにいるんだろうなあ、と適当に現実逃避をしてみる。
「駄目だ。二人とも近寄っちゃならん。里に定着させる」
「何を言ってるのよ。彼はこのまま永遠亭で暮らすのよ」
「人間なんだから、人里で暮らすのが道理だろう」
 ここまで何かを考え込んでいた妹紅が口を開く。
「じゃあ何で私も駄目なんだ?」
「なんとなく」
 そのあまりといえばあんまりな答えに一同絶句する。
 しばしの沈黙の後、妹紅がため息交じりに言う。
「幾ら慧音の言うことでも、こればっかりは受け入れられないな」
「ならどうするんだ、妹紅」
「当然、実力行使だ」
 身構えながら妹紅が言う。同様に輝夜も戦闘態勢をとる。
 すると慧音は腕組みをし、二人を傲慢に見下ろす構えを取った。
 その戦いには似つかわしくない構えに二人とも攻撃するのを躊躇し、しばし様子を見る。
 先に動いたのは妹紅だった。動かなければどうにもならないとでも思ったのだろうか、強力な火炎を放る。
 それはすぐに慧音までの地面を舐めつくし、慧音もそれに飲まれるように見えた。しかし、
 グ レ ー ト ホ ー ン
『!?』
 二人が驚いたのも無理はない。なにせ慧音が何もしていないのに独りでに妹紅の火の鳥が消え失せたのだ。
「その程度で、この私が倒せるとでも思ったのか!!」
 その迫力に気圧される様にじりじりと後ろに下がる輝夜と妹紅。しかし意を決したようにまたも妹紅が飛び掛る。
「明日の屋台には牛串焼きも並べてやる!」
 こうして戦いの火蓋は切って落とされた。


「……もう無茶苦茶だな」
「今のうちに永遠亭に帰るウサ」
 てゐが俺の腕を必死の形相で引く。
 俺もそれに逆らわず、てゐに従って歩き始めた。

 てゐとの駆け落ち疑惑まであと30分の時の事だ。


うpろだ1387、1397

───────────────────────────────────────────────────────────

 荒れ果てた永遠亭の一室に佇む女が二人。
 両者とも荒く息をつき、その息がこの惨状を作ったのが誰であるかを物語る。
「ところで師匠、てゐは何処に行ったんでしょうね」
 片方の女、鈴仙が目を見開きながら言う。
「さあ、そこいらにでも隠れているんじゃないかしら」
 他方の女、褐色瓶を持った永琳が答える。
「でもあの人もいないんですよね」
「あらあの人だなんて随分親しそうな呼び方じゃない」
 露骨に怒りを浮かべながら鈴仙の言に永琳が返した、と思っていると直ちに永琳は平静な顔に戻る。
 それにつられて鈴仙も落ち着いた表情に戻った。
「でも本当に何処に行ったんでしょ。部屋で不貞寝でもしてるのかしら」
「それより外に出ていたら大変じゃないですか?」
「大丈夫よ、一応武装はさせてるから」
 鈴仙はあまり結び付けたく無い事柄を言う。
「でもそれがてゐとだったら?」
「前言撤回。ウドンゲ、発信機の座標を逐次送信するからそこに向かいなさい」
「了解。直ちに現場に急行します」
 永琳の決定は迅速だった。鈴仙もその決定に即座に従う。
 かくして保護・捕縛作戦が開始された。


 永遠亭へと続く竹林の道を、てゐと二人歩く。
「大丈夫かな、永遠亭に戻って」
 きょろきょろと辺りを見回しながら言う。
「もう二人とも落ち着いてると思うよ」
 てゐは随分と冷静なもので、涼しげな顔をしている。
 永遠亭の門扉まで来たが、爆音轟音は聞こえず静寂としている。
「確かに、もう大丈夫なのかな」
「そうそう。そんな鈴仙がいつまでも対抗できないって」
 楽観的にてゐが言う。
「今日は散々な目にあったな。風呂でも入って早く寝るか」
「その前に姫様のこと言わないとダメだよ」
 それもあったかと思って、気が重くなる。
 いくら向こうも共闘していないとはいえ、それでも全員等しく二対一なのだ。
 たぶん何か言われるんだろうなあと思いながら、俺は永遠亭の門をくぐった。


 永琳がどこかの部屋に行き、程なくして一つの大きな箱を持ってきた。
 中に入っているのは受信機一式だという。
「それで師匠、何処に行けばいいんでしょうか」
 ヘッドマウントディスプレイとインカムを装備した鈴仙が尋ねる。
 永琳が答える代わりに、操作説明を行う。
「まずHMDの中央に光点が見える? それがあなたよ」
「はい、見えます」
 鈴仙が問いかけに答える。
「それで、そのほかの光点が大きな生命体。赤い光点が目標、つまりは彼よ」
「えー、はい判りました。じゃあ少し離れたところにある光点が師匠なんですね」
「そのとおり。それじゃ行ってらっしゃい。いい報告を頼むわ」
 そう言って永琳は鈴仙を送り出す。
 そのとき鈴仙が気付いた。
「師匠、赤い光点があります」
「本当ね、近づいてきてるわ」
 モニタの倍率を操作しながら、永琳が言う。
「もうじき敷地の中に入ってくるわね。迎えに行きましょうか」
「そうですね。これ外しちゃいます」
 そう言って鈴仙がヘルメットを取り、救急箱を取る。
「あら用意がいいわね」
 永琳がそれを見て言う。
「ええ、四部屋に一箱常備してるんです」
 何かあったら大変ですから、と鈴仙。
「いい心がけね、それじゃあ行きましょう」
 白衣を着ながら、隣のふすまから出てきた鈴仙と合流し永琳が言う。
「師匠、その白衣何か入ってるんですか? 妙に重そうですけど」
 その問いに、永琳は得意げな顔をするとおもむろに裾を翻す。
 するとブラックジャックよろしく、裏地にぶら下がっている注射器が露になる。
「師匠、その薬は何なんですか?」
 冷や汗を書きながら鈴仙が言い、永琳が答える。
「国士無双の薬四積みよ。ほかにも賦活再生薬があるわ」
 その異常な装備に、鈴仙は何も言えなかった。


「静かすぎるな」
 それが敷地に入っての第一声であった。
 あんまりにも静かすぎる。普段ならもっと兎達の騒ぎ声が聞こえてもいいのだ。
 だのに今は何の音もしない。まるで墓場だ。てゐも黙りこくってしまっている。
「!」
 不意に何処からか足音が聞こえた。周囲を見回すが、特に何も見当たらない。
 てゐも怖がったのか、背中に隠れてしまった。
 周辺警戒を厳にして徐々に玄関口に近づいていくと、足音が止んだ。
 怪しんで進行をとめると、突然に永琳と鈴仙が現れた。
「じゃじゃーん」
 妙な効果音付きで。
 消えていたのは鈴仙の波長変化なのだろうが、この永琳のはしゃぎようは何なんだろうか。
「おかえりなさい」
 あんまりにもあんまりな登場に驚きを隠せなかったが、もうまともになっている。
 それに少し安心しながら、ただいまと返す。
 何処に行っていたのかと聞かれて、屋台に呑みにと答える。
 ここで呑めばいいじゃないと言われたが、ドンパチやってる横じゃ呑めないというと反省したようだ。

「あれ、でもあなた一人で呑みに行ってたの? 迷わなかった?」
「いや、てゐもいるよ」
 言って後ろに隠れているてゐに出てくるよう促す。
 おずおずと出てくるてゐの姿を目にすると、永琳と鈴仙の目の色が変わった。
「そう。ところでてゐ、あなたは何をしていたのかしら」
 ぎりぎりと本日二度目のアイアンクローを永琳から貰うてゐ。
 てゐがタップして降参の意を示すと、永琳は手を緩めた。
「それで何処に行っていたのかしら、二人っきりで」
 あくまでも緩めただけで、頭から手は離さない。つまりは返答次第ではいつでも握り潰せるという事だ。
「一緒にミスティアの所に飲みに、二人じゃなくてほかにも幾らか痛た痛いぃぃぃ」
「いや、その辺で。輝夜にもやられてるから」
「あらそう……今姫は何処にいるのかしら?」
 やはり頭から手を離さずに、永琳が聞いてくる。
「向こうで、輝夜妹紅慧音で正真正銘デスマッチやってる」
「仕方が無いわねえ。ウドンゲ、ちょっと姫を連れ戻してきてくれる」
「はい、わかりました。……ところで何処にいるんです?」
「向こうって言ってたじゃない」
 鈴仙の疑問は真っ当なものだ。そんなもので居場所が通じれば苦労しない。
「いや、向こうとだけじゃあ。ちょっと案内してくれますか」
「多分近づいたら爆音がするはずだから判るわよ。いってらっしゃい」
「小康状態になっていたら判らないじゃあないですか。案内は必要です」
 また永琳と鈴仙が小競り合いを始める。きな臭いことになる前に俺はてゐを回収して家に入った。


 部屋に戻り、洗面用具や着替えを用意していると、徐々に辺りが騒がしくなってきた。
 屋敷の一部に荒れがあったので戦闘があったようだが、そのせいで兎達が引っ込んでいたらしい。
 今は戦闘も収まり、安心したようで皆普段の平穏無事を取り戻している。
 活気があるのはいいことだ、と思いながら風呂に向かった。
 この風呂は時間によって男女用に分かれる。今の時間なら男向けだ。

 服を脱いで風呂場に入り、体を洗って湯につかる。
 もうじき男女切り替わる時間なので早いところ上がらないといけない。
「畜生、今日は疲れたなあ」
 思っていた事が思わず口から出てしまう。年寄りくさいとは思うが仕方が無い。
 腕だけで体を支え、全身を湯に浮かべる。他に誰かいればこんなことは出来ない、一人だから出来る芸当だ。
「今日はなんだったって言うんだいったい」
 ぼやいても一人。淋しいが人に聞かせられる話でもない。

 適当に一人で遊んでいると衣擦れの音が聞こえてくる。
 あれもう時間かと思うまもなく、からからと戸が開き誰かが入ってきた。
 その人物はまだ俺がいることに驚いた声を上げることも無く、体と髪を洗っている。
 俺はそれを誰何もせずにただ見守る。無視というほうが近いかもしれない。
 どうやら体を洗い終わったようで、蛇口から水の出る音が消えると湯船に近づき、入ってきた。

「……恥ずかしがったりしないのね」
 少し離れたところに入ってから数分後、話しかけてくる。その声と髪の色から永琳だと判った。
 彼女は拍子抜けをした様な、期待外れだったとでも言いたげな様な声で言う。
「眼鏡外してると碌に見えないし」
 視力0.1を切ると顔なんてまるで見えない。加えて湯気と湯の色もあるので体つきもほぼ見えないと言っていい。
 色で誰かいるかの判断はできるが、それ以上の情報は目だけでは大分接近しないと得られない。
「そう、それじゃあこうすれば恥ずかしがったりするのかしら」
 言いながら背中に密着してくる永琳。
「うんにゃ、気持ちいいとは思うが、恥ずかしいとは思わんねえ」
「ならずっとこうしていようかしら」
「まあのぼせないうちは構いやせんよ」
 そう言ってやると、永琳は抱きつく腕にさらに力を込めてくる。
 気にはしないが、こそばゆいのはどうにかならんかなあと思いながらされるがままになっていた。

 多少経ってからまたからからと戸の開く音がして、誰かが入ってくる気配がした。
「あれ師匠、こんなところで何やってるんですか?」
 入ってきたのは鈴仙であった。彼女は真っ黒い何かを右腕に抱えている。
 訝しんだのは永琳も同じで、彼女に対して問いかけている。
「ウドンゲこそ何してるの? 今は男用の時間よね」
「姫をお湯で戻しにきたんです」
「……姫を? あら本当干からびてるわ」
 何を言ってるんだろうかこいつらは。見えないのが非常にもどかしい。
「大浴場で戻すわけにはいきませんし、こっちに来たんです」
「まあしょうがないわねえ。本当は水から戻したいのだけど」
 永琳がため息をつきながら言う。
「大鍋に入れるって言うわけにもいきませんから」
「そうね。姫が入ってたらみんなびっくりするわ」
 いってけらけら笑う二人。取り残される俺。
 そして着物を着たまま湯に投入される輝夜。なんとカオスな。

 輝夜を放り込むと鈴仙はすぐに風呂場を出て行った。
 混浴に慣れていないのだろうか。初心な奴め。
「はー、生き返るわあ、文字通り」
 湯に漬けること数分、輝夜が復活した。その暢気な様に俺は頭を抱える。
「どうしたの? そんな顔して」
「蓬莱人って死んでる間も意識があるの?」
 浮かんできた疑問を投げつけるとすぐに返事が返ってきた。
「あるわけ無いじゃない、死んでるんだから」
「そうそう。なんでそんなこと聞くの」
「いや、なんだか随分都合よく生き返るんだなあと思って」
 俺の疑問に輝夜が答える。
「生き返りやすくなるときはあるわ、状況によって」
「状況ねえ」
 半信半疑といった体で俺が言うと輝夜が続ける。
「そう、精神寄りの存在になってるから生き返りやすいな、って言うときに生き返りやすいのよ」
 更に永琳も続ける。
「詳しいこと知りたい? それなら後で部屋に来なさい。準備して待ってるわ」
「あら永琳、手伝ったほうがいい? 一人で大丈夫?」
 輝夜の提案に永琳は迷い無く答える。
「そうねえ、出来れば姫も一緒でお願いします」
 どうにも二人何をしたいのか通じ合っているようだが、それがなにかが判らない。
 とはいえまあ、問題というのは他の所にもありそうで。
「じゃあお風呂から上がったら永琳の部屋まで来てね。来なきゃダメよ」
 あれよという間に俺のこの次の行動が決定させられてしまった。暇だからいいんだが。

 輝夜がツツと近寄って来る。
「じゃあ上がるまでは」
 近寄りながら言って来る。
「永琳みたいにさせてもらうわね」
 そう言って座ってる膝の上に乗ってきた。
「輝夜、重い。着物重い」
 言うと前と背中の両方から打撃が来る。
「女の子にそんなこと言わないの」
 永琳が言い、
「じゃあ脱いだ方がよかった?」
 輝夜が言う。
「いや脱がないでもいいよ」
 生地が痛みそうだがどうなるんだろうか、と思うが俺の関与することでもない。
「そう、それじゃ抱きしめて頂戴、永琳がやってるみたいに」
 言われるがままに輝夜の腰に腕を回し、力を込めてやる。
 着物越しにも判る華奢な腰周りに少し驚いていると、輝夜が嬉しそうに言った。
「そうそう、ずっとそうしててね。いいって言うまで」

 少しして輝夜が頭をこちらに預けて、目を閉じた。
 永琳は仕方が無いという風な顔をすると、俺の体から手を離し輝夜の腰に手を回す。
 そうして俺がのぼせるまで、永琳と二人で輝夜を抱きしめていた。

うpろだ1429

───────────────────────────────────────────────────────────

「永琳、○○が欲しいわ」

 月の姫様は無理難題を仰る。
 また始まった、と彼女は溜め息をついた。

「彼に会いたいなら、また連れてくればいいじゃない。いつものように問答無用で」
「手元に置いて、問答を愉しみたいのよ。ずっと。十日に一度は貸してあげるから」
「まったく冗談ばかり。……二日に一度」
「彼から習ったの。週一」
「その割には面白くありません。……週に三日」
「貴女ほどじゃないわ。……週一」

 貸し出し交渉に粘るその身は一見、主従ともどもケチ臭いことこの上ないがしかし。

「……わかりました。では最初の五日間は姫の日。残りは私ということで」
「ふーん、5―2か。まあいいわ。たまにはイナバ達にも貸したげなさいね」
「御意に」

 流石は月の頭脳、といったところか。



 その後、人里から○○という男の姿が消えたのが次の日のこと。
 さらにその後、輝夜が散々に彼を弄くり弄び味わいつくして、たまに弄られ五日間。
 そのまた後日、永琳が良きこと良からぬことを、愉しみ愉しまれ愉しみ合い二日間。
 その次の日、彼女は漸く騙されたことに気がついた。

「えーりん! 謀ったわねえーりん!」

 輝夜は最初の五日間、彼を手にする。
 そして永琳は残り。
  
 だが彼女は、決して一週間のうち五日とは言っていないのだ。
 
 足音も荒く踏み込んだ輝夜。
 そこにはやたらに艶々とした部屋の主がいるだけで。

「○○は何処! さっさと出しなさい!」

 両手には何やら得体の知れない道具の数々。
 二日の充電期間(彼女は当初そう受け取った)の間に彼と愉しもうと準備した小道具である。

「○○でしたら、姫の下知の通り。今日は因幡たちに貸し与えていますわ」
「くっ……」

 しれっと永琳はのたまう。
 己の発言全てを手玉に取られ、彼女は。

「──くケええぇぇぇ!!」

 それはもう、凄いことになった。



 鈴仙・優曇華院・イナバは帰路を急いでいた。
 師に命じられた使いを漸く済ませたところだった。

「うぅ、なんで今日に限って……」

 今日は○○がイナバ達に貸し与えられた日だというのに。
 ○○が永遠亭に引っ越し(ということになっている)て一週間。
 輝夜と永琳の相手ばかりさせられていて、彼女らは挨拶一つろくに出来やしない。
 せっかくの機会、だというのに。
 朝方、貸出許可を告げられた彼女は同時にこうも宣告された。

『ウドンゲ、貴女は人里までお使いね』

 波は一気に急転直下。
 彼女は気づいているだろうか。
 彼と逢えると言われた時の己が目に浮かんだ悦びに。
 それを見て取った師の目に潜む粘ついた輝きに。
 恐らく気づいてはいない、彼女は少し迂闊だった。

「ああ! もう夕方じゃない」

 すでに半日が過ぎようとしている。
 べそをかきながら、鬼気迫る勢いで仕事を終わらせた彼女ではあるが、それでも出遅れは如何ともし難い。
 許された一日の、半分しか彼と一緒にいられない。

「……待てよ?」

 しかしここでふと思いついた。
 自分は今日の今まで大変に厳しい仕事をやらされている。
 だというのに、その報酬ともいえる時間が半分とは余りにも酷い話だ。
 その半分、イナバ全員に与えられた筈の時間。
 その残り全部を自分が独占してもいい、いやそうするべきではないか?

「……うん、そうよね。私、苦労したし、頑張ったし」

 イナバのなかでは一番偉いんだし。
 それぐらいは許されて然るべき、寧ろそうするのが自然じゃないか?
 残りの半日、つまり今夜は○○を独占。
 その権利はある筈。

「うわ、うわ、どうしよ。夜に、○○と――」

 二人っきり。
 ちょっと遅めの夕餉を食べて、○○の背中を流して。
 それから、それから。
 夜で、一晩中なんだから。
 一緒の布団に……。

「うわ、うわ、うわぁ――」

 想像するだけで頬が火照った。
 首まで瞳と同じ色に染まる。
 どうしよう、恥ずかしい、けど。
 でもそれは凄く、かなり――イイ。

 もはや彼女の中では確定事項となったそのアイディアに後押しされ、弾むような足取り。
 そのおかげもあってか夕日が沈む前に、彼女は永遠亭に到着した。

「只今もどりましたー、っと」

 浮かれた兎、夢みて跳ねる。
 その目は月など見ていない。

「あ、姫様。○○見ません、でした、か……」

 少し注意してみれば察しはついたはずだ。
 偶然通りかかった輝夜の、鬼気迫る様子が。
 今、彼女の前でその名前を出すのがどれだけ危険なことなのか。
 しかし残念ながら、彼女は少々迂闊に過ぎた。

「○○……」
「え、ちょ、姫様? 顔とかが怖いですよ?」
「○○を出しなさい」
「いや、私も見ての通り今帰って……」
「○○は何処だーーーー!!」
「ぴぎゃーーーー!!」



 同刻、永遠亭の一室。
 そこにはイナバがみっしりと詰まっていた。
 その中心に男、○○がいる。
 人型をとったもの、兎の姿のままのもの。
 それら全てに枕か布団代わりにされて彼は埋もれていた。
 朝からずっと食事中でさえも遊び構い続けて、漸く人心地ついた所なのだ。
 イナバ達も大半が遊び疲れて眠ったり、あるいは静かに寛いでいる。

「……いま、鈴仙の悲鳴が聞こえたような」
「いつものことだよ」

 流石に息苦しいのかややくぐもった声。
 それに答えたのは彼が枕代わりにしているものからだった。
 イナバ達皆が彼に身体を貸りている中で彼女、てゐだけは彼に膝を貸していた。
 所謂、ひざまくらという体勢である。

「……それもどうかと思うけどね」

 とは言うものの彼も助けに行こうとはしない。
 以前の経験とそしてこの一週間で、永遠亭の日常と役割は概ね把握できるようにはなった。
 そこに自分が入るとは、思いもよらなかったろうが。

「○○は、さ――」
「うん?」

 ぽつりと、膝の上の顔を撫でながらてゐは呟いた。
 凡庸な、取るに足らない人間の男の顔。今は。

「○○は、しあわせ?」
「んー……」

 只の人間の癖にホイホイ誘いに乗って、やって来たは永遠亭。
 そこで毎日毎日、輝夜の相手やら永琳の実験やらに付き合わされて。
 今日だって動けなくなるまでイナバに引っ張りまわされて。

「輝夜の相手は楽しいし、永琳もあんまり無茶はしないし。鈴仙の愚痴だって酒の肴になる。
 酒は旨いしメシも美味い。なんでこんなにも待遇がいいのか不思議だけど、それでもまあ――」

 割としあわせだと、彼は笑った。

「それにてゐもいるし」
「……ふん、だ」

 彼女の能力が故か、いやそれとも。
 問い詰めれば聞きだせるだろう。
 しかし、胸の上に乗せたイナバに引っ張られて「ああ、みんなもいるしな」などとニヤける彼に聞くのは癪だった。
 そっぽを向いて紛らわすものの、その頬が僅かに赤いのはご愛嬌。

「馬鹿正直な人間は、嫌い」
「嘘吐きな兎は、大好きだな」
「~~~~っ!」

 こんな風なことばかり言うから、彼女は彼が大嫌いだった。



 ずんずんと近づいてくるプレッシャー。
 殺気を感じ取り逃げ出すイナバ達に続いたてゐは、振り返っても一度だけ訊ねた。

「本当に、ほんとーに、しあわせ?」
「これから起こるだろう不幸が恐ろしく思えるくらいには、しあわせだよ」



 ○○ただ一人となった部屋の前。
 足音が、止まる。
 襖が、開け放たれる。

「こぉこかあ~~~~っ!!」



 一歩間違えれば死合わせだけど。
 隣にあなたがいるから、まあ、倖せ。





 結局、騒動の末に正式なローテーションが組まれることとなった。
 輝夜が3、永琳が3、因幡に1の七日間を繰り返し。
 ただし独占権は夕餉の後から次の日の朝餉までに限られる(それ以外はあくまで優先権)。

「なあ永琳、俺に休みは? 安息の日は?」
「あら、面白いこと聞くのね○○は」

「あの師匠、イナバの日に決まって私に仕事が入ってるのは?」
「あら、面白いこと聞くのねウドンゲも」

「判りきっていることに、答える必要があって?」
「……ですよねー」

うpろだ1438

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「なぁ、巫女って昔は情婦の役割だったってホントかな?」
「いきなり脈絡のないこと言いだすわね」
「だって二人の巫女さんが並んでるから何故かそんな記憶が呼び覚まされたんだい」

 まぁ我ながらおかしなこと言ってるとは思うけどさ。
 
「でもそれはでキリスト教に因って迫害された中世の魔女ってことだったと思いますが……」
「……うちの神社には似たような変な決まりがあるけどね」

 そう言って霊夢は早苗さんに巻物を手渡した。
 
「なんですかこれ? お賽銭の金額による巫女のおもてなし……二千円、参拝者にお茶を振舞う……二千五百円、参拝者に食事を振舞う……ふぇっ!? いいい、一万以上はっ!?」
「まぁ滅多にお賽銭なんて入れる奴なんていないから忘れていたわよ。実際蔵の中で埃被っていたし」
「はぁ……ま、いいじゃないですかこんな変なことしないで済んでいるんですから」

 しかし霊夢は早苗さんの言葉を受けジト目で俺の方を見た。
 
「ここに十万叩き込んだバカがいるけどね」
「えええっ!? ○○さん本当ですかっ!?」
「えーと本当だけど早苗さん、俺の名誉のために言っておくがそんな掟俺知らなかったからね。知ってたらやらなかったし」

 神社に居候させてもらっている身としては世話になっている霊夢に生活費ってことで里で手伝いして貰った給金を渡そうとしたんだが
 お賽銭として入っていたら霊夢喜ぶだろうなって思ったのが間違いだった。
 賽銭箱にお金を入れて霊夢を呼んで中を確認させたその晩霊夢に神社の奥の部屋に連れていかれて部屋の中のもの見せられて絶句したし。
 
「ででで、そのまさか……」
「そう、そのまさかよ」

 あっさり肯定すんな。
 だってさすがにそんな無体なこと出来なかったけどせめて一万円分のおもてなしをさせろって聞かないし
 最終的には軽く涙目で首輪つきの霊夢が『私なんかじゃ抱く気になれない……?』なんて言われたらさぁ、逃げる訳にもいかんだろ。女の子にそこまで言わせて逃げたらヘタレだ、ヘタレ。
 そういう訳で俺と霊夢はその晩大人の階段を昇ったのだ。
 
「……ううう」

 呻き声をあげてる早苗さんは勢いよく縁側から立ち上がるとズビシッて霊夢に指を突きつけた。
 
「じ、常識で考えてはいけません! お二人が、に、肉体関係を持ったとしても相性が合わなくて別れる人はいるんですっ!」
「あら、相性は良いみたいよ、私たち。お互い初めてでも○○はやさしくしてくれたし、果てる時はいつも一緒だし。一昨日も、ね?」

 こっちに振るなよ。どう答えていいか困るじゃないか。
 でも確かにシてる時の霊夢はかわいいし優しくしてあげたくなるし、未だに果てた時の表情が瞼に焼きついている。
 確かに相性はバツグンだ。
 
「うううううう~……」

 あー早苗さん涙目だよ。やっぱりこういう話苦手なんだろうか?
 そう思っていると後ろから声が聞こえた。
 
「あーやっぱり霊夢に先越されたか」
「あーうー、早苗は奥手すぎるんだよ」
「ふふふ、賭けは私の勝ちだね。ほら早く賭け金出しな」

 いつの間にやって来たのか神奈子と諏訪子、それにもう一人緑髪の魔法使いみたいな恰好の人がいた。……だれ?
 
「あーこうやって姿を現すのは初めてか。私は魅魔。この神社の祟り神みたいなもんさ。よろしく○○」
「ああ、よろしく……」
「み~ま~! あんた急に出てきたと思ったら賭けごとなんかしてるんじゃないわよ!」

 怒る霊夢を余所に神様達はまた賭けの話をしていた。
 
「じゃあ今度は○○が誰を娶るか賭けようじゃないか」
「いいよ~。私はまた早苗にする。とりあえず一万!」
「私も早苗にだね。五万」
「か、神奈子様に諏訪子様! 勝手に賭けの対象にしないでください!」

 そこに魅魔様がとんでもない爆弾を落としてきた。
 
「……そういえば娶るなら一人だけじゃなくてもいいんじゃないか? そこの早苗って娘が言っていたじゃないか。常識に囚われるなって」
「……そうだね。昔は長が何人もの女性を抱えていたし」
「あーそういえばそうだったね」

 マズい。話がヤバい方向に進んでいる。俺はこの場から逃げ出そうとしたが勘付かれていたらしく神奈子と魅魔にしっかり取り押さえられた。
 
「ふふふ、なら私も参戦させてもらうかね。久しぶりの若い男だ。たっぷり可愛がってあげるよ」
「あ、あのな、実を言うとそんなに経験はないんだ。やさしくしてくれな?」
「ちょ、二人とも本気ですか?」
「「ああ」」

 ああ、俺の貞操の危機。他の三人に助けを求めようとしたら、霊夢も早苗さんも、ケロちゃんまで本気で俺を食べる気でいた。
 俺を助けてくる神も仏もいないのか……。ここにいる神はみんな敵だし。
 
「ふふふ……私の舌使いは凄いよ~何分持つかな~」
「あ、あの○○さんっ! ふつつかものですがよろしくお願いしますっ!」
「……○○、私以外にイカせられたら許さないからね」

 原人に狩られたマンモスのように五人に抱え上げられて神社の奥の部屋にドナドナされていく俺。
 ……どこで選択肢を間違えたのだろうか?
 いや、たぶん最初からこうなる運命だったんだろうなぁ……。
 はぁ、紫からもらったエビ○ス錠まだ残っていたかな……。

うpろだ1482

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ロリっ紅魔郷



1.ぷろろーぐ

「あれ、留守か」

 博麗神社の石段を登り、ようやく社の前に着いた俺は、肩透かしをくらった気分だった。
 外の世界から来てから世話になっているし、たまにはおすそ分けでもと里でもらった西瓜を持ってやってきたのだが、肝心の霊夢がいない。
 いつもここにいてまったりとお茶を飲んでいる霊夢が、今日に限っていないとは、ついていない。

「しかし霊夢が留守なんて珍しいな……ん?」

 向こうから何かが空を飛んでくる。豆粒のように見えたそれはあっという間に大きくなり、見慣れた魔理沙の姿になった。

「よう、○○じゃないか」

 急ブレーキで止まった魔理沙は、こちらを向いて声をかけてくる。

「お、魔理沙。霊夢なら留守だぞ」
「知ってるぜ。さっきまで一緒だったからな」
「へえ。霊夢が出かけてるなんて珍しいけど、どこ行ってたんだ」
「……霊夢が異変の解決に行くって言うから、紅魔館までついていったんだけどな」

 なるほど、異変の解決か。聞いたところでは他の誰も代わることのできない、博麗の巫女の務めだというけれど。

「そうか。じゃあ何日か帰ってこないんだな」
「いや、私の方が速かっただけで、すぐに後から来るぜ」

 もう解決したのだろうか。だとしたらさすがだ。
 それにしてもさっきから魔理沙は何かにうんざりしたような表情をしているが、そんなにすごい異変だったのだろうか?




 そうこうしている内に、霊夢が帰ってきた。

「ただいま。……あら、○○じゃない。ちょうど良かったわ」

 こちらも疲れきった顔で飛んできた霊夢は、俺に気付くとおもむろに近づいてきた。

「ちょうど良かったって、何が」
「貴方、私の代わりに紅魔館行って異変を解決してきなさい」
「異変を……ってえええええええっ!?」

 何を言い出すかと思えば、いきなりそんな。

「何で俺なんだ。それって霊夢の仕事だろう?」
「私じゃ無理だわ。その点、○○はこの異変に向いてるし」
「そうだな。お前向きの異変だぜ」

 口をそろえて言う紅白巫女と白黒の魔法使い。俺向きの異変ってどういうことだ?

「魔理沙、湖まで送ってあげなさいよ」
「そうだな。暗くならない内に出発するか」
「ちょっと待て、俺はまだ引き受けるとは」
「あ、その西瓜は置いていきなさいね。魔理沙が戻ったら二人でいただいておくわ」

 そう言って、俺の手から西瓜を持っていく。
 この状況に抗議しようとする俺を、魔理沙が半ば無理やり箒の後ろに乗せる。

「おい人の話を」
「心配しなくても向こうでお茶くらい飲めるわよ」
「異変が起こってるんじゃなかったのかー!?」

 抵抗もむなしく、まだ流れが把握できていない俺を乗せて箒は急発進した。




2.宵闇の妖怪と氷精

 全速力で飛ばしたらしく、俺たちを乗せた箒はあっという間に紅魔館が見える辺りまでたどり着いた。
 魔理沙は俺を地面に降ろすと、すぐに飛んでいってしまった。
 せめて異変の内容を教えろと言ったら、返ってきた答えは「行けばわかる」とだけ。

「はあ、全くどうなってるんだ……」

 途方に暮れる俺の元に、二つの影が近づいてくる。

「あー、○○だー」
「あんたこんなところで何やってんのよ?」

 空からやって来たのはルーミアとチルノだった。
 やや遅れて、二人の後ろから大ちゃんが飛んでくる。

「もう、チルノちゃん速すぎるよ……あ、○○さん?」

 三人は俺の前に降りてきた。

「ふふん、○○ったらあたいに遊んでほしくてここまで来たのね?仕方ないから遊んであげるわ!」
「チルノちゃんったら……○○さん、チルノちゃんたちがいつもお世話になってます」
「ねー、今日は何して遊ぶの?」

 寄ってくるチルノとルーミアの後ろで、大ちゃんが困ったような顔をしている。
 自慢じゃないが、俺は面倒見がいいとよく言われる。
 この二人とも時々遊んでやっていたら、何だか懐かれてしまった。

「残念だけど今日は遊べないんだ。紅魔館に用事があってさ」
「……紅魔館に?」

 二人の頭を撫でながら言う俺に、大ちゃんが眉をひそめる。

「行くなら気をつけてくださいね。中に入ったわけじゃないけど、今の紅魔館って何だか普段と違う感じがするから」
「そう?あたいよくわかんないけど」
「わたしもわかんない」

 やはり、異変なのか。その割には幻想郷全体がどうこうという感じはしないのだが。
 ……いや、これからどんどん影響が広まっていくところなのかもしれない。
 ああ、不安になってきた。本当に、俺なんかが来てよかったんだろうか?

「……○○、遊んでくれないのー?」

 寂しそうにこちらの顔を覗き込むルーミアを見て、我にかえった。

「ごめんな。今日はちょっとだめなんだ。また今度な?ほら、これあげるから」

 そう言って、ポケットに入っていた飴を口の中に入れてやる。

「ありがとー!」
「そんなんであたいがごまかせるとでももぐもぐ」
「はい、大ちゃんにも」
「ありがとう。……本当に、気をつけてくださいね」

 三人の見送りを受けながら、俺は目的地へと歩みを進めた。







3.小華人小娘 ほん めいりん

 足元が赤く染まり始めた。紅魔館の領地に足を踏み入れたわけだ。
 普段の紅魔館になら、何度か来たことがある。
 人手が欲しいからと掃除や図書館の整理に借り出されるとか、退屈だからと連れてこられるとか。
 ……まあ、ろくな理由がない気もするが、ついでにお茶をごちそうになったり、フランちゃんの遊び相手になったりと、
 割合とけ込ませてもらっている。
 
 だがそれは、あくまでも普段の話。
 今の紅魔館は異変の中にある。
 いや、そればかりか意図的に異変を起こしているのだとしたら、当然侵入者は排除しようとするだろう。
 弾幕ごっこを挑まれたりしたら、弾一つ撃てない俺に何ができるだろうか。

「あー!」

 突然聞こえた声に身を固くする。
 見れば一人の妖精メイドがこちらを指差している。あの制服は門番隊か?

「みんなー!おきゃくさんだよー!」
「ほんと?やったー!」

 わらわらと妖精メイド達が集まってくる。ざっと二、三十はいるだろうか。
 いつの間にか俺は取り囲まれていた。しまった、この状態で弾を撃たれたら……

「かかれーっ!」
「わーい!」

 思わず目をつぶり、身構えた俺に弾幕の嵐が降り注ぐ―
 かと思ったのだが。

「あそぼー!」
「あそんでー!」
「うわっ!?」

 弾は飛んでこなかった。代わりに、妖精メイドたちが一斉に飛び掛ってきた。
 体当たり、ではないらしい。

「ねーねー、なにしてあそぶ?」
「おにごっこ?かくれんぼ?」


 何かおかしい。確かにここのメイドは普段から、「一応仕事はするけど、本質的には賑やかで遊び好きな妖精」だった。
 だがこれはいつもと違う。行動があまりにも幼い。幼いというより、もはや子どもそのもの。
 
「ねー、あそんでよ。さっききたおねーちゃんたちすぐかえっちゃうんだもん、あそぼうとおもったのに」

 おねーちゃん―霊夢と魔理沙か。確かにこりゃ弾幕でふっとばすわけにもいかないし、さぞ困ったろう。
 ……ああ、それですぐ帰ってきたのか。
 異変が起こった時解決しにくるのが大抵あの二人だということを思えば、意外と有効な防衛手段なのかもしれない。

「ねー、おんぶしてー」
「あ、ずるい。じゃあわたしだっこ!」
「はいはい、順番順番……じゃなくて!」

 とはいえ、かなりしまらない状態なのも確かだ。
 こんな手を使ってまで起こそうとする異変っていったい……
 俺をよじ上ってくる妖精メイドたちを構いながら、思わず考え込んでしまった。

「ああほら、おんぶでもだっこでも肩車でもいいけど暴れると落ちちゃうって、ちゃんとつかまって……ん?」

 ふと気付くと、門を正面に見据えて両脇にそびえる変なオブジェ(来るたびに思うが、あれは何なんだろう?)の陰から、誰かがこちらを見ている。
 
「……ねえ、きみ」
「!!!!!」

 人影は俺に気付かれないように見ていたつもりらしく、声をかけられて思いっきり驚いたようだった。

「は、はいすいのじんだ!」

 背中を向けて、屋敷の方に走っていく人影。緑色を基調にした中華っぽい服装、赤くて長めの髪。

「美鈴?」
 
 一つ一つの要素は、美鈴に見える。だが何か変だ。何だ、この違和感は?
 気になった俺は、逃げていくその影を追いかけることにした。

「よーし、今から鬼ごっこだ!俺が鬼!さあ鬼をつかまえろー!」
「えー、そんなのおにごっこじゃないよー!」
「まてー!」




 ……何とか撒いた。
 いつの間にか、紅魔館の門の前まで来ている。
 目の前には、両腕をいっぱいに広げて門にぴったり背中を付けている女の子。
 服装といい、髪型や顔立ちといい、全てが美鈴そのものだ。
 だが、何というか、その、いつもの美鈴と比べて…………平べったい。
 出るところも出ていないし、引っ込むところも引っ込んでいない。
 普段が普段だから、なおさらそれが際立つ。
 ついでに言えば、結構あったはずの身長も低くなっている。頭が俺の腰ぐらいまでしかない。
 誤解を招くことを恐れず、端的に言えば……ロリ。

「つ、ついてくるなよ~」

 涙目でこちらを見ている美鈴、っぽい幼女。

「あの、つかぬ事を訊くけどお嬢さんお名前は」
「……ほん めいりん!」
 
 ……確定。
 妖精メイドたちは普段から小柄だから、わからなかった。
 だが、これで事態がある程度把握できた。
 恐るべき事実!メイドたちも、美鈴も、心身共にロリ化しているのだ!
 俺は何となく悟った。これは異変を起こすにあたっての防衛手段なんかじゃない。
 これが、このロリ化こそが、異変そのものなのだ!

「おにいちゃんひとりでなにやってるの?」
「……気にしないでくれ。ところで美鈴、そこを通してくれないかな?
 お兄ちゃん中に大事な用があるんだ」
「だめ!めいりんはばんにんするひとだから、だれもなかにいれちゃだめなの!」

 短い手足をいっぱいに伸ばし、大の字になって門に張り付く美鈴。

「うーん、お兄ちゃん何度も入れてもらったことあるんだけどな。
 ほら、○○っていうんだけど、わかんないかな?」
「……だめ!しらないひとはいれちゃだめなんだもん!」
 

 ……くそう、この融通の利かなさも子どもならではか。
 いつもの美鈴なら、中に掛け合ってくれたりしそうなところだが。
 しかし、俺のことはわからない一方でしっかり門番をやっているあたり、
 記憶や認識はあいまいになっているものの完全に時間を逆行して幼くなっているわけでもないらしい。



 いずれにしても、このままでは埒があかない。元凶を突き止めるためにも中に入らなければならないが、無理に通るわけにもいかない。
 とりあえずどこか別の入り口がなかったか探そうと、踵を返したその時だった。
 きゅっと、服が引っ張られた。

「……かえっちゃだめ」

 振り向くと、美鈴が俺の服の端を握っている。

「……どうしろと」
「…………だって、だって……」

 それだけ言うと、美鈴の両目にじわじわと涙があふれてきた。
 そのまま手を離し、ぺたんと座り込んでしまう。

「だって、ずっとだれもこないし、でもばんしなきゃいけないし、だれもいないし……」

 しゃくり上げ始めた美鈴をなんとかなだめようと、俺は彼女の前にしゃがみこむ。

「……寂しかったんだ?」
「うっ、すんっ、う、うん……ぐすっ」
「よしよし、寂しかったね」
「うん……さびしかったよぅ……」

 小さな頭を俺の肩に押し付けるようにして、美鈴を抱きかかえた。
 美鈴はしばらくそのまま泣いていたが、ようやく落ち着いたらしい。
 泣きはらした目でこちらを見上げた。

「だいじょうぶかい?」
「うん……ありがと」
「そうか……美鈴、門の中に入れてくれるかい?
 うまくいったら、美鈴が寂しくないようにしてあげられるかもしれない」

 そうだ。どこまでいけるかわからないけど、もし俺がこの異変を解決できたら、いつもの紅魔館に戻る。
 そうすれば、美鈴も一人でいるのが寂しい小さな女の子ではなくなるのだ。
 美鈴は少し考えていたが、にっこりと笑った。

「いいよ。……とくべつだからね」

 そう言って門の前からどいてくれたロリ美鈴の頭を軽く撫でてやってから、俺は扉を開けた。


 霊夢が、俺向きの異変だと言った理由が分かってきた気がする。
 弾幕ごっこをするわけにもいかないこの状況、比較的子どもの扱いに慣れている俺なら
 ロリ化した館の住人を傷つけずに真相にたどり着けると踏んだのだろう。
 どこまで期待に添えるかわからないが、行けるところまで行ってみよう。
 決意も新たに、俺は館内への第一歩を踏み出した。

「……はっくしゅん!」

 急にくしゃみが出た。夏風邪か?確かに屋敷の中は外よりだいぶ涼しいが……











3.5 いんたーばる

「○○、どうしてるかしらね」

 博麗神社の縁側に腰掛け、霊夢は西瓜を食べていた。
 時折吐き出す種を遠くまで飛ばそうとするが、なかなかうまくいかない。

「まあ、なんとかなってるんじゃないか?」

 ○○を送って戻ってきた魔理沙が、隣にいる。
 霊夢に続いて吐き出した種は、飛距離を伸ばして草むらに落ちた。

「来年あたり生えてこないかしら」
「実がなったら半分もらうぜ」

 二人はそのまま無言になり、しゃくしゃくという音だけがしばらく響いた。
 遠くで蝉が鳴いているのが聞こえる。

「……しかしあれだな、ブン屋から紅魔館がおかしいって聞いて行ってみたら、
 まさかあんなことになってるとはなあ」

 口の周りについた西瓜の汁を手の甲でぐいとぬぐうと、魔理沙は言った。

「そうね。一方的に弾幕で蹴散らすのもあれじゃ寝覚めが悪そうだし」

 霊夢が答える。比較的丁寧に食べているため、あまり顔は汚れていない。

「でもほんと、○○向きの異変だよな」
「そうよね、だってほら、○○って」



『ロリコンだし』

 

 二人が声をそろえていた頃、○○は紅魔館の入り口でくしゃみをしていた。




────────


4.七幼の魔女 ぱちゅりー・のーれっじ

 背後で扉が閉まった。何とはなしに室内を見回す。人影はない。どうやらメイド妖精たちのほとんどが外へ遊びに行ってしまったらしい。
 それにしても、いつ来ても広い屋敷だ。だが心なしか、前来た時よりは狭いような気がする。目の錯覚だろうか?

「さて。どうしたものかな」

 入ったはいいが、どこへ行けばいいのかがわからない。
 変な捻りを加えずストレートに考えるならば、ここ紅魔館で起きている異変の元は当主のレミリアさんだ。
 しかし、肝心の彼女の自室がどこにあるのか俺は知らない。闇雲に探すには広すぎるし……

「……きゃあああああっ!」

 悲鳴!?……聞いたことがあるような、ないような声だ。
 何があったのか知らないが、とにかく放ってはおけない。俺は声のした方に向かって走り出した。




 図書館に来てしまったが、こっちで良かったのだろうか。
 薄暗い室内に立ち並ぶ巨大な本棚の間を歩いていく。下手をすると迷ってしまいそうだが、ここまで来たら進むしかない。
 古い本の香りが漂う中、さっきの声の主を探す。
 
「おーい、誰かいるのかー?」

 返事は返ってこない。自分の声だけがは反響している。 

「……たすけてー」

 その中にかすかに、か細い声が混じった。
 慌ててそちらに駆け出す。
 しばらく走ったところで、床に積みあがった本の山が目の前に現れた。

「たすけてくださいー」

 よく見ると、本の下から小さな足が突き出ている。
 とりあえず無事らしいが、重くて動けないようだ。

「だいじょうぶかい?今どけるから」
「すみません……おねがいします」

 結構な量の本をどけていく内、黒い翼や赤い髪が見えてくる。
 発掘作業が終わると、本に埋もれていた少女はスカートの埃を払いながら立ち上がった。

「おかげで、たすかりました。ありがとうございます」

 彼女も、異変の影響からは逃れられなかったらしい。変わらず礼儀正しいけれど、その姿は普段と比べてあまりにも幼い。
 この図書館の司書である小悪魔。今は子悪魔、といった感じだ。

「怪我はない?」
「はいっ、だいじょぶです。あ、でもほんが……」

 床に散乱した本を見回し、困ったような顔をする。

「ひとつだけとろうとしたら、たくさんおちてきちゃって……」
「……片付け、手伝うよ」

 なんだか気の毒になってきたので、声をかける。

「いいんですか?……じゃあ、よろしくおねがいしますっ!」
 
 小悪魔はほっとしたような笑顔で応えてくれた。




「はい、そのほんを、そこのあいてるところにいれて……、はい、これでぜんぶです!」

 ようやく片付け終わった。結構な量の本だったな。

「ありがとーございました」

 ぺこりと頭を下げる小悪魔。

「いえいえ、どういたしまして」

 つられて俺も頭を下げる。
 それにしても、外面的にはともかく内面にはあまり変化が見られない。
 美鈴と違って、小悪魔は異変の影響が少なかったのだろうか?

 ……と、向こうの方からぺたぺたと足音が聞こえてきた。

「こぁー、こぁー、どこー?」

 不安で仕方がないといった感じの呼び声が、足音と共にだんだん近づいてくる。
 やがて奥の暗がりから、小さな人影が姿を現し

「こぁー、おいてかないでー……むきゅ」

 ―あ、こけた。どうも裾を踏んづけたらしい。
 慌てて駆け寄る小悪魔と俺。
 うつぶせに倒れているので顔は見えないが、リボンを結んだ紫色の長い髪はいつもどおりだ。
 予想を裏切らず、人影はパチュリーさんだった。例によって、縮んでいる。

「ぱちゅりーさま、だいじょぶですか?もう、おかたづけするからまっててってゆったのに」
「痛くしなかったかい?」

 動かないロリパチュリーさんを後ろから抱きかかえて起こす。……いかん、ちょっと泣きそうになってる。
 心配そうに側にいる小悪魔は、こうして見ると何となく、手のかかる妹を持った面倒見のいいお姉ちゃんのようだ。
 
「ほらぱちゅりーさま、ないちゃだめですよ。ないたらわらわれちゃいますよ?」
「う……うん、なかない」
「さすがぱちゅりーさまです、さ、おへやにもどってやすみましょうね?」
「うん」

 小悪魔にあやされて何とか落ち着いたらしいパチュリーさんはふとこちらを振り向くと、俺の服の裾をぎゅっと掴んだ。
 
「……だっこ」
「……ん?いいよ」

 抱き上げたパチュリーさんは、びっくりするほど軽い。
 すまなそうな顔をしている小悪魔に笑いかけると、歩き始めた。
 図書館の続き部屋になっているパチュリーさんの私室は、確かこっちだったと思う。
 

 
 ベッドにパチュリーさんの小さな身体を横たえる。
 
「さ、ぱちゅりーさま、ねましょうね。
 ちゃんとやすまないとぐあいがよくならないってゆったでしょう?」
「や」

 ベッドサイドの簡素な椅子に腰掛けた小悪魔の言葉に、パチュリーさんはふるふると頭を振った。

「ごほんよんでくれたらねる」
「……もう、しょうがないですね」
「何か読んであげようか?」
「あ、いいですよ。わたしがよみますから」

 小悪魔は側の棚から、何冊か本を取り出し、中の一冊を開いた。どうやら絵本のようだ。
 この図書館にも絵本なんかあったんだなあ。
 ―ん?何か表紙に書いてある字が見たこともないような字なんだが。

「じゃあ、よみますよ……んと……くおん、に、ふしたるもの、しする、ことなく、かい?な、る、えいごうの……」
「ちょっと待った」

 何だろう、よくわからないが、背筋がざわざわするような気がする。

「それ、なんていう本?」
「えと、『たのしい ねこのみけ……』ううん、『たのしい ねこの みくろん』かな?
 ぱちゅりーさまねこさんがすきだからとおもったんですけど……」

 開かれたページを覗き込んでみる。少なくとも猫の絵本ではないようだ。
 何か……強いて言うなら蛸っぽいものが寝ている絵なんだが……
 選んだ小悪魔自身、あまりわかってはいないようだが、どことなく得体の知れない雰囲気がただよっている。
 SAN値が下がりそうな予感だ。

「うん、それはちょっと違うみたいだし、よしておこうか」
「はい……そうですね」
「ねー、つづきは?」

 パチュリーさんは布団の中で足をぱたぱたと動かしているらしく、掛け布団が波打っている。
 俺はベッドの隅に座ると、パチュリーさんの頭をそっと撫でた。

「じゃあ何かお話してあげるから、一つお話したらちゃんと寝るんだよ?」
「うん……たのしいおはなしがいい」
「はいはい、昔々、あるところに―」

 背中をゆったりしたリズムで軽くとんとんと叩きながら、俺はうろ覚えの昔話を始めた。



「―でした、めでたしめでたし」
「……すー、すー」

 ようやく眠ってくれた。さて、レミリアさんの部屋を探しに行くか。

「あの……」
「ん?」

 小悪魔がこちらを上目遣いで見上げている。
 
「もひとつ、おはなししてくれませんか?」

 何となく、中身はあまり幼くなっていないのかな、と思っていたが、
 どうもそれはパチュリーさんの面倒を見るためにお姉さんらしく振舞っていたかららしい。
 やっぱり、小悪魔も心身ともに縮んでいたようだ。

「いいよ。じゃあ、どんなお話にしようか」

 抱き上げて膝に乗せると、小悪魔は嬉しそうな顔で体を預けてきた。



 ちょうど話が終わる頃には寝付いてしまった小悪魔に予備の毛布をかけ、俺は部屋を出ようとした。
 ―ふと、机の上に広げられたままの便箋に目がいく。
 他人の手紙を盗み読みするつもりはないが、出しっぱなしになっているだけかもしれない。
 もしそうなら片付けておこうと思い、近づいた。

「これは……」

 パチュリーさんのものと思しき字で書かれたそれは、異変が起こる直前に記されたらしかった。

『……不覚だった。珍しく図書館で調べ物をしている時点で、変に思うべきだった。
 差し当たり生命その他に危険はないだろうが、巻き込まれて動けないのは性に合わない。
 まあ、実害はないと思うけど、これを見た人は早めの解決を。ああ、意識が、というよりは知性が遠のく……むきゅー』

 うん、割と楽しんでる気もするが、がんばって早めの解決を目指すか。
 解決……できるのか?





5.かんぜんでしょーしゃなさくやちゃん

 真っ赤な廊下を進んでいく。いつもながら、目が痛くなりそうだ。
 妖精メイドがいつにも増して仕事をしていないので、動くものが全然見えない。
 窓の少ない屋敷だが、それでもこの廊下には窓があり、光が差し込んでいる。

「よいしょ、よいしょ」

 視界の隅で何かが動いた。
 あれは、脚立だろうか。
 床を引きずるように前方からゆっくり近寄ってきた脚立は、窓の下まで来て止まった。
 小さな人影が、一歩一歩上に上っていく。

「あー、おそうじがすすまない!」

 人影は文句を言いながら、窓の桟にはたきをかけ始めた。
 あれは―

「咲夜、さん?」
「なあに?」

 おなじみのメイド服―サイズは一回り以上小さいが―に身を包んで一生懸命掃除している咲夜さんは、例によってロリ化している。
 普段がしっかりしているから、余計にあどけなく見えるようだ。
 細身で背が高いいつもの咲夜さんと比べて、何だかぷにぷにした印象を受ける。

「いや……掃除、手伝おうか」

 レミリアさんの部屋を探さないといけないのだが、咲夜さん一人に任せるのが気の毒で、ついそんな言葉が口をついた。
 窓だけでも、まだ俺の後ろに結構な数が並んでいるのだ。
 普段ならまだしも、縮んだ咲夜さんじゃ大変だろう。 

「んと、それじゃあおねがいしようかしら。えーっとねえ……」



「ん、もうちょっとみぎね」
「はいはい」

 で、何を頼まれるかと思ったら脚立の代わりに咲夜さんを肩車することになった。
 確かに、いちいち脚立を運ぶよりは効率がいい。これだと、咲夜さんの方が手伝いをしたがる子どものようだけど。
 片手でしっかりと俺につかまりながら、もう片方の手ではたきをかけるのは、心温まる光景だ。
 
「……よし、このまどでさいごね」
「はい、お疲れ様。じゃあおろすよ」

 しゃがもうとしたら、ぎゅっと頭にしがみつかれた。

「ま、まって」
「?」
「てつだってくれたおれいにおちゃをごちそうするから、きっちんまでのっけてってくれる?」

 甘えられている、のだろうか。何だか微笑ましい。



「ちょっと、まっててね」

 妙にサイズの合わないエプロンを着けた咲夜さんは、紅茶を淹れる準備をしてくれている。
 手際はいいけれど、その小さな背中に違和感を覚えた。

(ああ、そうか)

 いつもなら、こういったことは時間を止めてやるところなんだろう。
 だから普段咲夜さんが紅茶を淹れているところを見た覚えがないのだ。
 そういえば館が狭い気がしたが、これも咲夜さんの空間操作がなかったせいか。

「はい、おまたせ」

 考え事から我に返ると、目の前には紅茶のカップと、クッキーの載った皿があった。

「……いただきます」

 カップから紅茶を一口啜った。
 味も温度もちょうどよく、とてもおいしい。普段の咲夜さんと比べても遜色のない完璧さだ。
 クッキーに手を伸ばす。甘すぎず、紅茶に合う味。
 よく見ると犬の形をしている。顔を上げると、エプロンも可愛い子犬柄だった。

「どう?おいしい?」

 心配そうに聞いてくる。普段の咲夜さんなら決してしない質問だ。
 こちらから賛辞を伝えれば軽く微笑んで会釈してくれたりはするが、自ら出来を尋ねたりはしない。
 きっと問うまでもなく万全を期しているからなのだろう。それでこそ完全で瀟洒な従者、なのだろうが……
 うん、これはこれで新鮮。

「うん、すごくおいしいよ」
「よかった。このくっきーもわたしがやいたんだよ。おゆはんだってちゃんとつくれるよ」
「そうか。偉いね」

 ついつい頭を撫でてしまった。

「えへへ。ねえ、さくやいい   になれるかな?」

 ちょっとよく聞こえなかったな。何になれるか、だって?
 やっぱりメイド長とかかな。

「そうだね、いいメイド長になれると思うよ」
「ちがうよー。いいおよめさんになれるかなってきいたんだよ」

 危うくクッキーをのどに詰まらせるところだった。
 小さくなっているとはいえ、咲夜さんからこんな質問が来るとは。

「……うん、大丈夫。きっといいお嫁さんになれるんじゃないかな」
「ありがと!」

 突然目の前にいた咲夜さんが消えた。
 
「あ」
「……あ」

 消えたと思った咲夜さんが、俺のすぐ横に現れる。
 一瞬恥ずかしそうな顔をした咲夜さんだったが、俺の頬に軽くキスすると、キッチンから走り去っていった。
 どうも時間を止めている間にキスをしようとして、タイムリミットが予想より早く来てしまったらしい。
 能力が使えないわけではないけれど、いつものようには上手くいかないらしい。

「……あのエプロン、ぶかぶかだったな」

 ということは、あの可愛らしいエプロンは咲夜さんが小さくなる前から持ってたわけか。
 そんなことをしみじみ考えながら、俺はもう一枚クッキーを口に運んだ。





6.永遠に幼すぎるれみりゃ

 廊下を進んでいくと、一際立派な扉の前にたどりついた。
 おそらくここがレミリアさんの部屋だ。
 この中にたぶんこの異変の張本人であるレミリアさんがいるに違いない。
 ついにここまで来てしまったが、どうしたものか。
 頼んだら異変を元に戻してくれるだろうか?
 弾幕ごっこを挑まれたらどうしよう?
 緊張が走る。カリスマに満ちた紅魔館当主、これまで顔を合わせた時はそれでも友好的な雰囲気だった。
 果たして、今扉の向こうにいるレミリアさんはどうだろうか。
 意を決して扉を……開ける!

「ぎゃおー!」
「うわっ!?」

 何かふかふかしたものが、いきなりぶつかってきた。
 目の前が真っ白に、いや、真っ赤、か?
 とにかく視界がふさがれたと気付いた時には、押し倒されていた。
 
「たーべちゃうぞー!」

 頭を打つかと思ったが、床が柔らかい絨毯だったのでそれほど痛くない。
 仰向けに倒れた俺の上から、声が聞こえてくる。

「ねえ、ちゃんとにげなきゃだめだよー。もけーれにたべられちゃうよ?」
「……レミリアさん?」

 聞き覚えのある声だとは思っていたが。
 扉を開けると同時に飛び掛ってきて、俺の顔に覆いかぶさったのはレミリアさんだった。
 まさかと思ったけれど、俺の胸の上にちょこんと座っている姿を見てしまった以上もはや疑いようもない。
 そしてこの反応。外見が幼いのは普段からだが、内面も他のみんなと同じように幼くなっている。
 しかし、しかしだ。
 じゃあこの異変は誰が起こしたんだ?自分までも巻き込んだ壮大な現実逃避だとでも言うのか!?
 
「いったい……いっひゃいひょうなっへ」
「ねー、あそんでよー!」
 
 俺が無視して考え込んでいるのに痺れを切らしたのか、レミリアさんは俺の頬を引っ張り始めた。

「ふぁ……わかった、遊んであげるから!まずはそこから降りてくれないかな?」
「わーい!」

 ようやく降りてくれた。立ち上がると、レミリアさんはわくわくした目でこちらを見上げている。
 こうなりゃやけだ。

「よーし、何して遊ぼうか?」
「もけーれごっこ!」
「……もけーれ?」
「にげなきゃたべちゃうぞー!」
「わー、食べられるー!」

 走り出す俺、追いかけるレミリアさん。
 
「……えい!つかまえた!」

 ひとしきり走ったところで、背中に飛びつかれた。
 さっきは不意打ちだったので倒れてしまったが、軽いので落ち着いていれば大丈夫だ。

「わ、捕まっちゃった」
「走れー!」
「まだ走るの!?」

 レミリアさんをおんぶし、さらに部屋の中を走る。

「ふぅ……お嬢さん、どちらまで?」
「…………」
「レミリアさん?」
「……くー」

 どうやら遊び疲れて眠ってしまったようだ。
 ……俺も疲れた。

「やれやれ」

 ベッドにレミリアさんを降ろし、布団をかける。
 
「それにしても、この異変はいったい―」
「ご苦労様だったわね、○○。子守は大変だったでしょう?」
「―誰だ?」

 振り返ろうとした瞬間、身体が宙に浮くような感覚に襲われた。





6.5 いんたーばる 2

「あら?萃香じゃないの」
「よお、萃香」

 ○○がレミリアとの死闘(?)を繰り広げていた頃。
 霊夢は、神社の縁側に見慣れた顔がやってきたことに気付いた。
 
「やっほ~、霊夢。あ、魔理沙も~」
 
 いつものごとく酔っ払った萃香は、二人の傍らに詰まれた西瓜の皮に目をやった。

「あ、西瓜!ねえ、私の分は~?」
「……ごめん、もう食べちゃったわ」
「残念だったなー、共食いできなくて」
「え~!?」

 不服そうに口を尖らせた萃香は、縁側に腰を下ろした。

「いーもん、お酒分けてあげないから」

 取り出したのは、いつもの瓢箪―ではない。
 明らかに年代物の、ワインの瓶だった。

「珍しいわね、萃香がワインだなんて」
「へへ~、昨日紅魔館でもらったんだよ~」

 その言葉に、霊夢と魔理沙は顔を見合わせる。

「おい霊夢、異変の知らせをブン屋が持ってきたのいつだった?」
「……一昨日よ。萃香、まさか盗んできたわけじゃないわよね」
「人聞きの悪いこと言わないでよ~、魔理沙じゃあるまいし。
 ちゃんと渡してもらったんだよ……あ」

 萃香は、自分の発言が拙いものだったことに気付いたらしい。
 もはや後の祭り、ごまかそうにも鬼が嘘をつくわけにはいかないのだ。

「あんた、『昨日』紅魔館からそのワインもらったわけね?
 まともな応対なんかできないようなあの状態の紅魔館から」
「異変のこと、何か知ってるんだろ?きっちり吐いてもらうぜ」

 二人は、萃香に詰め寄った。





EX.ふりゃんちゃん

「ここは……?」

 気がつくと、俺は見たことのない部屋の中にいた。

「ここは、私の部屋よ。紅魔館の地下にある、私の部屋」

 さっきの声が答える。声のした方には、紅い人影。
 聞いたことのある、しかし聞き覚えのないその声は、
 今日この屋敷に足を踏み入れてからついぞ聞かないような、しっとりと落ち着いた大人の女性の声だ。
 目の覚めるような真紅のドレスを着た彼女の顔は誰かに似ていた。

「君は……フラン、ちゃん?」
「そう。フランドール・スカーレットよ」

 確かに目の前の人物は、フランちゃんの面影を備えている。
 だが、少なくともいつものフランちゃんではない。何故なら。

「大人、だ」

 高い背丈。落ち着いた、大人びた顔つき、物腰。
 驚いている俺に、彼女は微笑んだ。

「立ち話もなんだから、座らない?」

 そう言って、しつらえてあった小さなテーブルに着く。
 吸い込まれるように、俺は向かい側に座った。
 テーブルの上には年代物のワインの瓶と、グラスが二つ載っている。

「いかが?」
「……いただこうかな」

 フランちゃんが手ずから注いでくれたワインを、少し多めに口に含む。
 重厚な香りがのどを通り抜けていったが、今は味よりも気付けとしてアルコールが必要な心境だった。
 
「何から話せばいいかしらね……○○は、新月の時にここへ来たことはなかったわね?」
「うん、ない」
「お姉さまを見たでしょう?新月の時はいつもああなの。
 詳しい理屈は知らないけれど、外見はそのまま、中身が幼くなってしまう。私は、その逆」
「外見はそのまま、中身は大人になる?」

 だが目の前のフランちゃんは、外見も大人だ。加えて今日は、新月ではない。
 確か数日前だったはずだ。

「この間の新月の晩に、あの鬼に頼んだの。
 新月の魔力を、私に萃めてくれって。このワインと引き換えにって言ったら承知してくれたわ」

 鬼……萃香か。あいつ酒好きだからなあ。

「萃めた魔力は、図書館で調べた術式で固定してある。パチェに気付かれなくて助かったわ」

 ああ、あのメモ書き。寸前で気が付いたけど、時既に遅し、だったわけか。

「目論見通り、私は身体も心も大人になった。私を媒介に起こった魔力の反動で皆小さくなってしまったのも計算通り」
「なぜ、こんなことを」
「……○○、貴方がそれを訊くの?」

 フランちゃんは、自分のグラスからワインを一口含むと、こくりと飲み込んだ。
 白いのどが、艶かしく動いた。

「私が、貴方を好きだからよ」

 俺は混乱していた。この異変の黒幕がフランちゃんだったこと、フランちゃんが俺を好きだと言ったこと、
 そして、質問の答えが理解できないことにも。
 
「時折屋敷にやってくる貴方のこと、私は好きになった。
 思考が幼い普段も、新月の時も、貴方が好きだった。
 ただ一つの誤算は、貴方が」
「俺が?」
「ロリコンだったことよ」

 思わず俺はテーブルに突っ伏した。

「違うの?魔理沙から聞いたんだけど。
 ○○って優しくていい人ね、って言ったら
 『あー、あいつロリコンだからなあ』って」

 出掛けに魔理沙と霊夢が、俺にぴったりの異変だと言った真の理由がわかった気がする。

「確かに普段の私は心身共に幼いけれど、それで○○を惹きつけるのでは困るの。
 新月の時のお姉さまだって似たようなものだし、私だっていつかは大きくなるもの」
「……いつ?」
「……いつかはなるの!」

 怒った顔を見せるフランちゃん。だってなあ、五百年近く生きて今の状態なわけだし。

「その頃には自分はいないと思ってるなら大間違いよ。
 無事両想いになれたら、貴方には眷属になってもらうから」

 くい、とフランちゃんはグラスを乾した。
 おそらくは、これから核心に触れるために。

「今回の異変を起こせば、魔理沙や霊夢には不向きのこの状況、必ず貴方を解決によこすと思ったわ。
 やってきた貴方は、ここまでたどり着く頃にはさすがにロリに食傷しているはず。
 そこで私が、大人の魅力でロリコンを矯正しつつ貴方を魅了する。
 貴方が『小さい子だから』ではなく、『ただ一人のフランドールだから』私を好きになることで、私の目的は達成されるわ」
「……その計画には前提の段階で重大な欠陥がある」
「何?」
「俺はロリコンじゃない」

 全くひどい言いがかりだ。

「『仮に』そうだとしても」

 妙に力を入れて応えるフランちゃん。あれは絶対信用していないな。

「変わらないわ。紅魔館の住人はみんな貴方のことを憎からず思っている。
 美鈴も、小悪魔も、パチェも、咲夜も、それからお姉さまも。
 ずいぶん懐かれたでしょう?私はそんな魔法はかけていないの。
 例え記憶があやふやでも、幼く素直になったみんなの無意識下の気持ちが現れたのがあの状況よ」
「……信じられないな」
「ほんと、鈍いわね。そんなところも好きだけれど」

 そう言って席を立ち、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
 逃げられない。吸血鬼のプレッシャーだけではない、情念の網に絡め取られたように脚が動かない。
 どうやら俺は獲物であるらしかった。

「だからこそ、私はこの異変を起こしたの。新月の時の理性が続く内に計画を整えるのは、大変だったわ。
 この状況下で、誰にも負けないように、私は貴方を―
 ―○○を、墜としてみせる」

 蟲惑的な笑みを浮かべて歩を進めてきたフランちゃんの表情が

「っ!そんな!」

 突然凍りついた。

「どうしたんだ!?」

 状況も忘れて立ち上がる。
 自分の両肩を抱きしめるようにして膝をついてしまったフランちゃんの様子は、
 それほどまでに唐突で、辛そうだった。

「どうして!?力が、ぬけてく、新月の魔力が、散って」
「フランちゃん?しっかりして!」

 霧が晴れるように何かが消えていくのが、ただの人間の俺にも感じられる。
 目の前のフランちゃんは、少なくとも外見だけはいつも通りのフランちゃんに戻っていた。

「やだ……ここまできたのに……これじゃ、○○のロリコンを直せないよ……」
「……だから、違うってば」

 どうしてわかってもらえないのだろう。何か悪いことでもしただろうか。

「じゃあ、勝負よ。私を襲わなかったらロリコンじゃないと認めてあげる。
 一気に魔力を手放したショックで、私はしばらく動けないから、今なら無抵抗よ?」

 とんでもない難題を出しているつもりらしいが、そもそも俺はロリコンではないのだから手を出したりはしない。
 だいたい、動けない女性を襲うような真似などするつもりはない。
 ただ―

「あ」

 悔しそうに、悲しそうに涙を流すフランちゃんが、かわいそうで

「さ、もうおしまいにしよう」
「○○……」

 そっと、抱きしめた。

「あったかいね……」

 疑惑は晴れないかもしれないけれど、その時はその時。
 がんばって、無実を証明することにしよう。
 フランちゃんは、糸が切れたように俺によりかかると、やがて眠りについた。





 えんでぃんぐ

 あれから数日。俺は紅魔館に招待されていた。
 あの時フランちゃんから魔力が抜けたのは、萃香が事情を知った霊夢たちに叱られて、
 萃めていた魔力を疎の状態にしたからだったようだ。

「あ、○○さん!」

 門の前まで来た。辺りを門番隊の妖精メイドたちが飛び回っている。
 美鈴がこちらに気付いて手を振っている。

「やあ、美鈴」
「いらっしゃいませ、○○さん」

 笑顔で迎えてくれた美鈴は、ちゃんと元に戻っていた。
 いつものナイスバディな美鈴だ。

「ささ、広間へどーぞ」
「ありがとう」
 
 扉を開けてもらい、中へと進む。

「あの、○○さん?」
「ん、何?」
「い、いえ!なんでもないです!」

 美鈴は顔を赤くして、俯いてしまった。



「あら、○○」
「こんにちは、○○さん」

 館内を歩いていると、パチュリーさんと小悪魔に出会った。

「レミィに呼ばれたのね」
「はい、広間に来るようにって」
「私も後から行くわ。ところで○○」
「なんですか?」
「魔導書の読み方とか、覚える気はないかしら?」

 なんか既視感を覚える流れだな。

「えーっと、何でまた急に」
「……横で内容を口述してもらうと、研究がはかどるかと思ったのよ」
「小悪魔がいるじゃないですか」
「いや、私も図書整理とかがありますから。ねっ、パチュリーさま」
「……まあ、考えておいて」

 そう言い残すと、二人は歩いていった。



「いらっしゃい、○○」

 咲夜さんだ。子犬のエプロンは、普段も使うことがあるのだろうか。

「今日はこの後何か予定はあるのかしら?」
「いえ、特には」
「そう。じゃあおゆはん食べていきなさいな」
「ありがとうございます。楽しみにしてますね」
「ええ、腕によりをかけて作るから。さあ、お嬢様がお待ちかねよ」

 そう言うやいなや、咲夜さんの姿が消える。
 気がついた時には、少し離れたところを歩いている咲夜さん。
 俺の頬には、柔らかな感触がうっすらと残っていた。





 紅魔館の広間。
 テーブルに着いた俺の正面にはレミリアさんが、その隣にはフランちゃんが座っている。
 しばらくして、美鈴、パチュリーさんと小悪魔、そして咲夜さんが入ってきたところでレミリアさんは話し始めた。

「○○、今回はフランが迷惑をかけてしまったようね。
 当主として、姉として申し訳なく思うわ。ほら、フランも」
「うん……○○、色々とごめんね?」

 威厳あふれる態度のレミリアさんと、すまなそうにしているフランちゃん。
 俺としては、異変解決の役目を背負ってしまったという緊張感こそあったが、
 さほど迷惑を受けたという感じもしないので、かえって恐縮してしまう。

「いえ、別にそんな、気にしてないですから」
「……お詫び、と言っては何なのだけれど」

 言葉を切ったレミリアさんは、一呼吸置いて、

「○○を紅魔館に迎えようと思うわ」
「……へ?」

 予想もしなかった言葉を口にした。

「どのように、かはあなたに任せるけれどね」

 一瞬あぜんとしていたところに、それまで黙っていた他の皆も口を開く。

「その、私の隣で門番やりませんか!」
「司書の仕事もやりがいがありますよ?」
「私の専属サポート、でもいいわね。就寝前に何か一冊読んでもらったりするのも、悪くないわ」
「その……お嫁さん、とか……いやいや、執事として一緒に働くというのはどうかしら?」

 ……縮んでいた時のことは、どれほどまで覚えているものなんだろうか。
  
「まあ、ゆっくり考えるといいわ。あなたは私を選んでもいいし、私以外を選ばなくてもいい」
「あー、お姉さまそれじゃお姉さまが○○独り占めじゃない!
 ○○、フランの遊び相手でもいいんだからね?」

 異変を解決しても、必ずしも平和になる、というわけではない。
 でもそれで帰ってくる日常は、とてもいとおしく、騒がしく、楽しいものだ。
 俺は霊夢たちの気持ちが、ちょっとだけわかったような気がした。

「まあ、いずれにしても、ロリコンは直しなさい」
「……だから俺はロリコンじゃないですってば」

うpろだ1306、1376

───────────────────────────────────────────────────────────

ある日の白玉楼、夕食時。
あの人の何気ない一言が、全ての始まりだった。

八畳程度の畳部屋の真ん中で、ちゃぶ台を囲んで夕飯を食べる三人。
庭師の私としては主と食卓を共にするのは少し不本意だが、
大勢で食べた方が美味いだろうという○○さんの意見と幽々子様の同意によって、少し前からこうして食べている。


「妖夢、おかわりちょうだい」


幽々子様がもう何度目か分からないおかわりを、これが二杯目だと言わんばかりに要求する。
最早私の背丈くらいになったおひつの蓋をよいしょと開き、中を覗き込んで───

「…幽々子様、もうお米がありませんよ」

おひつの中は、数えるほどの米粒を残してほとんど空っぽになっていた。

「え~~~……」
「え~~~……じゃありません。ない物は出せません」
「今度からもっと炊いておいてよ。これじゃお腹空いて夜も眠れないわ」
「そんな事ばっかり言うからおひつがこんな大きさになったんでしょう…第一、幽々子様は毎回ご飯を食べすぎです。お米だって無限じゃないんですから、もう少し考えて───」

丁度その時、さっきから口を閉ざしていた○○さんが不意に笑い出した。
なんだか気恥ずかしくなって思わず顔を伏せてしまったが、何も私のことで笑ってる風ではないようだった。

「どうしたの?」
「いや、なーんか二人が親子みたいだなと思ってね…」

微笑ましいと言う風に私達を見る○○さん。その一言を聞くや否や、幽々子様は○○さんの腕を取って自分の腕と絡めて言った。

「あら、それじゃ私達が夫婦で妖夢が子供かしら?」

照れたようになる○○さんを見て少しムッとなる私。
…もう、幽々子様は○○さん相手になると慎みが無くなるのがちょっと…………羨ましい、です。

「い、いやいや。どっちかって言うと妖夢が母さんで幽々子さんが娘って感じかな…」

ハハハ…と笑う○○さん。……え?そそそそれじゃ夫は○○…さん?あ、いや、そんなまだ早いですよ私にも心の準備が…

…と、私があらぬ妄想の世界へ身を浸している隙に幽々子様は新たに一手を指していた。

「あら、○○が子供っていうのもいいんじゃない?ほら、貴方って結構───」

そう言って、幽々子様は○○さんの頬についたご飯粒を箸で取ってそのまま優雅に自分の口へ運んでしまう。

「───子供みたいな所、あるしね」

そして妖艶に微笑む幽々子様。
ああもう、どうしてこうも私にないものばっかり使って○○さんを誘惑するんですか貴方は。

しかしそこは○○さん。軽く笑って何もなかったかのように受け流しました。

「ハハハ・…ま、どうでもいいかな。母さん、おかわり」
「……だからご飯無いんですってば。あと母さんはやめて下さい」
「そうよ○○。妖夢は母さんじゃなくて、「妖夢」もしくは「おまえ」って呼ばれたいんだからね?」
「ゆっゆゆゆゆゆ幽々子様何言ってるんですかもう!」

────と、まあ、そこまでは日常的な風景だったのです。……お二人が私の事を母さん母さん言ってくる以外は。

問題はその後です、後。
そろそろ寝ようと思って座敷に敷かれた布団に横になり、掛け布団を被った刹那。

障子が開いて、小脇に○○さんを抱えた幽々子様が入ってきたんです。

そして、ああそして、あろうことか私の布団に○○さんとご自分の体を横たえて、そのまま布団を被ってしまったのです!

「……………何してるんですか幽々子様ーーーーっ!」

思わず声が荒くなりました。早いでしょ、誰がどう大目に見たって。
幽々子様が○○さんに並々ならぬ感情を抱いてるのは知ってますけど同衾って。しかも私の布団でって。

「何…って、寝ようとしてるだけだけど?」
「…なんだか知らんが、家族三人で川の字になって寝たいらしい」

布団の中から解説を加える○○さん。…あ、私の布団で○○さんが寝て…っと、いけないけない。煩悩退散。でも役得。

「川の字…ですか」
「そ。私が右端、○○が旦那様役で左端、妖夢は一番小さいから真ん中ね♪」

私の脳は考えるより早くその状況を想像してしまう。
三人が私の小さな布団の中、身を寄せ合って……………ああまるまるさんそんなにおしつけないでわたしどうにかなってしまいますー。

そうして赤面五秒の後に、現実に戻る。
正気に返った私がいた場所はお二人の間──つまり、布団の中でした。

「えっ…えええええええっ!?」

「妖夢、思いのほかノリノリでしたね幽々子様」
「そうね。もっと渋るかと思ったのに…あんな笑顔でお布団に飛び込んで来るなんてねえ」

あの五秒間で何をやったんだ私っ!

「あー…でもまあ、こういう寝方も悪くないかなあ。暖かいし」

この状況下であくまでマイペースな○○さんはどうかしてると思います!

「ふふ…それじゃ、明日はもっと熱い夜にしてみる?」

さりげなく誘わないで下さい幽々子様!私が間にいるのに○○さんにひっつこうとしないで!ああ!胸板が!○○さんの体が私にぴったりくっついて─────っ!












その晩妖夢は、結局一睡もできなかったという。


うpろだ1508

───────────────────────────────────────────────────────────

博麗神社の縁側で昼寝中、甘ったるい匂いで目が覚めたら目の前に橙がいた。
うん、橙がうちに来ることはいつものことなんだ、紫さんや藍さんもよく来るし。
ただ問題なのは・・・・

「○○~」
「・・・うわぁ!!ちぇ・・橙?」
「うふふ~」

橙の様子がいつもとおかしかったのだ。
いつもの橙なら「わーい○○遊ぼう~」と寝ている俺の上に飛び込んでくるぐらい元気でおてんばな子なのだが・・今日の橙はいつもと違った。
そう、いつもの橙を子供と例えるなら、今の橙は・・・ものすっごく色っぽい。
衣服はいつもと同じなのにとてつもなく色っぽい・・。

「橙・・だよな?」
「そうだよ~」

間違いなく橙だ、しかしどうなっているんだ一体・・。

「えへへ・・○○」
「な・・なんだい?」
「子作りしましょ」

静寂・・・そして橙は服を脱いで・・・・

「この泥棒猫!!!!」
「わぁ!!霊夢!!」

いきなり霊夢が乱入してきた。

「人の居ないところで何乳くり合おうとしてるのよ!!」
「してないしてない!!」
「なー、邪魔しないでよ~」
「するわよ!!というか人のうちで何しようと」
「子作り」
「即答!!!・・霊夢落ち着け、とりあえずその陰陽玉をしまえ!」
「落ち着いていられるか!もう・・紫ったら式の教育がなってないわね」
「あらそんな事ないわよ」

と、スキマから現れた紫さん。

「紫!!ちょっとあの子何とかしなさいよ」
「何とかって・・無理♪」
「なんでよ!」
「何とかしたら面白くないじゃない」

紫さんの言葉に俺と霊夢は目を丸くした、まったくこの人は・・

「・・・霊夢・・俺頭が痛い」
「私も・・・」
「だってぇ~今の橙は発情期なのよ」
「は・・発情期?」
「そう、私は一切ノータッチ、この時期の橙って大変なのよ・・いつもはスキマに閉じ込めておくんだけど・・今回は先手を打たれたようね」
「ぼやっとしないで早く橙をスキマに閉じ込めなさいよ!!」
「だからそれじゃつまらないじゃない・・」

この人は・・・霊夢も青筋が浮かびっぱなし、目つきも悪くて・・うわっ!霊夢ちゃん目怖っ!!

「というわけで橙、○○を好きにしていいわよ」
「はーい!」
「こら紫!!!」

俺に向かって走ってくる橙を抑える霊夢。
俺はとりあえず逃げようとしたそのとき、風が吹いた・・・

「え?」
「無事でしたか○○さん!」
「あ・・文?」

気がつけば俺の体は文に抱きかかえられ、空を飛んでいた。
眼下には「泥棒鴉!!!」と叫んでいる霊夢と橙の姿が。
流石幻想郷最速、あっという間に博麗神社から離れ山の麓にあるとある小屋へ到着。

「文・・助けてくれたのは嬉しいけど・・」
「はい、お礼は子作りで結構ですよ」

・・・はい?

「文さーん、射命丸さーん?」
「明日のトップは私と○○さんの婚約会見で決まりですね!」
「え?だから・・」

あ・・甘い匂い・・・まさか文も発情期ってか?
というかこの小屋の中、何故かラブホテルのような内装になってるし!!

「さぁ、○○さん」
「脱ぐな脱ぐな!!!」
「えー・・仕方がないですね」

と残念そうに体操着+ブルマを着た。

「まてまて、それを着るな」
「ヱー」

と再び全部脱ぎだしたので・・

「全裸になるな!!!」
「はーい・・」

と、今度はセーラー服を着だした。

「次の衣装が気になるけど自重して・・・」
「えー、とにかく・・・子作りしましょう♪」
「いやだー!!人生の墓場はまだ早い!!」
「そこまでです!!!」

ばーん!!!

「大丈夫ですか○○さん!!」
「椛!」

救世主現る!!

「椛・・」
「そこまでです!○○さんと子作りするのはこの犬走椛です!!!」
「な・・なんだってー!!!」

わーお事態悪化、とりあえず逃げるべ。

「逃がしません!!!」

椛先手必勝、○○は拘束されてしまった。

「文さん、○○さんは私が頂きます」
「駄目!私よ!!」
「あたしだよ!!!」

いつの間にか橙も加わっていました。
ということは橙を追って霊夢が・・・いや、過度な期待はよしたほうがいい。
目の前では3人がじゃんけんをして誰が一番かを決めている、何の一番かって?
聞くなよ・・・とりあえずここから脱出する手立てを考えねば。

「あややキリがないですね」
「むぅ」
「やはり弾幕で決着を・・」
「おーい外で頼むぞ弾幕は」
「いいこと思いついた!三人同時に子作りすればいいんだ!」
「あやっ!ソレは俗に言うら・・らん・・」
「は・・破廉恥です!!」

いや、そんな破廉恥なことを君たちがやろうとしているわけで。
とりあえず、脱出の手立てを考えなきゃ・・・。
魅力的な少女が言い争っている中、俺は拘束をはずそうと四苦八苦していた。


「じー・・・・」
「あら霊夢、そんな玩具の犬耳付けて何してるの?」
「なんでもないわよ!あっち行って!」
「まさか、それで「私も発情期~」って混ざりたいの?」
「な・・そんなわけないでしょ!!」


新ろだ162

───────────────────────────────────────────────────────────

―某月某日、香霖堂にて…



 外界から流れ着く幻想入りした物品が陳列している雑貨店、その
名は香霖堂。確かにここで取り扱われる物品は珍しいものばかり。

 ですが立地場所が博麗神社と人里のちょうど中間点のため、里の
人間達は妖怪に襲われることを恐れて近寄ろうとしません。

 立ち寄るのは自力で妖怪退治が出来る僅かな人間か、ここ幻想郷
でもトップクラスの実力を持つ勢力下の者達ばかりで、余計に人が
近寄れなくなっています。

 …ですが、何事にも例外というものは存在するようです。



 そう、あなたなのです。



 ひょんなことから幻想入りして、慧音の庇護の下人里で暮らして
いるあなたにとってここ香霖堂は、時折陳列している懐かしい物品に
出会える唯一の場所。

 今日も香霖堂の扉を叩いては陳列している商品を眺めています。

 そんなに欲しいんだったらせめて一品くらい買っていってくれよ
と人と妖怪のハーフである香霖堂の店主、森近霖之助は言いますが、
ここの商品に『真っ当な』値段がついたためしはありません。

 …!……?………!

 おや?向こうにできている人だかりで何やら談笑しているようです。

 幻想郷の権力家達がみんな揃って我が子の自慢合戦をしているのさ、
不用意に近づくと危ないよと霖之助は教えてくれましたが、あなたは
こっそりと様子を伺うことにしました。すると…



「私の自慢の娘、咲夜は時を止めることができるわ。家事一般は
当然のこと、ナイフ捌きもお手の物よ。瀟洒で完全、を自称する
のに相応しいわね」
「光栄ですわ」

 紅茶を一口、その後に傍らに佇むメイドのことを自慢するのは
紅魔館の主にして吸血鬼のレミリア・スカーレット。

「あら、うちのアリスちゃんはそんな程度のこと人形さんたちに
任せてすぐにでも片付けちゃうわよ。伊達に一人暮らしをしてる
わけじゃないの」
「まぁ、一人暮らしだからその程度のことは出来ないとね」

 普段はここ幻想郷に顔を出すことはありませんが、自慢の娘の
様子を時折見に来る魔界の神、神綺。

「その程度ではまだまだね魔界神さん。私の自慢の娘である藍は
式神の身でありながら、式神を扱うこともできるのよ。私の身の
回りの世話もしてくれるし」
「紫さま…(普段からこう言ってくれればなぁ…)」

 外界で言われる事象『神隠し』の主犯にして幻想郷の管理人、
従えている式神を称えるスキマ妖怪八雲 紫。

「うちのイナバは狂気の瞳を持っていて、並大抵の者が力任せに
襲い掛かってきても余裕で撃退できるほど強いんだから。永琳に
薬学も師事してもらっているから、将来が楽しみね」
「そ、そんな輝夜さま、私なんか師匠に比べたら全然…」

 御伽噺「かぐや姫」のモチーフとなった月人、不老不死の罪を
背負い…という肩書きはどこへやら、兎自慢する永遠亭の象徴、
蓬莱山 輝夜。

「妖夢は剣術に秀でていて、庭師としても雑用係としても優秀よ。
以前あなたの兎さんに一度勝利しているじゃないの」
「ゆゆっ、幽々子さま、そんなに挑発しないでくださいよぅ。
鈴仙さんだって困っているじゃないですか」

 冥界にあると言われる白玉楼の管理人西行寺幽々子は、お庭番
にして抜刀術に秀でる妖夢を褒めちぎる。

「あーうー、その程度大したこと無いわよ!うちの早苗だって
私と神奈子の面倒を見てくれているし、仕事熱心だし、奇跡を
起こして見せる能力持ちなんだぞー!」
「洩矢さま、そう興奮しないでください。私は当然のことをして
いるだけなんですから」

 最近妖怪の山に現れた守矢神社の裏管理人、洩矢 諏訪子は子孫
であり自慢の娘である風祝の少女のことを負けじとアピール。

「衣玖は空気を読んで必要に応じて的確な行動をとることで私に
尽くしてくれてるわ。時々歯向かうのが珠にキズなんだけどね…」
「私はいつも必要に応じて行動しているだけです、総領娘さま」

 天界に住む天人くずれの比那名居 天子も自分の使者の有能さを
アピールします。さりげなく皮肉られているのは気のせいでしょう。

 さぁ一通り出尽くしたか、と思ったところにまだ一人いました。
地霊殿の主、古明寺さとりです。彼女はまだ一言も喋っていません。

「『さぁ、貴方のご自慢の妹さんはいかが?』とでも仰る?」

 第三の眼、で他者の心を読み取るさとりは、誰の心を読んだか
知りませんがそれを言葉にした後、ふっ、と得意げに笑いながら
語りだしました。

「家事が得意だ?弾幕を構築するための魔力が高い?特殊な能力
持ち?そんなものワケないわ。私の自慢の妹、こいしは床上手よ。
妹の魅力の前にあらゆる異性は文字通り骨抜きにされるわ!」
「お、お姉ちゃん!?それって物騒すぎるよぅ…」

 そんなことを言われると思ってもいなかったか、思い切り動揺
しておろおろとうろたえる妹のこいし。しかし、さとりは続けます。

「最終的には殿方を喜ばせられるような技術が無ければ、ねぇ?
貴方達の従者はそこまで能がないのかしら?」

 突然空気が変わるのを感じました。おやおや、と霖之助が溜息
一つついています。

 そしてそこから凄まじい自慢合戦に発展してしまったのでした…



「この地底人は何を言っているのかしらね?うちの咲夜に不満を
抱く者など一人もいるとは思えないわ。ほどよい若さ、これが命よ」
「お嬢さま?」

 流石の咲夜もただならぬ空気を感じ取り、

「アリスちゃんだって指先鍛えているから、どこをどうすれば殿方を
喜ばせることが出来るか良く分かっているわよ?」
「お母さん!?」

 アリスは母親の暴走に驚き、

「藍が昔何人もの殿方を篭絡させた手練れであるということは、
皆さんご存知のはずでしょう?男の一人や二人、楽勝よ」
「紫さま、お戯れを!(ああっ、やっぱりこうなるのか!?)」

 藍は語りたくない過去を無残にも主人に抉られ、

「イナバも負けちゃいないわよ。この兎の耳、尻尾、そしてこの
ほっそりとした体からは想像もつかないほどの熟れたかじt…」
「わぁわぁ輝夜さま、やめてくださいよぉ!」

 鈴仙は露骨にセクハラにはしる主を止めようと必死になり、

「年がら年中発情期の兎さんよりも、控えめで一生懸命に尽くす
妖夢のほうがウケがいいわよ。この未成熟なところが逆にそそr」
「駄目ぇ!幽々子さま、そんな風に言っちゃ駄目ですっ!」

 妖夢は自慢する傍らで露骨に挑発する主を止めようとして、

「それじゃあうちの早苗はその要素を全て併せ持った、文字通り
存在が奇跡ね!若いし、控えめだし、体つきもいいし!」
「よ、喜ぶべきか恥ずかしがるべきか複雑です…」

 早苗は主の自慢話に赤カブのように真っ赤になり、

「地上人如き、大したことなど無いわよ!衣玖の空気を読む程度の
能力の前に、男達は皆死屍累々になること間違いなしだわ!」
「総領娘さま、それでは意味が無いと思いますが」

 衣玖は主に冷静に突っ込みました。



―彼女達の自慢合戦が継続中です、しばらくお待ちください―



 それからどれほど時間が経ったのでしょうか?全員が喋り疲れて
グロッキー状態になった頃、紫が切り出しました。

「不毛な自慢合戦をしていてもキリがないわ。いっそのこと、誰が
真に優れているか素敵な殿方に決めてもらいましょうか」

 ああちょうどいい、そこにいるじゃないのとレミリアがあなたの
ことを指差すと、全員の視線があなたに向けられました。視線上には
霖之助も入っていましたが

「二重の意味で遠慮するよ。厄介ごとは御免だし、彼女達の視線は
はっきりと君に向けられているようだからね」

 柳に風、といった感じでかわされてしまいました。



 主はボクシングのセコンドのようにそれぞれの従者、自慢の娘に
つき一言檄を飛ばしています。

「咲夜!」
「お任せくださいお嬢さま。咲夜に不可能などありませんわ」

「アリスちゃん、大丈夫よね?」
「大丈夫よお母さん、今度そっちに行ったら結婚報告するわね」

「妖夢、負けちゃ駄目よ」
「いつだって全身全霊です、大丈夫、負けたりなんかしません!」

「藍、わかっているわね?」
「紫さまご心配には及びません。必ず勝ちますとも」

「イナバ、負けたらおしおきどころじゃ許さないからね」
「ううっ、どうしてこうなるんだろう…で、でも勝たなくちゃ」

「早苗、今こそ奇跡の力でゴールインよ!」
「帰ったらお二人に次世代の風祝をお見せします…!」

「衣玖、空気を読みなさい」
「空気を読んで勝利、その後駆け落ちなんて…ああっ」

「こいし、今こそ本気になるときよ。無意識の力を存分に活用なさい」
「え、えーっと…う、うん、やってみる!」

 文字通り逃げられない状態です。

 観念して誰か一人を選ぶべきだよ、幻想郷の少女達はタフだからね
と霖之助が肩を叩いて言いました。

 さぁ、あなたならどうしますか?

 コマンド?


新ろだ168

───────────────────────────────────────────────────────────

「ですから、元々外の人間なんですから外から来た守矢神社に住まわせるのが良いでしょう!」
「いいえ、稗田が預かったんですから、このまま稗田で預かります!」

 ぼんやりと縁側に座っている自分の目の前で、二人の女子が言い争いをしている。
 切欠は何だったのだろうか、途中から観戦している自分には知る由も無いが、文脈からそれが自分に関しての戦いだと推測された。
 ただ自分の何でそんなにも争っているのかが皆目見当も付かない。
 だから仕方無しにその争いを見守ることしか出来なかった。

 渡り廊下が軋んだ音を立て、誰かがやってきたことを告げる。
 だがその存外大きな音も目の前で白熱した少女たちには届かないらしく、依然言い合いは続いていた。
「久しぶりだな。変わりないか」
「おや、慧音さん」
 一つ頭を下げて挨拶すると向こうも同じようにして返してきた。
 そのまま慧音は自分の隣に座り、話を続ける。
「どうしたんです? こんなところに」
「いや、寺子屋で使う教科書について話し合おうと思っていたんだがな。妙な場面に出くわした」
 妙な場面。確かに全く妙である。そもそもこの二人の喧嘩自体が想定できない。
 恐らくは苦虫を噛み潰したような顔をしていただろう自分に慧音は言う。
「止めないでいいのか、あのまま争わせておいて」
「構わないでしょう。手を出すような人種じゃありませんし」
「それもそうだが。それにしたって、まあ」
 彼女はそこで一旦区切ると、じろじろと自分の顔を覗き込みながら言った。
「なんだか、随分と人事のような顔をしているじゃあないか」
 自分はそこで一つ溜息を吐き答える。
「それはまあ、余り関わりの無い争いですし。怪我をしないのなら放ってても良いでしょう」
「でもお前のことで争っているんだろう」
 すかさず言い返され、若干たじろぐ。
「とはいえ実感が湧かないのでどうにも。それに……」
 言い難い事、この場では特にだ、なので言い澱むが言う他無いので仕方無しに言う。
「それに直に向こうに帰りますしね」
「ああ、やっぱり帰るのか。いつぐらいになるんだ?」
 多少驚いたような調子で訊いてきたので、博麗の巫女との少し前の会話を思い出して答える。
「いつかは未定ですが、準備が出来たら連絡が来るようです」
「準備?」
 怪訝な顔をして問うてくる慧音に答える。
「ええ準備らしいです。それが帰らせる準備なのか、それとも自分の冬の準備なのかは判りませんが」
 それを聞いて納得したような表情を慧音はし、その話をやめて他の話を始めた。
 そして二人は向かい合って話をしていた為、阿求と早苗が自分たちのほうを向いて微動だにしていないことなど気付いてもいなかった。


「どういうことですか? 私を置いて居なくなるつもりなんですか?」
 空が暗くなったと思ったら、不意にそのようなことを言われた。
 どうやら太陽が雲で隠れたのではなく、阿求の体で隠れたらしい。
「前にも帰る心算だって言わなかったっけ」
「ええ言われました。言われましたとも」
 阿求の発した問いに答えると、自棄になった口調で言い返される。
「でも本当に帰る心算とは思いませんでしたよ。私にあんなことまでしておいて」
 慧音が不信げな目つきでこちらを見てくるが、この場では無視しておく。
「そうですよ、何で帰るんですか。ずっとこっちに居れば良いじゃないですか」
「いやだって、こっちいろいろ怖いし」
「妖怪が怖いなら、幻想郷縁起読んで勉強すれば良いじゃないですか。何ならきっちり教えますよ」
 自分が答えるとすかさず阿求が言い、早苗もそれに続いて言う。
「大丈夫です。神徳で護身しますし、術も教えます。早く神社に行きましょう」
 怖いのはお前らだよとは言え無い。言ったら後が怖いからだ。
「だから、神社に連れて行こうとしないで下さい。大体あそこじゃあ里に降りられないでしょう」
「空だって飛べるようにちゃんと教えます。何も不便になるようなことはありません」
 阿求と早苗の言い争いは先ほどにも増して白熱して行き、そこに自分の意思の介在する隙は無かった。
「こら、お前達やめないか」
「慧音さんは少し黙ってて下さい」
 余りの白熱振りに慧音が慌てて仲裁に入るが、阿求に即座に沈黙させられる。
「そうです。関係ないですから向こうでお茶でも飲んでてください」
 早苗にも言われ、慧音は縁側で不貞腐れたように壁に凭れて足を投げ出してしまった。

「もういいです。このまま神社に連れて帰ります」
 言って早苗は首を引っ掴むと、風を起こして空を飛ぼうとする。
 それを見て阿求は慌てて胴を掴み、浮遊を阻止しようとした。
「待って、早苗さん首絞まってる!」
「ちょっと辛抱してて下さい。もう少し上がったら抱えなおしますから」
 息を振り絞って悲鳴を上げるが、早苗には聞き入れられない。
 すると阿求が自分の腰に抱きつきながら煽るように言い放った。
「早苗さんですって、それが限界なんですよ。私には呼び捨てです。あなたとは違うんです!」
 それを聞くと、負けじと早苗も応戦する。
「友達程度にしか思われていないんじゃないですか? 親しき仲にも礼儀有りって言うでしょう!」
 だんだんと目の前が暗くなっていくのを感じながら、そんな喧騒を聞いていた。



 気が付くと布団の上に寝かされていた。
 見渡してみると畳敷きに障子戸、回廊と稗田邸と同じ造りの様だが部屋が少し大きい。
 こんな部屋があったのかと思いながら起きると、傍らに居た女性に声をかけられる。
「あら、もう大丈夫なの?」
 医者の類だろうか、それにしてはそれらしい服には見えないが、と内心訝しみながら返答する。
「ええ、なんとか助かりました。ありがとうございます」
 しかし彼女は小さな溜息を吐くと言った。
「残念だけど、助かってないのよ」
「幽々子様、紫様がお見えです。急ぎだそうですが」
 障子の外から声がかけられた。ここは――


新ろだ179

───────────────────────────────────────────────────────────

 妖怪の山の中にある川。深くはないが、決して浅いとも言えないそこ。
 そのすぐ傍にある石場に腰掛ける、三人。白狼天狗の椛と、河童のにとり、そして人間である○○。
 種族もばらばらの三人だが、それと関係なくこの三人は仲が良い。暇があれば○○は妖怪の山までやってくる
 し、にとりと椛もそれを歓迎する。

「それにしても、今日は暑いね」

 自分達を燦々と照らす太陽を見上げて、○○は呟いた。その頬には一筋の汗。

「そうだね、こんな日は川の中でキュウリを食べたら気持ち良いだろうね」

「にとりはいつもじゃない。でも、確かに今日は川で泳ぐと気持ち良さそう」

 そういう二人の顔にも、うっすらと汗が流れている。その視線は、じっと川の中を見ていた。

「じゃあ、泳ごう」

 言うやいなや、○○は着ていた服を脱ぎ始める。唐突に始まるストリップに、椛とにとりは手で顔を覆う。
 流石に下まで脱ぐ気はないらしく、○○は上半身裸で川へと飛び込んだ。ばしゃんと、水が跳ねて椛とにとり
 に微かにかかった。

「ぷは、気持ちいいよー。二人も泳ごうよ」

 水から顔を出し、○○は二人を誘う。河童であるにとりならともかく、椛には替えの服がない。それを言えば
 ○○も同じだが、男と女では少々勝手が違う。

「いいなぁ」

「椛に悪いし、私も遠慮するよ。○○だけ泳ぎなー」

「そう? 気持ち良いのに」

 残念そうに呟き、○○は水の中に潜る。その姿に椛とにとりは顔を見合わせて、笑う。普通なら下心があるの
 ではと疑う所だがこの○○、天然なので本当に水の中が気持ち良いから入ればいいのに、という考えしかない。
 そんな○○だからだろう、二人は○○が人間にも関わらず好意を寄せている。

「元気だねぇ」

「そうだね」

 楽しそうに泳ぐ○○。それを眺めて、にとりは苦笑して呟いた。リュックから取り出したきゅうりを、一口齧
 る。ぽりぽりという咀嚼音に釣られてか、椛も一つ頂戴と言ってもらう。
 それから暫く、○○が泳ぐ音と二人のきゅうりを齧る音だけが聞こえる。

「あ、二人ともきゅうり食べてる。ずるいなー」

「○○も食べるかいー?」

「食べるー」

 誘われて○○は泳いで岸へと近づいていく。しかし、その途中で不意に○○の姿が水中へと消えた。

『?』

 きょとん、として状況を見守っていた二人。次に○○が顔を出したとき、ばしゃばしゃと手で水を叩く音でよ
 うやく溺れているのだと気付く。

『○○!』

 服が濡れることなど構わず、慌てて川へと飛び込み溺れている○○を岸まで引っ張っていく。出来るだけ平坦
 な地面に○○を寝かせる。川から岸へと上がるとき、既に○○の身体はぐったりとしていた。溺れたときに水
 を飲み込んでしまったらしい。
 手に口をあてるが、息をしていない。このままではまずいと、椛はすぐに○○の気道を確保。鼻をつまみその
 まま顔を近づけて唇を―――

「ちょっと待った!」

 それを止めるにとり。なんで止めるのかと、椛はにとりを睨んだ。

「人工呼吸なら河童の私に任せな。その道に関してはプロだよ」

 そういい、椛を押しのけて○○に顔を近づけていく。その頬が、やけに赤く染まっているのに気付いた椛はそ
 ういうことかと気付き、にとりを押し退けた。

「にとりはただ○○にき、き、キスしたいだけじゃない! そんな不純な理由でするのなら、私がやる!」

「それは椛だって同じじゃない! ちょ、私がやるから椛は引っ込んでなさい!」

「わーたーしーがーすーるーのー!」

 ぎゃあぎゃあと、今にも死にそうな○○の横で椛とにとりは人工呼吸をする権限を巡って騒ぐ。その間も、○
 ○は刻一刻と死へと近づいているというのに。




 次に○○が目を覚ましたとき、そこは白玉楼の一室だったとかなかったとか。


新ろだ187

───────────────────────────────────────────────────────────

 ここは幻想郷の博麗神社。
 今日も今日とて宴会が行われている。
 騒ぐことが好きな連中が集まっている中、一人少し離れたところでちびちびと酒を飲む男がいた。
 彼の名は○○。外の世界からきた外来人でここの住人たちを気に入り外界に戻ることをせず、この幻想の地で骨を埋めようと決意した。
 彼も騒ぐことは嫌いではないのだが酒の席ではちょっと距離を置いている節がある。
 そんな○○に二人の少女が近づいた。
 
「○○、飲んでる?」
「ああ、そこそこにな」
「そのわりには杯が空いてないぜ?」

 紅白の腋の開いた独特の巫女服と白黒の魔女のような格好をしている。
 博麗霊夢と霧雨魔理沙だ。
 
「あんまり酒は強くないんだ。自分のペースで飲みたいんだよ」
「まぁ、無理に飲んでも楽しくはないからね」
「でもそれじゃつまらないんだぜ。一回自分の限界を知るのもいいと思うぜ」
「でもなぁ、飲み過ぎると記憶が飛んじゃうから……その時の俺の行動を知る人はみな口を噤むから……」
「へぇ、面白いこと聞いたわ」
「そうだな。へべれけになった○○か。ちょっと見てみたいな」
「やべ、やぶへびだったか。じゃ俺は別のところで飲んでるから。じゃっ!」
「魔理沙!!」
「言われるまでもないぜっ!」

 霊夢の呼び声で○○を羽交い絞めにする魔理沙。
 
「んふふ……さぁ覚悟しなさい。だぁいじょうぶ、ここには医者も居るから大事にはならないわ」
「ちょっ、待て、誰か助けて……ってみんな無視!?」

 一同考えは同じなのかニヤニヤとしている者、すまなそうな顔でこちらを見ている者、誰一人止めようとはしなかった。
 精一杯の抵抗として口を固く閉じ首を振る○○。
 
「んもぅ、いい加減観念しなさいよ。こうなったら……」
「んぶっ!?」
 
 霊夢は○○の顔を掴んで口移しで口内に酒を流しこむ。
 こくりこくりと喉が動き、酒を飲み込まされているのが分かる。
 ぷはっと息をつき霊夢は○○を見つめる。
 
「ふぅ、どう? ○○?」

 問いかけに答えず、だんだんと顔が赤くなり力尽きたように○○はぐったりと魔理沙に体重を預けてしまう。
 
「お、おいっ! 大丈夫かっ!?」
「た、大変っ! まさかこんなことになるなんてっ!?」

 自分たちを基準にしていたためか○○が酒に弱いという可能性を忘れていたのだ。
 慌ただしくなる中、むくりと○○は起き上がった。
 どうやら大丈夫だと分かり一安心する少女達だが、○○の目が完全に座っていることに気が付くべきだった。
 
「……れいむぅ」
「え? なに○○、うむぅっ!?」

 ○○は霊夢を抱きしめると唇を重ね合わせた。
 急なことに霊夢は目を白黒させるが、状況はさらに悪化し始めた。
 
(えっ!? そ、そんなっ! し、舌が入ってくるぅ!)

 ぴちゃぴちゃくちゅくちゅと水っぽい音が聞こえ時折霊夢の身体がひくんと震える。
 
(う、うそ……○○ってこんなにキスがうまいの……?)

「ちゅ……ちゅぷ、んん……はぁ、んっ」

 最初は流されるままだった霊夢も○○の背中に腕を回してしがみつく。
 ○○も頬に掌を当てて彼女をもう片方の腕で抱きしめる。
 そんな二人の様子をギャラリーは赤面しつつも目が離せなかった。
 
――ちゅっ……ちゅぱっ……ちゅっ、ちゅっ、ちゅぷ……ちゅぷ……

(ふあぁ……らめぇ、らめなのぉ……このままじゃ、○○に全部吸われちゃうよぉ……)

 そう考えていてもむしろこの心地よさに流されていたいという欲求が勝り、腕の力を強めて○○に更にしがみつく。
 その姿はもっとしてと哀願しているようだ。
 
「あむ……はぁ、む……んっ、ちゅ、ちゅく……んふぅ……ちゅぷっ、あむ……ちゅっ、――んんぅっ……!」

 びくびくっと霊夢の身体が震えると腕の力が抜け崩れ落ちるように倒れこむ。
 その顔は赤く呼吸が荒い。目の焦点が結ばれていなく唇が艶めいているのが妖しい魅力を醸し出している。
 周囲の野次馬はそろってこう思った。
 
(さ、最強の酔っ払いが降臨した!!)

 そうこうしているうちに○○は魔理沙を陥落し次に近くにいた咲夜をも撃墜した。
 のちに彼女はこう語る。
 
『私は最初何をされたのか分からなかった。……頭がどうにかなりそうだったわ。
 ……超スピードとかそんな単純なものじゃなかったわ。まるで私がいつもしている時を止めたかのように……
 いえ、それ以上の恐ろしいものの片鱗を味わったわ……』
 それ以上彼女は語ることができなかった。身体が震えて顔が桜色に染まっているのはあの時のことを思い出しているからだろうか。(取材者 射命丸文)
 
 一歩ずつゆっくりと近づいてくる○○に対し戦慄を覚える幻想郷の少女達。
 幽々子が思い出したように叫ぶ。
 
「紫! スキマよ! 彼をスキマに閉じ込めるのよ!!」
「そ、そうね! ごめんなさい○○!」

 足元に開いたスキマに吸い込まれる○○。
 これで一安心と思った瞬間紫は後ろから抱きしめられた。
 
「ふふふ……ひどいなぁ、ゆかりんは。そんなに俺を独り占めしたかったのかい?」
「そ、そんな……ありえない……」

 彼は紫の後ろのスキマから上半身を出し彼女の背後から抱きしめる形になっている。
 その姿はまるで第12使途から這い出てきた初○機のよう。この酔っ払い恐るべし。
 背筋に指を這わして首筋に息を吹きかける○○にぞくぞくっと身体を震わせ、甘い声をあげる紫。
 
「かわいいなぁ……ゆかりんは。そんなに気持ちいいのかい?」
「あぁ……いいの……私、そこ、弱いのぉ」

 身もだえる彼女には普段の威厳はまったくなかった。
 耳を甘噛みされ、首を反らされてキスをされる。
 お互いの顔が逆になるような格好だが全然苦にしていない。
 某決戦兵器のようにきっかり5分キスをされて、あっさりスキマ妖怪は撃墜された。意外にウブらしい。
 
 新たな獲物を求めて再起動する○○を見て幽々子は悲しげな声を出す。

「ああ、もうお終いよ……○○によって幻想郷は桃色ピンク空間に変えられてしまうのね……」
「幽々子様……」
「……でもそれも悪くないかもね」
「みょん!?」
 
 
 
 あっは~ん♪
 
 
 
 次に○○が記憶を取り戻したのは布団の中だった。
 頭が痛み、やはり記憶がない。
 霊夢にむりやり酒を飲まされたところまでは覚えているのだが……
 と、自分の上に誰かが眠っているのに気がついた。
 布団を捲り自分の胸元を見ると漆黒の髪が呼吸に合わせて揺れている。
 体中にキスマークがつけられ、下着姿に袖だけという何とも扇情的だ。
 ○○が目を白黒させていると寒さで身震いした霊夢が目を覚ました。
 
「……おはよ」
「おはよう。で、何でそんな恰好で俺の布団の中にいるの?」
「……昨日のこと覚えてないの? あんなに情熱的にしてくれたのに……?」
「えぇええっ!?」
「……まぁ覚えていないならいいわ。ただ、責任はとってね♪」
(お、俺は何をしてしまったんだ!?)

 その後あの宴会に参加していたメンバーに話を聞こうとしても顔を赤くして逃げて行ってしまう。
 そして酒の席で新たなルールが加わった。
 
『○○を決して潰させないこと』と……



新ろだ192

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