意識のハードプロブレム

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#contents ---- **概説 意識のハードプロブレム(英:Hard problem of consciousness. 意識のむずかしい問題) とは、物質としての脳からなぜ、どのようにして心的現象が生まれるのかという問題である。1994年、オーストラリアの哲学者[[デイヴィド・チャーマーズ]]によって、これからの科学・哲学の課題として提起された。対置されるのは意識のイージープロブレム(Easy Problem of Consciousness)である。 意識のハードプロブレムは当時、意識に関する大きな問題はもう残されていないと考えていた神経科学者や認知科学者に対する批判として提示された。当時の研究者が解決したと考えていたのは意識のイージー・プロブレム――脳の神経細胞がどのように情報を処理するかという問題であり、その1.5kgの灰色の脳の活動からなぜ多様な感覚の質、[[クオリア]]や意識が生じるのかという問題は議論されてさえいないと、チャーマーズは主張し、ハードプロブレムを以下のように定式化した。 1、物理現象である脳の情報処理過程に付随する[[現象的意識]]やクオリアというのは、そもそも一体何なのか? 2、そしてこれら現象的意識やクオリアは、現在の物理学のどこに位置づけられるのか? チャーマーズは[[哲学的ゾンビ]]の思考実験で、現象的意識やクオリアは現在の物理学の中には含まれていないとし、ハードプロブレムは解決不可能とする。その上で物理学の拡張を訴えている。ハードプロブレムはこれからの科学が真剣に向き合っていかなければならない問題として、心の哲学を中心に活発な議論されている。 ハードプロブレムは、そもそも回答を得ることが困難であるという[[新神秘主義]]の立場もある。 **歴史的背景 #right(){(以下はWikipediaから要約引用)} 20世紀末ごろから、fMRIの進歩などにより、神経科学や認知科学はこれまでにないほどの急速な発展を遂げた。当然 意識に関する研究も膨大な数に上ったが、実験における技術上の制約から、物理的に観測可能な現象に関する研究以外はほとんど行われていなかった。これはハードプロブレムという概念が広く知られた現在においても基本的に変化がない。しかしながら当時の問題点として、観測にかからない対象については議論をすることさえも憚られるといった風潮があり、また観測にかからないものは存在しないものとするといった空気まであった。 しかし哲学の世界には、現象的意識を扱った一連の系譜が存在しており、カントやフッサールの現象学などに代表されるように、心的表象や現象などの概念を議論してきた長い歴史がある。これらの知識をひとつのバックボーンとして、当時の意識研究の状況を批判したのがチャーマーズであった。1994年当時、まだ駆け出しの研究者に過ぎなかった28歳のチャーマーズであったが、ハード・プロブレムの概念は大きい注目を浴び、ノーベル賞受賞者を含む各界第一線の研究者たちがこの問題について論文を寄稿した(フランシス・クリック、ロジャー・ペンローズ、[[ダニエル・デネット]]、コリン・マッギン、フランシスコ・バレーラなど) ハードプロブレムの概念が広く知られるにつれ、現象的意識やクオリアは哲学の問題であると同時に、科学の問題でもあるのだという認識が科学者コミュニティーの間でも徐々に広がりつつあり、実験系の研究者の間でも現象的意識やクオリアといった観測にかからない対象についての議論がなされるようになった。これにより以前のような閉塞的状況は随分と緩和され、現在 実験と理論の両面から、意識研究はさらなる盛り上がりを見せている。 **意識の二面性(多義性) そもそもハードプロブレムという概念があえて提唱されるに至ったのには、意識という言葉が様々な意味を持った多義語として使われているという混乱した状況が背景にある。つまりそれぞれの研究者が、同じ「意識」という言葉を使っていながら、全く違った意味を持たせていることがあり、それが様々な議論上の混乱を生んでいる。従ってチャーマーズは意識の概念を以下のように分けた。 1、機能的意識 機能的意識とは、「人間が外部の状況に対して反応する能力」のことである。脳を物体として捉える観点から言えば、入力信号に対して出力信号を返す脳の特性としての意識であり、外面的に観測することができる客観的な特性である。心理学的意識とも言われる。 2、現象的意識 現象的意識とは、「主観的で個人的な体験」のことであり、他者からは観測できない個人の主観的な特性としての意識である。これは意識体験、現象、クオリアなどとも呼ばれるが、機能的意識と対比させるときは現象的意識という名前で呼ばれる。 以上の機能的意識、現象的意識という言葉を用いると、[[哲学的ゾンビ]]をより厳密に再定義できる。 **意識のイージー・プロブレム 意識のイージー・プロブレム(easy problem)とは、ハード・プロブレムに対比させられる問題で「物質としての脳はどうやって情報を処理しているのか?」 という形で問われる一連の問題を指す。 つまり問題を解くための方法論に関して、既存の科学の延長線上で行うことが可能で、根本的なレベルでの方法論的な困難が存在しないという点でイージー(簡単)だと言う事ができる範囲の問題の事である。しかし研究対象がイージー・プロブレムに分類される問題であっても、実際の研究行為が大変なものである事は言うまでもない。 ----
#contents ---- **概説 意識のハードプロブレム(英:Hard problem of consciousness. 意識のむずかしい問題) とは、物質としての脳からなぜ、どのようにして心的現象が生まれるのかという問題である。1994年、オーストラリアの哲学者[[デイヴィッド・チャーマーズ]]によって、これからの科学・哲学の課題として提起された。対置されるのは意識のイージープロブレム(Easy Problem of Consciousness)である。 意識のハードプロブレムは当時、意識に関する大きな問題はもう残されていないと考えていた神経科学者や認知科学者に対する批判として提示された。当時の研究者が解決したと考えていたのは意識のイージー・プロブレム――脳の神経細胞がどのように情報を処理するかという問題であり、その1.5kgの灰色の脳の活動からなぜ多様な感覚の質、[[クオリア]]や意識が生じるのかという問題は議論されてさえいないと、チャーマーズは主張し、ハードプロブレムを以下のように定式化した。 1、物理現象である脳の情報処理過程に付随する[[現象的意識]]や[[クオリア]]というのは、そもそも一体何なのか? そしてどうやって生じているのか? 2、そしてこれら現象的意識やクオリアは、現在の物理学のどこに位置づけられるのか? チャーマーズは[[哲学的ゾンビ]]の思考実験で、現象的意識やクオリアは現在の物理学の中には含まれておらずハードプロブレムは解決不可能とする。その上で物理学の拡張を訴えている。またクオリアの生成については[[汎経験説>http://www21.atwiki.jp/p_mind/pages/108.html]]を主張している。 ハードプロブレムはこれからの科学が真剣に向き合っていかなければならない問題として、心の哲学を中心に活発な議論されている。しかしハードプロブレムは、そもそも回答を得ることが困難であるという[[新神秘主義]]の立場もある。 **歴史的背景 #right(){(以下は[[Wikipedia>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%8F%E8%AD%98%E3%81%AE%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%A0]]から引用)} 20世紀末ごろから、fMRIの進歩などにより、神経科学や認知科学はこれまでにないほどの急速な発展を遂げた。当然 意識に関する研究も膨大な数に上ったが、実験における技術上の制約から、物理的に観測可能な現象に関する研究以外はほとんど行われていなかった。これはハードプロブレムという概念が広く知られた現在においても基本的に変化がない。しかしながら当時の問題点として、観測にかからない対象については議論をすることさえも憚られるといった風潮があり、また観測にかからないものは存在しないものとするといった空気まであった。 しかし哲学の世界には、現象的意識を扱った一連の系譜が存在しており、カントやフッサールの現象学などに代表されるように、心的表象や現象などの概念を議論してきた長い歴史がある。これらの知識をひとつのバックボーンとして、当時の意識研究の状況を批判したのがチャーマーズであった。1994年当時、まだ駆け出しの研究者に過ぎなかった28歳のチャーマーズであったが、ハード・プロブレムの概念は大きい注目を浴び、ノーベル賞受賞者を含む各界第一線の研究者たちがこの問題について論文を寄稿した(フランシス・クリック、ロジャー・ペンローズ、[[ダニエル・デネット]]、コリン・マッギン、フランシスコ・バレーラなど) ハードプロブレムの概念が広く知られるにつれ、現象的意識やクオリアは哲学の問題であると同時に、科学の問題でもあるのだという認識が科学者コミュニティーの間でも徐々に広がりつつあり、実験系の研究者の間でも現象的意識やクオリアといった観測にかからない対象についての議論がなされるようになった。これにより以前のような閉塞的状況は随分と緩和され、現在 実験と理論の両面から、意識研究はさらなる盛り上がりを見せている。 **意識の二面性(多義性) そもそもハードプロブレムという概念があえて提唱されるに至ったのには、意識という言葉が様々な意味を持った多義語として使われているという混乱した状況が背景にある。つまりそれぞれの研究者が、同じ「意識」という言葉を使っていながら、全く違った意味を持たせていることがあり、それが様々な議論上の混乱を生んでいる。従ってチャーマーズは意識の概念を以下のように分けた。 1、機能的意識 機能的意識とは、「人間が外部の状況に対して反応する能力」のことである。脳を物体として捉える観点から言えば、入力信号に対して出力信号を返す脳の特性としての意識であり、外面的に観測することができる客観的な特性である。心理学的意識とも言われる。 2、現象的意識 現象的意識とは、「主観的で個人的な体験」のことであり、他者からは観測できない個人の主観的な特性としての意識である。これは意識体験、現象、クオリアなどとも呼ばれるが、機能的意識と対比させるときは現象的意識という名前で呼ばれる。 以上の機能的意識、現象的意識という言葉を用いると、[[哲学的ゾンビ]]をより厳密に再定義できる。 **意識のイージー・プロブレム 意識のイージー・プロブレム(easy problem)とは、ハード・プロブレムに対比させられる問題で「物質としての脳はどうやって情報を処理しているのか?」 という形で問われる一連の問題を指す。 つまり問題を解くための方法論に関して、既存の科学の延長線上で行うことが可能で、根本的なレベルでの方法論的な困難が存在しないという点でイージー(簡単)だと言う事ができる範囲の問題の事である。しかし研究対象がイージー・プロブレムに分類される問題であっても、実際の研究行為が大変なものである事は言うまでもない。 ---- ・参考文献 デイヴィッド・J. チャーマーズ『意識する心―脳と精神の根本理論を求めて』林一 訳 2001 白揚社 ----

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