意識のハードプロブレム

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意識のハードプロブレム - (2013/01/21 (月) 20:52:45) の編集履歴(バックアップ)



意識のハードプロブレム(英:Hard problem of consciousness.) とは、物質としての脳から、どのようにして心的現象が生まれるのかという問題である。1994年、オーストラリアの哲学者デイヴィッド・チャーマーズによって、これからの科学・哲学の課題として提起された。対置されるのは意識のイージープロブレム(Easy Problem of Consciousness)である。

意識のハードプロブレムは20世紀後半の神経科学の発展によって、意識に関する大きな問題はもう残されていないと考えていた神経科学者や認知科学者に対する批判として提示された。当時の研究者が解決したと考えていたのは意識のイージープロブレム――脳の神経細胞がどのように情報を処理するかという問題であり、その1.5kgの灰色の脳の活動からなぜ現象的意識クオリアが生じるのかという問題は、議論さえされていないとチャーマーズは主張し、ハードプロブレムを以下のように定式化した。

1、物理現象である脳の情報処理過程に付随する現象的意識クオリアというのは、そもそも一体何なのか? そしてどうやって生じているのか?

2、そしてこれら現象的意識やクオリアは、現在の物理学のどこに位置づけられるのか?

チャーマーズは哲学的ゾンビの思考実験において、現象的意識やクオリアは現在の物理学の中には含まれておらず、ハードプロブレムは解決不可能だと主張し、その上で物理学の拡張を訴えている。

ハードプロブレムに対してはさまざまな哲学者から応答、また議論があり、チャーマーズ各種の哲学的な立場を、A, B, C, D, E, Fの6つに分類している。

物理的な身体と心的なものの区別、またその関係についての哲学的考察は紀元前にまで遡る。詳しくはWikipediaを参照されたし。

そもそもハードプロブレムという概念があえて提唱されるに至ったのには、「意識」という言葉が様々な意味を持った多義語として使われているという混乱した状況が背景にある。つまりそれぞれの研究者が、同じ「意識」という言葉を使っていながら、全く違った意味を持たせていることがあり、それが様々な議論上の混乱を生んでいる。従ってチャーマーズは意識の概念を、外部の人から客観的に観察できる「機能的意識」と、本人にしか知られない主観的な「現象的意識」に分けた。これが意識の二面性(多義性)と呼ばれるものである。


  • 参考文献
デイヴィッド・J. チャーマーズ『意識する心―脳と精神の根本理論を求めて』林一 訳 白揚社 2001年