中国語の部屋

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中国語の部屋 - (2012/09/29 (土) 23:29:02) のソース

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**概説
中国語の部屋(英:Chinese Room)とは、哲学者である[[ジョン・サール]]が考案した[[強いAI>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B7%E3%81%84AI%E3%81%A8%E5%BC%B1%E3%81%84AI]]の実現可能性を否定する思考実験である。中国語が理解できない英国人に、分厚い英語のマニュアルと沢山の中国語のカードが入った箱を持って部屋に入ってもらう。部屋には小さな穴が開いていて、そこから英国人は中国語で書かれた質問を受け取る。そして英語のマニュアルに従って、決められた中国語のカードを返す。その英国人は中国語が理解できず、質問の意味もわからないにも関わらず、外部からは中国語を理解しているかのように見える。

ジョン・サールは、中国語でなく英語で質問に答えることになったところを併せて想像してもらえば、コンピューターの「計算」と、実際に何かを「理解」することの違いがわかる、と述べる。

**思考実験の意味
この思考実験全体はコンピューターのアナロジーになっている。すなわち小部屋全体がコンピューターを表し、マニュアルに従って作業する英国人は、プログラムに従って動くCPUに相当する。

心の哲学からこの実験を見ると、これは[[心身問題]]に対する[[物理主義]]的な立場の一つである[[機能主義]]に対する反論を提示している。すなわち「意識体験は機能に付随しないから機能主義は間違っている」となる。

またサールは言語哲学の観点から以下のように論証する。
>1、コンピューター・プログラムは統語論的である。
>2、統語論がそのまま意味論なのではない。
>3、心には意味論がある。
>4、ゆえに、プログラムの実行がそのまま心なのではない。
人間の心は記号以上のなにかを備えており、心が記号に意味を与えている、となる。 

人工知能の哲学の観点からは、[[チューリングテスト]]に合格するような高度な人工知能でも意識を持つことはありえない。これは強いAIの実現可能性の否定である。

**中国語の部屋に対する反論
サールは中の人が中国語を理解していないことから対象は中国語を理解しているとはいえないと論じているが、チューリング・テストの観点からすると、そう断定するためには中の人間だけでなく、箱全体が中国語を理解していないことを証明しなければならないことになる。すなわち、中の人とマニュアルを複合させた存在が中国語を理解していないことを証明しなければならない。

一方、知能の基準となっている人間の場合でさえ、脳内の化学物質や電気信号の完全な解析が行われず、知能の仕組みが明らかになっていないのだから、中国語の部屋も、中身がどうであれ正しく中国語のやり取りができている時点で中国語を理解していると判断して良いのではという、強いAI支持者からの反論も存在する。つまり中の人は中国語を理解していないが、部屋全体は中国語を理解している、ということである。

以上のような反論に対してサールは、中国語の部屋を体内化して、すなわち部屋の中にある中国語のマニュアルを中の人がマスターし、中国語のネイティヴのように会話ができたとしても、なおその人は意味論的な見地からは中国語を理解していないとの主張をおこなっている。

※私見であるが、強いAI支持者の「部屋全体は中国語を理解している」という反論は的外れであろう。確かに部屋全体はシステムとして中国語を理解しているように動作するが、そのシステムを作ったのは英語と中国語を理解できる人間であり、すなわち正確に表現するなら「部屋を作った人間は中国語を理解している」となる。またシステムとして中国語を理解するよう動作しているよう見えても、その動作にはサールがいうように「意味」の理解をともなっていないし、クオリアがともなっているともいえないのである。

なおこのサールの中国語の部屋は、プログラムでは知能を実現できないということを証明するための喩えとして引用される場合があるが、中国語の部屋は、マニュアルに沿うという固定的な処理で理解を実現しているという点で、むしろ逆であり、その引用方法は適切でない。

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・参考文献
ジョン・R・サール『MiND 心の哲学』山本貴光・吉川浩満 訳 2006 朝日出版社
デイヴィッド・J. チャーマーズ『意識する心―脳と精神の根本理論を求めて』林一 訳 2001 白揚社
・参考サイト
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E8%AA%9E%E3%81%AE%E9%83%A8%E5%B1%8B

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