性質二元論


概説

性質二元論(英:Property Dualism)とは、心身問題に関する形而上学的な理論のひとつで、この世界に存在する実体(physical substance)は一種類だが、それは心的な性質(mental property)と物理的な性質(physical property)という二つの性質を持っているという考え。中立一元論と類似の概念である。なお Property Dualism は特性二元論、、特徴二元論、属性二元論などとも訳される。

同じ二元論に分類される実体二元論は、物理的実体とは別に、心的実体を置く。それに対し性質二元論は、クオリアなどの心的現象と脳の物理的現象はある一つの実体の二側面であると考える。したがって性質二元論は、存在論的には一元論を前提にしている。歴史的に初めてこの考えを主張したのはスピノザである。

  • 性質二元論の構図

物理的性質と心的性質という二つの異なる性質に関して、一方を他方に還元することができないと考える。この点で物理主義全般、また二元論の一種である実体二元論と立場を分かつ。

現代の心の哲学の分野で議論される二元論は、実体二元論でなく基本的にこの性質二元論と呼ばれるタイプの二元論である。代表的な例にデイヴィッド・チャーマーズの唱える自然主義的二元論ジョン・サールが唱える生物学的自然主義がある。また随伴現象説非法則一元論も性質二元論に分類されることがある。

類似の概念

類似の言葉として二相理論(double aspect theory)また中立一元論(neutral monism)という言葉がある。ニ相理論という言葉は一般に「ひとつの基本的なものが心的そして物理的という二つの異なる側面を持つ」といった考え方のことを指すのに使われ、中立一元論という言葉は「心的でも物理的でもない、その両方の特性を併せ持った中立的な実体で世界は構成されている」といった考えのことを指すのに使われる。これらの言葉と性質二元論という言葉との間の意味の違いというのは、それほど明確なものではなく、しばしば互換的に用いられる。

物理主義的な一元論に分類されている心脳同一説は、心的現象の存在を認めた上で、それは生理学的な脳の現象と同一であるとみなす。すなわち、ある種の「痛みの感覚」はある種の「脳の現象」と同一であるとする立場である。これは性質二元論の考えに近いよう思えるが、大きな違いがある。性質二元論では、心的なものと物理的なものはコインの表裏のように同一の実体の二つの側面と考える。対して心脳同一説では、「雲とは水粒である」というような例えを用いて、心的現象は脳現象と完全に同一であるとする。

廣松渉は性質二元論やそれと類似の理論を、「同一本体相貌説」というカテゴリーに分類している。


  • 参考文献
S・プリースト『心と身体の哲学』河野哲也・安藤道夫・木原弘行・真船えり・室田憲司 訳 1999年
  • 参考サイト


最終更新:2013年03月21日 20:45