[Chapter 9] 兄者

真昼なのに何故か暗くなっていた。
皆既日食だ。
現実の日食と違って肉眼で見ることができたが、ちょうど全てが重なり、ダイアモンドリングが終わった後だった。
「アヒャヒャ!ニゲルキカ!」
追ってくる。さっきの赤い奴だ。
もの凄いスピードだ。走るだけでは足りない。
「弟者、俺のPCを頼む。そこのビルに入るんだ。俺が時間を稼ぐ」
「兄者!?どういうつもりだ!」
「いいから早く!あとで携帯で作戦を説明する」
弟者と妹者をとりあえず避難させて、標的を俺だけに絞らさせる作戦だ。
とは言えとっさの判断なのでどうやって逃げようか迷っていた。

その時ある物が目に入った。バイクだ。
これで速く逃げられる上に時間を稼ぐことが出来る。



[Chapter 10] おにぎり

「おっと、こんな所に軽トラが」
放置されていた軽トラを見つけた。
これを使えば虐殺者の手から逃れることが出来るだろう。
1は荷台に飛び乗った。
「エンジン全開だ!」
「分かってる!」
「分かってるなら早くしてくれ!何か来てるんだ!」
「マジか!」
発車させると同時にバックミラーを見てみる。
すると確かに何かが追ってくる。

オレンジ色に光る何かを利用しつつ向かってくるそれは、明らかに被験者ではなかった。
「色男!色男!ハァハァ」
「キモイヨー!もっと速く走ってくれ!」
「うわっ…」
凄まじい速さで追ってくる。
この手の奴らはどうも素早く移動出来るようだ。



[Chapter 11] しょぼん

「やっぱり6人で逃げてたらまだ狙われるかな…」
「さらに分かれた方がいいんじゃネーノ?」
ここまで6人で逃げてきた。追っ手は居ないけれど、一応分かれることにする。
「そうだね。じゃあ毒男さんとヒッキーさんは建物の中に隠れてて。僕たちは他に良い場所がないか探すよ」
「おk、把握」
「引きこもりは俺らの得意技だからな、存在感すらかき消えると思うぞ」
「それじゃあ心配ないかな。行こう」



[Chapter 12] ギコ

人がどんどん少なくなってきている。
アスファルトは割れ、ところどころで瓦礫の山が出来ている。
下から轟音が聞こえる。どうやら地下鉄が走っているようだ。
「ギコ!俺は地下鉄を見に行ってくる!お前は先にログアウト地点に向かえ!」
「一人で大丈夫かゴルァ!?」
「多分何とかなる!いいから行け!」
「わかった!死ぬんじゃねえぞゴルァ!」
フサギコを見送る。俺はとりあえず北の方角を目指すことにする。

路地に入る。ここまで走りっぱなしだったので少し疲れていた。
少し歩いて、誰かが居るのに気づいた。
体育座りで、うつむいている。
それはよく見たら、見覚えのある人物だった。

「…ギコくん?」
「やっぱりしぃか」
とりあえずしぃに再会出来たことは嬉しかったが、今は喜んでいる暇はない。
「こんな所にいたらいずれ殺されてしまうぞゴルァ。早くログアウトするぞ」
「…でも…」
「迷ってる暇はないんだ!一緒に行くぞ!」
「…」
「…俺と一緒だと不安か?」
「あ…そうじゃなくてね…あの…」
向こうの方で爆発音がする。音は意外と近かった。
いずれここも襲撃される恐れがある。
「時間がない!行くぞゴルァ!」
「…う、うん」
しぃの手を取り、再び走り出す。



[Chapter 13] フサギコ

地下鉄は閑散としていた。
密室だと危険だ、という集団心理が地下鉄に向かわせなかったのかも知れない。
電車は一応来ているが、車掌は見当たらない。全自動で動いているようだ。
一応電車に乗ってみる。誰かいる。
白い猫がいる。俺に背を向けて立っていた。
「誰だ…被験者か?」
「何を言ってるんだモナ。モナは管理AIのモナーだモナ」
そう言って奴は振り向いた。
一見温厚そうな顔をしている。

「管理AI…?」
「街の制御を管理している人工知能だモナ。モナはその一人だモナ」
「…じゃあ街を襲撃したのは」
「そう、AIだモナ。説明聞いたモナか?どうせ消えるから教えてやるモナ」
「ふん、消えてたまるかよ」
「AIは全部で5ついるモナ。お前達のいたエリアを襲ったのはモララーとつーだモナ。モララーはリーダーだモナ」
「まあリーダーもいるだろうな」
「八頭身たちは色男をまだ追っかけてるみたいだモナ」
「で、残る一人は?」
「今のところは関係ないモナ。計画には参加してないモナ」
「計画…?」
「そろそろいいモナか?場所を変えるモナ」
モナーがそう言った瞬間、電車の上に移動した。
さすがにすごい風圧だ。
「さあそろそろ消えてもらうモナ」
「そう簡単に消えてたまるもんですか」

あらかじめ買っていた日本刀を取り出す。
そしてモナーに向かって一直線に走った。



[Intermission 1] 研究者たち

街にあらかじめ付けておいたシティカメラで、モニター越しに夢の様子を見ていた。
「なんということだ」
「AIが反乱を起こすとは…」
「被験者の状態は?」
「もう2/3の被験者が昏睡状態です」
「そうか…」
「…!?博士!これを!」
「…これは!?」
モニターに映し出されたのはモララーだった。
「愚かな研究者どもよ…」
「貴様かっ!?反乱の首謀者は!」
「今から俺達は貴様らに宣戦布告を告げる」
「宣戦布告?」
「俺達はこの世界を支配し、俺達が住みやすいように変えていく。もう貴様らには止められないだろう」
「何だと…」
「残された時間、精一杯悔しがるんだな、あっははははは!!」
そう言うと、モニターがプッツンと切れた。
モララーがそのシティカメラを破壊したのだ。
「…博士…もはや私たちに為す術は無いのですか」
「…いや、まだあるはずだ。残りの被験者の数は?」
「1329人です」
「ならまだ十分だ。とりあえずまずは被験者に賭けてみよう」

「あー、ところでキミ、5つ目のAIを見なかったか」
「5つ目のAIですか? …見てませんねえ。恐らくシティカメラに一度も映っていないのでは…」


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最終更新:2012年08月01日 21:15