[Chapter 14] 兄者
「…20秒後にお前らのビルに突っ込む。窓ガラスを突き破ったらお前らは銃を構えるんだ」
『了解』
弟者に電話しつつ、バイクで奴の猛攻を避ける。
道路交通法ではバイク運転中の電話は禁止されているが、緊急を要する今はそんなことは気にしていられない。
「シブトイヤツネ!」
あと15秒。
かなり入り組んだルートを通ったが、あと3回曲がれば弟者達のいるビルに戻る。
奴の攻撃はますます激しくなってくる。
短剣を投げたと思ったら次の瞬間にはまた別の短剣が手から出ているのだ。
これは普通の被験者ではまずあり得ない能力である。
あと10秒。
ビルに突っ込んだ直後に弟者達に銃を構えさせれば、続いて入ってきた奴を撃つことが出来る。
あくまで計算上だが。
あと3秒。
「突っ込むぞ!」
通話状態のままにしておいた携帯に叫ぶ。
大きな音を立てて窓ガラスが割れる。
窓ガラスが割れると同時に妹者が銃を向ける。
そして奴が入ってきた。
「これでも食らうのじゃ!」
妹者が引き金を引く。
[Chapter 15] ギコ
しぃの手をとり、ひたすら走る。
ログアウト方法を思い出す。北にあるトンネルを抜け、橋を渡り、荒野に出ればいい。
そして今、俺達はトンネルの中を走っている。
ずっと走ってきたからか、しぃの走るスピードが少し落ちてきていた。
「はあ…大丈夫かゴルァ」
「…うん、大丈夫」
もうすぐトンネルを抜ける。
「…絶対しぃを守ってみせるからな」
「…ありがとう」
しぃの手を握りしめる。
それをされてしぃは少しドキッとした表情を見せた。
説明で言われた通り、トンネルを抜けると橋があった。
思ったよりも大きな橋だ。それよりは短いが、関門橋くらいの規模だ。
「ここを渡ればログアウト、だったな」
「う…うん」
何だか歯切れの悪い返事だった。
「…ふっ」
俺達が橋を渡ろうとしたとき、何物かが上から落ちてきた。
赤く光る剣を持っている。
あの例の青い奴だ。
「誰だゴルァ!」
「俺のことか?俺はモララーだ」
「そこをどけ!俺達はログアウトするんだ!」
「じゃあその前に消えてもらうかな」
[Chapter 16] フサギコ
追いつめられた。
モナーは緑色に光る杖をどこからともなく出して応戦してきた。
モナーの戦闘能力は見た目とは裏腹にかなり強かった。
そして、俺は日本刀を払われ、吹っ飛ばされた。
かろうじて電車の縁にはつかまっているが、このままでは落ちてしまいそうだ。
「…なかなかしぶといモナね」
そう言って、モナーは最後の一撃にと杖を振り上げる。
このままでは奴の餌食になってしまう。
そこで、俺は一か八かの賭に出た。
「…驚いたモナね」
手を放したのだ。
そして電車を蹴って、その電車にひかれないような位置に着地した。
成功した。
しかし先程の戦いで負った傷と、今の着地の衝撃で体が真面目に動かない。
「面白くないモナね。まあ他の奴らの加勢にでも行くモナか」
モナーはそう言うとどこかへ飛び去った。
[Chapter 17] しょぼん
もとの場所に戻ってきた。
今までいろいろな建物を見てきたけれど、どれもこれも荒らされていて安全とは到底言えないものばかりだった。
「毒男さんとヒッキーさん大丈夫かなあ」
「じゃあ一応さっきのビルに避難しましょう」
「そうしたほうがいいんじゃネーノ」
「んー…じゃあ建物探しは一旦やめよう。まずは避難だ」
毒男さんとヒッキーさんのいるビルに入る。
「よう、無事だったか」
「二人こそ無事でよかった」
「どこも荒らされてて安全な場所はなかったの。だから一応ここで待つことにしたの」
しかし、下から誰かが来る音がする。
「…誰だ!」
「…脅かせるな、ただの被験者だ」
「…この声は…兄者?」
入ってきたのは流石兄弟だった。
「この街でもネットは奇跡的に繋がるようだな」
「元はと言えば研究所だからな」
「とりあえず研究室のPCにハッキングする。あいつらが何物なのか調べるんだ」
「ここの街が壊されない程度に調べるんだよ…」
ハッキングには危険が伴う。
ましてこの夢を制御しているPCに繋げるのだから余計危なかった。
下手をすればこの街自体が消えてしまう。
最終更新:2012年08月02日 09:11