屋敷(とは言うが実質集合住宅である)の一室。
魔導書やら実験器具やらが机上を占めているこの部屋には、魔導師とその使い魔が住んでいる。
実験器具、という事は即ち、この部屋に住んでいる魔導師は実験好きという事になる。

「……今日は上手く行かないねぇ……」
フラスコの中を浮遊している二つの魔法球を見つめる魔導師。
目の下にはうっすらと隈が浮かんでいる。睡眠を忘れるほど没頭しているようだ。
「この前は上手く行ったのに……」
『さっさと寝ろよ、もう夜中だぞー』
「うっさい」

眠い目を擦りながらも、使い魔に対しては辛辣である。
しかし、段々強くなっていく睡魔には勝てず、暫くして魔導師は壁に寄りかかった。

「ふぁ……クロ、それ屋根裏に持ってって」
『中にまだ何か入ってるぞー』
「時間経過で変化するかもしれないし、変化したら直ぐに知らせる事」
『へいへい』

黒い一旦木綿……クロは、魔法球が入ったフラスコをヒョイと浮かせ、屋根裏へと飛んでいった。
あまりの粗略に主の魔法が飛んできそうだが、幸いにも彼女は睡魔で今それどころではない。

「……眠い……」

よろよろと壁伝いに歩き、椅子に手をかけようとした時だった。

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最終更新:2012年09月14日 21:49