1
(……霊体化か。何度やっても不思議な感覚だな……)
ランサーとの戦闘を切り上げ、マスターであるリョウマの家に向かいながらモモンはぼやく。
モモンの正体であるアインズ・ウール・ゴウンはアンデッドではあるが、スケルトンの一種だ。
レイス系とは違い、骸骨という実体を伴っていた。
そんな彼からすれば、自らの身体を死霊のごとく霊体化するというのは中々に新鮮な感覚だった。
面白いとも思うし、戸惑いもする。
(レイス系って常時こんな感覚なのかな。
俺、スケルトン系になったせいで食べ物が食べられないとか結構寂しかったけど。
流石に実体がない種族になってたらもっと困ってたろうなー)
偏に異業種と言っても色んな種族があることを再認識する。
アンデッドという種族一つをとってもそうだ。
スケルトン、ゾンビ、レイス、吸血鬼などなど。
VRMMORPGユグドラシルでも数多の種族がアンデッドにカテゴライズされていた。
この聖杯戦争ではどうだろうか。
モモンこと元人間、鈴木悟が住んでいた世界。
アインズとして転移した後の世界。
リョウマの住んでいる世界。
デジタルワールド。
既に4つもの世界が確認できている以上、この聖杯戦争に参加させられている主従もさらなる異世界人の可能性は大いに有り得る。
となるとモモンが知らないような種族も、聖杯にはアンデッドとして認識・設定されている、のかもしれない。
(うーん、この“認識”というのが厄介だよなあ。
元の世界でそういった概念がなくてアンデッドとされていなかったとしても、この聖杯戦争じゃアンデッド扱いになってるかもだし。
俺の宝具や俺自身みたいに、信仰や解釈でアンデッドになってたり、アンデッドじゃなくなってる可能性までからなー。
くそう、その辺用語集や設定集でも用意しとけよ、運営! いやまあユグドラシルも完全手探りなゲームだったけど!)
対アンデッドの能力を持つモモンからすれば、どこからどこまでの範囲がアンデッドに設定されているのかは極めて重要な問題だ。
吸血鬼やゾンビといった分かりやすい相手ならともかく、未知の種族に出てこられたら、どうしたものか。
(やまいこさんなら間違いなく殴ってから考えるよな、うん)
脳筋気味だった仲間のことを思い出しつつ笑みを浮かべ、いざとなったらそうしようと覚悟を決めるも。
実は今、モモンを悩ませているのは判断材料が全くないこと、ではない。
下手に中途半端な判断材料があるからこそ悩んでいるのだ。
――パッシブスキル、アンデッド探知。
アインズ・ウール・ゴウンの保有スキル、魔導王の一側面だ。
最高位アンデッドであるアインズは周囲のアンデッドを探知することが可能なのだ。
あくまでも可能なのは探知だけで、探知したアンデッドの種類や強さは分からない。
その代わり探知範囲と精度はかなりのものだ。
アインズならたとえ相手が遠方で完全不可知化の魔法を使っていても看破できよう。
アインズなら。そう、“アインズ・ウール・ゴウン”なら。
今のアインズはアインズであってアインズではない人間の冒険者、モモンである。
モモンにもアンデッドの大群を早期発見し討伐した逸話があり、アンデッド探知が完全に失われているわけではない。
とはいっても、範囲と精度の劣化は激しい。
加えて前述したアンデッドの定義の問題までのしかかってくる。
例えば今さっきまで戦っていたランサーがそうだ。
あのランサーには退魔系統のスキルや宝具が有効だったこともあり、モモンはアンデッド探知を全力で発動していた。
アンデッドとして探知できたならそれでよし。そうでなくてもランサーはアンデッドではないという情報を得られる。
戦いにおける情報の重要性を知るモモンは、ランサーの種族を判別しようとしていたのだ。
結果は……一応、黒。
ランサーはアンデッド……らしい。
断言できないのは、探知した反応がどうにも曖昧だったからだ。
これは一概にアンデッド探知の精度が低下していたせいだとは言い切れない。
先程のランサーの戦い方は鎧を纏い、身体能力を向上させ、武器で戦うという人間種のそれだった。
モモンのようにランサーもまたアンデッドの正体を隠しているために、探知しきれなかったのかもしれない。
唯一ランサーが用いた人間種らしからぬ能力と言えば無数の蔦を操ったことだが……。
これも判断材料としては厳しい。
モモンの知識にはあんな植物を操るアンデッドはいないが、異世界のアンデッドかもしれない。
そもそもあれがランサーのアンデッドとしての能力とも言い切れない。
ランサーの宝具がバナナやレモンといった植物を模した“変身ベルト”であり、蔦も宝具も似たようなジッパーから現れた以上、
それらがひとまとまりの宝具という可能性も捨てきれないのだ。
(……ん? “変身ベルト”?)
ふと、考察に際し意図せず使った用語に引っかかりを覚える。
確かにランサーの宝具はベルト型をしており、それを使って変身していた以上“変身ベルト”と仮称するのはそうおかしくはない。
しかし、今の自分はあまりにも自然とこの用語を使った気がしてならない。
まるであの宝具が“変身ベルト”と呼ばれるものだと知っていると言わんばかりに。
(はて、どこかで聞いたような……? んん……???)
頭を捻るも思い浮かばない。
今の自分は人間である以上、ちゃんと脳もあるはずなのだが。
いやまあ霊体化しているけど。
(なんだっけなー? 何かの神話か? にしては俗っぽいよなー。
俺が知っている知識といえば社会人として必須だった時事問題以外だとユグドラシルについてくらい、だよな?
でもユグドラシルのことなら忘れるはずはないだろうし。
俺がギルド維持のためだけにログインしていた時代にでも聞いたのか?)
大切なことだったような、そうでもないような。
一度気にしてしまうとしばらく気になってしまうというよくある状況に陥りかける。
が、幸か不幸か考える時間は終わりのようだ。
消灯したままのリョウマの家が見えてきた。
(思い出せないのは仕方ないし、まずはリョウマに報告しないとな。
……それも、かなり厄介な報告を)
はぁ、と先ほどまでの悩みに通じるも別の問題にため息をつくモモン。
幸い、霊体化した状態のため息はマスターである少年に聞かれることはなかった。
2
「よかった! セイバーさんも無事だったんですね!」
霊体化を解き実体化したモモンに、リョウマが伏せていた顔を上げ、駆け寄ってくる。
念話や令呪でモモンの健在は理解していたとはいえ、気が気ではなかったのだろう。
モモンが殆ど傷を負っていないことを確認してリョウマは緊張を解く。
「その……流石です、セイバーさん。
ここまで残ったサーヴァントを相手にほぼ無傷で切り抜けるなんて」
「言っただろ、私はこんな所で死ぬ程弱くはない、と。
……最も、今回の戦いはたまたま私にとって相性のいい相手だったのも大きい。
油断は禁物だ、マスター」
実際その通りだった。
あのランサーはモモンにとってかなり相性のいい相手だった。
ランサーがアンデッドらしき存在であり、モモンの強みを活かせたことも大きいが、それ以上にユグドラシルで培った読みが大きく機能していた。
姿を変え、武器を変え襲ってくるボスモンスター。
RPGでは定番の相手だ。
モモンことモモンガは、ゲームと言えど何度もそんな相手と戦ってきた。
ナザリック大墳墓を攻略し、拠点として入手した戦いでは大ボスのモードチェンジやそこからの攻撃を初見で読み切り、クリアしたくらいだ。
この高難易度ダンジョンの初見攻略はユグドラシルでもモモンガたちのギルドが初めてなした偉業であり、誇りだ。
そんな彼からすれば宝具によるフォームチェンジを売りにするあのランサーは戦い慣れた相手だったのだ。
それよりも問題は……。
「あの、モモンさん」
「すまない、マスター。そのあたりの報告も後で詳しくしよう。
今は早急に聞いて欲しいことがある」
幾つかのアイテムを実体化させ、起動するモモン。
その光景にリョウマが目を見張り、驚きの声を上げる。
「倹約家のモモンさんが惜しげもなくアイテムを使うなんて……。
それだけの事態が起きたということですか」
ナザリックの支配者として、転移後の世界で金策に苦悩したモモンだが、それはこの世界でも変わらない。
モモンとして持ち込めたアイテムには消耗品も含まれる以上、使い時は見極めないといけなかったのだ。
そのアイテムのうちの幾つかを今使うというのは、それだけ大きな意味がある。
だから。
「そうだ。……だからマスター。君の話は後で必ず聞こう」
「……っ!! モモンさん、それは……」
モモンの無事を目にして尚、どこか心ここにあらずといった様子のマスターに確認を取る。
「隠せているつもりだったか? 私はこれでも名うての冒険者だ。
君が困っている様子だったのは見て取れたさ。
その上ですまないが、まずは私の話を聞いて欲しい」
モモンとて聞いてやれるものなら先にリョウマの話を聞いただろう。
灯りもつけず机に伏せてじっと考えているようだった様から、何かが起きたであろうことは言うまでもない。
それでいてリョウマは再会がしらに、まずはモモンの無事を気遣った。
このことからリョウマに起きたことは、緊急事態、と言うものではないと判断。
先ほどからどこか申し訳なさそうにモモンに切り出そうとしていたのを見るに、私用や私情と言ったところか。
ならば今はリョウマのサーヴァントとして、モモンが知ったある問題をマスターにも知ってもらうことを優先する。
それは、動揺するような何かを前にしても、自分の感情を律してまでモモンのマスターとして振る舞おうしてくれたリョウマの意を汲むことにも繋がるはずだ。
「……分かりました。後でお話します」
「ありがとう、マスター。……それで私からの話だが。
マスター、悪い報告だ。
どうやら先のランサーとの戦いを何者かに見られていたかもしれない」
「どういうことですか?」
「実は私にはアンデッドとの戦いの中で培ったこう、勘よりはもう少し正確な、感知能力のようなものがあるのだが。
そこに対戦相手であったランサー以外のアンデッドが引っかかったのだ。
朧気ながらも遠くに複数。そして私とランサーの付近にもう一体」
事実とは少し違うものの、リョウマにアンデッド探知について説明する。
若干精度に問題はあるものの、見られているような位置にいればまず間違いなく探知できると。
「……なるほど、モモンさんたちの戦いを見ていた謎のアンデッド、ですか。
その上そのアンデッドはモモンさんやランサーに気取られること無く監視できていた……」
「ランサーが気付いていながら見逃していたと考えられなくもないが、多分ないだろう。
一度手合わせしただけだが、あのランサーはそういったこそこそした相手は嫌う気性のようだった。
まず間違いなく気付いていたなら攻撃を仕掛けていただろうさ」
何故かそう言い切れる信頼があったが、それはさておき、問題はそこなのだ。
本職がマジックキャスターである自分はまだしも、あのランサーが気付けなかった。
そうでありながらもアンデット探知には引っかかるような存在。
例外を除けば思い浮かぶのは一種類だけだ。
「となるとやはり……アサシン、ですね」
「そうなるな。探知能力に引っかかった以上、気配遮断のランクはそう高くはないはずだ。
隠蔽系の宝具も使用していなかったと見える。
だが、戦いにおいて暗殺者とは最も恐ろしい敵の一人だ。
マスター狙いだけではない。場合によっては私さえも脅かすだろう」
所謂PK(プレイヤーキラー)ギルドを率いていただけあり、モモンことアインズはその恐ろしさを熟知している。
特に仲間の一人であり良き友人であった弐式炎雷は相手に発見される前に忍び寄っては首を狩る忍者だった。
その火力は隠密スキルと併用すれば一撃に限り、ギルド内トップの武人建御雷を凌ぐほどだった。
隠密特化で一撃死させて来る暗殺者とはかくも強力な存在であり、注意すべきはマスター狙いだけではないのだ。
「ではさっき使ったアイテムも探知系や監視対策、ということですか?」
「アサシン相手にどこまで通用するかは疑問だが、用心に越したことはないだろう。
あくまでもやり過ごすのが目的で反撃系のではないのだがね。
過剰に対策してしまうと、向こうも自分たちの存在がバレたことを察して攻勢にでてきかねない」
モモンがアサシンらしきアンデッドに気付いたのは戦いの終わり頃だった。
ランサーよりもはっきりとアンデッド反応が出ていたその存在は、戦いが終わると同時に自らも撤退していった。
あくまでも今回は様子見だったのだろう。
もしも向こうにやる気があり浸けられていて、こうして帰宅した所をマスター共々襲われていたらと思うとゾッとする。
まあアンデッド反応が途切れたからこそモモンも普通に帰ってきたのだが、油断は禁物だ。
アサシンにいつから監視されていたのかはっきりとは分からない以上、リョウマがマスターであることはバレている危険性がある。
そうでなくともモモンの情報の一部をほぼ一方的に相手は得ているのだ。
アサシンがアンデッドであることくらいしか分かっていない自分たちに対し、相手が有利なのは変わりない。
それに今回はたまたまアサシンがアンデッドだから気づけたものの、アサシンは他にもいるのだ。
そのアサシンがアンデッドではない可能性や、より高位の隠密スキルや宝具を持っている可能性は十分有り得る。
……そこまで考えて、ふと、疑問が浮かぶ。
(……いや、でも果たしてこれは、たまたま、なのか?)
モモン自身を含めて、始めに遭遇したランサー、次に感知したアサシンとアンデッド尽くしだ。
その上なんかあっちにもいるなー、程度にしか分からないが、アンデッド反応は他にもたくさん感じられる。
どこかのサーヴァントがアンデッド創造のスキルを使っているのでもない限り、サーヴァント、或いはマスターにさえアンデッドがいるのかもしれない。
(もしもサーヴァントやマスターにアンデッドが沢山いるというなら奇妙な話だな……)
アンデッドとはいつの世も虐げられる側の存在だった。
人を憎む邪悪な存在とされ、人間たちに害を成す英雄譚のやられ役だった。
ユグドラシルでもそうだ。
アンデッドを始めとした異形種は異形種であるというただそれだけで他のプレイヤーたちから虐げられていた。
能力こそ高くともそういった事情もあって全体では異形種の数は少なく、名を成したギルドはアインズ・ウール・ゴウン位のものだった。
言ってしまえば不人気かつ、敵が多い種族なのだ。
例外は吸血鬼くらいか。
何にせよ、非常に腹立たしいことだが、アンデッドは英雄というイメージには程遠い種族だ。
よくて反英雄といったところだろう。
勿論、どこかの異世界ではアンデッドも受け入れられており英雄として堂々と胸を張っているかもしれないが。
(そんな英雄としても不人気で、反英雄と合わせてそこまで数はいないだろうアンデッドがいっぱい、いる、のか?
いや、俺としてはアンデッドが認められてるのは嬉しいことだけどさ。
けどもしこれがアンデッドであることに何らかの意味があるなら。アンデッドを利用しようというものなら。
やはり、放ってはおけない、か? ……む?)
思考の堂々巡りに入りかけたモモンだったが、リョウマからの視線に気づき慌てて打ち切る。
黙りこくって物思いにふけってしまったモモンを、どうやら待ってくれていたらしい。
モモンはおほんと一度咳払いをし、報告を締めくくる。
「待たせてしまったな、マスター。取り急ぎの報告は以上だ。
少し出会ったサーヴァントの傾向について考えるところもあったが、その話はランサーについてと共に後に回そう。
君が私に話したがっていたことを先にこなしてくれ」
若干無理やりな話題の変え方だったが、よほど話したかったのだろう、すぐに乗ってきてくれた。
「ありがとうございます、セイバーさん。
私が話したかったことはこれです」
「……ふむ?」
そう言ってリョウマが差し出してきたのは掌大の緑の機械だった。
「確か、クロスローダーだったかな?」
デジモンハンターの証であり、それぞれのパートナーデジモンとの絆の証なのだと寂しそうに口にしていたことを思い出す。
自分たちにとってのリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのような物なのだろう。
「はい。……セイバーさんと別れた後、このクロスローダーに反応がありました」
「なんと!」
聞いていた話ではこの聖杯戦争に呼ばれて以来、初めての出来事だ。
リョウマがいてもたってもいられないはずだとモモンは納得する。
「それで、そのデジモン反応はいったいどこから?」
「向こうの方です」
ふむ、とモモンは考える。
リョウマが示した方角は、奇しくもモモンが感じたアンデッド反応のうちの一つと重なる気がしたからだ。
「……ところでデジモンにはアンデッド型もいるのだろうか?」
「はい。有名所だとスカルグレイモンやバケモンあたりでしょうか」
「ほほう!」
アンデッド型もいる、と聞けばモモンの関心も一際だ。
実はリョウマからデジモンの話を聞いたときから割りと興味はあったのだ。
モモンにはコレクターの気質がある。
アインズ・ウール・ゴウンとしてキャスタークラスで召喚されていれば、Aランクのコレクタースキルを獲得していたであろう。
そんな彼からすれば、千種類を超え、レアな個体も存在するというデジモンは、中々に魅力的な存在だ。
思わずもっとデジモンについて詳しく聞きたくなるも、なんとか自制する。
「デジモンとは想像以上に深い存在のようだな。……ん、まさか君の言うアスタモンもアンデッド型なのか?」
「いえ、アスタモンは悪魔系のデジモンです。……クォーツモンは種族不明ですが。
それとクロスローダーが検知した反応はアスタモンのものではありませんでした」
「そうか……。軽はずみな質問をしてしまってすまない」
「大丈夫です……。この話を切り出したのは私の方なのですから。
それでモモンさん。私は……」
しばらく待つも、続く言葉はなかった。
リョウマとしても戸惑っていると言ったところか。
突如示されたデジモン反応。
アスタモンのものではないと分かりつつも、気になって仕方がない。
けれど見に行ってどうするのか。アスタモンでもないのに。まさかハントするのか。
そもそもここは聖杯戦争の舞台だ。
そのデジモンもサーヴァントかも知れず、そうなると、むやみに接触するのは危険ではないか。
ついさっきモモンに守ってもらったばかりなのに、今度は自分から危険に飛び込むというのか。
モモンに迷惑をかけるばかりではないか。
そういったどうすればいいのか、がいっぱいリョウマの頭の中をぐるぐる回っているのだろう。
もしかしたら、モモンがアサシンの話をしてしまったせいで、余計に慎重に動くべきだと自分の感情を押さえつけようとしているのかもしれない。
(なら、彼の葛藤は俺にも責任があると言えなくもない、か。背中を押してやらないとな)
モモンは決しておせっかいでも世話焼きでもない。
だけど思うところのある少年相手に、手を差し伸べないほど薄情でもなかった。
「マスター。君は、どうしたい?」
「私は……私は……」
言葉を促され、それでも悩み葛藤するリョウマが自分の意志で、決められるまでモモンは待った。
「私は、反応のあったデジモンに会いに行きたい」
そして少年は口にした。自分の、願いを。誰に操られるでもない本当の自分の意志で。
「私はデジモンハンターだ。
今でもそうありたいと願っている。
だから、デジモン反応は見過ごせない。
かつての私は時に損得で考えて弱いデジモンを放置したり、強すぎるデジモンからは手を退いたこともありました。
……それが私自身の判断だったのか、クォーツモンによる影響なのかは今の私には分からない」
モモンからすれば、その判断は責められるようなものではない。
メリットのない戦いに時間を割くのも、危険な戦いから撤退するのも正しい選択だ。
でも誰にだって正しいことよりも譲れない想いがある。
モモンにとってはそれが“アインズ・ウール・ゴウン”であり。
「でもタイキさんならほっとけなかったはずなんです。
タギルだって考えるよりも先に動いていました。
それが私の夢見たものであり目指した英雄なんだ」
リョウマにとってはデジモンなのだ。
「だからお願いします、モモンさん。
相手は危険なデジモンかもしれない。ここが電脳世界である以上、聖杯戦争とは関係ない野良デジモンかもしれない。
モモンさんを余計な危険に晒してしまうかもしれない。
それでも、それでも私はデジモンに会いに行きたいんです」
だったら、その想いに応えれるだけ応えてやりたい。
「……いいじゃないか、それで。
君の願いはこの戦いを生き延びることじゃない。君としての答えを見つけることだ。
そしてその答えに対する問いはデジモンに直結している。
君の言うデジモンハンターとしてデジモンに会ってこそ出る答えもあるはずだ」
リョウマがいつかのように頭を下げるよりも早く、モモンは快諾する。
「アサシンに狙われているかもしれないのに無理を言って申し訳ありません」
「ならばこそ家に篭っているよりは積極的に動いている方が逆に安全かもしれないさ。
そのデジモンがアサシンにとっても未知の存在なら、相手も慎重にならざるを得ないからな」
顔を曇らせるリョウマに、モモンはデジモンに会いに行くことの利点も挙げる。
それでもまだ申し訳なさそうにしているリョウマに、モモンはもうひと押しとぶっちゃける。
「それに私もデジモンに興味が湧いていてね。ちょうどいい機会だと思ったまでだよ」
「ふふ、モモンさんも冗談を仰るんですね」
限りなく本音なのだが、どうやら冗談と取られたらしい。
笑みを浮かべるリョウマにまあわざわざ訂正するまでもないか、とモモンもまた笑い返す。
「私の我儘を聞いてくれてありがとうございます、セイバーさん」
「何……」
「困っている人を助けるのは当たり前、さ」
3
自然と口をついて出た思い出の中の仲間の言葉に、ああ、そうか、と得心が行く。
ずっと引っかかっていた“変身ベルト”。
その単語をどこで誰から聞いたのか、思い出したのだ。
――たっち・みー
ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”の一員にして、その前身となったクラン“ナインズ・オウン・ゴール(九人の自殺点)”の発起人。
ギルド最強、どころか、ユグドラシルでも最強の一人。
ワールドチャンピオン。純銀の聖騎士。
悪を掲げるギルドに居ながら誰よりも正義にこだわった人であり、ちょっとださい“正義降臨”のエフェクトがお気に入り。
モモンことモモンガの恩人。
そんな彼を語る上で外せないのは、彼が無類のヒーローマニアであるということだ。
特に鈴木悟の世界で150年ほど前に流行った“仮面の変身ヒーロー”が大好きで、語りだすと止まらないほどだった。
そのオタクっぷりは自身のアバターを仮面のヒーローに合わせて迫害激しい異形種の昆虫系にするほどだった。
(確か、飛蝗のヒーローだっけ? あれ、だったら果物のヒーローとは別、なのか?
ううん、なんかしっくり来るんだよな、“変身ベルト”。
確かそのヒーローにはいっぱいシリーズがあったらしいし昆虫系以外のもあるのか?
そういえば何だか吸血鬼のもあるとか言ってたような……)
たっち・みーが語りだすとモモンガたちはこの癖さえなければな~と聞き流していたものだ。
うろ覚えどころかほとんど耳に入っていない。
今になってちゃんと聞いておけばよかったと後悔してももう遅い。
(まさか、そんなわけないじゃん、とは言い切れないんだよなあ……)
ヒーロー番組のキャラクターたちが英霊として呼び出されている。
突飛もない発想だと笑う者もいるかもしれないが、あいにくモモン――アインズはゲームのキャラクターが意思を持つという前例を知っている。
彼らNPCたちの意思を尊び、仲間たちが残してくれた子どもたちのように感じているアインズからすれば。
“仮面の変身ヒーロー”が意思を持ち、この世界に存在していても何らおかしくはないのだ。
しかも“仮面の変身ヒーロー”はナザリック最強のたっち・みーが憧れた程の存在だ。
モモンどころか本来のアインズ・ウール・ゴウンより強い可能性も十分ありうる。
(願わくば、また刃を交えたい、と言ったのは早計だったか……?)
フルーツの騎士が隠していると思われる異形種としての力。
それは死の支配者(オーバーロード)アインズ・ウール・ゴウンをも上回るかもしれないというのなら、できれば再戦は願い下げだ。
(い、いや、まだあのフルーツの騎士がそのヒーローと決まったわけじゃないし。
随分好戦的だったし。
まさかあれでいてたっちさんのように弱い者を助ける正義の人なのか……?)
たっち・みーはたっち・みーで、正義にこだわりながらも悪のギルドに居た人だ。
案外そういうものなのかもしれない。
(……難しいんだな、正義の味方も。悪のRPなら、俺も得意なんだけどな―。
あー、ほんと、なんだっけ、あの変身ヒーローの名前?)
変身ベルトの時以上に気になって思い出そうとするモモン。
それからしばらく悩んでいたが、案の定、その名を思い出すことはできなかった。
【E-3/リョウマの家/1日目 夜(22:00)】
【
最上リョウマ@デジモンクロスウォーズ 時を駆ける少年ハンターたち】
[状態] 健康、魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[装備]
[道具] クロスローダー
[所持金] 貧乏(一般学生の小遣いレベル)
[思考・状況]
基本行動方針:答えを見つけるまで専守防衛
1. クロスローダーに反応のあったデジモンを探す。
2. アサシンらしき存在には最大限警戒
[備考]
※クロスローダーが、C-1/海岸での
スカルナイトモンの戦いに反応しました。
リョウマの所持デジモンでないこと以外、なんというデジモンかなどは分かっていません。
【セイバー(モモン)@オーバーロード】
[状態] 健康
[装備] 双剣、漆黒の鎧
[道具] その他多数の装備
[所持金] 無し
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの依頼を引き受ける。聖杯戦争の運営には警戒
1.「アインズ・ウール・ゴウン」の名はなるべく隠しておく。
2.自分の正体がバレてマスターの心の傷を抉らないか心配。
3.切り札である魔法アイテムはなるべく取っておくが、使い時には惜しまない。
4.感知したアンデッドのアサシンらしき存在には注意する。
5.コレクターとしてデジモンに興味
6.あのランサーがたっちさんの憧れた仮面の変身ヒーローなのか?
7.アンデッドばかりなのは気のせいか? 何か意味があるのでは? そもそもこの戦いでのアンデッドの定義は?
[備考]
※ランサー(
駆紋戒斗)の宝具「刺し貫く鮮黄の槍(バナナアームズ)」、「射り撃つ黄金の矢(レモンエナジーアームズ)」を確認しました。
※かつての仲間から仮面ライダーシリーズについての熱弁を沢山聞いていますが、殆ど聞き流していたためろくに覚えていません。
※アンデッドへの探知能力はモモンの状態だと遠ければ遠いほどなんかいるなー程度になっています。
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最終更新:2017年01月29日 05:24