「小羊がその七つの封印の一つを解いた時、わたしが見ていると、四つの生き物の一つが、
雷のような声で『きたれ』と呼ぶのを聞いた。 そして見ていると、見よ、白い馬が出てきた。
そして、それに乗っている者は、弓を手に持っており、また冠を与えられて、勝利の上にもなお勝利を得ようとして出かけた。」
~新約聖書「ヨハネの黙示録」第6章より~
◆ ◆ ◆
1つの大きな部屋があった。しかし其処には重力はなく、代わりに青い光の粒子が漂う、とても無機質な雰囲気であった。
周囲の壁は、まるで冷蔵庫の内部を拡大したかのように感じられる、だが最も注目するべきは、最奥部にある巨大な蒼い球体と、
その前に浮かんでいる1人の少年である。
少年の名は「
リボンズ・アルマーク」、此度の聖杯戦争において、ムーンセルより聖杯を託され「制」のルーラーのクラスを以って現界したサーヴァントだ。
そして今、リボンズがいるこの無機質かつ神秘的なこの空間は、「変革の叡智(ヴェーダ)」、このルーラーの本体でもある存在だ。
サンスクリット語で「知識」を意味するそれは、同じくその名を冠するインドの聖典の如く、世界を変革させる「教え」となる事を意味している…と思われる。
ソレスタル・ビーイングの「ガンダム」のバックアップ、そして指令の提示を行っていたこのヴェーダは、今リボンズ・アルマークという殻を以って「裁定者」
として現界したのであった。
だが、今ヴェーダの「人格」として現れたリボンズは、その役割を放棄していた。
「教え」となる事は放棄していない、寧ろその為に今までやってきたのだから。彼が放棄しているのは、「聖杯の管理」についてだ。
「願いを叶える願望機…か…実に素晴らしい物だよ、『聖杯』は。」
リボンズは冷たい表情を浮かべ、直ぐ様否定的な意見を呟く。
「だがそんな物を、あんな下等生物に渡して、本当にいいのかな?」
リボンズは、人間に聖杯を渡す気は無かった。
何故なら、人間に「何でも願いを叶えてくれる」道具を渡したらどうなるかを、リボンズは知って…いや、決めつけていた。
きっと、その人間は己の欲を満たすために使うであろうと。
己がための富を、美味を、権力を、才能を、色欲を、全てを手に入れるためにその願望機を使うであろう、と。
そして、リボンズは確信していた、自分なら、もっと有意義な事に、この万能の力を使えると、そう思い、リボンズは笑う。
「愚かな欲望のためにこの力を使わせるのは勿体なさ過ぎる…だけど僕は違う…僕は聖杯を使い、この世界を変革させる…誰にも渡すつもりはない。」
だがリボンズは知る由もないであろう、その願望も、その行動理念も、結局はその「下等生物」と何ら変わりないということを。
しかしリボンズは、再びその笑顔を潜め、苛立ちが混じった不快な顔を作る。
「しかし、驚いたよ、またもや、君が僕を邪魔しに来てくれるとはね。」
其の直後、彼の眼の前にモニターが出現した。映っているのは、1人の黒人の青年であった。
リボンズはヴェーダの情報を基に「SE.RA.PH」の監視を行っていたのだが、偶々見つけたのが、よりにもよってこの男であった。
その姿を、リボンズは心の中に強く刻みつけていた。
僕を眠らせた男。
僕の思想を否定した男。
僕の考えを覆した男。
僕を斬り裂いた男。
決して忘れはしない、決して許しはしない。
だが、これはリボンズにはチャンスにも見えた。
今度こそ、あの男を倒せるのだから。
自分の全てを否定した、あの男を。
まずは聖杯をどうにかして使えるようにして、願いを叶え、彼を倒そう。
そうしたら、現世に舞い戻り、この世界を変革させよう。
そう考えながらも、リボンズはモニターに映った青年の顔を睨みつけていた。
「ホワイトライダー」の名を冠したルーラーは、その名を発し、傲慢な笑みを浮かべた。
それが、虚勢なのか、本当の自信からかは、我らが知る由もない。
【クラス名】「制」のルーラー
【出典】機動戦士ガンダム00
【性別】男
【真名】リボンズ・アルマーク
【属性】混沌・中庸
【パラメータ】筋力E 耐久E 敏捷D 魔力C 幸運B 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:A-
魔力に対する耐性。
現代の魔術師では傷を付けられない・・・はずなのだが、
一切の神秘を持たない人造生命体であるため、クラス補正で
付けられた様な形になっている、そのためあまり働かない。
神明裁決:A
ルーラーとしての特権。
召喚された聖杯戦争に参加している全サーヴァントに対して、2回まで令呪を行使できる。
真名看破:A++
相手の真名を見破る能力。
ヴェーダのバックアップにより魔力的な干渉がないなら完全に看破出来る。
【固有スキル】
自己改造:B
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。
彼は幾つもの肉体を「端末」と認識しており、
本体はヴェーダと一体化している。
革新者(偽):A-
人類を新たなるステージへと導く存在。
反英雄に対しパラメータに補正がかかる他、
「カリスマ(偽)」「直感(偽)」の特性も兼ね備えている。
ルーラーは「イノベイター」と呼ばれる
存在に到達したが、彼は人類に道標を教える使命にあるにも
関わらず無理矢理人類を引っ張る存在になろうとした
ためにランクが減少している。
魔力放出(GN粒子):A
魔力でGNドライヴを起動し、GN粒子を生成して
GN粒子を放出させ、「トランザム」と呼ばれる状態になることが出来る。
ただし、使用したGNドライヴは焼き切れてしまう。
反骨の相:B
決して他者に従おうとしない人物だが、自らもまた王の器ではなかった。
同ランクまでのカリスマを無効化する。
【宝具】
「変革の叡智(ヴェーダ)」
ランク:A+ 種別:情報宝具 レンジ:- 最大捕捉:10000
ルーラーが生前アクセス権を独占した、私設武装組織「ソレスタルビーイング」
に司令を送るスーパーコンピュータ。
世界やソレスタルビーイングに関する重要な情報が満載のデータベース。
モビルスーツに情報を送り込み、戦闘を補助する。
リボンズ・アルマークはヴェーダのアバターとして呼ばれた存在で、
ある意味ルーラーの本体とも言える存在。 現在はSE.RA.PHの「ある場所」に
置かれており、SE.RA.PHのあらゆる情報を把握できるようになっている。
「世界よ、我が下に再誕せよ(リボーンズガンダム)」
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:100 最大捕捉:500
「変革の叡智(ヴェーダ)」の手で生み出したリボーンズキャノンが、
真名開放と共に変形した姿であり、ルーラーが自称した「救世主(ガンダム)」。
ダブルオーガンダムのデータを応用した「ツインドライヴシステム」を利用しており、
新たに追加された装備に加えリボーンズキャノンのGNキャノンは生きているために強力な火力が打ち出せ、
特に2機の太陽炉による「トランザム」の戦闘力は他のサーヴァントを凌駕する。
【Weapon】
「モビルスーツ」
あるエリアに立ち入りが不可能な工場が置かれており、其処からヴェーダのデータを基に作り出している人型機動兵器。
同じく工場で肉体を製造され、ルーラーと意識を共有している人造人間「イノベイド」が操縦桿を握っている。
リボーンズキャノンがない限りまともに戦えぬルーラーにとっては、唯一の「武器」と成り得る存在である。
【人物背景】
イオリア・シュヘンベルグの計画の中にあったヴェーダの生体端末「イノベイド」
当初は0ガンダムのガンダムマイスターとして、
武力介入を繰り返しながら彼の思想のために動いていたが、
自らが後々用済みとなったら死ぬという事を知らされ、
争いを終わらせない人類を卑下し自らの手で統括するという野望を持つようになる。
その後イノベイド達を率いヴェーダのアクセス権を奪い取る。
そしてヴェーダを悪用することで世界を実質上支配下に置き、
独立治安維持部隊「アロウズ」を裏で操ることにより反乱分子を始末していく・・・
が、リジェネ・レジェッタがソレスタル・ビーイングにヴェーダのアクセス権を
返却したことで戦況は逆転、追い詰められた所をリボーンズキャノンで
ソレスタル・ビーイングのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイと交戦、
ダブルオーライザーの太陽炉と0ガンダムを持ち出したりと往生際の悪い行動を
取るも、刹那の駆るガンダムエクシアリペアⅡに敗北する。
一見穏やかに見えるが根は極めて尊大な性格。
人を食った様な態度を取る一方、プライドが高く詰めが甘い他、
キレると手を出したり銃を向けたりする等振る舞い方によらず器が小さい。
【聖杯にかける願い】
聖杯を利用し、再び世界を我が物とする。
◆ ◆ ◆
此処一体を管理する市役所には、特殊な「部屋」があった。だがその部屋の扉にはドアノブはおろか鍵穴すら付いていない。
しかも驚くのは、上層部ですら中身を見たことがないという話だ、誰も、この部屋を開けたことがない。
その上外部の人間はこの存在を全く知らないという話だ、その部屋の存在はインターネットですら掴めていない。
正に「開かずの間」の言葉を体現したような扉だ。此処に近寄る人間は殆どといっていない。
「どうせ開かないから」とか、「不気味だから」とかで。こんな所に来るのは、入りたての新人か余程の物好きだ。
しかし、この部屋の存在を知り此処に来た【後藤】も、そういう「物好き」に当てはまる人物であった。
市長である広川剛志の知己にしてエリート役員、それが後藤に与えられた「ロール」であった。
その縁から噂を聞いて此処に来た後藤は、「何となく」興味を持ち、「何となく」此処に来た。
「確かに開けられなさそうだな」
そう言いながら後藤は思考した、「いっそ切ってしまおう」と。そして冷たい目でその扉を見つめた後藤は、首から「何か」を出した。
それは、まるで鎌のように見えたが、形成しているのは人間の肌でありとてもグロテスクに感じさせる。
その鎌を使い、後藤は表情を何一つ変えずに肉眼では凝視できないほどの凄まじいスピードで扉に無数の線を描いた、
しかし、扉は相も変わらず閉ざされたままであった。
否、扉は確かに切れた、だがその直後扉は直ぐに再生し塞がれてしまった、その一部始終を研ぎ澄まされた後藤の視覚は見通していた。
それを知ったかと思えば、後藤は直ぐに回れ左をしてその場を立ち去ってしまった。
その扉の先に、自らを導いた存在の一角がいる事も知らずに。
そして、その男は、自らの捕食活動に関して何の処罰も施していないということも。
後藤は、五刀は、五頭は、三木は、向かう。本能のままに、餌を喰らうために。
◆ ◆ ◆
「にしても、連続猟奇殺人って…。」
警察署の近くにあるそば・うどんの店で、【
加賀美新】は、【
亜門鋼太朗】と共にカウンター前のテーブルに座って共に食を囲んでいた。
加賀美はそば、亜門はうどんを食べていた。加賀美は何処か疑問から抜け出せないような表情をし、そして亜門はうどんを睨みつけていた。
「つい最近刑事課に配属された警官」というのが加賀美の聖杯戦争におけるロールであった。警官になるのには中々苦労はしたが、
しかし刑事になれたというのは、とても誇らしい。「親父のコネ」なんて馬鹿げた話もあったが、ともかく実力で入れたのは確かであった。
そして今加賀美は、先輩に当たるであろう亜門と共に休憩時間に昼食を取っていた。
ZECTにいた頃は、上司の実家が老舗蕎麦屋で、先輩の好物が「かけそば」だった為にしょっちゅう一緒に何度も蕎麦屋に立ち寄った事で、
蕎麦の味の良し悪しの違いは少し、分かる気がした。うん、この蕎麦は美味い、と。天道や剣程ではなくとも、まあまあマシなグルメレポートは書けそうな気は…する。
しかし「今」、加賀美達3人の食卓での話題が「もう少し明るければ」、もっと蕎麦を美味しく感じられるだろう、と加賀美は思う。
今回、加賀美達が所属する刑事課が担当することになったのは、何と「猟奇殺人事件」であった。
何と、死体がバラバラに「散らかされて」道に転がっていたという、まるで漫画にでも出て来るような悪質な手口だ。
しかも、身体の一部は見つかっておらず、断面は、「まるで食べられたかのような」痕跡が確認されている、と言うのだ。
「にしても、本当にあるんですね、こういう事件。」
加賀美はそう言うと、そばを箸に絡めて、ズルズルと啜った。すると、今度は亜門が加賀美に口を開く。
「加賀美、お前には…この一件が、どう見える?」
「どうって…そりゃ、許せませんよ、こんな事…やって良いはずが無いですよこんな事、絶対に。」
加賀美は不思議と、本音を容易く吐露することが出来た。
ワーム、ネイティブによる人殺しを幾度も見て来たとはいえ、やはり人が殺されるのは、ましてや人間が殺したなんて、
そんな事を容易く割り切る事は今の加賀美には難しかった。その為やや複雑な心境に陥っていた所を、亜門が本音の扉を
開いてくれた、と言うべきか。
「そうだろうな、俺も、こんな真似事は絶対に許せない…」
亜門は影を落とした表情のままでうどんを一気にズズズッと啜り、ゴクンと飲み込むと、そのまま悔しそうに歯噛みし、言葉を続ける。
「しかも監察では、『亡骸は一部を喰われた』というらしい、そんな事を、そんな歪んだ所業が、この世界を歪めている…俺はそう思っている。」
亜門も加賀美同様割り切れた訳ではなかった、「喰種」の存在が確認されていないこの月においても、相も変わらず人が喰われている事件が起こっているのが、
彼には許せなかった。今、亜門が食べているうどんも、「喰種に喰われた」同僚が行きつけのうどん屋で毎日の様に食べていたという話から、彼がよく其処で
食べるようになったことが関わっていた。
「そうですね。」
加賀美は、それに答えるかのように頷き、そして、再び蕎麦の入った丼に箸の先端を浸からせた。
亜門もそれに答え頷き、残ったうどんを一気に啜り出す。
「そう言えば、宜野座さんは何処に行ったんですか?」
「宜野座なら、今客を出迎えている。」
「客?」
「ああ、なんでも、国際警察から派遣された人間らしい。」
◆ ◆ ◆
駅郊外の裏側に、あるアンティークな雰囲気を漂わせるメキシコ料理店があった。
メキシコ人からグルメな日本人まで沢山の人が来ていた店の、一番左奥の位置のテーブルに【
宜野座伸元】と、【R(アール)】は座り、食を囲んでいた。
この店は、駅の近くにあるとはいえ目立ちにくく、その為知られにくい話し合いには持って来いの店であった。
アールは、日伊双方に関わるある「問題」を解決するために送り込まれたスパイで、その為「インターポール」の名を騙ってこの警察に潜入した、というロールにあった。
幸い、ソウといた時に偶々発行してもらっていた偽造IDのおかげで、何とか騙されずに此処に潜入できた、と言う事らしい。
埋め込まれていた記憶には、作るのに苦労したと、ソウが語った姿があったが、よく分かる。何せスパイの天敵のような組織だから、幾ら天下の合衆国お抱えのCIAでも作リ方を練るにはかなり大変だったらしい。
ココが唸ってしまうほどには精巧に作ってあるのだから。とにかく、これで日本の警備は潜り抜け、何とか日本の警察に忍びこむのは叶った、と言う…事らしい。
先程、前菜が二人の前に置かれた所で、アールはじゃがいもをグラタンの様にクリームで煮た「パパス・コン・ナタ」、一方の宜野座は
イカや白魚に玉ねぎと唐辛子を和え、とうもろこしを添えた「セビチェ」をテーブルに置いていた。
アールは、テーブルの端にあったタバスコを大量にかけて混ぜ込み、それをスプーンで掬い口に入れていた。
やはりイタリアンらしい嗜好だな、と宜野座はその様子を見つめ、セビチェをフォークとナイフを器用に扱いぱくりと口に入れた。
オリーブオイルの滑らかさと塩と唐辛子の刺激が上手いこと味を引き出している、うん、これはいけると感じた。
元いた世界では自宅では料理が全自動で行われ、トレイに自動的に出される、という方式が取られていたが、やはり人の手で作られた物は何処か違う。
全自動料理システムにおいて「メキシカン」はあまり選んだ事は無い事もあり、宜野座は初めての味に舌鼓を打ちながらフォークとナイフを扱った。
するとアールが、突然に話題を持ち出す。
「所で、本日の要件について先にお伝えしたいのですが…今回は、『鬼兵隊』の一件で此方にお伺いさせていただきました。」
宜野座がそれを聞いて、口を引き締める。「鬼兵隊」といえば、日本から始まり、今や世界を騒がせているとされているテロリスト集団だ。
様々な国家や組織の要人を狙った残忍な爆撃テロ、ヨーロッパでは「デーモンズ・クラウド」という通称で喚ばれている始末だ。
この前はイタリアも被害に合っていたと聞くが…まさか、この一件でか?と察する。
「今回、我々は鬼兵隊が日本に潜伏している、という情報をキャッチし、そして日本の警察とインターポールの橋渡しをすべく送り込まれたのが、この私ということです。」
「そうですか、遠路遥々ご苦労でした、ミスター・アール。」
宜野座はそう答え、一旦腕時計を確認した後、再びアールに顔を向けた。
「そろそろ警部がいらっしゃる頃です。」
◆ ◆ ◆
「お会計は全部で1500円、早く出しな。」
宜野座とアールが会話をしている一方、ドアの前にあるカウンターで、【
エルメェス・コステロ】は、とても性には合わないレジ打ちをこなし、客の会計を行っていた。
もうあの世にはいないはずの姉は、今はメキシコ料理を勉強しに母の祖国へと帰っていき、店番は結局自分と父がやることになっていた。
しかし、姉が殺された事を思えば、今こうしてレジを打っている自分は、とても幸せなのではないのかと思う。
それに、店も場所が繁華街に比較的近めだということもあり、前よりは中々繁盛している。今の自分は、とても恵まれている。
しかしこれが、自分の戦う理由にも繋がるというのは、皮肉ながらも事実であった。
今の自分が、一番過ごしたいと思っていた日々。そしてそれは今の彼女の後悔と憎しみの「象徴」と成り得る物であったから。
こんな日々と「脱出する」という願いが、姉を殺したあの男への憎悪をより一層燃えたぎらせている。
値段を口で告げたエルメェスに対し、カウンターに立った黒人の青年、【刹那・F・セイエイ】は、財布から千円札二枚を引き抜き、
カウンターに置いた。
「2000円、貰っとくから、お釣りは500円な。」
レジを慣れた手つきで動かし、ドロアを開いて札を素早く閉まって直ぐに500円玉をカウンターに置く。
流石に敬語はとても言えなかったが、然程でもないとか。
「すまないな。」
刹那はそう言うと500円玉を受け取って回れ右をし、ドアを開いて出て行く。
◆ ◆ ◆
『美味かったか?刹那。』
『ああ、悪くはなかった』
ウルティメイトブレスレットブレスレットとなって刹那と一心同体になったアーチャーと、刹那は何気ない会話(というか念話?)を交わしながら、雑音響き渡るこの街を歩いていた。
先程、偶々近くにあったことで立ち寄ったメキシコ料理店で食事を摂り、再び刹那は街の散策に戻った。
刹那が与えられた「ロール」は、「クルジス共和国からの留学生」という物であった。恐らく自分達は、アリー・アル・サーシェスの引き起こした宗教的紛争には
巻き込まれず、刹那も平凡な時を過ごした、と言う事になるらしい。なのにも関わらずソレスタル・ビーイングの制服を着ているのは少しどうかとは思うが。
「生活費」はまあまあ残っているが、其処まで長くはいられないであろうこの聖杯戦争の間には
其処まで持たないという訳ではない。明日は大学の講義があるが、さて、どうしたものか、と考えながらも空を見上げていると…
何か、素早く飛ぶ小さな物体があった。
「!?」
『どうした!?刹那?』
心配げに刹那に問いかけるアーチャーの声を尻目に、刹那は目を金色に光らせ、素早い動作で鞄のファスナーを開き双眼鏡を取り出す。
CBの潜入調査においてスメラギから受け取っていた物だが、まさか此処で役に立つとは。
そう思いながら、双眼鏡越しにその物体を目で追いかけながら照準を最大にすれば…刹那は驚愕と苛立ちの混じった表情を見せる。
(モビルスーツ…やはり、まだいたのか…)
アロウズが使い捨てていたGN-Xの系統の機体だが、こんなカラーリングの代物ではなかったはずだ。
少なくとも、「今の」刹那の記憶には存在しない。そして、刹那は確信した。
「何かがおかしい」と。
最も月の中で違う生活を送り願いをかけて殺し合う事自体おかしな話だが、これはその中での話だ。
モビルスーツは一瞬で遥か遠くへと消えて行き、それを見届けた刹那はゆっくりと双眼鏡を目から離す。
やはり曇った表情は隠せず、そしてそのもやもやの原因をアーチャーに問いかける。
「アーチャー。」
『どうした?刹那。』
空とウルティメイトブレスレットを交互に見上げながら、刹那は曇った表情を見せている。
『やはり、何かがおかしい、と思わないか。』
その言葉を聞き、アーチャーも察した。
『確かにな、あのメカ、確か刹那のいた世界にいたやつだろ?昨日も思ったが、確かに毎回毎回見かけるのは不自然だよな、
あの時はサーヴァントの気配もしなかったし、あんなに大量に湧く姿は極めて不自然…だったな。それと…』
「どうした?」
『もうあんな無茶な偵察はやめろよ、敵の目とか、魔力とか、そういうものの大切さとかてめえみてぇな奴が一番分かっていると思ったのによ。』
そう、昨夜刹那は、一旦ゼロに変身し、空中を飛び偵察に出た。何とか敵に見つかることは無かったが、しかしとても驚いた物を見つけた。
無数のモビルスーツ軍団である。それは刹那が既に交戦経験のある機体であったが、しかしこれはかなりの異常事態と思われる。
追う事も考えたが、深追いし過ぎると面倒な事になるので引き返してしまった。
「ああ、分かっている。」
刹那はそう返すと、顎に手を置き考える。
(サーヴァントの仕業か…?)
成る程、それなら話が付く、しかし、一体誰がこんな芸当を行える。
どうあれ刹那には、1つ確信できることがあった。
誰かが、何かとんでもないことをやらかすのではないか、と。
先程から疼きを見せている脳量子波が、それを証明している。「嫌な予感がする」と、革新者としての直感が示していた。
そしてそれが皮肉にも的中することは、今の刹那は知る由もない。
◆ ◆ ◆
刹那・F・セイエイが見上げる空を、【
白菊ほたる】と、そのサーヴァント、ライダーが乗ったモビルスーツは飛び回っていた。
ライダーが座っているコックピットと、その横に寄っかかっているほたるは、メインカメラに映る広大な世界を拡大図付きで鮮やかに写しだしたモニターを
眺めていた。
最初の話し合いの結果、「敵の情報がまずわからない」という議題が持ち上がった。聖杯戦争は、謂わば「情報戦」も視野に収まっている。
どんなサーヴァントが、どんな能力を持ち、どんな風に戦うのか、それを知ることで、自ずと勝利への道は浮かび上がっていく。
好戦的なライダーとは対照的にほたるは戦う気には未だなれなかったが、しかし最低限の情報は掴んでおきたい、と考えての事だった。
空を飛ぶサーヴァントや、「千里眼」という力を持ったサーヴァントも幾らかいるのかもしれないため、なるべく高めの高度で飛んでみせた。
モビルスーツの構造上マスターの耳は詰まらずに済むので、一応心配はない。それに太陽炉で動いている以上機動力も抜群なので、
追われることは「多分」無いと思う。
「見つかりませんね…やっぱり。」
モニターを眺めているほたるに対し、ライダーはいつもの調子で答える。
暗いほたるに、明るいライダーは、やはりベストパートナーであった。
「まァ、今は昼間だからな、多分連中も姿を隠しているんだろう、あ、そんな気にすんなよ!マスターのせいじゃねぇって!」
「うぅ…すみません。」
「そんな謝ることねぇって…ていうか、寧ろ敵さんともあまり当たらねえしこの時間帯の方がいいかもしれねぇぜ。」
な~んて大佐が聞いてたら小言聞かされるかもなぁ、と思いながらも、ライダーはほたるに励ましの言葉を送る。
陽気なライダーと、控えめなほたるは、そんな会話を繰り返しながらも、モニターを見つめる。
もう飛び回ってかれこれ一時間、今日は日曜日ではあるが、今の所収穫は無し。もう一時間は飛んでいるが、とても敵の目にビビりながらの索敵は
エースパイロットでも決して楽ではない、というより、ライダーの性に合わない。
それからかれこれ10分、退屈で窮屈で迫力とスリル満点(?)な飛行ツアーに、ライダーもそろそろ飽きてきた、と思い始めた。
さっきまでの明るさは何処に言った。
「ハァ~やっぱし疲れてきたかもな、ていうか俺暴れるのと生き残るのが本領だしな、流石にうろつくのはちょいと疲れるわぁ…」
とうとう愚痴まで漏れてしまった、ほたるが心配そうに見ている。と、その時。
「あ…ライダーさん、見てください。」
ほたるが恐る恐るモニターに指をさす。
「ん?どうした?」
ライダーがその指のさした先を見て…首を傾げ、拡大のコマンドを押してその先を確認すると…
其処には、何かしらの「物体」があった。見た所黒い板のようだが、しかしそれはまるでねじれこんにゃくの様にひね曲がっており、
しかもそれが空中に浮かんでいるという。あまりにも不可思議な現象だ、それにライダーは何か気配を感じた。
「間違いねぇ、マスター、この変な蒟蒻、多分サーヴァントだ、近づいてみるぜ!」
ライダーがそう言ってGN-XⅣの速度を上げ、一気に近づいてみると、やはり其処には人一体分のねじれこんにゃくがあった…
のだが、それは直ぐに粒子と化して消滅してしまった。オバケのように、どろんと。
「何なんだ、ありゃ…」
蒟蒻のサーヴァントが霊体化して逃げた様子を見て、ライダー、そしてほたるも、唖然としていた。
二人はそのまま、偵察する気力も失い、ヒョロヒョロと、帰って行ったとさ。
その蒟蒻が、自分達を招いた「一柱」である事も知らぬまま
最終更新:2016年09月26日 03:17