らき☆ロワ @ ウィキ

激突!仮面ライダーゼクロスVSテッカマンエビル

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

激突!仮面ライダーゼクロスVSテッカマンエビル ◆40jGqg6Boc



「馬鹿な……信じられん、俺は確かにサザンクロスに突入していた筈だ……!」

一人の男が、心底信じられないと言った顔を浮かべながら呟く。
青年の名は村雨良
記憶を失いはしたが、多くの仲間の助けにより進むべき道を見つけた青年。
村雨は生き残った仲間達と共にBADANとの最終決戦に挑んでいた。
そう、その筈だった。
だが、この状況はどうだ。
今度はBADANではなく、また違った殺し合いに巻き込まれている。
冗談じゃない。
村雨が思った事は一つだ。
BADANと決着をつけるためにも、此処でむざむざと死ぬわけにはいかない。
そしてこれ以上、誰かの死を見過ごす事もしたくはない。
故に新たな殺し合いの破壊を心に決め、村雨は早速行動に出た。
支給されたデイバックを手に取り、目的の品を捜し当てる。

「かがみ、アカギ、ヒナギク、パピヨン、ジョセフ……あいつらも呼ばれたのか」

右手に握られたものは、支給された参加者名簿
過ごした時間は短いながらも、BADANを潰そうと力を合わせた仲間達がこの場には居る。
柊かがみ、赤木しげる、桂ヒナギク、ジョセフ・ジョ―スターの四人。
誰一人として死なせたくない仲間。
特にかがみとの合流は重要と言える。
彼女が居なければ、今の自分はなかっただろう。
それほどまでにもかがみとの交流は村雨に強い影響を与えた。
故に村雨の中で、かがみが特別な存在である事は言うまでもない。。

もう一人、パピヨンに関しては一概に仲間であると言えないが、それでも会わないわけにはいかない。
彼もまた打倒BADANを、強く思っているだろうから。
そして残りの仲間である葉隠覚悟、才賀エレオノール、服部平次の名前が無い事に確かな安堵を感じるが、手放しでは喜べない。
彼らがまたこんな殺し合いに巻き込まれなかった事は嬉しい事だ。
が、それは今も彼らだけでBADANと戦っている事を意味する。
ならば一刻も早く彼らの元へ戻らねばならない――絶対に。


知り合いである五人との合流を当面の目標と村雨は定める。
しかし、村雨は直ぐには動こうとはしない。
臆病風に吹かれたのか?
そんな事はない、この程度で身がすくむようでは、BADANが開催した殺し合いに生き残っていない。
只、村雨には気になる事があった。
それは名簿に眼を通す事で知り得た情報の中に、思わず首を傾げるような出来事。

「何故、アカギの名前が二つもあるんだ。同姓同名の別人かもしれない……、だが――」

名簿には確かにアカギの名前が二つある。
もう一組、誰かは知らないが、前原圭一という名前が二つ。
6/と、何かのコードネームらしき名称は三つもある。
不思議な事とは思うが、真実はわかる筈もない。
よって、村雨は同一の名前が複数存在する問題は一時捨て置く事にした。
村雨にとってそれ以上に気になる問題の方へ注意がいっていたのだから。

泉こなた、柊つかさ、高良みゆき、三村信二、川田章吾ルイズ……何故彼らの名前まである? 彼らは……死んだハズだ……」

実際に出会った人物は三村信二の一人しか居ない。
だが、BADANが開催した殺し合いで命を落とした筈の彼らと村雨の仲間達には、一言で話しきれない交流がある。
きっと今も彼らの名前がある事に対して、自分と同じように考えている筈だ。
かがみも、アカギも、ヒナギクも、パピヨンも、ジョセフ達も同じように。

兎に角、この場に留まっているわけにはいかない。
こうしている間にも時間はどんどんと過ぎてゆく。
仲間達、知り合い、死んだ筈の参加者との接触。
そして新たな主催者を倒す――それが今やるべき事。
迷いはしない、立ち止まることなく必ずやり遂げる。
決意を改め、村雨は名簿をデイバックに直し、歩き出そうとする。
そんな時だ。
村雨は一人の男を視界に捉えた。

「お前は……?」

黒の長髪に黒のジャンパー。
年齢は自分より若い。
二十歳を過ぎたか、どうかの辺りだろうか。
だが、それよりも男の眼に村雨は注意がいった。
鋭く研ぎ澄まれた双眸から感じるものは、大きな意思。
一瞬の観察から得た、不確かな感想はやがて確固たるものに変わってゆく。


相羽シンヤ……名簿ではそう書かれているが、どうでもいいさ。何故なら、お前はもう直ぐ死ぬのだからな」


村雨が感じ取ったものは明確な敵意。
咄嗟に身構える村雨を意に介さない様子で、男は片腕を上方へ突き出す。
突き出された腕に握られしものは、奇妙な青色の結晶。
男の口元が歪む。
訝しげな表情を浮かべた自分の反応が心地よかったのか、それとも別の理由だろうか。
村雨が答えを出す間もなく、やがて男は口にする。
キーワードを――己の力を解放する言葉を紡ぐ。
その動作には一切の躊躇などは感じられなかった。


「テックセッタアアアアアアアアア――!!」


掲げられた結晶――テッククリスタルが輝きを放つ。
瞬間、男の身体に赤い閃光が走り出す。
閃光はやがて、生物の甲殻を連想させるような外殻を造る。
赤黒い、まるで幾多の返り血を浴びた結果生まれたような彩色は、見る者に恐怖を植え付ける。
両肩の外部装甲には三本の爪が平行に伸び、黒々とした胸部には六つのモジュール。
そして三本角を生やした、真紅と漆黒の仮面で表情を隠した異形の者。
言うなれば悪魔というべき存在が其処に顔を見せていた。


「ラダムのテッカマン、テッカマンエビルに出会った事を後悔すればいい……一人ぼっちの、孤独な世界でね」


地球を自分達の第二の故郷にするために、侵略を開始した地球外生命体――ラダム。
ラダム虫という一種の寄生生命体により、強靭な肉体、強い闘争心を持ちし人間を己の尖兵に変えてゆく。
テックシステム――それが全てを奪わせ、テッカマンという存在を造り出す悪魔のシステム。
異形の名はテッカマンエビル――“邪悪”を意味する化け物が其処に居た。



◇     ◇     ◇



(良い気分だ……本当に。今度こそ俺はラッドを必ず殺して、兄さんと決着をつける……!)

ラダムの生体兵器、テッカマンエビルに姿を変えた者は一人の青年。
相羽シンヤは仮面の下で思わず、口元を歪ませる。
自分は確か病院に居た筈だ。
螺旋王とやらが開催した殺し合いに巻き込まれた最中、自分は一人の少女を人質に、兄との戦いを心待ちにしていた。
少女の名は小早川ゆたか、兄の名はDボウイこと相羽タカヤ。
そして、自分はラッドという憎々しい男の手で――殺されかけた。
口に出したくもない。
不意を突かれたとはいえ、下等な存在である人間如きにあそこまでやられた事実。
思い出すだけで、今すぐにでもラッドを惨たらしく殺してやりたいと、ドス黒い感情が疼く。
あの時感じた怒りは消える事無く、今も己の中に残っている。
今度こそあのような失態は晒さない。
そう考え、シンヤはこの場での優勝を決めた。

(そうさ、ラダムに選ばれた俺があんなところで終わるハズがない……この俺が……!)

何故か五体満足に修復された身体。
自分の物ではないが、幸運な事に支給されたテッククリスタル――テッカマンへの変貌には不可欠なもの。
この二つさえあれば、最早自分には敵は居ない。
あとは首輪をどうにかするだけだろう。
そのために、その手の技術に長けた人物は生かしておく。
そう、変わらない方針――この場に呼ばれる前と、特に変わらない方針。
それどころか今回はゆたかという足手まといも居ない。
自分は間違っていない、あの敗北は所詮一時の油断にしか過ぎない。
思いを現実のものにするためにも、エビルは早速獲物を求め、そして捜し当てた。

(この男、兄さんよりは歳上……ケンゴ兄さんぐらいか? まあ、所詮どうでもいいコトだが)

目の前に居る村雨を舐め回すように観察する。
村雨の顔から見て取れる感情は、驚きが色濃く浮き出たもの。
無理もない。
一瞬で行われた、テッカマンへの変身――テックセットをその眼で見たのだ。
驚かない筈がないだろう。
村雨の反応に思わずエビルは、充実した満足感を噛み締める。
村雨が驚けば驚くほど、自分がいかに強大な存在かを感じられるのだから。
ならばせめてもの礼だ、一思いに殺してやろう。
傲慢でしかない意思を秘めながら、エビルは村雨の方へ一歩踏み出す。
対して村雨の方は――

「ほぅ……逃げない、か。ふふっ面白い」

思わず言葉を漏らしたエビル。
少し驚いたような、当り触りのない感想。
彼の言った通り、村雨はエビルの接近に対して動じた様子は見せない。
只、変貌を遂げたエビルとの目線を逸らさず、彼を凝視する。
冷ややかに受け止めるエビルだが、徐々に彼はその視線が気に喰わないと感じ始める。
テッカマンである自分を目の前にして、尚もこのような態度を崩さない。
自分は殺されないとでも思っているのだろうか。
思わずそんな疑問を抱いたエビルだが、彼とて兄との決着がある。
そのために、此処で無駄な時間を浪費するのは好ましくない。
あの優しい兄さんの事だ。
ゆたかのような無力な人間を保護し、この場でも不要な足手まといを連れているかもしれないから――
エビルが更なる一歩を出そうとした瞬間、村雨が口を開いた。

「キサマ……BADANか?」
「BADAN? ラダムと言っただろう。俺は貴様等、人間共を駆逐する存在……ラダムのテッカマンだ。
人間風情が、俺に同じコトを二度も言わせるんじゃない」

何か間が抜けたよう質問。
この男は自分の話を聞いていなかったのか。
もしやあまりの恐怖に、只、何も考えずに立ち尽くしていただけなのか。
そうであるならば、何も面白みもない。
途端にエビルは、己と対峙する村雨への興味を急速に失くし――てはいなかった。
自分の認識が間違っていた事に、エビルは気付いたのだから。


「そうか、ならば――!」


村雨が徐に動く。
軽く両足を開き、両腕を右へ突き出す。
右腕が左腕の下に来るように、両腕が斜め右上を向く様に揃える。


「俺は負けるわけにはいかない!」


左腕を回す。
弧を描く様に、回ってゆく左腕がやがて右腕と一本の線を結ぶ。
唸るような音が響き、村雨の動作が、何かの“溜め”のものある事を示す。
エビルが村雨を獲物と認めたように、彼の方もまたエビルを認識していた。
無力な、罪のない人々を傷つけし者。
人の命を虫けらのように扱うBADANとエビルが同じ存在――倒すべき存在だと断定する。
村雨は一人でも多くの命を守るために、戦い続けると誓ったのだから。


「かがみ達を守り、キサマ達のような悪を一人の残らず倒す……そのために俺の力は、俺の命は――ここにある!!」


そして村雨は左腕を腰の辺りまでに引き、右腕を再び斜め上に突き出す。
雄々しく、猛々しく、力強い動作は、己が秘める強大な意思を具現化するかの如くに。
同時に村雨の腰部分が赤い閃光を迸らせ、一瞬の内に現れたものが一つ。
十字模様が施され、黄色と黒の色彩が印象的な一本のベルト。
ベルトの中心部から、真紅の閃光が周囲へ広がるかのように放たれる。
やがて、それら村雨の全身を包むように渦を巻いてゆき――そして、彼は叫んた。
右腕を突き出すと同時に、エビルにとってのテックセッターと同義である言葉を。


自身にスイッチを入れるキーワードを、村雨は腹の底から絞り出すように声をあげて――


「変んんんんんん――――身ぃんッ!!」


村雨もまた異形の者へとの変貌を遂げる。


否――変身を行った。



「テッカマンではない……何者だ、お前?」
「村雨良。そして俺は、今の俺の名は――」


エメラルドグリーンの複眼、銀色のクラッシャー、二本の触覚。
赤と銀を基調とした強化スーツを全身に纏い、緑色のマフラー風になびく。。
カミキリムシを模したような赤い仮面を被りし一人の戦士が、エビルと相対する。
彼こそがBADAN大首領、JUDOの器として造られた最後の存在、“ZX(ゼクロス)”――いや、違う。
今の彼は器ではない。
何もない、空っぽな存在でしかない器と言うのは無理がある。
記憶を取り戻し、正義に生きし改造人間達の名前を継いだ存在。
それが今の村雨の姿――そう、男の名は仮面ライダー。


「――仮面ライダー……仮面ライダーゼクロスッ!!」


仮面ライダーZXへの変身を完了した村雨が、再び咆哮を上げた瞬間、エビルが前へ跳んだ。
その勢いはまさしく弾丸のように、一直線にZXの元へ。
右腕を振り上げながら、倒れ込むかのような勢いでエビルが駆け寄る。
対するZXもエビルを迎え撃つように、腰を落としながら身構える。


「なら、精々楽しませてもらおうか……仮面ライダーゼクロスッ!!」
「望むところだ! こい、テッカマンエビルッ!!」


響いたものは拳と拳がぶつかり合う音。
そしてそれは自ずと合図となる。
テッカマン、そして仮面ライダー――持つ意味が異なる“仮面”を互いに被りし戦士達。
正義という名の仮面を被った仮面ライダーゼクロス。
対するは狂気という仮面を被ったテッカマンエビル。
二人の仮面戦士の戦いが、静かに幕を開けた。



◇     ◇     ◇



「ZXパンチッ!!」

何度かの拳と蹴りの応酬を経て、ZXが踏み込む。
時を同じくして、紡いだ言葉は彼の得意技とも言うべき打撃を意味するもの。
咄嗟に懐に飛び込まれたため、エビルの反応は鈍い。
エビルは、己の顔面に喰い込むように放たれたZXの右拳を、辛うじて左手で掴む。
間髪入れる間もなく、エビルの左手に衝撃が走る。
テッカマンの肉体ですらも決して無視は出来ない感覚。
直撃を貰ってはまずい。
そう思ったのもつかの間、エビルは両眼を見開きながら行動を起こす。

「いい気になるなよ……!」

エビルは未だに熱のような痛みを感じる左腕を、後方へ思いっきり引く。
ZXが施された改造手術とは、また違った技術体系によって改造されたエビル。
その力は、ZXのそれと勝るとも劣らない程に強大なものだ。
引っ張られる事で、思わず前のめりにZXの体勢が傾く。
対してエビルは少し腰を落とし、右の拳を自然な動作で握り締める。
ラダムとしての洗脳を受ける以前に、嗜んだ武術の経験は忘れていない。
振り上げるように右の拳を放つ。
その勢いは早い。
ZXの方も当然エビルの拳を視界に捉えていたが、体勢を崩されていた事もあって間に合わない。
少し身体を引いたものの、ZXの左脇腹にエビルの拳が叩き込まれる。
同時にZXは苦悶に満ちた呻き声を上げ、口元から赤い血液を吐き出す。
改造人間用の特別な血液――ZXの命の切片が無常にも失われる。
思わず仮面の下の表情を、満足げに歪ませるエビル。
やはり自分達テッカマンが、姿を変えた人間如きに負ける筈はない。
ならば、このまま徹底的にいたぶりながら殺してやろう――そう思った時だ。
不意にエビルは左腕に強烈な痛みを感じ取った。

「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

雄叫びのような声を上げたのは、ZX以外には居ない。
左脇腹のダメージをものともしない様子で、ZXは左腕を振り下ろしていた。
肘を下向きに、エビルの左腕に対し、十分な勢いを乗せた肘打ちを突く様に当てる。
電撃にでも撃たれたかのような衝撃を受け、エビルは止む無く左腕を己の方へ戻す。
結果的に生まれることとなった、その隙はほんの一瞬の時間。
だが、ZXはその空白の時間を見逃さない。
少し宙に浮いたままの体勢から、半ば強引に腰を身体ごと左へ回す。
同じくして力強く振られたものは、伸びきったZXの右足。
やがてZXの蹴りがエビルの左腰辺りをしたたかに打ちつけ、彼の身体を覆う外殻に小さな亀裂が生じる。
ついさっき前のZXと同じように、曇った声を上げたエビルは僅かによろめく。
確かなダメージを受けた証明。
それもまた先程のZXの吐血と同じ動作。
しかし、エビルは完全には倒れはしない。

「……なかなかやる、だがッ!」

エビルは未だに痺れが残る右腕を素早く伸ばす。
数秒にも満たない間に、ZXの首根っこをテッカマンの力を以ってして掴み上げた。
ZXの首部分を確実に圧迫していき、彼はその拘束から逃れようと、空いた左腕を必死に絡ませる。
幾ら強化していようが、自分の力で一瞬の内に首の骨を折ってしまえば難なくZXを殺せる。
己の力に絶大な自信を持っている事による、揺るぎない確信をエビルは密かに抱く。
ZXパンチを始めとし、ZXの戦闘力を幾分かは認めたエビルだが、負けてやるつもりは毛頭ない。
トドメの一押しに、エビルは更に力を強めようとする。

「まだまだぁッ!!」

だが、ZXは諦めようとはしない。
宙に浮いた形となっていた脚を使い、エビルの胸板を軽く蹴り飛ばす。
衝撃は軽いものだが、それはエビルに負傷を与えるためのものではない。
そこまでの余力が残っていたとは思わなかったせいか、エビルは思わず右手の拘束を緩める。
咄嗟にZXは動く。
左腕でエビルの拘束を振り解き、蹴りの衝撃を利用し、反転を行った後に飛び退く。
高く、そしてエビルの元から数十メートル程の距離から離れた位置に、ZXは降り立つ。
強化された異常な跳躍力を以ってすれば、この程度の事は造作もない。
両の足で力強く地面を踏みしめ、再びエビルの方へ構える。

「ガッ……ハァ、ハァ……」

しかし、ZXは急に倒れ込むように前屈みの体勢を取った。
抜け出せたとは言えど、首にはかなりの力が掛っていたのだろう。
懸命に呼吸を整えようとするZXの息は未だに荒い。
それでも倒れまいとしようとする意思は決して失わない。
両眼を見開き、己の倒すべき敵をハッキリと視認する。
右手を伸ばし、こちらの方へ掌を向けるエビルを。

「ふふっ、息が上がっているな……テックランサアアアアーーー!」

対するエビルの挙動には余裕すらも感じられる。
一瞬の内に発現させた、一振りの刃――テックランサーと呼ばれる武器をエビルは握りしめた。
一度二度と、感覚を確かめるようにテックランサーを振り廻し、空を切る。
やがて満足したのか、エビルは腰を落とし、下半身に力を込める。
棘状の刃が両の方向へ付いたそれを翳し、エビルの身体が滑るように地を駆けてゆく。
背部に装着されたバーニア部分が赤い軌跡を零れ落とし、一直線にある地点へ向かう。
当然、漸く完全に体勢を持ち直した村雨への元へ、脇目もくれずに。

「――負けるものかッ!!」

大人しく待ってやる義理もない。
ZXもエビルの動きに合わせるかのように、前方へ飛び掛かる。
持ち合わせた得物は一つもなく、全くの素手の状態。
未だに闘志を失っていない事を思わせるような、疲労を感じさせない気迫でエビルに拳を向けた。
ZXパンチ――今まで、度重なる戦闘で使ってきた拳を再び放とうと、ZXは叫ぶ。
数秒にも満たない時間を経て、大きな音が周囲に響く。
ZXの右拳をエビルのテックランサーの平面部分が受け止め、その衝撃を受け止めた事によって生じたものだ。
咄嗟に逆手に持ち換え、依然としてZXの右拳を押し止めるエビルが嬉しそうに言葉を紡ぐ。

「予想外だ、タカヤ兄さん以外にもお前のようなヤツが居るなんてね」
「兄だと? キサマ、兄弟が居るのか!?」
「……そうさ、俺は兄さんに会うまで死ねない。死のうと思っても死にきれないんだよ……!」

ZXが驚いたように言葉を返す。
返答には、一種の躊躇いのような感情が見受けられる。
ZXはエビルの事について知っている事は少ない。
数分前の言動より、他人を軽視している事ぐらいはわかるが、彼が抱える事情を知る筈はない。
故にZXはエビルに対して僅かな迷いを抱いてしまう。
兄と、もしや自分が姉と引き離された様に、何らかの理由でエビルが兄と引き離されたとしたなら――
確信はない。

「今度こそ、俺はこの場に居る兄さんと会う……相羽タカヤ――Dボゥイと呼ばれているあの兄さんとなぁッ!!」

だが、エビルの次の返答から、ZXは彼の只ならぬ執着心を感じ取る。
兄を想う絆の強さから湧き出たものか、はたまた兄への歪んだ愛憎から生まれた感情か。
打ち出されたエビルの左拳を身を捩り、辛うじて避けながらZXは思考を走らせる。
恐らく後者だろう、エビルの言葉からは愛情というよりも何か一種の怨念といったようなものであると見えた。
しかし、絶対にそうだとは言えないのも事実。
万が一にもエビルが心の奥底で、兄と純粋な再会を望んでいるなら――
その瞬間、ZXは自分の方へ、音を立てながら向かってくるものがある事に気づく。
袈裟に振りかぶられたテックランサーを、バックステップを取る事で避けながらZXは叫ぶ。
完全には避けきれなかった事により、左肩に走った裂傷を右腕で抑えながら、大声で。

「……聞け、エビルッ! お前がこれ以上誰も襲わないというのなら……俺が手伝ってやっても良い!
俺がお前と兄を会わせてやる……血を分けた兄弟に!」

ZXが漠然でありながらも抱いた決意。
それは条件次第で、エビルの手助けをする事。
正直、あまりにも甘い考えだと自分でも思う。
蘇ったシャドウは勿論、この場を脱出した後もBADANが控えている。
常識的に考えれば、一刻も早くエビルを倒すべきだろう。
人間を駆逐するという旨を含んだ宣言は、倒すには十分過ぎる理由。

しかし、ZXは気がかりでならない。
兄という言葉は、ZXにとってはたった一人の姉と等しい言葉。
共にBADANに捕えられ、彼らの研究材料にされ、ゴミ屑のように扱われた姉さん。
そして、記憶を失い、殺戮の限りを尽くした自分をいつも見守ってくれた、守ってやりたかった人。
“家族”、“記憶”、“姉”――自分が失くしてしまったものは、もう誰にも失わせたくない。
ZXの中では、BADANを始めとする悪を潰す事と同程度に成し遂げたい目的。
たとえそれが自分に刃を向ける者でもあっても、たとえテッカマンエビルと呼ばれる化け物であっても。
足腰に力を込めて、身体に掛けた勢いを殺し終わり、ZXはエビルの反応を窺う。
戦闘が避けられるなら越した事はない、真に倒すべき存在は別に居るのだから。
だが、エビルは一瞬、表情を固めたかのように口を閉じ――再び口を開く。

「……ふざけるなよ、お前……!」

並みの人間であるならば背筋が凍るような低い声で、エビルは呟く様に言葉を吐き捨てる。
異様とも言えるエビルのその様子に、ZXは思わず口を閉じる。
何か予想以上に不味いことを口走ってしまったか。
ZXがそう考えたのは至極自然な話。
神経を尖らせ、エビルの次の行動、言動に集中する。

そんな時、ZXの表情は驚愕の色に染まる。
気を抜いたわけなどある筈もない。
にも関わらずに、ZXはエビルの動きを一瞬見失い、反応が遅れた。
赤い閃光を燃やすように放つ、背部バーニアを吹かしながら、後方へ跳んだエビル。
一回の後ろ返りを交え、宙に浮く形で再びZXとエビルの視線が交わる。
片や予想以上の動きに対しての、驚きに塗れた瞳と対照的に。
激しい怒りのようなものに塗り潰された瞳が睨んだ。


「貴様如きが、俺とタカヤ兄さんの事に口を出すんじゃない……何も、何も知らない奴がああああああああああ!!」


思わず冷静さを失い、エビルは一眼を気にする事なく大声を張り上げる。
そう、ZXの言葉はエビルにとって、不快感しか湧きあがらせない。
エビルことシンヤにとってタカヤは、尊敬するべき兄でもあったが同時に屈折した思いの対象でもあった。
常に自分の上を行き、いつか乗り越えたいと思った。
その感情はラダムの支配によって、より大きなものとなっている。
まるで栓が開けっ放しの蛇口から流水が止まることなく流れ出るような勢いで。
一種のコンプレックスとも言える、歪んだ思いが爆発しそうになる。

兄と会わせてやるだと?言われるまでもない。
何が待っていようとも会って、今度こそテッカマンの姿同士で決着をつける。
漸くつけられる兄弟の戦いに、口を挟む者など一人も許しはしない。
気がつけばテックランサーの柄を、必要以上に強く握り、エビルは跳んだ。
巡りゆく周囲の景色に眼もくれず、身体にぶつかる大気の厚みなど押し飛ばし、全力の速度で接近する。
タカヤ兄さん、そしてゆたかのような優しさを自分に投げ掛け、何故か一瞬言葉が出なかった。
その原因――空を飛行する自分、叫びに対して、どう対処するか決めかねているような様子を見せる人物。
仮面ライダーZXに向かって、エビルはテックランサーを翳し、勢いに任せて突撃する。


「ぬうううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


テックランサーの刃が漆黒の中、銀色の光を放つ。
ラダム獣と呼ばれる、一種の一般兵共を率いる存在であるテッカマン。
エビルはそのテッカマンの中でも、持ちうる実力は高い。
そんな彼専用のテックランサーが、並の武器である事など最早言う必要はないだろう。
更に絶対に死ねない想いがあれば、エビルがZXを逃す事もまた無理な話だ。
やがて、エビルとZXの身体が交差し、エビルは勢いを殺さずにそのまま突き抜ける。
そして音が響く。
嫌な音が、肉が引き裂かれるような音が確かに周囲に響く。
ある程度の距離を稼いだ後にエビルは立ち止まり、後ろを振り返った。
依然として右手に持ったテックランサーの刃には、べっとりと赤い液体が付着し、同時にZXの身体が崩れるように倒れ込む。
ZXの左腰辺りにはこの戦いで、一際大きな傷跡が覗き、そこから出血が始まっている。
満足げに状況を確認したエビルは、再び天高く跳躍する――腕を広げ、胸部を突き出すような構えを空中で取った。


「――これで終わりだッ!!」


かつて参加させられた殺し合い。
そこでエビルは計三人の参加者を殺害した。
一人は既に虫の息ともいえる状況を、首輪のサンプルのために仕留めた。
そして後の二人は――奇妙な出会いであったが、確かな愛を交わし合った二人の男女。
手頃な銃を使用したのだろうか――違う。
テッカマンの異常な筋力を用いてだろうか――それも違う。
ならばテックランサーを振い、文字通り二人を引き裂いたのだろうか――生憎それもまた違う。
ではエビルはどうしたのか。
言ってみれば簡単な答えだ。
硬く覆われた外殻、あまりにも発達した身体能力、外宇宙の技術が用いられた武器。
それら全てをひっくるめ、己の武装とするテッカマンが持つ能力の中でも一際特徴的な能力。
テッカマンの体内に蓄積された、反物質粒子・フェルミオンを加速し、相手にぶつける。
反物質と物質がぶつかり合えば、物質は対消滅を迎える。
そう、その構えこそが、フェルミオンを一種の弾丸として撃ち出すための予備動作。
“ボルテッカ”と呼ばれ、二人の恋人達を虚無の闇に葬った極光。


「PSY(サイ)――――――!!」


唸りのような音が、地響きのような音がエビルを起点に、円心状に響く。
胸に刻まれた六つのモジュールが輝きを放つ。
ボルテッカの発射口となる部分からは、光の収束が止まらない。
発射先は只、一点のみ。
今もうつ伏せに倒れるZXは、十分に射程距離の中に入っている。
動かない標的、外すわけもない。
そしてエビルが周囲に声が聞こえてしまいそう程に、大きな声を伴って叫ぶ。
勝利への喜びと、ZXへの怒りと、そして彼が見せた優しさに対する言いようのない感情。
それら全てをごちゃ混ぜにして、叩き込む。
ボルテッカの中でも、エビルだけに許された特別なボルテッカを――


「ボオオオオオオルッテッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーー!!」


PSYボルテッカをZXに向けて、撃ち放った。



◇     ◇     ◇



『――これで終わりだッ!!』



終わり……エビルがそう言っているのが確かにそう聞こえる。
終わりたくはない、未だ何も出来てはいないのだから。
だが、意思に反して身体は動こうとはしない。
情けない、貰ったダメージは決して多くはない筈だが、一発一発が重かった。
特にたった今横殴りに斬りつけられた裂傷は、確実に己の力を奪ってゆく。
それに再び付けられた首輪のせいか、またもや本来の力は抑えられているような感覚がある。
まあ、それはきっとエビルの方も同じ状況であり、言っても仕方のない事だろうが。
気がついてみれば呟く言葉は、弱音染みた事しか出てこない。



『PSY(サイ)――――――!!』



エビルの叫びすらも段々と遠くなっていくような感覚がこびりつく。
何の言葉だろうか。
わからない、検討はつかないが自分にとって不都合な事ぐらいはわかる。
倒れ込んだ自分に追撃を仕掛けずに、何処かに留まっているには理由がある。
そう、きっと自分にトドメを刺す為の何かだ。
結局、此処で朽ち果てる身でしかない自分を、死後の世界へとやらに連れて行くための――
其処まで考え、ZXはふと自分は結局なんの為に生きていたのかを思い返す。
BADANに攫われ、姉と記憶を奪われ、数千以上の命を礎にして手に入れたものは大首領の器としての存在。
だが、自分は変われた筈だ。
掛け替えのない仲間を守るために、もう二度とあんな想いを誰にもさせないため、BADANの殺し合いを潰すと――そう誓った筈だ。



故にZXは自身に問いかける。



こんな終わり方で満足なのか――ノゥだ。

こんな場所で終われるのか――ノゥだ。

これで示しがつくのか――ノゥだ。


自分を生かす為に死んでゆき、自分を変えてくれた、受け入れてくれたあの人達に、胸を張って自分を誇れるか――絶対にノゥ。

ならば、自分はどうする。
そんな事は口に出す事が面倒な程に、決まり切っている。
この場に居る仲間達を全員救い、再びあの世界に戻るため、そしてあの少女の力となるために――



もう一度、自分を奮い立たせる!



『ボオオオオオオルッテッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーー!!』




あの時のように、己の存在をこの世界へ曝け出すように――――!



◇     ◇     ◇




017:愛ゆえに 投下順 018:激突!仮面ライダーゼクロスVSテッカマンエビル(後編)
017:愛ゆえに 時系列順 018:激突!仮面ライダーゼクロスVSテッカマンエビル(後編)
000:OP 開演 村雨良 018:激突!仮面ライダーゼクロスVSテッカマンエビル(後編)
相羽シンヤ 018:激突!仮面ライダーゼクロスVSテッカマンエビル(後編)


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー