第544話:大崩壊/ストレイロード(正に外道) 作:◆eUaeu3dols
唄が響いた。
「通るならばその道。開くならばその扉」
「四界の闇を総べる王」
「四界の闇を総べる王」
彼女達は唱っていた。
「吼えるならばその口。作法に記され、望むならば王よ」
「汝の欠片の縁に従い」
「汝の欠片の縁に従い」
自らの内より沸き上がる魔性の詩を。
「俄にある伝説の一端にその指を、慨然なくその意志を」
「汝等全員の力もて」
「汝等全員の力もて」
その歌声は絡み合って。
「もう鍵は無し」
「此に更なる魔力を与えよ」
「此に更なる魔力を与えよ」
合唱となった。
「ぁ……くああああああぁっ」
シャナの身につけたタリスマンが生みだした強大な力が、密着するフリウに叩き込まれる。
その無理矢理な使い方と初めての力の奔流にフリウは叫び。悶え。
目を見開いて絶叫した。
「開門よ――成れ!!」
その視界の中に、白銀に輝く破壊の化身が産声を上げた。
流れ込んだ暴力的な力を受けてか、まるで制限の鎖から解き放たれたが如き力を秘めて。
破壊精霊は降臨した。
シャナの身につけたタリスマンが生みだした強大な力が、密着するフリウに叩き込まれる。
その無理矢理な使い方と初めての力の奔流にフリウは叫び。悶え。
目を見開いて絶叫した。
「開門よ――成れ!!」
その視界の中に、白銀に輝く破壊の化身が産声を上げた。
流れ込んだ暴力的な力を受けてか、まるで制限の鎖から解き放たれたが如き力を秘めて。
破壊精霊は降臨した。
そして尚も二人は唱う。
シャナは腕の中のフリウに告げる。
「あの二人はあの人達の敵だ。
あの二人は敵で、あの二人の仲間も敵だ。
だから」
シャナは指差す。
あの人達を襲った女と、その女の肩に手を掛けている少女。仲間なのだ。
それにそれらの仲間らしい三人の男。待っていたらしい二人は茂みの中に立っている。
戦いを終えた後で待っていた仲間と落ち合ったのだ。
シャナの思考の中で、それは他に考えようもない程に確かな事だった。
その全てを示して言った。
「あいつらは、全部殺していい。ううん、殺さなきゃならない」
「判った。それなら」
少女達は合唱する。
「殺す!」
「壊す!」
その叫びが届くよりも早く、破壊精霊は拳を叩き込んでいた。
シャナは腕の中のフリウに告げる。
「あの二人はあの人達の敵だ。
あの二人は敵で、あの二人の仲間も敵だ。
だから」
シャナは指差す。
あの人達を襲った女と、その女の肩に手を掛けている少女。仲間なのだ。
それにそれらの仲間らしい三人の男。待っていたらしい二人は茂みの中に立っている。
戦いを終えた後で待っていた仲間と落ち合ったのだ。
シャナの思考の中で、それは他に考えようもない程に確かな事だった。
その全てを示して言った。
「あいつらは、全部殺していい。ううん、殺さなきゃならない」
「判った。それなら」
少女達は合唱する。
「殺す!」
「壊す!」
その叫びが届くよりも早く、破壊精霊は拳を叩き込んでいた。
――怪物はここに居る。
* * *
パイフウはそれを見た瞬間、全身に寒気を感じた。
あの少女がこれまでに無い絶叫と共に呼び出した銀の巨人。
(あれは危険だ)
そんな事は判っている。これまでだって危険すぎる程に危険だった。
それなのに何かが違う。
あれを言葉に表すならそれは文字通り……
「……破壊」
破壊精霊である事は、破壊というそれそのものである事だ。
パイフウは初めてそれを感じ取っていた。
あの少女がこれまでに無い絶叫と共に呼び出した銀の巨人。
(あれは危険だ)
そんな事は判っている。これまでだって危険すぎる程に危険だった。
それなのに何かが違う。
あれを言葉に表すならそれは文字通り……
「……破壊」
破壊精霊である事は、破壊というそれそのものである事だ。
パイフウは初めてそれを感じ取っていた。
初撃は全員の中央に叩き込まれた。
一撃で石段を粉々にして粉塵を巻き上げた。
人が数千数万回と勢いよく体重を乗せても砕けない石の塊があっさりと粉砕された。
誰も直撃を受けなかったのは幸運か、偶然か、それとも意図したものか。
火乃香が叫ぶ。
「先生! みんな! ……下に向かって!」
それは間違ってはいない。
破壊精霊はその巨躯から拳を振り下ろしてくる。
坂の上から下に向けてそれをするのは難しく、少なくとも攻撃の一つは凌ぎやすくなるだろう。
だが当然、シャナとフリウもそれを止めるために動く。
石段の下側に舞い降りたシャナは刀を構え、彼女達を睨む。
片腕は依然フリウを掴むのに使われて、もう片手は炎に包まれた刀を握っている。
「くそ、待て! どういう理由で俺達を」「うるさい!」
ヘイズの問い掛けをシャナは完全に無視した。敵の言葉に惑わされてなど居られない。
パイフウがライフルを構えて射撃する。シャナはその銃弾を残らず刀で叩き落とした。
「コンビネーション――」「危ない!」
コミクロンが攻撃魔術を放とうとする。
火乃香が彼を抱えて横っ飛びした次の刹那に全てを踏み砕く足が降ってくる。
ヘイズが指を鳴らそうとする。今のシャナの前には遅すぎた。
パイフウは動揺していた。
火乃香は困惑していた。
ヘイズもコミクロンも一瞬だけ把握が遅れた。
連携などできる筈もない。
そこには大きすぎる隙が生まれていた。
「敵は!」
フリウを置いて、音が放たれるより早くシャナが踏み込んだ。
「全部!」
フリウの視界の中で、音すら砕く破壊の拳が振り下ろされた。
絶望で繋がれた二人は完璧に息を合わせて終末を合唱する。
「殺す!」
「壊す!」
逃れえない破滅が迫り。
一撃で石段を粉々にして粉塵を巻き上げた。
人が数千数万回と勢いよく体重を乗せても砕けない石の塊があっさりと粉砕された。
誰も直撃を受けなかったのは幸運か、偶然か、それとも意図したものか。
火乃香が叫ぶ。
「先生! みんな! ……下に向かって!」
それは間違ってはいない。
破壊精霊はその巨躯から拳を振り下ろしてくる。
坂の上から下に向けてそれをするのは難しく、少なくとも攻撃の一つは凌ぎやすくなるだろう。
だが当然、シャナとフリウもそれを止めるために動く。
石段の下側に舞い降りたシャナは刀を構え、彼女達を睨む。
片腕は依然フリウを掴むのに使われて、もう片手は炎に包まれた刀を握っている。
「くそ、待て! どういう理由で俺達を」「うるさい!」
ヘイズの問い掛けをシャナは完全に無視した。敵の言葉に惑わされてなど居られない。
パイフウがライフルを構えて射撃する。シャナはその銃弾を残らず刀で叩き落とした。
「コンビネーション――」「危ない!」
コミクロンが攻撃魔術を放とうとする。
火乃香が彼を抱えて横っ飛びした次の刹那に全てを踏み砕く足が降ってくる。
ヘイズが指を鳴らそうとする。今のシャナの前には遅すぎた。
パイフウは動揺していた。
火乃香は困惑していた。
ヘイズもコミクロンも一瞬だけ把握が遅れた。
連携などできる筈もない。
そこには大きすぎる隙が生まれていた。
「敵は!」
フリウを置いて、音が放たれるより早くシャナが踏み込んだ。
「全部!」
フリウの視界の中で、音すら砕く破壊の拳が振り下ろされた。
絶望で繋がれた二人は完璧に息を合わせて終末を合唱する。
「殺す!」
「壊す!」
逃れえない破滅が迫り。
「させねえ!」
体勢を崩した火乃香とコミクロンに迫るシャナの剣戟を、真紅の長剣が。
体勢を崩した火乃香とコミクロンに迫るシャナの剣戟を、真紅の長剣が。
「もちろんだとも」
降りかかる破壊精霊の拳に潰される筈だった者達を、美しき繊手が。
降りかかる破壊精霊の拳に潰される筈だった者達を、美しき繊手が。
殺される筈だった者達を守りぬき、壊される筈だった者達を救いだした。
* * *
少し時間は戻る。
それは彼らがそこに辿り着くまでの時間だ。
メフィストは走っていた。終も走っていた。そしてベルガーも、走っていた。
だがその走りは他よりも僅かに遅れていた。
今、ベルガーの体に行き渡る酸素の量は半分程度になっている。
これは標高5000mの高地で走っているような物だ。
その状態で超人的な肉体能力を誇るベルガーと同等以上の仲間と併走出来ているのは、
メフィストと終が周囲を警戒しながら走り、且つ会話をこなしているからだった。
「……それで結局、どうするんだよ? あの二人は」
「どちらの事かね?」
「パイフウと古泉って二人の事だ!」
メフィストはふむと頷き答えた。
「もう一度だけ降伏を迫るとも。
それが受け入れられなければ安楽死。それが妥当な処置だろう。
だがそれは、憎しみによってではならない」
「そんな難しいことは考えねえ!」
心地よい答えが結ばれた。
意志はまだ絶えず。意志はまだ止まらず。
人は進む意志さえあれば前に進めるのだ。
腕を、足を無くしても。心の支えが折られても。
例え“命を落としても継いでくれる者が居る限り”、人の意志は前へと進むのだ。
(いいね……爽快だ)
ベルガーは楽しげに唇を歪めた。不格好な、満足げな笑みを。
笑みは一瞬で崩し、口と鼻で呼吸を再開する。
酸素はどれだけ有っても足りない程だ。
片肺に詰め込めるだけ夜の冷たい酸素を取り込んで、肺から全身の血管へと送り込む。
冷やされた血が全身を流れるのにまるで冷える気はしない。
沸き起こる激情が未だに全身を駆けめぐる。
怒りと悲しみ。それに怨みや憎しみだって無いと言えば嘘になる。
前に進めるのはただ、ダナティアの仲間だった自分の想いの為ではなく、
自分の仲間だったダナティアの想いの為に何かをしたいと考えたからだ。
どっちにした所で、それは生きている自分達の為にもなる。
(それならこの方が、前向きだ)
だからベルガーも選ぶ。前進を。
だがベルガーが気になるのはパイフウと古泉よりも……。
「それじゃもう二人の方はどうするつもりだ?」
終はベルガーの問いを代弁した。
『……シャナ』
コキュートスが呟きを漏らす。愛し子に付けられている名を。
「見てから判断という所だろう。私よりも君が決める事かもしれないがね」
「……判ってる、よ」
荒い息の中から最低限の言葉を発する為の呼吸を工面する。
「今度こそ……シャナを…………救う!」
これまで届かなかった分まで。ダナティア達の失われた手が届かなかった分まで。
ベルガーとてシャナがどれだけの傷を負ったかは知らない。
たった6時間足らず別れていたその間にどれだけ心が痛んだのかを知らない。
何がどう転べばダナティアを殺した少女を武器にダナティアの敵達を皆殺そうなどと、
そんな無茶な結論と行動に至るのかも判らない。肉体の事すら知らない。
『だがあの子は……もう完全に、吸血鬼となってしまった』
だが。
「人を喰らう……かい?」
『それは無い。あの子の最後の矜持だ』
「なら一つは解決だ。ヒビだらけにはなっていても……魂は、死んじゃいないさ」
『フレイムヘイズである事も、我と共に往く事も捨てたというのに?』
ベルガーは荒い息で笑い、溜め込んでいた息を使った。
「全てを失ったってだけなら、また一から取り戻せば良い。それだけの事だろ」
『…………!!』
「それには心を救うって条件が有るけどな。皇女の次は俺が約束する。
……シャナの心を、救う。俺は世界で二番目に粘る男だぜ?」
前に進む気持ち。
それさえあれば何度だってやり直せる。どんな所からだってやり直せる。
ベルガーはそう言ってのけた。
それは希望や勇気とも呼ばれる想い。絶望に打ち勝つ切り札。
ベルガーはそれをもってして、絶望に挑む。
それは彼らがそこに辿り着くまでの時間だ。
メフィストは走っていた。終も走っていた。そしてベルガーも、走っていた。
だがその走りは他よりも僅かに遅れていた。
今、ベルガーの体に行き渡る酸素の量は半分程度になっている。
これは標高5000mの高地で走っているような物だ。
その状態で超人的な肉体能力を誇るベルガーと同等以上の仲間と併走出来ているのは、
メフィストと終が周囲を警戒しながら走り、且つ会話をこなしているからだった。
「……それで結局、どうするんだよ? あの二人は」
「どちらの事かね?」
「パイフウと古泉って二人の事だ!」
メフィストはふむと頷き答えた。
「もう一度だけ降伏を迫るとも。
それが受け入れられなければ安楽死。それが妥当な処置だろう。
だがそれは、憎しみによってではならない」
「そんな難しいことは考えねえ!」
心地よい答えが結ばれた。
意志はまだ絶えず。意志はまだ止まらず。
人は進む意志さえあれば前に進めるのだ。
腕を、足を無くしても。心の支えが折られても。
例え“命を落としても継いでくれる者が居る限り”、人の意志は前へと進むのだ。
(いいね……爽快だ)
ベルガーは楽しげに唇を歪めた。不格好な、満足げな笑みを。
笑みは一瞬で崩し、口と鼻で呼吸を再開する。
酸素はどれだけ有っても足りない程だ。
片肺に詰め込めるだけ夜の冷たい酸素を取り込んで、肺から全身の血管へと送り込む。
冷やされた血が全身を流れるのにまるで冷える気はしない。
沸き起こる激情が未だに全身を駆けめぐる。
怒りと悲しみ。それに怨みや憎しみだって無いと言えば嘘になる。
前に進めるのはただ、ダナティアの仲間だった自分の想いの為ではなく、
自分の仲間だったダナティアの想いの為に何かをしたいと考えたからだ。
どっちにした所で、それは生きている自分達の為にもなる。
(それならこの方が、前向きだ)
だからベルガーも選ぶ。前進を。
だがベルガーが気になるのはパイフウと古泉よりも……。
「それじゃもう二人の方はどうするつもりだ?」
終はベルガーの問いを代弁した。
『……シャナ』
コキュートスが呟きを漏らす。愛し子に付けられている名を。
「見てから判断という所だろう。私よりも君が決める事かもしれないがね」
「……判ってる、よ」
荒い息の中から最低限の言葉を発する為の呼吸を工面する。
「今度こそ……シャナを…………救う!」
これまで届かなかった分まで。ダナティア達の失われた手が届かなかった分まで。
ベルガーとてシャナがどれだけの傷を負ったかは知らない。
たった6時間足らず別れていたその間にどれだけ心が痛んだのかを知らない。
何がどう転べばダナティアを殺した少女を武器にダナティアの敵達を皆殺そうなどと、
そんな無茶な結論と行動に至るのかも判らない。肉体の事すら知らない。
『だがあの子は……もう完全に、吸血鬼となってしまった』
だが。
「人を喰らう……かい?」
『それは無い。あの子の最後の矜持だ』
「なら一つは解決だ。ヒビだらけにはなっていても……魂は、死んじゃいないさ」
『フレイムヘイズである事も、我と共に往く事も捨てたというのに?』
ベルガーは荒い息で笑い、溜め込んでいた息を使った。
「全てを失ったってだけなら、また一から取り戻せば良い。それだけの事だろ」
『…………!!』
「それには心を救うって条件が有るけどな。皇女の次は俺が約束する。
……シャナの心を、救う。俺は世界で二番目に粘る男だぜ?」
前に進む気持ち。
それさえあれば何度だってやり直せる。どんな所からだってやり直せる。
ベルガーはそう言ってのけた。
それは希望や勇気とも呼ばれる想い。絶望に打ち勝つ切り札。
ベルガーはそれをもってして、絶望に挑む。
「見えた、あそこだ」
メフィストが指し示すそこは石段だった。それとそびえ立つ……
「さっきの巨人!」
シャナと名も知らぬ少女が、巨人を従え戦っていた。
気のせいか巨人は先程見た時よりも遥かに強大に見える。
その場にいるのはあの二人に……3、4、5人!
「なんであんなに居るんだよ!?」
「知るか!」
彼らは足を速める。
「敵は!」
叫びと共にシャナが神速で踏み込んだ。
「全部!」
シャナと居た少女の叫びと共に巨人が拳を振り上げる。
「殺す!」
「壊す!」
振り下ろされる死。それを食い止めるために。
ベルガーより呼吸に余裕の有った終とメフィストが地を蹴った。
「させねえ!」
終の知らない者達に迫るシャナの剣戟を、終の握る真紅の長剣が。
「もちろんだとも」
降りかかる破壊精霊の拳に潰される筈だった者達を、メフィストの美しき繊手が。
殺される筈だった者達を守りぬき、壊される筈だった者達を救いだした。
「さっきの巨人!」
シャナと名も知らぬ少女が、巨人を従え戦っていた。
気のせいか巨人は先程見た時よりも遥かに強大に見える。
その場にいるのはあの二人に……3、4、5人!
「なんであんなに居るんだよ!?」
「知るか!」
彼らは足を速める。
「敵は!」
叫びと共にシャナが神速で踏み込んだ。
「全部!」
シャナと居た少女の叫びと共に巨人が拳を振り上げる。
「殺す!」
「壊す!」
振り下ろされる死。それを食い止めるために。
ベルガーより呼吸に余裕の有った終とメフィストが地を蹴った。
「させねえ!」
終の知らない者達に迫るシャナの剣戟を、終の握る真紅の長剣が。
「もちろんだとも」
降りかかる破壊精霊の拳に潰される筈だった者達を、メフィストの美しき繊手が。
殺される筈だった者達を守りぬき、壊される筈だった者達を救いだした。
彼らは駆け付けた。
竜堂終とメフィストが。
それならば勿論――ベルガーも辿り着く。そのはずだ。
竜堂終とメフィストが。
それならば勿論――ベルガーも辿り着く。そのはずだ。
シャナは目前に現れた少年を睨んで脇目を振る余裕が生まれなかった。
フリウはそうではなく、反射的に彼らが来た方向に脇目を振った。
破壊精霊の居場所は常に少女の視界の中にある。
瞬時に破壊精霊は消え去り新たな場所にその身を顕現させた。
無音で瞬時に走り来るダウゲ・ベルガーの目の前に。
その巨大な拳が振り下ろされる。
これまで走り続け保っていた速度は転進も停止も許さない。避けられない。
逃れ得ぬ滅びの運命を前に、尚もベルガーは不敵な笑みを浮かべた。
彼の手の中に有る武器の名は“運命”。
運命は彼の手に握られている。
素早く単二式精燃槽を連結し振り上げる。
正面から。
如何な破壊であれ、その辿るべき運命を切り裂けば訪れる事はない。
(だが機会は一瞬)
迫り来る破滅の運命は剰りにも強大で、彼の手の中に有る精燃槽は僅かしかない。
刃を振り下ろすその一瞬に全てを賭けなければならない。
(――十分だ)
ベルガーは破滅を前に尚も不敵な笑みを崩さない。
破壊精霊の拳が辿り着く直前に、ベルガーは運命を振り下ろした。
黒い刃が降りる。進む。ベルガーの目前に。
破壊の拳は迫る。唸る。ベルガーの目前に。
逃れ得ぬ破滅の運命を前にベルガーは自ら運命を紡ぎ出す。
ベルガーは運命を変える詞を――
フリウはそうではなく、反射的に彼らが来た方向に脇目を振った。
破壊精霊の居場所は常に少女の視界の中にある。
瞬時に破壊精霊は消え去り新たな場所にその身を顕現させた。
無音で瞬時に走り来るダウゲ・ベルガーの目の前に。
その巨大な拳が振り下ろされる。
これまで走り続け保っていた速度は転進も停止も許さない。避けられない。
逃れ得ぬ滅びの運命を前に、尚もベルガーは不敵な笑みを浮かべた。
彼の手の中に有る武器の名は“運命”。
運命は彼の手に握られている。
素早く単二式精燃槽を連結し振り上げる。
正面から。
如何な破壊であれ、その辿るべき運命を切り裂けば訪れる事はない。
(だが機会は一瞬)
迫り来る破滅の運命は剰りにも強大で、彼の手の中に有る精燃槽は僅かしかない。
刃を振り下ろすその一瞬に全てを賭けなければならない。
(――十分だ)
ベルガーは破滅を前に尚も不敵な笑みを崩さない。
破壊精霊の拳が辿り着く直前に、ベルガーは運命を振り下ろした。
黒い刃が降りる。進む。ベルガーの目前に。
破壊の拳は迫る。唸る。ベルガーの目前に。
逃れ得ぬ破滅の運命を前にベルガーは自ら運命を紡ぎ出す。
ベルガーは運命を変える詞を――
* * *
マンションの一室。
「おかえりなさい、リナさん。向こうはどうなっていました?」
早口で、それでも丁寧な口調は崩さずに保胤は問い掛けた。
「メフィストは終とベルガーを連れて出ていったわ。
逃した奴らの追撃に向かったみたい。……それから、必ず帰ると」
「そうですか。それでは携帯電話は切っておきます」
そう言って保胤は掛けっぱなしになっていた携帯電話を切った。
そして、出なかった名前を聞いた。
「……ダナティアさんは?」
保胤の続く問いに、苛立ちながらも答える。
「ダナティアは死んだわ。殺された」
「なっ……!」
「なんだって!?」
保胤は息を呑む。臨也も驚いた様子を見せた。
「一体……何故?」
「向こうに来てた二人との戦いの隙を、更に現れたもう一人に突かれたのよ」
「……それが巨人を使っていた者ですか」
「巨人? さっきの振動はそれ?」
「ええ、さっき……」
保胤は話す。リナが地下を経由した為に見る事の無かった銀色の巨人の事を。
それは突如現れ舞台組のマンションを攻撃した。
(それにやられた……?)
マンションが激震していた程だ。その破壊力たるや想像を絶する。
それも隙を突かれてとなれば、彼女が殺された事も理解出来る気がした。
……考えるだけで胸がざわつくが。
「その巨人はどうしたの? ベルガー達が出る時にはもう揺れは収まってたわ」
「おそらく、シャナさんが倒したものかと」
「……え?」
「戻ってきたんです、シャナさんが! リナさんと入れ違いに、ここに」
リナは息を呑む。
「どういう事!? それじゃシャナは何処に行ったの!?」
「多分、巨人を操っていた者を倒して……それからは判りません」
「どうして?」
「千絵さんを置いて見に行けるわけが無いでしょう」
内心の焦燥や動揺を押し込めて、言った。
保胤の側には譫言を呟くばかりの千絵が居る。臨也がからかうように言った。
「ああ、俺は数に入ってないわけだね」
「それは……」
臨也の言葉に気の良い保胤は言葉に詰まる。
リナにも保胤の言い分は判る。既に信用を得ていたセルティが信用できないと言った人物に、
精神的に錯乱している仲間を預けるのは勇気の要る決断だ。
「そんな事より……それで、シャナは帰って来ずに行っちゃったわけ?」
「はい」
「あんの馬鹿はぁ……!」
歯が軋んだ。怒りと不満と苛立ちの音が鳴った。
(……ムカツクわ)
手を握り締め、歯を食いしばって怒りの噴出を抑える。
(ダナティア。あたしにあんなに説教して、力を見せつけて、その挙げ句に勝手に逝くんじゃないわ。
ダナティアを殺した巨人使い。許さない。絶対に。
シャナ。大馬鹿。折角帰ってきたのにどうしてまた出ていったのよ?
千絵。『物語』だかなんだか知らないけど前に逃げるんじゃなかったの? 逃げ切りなさいよ!
保胤。こんな状況にも澄まし顔? 何を考えてるのよアンタは。
それに……あたしも)
一度は茉衣子を取り押さえたのに一瞬の隙を突かれて逃げられて、セルティが殺された。
向こうの舞台組を地下を経由で見に行けばシャナと擦れ違った。
やった事が裏目に出るのは歯痒くて、そして憎らしかった。
保胤はその噴出する怒りを感じ取り止めようとする。
「リナさん、怨念に囚われてはいけません」
「……アンタはこんな時でも冷静ってわけ?」
「こんな時だからこそです」
それは正論だ。
保胤とて焦りや後悔、動揺で一杯になっている内心を抑え込んでいた。
少し冷静になって考えればリナにも保胤の心が判っただろう。だが。
今のリナには仲間が何人も死んで尚も動揺の様子を見せない保胤が気に障って仕方がなかった。
「光よ」
「リナさん!?」
ヴン、と音を立ててリナの持つ柄から光が噴出し、収束。光の剣を生成する。
疲弊しているせいで刀身はそれほど長くなかったが、安定していて丁度良い。
それを一振りして、保胤の首もとに突きつけた。
「何をする気です」
保胤は思わず一歩後ずさった。
一歩詰めた。二歩後ずさった。
「怨念怨念って、アンタにはあたし達の気持ちが判るの?
一人でこの世界に連れて来られたあんたに!」
これじゃ八つ当たりだとリナは思う。
情けなくて腹立たしい程なのに、だから余計にむしゃくしゃした気持ちが止まらない。
「同じ世界から連れて来られた仲間が。親友が。大切な人が。
目の前で。あるいは知りもしない場所で知りもしない時間に殺されていく。
それが判るとでもいうの!?」
「………………」
保胤は俯き、唇を噛んだ。
(何をしているのです、僕は。リナさんが怒るのも当然です)
これは彼の失敗だった。
保胤にはこの島に連れて来られる前からの友や仲間は居ない。
少なくとも放送の度に知らない何処かで友や仲間が死んでいく不安は殆ど無かった。
ある意味、安全な場所に立っていたのだ。
そこから発せられた説法を誰が聞けるというのだろう。
(ですが……僕も、もうとっくの昔にそんな場所から出てしまっているのです)
全ては過去形で括られる。
リナの言葉は誤解と勢いに基づいた物でしかない。
だからその答えを伝えようと、顔を上げてリナと目を合わせて。
「答えなさいよ!」
リナは大股に一歩で二歩を詰め、光の剣を振り下ろした。
切り裂くわけではなく、ただ保胤の眼前に勢いよく突きつける為に。
保胤は目を逸らさずにそれを見つめそして――
「おかえりなさい、リナさん。向こうはどうなっていました?」
早口で、それでも丁寧な口調は崩さずに保胤は問い掛けた。
「メフィストは終とベルガーを連れて出ていったわ。
逃した奴らの追撃に向かったみたい。……それから、必ず帰ると」
「そうですか。それでは携帯電話は切っておきます」
そう言って保胤は掛けっぱなしになっていた携帯電話を切った。
そして、出なかった名前を聞いた。
「……ダナティアさんは?」
保胤の続く問いに、苛立ちながらも答える。
「ダナティアは死んだわ。殺された」
「なっ……!」
「なんだって!?」
保胤は息を呑む。臨也も驚いた様子を見せた。
「一体……何故?」
「向こうに来てた二人との戦いの隙を、更に現れたもう一人に突かれたのよ」
「……それが巨人を使っていた者ですか」
「巨人? さっきの振動はそれ?」
「ええ、さっき……」
保胤は話す。リナが地下を経由した為に見る事の無かった銀色の巨人の事を。
それは突如現れ舞台組のマンションを攻撃した。
(それにやられた……?)
マンションが激震していた程だ。その破壊力たるや想像を絶する。
それも隙を突かれてとなれば、彼女が殺された事も理解出来る気がした。
……考えるだけで胸がざわつくが。
「その巨人はどうしたの? ベルガー達が出る時にはもう揺れは収まってたわ」
「おそらく、シャナさんが倒したものかと」
「……え?」
「戻ってきたんです、シャナさんが! リナさんと入れ違いに、ここに」
リナは息を呑む。
「どういう事!? それじゃシャナは何処に行ったの!?」
「多分、巨人を操っていた者を倒して……それからは判りません」
「どうして?」
「千絵さんを置いて見に行けるわけが無いでしょう」
内心の焦燥や動揺を押し込めて、言った。
保胤の側には譫言を呟くばかりの千絵が居る。臨也がからかうように言った。
「ああ、俺は数に入ってないわけだね」
「それは……」
臨也の言葉に気の良い保胤は言葉に詰まる。
リナにも保胤の言い分は判る。既に信用を得ていたセルティが信用できないと言った人物に、
精神的に錯乱している仲間を預けるのは勇気の要る決断だ。
「そんな事より……それで、シャナは帰って来ずに行っちゃったわけ?」
「はい」
「あんの馬鹿はぁ……!」
歯が軋んだ。怒りと不満と苛立ちの音が鳴った。
(……ムカツクわ)
手を握り締め、歯を食いしばって怒りの噴出を抑える。
(ダナティア。あたしにあんなに説教して、力を見せつけて、その挙げ句に勝手に逝くんじゃないわ。
ダナティアを殺した巨人使い。許さない。絶対に。
シャナ。大馬鹿。折角帰ってきたのにどうしてまた出ていったのよ?
千絵。『物語』だかなんだか知らないけど前に逃げるんじゃなかったの? 逃げ切りなさいよ!
保胤。こんな状況にも澄まし顔? 何を考えてるのよアンタは。
それに……あたしも)
一度は茉衣子を取り押さえたのに一瞬の隙を突かれて逃げられて、セルティが殺された。
向こうの舞台組を地下を経由で見に行けばシャナと擦れ違った。
やった事が裏目に出るのは歯痒くて、そして憎らしかった。
保胤はその噴出する怒りを感じ取り止めようとする。
「リナさん、怨念に囚われてはいけません」
「……アンタはこんな時でも冷静ってわけ?」
「こんな時だからこそです」
それは正論だ。
保胤とて焦りや後悔、動揺で一杯になっている内心を抑え込んでいた。
少し冷静になって考えればリナにも保胤の心が判っただろう。だが。
今のリナには仲間が何人も死んで尚も動揺の様子を見せない保胤が気に障って仕方がなかった。
「光よ」
「リナさん!?」
ヴン、と音を立ててリナの持つ柄から光が噴出し、収束。光の剣を生成する。
疲弊しているせいで刀身はそれほど長くなかったが、安定していて丁度良い。
それを一振りして、保胤の首もとに突きつけた。
「何をする気です」
保胤は思わず一歩後ずさった。
一歩詰めた。二歩後ずさった。
「怨念怨念って、アンタにはあたし達の気持ちが判るの?
一人でこの世界に連れて来られたあんたに!」
これじゃ八つ当たりだとリナは思う。
情けなくて腹立たしい程なのに、だから余計にむしゃくしゃした気持ちが止まらない。
「同じ世界から連れて来られた仲間が。親友が。大切な人が。
目の前で。あるいは知りもしない場所で知りもしない時間に殺されていく。
それが判るとでもいうの!?」
「………………」
保胤は俯き、唇を噛んだ。
(何をしているのです、僕は。リナさんが怒るのも当然です)
これは彼の失敗だった。
保胤にはこの島に連れて来られる前からの友や仲間は居ない。
少なくとも放送の度に知らない何処かで友や仲間が死んでいく不安は殆ど無かった。
ある意味、安全な場所に立っていたのだ。
そこから発せられた説法を誰が聞けるというのだろう。
(ですが……僕も、もうとっくの昔にそんな場所から出てしまっているのです)
全ては過去形で括られる。
リナの言葉は誤解と勢いに基づいた物でしかない。
だからその答えを伝えようと、顔を上げてリナと目を合わせて。
「答えなさいよ!」
リナは大股に一歩で二歩を詰め、光の剣を振り下ろした。
切り裂くわけではなく、ただ保胤の眼前に勢いよく突きつける為に。
保胤は目を逸らさずにそれを見つめそして――
* * *
破壊精霊の拳が大地に着弾。
「ベルガー!!」
終の叫びは訪れた破壊の轟音に掻き消される。
それでもメフィストは終が紡ごうとした音を理解する。
「彼は死んでいない。どこかへ消えた! それよりもシャナ――」
再びメフィストを狙って破壊の拳が振り下ろされる。
如何に魔界医師とて当たれば命が無い攻撃をひらりひらりと避け凌ぐ。
絡みつこうとする銀色の念糸――如何にしても千切れない筈の思念の通り道さえも、
針金で絡み取り、メフィストの代わりに針金がねじ切られる。
その手から放たれた雷光は圧倒的な力を秘めた巨人の腕にさえ傷を付けて見せた。
「そんな……!?」
フリウは目を疑う。有り得ない光景に。有り得ない強さに。
メフィストは強大化した破壊精霊の攻撃に他の者達を巻き込まないように跳ね回る。
その光景はメフィストが一方的に破壊精霊を封じ込めているかのようだ。
だがそれでも、破壊精霊は壊していた。
メフィストの言葉を壊していた。
「――――――」
メフィストの声が届かない。
「――――――」
メフィストの言葉が届かない。
「――――――」
メフィストの意志が届かない。
「――――――」
メフィストの救いが届かない。
シャナへ。そして――
「ベルガー!!」
終の叫びは訪れた破壊の轟音に掻き消される。
それでもメフィストは終が紡ごうとした音を理解する。
「彼は死んでいない。どこかへ消えた! それよりもシャナ――」
再びメフィストを狙って破壊の拳が振り下ろされる。
如何に魔界医師とて当たれば命が無い攻撃をひらりひらりと避け凌ぐ。
絡みつこうとする銀色の念糸――如何にしても千切れない筈の思念の通り道さえも、
針金で絡み取り、メフィストの代わりに針金がねじ切られる。
その手から放たれた雷光は圧倒的な力を秘めた巨人の腕にさえ傷を付けて見せた。
「そんな……!?」
フリウは目を疑う。有り得ない光景に。有り得ない強さに。
メフィストは強大化した破壊精霊の攻撃に他の者達を巻き込まないように跳ね回る。
その光景はメフィストが一方的に破壊精霊を封じ込めているかのようだ。
だがそれでも、破壊精霊は壊していた。
メフィストの言葉を壊していた。
「――――――」
メフィストの声が届かない。
「――――――」
メフィストの言葉が届かない。
「――――――」
メフィストの意志が届かない。
「――――――」
メフィストの救いが届かない。
シャナへ。そして――
竜堂終に届かない!
終がそれに気づいた時にはもう遅かった。
(敵が、増えた)
シャナはそう考えた。
(マンションから逃げてきた最初の二人は敵で、その仲間の三人も敵。こいつらは敵。
更に何処からか来た二人もこいつらを守った。つまりその仲間で、敵だ。
もう一人、誰か居たみたいだけど見えなかった。フリウの攻撃を避けて逃げたのかな?
名前は……目の前の終というこいつは、なんて呼んだんだろう?
こいつの声は聞き覚えがあるような気もする。
だけどどうでも良い。敵であるなら名前に意味はあまり無い。
相手を逃しもしなければ顔すらも意味が無い。
必要な事はただ一つ。たった一つ。
“あの人達の敵を全て殺す”。
それだけがわたしがやる事。やるべき事。やらなければならない事。やりたい事。
それだけが、それだけが、それだけが――!!)
「危ない!!」
終が膨れ上がる殺気に気づいたのはすぐ背後に居た火乃香の声を聞いた時だった。
終は一つ考え違いをしていた。
終はこの戦いを、先走った仲間が敵を殺すのを止めて交渉する為の戦いだと考えていた。
それは正しかったはずだ。……ダウゲ・ベルガーが辿り着いていたならば。
如何なる理由か何処かに消えてしまった彼の存在が、全ての歯車を狂わせる。
噛み合った刃をシャナが跳ね上げる。
「シャナ、違う、オレ達はダナティアの――」
シャナは敵の言葉を聞かず、その技と速さは終よりも上だった。
閃く刃が炎を纏う。
瞬間。
シャナの握る贄殿遮那は竜堂終の強靱な胴体を両断した。
シャナはそう考えた。
(マンションから逃げてきた最初の二人は敵で、その仲間の三人も敵。こいつらは敵。
更に何処からか来た二人もこいつらを守った。つまりその仲間で、敵だ。
もう一人、誰か居たみたいだけど見えなかった。フリウの攻撃を避けて逃げたのかな?
名前は……目の前の終というこいつは、なんて呼んだんだろう?
こいつの声は聞き覚えがあるような気もする。
だけどどうでも良い。敵であるなら名前に意味はあまり無い。
相手を逃しもしなければ顔すらも意味が無い。
必要な事はただ一つ。たった一つ。
“あの人達の敵を全て殺す”。
それだけがわたしがやる事。やるべき事。やらなければならない事。やりたい事。
それだけが、それだけが、それだけが――!!)
「危ない!!」
終が膨れ上がる殺気に気づいたのはすぐ背後に居た火乃香の声を聞いた時だった。
終は一つ考え違いをしていた。
終はこの戦いを、先走った仲間が敵を殺すのを止めて交渉する為の戦いだと考えていた。
それは正しかったはずだ。……ダウゲ・ベルガーが辿り着いていたならば。
如何なる理由か何処かに消えてしまった彼の存在が、全ての歯車を狂わせる。
噛み合った刃をシャナが跳ね上げる。
「シャナ、違う、オレ達はダナティアの――」
シャナは敵の言葉を聞かず、その技と速さは終よりも上だった。
閃く刃が炎を纏う。
瞬間。
シャナの握る贄殿遮那は竜堂終の強靱な胴体を両断した。
* * *
ダウゲ・ベルガーには幾つか予想外だった事がある。
それは致命的なまでに幾つもの、誤算だった。
まずシャナが絶望の底でも尚、前に進もうという意志を奇跡的に持ち続けていた事。
それにより別の絶望と繋がり増幅しあい、破滅が連鎖的に拡大しはじめていた事。
何より最大の誤算は、自分自身が持っていたある支給品の事だった。
黒い卵。
天人と呼ばれる強力な魔術士種族の作り出した緊急避難装置。
それは既に一度だけ発動し、ハックルボーン神父の裁きから彼とテッサを救っていた。
不可解な空間転移という形で。
その後に見た親友の死体の衝撃もあって、彼はその事を忘れ、思い出せずにいた。
彼はそれを忘れるべきではなかった。彼はそれを思い出すべきだった。
それが救いで有ったのは単なる結果でしかないのだから。
致命的な攻撃の前に発動し、強制的な緊急避難を行わせる空間転移現象。
それこそが黒い卵の機能であり、それ以上でも、それ以下でもなかったのだ。
黒い卵はベルガーが滅びの運命を切り裂こうとした事を感知しなかった。
それが感知したのは目前に迫る圧倒的破壊の力。
それは致命的なまでに幾つもの、誤算だった。
まずシャナが絶望の底でも尚、前に進もうという意志を奇跡的に持ち続けていた事。
それにより別の絶望と繋がり増幅しあい、破滅が連鎖的に拡大しはじめていた事。
何より最大の誤算は、自分自身が持っていたある支給品の事だった。
黒い卵。
天人と呼ばれる強力な魔術士種族の作り出した緊急避難装置。
それは既に一度だけ発動し、ハックルボーン神父の裁きから彼とテッサを救っていた。
不可解な空間転移という形で。
その後に見た親友の死体の衝撃もあって、彼はその事を忘れ、思い出せずにいた。
彼はそれを忘れるべきではなかった。彼はそれを思い出すべきだった。
それが救いで有ったのは単なる結果でしかないのだから。
致命的な攻撃の前に発動し、強制的な緊急避難を行わせる空間転移現象。
それこそが黒い卵の機能であり、それ以上でも、それ以下でもなかったのだ。
黒い卵はベルガーが滅びの運命を切り裂こうとした事を感知しなかった。
それが感知したのは目前に迫る圧倒的破壊の力。
致命的危険を感知した瞬間、黒い卵は起動する。
黒い卵はその持ち主を、持ち主の縁者の元へと転移させる。
だが彼と同じ世界出身の唯一の参加者、親友ヘラード・シュバイツァーはもう死んだ。
ダウゲ・ベルガーがその事を認識している為に、彼は縁者と見なされなかった。
テレサ・テスタロッサも死んだ。
ダナティア・アリール・アンクルージュも死んだ。
そしてその事をダウゲ・ベルガーは知っていた。
シャナは転移先として近すぎた。黒い卵はこれを除外した。
セルティ・ストゥルルソンも死んで、それを耳にしたダウゲ・ベルガーはその死を認めた。
――慶滋保胤は、死んでいなかった。
黒い卵は慶滋保胤の元を転移先に決定し、ダウゲ・ベルガーと共にその地へと転移した。
黒い卵にはその場所がどんな状況に有るのかを感知する機能も、考慮する機能も無い。
如何に保身に高い効果を持っていても、それはどこまでいっても道具だったのだ。
使いこなせない道具は、害悪でしかない。
そしてダウゲ・ベルガー最後の、どうしようもない誤算。
それは丁度この時、彼と仲間達が運に見放されていた事だ。
道を歩いていれば暴走車に突っ込まれるような、とにかく最悪の運勢。
仲間共々“事故死に遭ってしまうほど”の不運の下に居たのだ。
それが最大の命取りとなった。
だが彼と同じ世界出身の唯一の参加者、親友ヘラード・シュバイツァーはもう死んだ。
ダウゲ・ベルガーがその事を認識している為に、彼は縁者と見なされなかった。
テレサ・テスタロッサも死んだ。
ダナティア・アリール・アンクルージュも死んだ。
そしてその事をダウゲ・ベルガーは知っていた。
シャナは転移先として近すぎた。黒い卵はこれを除外した。
セルティ・ストゥルルソンも死んで、それを耳にしたダウゲ・ベルガーはその死を認めた。
――慶滋保胤は、死んでいなかった。
黒い卵は慶滋保胤の元を転移先に決定し、ダウゲ・ベルガーと共にその地へと転移した。
黒い卵にはその場所がどんな状況に有るのかを感知する機能も、考慮する機能も無い。
如何に保身に高い効果を持っていても、それはどこまでいっても道具だったのだ。
使いこなせない道具は、害悪でしかない。
そしてダウゲ・ベルガー最後の、どうしようもない誤算。
それは丁度この時、彼と仲間達が運に見放されていた事だ。
道を歩いていれば暴走車に突っ込まれるような、とにかく最悪の運勢。
仲間共々“事故死に遭ってしまうほど”の不運の下に居たのだ。
それが最大の命取りとなった。
だから、その偶然の悲劇はある意味では必然だったのかも知れない。
困惑と驚愕の声が混ざった和音が響くマンションの一室で、
ダウゲ・ベルガーの握る“運命”の刃はリナ・インバースを切り裂いて、
リナ・インバースの握る光の剣はダウゲ・ベルガーの左肺を貫いていた。
あまりに唐突すぎる状況の変化はダウゲ・ベルガーから判断を奪い、運命に抗う力を打ちのめす。
破滅を切り裂くはずだった“運命”は破滅の“運命”へと変わり果てる。
破滅の転輪が、廻った。
困惑と驚愕の声が混ざった和音が響くマンションの一室で、
ダウゲ・ベルガーの握る“運命”の刃はリナ・インバースを切り裂いて、
リナ・インバースの握る光の剣はダウゲ・ベルガーの左肺を貫いていた。
あまりに唐突すぎる状況の変化はダウゲ・ベルガーから判断を奪い、運命に抗う力を打ちのめす。
破滅を切り裂くはずだった“運命”は破滅の“運命”へと変わり果てる。
破滅の転輪が、廻った。
* * *
竜堂終が刃を受ける僅か十秒前。
そこは轟音に満たされていた。
左右が林で囲われた石段の途中。
破壊の王の咆哮が、拳による破壊が、それに掻き消されながらも幾つもの怒号が飛び交った。
舞い上がる石片や粉塵がそれらを複雑に反響させる。
8人に及ぶ人間の激しい動きや声や息づかいが更に響いて打ち消しあって風が乱れる。
「……クソッタレ」
ヘイズはほぞを噛んだ。
激化する戦闘の中でこの空間における空気分子の動きの複雑さは最悪の域に入った。
ただでさえ空気分子の正確な計算は常識離れした超々演算力を要する神業だ。
この島に来てから性能が低下しているI-ブレインではこの状況を演算できない。
つまり、破砕の領域が使えない。
ヘイズは周囲を見回し状況を瞬時に判断する。
(あの鍔迫り合いをしている女のガキはヤバイ。
最初の攻撃速度から算出して、身体能力を制御した騎士みたいなスピードだ。
横から現れた男のガキと競っている今は良いが、解放されたら手に負えなくなる。
少なくとも俺じゃ相手にできねえな、動きが読めても避けるのが間に合わねえ。
それより先にもう一方を解決するって事になるが……あの巨人は最悪だ。
あれをあしらえてるメフィストって奴も化け物だな。
それを操ってるらしき少女はフリー、あいつをどうにかすれば勝負は決まる。
だが火乃香はコミクロンを庇って跳んで体勢が崩れて回復して行動まであと数秒。
コミクロンも咳き込んでいる。叫んで魔術ってのを発動しようとした瞬間だったからな。
パイフウって奴はなんでか動かない。
結論、俺が行くしかねえ! 間に合え!)
ここまでの思考と結論と判断はI-ブレインにより一瞬で行われた。
だが鍛えた人間の身体能力しかないヘイズにとって、少女までの距離は致命的なまでに遠かった。
戦いが膠着したのはほんの僅かの間しか無かったのだ。
パイフウはその間も『迷って』しまった。
(メフィストと竜堂終、もし彼らが殺されれば……)
そうすれば自分がゲームに乗った理由を火乃香に知られる事は無くなる。
自分のせいで火乃香を泣かしてしまう事が、少しだけ減る。
それは大きな安心感を得られる選択に思えた。一瞬だけ。
「……何を考えているの、私はっ」
だがそうなれば残るのは“どうやら自分を狙ってきた火乃香を巻き込む強力な敵”だ。
自分のせいで火乃香を死なせてしまうかもしれない。
それは沸き上がった安心感を一瞬で吹き飛ばし恐怖へと変えた。
(あの二人を死なせるわけにはいかない)
パイフウは駆け出そうとした。
だが戦いが膠着したのはほんの僅かの間しか無かったのだ。
パイフウの躊躇いは有った筈のほんの僅かな時間を致命的なまでに削り取った。
「危ない!!」
轟音に満ちた中で、何故かパイフウはその言葉だけは聞き取れた。
一瞬自分に掛けられた言葉かと思い立ち止まり、それから火乃香の方を見た。
そこには火乃香の目前で胴体を両断され跳ね飛ばされる少年の姿があった。
そこは轟音に満たされていた。
左右が林で囲われた石段の途中。
破壊の王の咆哮が、拳による破壊が、それに掻き消されながらも幾つもの怒号が飛び交った。
舞い上がる石片や粉塵がそれらを複雑に反響させる。
8人に及ぶ人間の激しい動きや声や息づかいが更に響いて打ち消しあって風が乱れる。
「……クソッタレ」
ヘイズはほぞを噛んだ。
激化する戦闘の中でこの空間における空気分子の動きの複雑さは最悪の域に入った。
ただでさえ空気分子の正確な計算は常識離れした超々演算力を要する神業だ。
この島に来てから性能が低下しているI-ブレインではこの状況を演算できない。
つまり、破砕の領域が使えない。
ヘイズは周囲を見回し状況を瞬時に判断する。
(あの鍔迫り合いをしている女のガキはヤバイ。
最初の攻撃速度から算出して、身体能力を制御した騎士みたいなスピードだ。
横から現れた男のガキと競っている今は良いが、解放されたら手に負えなくなる。
少なくとも俺じゃ相手にできねえな、動きが読めても避けるのが間に合わねえ。
それより先にもう一方を解決するって事になるが……あの巨人は最悪だ。
あれをあしらえてるメフィストって奴も化け物だな。
それを操ってるらしき少女はフリー、あいつをどうにかすれば勝負は決まる。
だが火乃香はコミクロンを庇って跳んで体勢が崩れて回復して行動まであと数秒。
コミクロンも咳き込んでいる。叫んで魔術ってのを発動しようとした瞬間だったからな。
パイフウって奴はなんでか動かない。
結論、俺が行くしかねえ! 間に合え!)
ここまでの思考と結論と判断はI-ブレインにより一瞬で行われた。
だが鍛えた人間の身体能力しかないヘイズにとって、少女までの距離は致命的なまでに遠かった。
戦いが膠着したのはほんの僅かの間しか無かったのだ。
パイフウはその間も『迷って』しまった。
(メフィストと竜堂終、もし彼らが殺されれば……)
そうすれば自分がゲームに乗った理由を火乃香に知られる事は無くなる。
自分のせいで火乃香を泣かしてしまう事が、少しだけ減る。
それは大きな安心感を得られる選択に思えた。一瞬だけ。
「……何を考えているの、私はっ」
だがそうなれば残るのは“どうやら自分を狙ってきた火乃香を巻き込む強力な敵”だ。
自分のせいで火乃香を死なせてしまうかもしれない。
それは沸き上がった安心感を一瞬で吹き飛ばし恐怖へと変えた。
(あの二人を死なせるわけにはいかない)
パイフウは駆け出そうとした。
だが戦いが膠着したのはほんの僅かの間しか無かったのだ。
パイフウの躊躇いは有った筈のほんの僅かな時間を致命的なまでに削り取った。
「危ない!!」
轟音に満ちた中で、何故かパイフウはその言葉だけは聞き取れた。
一瞬自分に掛けられた言葉かと思い立ち止まり、それから火乃香の方を見た。
そこには火乃香の目前で胴体を両断され跳ね飛ばされる少年の姿があった。
(まずい――)
メフィストは破壊精霊の拳をかいくぐり跳躍し、一息でその場に降り立つ。
だがそこは破壊精霊とは別の危険地帯だ。
「死ねえ!」
何も知らないシャナの刃は容赦なく翻り、メフィストへと襲い掛かる。
……間一髪、飛び退くのが間に合う。
その腕の中に有るのは上下に両断された竜堂終。
そして目の前に有るシャナの刃は火乃香の剣によって受け止められていた。
メフィストは更に跳躍し距離を取りながら手の中に針金を踊らせる。
コミクロンは腕を構えいつでも黒魔術を使う用意を整える。
迷っていたパイフウも火乃香を守る為に銃を構える。
ヘイズも一瞬僅かな静けさが訪れたのを見て取り、立ち止まり指を構えた。
(一人は仕留めた、だけど……)
思考は一瞬。シャナは飛び退く。
吹き出た炎の翼で一羽ばたき、それでシャナはフリウの下へと帰り着く。
破壊精霊が彼女達とその敵達の間に立ち塞がる。
シャナは常になびかせていた黒い外套、夜傘へと贄殿遮那をしまい込む。
破壊精霊にも今少しは攻撃させる気が無いのか、フリウはやや俯き加減になっていた。
視界に映るのは登り石段。彼らの姿ではない。
更にシャナは片腕でフリウを抱え込み翼を大きく広げ、そして強く羽ばたいた。
生み出された揚力が見る見るうちに二人を上空へと運んでいく。
何故かフリウも森へと視界を逸らし、破壊精霊は彼らの頭上に現れない。
(逃げるつもりか?)
不意を突かれ撹乱されたとはいえ、少女達の強さは身にしみていた。
態勢を整えてから再戦、それも手だろう。
だがそれでも警戒は解くまいと、彼らは二人の少女を睨み付ける。
……果たして、火乃香達の背後からメフィストが警告の声を上げた。
「まずい、止めるのだ」
僅かに聞こえたのは微かな呟き。
「汝……縁に……」
「汝等…………力……」
二人の少女の破滅の言葉。
ぞくりと、一斉に寒気が走った。コレは、ヤバイ物だ。
「撃ち落とせぇ!!」
誰かの叫び声と共にパイフウの銃弾が放たれた。
「コンビネーション2-7-5!」
コミクロンの叫びが魔術となり光球が発生、瞬時に転移してシャナの目前に出現する。
火乃香の攻撃は届かず、ヘイズの魔法はコミクロンと競合してしまう以上これが限界だ。
そしてこの一瞬にその程度の攻撃しか放てなかった時点で、勝敗は決した。
シャナは銃弾を叩き落とした。
贄殿遮那ではなく取りだした神鉄如意で、フリウと急所に当たる物だけを。
変幻自在に曲がって飛来する銃弾を全て止めようとはせず、体の節々に着弾を許す。
コミクロンの放った光球が目前に出現し破裂。電流を撒き散らした。
人を倒すには一瞬電流を流し神経を麻痺させるだけでも十分。洗練された攻撃手段だ。
その電流がシャナを打ち、しかしシャナは倒れない。
シャナは夜傘でフリウと自らの体を包んでいた。
夜傘は武器を収納する鞘であり、そして攻撃を遮断する盾ともなる黒い外套。
シャナの中に在るアラストールの翼の皮膜。
それでも多少はダメージを受けただろう。だが、シャナは人間では無い。
フレイムヘイズであり吸血鬼でもあるその肉体は多少の傷を無視して突き進む。
シャナはそれを理解して、それを最大限に利用していた。
シャナとフリウは地上からの攻撃を、凌ぎきった。
そして天空より高らかに滅びを唱った。
「「我らに更なる魔力を与えよ」」
シャナの身につけたタリスマンが一度の詠唱につき一度だけの強大な力を、与える。
眼下にいる6人の敵を粉砕する為に。
フリウはここになってようやく、彼らを見つめた。
その視界の中の空中に、あまりに唐突に音もなく破壊精霊ウルトプライドが出現する。
シャナは手の中の神鉄如意にありったけの力を篭めた。
神鉄如意は存在の力を注ぎ込む事により巨大化し、一撃必殺の破壊の槍と化す。
劫火に包まれながら一瞬の内に巨大化するその槍が小さな手で握れなくなるその前に、
シャナはそれを、フレイムヘイズにして吸血鬼にもなった剛力の極みで。
フリウは破壊の王を、破壊の意志を篭め重力に乗せて大地へと。
「死ねぇっ!!」
「壊れろっ!!」
少女達の全力をもって、天より死と破壊が投げ落とされた。
メフィストは破壊精霊の拳をかいくぐり跳躍し、一息でその場に降り立つ。
だがそこは破壊精霊とは別の危険地帯だ。
「死ねえ!」
何も知らないシャナの刃は容赦なく翻り、メフィストへと襲い掛かる。
……間一髪、飛び退くのが間に合う。
その腕の中に有るのは上下に両断された竜堂終。
そして目の前に有るシャナの刃は火乃香の剣によって受け止められていた。
メフィストは更に跳躍し距離を取りながら手の中に針金を踊らせる。
コミクロンは腕を構えいつでも黒魔術を使う用意を整える。
迷っていたパイフウも火乃香を守る為に銃を構える。
ヘイズも一瞬僅かな静けさが訪れたのを見て取り、立ち止まり指を構えた。
(一人は仕留めた、だけど……)
思考は一瞬。シャナは飛び退く。
吹き出た炎の翼で一羽ばたき、それでシャナはフリウの下へと帰り着く。
破壊精霊が彼女達とその敵達の間に立ち塞がる。
シャナは常になびかせていた黒い外套、夜傘へと贄殿遮那をしまい込む。
破壊精霊にも今少しは攻撃させる気が無いのか、フリウはやや俯き加減になっていた。
視界に映るのは登り石段。彼らの姿ではない。
更にシャナは片腕でフリウを抱え込み翼を大きく広げ、そして強く羽ばたいた。
生み出された揚力が見る見るうちに二人を上空へと運んでいく。
何故かフリウも森へと視界を逸らし、破壊精霊は彼らの頭上に現れない。
(逃げるつもりか?)
不意を突かれ撹乱されたとはいえ、少女達の強さは身にしみていた。
態勢を整えてから再戦、それも手だろう。
だがそれでも警戒は解くまいと、彼らは二人の少女を睨み付ける。
……果たして、火乃香達の背後からメフィストが警告の声を上げた。
「まずい、止めるのだ」
僅かに聞こえたのは微かな呟き。
「汝……縁に……」
「汝等…………力……」
二人の少女の破滅の言葉。
ぞくりと、一斉に寒気が走った。コレは、ヤバイ物だ。
「撃ち落とせぇ!!」
誰かの叫び声と共にパイフウの銃弾が放たれた。
「コンビネーション2-7-5!」
コミクロンの叫びが魔術となり光球が発生、瞬時に転移してシャナの目前に出現する。
火乃香の攻撃は届かず、ヘイズの魔法はコミクロンと競合してしまう以上これが限界だ。
そしてこの一瞬にその程度の攻撃しか放てなかった時点で、勝敗は決した。
シャナは銃弾を叩き落とした。
贄殿遮那ではなく取りだした神鉄如意で、フリウと急所に当たる物だけを。
変幻自在に曲がって飛来する銃弾を全て止めようとはせず、体の節々に着弾を許す。
コミクロンの放った光球が目前に出現し破裂。電流を撒き散らした。
人を倒すには一瞬電流を流し神経を麻痺させるだけでも十分。洗練された攻撃手段だ。
その電流がシャナを打ち、しかしシャナは倒れない。
シャナは夜傘でフリウと自らの体を包んでいた。
夜傘は武器を収納する鞘であり、そして攻撃を遮断する盾ともなる黒い外套。
シャナの中に在るアラストールの翼の皮膜。
それでも多少はダメージを受けただろう。だが、シャナは人間では無い。
フレイムヘイズであり吸血鬼でもあるその肉体は多少の傷を無視して突き進む。
シャナはそれを理解して、それを最大限に利用していた。
シャナとフリウは地上からの攻撃を、凌ぎきった。
そして天空より高らかに滅びを唱った。
「「我らに更なる魔力を与えよ」」
シャナの身につけたタリスマンが一度の詠唱につき一度だけの強大な力を、与える。
眼下にいる6人の敵を粉砕する為に。
フリウはここになってようやく、彼らを見つめた。
その視界の中の空中に、あまりに唐突に音もなく破壊精霊ウルトプライドが出現する。
シャナは手の中の神鉄如意にありったけの力を篭めた。
神鉄如意は存在の力を注ぎ込む事により巨大化し、一撃必殺の破壊の槍と化す。
劫火に包まれながら一瞬の内に巨大化するその槍が小さな手で握れなくなるその前に、
シャナはそれを、フレイムヘイズにして吸血鬼にもなった剛力の極みで。
フリウは破壊の王を、破壊の意志を篭め重力に乗せて大地へと。
「死ねぇっ!!」
「壊れろっ!!」
少女達の全力をもって、天より死と破壊が投げ落とされた。
死の魔槍が。
破壊の拳が。
破壊の拳が。
地に殺戮と破壊の渦を撒き散らした。
- 2007/02/15 修正スレ292
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