「嫌です。そこはかとなく身の危険を感じます」
「何もしないよ! 私のこと何だと思ってるの!」
「でも実際、もしあなたが変な気を起こしたとき、私じゃ何の抵抗もできませんから」
「それなら今だって変わらないじゃないか。ほら、こうやって私が迫ったらーー」
「きゃっ!」
「ベルもそんな可愛い声が出せるんだね、誘ってるのかな?」
「……何言ってるんですか? 早く離してください、怒りますよ」
「ふふっ、照れてるね。さっきの声がそんなに恥ずかしかったのかな? 大丈夫、とても可愛かったよ」
「……絶交ですね」
「え?」
「絶交だって言ったんです、今すぐ帰って、もう顔を見せないでください」
「あ、ご、ごめん! そんなつもりじゃ……」
「……」
「ごめんなさい! 調子に乗りました! もうしません!」
「早く消えてくださいよ、衛兵さん呼びましょうか?」
「待って! 何でもする! お金も時間も私自身も全部好きにしていいから! だから……だから嫌いにならないで! ねえ、お願いだから……!」
「うわ……必死すぎて引きますね」
「ほ、ほら、何でもいいんだよ? そうだ、まず忠誠の証に私の全財産を渡そう。ね、ね? これで信じてくれるかな? そしたら手は切っちゃおうか。これなら安心だろう?」
「必死すぎですって。それにさっきのは冗談ですから」
「え……本当?」
「本当です。だから泣いて縋りつくのやめてください。私がひどいことしているみたいじゃないですか」
「うっ、ぐすっ、ひどいことしてるじゃないかぁ! 私の気持ちを知りながら! 試すように弄んで!」
「嫌いになりました?」
「好き!!!」
「重症ですね……。ていうか“気持ちを知りながら弄んで“なんて言いましたけど、私はちゃんと断っていますよね? あなたが勝手にまとわりついてきているだけですよね?」
「うう、それは……そうかもしれないけど……」
「そういうのストーカーっていうんですよ。私が見逃しているだけで、それこそ衛兵さんに言ったら捕まりますからね? 自分の立場を弁えてください」
「……はい、ごめんなさい。私はベルの優しさで生かされているだけの存在です」
「別にそこまで卑屈になれとはいってませんけど……まあ、今回はちょっと私も悪ふざけが過ぎたかもしれないですね。すみませんでした」
「いいよ別に、たしかに私はベルに何かを要求できるような立場じゃないし? ベルが私の機嫌を気にする必要なんてないじゃん」
「はあ……。ほら、こっち来て、なでなでしてあげますから拗ねないでください」
「うん……」
「本当にこれ好きですよね、母の愛に飢えていたとかですか?」
「ううん。ベルだから、ベルが私を認めてくれたって感じるから好き」
「そうですか、ちょろくて助かります」
「またそうやって意地悪言う……」
「はいはい、ほらもう機嫌直して」
「……」
「……」
「…………んっ…………はあ、はあ」
「……あのー、頭撫でられただけで、息が荒くなるほど興奮するのはさすがにどうかと思いますよ」
「んっ! ち、違うよ? いくら私だってそんなーー」
「はあはあ言いながら顔真っ赤にして、耳も熱くなってますけど?」
「ち、ちが……わない、けど、ベルが、耳とか首筋とか、撫でるから……」
「やっぱりそうじゃないですか。それと人のせいにしないでください、まったく……もうやめますよ」
「ああっ、やめちゃうの? ほら、お腹も撫でていいんだよ?」
「犬側に寄りすぎですよ、なに寝転んでるんですか」
「服従のポーズ、もう何でもしてくださいの意思表示。あ、でも何もしてくれないなら私はこのまま駄々をこねるつもりだから」
「完全に駄犬ですね……出会った頃の
ニャングオウさんはどこへ……?」
「ベルが拾ったんだからね? ちゃんと責任持って飼ってくれないとダメだよ、ご主人様?」
「めんどくさ……」
「いまめんどくさいって言った!? 前にも言ったけど、あまりぞんざいに扱うなら泣くからね? 私はもう恥も外聞もなく大声で泣き叫ぶからね?」
「それこそ、私も前に言いましたけど、そんな情けない人はお断りですから」
「はうぅ……」
「弱すぎる……もっと減らず口でしたよね? しかも本当に涙目になってるじゃないですか」
「ぐすっ、だって、ベルに、嫌われたくないから……」
「そんなことで嫌いにはなりませんよ。あーもう、お腹でも何でも撫でてあげますから泣かないでくださいって」
「えへへ、ねえ、本当に泊まっちゃダメ?」
「え、いや、別にどうしてもダメってわけじゃないですけど……」
「ごはん作るし、掃除もするよ?」
「いつもしてるじゃないですか」
「1万G払うから」
「私神官ですよ? 違う人当たってください」
「私の身体もつける。一晩中好きにしていい」
「それはあなたの願望ですよね?」
「じゃあどうしたら泊めてくれるの! あー、お泊りしたいお泊りしたいお泊りしたいお泊りしたい!」
「うるさ……。もういいですよ、めんどくさい。泊まっていいですから静かにしてください」
「いいの!? やった!」
「また何かしたら追い出しますからね、次は本当に絶交ですよ?」
次回、お泊り編。
ベルの服を着たがるニャン、隙あらばベルと同じベッドで寝ようとするニャン、先に寝たベルを見て理性が効かなくなるニャンを予定。
僕はもっとニャン虐がしたかったんだ……!
本当に全財産と手足を捧げたり、撫でられながら延々とヴィスタリアの話をされたり、ワン以外の発言を禁止したりするはずだったんだ……。
全部ベルさんがヘタレなせいでできなかった。何が「たまには性格の悪いキャラをやりたい」だ、全然できていないじゃないか。口だけか? おん?
最終更新:2021年09月25日 15:32