「ベル、今日は泊まっていくよ」
「は? 勝手に決めないでくれません? 人の都合とか考えられないんですか?」
「えーいいじゃん、何か困ることでもあるの?」
「私の気が休まりません」
「え、あー……ごめんね、君の気持ちに気づいてあげられなくて……」
「何か非常に不愉快な勘違いをされている気がしますが、もうそれでいいので帰ってください」
「でもこの雨の中だよ? 風邪ひいちゃうよ?」
「この前使ってた炎のマント纏う魔法があるでしょう」
「今日はそういう気分じゃないんだ。それに今はダイアモンドしか持ってないしね」
「じゃあ私の傘を貸しますから」
「やだ、もう外出たくない」
「……駄犬」
「駄目人間*に言われたくないな。そうだ、今日は生活指導してあげるよ」
「うっっっっざ……」
「まあまず部屋が汚いよね、服はちゃんとクローゼットにしまいなよ」
「えっ、本当にやるんですか? ……あ、それは洗ってないやつです」
「どうせなら綺麗な部屋に泊まりたいじゃん」
「嫌なら無理に片づけないで結構ですから帰ってくださいよ……」
「遠慮しないでいいよ、泊めてもらうんだから片付けくらい手伝うさ」
「だから何を勝手に……。あとそれは冒険用だからそこに置いておいてください」
「ふう、とりあえずはこれくらいでいいかな。そういえば食べ物はあるの?」
「……ないので帰ってください」
「うーん? 少ないけど肉も野菜もあるね」
「勝手に見ないでください、何なんですか本当にもう……!」
「嘘ついてまで泊めたくない? そこまでいうなら私もさすがに諦めるけど……」
「きゅ、急にそんな悲しそうな顔しないでくださいよ。いや、その、別にどうしても嫌っていうわけじゃ……」
「うん、知ってたよ。じゃあご飯作ろうか」
「……っ! 本当に、あなたって人は……!」
「まあまあ、言いたいことは夜にゆっくり聞いてあげるからさ」
………
……
…
「ベルー、先にお風呂浴びていい?」
「……いいですよ、好きにしてください」
「うん、ありがとう。服も借りるね」
「サイズが違うでしょう」
「ぶかぶかでもないよりマシさ。……あ、さすがに下着は要らないよ?」
「当たり前でしょう……何言ってるんですか」
「いやー、その、ベルって友達いないじゃん? 変な警戒されてるかと思って」
「よくもまあ泊めてもらう身でそこまで図々しくいられますね。あと確かに社交的ではないほうですが友達くらいいますからね」
「うんうん、そうだね。こっちに来てから一度も連絡取りあってないけどいるもんね」
「バカにしてます? 最初の内は頻繁に連絡取ってましたから」
「ここ最近は?」
「半年前に送ったきり、です、けど……」
「やめよっか、この話。大丈夫だって、私も頻繁に会うのは君たちくらいだからさ、大丈夫、大丈夫」
「……まずあなたと同レベルで扱われることが屈辱です」
「うんうん、そうだね。お風呂一緒に入る?」
「入りません!」
………
……
…
「そろそろ寝よっか」
「そうですね。ところであなたはいつになったら私のベッドからどけてくれるんですかね?」
「うん? 私はここで寝るけど?」
「頭おかしくなりました? さっき私は友達が少ないからこういう感覚がおかしいとか煽ってきましたけど、あなたこそおかしいんじゃないですか?」
「えー、いや、普通だって、普通普通」
「だとしても嫌です、同じベッドで寝るなんて……」
「何照れてるのさ、……あ、もしかしてやっぱり『気が休まらない』?」
「違います! 気持ち悪い勘違いやめてくれます!? あなたのことなんて、全然好きじゃないですから!」
「それなら一緒に寝ても大丈夫だよね、私も特に思うところはないし、仲のいい友達同士なら一緒に寝るくらい気にならないよね?」
「あーもう! 寝ますよ、寝てやりますよ!
ニャングオウさんがどうしてもっていうから、仕方なくですよ!?」
「はいはい、もう遅いから静かにしようね」
「うっ、急に正論を……、いや元はといえばあなたが……!」
「ほら、なでなでしてあげるから落ち着こうね、子守歌のほうがいいかな?」
「ちょ、やめてくださいよ、どっちもいらないです」
「そう? まあいいや、おやすみ」
「……おやすみなさい」
………
……
…
「ふあぁ……。ん? うん?」
「Zzz……」
「ベル、起きてる? こんな熱烈に抱きしめられると動けないんだけど……」
「Zzz……」
「ベル、ベル、起きて、放して」
「Zzz……」
「うぅ……」
特に確認してないけど、ベルさんは押しに弱いという設定があるのでちょっと仲良くなればこれくらいいける。
\*「駄犬」に返す形での上手い言い回しがほかに思いつかなかった。「駄目翼人」「駄天使」「駄ヴァ」とかも考えたけど、結局どれも正確でないなら親しみのある表現のほうがいいと判断しました。
最終更新:2021年10月14日 12:30