ニャングオウ「おはよう、今日は一日、君のメイドになってあげるよ」

スカーフィの場合
「……どうしたんだ、急に」

「ベルに言われたんだよ『メイド服お似合いですね、せっかくですし皆さんに奉仕してみては?』って」

「ああ、そうか。……そうか?」

「うん?」

「いや、いい。お前がいいなら俺が口を出すことでもない」

「そうかい、まあ君がいいなら私もそれでいいや」
「ところで、私は今日一日君のメイドをやるわけだけど、何かしてほしいこととかあるかな?」

「……特にないな」

「それじゃあ一日お喋りでもしてる?」

「……やめてくれ、今いいイメージが頭にあるんだ、余計なものを混ぜたくない」

「そっか、ごめんね。邪魔にならないくらいに掃除したりご飯作ったりしてるよ」

………
……

「ご飯作ったよ。食べさせてあげるから口だけ開けてね」

「ん? ああ……」

「はい、あーん」

「…………」

「はいお水、ご飯まだ食べる?」

「いや、いい」

「何かほかにほしいものは?」

「……もう大丈夫だ、ありがとう、ここからは本当に一人で作業したいからもう外してくれ、礼はあとでする」

「気にしないでいいよ、夜ご飯は食卓の上に置いてあるから、遅くならないうちに食べなよ?」
「じゃあね」

「……ああ、またな」

一言。
「特にしてほしいことはないとか言ってたけど、なかなか散らかった部屋だったね、普段の生活が心配になるよ」



ケイの場合
「んあ? どういう風の吹き回しだ?」

「ベルに言われたんだ」

「なるほど。……なるほど?」

「まあいいじゃないか、今日は一日君のメイドをやってあげるよ」

「いやあ、あんまそういうの得意じゃねえってか、いい思い出がないんだよな……」

「何があったらメイドさんにトラウマができるのか分からないな」
「ほら、どうせまともに片付けもできていないんだろう? ほかにやることもないし掃除と料理くらいしていくよ」

「わー、やめろやめろ! ある! してほしいことあるから! 勝手に俺の部屋を荒らすんじゃねえ!」

「荒らすって、もう荒れきってるじゃないか……」
「それで? してほしいことって何?」

「あー、そうだ、棒振りに付き合ってくれや」

「うーん……いいけど、私は割と力任せに叩きつけるだけだし、あまり練習相手にならないかもよ?」

「上等じゃねえか、力任せの相手を捌ききってこその技術だぜ」

一言。
「私もいい練習になったけど、別にこれくらいいつでもやってあげるのにね」



ヨナ&ロキリの場合
「どうしたの? いつもそんな感じじゃないよね?」

「ベルに言われたんだ」

「ふーん。……ニャングオウはそれでいいの?」

「ヨナ、これは触れないほうがいい話題かもしれない」

「でもニャングオウの様子が変だし……」

「……? 私がどうかした?」

「ほら、自分でも分かってないみたいだし」

「いいんだよ、たぶん放っておいたほうが面白い」
「もしどうしても気になるなら後でベルさんに話を聞きに行こうよ」

「大丈夫かな……?」

「まあ何でもいいじゃないか、さあ、私は今日一日君たちのメイドだよ、何でも言ってくれていい」

「じゃあ手始めに、ヨナをドレスアップしてほしい」

「……ニャングオウ、ロキリの言うことは聞かなくていい。変な服ばかり買ってくるんだ」

「うーん、でもほかにすることないし……」

「じゃあ買い物に付き合ってほしい、そろそろ消耗品を買い足さないといけないんだ」

「そう、だからヨナにかわいい服着せたいんだよね」

「ロキリ、しつこい、あと目が気持ち悪い」

「ぐふっ……」

「あ、溶けた」

「哀れな生き物だね……」

「こうなるとしばらくは大人しいから置いていっても大丈夫なんだ」
「悪いけど、ロキリを運ぶの手伝ってくれない? 隅のほうに寄せておけば大丈夫だと思うから」

「本当に哀れな生き物だね……」

「よし、これで大丈夫だね、じゃあ行こうか」

一言。
「あんな風にはなりたくないよね、人の尊厳を失っている……」
「ところで、何でみんな私がメイドやるって言ったら不思議そうな顔するんだろうね?」



ミラの場合
「そ、そんな、恐れ多いです」

「いいよいいよ、気にしないで」

「でもそんな、ニャングオウさんにやってもらうようなことなんて……」

「うーん、それは困ったね、何もしないで帰ったらベルに怒られちゃうからな……」

「はい? どうしてそこでベルさんが?」

「ああ、これはベルに言われてみんなのところを回っているんだ」
「だからちゃんとみんなの言うこと聞かないといけないんだよね」

「そういうことなんですね。……どういうこと、なんでしょうか?」

「まあ、そんな深く考えなくていいよ、君には今日一日、私の奉仕を受けてもらう」
「さあ、何かしてほしいことを言うんだ、私が何でも叶えてあげよう」

「じゃ、じゃあ、一緒にお菓子でも作りませんか!」

「いいけど、お菓子作りはあまり得意じゃないよ?」

「とてもいいです! 実はこういう、妹に教えながら作るみたいなのが夢だったんです!」

「へえ、でもちょっと奉仕感が足りないような……」

「私がしてほしいことだからいいんですよ。きっとベルさんも納得します、大丈夫です」

「まあそれもそうだね、じゃあ……ミラお姉ちゃん、まず何するか教えてよ」

「――――!!」

一言。
「そこはかとなくミラの暗い過去が垣間見えたね、いつか幸せにしてあげたいな」
「あとやっぱりベルの話をすると変な顔したね、もしかしたら本当に何かおかしなことが起きているのかな?」



リーゼの場合
「まあ! それならこの前行った妖精さんのところに行きましょう? もっとお話ししたかったの!」

「分かった、でも道中は危ないからゆっくり行こうか」

「そうね、その間はあなたのことが聞きたいわ」

「そうだね、じゃあちょっと準備してくるよ」

………
……

リーゼロッテも準備はできてそうだね、それじゃあ出発しようか」

「ええ! 早速だけど、今日はどうして声をかけてくれたのかしら?」

「ああ、ちょうどその話をしたかったんだ」
「実はベルに言われてみんなのところを回っているんだけど、みんな不思議そうな顔して『どうしたの?』って言うんだ。君はどう思う?」

「みんなと仲良くするのはとてもいいことだわ! きっとベルはあなたにそれを知ってほしかったのよ!」

「いや……それはどうだろう? ベル自身、あまりみんなと仲良くできてないだろう?」

「そんなことを言ってはかわいそうだわ。ベルだって本当はみんなと仲良くしたいのよ?」
「それに、自分が持っていないからこそ価値が分かるものもあると思うわ」

「分かるような分からないような……」

「ならどうしてあなたはベルに言われてやる気になったのかしら? あなたも何かに納得してこういうことをしているのでしょう?」

「どうして? ……どうして? あれ? 本当だ、どうして何も考えずに言うことを聞いて、何日も……? だいたい、何で私がメイドなんか……」

「危ないわ!」

「うわっ! ……ありがとう、助かったよ」

「何だか心ここにあらずの様子だったわよ? 調子が悪いなら今日は帰ったほうがいいわ」

「……うん、そうだね、こちらから声をかけておいて悪いけど、お言葉に甘えるよ」
「ごめんね、埋め合わせはまた今度するよ」

「気にする必要はないわ、でも、また一緒にお話しできるのなら楽しみね」

一言。
「リーゼロッテには悪いことをしてしまった。……それにしても私のこの使命感は一体何なんだろう?」



ユキ&リンゼの場合
「来ましたねニャングオウ、皆が言っていましたよ『ニャングオウがおかしくなった』と」

「まあまあ、まずは上がりなよ」
「リンゼ、お茶とお菓子を用意してあげて」

「承知しました」

「うん、お邪魔するよ。……しかしこれではメイドなんて必要なさそうだね」

「そうだね、だから今日はちょっとお話したら帰っていいよ」

「まるで何か知っているような口振りだね、ああそういえば君はベルと仲がいいんだったっけ?」

「たまに愚痴を聞いてあげるくらいの仲だよ。おねーさんほどじゃない」

「それでも何か知っているんだろう? 考えてみればベルなんて君たちか私くらいしか話し相手いないんだから、私じゃないってことは君たちがまず何か聞いているはずさ」

「いや、それはさすがにベルさんかわいそうじゃない? カスミちゃんとかもいるよ……?」

「――お嬢様、お茶をお持ちしました」

「ご苦労様、リンゼも座って」

「はい」

「さて、それじゃあ話そうか、今おねーさんに何が起きているのかを」

「……うん、お願いするよ」

「おねーさんはさ、催眠術って知ってる?」

「知ってるけど? え、でもあれってそんなに長い間続くようなものなの?」

「まあ、人次第としか言えないけど、それだけじゃないんだ」
「もしかしたら知ってるかもしれないけどプリーストの魔法にクエストって言うのがあってね、それを掛けられると、そのときに決めた目標への強い使命感が湧いてくるんだ」

「それなら知っているけど、でもその魔法は強制的に掛けられるようなものじゃないよね? どちらかというと自分や仲間の志を確かにするような使い方をするものだったと思うけど……?」

「うん、だからきっとふたつを上手く組み合わせたんだろうね」

「それにしても、そんなことされた記憶もないよ?」

「うーん、そこなんだよねえ……」
「よっぽど上手く掛かれば、掛けられたことすら忘れさせられるみたいな話もあるけど、正直ベルさんがそこまで上手くできるとは思えないんだよね」

「掛ける側ではなく、掛けられる側が原因とは考えられませんか?」

「まあ、相手によっぽど気を許しているとか、もともと意識が曖昧な寝起きとかにされればそういうこともあるかもしれないけど……」

「寝起き……? もしかして……」

「心当たりがあるの?」

「うん、最近は毎日ベルの部屋で一緒に寝ることになっているんだ。確かに、言われてみれば寝る前に何か話しているような……」

「え? まず毎日一緒に寝ているのは不自然じゃないの? ていうかその時にベルさんに聞こうとは思わなかったの?」

「そうだね、だって家の中ではベルはご主人様だし、ご主人様を疑うなんて……」
「えっ? あれ? 何でご主人様なんて……?」

「落ち着こう、これから帰ってベルさんに聞けば全部解決するから」

「あ、ああ、そうだね、ありがとう。……それじゃあ、そろそろ帰るよ」

「いや、待って、やっぱり今ここで催眠を解いたほうがいいと思う、今日は闇魔法使えないの?」

「さすがに街の中ではやめておくよ」

「え? 別によくない? 危ない魔法じゃないよ?」

「……お嬢様、これも催眠術の影響では?」

「ああ、そうか、そうだね。でもそれならどうしようか、ボクじゃたぶん解けないし……」
「あ、でもクエストだけでも解いておこうか、これで少しはよくなるかな?」

「ありがとう、まあ、ここまで聞いたんだ、ちゃんと警戒していけば大丈夫だよ」

「「…………」」

「じゃあね、今日はありがとう。帰ったらちゃんと『やめてください』ってベルにお願いしてみるよ」

「あ、うん。そうだね……」

「……お嬢様、よろしいのですか?」

「まあ、実害はないし、ベルさんもそのうち飽きると思うし? これ以上はもういいんじゃないかな……」

一言。
「どうやら私は随分と遊ばれていたようだね、ベルにはしっかりと言っておかないといけないみたいだ」



「ベル! 随分やってくれたみたいだね!」

「あ、おかえりなさい。ニャングオウさん、言葉遣いがおかしくないですか?」

「え? あ、そうか、いや、そうでした……すみません」
「ってごまかさないでくださいご主人様! 私に催眠を掛けて遊んでいるんでしょう!」

「ふふっ、そうですね、でもここまで上手くいくとは思ってませんでした」

「解いてください! 今私は怒ってますよ!」

「まあ落ち着きましょうよ。そろそろお昼時ですし、話はご飯を食べながら聞きますから、何か用意してください」

「分かりました……。でもちゃんと聞いてくださいよ?」

「はい、もちろんです。ちゃんとふたりで話し合って、どうするか決めましょうね……」

一言
「思ったよりもご主人様が譲歩的で、ほとんど私の懇願を受け入れていただいた。もう誰のもとにメイドとして貸し出されることもないし、家の中で主従の振りをさせられることもない、これからは正式にご主人様のメイドにしていただけるみたいだ」



ベル「――砕けろ、鏡花水月」
くぅ疲。マジで疲れた。各キャラの口調とかほかのキャラの呼び方とか、特にリーゼとユキは資料が少なくて大変だった。反省してほしい。

指摘事項など直しました。
最終更新:2021年10月18日 09:42