「ベルフィエルさん! 自分は負けないっすから!」
「ど、どうしたんですか急に? というかどちら様?」
「ああ、あなたが……それでどうして勝ち負けの話になるんですか?」
「あなたが
ニャングオウさんから目にかけてもらってるのは聞いてるっす、一番のパートナーだって話も聞いてます、でもそれは今だけだって言ってんすよ」
「確かに今の自分は未熟っすけど、絶対追い抜きますから、絶対諦めないっすから、絶対
ニャングオウさんの隣は譲らないっすから」
「あ、はい。そうですか」
「随分余裕っすね、もしかして絶対負けないとか思ってます? 自分はこれからめっちゃ強くなるっすよ? もう完成されたあなたと違って、自分はこれから
ニャングオウさんに合わせたスタイルを目指していくんすから!」
「いや、別にそもそも競ってないというか……」
「何すか? 自分とあなたじゃ勝負にならないとでも言いたいっすか!?」
「あの、だから私はそもそも勝負するつもりないですからね?」
「もう勝利宣言っすか!? いまはそうでも――」
「ただいまー、ベル、誰かいるの?」
「えっ……?」
「あれ?
マオウじゃん、ふたり知り合いだったっけ?」
「初対面です。何なんですか?」
「何って、この前助けた子だよ。言ってなかったかな?」
「それは聞きましたけど……何でこんなに敵意むき出しなんですか?」
「知りませんよそんなこと、勝ち負けがどうとか
ニャングオウさんがどうとか言ってましたよ?」
「あ、あ、いや、そんな、自分は……」
「……? どうしたの、大丈夫?」
「だ、大丈夫っす……」
「ただ、その……
ニャングオウさん、さっき『ただいま』って……」
「うん、まあここも私の家みたいなところあるからね」
「迷惑ですからね、あなた家あるでしょう」
「別にいいじゃないか、それともベルがうちに来るかい?」
「まあもういいですけど……」
「ちょ、ちょっと待ってほしいっす!」
「何で『もういい』んすか?
ニャングオウさんも、何で、一緒に暮らす感じなんすか?」
「ベルが一緒に居たいっていうからね、仕方なくだよ仕方なく」
「あなたが勝手に通ってるだけですからね、変な勘違いしないでください」
「うんうん、分かってる分かってる」
「はあ、またそうやってごまかすんですね?」
「……言葉にしたって、聞こうとしないじゃないか」
「…………弱気ですね、やってみないと分からないこともあるんじゃないですか?」
「っ! じゃ、じゃあ、ちゃんと聞いてよ? 言うからね、ベル――」
「そこまでっすよ! 何やってんすか!? ほら離れて!」
「え、え? 何すか? そういう? パートナーって、え?」
「い、いてくれてもいいんじゃないですか? ほら、どうせ泊まるだけですし」
「ダメ、今日はそれだけにしないって決めたから」
「私はもう逃げないよ、ベル、君も逃がさないからね」
「…………」
「あ、ああ……そんな……」
「……分かったっす、邪魔して申し訳なかったっす」
あれからすぐに帰って泣いた。泣いて泣いて、気付いたら日が昇っていたけど部屋を出る気にはなれなかった。
ニャングオウさんと会いたくないなんて初めてだった。
分かっている、自分は道化だ。これまでを思い出すと自分でも笑えてくる。何が『
ニャングオウさんの隣は譲らない』だ、その席はもう埋まっていて、みんなも知っていたじゃないか。だから一番のパートナーだったんだ、よく聞けばよかった。
いや違う、そもそも自分はそういう意味で隣に立ちたいと言った訳じゃない。そんな恐れ多いこと思ってもいない。少しでも役に立ちたい、そうだったはずだ。何を思いあがっていたんだ。
でも
ニャングオウさんもひどいよ、途中から一度もこっち見ないじゃん。そんなの『君は違う』って言ってるのと同じじゃん。
あーあ、どんな顔して会えばいいんだろう。いっそ遠くに行ってしまおうか。きっと心配して探してくれるんだろうな。『一度助けた責任があるからね』とか言ってさ、じゃあ今助けてよ。つらいよ。こんなにあなたが好きなのに、こんなこと考えたくないよ。
どうしてこんなことに……。
最終更新:2022年02月07日 17:17