たんぽぽ娘01 - きっさんらが

マークは丘の上で少女と出会い、エドナ・セント=ヴィンセント・ミレー（米国の女流詩人）のことを考えていた。
少女は午後の日差しの中で立っていた。
たんぽぽの綿毛のような髪が風になびいている。
すらっとした長い足の周りの白いドレスが気になった。
何故か突然彼は、少女が過去から現在へ来たのだという印象を受けた。
しかし、それは間違っていた。
…過去からではなく、未来から来たのだ。

彼は彼女の後ろに少し間を空けて立ち、深呼吸をした。
少女は見ず知らずの彼に気づき、どう自分を驚かさずに現れるのか楽しみにしていた。
彼は決心をしている間に一本のパイプを取り出し、手で覆いながらそれに火をつけた。
彼の手の中でタバコに火がついた。
再び少女を見ると彼女は振り向いて、彼を好奇心にあふれる目で見つめた。

彼は少女の元へゆっくりと静かに歩み寄った。
ふいにここが空に近い場所だと気づいて、顔にあたる風を感じた。
またこの丘へハイキングに来ようと思った。
昔は丘に来て、森の中をのんびりと散策するのが楽しみだった。
しかし今では、後ろにあった木々は切り倒されている。
向こうの木々は、小さな湖で魚釣りに必要な桟橋と小屋を作るということで切り倒された。
彼の妻は唐突な陪審の招集によって居なくなり、二週間もある夏休みを今回は一人きりで過ごさねばならなかった。
午後はリビングルームのたる木のついた暖炉の前で本を読んだり、釣りに出かけたりした。
一日目で、すでに彼は退屈していた。
しかし二日後、そんな飽き飽きする生活は一変した。
ぶらぶらと彼は木々のあるほうへ歩いていき、最後には丘についた。
そして丘を登ったところで、少女を発見したのだ。

少女の瞳は青かった。
彼が最初に少女を見つけたときは、すらっとした体型の影を見ていた。
彼女の顔は、幼く、やわらかく、可愛らしかった。
彼はいつかこんなことがあったと思った。
そして、そばに駆け寄って頬にキスをしたいという衝動を抑えねばならなかった。
彼の手は体の横から離れていなかったが、指先がうずくのを感じた。

なぜだ。
私は44歳だ。
そして、彼女は20歳にも満たない。
私は不思議に思った。
一体全体、私はどうなってしまったのだろうか。
そして私は言った。
「この景色は好きかい？」と。

「ええ。」
少女は言って、身振りを混ぜて言った。
「言葉にならないほど素晴らしいです。」

彼は少女を見つめた。
「そうだな…その通りだ。」
足元では木々が息づいている。
そして丘から見下ろす風景は９月の暖かな季節が広まって、周囲の村々を囲んでいる。
遠いところではコーヴシティで霧が弱くなり影が長くなる。
中世の城が広がる景色。
それがこの光景を夢よりも現実感の無いものにしていく。
「君はこの町の出身なのかい？」
彼は聞いた。

「そんな感じです。」
そう少女は答えた。
少女は彼に笑いかけた。
「私は今から240年経ったコーヴシティから来たの。」

その笑顔は少女が、彼がそう信じることを期待していないことを告げている。
しかし、彼はそういうふりをすればよいと思った。
彼は微笑み返して言った。
「それは西暦2201年だな。」
彼が言った。
「ここは今よりもっと発展しているだろう。」

「そうなんです。
　ここは巨大都市郡の一角で、周りにどんどん広がっているの。」
彼女は足元のへりを指した。
「2040の道がこのカエデの森を横切ってまっすぐ走っているんですよ。
　…この辺りでセミ達は見られますか？」

「ああ。」
彼は答えた。
「見られるよ。」

「ここは新しい市場になっているの。
　スーパーマーケットは見て回るだけで半日かかるほど大きくて、風邪薬からチョコレートまで何でも買うことができます。
　そしてスーパーマーケットの近くにはブナ林の小森があって、大きな服屋があるの。
　私が着ているドレスは、ちょうど今朝そこで買ったものなんです。
　これ、単に綺麗なだけではないんですよ？」

もしそうなら。
本当に少女は未来からやってきたのか。
私には、少女の言うことが真実であるように聞こえた。
その服は私の良く知らない素材でできているようだ。
見た目で言えば綿、キャンディ、海の泡、そして雪が入り混じってできているようだ。

たんぽぽ娘TOP 02