たんぽぽ娘05 - きっさんらが

翌日の午後、少女は青いドレスを着ていた。
そして、小さな青いリボンを髪につけていた。
丘の上に、彼はしばらく動かずに立っていた。
少女の元へ行く決心をして、風を浴びている少女の元へ歩き出した。
少女の喉がやわらかく曲がり、力がこもった。
そして振り向いて言った。
「こんにちは。
　今日は来ないんじゃないかと思ってしまいました。」
彼は言葉に詰まった。

「…でも、来た。」
結局、そう言った。
「そして君も。」

「はい。」
少女は言った。
「来てくれて嬉しいです。」

二人はベンチのような形の岩に座って、辺りを見回した。
火のついた彼のパイプが風に乗っている。
「私のお父さんも同じようにパイプを吸っていました。」
少女は話し始めた。
「お父さんは火をつけるとき、あなたと同じように手で覆うんです。
　風が吹いてない時でさえそうするんですよ。
　お父さんにそっくり。」

「君の父さんのこと、聞かせてくれないか？」
彼は言った。
「それに君のことも聞きたいな。」

そして、少女は話し出した。
少女が言うには、今21歳らしいということ。
父は引退した物理学者だということ。
2040本の道路のそばの小さなアパートに住んでいること。
かつては仲の良い家族だったが、４年前に母親が無くなったこと。
そして、彼は自分自身とアン、ジェフのことについて話した。
いつかジェフに協力してもらうよう頼んだこと。
アンの写真恐怖症について、彼女が結婚式の写真さえも拒否して今でもそのままなこと。
そして、みんなで過ごした最高の時間は、昨年の夏休みにみんなでキャンプに行ったことだと。

彼が話し終わったとき、少女は言った。
「素敵な家族ですね。
　1961年は住むのに最高な年かもしれない。」

「タイムマシンさえあれば、君はいつでも好きなときにここに来られるよ。」

「それは言うほど簡単じゃないんです。
　時空警察というものがあって、タイムトラベルは政治的目的のために制限されています。
　そして一般の人々には使えないんです。」

「君は問題ないように見えるけど。」

「お父さんは自分だけのマシンを発明したんです。
　そして時空警察は、これを知りません。」

「つまり、本当は違法なんだな。」

少女はうなずいた。
「でも、時空警察には彼ら自身の考えがあって、私のお父さんにはお父さん自身の考えがあったんです。」

彼は少女からタイムトラベルに問題はないということを聞いて安心した。
そして彼は彼女とどんな内容でもいいから、とりとめもなく喋っていたかった。
「それについて詳しく聞きたいな。」
彼は言った。

「それじゃ、まずは公式の概念から。
　これを提唱した人々は、こう言います。
　『未来から来た人間は、この世に起こるすべての事象に関与すべきではない。』と。
　なぜなら、そういう人々の存在は非常に矛盾したものだからです。
　したがって、政府のタイムトラベル部門に許可された人にしかタイムマシンは使えません。
　それと時空警察が、シンプルな生活に憧れたり、歴史家を装うなどして時空を越えた一般人を逮捕して、
　全く違う時代へ永久追放するようにしています。」

「しかし、お父さんの考えでは。
　"時の本" は既に書き上がっているんです。
　お父さんは言っていました。
　『これから起こるすべての事象は、既に決定済みなんだ。』と。
　だから、もし未来から来た人が過去の出来事に干渉したとしても、その人はその出来事の一部となるんです。
　つまり、単にその人がはじめからその場所にいたかのようになるんです。
　だから、矛盾なんて発生しないんです。」

マークはパイプに深く薬を入れた。
彼にはこれが必要なのだ。
「君の父さんは非凡な人のようだね。」彼は言った。

「えぇ、そうです。」
少女の言葉が熱を帯びていく。
少女の青い瞳が輝いた。
「ミスターランドルフ、あなたは読んだ本の内容を全部信じるわけではないですよね。
　でも、私たちのアパートはそんな信じられないような本でいっぱいなの。
　ヘーゲル, カント, ヒューム, アインシュタイン, ニュートン, ワイツゼッカーなど (歴史に名を残す物理学者等の名前 )。
　私は…私は、そんな本をたくさん読みたい。」

「私も、そんな本をたくさん集めたよ。
　多すぎて困ってしまうくらいに。」

少女は夢中で彼の顔を見つめた。
「なんて素敵なの、ミスターランドルフ。」少女は言う。
「あなたと、共通の興味を持ててうれしいです。」

続いた会話は、少女が超越的なものよって来たことを示していた。
９月の丘の上での彼と少女の会話は、どちらかというとつじつまが合わず、彼はほどなく思案した。
しかしそれなりの結果も伴い、満足している。
少女の生き生きとした超自然的な会話は面白かった。
彼女の瞳は輝いていた。
少女の話の中では、有名な教授の理論の固有の弱さが強調された。
彼女の言葉も、どんどん熱を帯びていく。
E = mc2 の式(アインシュタインの相対性理論)を再び検証するのではなく、
関連性の再検証をして、これは障害ではなかったと証明した。

その時の気持ちはどんな言葉にもできないようなもので、彼はベッドに入るまでぐずぐずしていた。
この時、彼はアンのことを少しも考えなかった。
彼はふとそのことに気づき、良くないと思った。
彼は暗闇に横たわっていた。
そしていろんな考えが頭の中を巡っていた。
そしてそのすべては９月の丘と、たんぽぽの髪の少女に関係していた。

おとといはウサギを見かけたの。
きのうは鹿。
そして今日はあなた。

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