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ローゼンメイデン百合スレまとめ@ウィキ

【君に言えなかったことがある。】3

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rozen-yuri

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だれでも歓迎! 編集

 相手に、言いたかったけど言えなくなったことがあります。

 だって、相手に言ったってもう理解してもらえない。

 言えなかった、のではなく、言えなくなった。

 だから、何も言わなかったのです。


 ──行かないで。君と離れたくなかったこと。


 寝耳に水。とはものすごく驚いたことに使われる形容詞表現である。
「私が……?」
 ならば私のこの状況は正に寝耳に水である。
 手元に渡された一枚の紙は私の常識の範囲を超えたものになっていた。
「そう、貴女を是非、とね」
「指定校扱いで?」
「いえ、あくまで公募扱いだそうだけれど、優遇ってことじゃないかしら?」
 担任兼、進路指導兼、数学教諭である柏葉巴は私の持っているものと同じプリントを眺めながら言った。
「悪い話じゃないわ。有名な大学だし、貴女の学力なら着いていけるでしょう」
「はぁ……」
 とは言われても今一ピンと来ないのが正直な感想だ。
 まず何故そんな有名な大学が私なんかの一市民に目をつけたのかと言うこと。
「うちの理事長がその大学の教授と仲いいんですって」
「で、私を……」
「えぇ、知徳体全てにおいて優れてると仰ってたらしいの」
 知育・体育ならば確かにトップクラスと自負しているが、徳育はどうだろうか。スカートなんか膝上10cmはあるのに。
「まぁ、貴女にとって悪い話ではないわ。でも優先すべきは貴女の意志。考えといて頂戴」
「でも、……先生ぇ」
 私は柏葉先生に向き直って言った。
「私、ドイツ語分からないんですけど」

 薬品の匂いが充満する廊下を歩く。すれ違う看護師が頭を下げてくれるので、私も下げる。
 この病院で私は常連なのだ。と言っても患者としてではなく、見舞いとしてだ。
 個人病室のドアを二回ノックすると、中からどうぞ、と声がした。
「おはよぉ、って時間でもないわね」
「あ……」
 私を見た少女は大きな碧眼を更に丸くしてこちらを見つめる。
「具合はどう?真紅」
「だいぶ、良くなったわ。でも……」
 決まり悪そうにそこで切ったのは彼女の脳に私の記憶がないから。
 体調が安定してから、私のことを色々教えた。私の名前、私との関係。
 でも、恋人であることは伝えなかった。
 意識を戻してからすぐの日だった。私は真紅の担当の医者に一人で呼ばれた。
「真紅さんに貴方の記憶がないのは何か思い出したくない行為を貴方からされた可能性があります」
 そう言うと医者はこちらに向き直り、心当たりはありますかと訊いてきた。
 あります。とだけ私は答えた。医者もそれ以上は追及して来なかった。
 私が真紅にしてしまった行為。それは「忘れる」ことだ。
 私は、真紅との約束を忘れてしまったのだ。皮肉にもその「忘れる」という行為は、同じ「忘れる」という行為で返された。

 暖かな陽射しの射し込む窓近くの椅子を引き、腰かける。
「気にしないでいいのよぉ、仕方ないことなんだからぁ」
「でも……」
「あー、もう!それ以上言わないのぉ!思い出そうと焦ると、辛くなるわよぉ?」
 それでも気まずげに俯く真紅の頬に手を当てて、無理やり仰向かせる。
「辛そうな顔しないでちょうだぁい」
 そう言ってやるとぎこちなさげではあるが小さく笑みを浮かべてくれた。
 その表情があまりにも愛しくて離しがたくなる。
「……すいぎん、とう?」
 なかなか離さない私に疑問を持ったのか不思議そうに名前を呼ばれた。
「ぶさいく」
「…………はぁ?」
 私の発言に対して機嫌悪そうに眉を釣り上げた。
「わ、私のどこがぶさいくだと言うのよっ」
「ふふ、全部よぉ」
 からかうようにそう言ってやると、昔と変わらない反応を見せてくれる。
 それが嬉しくもあり、悲しくもあった。
 それからしばらく学校であった出来事などを談笑した。
 楽しい時間はあっと言う間に過ぎて、いつしか外は綺麗な夕陽が射していた。
「じゃ、そろそろおいとまするわぁ。またね、真紅ぅ」
「えぇ、また来てちょうだい」
 にこりと微笑む彼女を見ると何故か心がチクリと痛むのだった。

 睡眠の秋と謳ったものはいない。睡眠の季節は春、と銘打っている人は多いが、秋もなかなかだと思う。
「ふぁーあ」
 真っ白のシーツの中で大きくアクビをするとクスクスと笑い声が聞こえる。
 いつのまにか隣のベッドで寝転んでいたクラスメートの蒼星石だ。
 保健室にいるからといって別に体調が悪いわけではない。強いて言うならば、授業だるい病である。
「何よ、蒼星石サボりぃ?」
「君は?」
 お互い何も言わないがそこは暗黙の了解というものだろう。
「何?真面目に受ける気になった?」
 ベッドからおもむろに起き上がった私に蒼星石はそう問いかけた。
「ねぇ、蒼星石……」
「何?」
「好きな人が自分だけを忘れたら、どうする?」
「…………真紅のこと?」
 私は小さく頷いた。
「それでも君は真紅のことが好きなのかい?」
 再び縦に首を振った。
 蒼星石は私の方に近寄ってくると私の座っているベッドに腰かけた。
「そうだな、僕なら思い出して欲しくて必死になるかな」
 蒼星石は少し俯いて、そう語り出した。
「ずっと一緒にいて、いっぱい話して、思い出のもの見せたりして」
 ふと、蒼星石は私を見ると優しく頭を撫でてくれた。
「貴女は強いのねぇ……」
 目から溢れた涙が真っ白なシーツにシミを作る。
「私は、もう……」
 無理かもしれない。
 そう言いながら、私はある一つの決心を固めた。

 こんこん、と扉をノックする音が響いた。
「どうぞ」
「調子はどう?」
「柏葉先生……」
 お久しぶりです、と頭を下げるとにっこりと優しく微笑んでくれた。
「進路の話なんだけど、あなたは上の大学に進むってことでいいのかしら?」
「はい、お願いします」
 そう言うと柏葉は何らかの書類にメモをし始めた。
「じゃあ、ここ、名前書いてくれる?本人の字じゃないとね……そう、その四角の欄に」
「うちのクラスで他大学受ける人ってどのくらいいるんですか?」
 所定の欄に名前を書きながら真紅は尋ねた。
 そうね、と柏葉は頭の中を探るように語り始めた。
「蒼星石と金糸雀、あと……あぁ、ありがと」
 柏葉は受け取った書類を大切そうに分厚いファイルに挟んだ。
「あぁ、あとそうだわ
 柏葉は一枚の書類を見てパッと顔をあげた。
「水銀燈がドイツの大学から逆推薦が来てね、随分悩んだみたいだけど昨日行くって決めたみたいよ」
 それだけ言うと、お大事に、と頭を下げて柏葉は出ていってしまった。

 好きなことを好きなだけできるのは個室の特権であろう。もちろん、常軌を逸することは許されないが。
 翠星石はお手製のクッキーを真紅と二人で頬張っていた。
「相変わらず美味しいわ。貴女のクッキーは」
 そう微笑みながら呟いた真紅の顔に翠星石はズイッと近寄った。
「な、何?」
「何か変ですよ。今日の真紅」
 その時、真紅が少し悩ましげな表情を浮かべた。
「何かあったですか?何でも聞くですよ?」
 真紅はその言葉に思わず大粒の涙を一粒流した。そして、少しずつ小さな声で語り出した。
 柏葉に水銀燈がドイツの大学に行くということを聞いたこと。話してくれなかったのがすごく悲しかったこと。
 それから、離れたくないと感じたこと。
 泣きながら真紅は語った。
「そうでしたか…」
 真紅の話を聞いて翠星石は深く考え込む。
 それにしても真紅が事故に遭ってから──即ち、水銀燈を忘れてから──数週間。
 普通に喋るようになってはいるものの、端から見たら少しぎこちない面もあった。
 それがどうだろう。この短い期間で離れるのが寂しいと泣くまで真紅は水銀燈と仲が深まっている。
「だったら言ってやるですよ!行かないでほしい、って……」
「でもね、翠星石」
 と、真紅が翠星石の言葉を遮った。
「何でこんなに寂しいのか分からないの。意味も分からず言ったら、きっと迷惑でしょ?」



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