アットウィキロゴ
ローゼンメイデン百合スレまとめ@ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

ローゼンメイデン百合スレまとめ@ウィキ

【君に言えなかったことがある。】5

最終更新:

rozen-yuri

- view
だれでも歓迎! 編集

涙混じりの声は、彼女に届いたのだろうか。


 届いてほしい。もう会わないという決心が伝わるから。


 届いてほしくない。彼女に逢いたいという気持ちがあるから。


 ほら、私は弱い人間。


 ──好き。君が好きだということ。


 ドイツに来てもう何年たっただろう。二年、正しくは七百と二十と──いや、もうやめよう。
 らしくもなくドイツという文化の違いに緊張していたが、日本人を多く取っているので意外に気楽であった。
 だからだろうか、この大学の食堂には日本人にあった味のメニューが特別にある。
 今もその食堂で早めの昼食をとり終えたところである。
「さて」
 と水銀燈が呟いたのは、これから入ってくる新入生のために部屋を掃除しなければならないから。
 私のルームメイトであった、二つ上の先輩がこの春でめでたく卒業となった。
 しかし、そのまま一人部屋になるわけでなく、入れ替わりに新入生が入ってくるのだ。
「こんにちは、水銀燈さん」
「あらぁ、白崎さん」
 目の前にいるのはこの寮の全体を管理している男性だ。
「同室の方がさっきみえましたよ」
「もう?じゃあ急がなきゃねぇ」
「ですね、と言いたいとこですが。槐先生が呼んでましたよ?」
「槐先生が?」
「えぇ、研究室においでですよ」
「ありがとう、すぐ行くわぁ」
 槐とは私がこの大学で取っているのでゼミの先生である。
 同室の子に挨拶もしたかったので、急いで研究室に向かった。
「槐先生、何ですか?」
 ちょうど廊下を研究室に向かって歩いていたので、大きな声をかけた。
「あぁ、水銀燈。この前の論文がね……長くなるから研究室に着いてからね」
「長くなるんですか……?」
「うん」
 明確な答えに私は肩を小さく落とした。
 まぁいいか。部屋はあらかた片付けてあるし、部屋の使い方などは白崎からも伝わるだろう。
 私は気持ちを切り替えて、槐と研究室に向かった。

 結局、槐のミニ講義が終わったのは三時間後。少しぐったりしながら部屋に帰るともぬけの殻だった。
「あれぇ?同室の子はぁ?」
 疑問に思いながら自分の机に向かうと、一通の封筒が置いてある。
「何々?『同室の者です。いらっしゃらないようなので、食堂に向かいます。荷物等、邪魔でしたら動かしてください。』……丁寧な子ねぇ」
 それ一枚だけなのに、わざわざ封筒に入れてあるのだ。
 とりあえずその状態でキョロキョロと辺りを見渡す。
 確かに自分のものではない荷物があるが、別段邪魔ではないのでよしとする。
 手紙を封筒に戻して、ゴミ箱に投げ落とす。二年前に染み付いた癖はまだ残ってるらしい。心がチクリと痛んだ。
「ん?」
 と声を上げたのは、封筒がゴミ箱の底に当たった瞬間、小さくコツリと音がしたから。
 紙だけならばこんな音はしないはずだ。
「なんか入ってたっけぇ?」
 掌に封筒をひっくり返してみるとコロリと金属のものが転がってきた。
「これ……っ、」
「読んだらすぐ捨てなさいと言ったはずよ」
 開けっ放し扉の前にいきなり表れた彼女は高く二つに結った金髪を靡かせながらこちらに歩いてきた。
 あの頃と同じ姿で。

「……し……っ!」
「今日からこの大学に入る、一年の真紅です」
「え……何で、……」
「反応が鈍い」
 口ごもっているとパチンと右頬を叩かれた。私を叩いた左手を見つめると薬指に何かが光っている。
「指輪……」
 それは封筒から私の掌に落ちた指輪と同じもの。あの日、真紅の記憶がなくなった日、私が無くしたもの。
「何で、貴女、記憶は……」
「全て思い出したわ。私のベッドの下に転がっていたこの指輪を見て」
 そう言いながら真紅は愛しそうにその指輪を撫でた。
「何で言ってくれなかったの?」
 真紅はキッときつく私を睨みながらそう言った。
「何で、私達が恋人だったこと教えてくれなかったの?」
「……それは、」
 強い光を放っていた真紅の瞳が少し揺らいだ。それは次第に潤んでいく。
「言ってくれれば、私、貴女に、悲しい想いさせなかっ……」
 そこまで言って少し涙を零した真紅を強く抱き締めた。少し抵抗しようと突っ張る腕を強引に押さえ込む。
「私、貴女に辛い想い……させ、た」
「大丈夫よぉ」
「いっぱい、ひど、いことした……」
 愛し君の名前を忘れた。愛し君の関係を忘れた。愛し君の自分を忘れた。
「真紅、」
 愛し君に名前を忘れられた。愛し君に関係を忘れられた。愛し君に自分を忘れられた。
「嫌われても仕方ないと思ったわ……でも、でも、もう一度だけ……会いたかった」
「真紅!!」
 腕の中で少しだけ真紅がピクンと跳ねた。震える肩を強く抱き締め、頭を優しく撫でる。

 赤子をあやすように、背中をゆっくり上下にさする。
「会えて嬉しいわぁ、真紅」
 ゆっくり諭すように、一語一語を丁寧に紡いでやる。
「会いたかった……」
 吐息混じりに呟く。
「でも、来るのに二年かかっちゃったわ。ドイツ語、難しいんだもの」
 冗談混じりに真紅がそう言ったので、二人で自然に笑いあった。
「はめて?」
 持っていた指輪を渡して、左手を真紅に差し出す。渋っていた真紅だが、おずおずと私の手を取り、指輪をはめてくれた。
 真紅の左手を取り、指輪の光る薬指にキスを落とし、再び強く抱き締めた。
「おバカさんよねぇ、私達」
「全くだわ」
 互いに変な遠慮をしあって、言いたいことが言えなかった。
「寂しかった」
 君にそばにいて欲しかったこと。
「ごめんねぇ」
 君に謝りたかったこと。
「行かないで」
 君と離れたくなかったこと。
「ありがとぉ」
 君にお礼を言いたかったこと。
 あの時、言っていたら、二人は離れることなかったかもしれない。
 あの時、言えなかったから、今が幸せなのだ。
「真紅、」
「水銀燈、」
 好き。と言えなかったのは、二人の唇の距離が0になったから。


終わり

名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー