「ん…」
巴は触れるような軽いキスを交わすと、溢れそうになる涙を堪えてオディールへと微笑みかける。
そのオディールも笑顔ではあるが、目が潤んでいて目が少し赤い。恐らく自分も同じ表情をしているのだろう。
本来ならもっとしっかりとキスをしたい所だが、ここは空港のロビー。
そんな公衆の面前で熱烈なキスをするわけにはいかない。そもそも、こんな所でキスをするのはどうかと思うが、この時ばかりは別だった。
そのオディールも笑顔ではあるが、目が潤んでいて目が少し赤い。恐らく自分も同じ表情をしているのだろう。
本来ならもっとしっかりとキスをしたい所だが、ここは空港のロビー。
そんな公衆の面前で熱烈なキスをするわけにはいかない。そもそも、こんな所でキスをするのはどうかと思うが、この時ばかりは別だった。
ゴールデンウィークの間、オディールは日本に――厳密には巴の所へ――やってきてくれた。
何でもオディールの通う学校ではテストが終わり、休暇が出来てこちらへやって来たと言う訳だ。
夏休みでも冬休みでもないのに訪れた逢瀬、二人はゆっくりと愛の時間を過ごす事が出来た。
何でもオディールの通う学校ではテストが終わり、休暇が出来てこちらへやって来たと言う訳だ。
夏休みでも冬休みでもないのに訪れた逢瀬、二人はゆっくりと愛の時間を過ごす事が出来た。
…しかし、それも今日で終わり。
今日はオディールがフランスへと帰ってしまう日で、今は見送りに空港へ見送りに来ている所だ。
今日はオディールがフランスへと帰ってしまう日で、今は見送りに空港へ見送りに来ている所だ。
「…そろそろ行かないと。この一週間、楽しかったわ」
「私もよ。本当に楽しかった」
「ええ。…それじゃあね、愛してる」
「うん…私も」
「私もよ。本当に楽しかった」
「ええ。…それじゃあね、愛してる」
「うん…私も」
時計を見るともうそろそろ飛行機に向かわないと間に合わない時間だ。
オディールは名残惜しそうに巴に背を向けると、キャリーバッグを引いてゲートへ歩き出した。
巴はその場から動かず、オディールの姿がゲートの向こうのエスカレーターで見えなくなるまでその場で手を振り続けた。
オディールは名残惜しそうに巴に背を向けると、キャリーバッグを引いてゲートへ歩き出した。
巴はその場から動かず、オディールの姿がゲートの向こうのエスカレーターで見えなくなるまでその場で手を振り続けた。
空港の屋上からオディールの乗った飛行機を見送り、バスで家に帰った頃には涙が枯れるほどに泣いたせいか、喪失感で胸の中に大きな穴が開いた気分だった。
遠距離恋愛であるから楽しい思いの後には辛い別れが待っているのは、オディールが日本に来る前で分かっていたつもりだった。
しかし、いざこうして別れると堪えきれない悲しさと寂しさが津波のように押し寄せる。
オディールが来日し、別れる度にこの感情が来る…これには一向に慣れず、毎回泣いてしまうのだった。
遠距離恋愛であるから楽しい思いの後には辛い別れが待っているのは、オディールが日本に来る前で分かっていたつもりだった。
しかし、いざこうして別れると堪えきれない悲しさと寂しさが津波のように押し寄せる。
オディールが来日し、別れる度にこの感情が来る…これには一向に慣れず、毎回泣いてしまうのだった。
部屋に戻ると疲れがドッと押し寄せ、着替える事も無くそのまま床へと寝転がった。
溜息を吐き、ふと隣を見ると床に一本の金色に輝く糸のような物が落ちているのに気が付いた。
溜息を吐き、ふと隣を見ると床に一本の金色に輝く糸のような物が落ちているのに気が付いた。
「…オディールの髪…」
それはオディールの髪だった。昨日オディールが泊まって体を重ね合った時に抜けた物だろうか。
それを手に取ると、思い出したように首の裾を引っ張り自分の胸元を見る。
そこにはオディールによって付けられた紅い痕が残っていた。
オディールの身体にも、自分が付けた同じ痕が付いているはずだ。お互いがお互いの物と言う証が。
それを手に取ると、思い出したように首の裾を引っ張り自分の胸元を見る。
そこにはオディールによって付けられた紅い痕が残っていた。
オディールの身体にも、自分が付けた同じ痕が付いているはずだ。お互いがお互いの物と言う証が。
「んっ…」
それを見て昨日の情事をふと思い出し、情欲が心の奥底から沸きあがってくるのが分かった。
服の中に手を差し込み、胸の突起に触れてみるとそこは既に自己主張を始めていた。
更にスカートの中に手を入れてショーツに指を這わせると既に秘所が少しずつ湿り始めている。
目を閉じて、昨日の様子を思い出しながら衣服を乱して自分を慰め始めた。
服の中に手を差し込み、胸の突起に触れてみるとそこは既に自己主張を始めていた。
更にスカートの中に手を入れてショーツに指を這わせると既に秘所が少しずつ湿り始めている。
目を閉じて、昨日の様子を思い出しながら衣服を乱して自分を慰め始めた。
「オディール…んっ、オディール…!」
オディールの昨日の様子を思い出しながら自分を慰めていくが、それでも胸を締め付ける悲しさは誤魔化しきれない。
情欲と悲しさが混ざり合って、出し尽くしたと思っていた涙が再び頬を濡らして行く。
情欲と悲しさが混ざり合って、出し尽くしたと思っていた涙が再び頬を濡らして行く。
「んっ…オディ…ああぁ…!」
目の前が真っ白になって絶頂を迎え、息も絶え絶えにそのまま天井を仰ぐ。
しばらくそのまま呆然としていたが、快楽のリバウンドに虚しさが込み上げてきた。
しばらくそのまま呆然としていたが、快楽のリバウンドに虚しさが込み上げてきた。
「…オディール…逢いたい…逢いたいよ…!」
別れて数時間も経っていないというのに、そんな願いが口から零れる。
振り返っても仕方が無いと分かっているはずなのに、どうしてもオディールの事が頭から離れなかった。
振り返っても仕方が無いと分かっているはずなのに、どうしてもオディールの事が頭から離れなかった。
―※―※―※―※―
オディールと別れて週が明けると学校が始まったが、最初の数日間はどうにも今一つ学校に集中できなかった。
こんなに引き摺るなんて、我ながら未練がましいと思う。
それでも週も半ばを過ぎると何とか気持ちの方も落ち着き、学校生活も調子を取り戻してきた。
そんな週末、部活も無く早めに帰ろうと校門に出ると、そこには見慣れた眼鏡の女性…のりが立っていた。
歩いて行くと自分に気が付いたらしく、微笑んできたので軽く会釈をして近づいて行く。
こんなに引き摺るなんて、我ながら未練がましいと思う。
それでも週も半ばを過ぎると何とか気持ちの方も落ち着き、学校生活も調子を取り戻してきた。
そんな週末、部活も無く早めに帰ろうと校門に出ると、そこには見慣れた眼鏡の女性…のりが立っていた。
歩いて行くと自分に気が付いたらしく、微笑んできたので軽く会釈をして近づいて行く。
「こんにちは、巴ちゃん」
「こんにちは。柿崎さん、ですか?」
「こんにちは。柿崎さん、ですか?」
そう尋ねるとのりは頷いた。二人は付き合っていて、のりがめぐを迎えに来る事はもはや日常的なことだった。
もっとも、巴が部活で帰りが遅くなる時は既に二人とも帰った後なので毎日会うことは無いが。
もっとも、巴が部活で帰りが遅くなる時は既に二人とも帰った後なので毎日会うことは無いが。
「柿崎さんならもうすぐ来ると思いますけど…あ、来ましたよ」
噂をすれば何とやら、との言葉どおり二人が話をしているとめぐが早足で向かっているのが見えた。
そのまま二人の所へやって来て、手馴れたようにのりの腕に抱き付いた。
そのまま二人の所へやって来て、手馴れたようにのりの腕に抱き付いた。
「のり、遅くなったからって柏葉さんと浮気しないでよ」
「もう、ばかな事言わないの。巴ちゃんにはフォッセーさんって人がいるんだから」
「もう、ばかな事言わないの。巴ちゃんにはフォッセーさんって人がいるんだから」
もちろんめぐは冗談で言っているのだが、のりの口からフォッセー…オディールの名前が不意に飛び出してきて胸が一瞬高鳴った。
ようやく寂しさから脱する事が出来た矢先なのに。
二人はその様子に気付く事も無く冗談を言って笑い合うと、巴の方を向いて軽く微笑んだ。
ようやく寂しさから脱する事が出来た矢先なのに。
二人はその様子に気付く事も無く冗談を言って笑い合うと、巴の方を向いて軽く微笑んだ。
「それじゃあ私達はそろそろ行くわね。またね、巴ちゃん」
「また明日、柏葉さん」
「ええ…」
「また明日、柏葉さん」
「ええ…」
挨拶を済ませると二人は先に歩き出して遠ざかって行く。
腕を絡ませて笑顔で帰る二人は本当に幸せそうで、仲睦まじい様子が伝わってくる。
――その様子を見て、デジャブのような感覚が巴を襲った。
二人の様子と、先週デートしている時の自分とオディールの姿が重なって見えたのだ。
そう思うと、胸の奥に仕舞いこんでいた寂しさが再び湧き上がって来る。
巴は居た堪れなくなり、二人から目を背けて自分の帰路へと足を向けた。
腕を絡ませて笑顔で帰る二人は本当に幸せそうで、仲睦まじい様子が伝わってくる。
――その様子を見て、デジャブのような感覚が巴を襲った。
二人の様子と、先週デートしている時の自分とオディールの姿が重なって見えたのだ。
そう思うと、胸の奥に仕舞いこんでいた寂しさが再び湧き上がって来る。
巴は居た堪れなくなり、二人から目を背けて自分の帰路へと足を向けた。
(…二人とも羨ましいな…)
オディールと付き合い始めたことは後悔はしていない。むしろその逆で幸せな事だと思う。
…しかし、めぐとのりの様に会いたい時に会う、という事は出来ないのも事実。
そう考えると、遠距離恋愛の辛さを呪う時はあった。せめて同じ国内ならまだ気分的に楽だったかもしれないのに、と。
…しかし、めぐとのりの様に会いたい時に会う、という事は出来ないのも事実。
そう考えると、遠距離恋愛の辛さを呪う時はあった。せめて同じ国内ならまだ気分的に楽だったかもしれないのに、と。
浮かない気分のまま家に着くと、自分の机の上に赤と青が目を引く封筒…エアメールが置いてあった。
「オディールから…!」
それは紛れも無くオディールからのもので、はやる気持ちを抑えて封を開けていく。
中には数枚の近況の写真と一枚の手紙で、イスに座ってそれを読み始めた。
中には数枚の近況の写真と一枚の手紙で、イスに座ってそれを読み始めた。
――巴、こんにちは…こんばんはかしら? そっちの様子はいかがですか? こっちはテストの結果も返ってきました。結果は…聞かないでね。落ち込んでしまうから――
「ふふ、何言ってるのだか」
「ふふ、何言ってるのだか」
手紙に書かれているジョークに笑みを漏らし、読み進めていく。
内容は他の近況や家の事、友達の事…どれも他愛も無い事ばかり。
それでも筆跡からオディールの温もりが伝わってくるような気がして、読んでて楽しいものだ。
そのまま読み進めて行くと、途中から少し文体が変わってきているのに気が付いた。
内容は他の近況や家の事、友達の事…どれも他愛も無い事ばかり。
それでも筆跡からオディールの温もりが伝わってくるような気がして、読んでて楽しいものだ。
そのまま読み進めて行くと、途中から少し文体が変わってきているのに気が付いた。
――…正直、フランスに帰ってきて数日間は巴の事で頭がいっぱいでした。すぐに巴の事が浮かんで…会いたい、と何度も思ってしまいました。それは巴も同じだと思うのは、自惚れじゃないかしら?――
「自惚れなんて…私も同じよ」
――でもそれは無理…。だから、辛くなった時はせめて月を見て欲しい――
「月?」
――日本とフランスでは昼夜がほぼ逆…それでも、もしかしたら同じ時間に月が見えるかも。こっちが夜の月でも、そっちでは真昼の月が浮かんでいると…または、その逆も――
「自惚れなんて…私も同じよ」
――でもそれは無理…。だから、辛くなった時はせめて月を見て欲しい――
「月?」
――日本とフランスでは昼夜がほぼ逆…それでも、もしかしたら同じ時間に月が見えるかも。こっちが夜の月でも、そっちでは真昼の月が浮かんでいると…または、その逆も――
月を題材にするなんて、日本でも昔からよくある話だがオディールもそれを題材にするとは。
ロマンチストな面を垣間見た気がして、巴は思わず微笑んだ。
ロマンチストな面を垣間見た気がして、巴は思わず微笑んだ。
――もし見えたなら、私とこの同じ月を見て繋がっていると思って欲しい。もちろん、国は離れても愛は通い合っているはずだけど、それでも繋がりが欲しいから――
「月…か…」
「月…か…」
手紙から目を逸らして窓の外を見ると、まだ薄明るい東の夜空に三日月が浮かんでいるのが見えた。
――…ちょっと恥ずかしいこと書いちゃったかな? でも、この事を頭の片隅にでも入れておいてくれたら嬉しいです。それではそろそろ…。Je t'aime.――
愛してる、と言う意味のフランス語で手紙は締められており、巴はその手紙を持ったまま月を眺めていた。
手紙通りなら、今頃オディールも月を見ているかもしれない。遠いフランスと日本を繋ぐ、この月を。
手紙通りなら、今頃オディールも月を見ているかもしれない。遠いフランスと日本を繋ぐ、この月を。
「…オディールも同じなんだから、私も頑張らないといけないわね」
手紙のおかげか、あれほど落ち込んでいた気分もすっかり治っていた。
むしろ、前向きになろうというエネルギーを受け取ったようだ。
イスに座り直すと、便箋を取り出して返事を書き始めた。
オディールも見ているであろう、窓から見える月を眺めながら。
むしろ、前向きになろうというエネルギーを受け取ったようだ。
イスに座り直すと、便箋を取り出して返事を書き始めた。
オディールも見ているであろう、窓から見える月を眺めながら。
終わり