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空に浮かぶ恋人のように

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rozen-yuri

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だれでも歓迎! 編集

 普段、閑古鳥が鳴くような店で珍しく鈴がひとつ鳴った。
 それは、ドアが開いたのを知らせるのと同時にお客さんが来たことを知らせる音でもあって。
 その音で振り返ると、やはりその人だった。
「いらっしゃい、お客さん。ご注文は?」
「カシスオレンジを。後、ペペロンチーノ作れますか?」
「すみません。食べ物やってないんですよ」
 と、お互いに至極真面目に言い合ってから、ぷっと吹き出した。
「キッチン借りますよ」
「どうぞ、ご自由に」
 そう言って彼女はペペロンチーノの材料が入っているであろう袋を抱えて奥のキッチンへ隠れていった。
「ねぇ、知ってますか?」
 そう言った彼女に振り向かずに「何を?」と聞くと楽しげな声で、
「今日、七夕ですよ」
 と言った。


 ──空に浮かぶ恋人のように


 へぇ、と答えると洗っていたグラスを置いた。
 からん、と先ほどと同じ鈴の音が鳴ってドアを見つめると、旧友が立っていた。
「いらっしゃい。水銀燈、真紅」
「相変わらず寂しい風景ねぇ」
「水銀燈、失礼よ」
「いいんだよ。いつものことだから。ご注文は?」
「カンパリソーダを」
「まずはアースクエイクからねぇ」
「相変わらず強いね、水銀燈は」
 言われて僕はさまざまな酒の並んだ棚からジンを取り出した。
「あれ、来てたですか」
 キッチンから顔を出した翠星石が二人の顔を見て珍しそうに目を丸くした。
「あら、あなたもいたのねぇ」
「じゃあカルボナーラ作ってちょうだい」
「なら私はオムライス食べたいわぁ」
「勝手なこと言うんじゃねぇですよ」
 べー、と舌を出しながらもキッチンに向かう様は、もう彼女の性格を知っている僕らだから分かること。
 何だかんだ言って作ってくれるのだ。
「翠星石はまだ、なの?」
「ん、あぁ。……まぁね」
「あなた達仲良かったからねぇ。てっきり一緒に」
「水銀燈!」
 少しだけ強くなった僕の言葉尻に彼女は少し申し訳なさそうな表情をして謝った。
「分かってる、から」
 そう言って僕は彼女の前にアースクエイクを置いた。それに一口、口をつけるとふぅっと息をついた。
「あー、クるわねぇ」
「よくそんな強いの飲めるわねぇ。あら、ありがと」
 続いて真紅の前にカンパリソーダを置いた。
「これで食事があれば最高なんだけどなぁ!」
 奥のキッチンに聞こえるようにわざと大きめの声で水銀燈がアピールをすると翠星石がひょこりと顔を出した。

「ちぃと待てです。まだ真紅のペペロンチーノしか作れてねぇですよ」
「僕出すよ」
「すまねぇですね」
 キッチンに入るとにんにくとオリーブオイルのいい香りがしてこちらもお腹が減ってしまう。
「はい、真紅」
「ありがとう。そういえば蒼星石、あなたまだ料理できないの?」
「ははっ、僕は調理という言葉に嫌われたみたいだよ」
 自分の言葉通り、僕は料理がてんでダメ。それでもバーを開いてみたくて開いたけれど、料理は置いてない。
 枝豆やナッツはあるんだけど、ナッツならまだしもバーに枝豆は、ね。
「おいしいわ、さすがね」
 一方、双子の姉は現在大手ホテルのイタリアンレストランで修行中。この差は一体何なんだ。
「オムライスもできたですよ」
 ふんわりとした卵にトマトソースとホワイトソースの二色ソースがけ。
 ああ、お腹減った。僕も何か作ってもらおうかな。
「さて、私も冷えきったカルボナーラ食うです」
 やめとこう。これ以上頼むと怒られそうだ。
「君たちはデート?」
「えぇ、といっても。後は水銀燈の家にお邪魔するだけよ」
 そう言って少し染まった頬はお酒だけのせいではなさそうだ。
 しばらく四人で談笑して、皿もグラスも空になったころ。
「じゃ、そろそろ行くわぁ。これ、お代。ちょうどよねぇ」
「お預かりいたします」
「じゃ、またねぇ」
「また来るわ。蒼星石、翠星石」
 鈴の音を鳴らしながら開かれたドアから真紅は空を見上げた。

「降っちゃったわね」
 しとしとと小さく窓ガラスを叩く雨粒は、悲しきかな恋人を裂く音。
「雲の上は晴れてるんだからいいんじゃないのぉ?」
 それに、にやりと水銀燈が笑った。
「二人だって人間に見られてない方がやりやすいわよ。色々と、ねぇ」
 真紅が水銀燈をどついた音が聞こえた直後、扉が閉まった。
「嵐が去りましたね」
「はは、君も何か飲む?」
「じゃあお任せで」
「はいはい」
 棚の方を向いて何にしようかと考えて、ふと翠星石の方を振り返る。
「僕も飲んでいいかな?」
「構いませんよ」
 そう言われてドライジンと日本酒を取り出す。
「その二つを使ったやつ、ありましたっけ?」
「いや、二つ作るんだよ」
 そう言いながらアップルジュースやスイートベルモットも取り出してシェイカーに材料を注ぐ。
「はい、君の分。『ベガ』」
「ベガ……ですか」
「で、これは僕の『アルタイル』ベガは織姫。アルタイルは彦星」
 くるりとゆらすとキラキラと紅の水が揺れた。
「ねぇ、まだ一緒にやる気はない?」
「……」
「ここでシェフをやってほしいな」
 織姫と彦星が引き裂かれた恋人ならば。僕たちのような恋人の願いを聞いてほしい。
「社会勉強したいのは分かるよ。でもまだ、だめかな?」
 君達の名が付けられたカクテルで、げんを担がせてもらうよ。
「僕は、君とやっていきたい」
「っ……」
 翠星石の指がグラスに伸びる。
「私で、いいんですか?」
「当たり前じゃないか」
 にこりと僕が笑うとほっとしたように彼女も微笑んだ。
「じゃあ乾杯しましょうか」
「何に乾杯する?」
「好きなもので」
「じゃあ僕たち二人と空に浮かぶ二人、二組の恋人に」
 カチンと、二つのグラスがキスする音が響いた。


終わり

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