Running to the straight
「何それ?」
期待外れな展開に、失望の声を上げる。
幼き魔道士は姿を現し、怒りの眼差しを
ストレイボウに向けた。
それはマリアベルもストレイボウも知っている人物であり、しかし今まで二人には見せたことのない表情を見せている。
憤然とした表情で近寄る少女――ニノは、殺気立った気配を隠そうともせずにストレイボウにぶつけていた。
後ろから肉厚な鎧を纏ったオールバックの男――へクトルが出てくる。
しかし、ニノはヘクトルの制止を振り切り、目を血走らせストレイボウを睨み付ける。
「聞いておったのか……」
「ああ、割と前からな。 黙っててすまねえ」
マリアベルとヘクトルのやり取りでさえ、ニノは聞いていない。
ただ、今にも飛び掛らんばかりの形相で、クレストグラフを握り締めていた。
ストレイボウは先ほど流していた涙をピタリと止まっていた。
「みんな、みんなお前のせいなの!?」
「う、あ……ああ……」
射抜くような、いやそれ以上の激情がニノの中で暴れているのが目に見える。
蛇に睨まれた蛙のごとく、ストレイボウは固まった声を出すことしかできない。
今日まで真実を打ち明けることをストレイボウが躊躇っていたのは何故か。
それはストレイボウも恐れていたからだ。
お前のせいでみんな死んだのだと、責められるのが怖かったからだ。
マリアベルはストレイボウが顔を伏せていたのもあって、表情を窺い知ることはなかった。
しかし、今度は真正面から直接、ニノのストレイボウ憎しの感情をぶつけられているのだ。
それは紛れもなく、ストレイボウが経験したあの黒い感情、憎しみに違いない。
謝罪の言葉も忘れたストレイボウは、弁解もできずに金縛りにあう。
ストレイボウが何も言わないことに業を煮やしたニノは、今度こそクレストグラフに魔力を集め始めた。
だがしかし、さすがにこれは慌ててヘクトルが手刀でクレストグラフを弾き飛ばして、動きを抑える。
「何で!? 何で邪魔するのヘクトル!」
「それは駄目だ」
「どうしてっ!
フロリーナとリンと
ロザリーさんが死んだのはこいつのせいなのに!」
「それとこれは別問題だ。 いいから少し落ち着け」
マリアベルとストレイボウの会話を見て、様子を見ると決めたのはヘクトルの方だった。
それにはちゃんとした理由がある。
ストレイボウに償いの意志があるのなら、マリアベルの代わりにストレイボウを許すつもりだったからだ。
それこそがヘクトルの築こうとしている理想のオスティア。
語ることのできない過去を持った人も、脛に傷を負った人も、オスティアの法さえ遵守すれば受け入れる理想郷を作りたいと願っているからだ。
最悪、そのことで今いるパーティーともめてストレイボウと共に殺しはされないが放逐されることになっても、構わない。
それだけの覚悟がヘクトルにはあった。
そして、ニノの愛する
ジャファルにも関連があるからだ。
「なら、ジャファルはどうなる!?」
尚ももがくニノに、ヘクトルは決して無視できない名前を引き合いに出す。
「今、ジャファルは関係ない!」
「いや、大いにあるんだ」
冷や水を浴びせられたように、ニノの動きが止まる。
そして、ようやくストレイボウ以外の、ヘクトルの顔を見た。
その顔は憎しみではなく、疑問の形をしていることにヘクトルはほっとする。
ああいった顔を見るのは、ヘクトルも苦手だ。
子供が憎しみに囚われてしまうところなんて見たくもない。
戦争で家族や頼れる人をすべて失った孤児のするような、この世のありとあらゆるものを憎むかのような顔は見たくなかった。
ヘクトルは説き伏せるように、ニノへと言葉を続けた。
ジャファルとストレイボウには、共通点がある。
それは、過去に大きな罪を犯したことだ。
ジャファルは暗殺者として、言われるままにたくさんの人を殺した。
ストレイボウは親友を裏切り、ルクレチアの国さえも滅ぼした。
仮にジャファルに大切な人を殺された人が敵討ちに来た場合、ニノは身を挺して止めるだろう。
もうジャファルにはあんなことをさせないから許して、と言って。
それはつまり、ジャファルを許そうとするのなら、自動的にストレイボウも許さないといけない。
逆もまた然りだ。
ニノにも、ストレイボウを憎む資格はないのだ。
ストレイボウは国を滅ぼした極悪人だ。
しかしジャファルとストレイボウの、どちらの罪が大きいかなどを論ずるのはナンセンスでしかない。
ジャファルは生まれた頃から食器の扱いを知る前に、ナイフの使い方を教えられた。
ニノのために生きると決心した頃までに殺した数は、軽く見積もっても三桁はいっているだろう。
そこまでくれば、どちらの罪が大きいか、どちらかは許せて、どちらかは許されないといった話は通用しない。
それはどちらも悪いのだから。
そして、現在のことだけに限って語れば、ジャファルの方が悪質なのだ。
罪を悔いて、償おうとしているストレイボウと、ニノ自身の想いとヘクトルとの約束を破って人を殺す道に戻ったジャファル。
どちらの方が客観的に見て悪辣かは、一目瞭然だ。
また、感情だけで物事を語るのならば、ヘクトルはストレイボウの方がまだ救いようのある人物だと思っている。
極端に臆病なのに、何故か時々驚くほどの度胸を発揮するフロリーナ。
初めて会ったときからずけずけとした物言いだったが不思議とそれが嫌ではなく、まるで十年来の友のように仲良くなったリン。
オスティアでもトップクラスの実力を持つ密偵だったレイラ。
身近で、かつ大切な仲間を少なくとも三人殺し、あまつさえヘクトルとの約束も破ったジャファルに対する心象はストレイボウ以下。
ニノがいなかったら、今頃アルマーズの斧で叩き切っているところだ。
生まれた頃から不幸を背負い続けた少女のためを思えばこそ、今も我慢できているのだ。
「ジャファルを許すなら、お前はこいつも許すしかないんだ」
反論しようとするが、何も浮かばない。
ニノはしょげかえるような表情になった。
フロリーナを殺した奴は絶対に許せないと、そう思っていた。
ロザリーに憎しみに身を任せても駄目だと言われても、納得はできず憎しみの炎が燻っていた。
しかし、殺したのはこともあろうにジャファルだ。
大切な人を憎むことなど、できるはずがない。
結局、憎しみの行き先は宙ぶらりんのまま、ジャファルとは和解するどころか別れてしまったのだ。
行き場を失った怒りと憎しみの矛先は、諸悪の根源だと自白したストレイボウに向かうのが自明の理。
事実、ニノはストレイボウをもう殺害する気しかなかった。
しかし、ヘクトルに思わぬ点を指摘された今、理屈の上では納得しないといけない。
またもや行き場を失くした感情は誰にもぶつけることができず、ニノの中で蹲っていた。
「ストレイボウよ。 おい、ストレイボウ。 ストレイボウッ!!」
再三マリアベルが呼ぶことで、ようやくストレイボウはマリアベルへと視線を向けた。
ニノから向けられた瞳と表情が、未だにストレイボウを強く縛り付ける。
あの子は、あんな顔をする子ではなかった。
初めて見たときは
カエル相手に、必死で気力を振り絞って戦うところ。
まだ幼いのに、勇気のある子だと思った。
次に見たのは、カエルが去った後で、
サンダウンとロザリーとマリアベルが見事復活した時に見せた涙と安堵の表情。
その後、別れるまでの情報交換も屈託のない笑顔を見せていたのだ。
人懐っこくて、そしてどこか置いていかれることの悲しさを知っている子。
それが、短い時間でニノに対して抱いたストレイボウの印象だったのだ。
しかし、今見せた感情はそれまでに見せていた感情とはあまりにも程遠いものだった。
そんな表情を見せる切っ掛けを作ったのは、自分のせいに違いない。
ストレイボウがあの子に憎しみの種を植え付け、そして同時に笑顔を奪ってしまったのだ。
「俺は、なんてことを……」
「違うぞ、ストレイボウ」
またも罪悪感の袋小路に陥りそうになったストレイボウに、マリアベルが助け舟を出す。
「お主は言うておったではないか、償いたいと。 ならば、お主がすべきことは何じゃ?
確固たる自分さえ持っていれば、為すべきことは自ずと見えてくるはずじゃッ。 それさえ分からぬのなら、わらわにもどうしようもないぞ」
『違うと言うのならば立ち上がれ。曇りを払い自らの瞳で世界を見据え真実を捉えろッ!
違わない程度の――そう、半端な意思しかないのなら。
お前には、カエルを止められないッ!!』
『お前は、そうやって逃げるのか?』
マリアベルの言葉と、二人の言葉を思い出すことでストレイボウは我に立ち返った。
そうだ、ずっとあの空間にいたせいでストレイボウは忘れていた。
ストレイボウは今動くことができる。
贖罪をしたいと思いながらも、どうしようもなかったあの頃と違って、今は心臓も手も足も動いている。
口を動かして謝ることもできるのだ。
もう、逃げたくはない。
あんな思いはしたくないのだ。
今が、変わるための第一歩なのだ。
今すべきは、自分を責めることではない。
罪悪感のあまり、幽鬼のようにふら付きそうだった足をしっかりと揃え、ニノへと向き直る。
ヘクトルに説得されたとはいえ、感情の部分は未だ納得できていないのだろう。
ニノは憮然とした表情をストレイボウにぶつけている。
怯みそうになる心を押さえつけ、ストレイボウもニノの瞳を真っ直ぐ受け止める。
「オディオを生んだのは、俺のせいだ」
そして、深々と頭を下げる。
お辞儀とは、そもそも脳天――つまり人体の急所を差し出すことによって、敵意のないことを証明するために使われたという。
ストレイボウは、ニノが本当に脳天を砕こうとしても構わないつもりで頭を差し出した。
今まで真実を隠してきた卑怯さに比べれば、これくらいのリスクを犯すのは当たり前なのだから。
「俺が醜い感情に突き動かされた結果、オディオを生み出してしまった。
だから、お前も他の仲間もこんな殺し合いに連れてこられたのは、全部俺のせいなんだ。
すまなかった。
……本当にすまなかった。
何も言っても、ロザリーもブラッドの、お前の仲間も生き返ったりはしない。
それでも、謝りたかったんだ……。
もしも、少しでも俺の言葉に感じるものあるのなら、俺にもう少し生きさせてほしい。
オディオに出会い、直接会って謝るまで、見逃してもらえないか。
身勝手な意見だとは分かっているが、どうかこの通り……頼む」
その間、ニノは完全に無言だった。
ただ、ストレイボウの言葉をずっと聞き、睨みつけるだけ。
暖簾に腕押しの状態にも近い。
しかし、沈黙は痛かったが、ストレイボウは構わず言葉を続ける。
ロザリーが言っていたように、受け入れられなくても何度でも言葉を重ねるしかないのだ。
簡単に許されることなど、ありはしないのだから。
ニノもマリアベルと同じように許さないといけない事情があるのだが、それは理屈の上での話だ。
幼いニノが理屈だけで納得しろというのは無理があるだろう。
ヘクトルも、マリアベルも、ストレイボウの気持ちを知っているが故に擁護の口出しはしない。
あくまで、ストレイボウが自分の言葉で語らなければ意味がないのだから。
考えてみれば、これも卑怯な話かもしれない。
理屈だけで割り切ることができないのが人間である以上、ニノの行動にも一分の理はある。
だが、ヘクトルもマリアベルもストレイボウを許そうと言っているのだ。
これでニノが許さなければ、まるでニノだけが聞き分けの無い子のように見える。
どちらというと、ヘクトルとマリアベルが普通というよりも、できた人物なだけなのだから。
とは言っても、そこまで考えているのはさすがに誰もいないのだが。
どちらにせよ、今の状況はニノもストレイボウの言葉を拒絶しにくい空気を醸成している、という側面もある。
返事は得られず、ただ受け流されるだけの言葉。
けれど、ニノも無視していたのではない。
自分なりに気持ちの整理をつけていたからだ。
ニノは憎いけれど、許さないといけない人に向けてこう言った。
「あたしは、お前を許さないといけない」
「……いいや、お前は俺を――」
「――あたしの話を最後まで聞いて」
毅然とした口調で言われては、ストレイボウも黙らざるを得ない。
ニノはそのまま複雑な感情が渦巻いたまま、言葉を続ける。
「あたしはお前が嫌いだ。 殺したくてたまらない。
でも、それはいけないことだから。 だから――」
その時、ニノの瞳が真剣なものに切り替わる。
これは理屈では全てを割り切れない子供が出した、精一杯の結論。
理論も理屈も、論理的な思考もない、けれど悩んだ末に出した答えなのだ。
「あたしと立ち合って」
それはつまり決闘。
古来より伝わる、一対一の正々堂々とした果し合い。
それを行おうというのだ。
「それで何か変わるわけでもない。 勝ったらお前に死んでもらうとか、あたしが負けたら許そうとか、そんなことも考えてない。
ただ、あたしが納得したいから。 何かが変わったりする訳じゃないけど、多分あたしはこうしないと、納得できないから」
ニノに手袋はない。
代わりに、クレストグラフを投げた。
ストレイボウは――迷わずそのクレストグラフを手に取る。
クレストグラフには、ハイ・ヴォルテックのクレストが刻まれている。
決闘は受諾された。
あとは互いの全身全霊をかけてぶつけあうのみ。
決闘を受けた理由は二つ。
ストレイボウには断る権利がないこと。
そしてもう一つ。
ニノの真剣な瞳に惹かれたからだ。
立ち合ってと言った瞬間のあの瞳、あれは憎むべき敵に対する眼差しではなかった。
相手を超えるべき壁と認めて、なおも挑もうとする挑戦者の眼差しだったのだ。
もちろんそんなことはニノは考えていない。
ニノはただ自分が納得したいがために、ともすれば意味不明と囚われかねない決闘を申し込んだのだ。
しかし、それをストレイボウが断れるはずがない。
負けん気の強さはニノはもちろん、ストレイボウも人一倍強いのだから。
勝負を挑まれて断るなど、高みを目指して修行を続けた男のすることではない。
まして、相手は同じ魔法を使う者。 張り合いも出るというものだ。
純粋に技を競うことに高揚感を覚えていた日々が懐かしい。
昔の感覚が蘇ってくるかのようだった。
誰よりもひた向きに努力し、何時かはオルステッドに勝つと誓っていたあの頃に。
これには、マリアベルも天晴れといった様子で二人の決闘を受け入れた。
ウジウジしたやり取りを見せられるよりは、はるかにこちらの方が健康的で分かりやすい。
「ふむ、決闘には立会人が不可欠じゃな。 わらわが務めようぞ。 二人とも異存はあるまい?」
「まあ、こんなやり方で決めるのもいいかもな……」
頷くニノとストレイボウに対して、呆れ顔でヘクトルが呟いた。
確かにヘクトルもエリウッドとの二月に一度の手合わせを真剣に競ったりするから、決闘は嫌いではない。
むしろ大好きだと言える。
しかし、こんな珍妙な流れでやる決闘は未だかつて見たことない。
前後の流れにまるで整合性がないではないか。
けれど、どこかこれでもいいかと思ってしまう自分がいるのも事実。
それは結局、ヘクトルも頭を使うより体を使った方がいい部類の人間なのだからかもしれない。
夜空に浮かぶ月もまた、決闘を盛り上げるかのように一際強い力を放った。
◆ ◆ ◆
煌々と照らす月の光の中。
二人の魔術師が相対する。
ニノとストレイボウ。
距離をとって離れた二人の間に、ノーブルレッドのマリアベルが立ち、これからの決闘のルールを説明する。
「勝敗の裁定はわらわが下す。 そして過度に相手を傷つけることのないようにせよ。
ニノ、決闘の名にかこつけてストレイボウを殺そうとするでないぞ」
「あたしはそんなことしない」
「うむ、いい返事じゃ。 ストレイボウも、よいか?」
「分かっている」
「まぁ、万一の事態が起こりそうならわらわが止める故、安心するがいい。
己が名誉のために、技を競い合え。 それでは、始めるがよいッ!」
開始と同時に、勢いよく走り出したのはニノだった。
右手に覚えたての呪文をメラを発生させ、ストレイボウに向かって放つ。
極めて直線的なその火球の軌道を見切ったストレイボウは、半身になることで回避。
そのままバックステップを取り、詰められたニノとの距離を取る。
ストレイボウはまず様子見に徹する。
ニノの手の内を暴いて、それから対策を練るつもりなのだ。
対称的に、ニノはとにかく突撃あるのみだ。
「で、俺はどうすりゃいいんだ?」
「お主はイスラたちの下へ先に行ってもらうぞ。 これからの行動の方針を決める必要がある」
「マジかよ!? 俺は勝負を見届けたいんだがな……」
「魔法の打ち合いで、こっちの戦いがまだ続いていると向こうが勘違いするやもしれぬぞ」
「あー、そりゃまあそうだな」
手持ち無沙汰になっていたヘクトルはなんとなくマリアベルに聞いてみたのだが、やぶ蛇だったのかもしれない。
向こうが来てくれるのなら、それにこしたことはないが、向こうの戦闘が継続中である線も捨てきれない。
ヘクトルを先に行かせ、もしも向こうの戦闘が継続中なら、決闘の中止も止む無しだ。
ヘクトルにも、この勝負を見届けたいという思いもある。
けれど、確かにヘクトルが立会人を務めて、マリアベルが向こうに一足先に行っても、ヘクトルは立会人の役目を果たせないのだろう。
なにせヘクトルは魔法の類が一切使えないのだから。
決闘を止めようとしても、肉体派のヘクトルはその身を割り込ませることしかできない。
反対に、今もマリアベルはヘクトルと会話を続ける片手間に、器用に戦いの後始末をしている。
メラで火が燃え移りそうだった草木に、水のレッドパワーで消火させる。
放たれた魔法を、マリアベルの魔法で相殺することもできるだろう。
ここは、マリアベルの言うとおりヘクトルが先に行くのが適任だろう。
しかしふと、魔法の流れでヘクトルは少し疑問に思っていたことを口にした。
「なあ、素朴な疑問なんだがよ。 ニノが使ってる魔法……ありゃ何なんだ?」
「クレストグラフじゃ。
わらわが支配するファルガイアで、クレストソーサーを簡単に扱えるように開発された、ファルガイアの技術と魔術の粋を結集して作られた魔符よ」
それは何となくヘクトルにも分かる。
ヘクトルもニノが手に何かを持ってるのが見えるからだ。
要はエレブ大陸における、魔道書のようなものがそれなのだろう。
しかし、ヘクトルにはもう一つ疑問があった。
「けどよ、何つーか、俺の目には時々何とかグラフを持ってない方の手からも魔法を打ってるようにも見えるんだよ」
「あっちはメラじゃな」
「何だそれ? 何とかグラフとは関係あんのか?」
「メラはわらわのファルガイアとも違う世界の魔法じゃな。 ロザリーのいた世界のものじゃ」
「なるほどな。 なんかもう大抵のことじゃ驚けない気がしてきたぜ……。
それで、お前にも使えたりすんのか? あんま威力なさそうだし、簡単な魔法っぽいが」
「無理じゃな」
「? じゃあどうしてニノはできるんだ? 自慢じゃないが、あいつそこまで強くないぞ」
「お主気づいておらぬのか? 今のニノは熱せられた鉄と同じじゃぞ?」
鉄は常温では硬く丈夫だ。
鉄を加工するためには、熱して変形しやすいような温度にまで高める必要がある。
そして、その熱せられた鉄こそが、今のニノの状態と同義なのだ。
ニノは正規の魔道の教育を、非道な義母ソーニャのせいで受けていない。
しかし、ニノ自身は義母の役に少しでも役に立ちたいと思い、ソーニャの口を読むことで魔法を覚えていったのだ。
言わば、学問も何も身につけていないまま、魔法を感覚だけで使いこなしているようなもの。
故に、マリアベルはニノを熱せられた鉄だと表現したのだ。
今のニノには魔法に関する常識や学問、知識が何もない。
つまり、これから出会う魔法体系によってどんな魔道士にでもなれるのだ。
熱せられた鉄は叩かれ鍛えられることで、剣にも農具にも食器にも姿を変える。
本来出会うはずのなかった魔法体系に出会うことで、ニノは今どんな方向にも進むことができる。
その気になれば、ロザリーの世界の呪文を使いこなしつつ、ストレイボウの魔術も使えるようになったりもするのだ。
最も、基本的な魔力は低いままだし、仮定に出したような究極の魔道士になるには多くの年月が必要なのだが。
マリアベルも、呪文の理論を研究し何年も修行すれば、呪文などを使えるかもしれない。
ファルガイアの魔法の常識に染まってしまったマリアベルも他の魔術師も、異世界の魔法を使うということはそういうことなのだ。
常識とは、今までに集めた偏見のコレクションといっても差し支えないのだから。
魔法に関する常識のないニノは乾いたスポンジのように、接した知識を片っ端から吸収していくのだ。
「あれはもっと伸びるぞ。 ちゃんとした師について、何年も修行すればの話じゃがな」
「そういうことか……にしても信じらんねえな。 あいつにそこまで才能があるなんて。
まあいいけどよ。 んじゃあ、向こうに伝えることがあったら俺が先に伝えとくぜ」
「そうか、頼むぞ……ヘクトルじゃったか?」
「おおそうだ。 考えてみりゃ、どたばたしてて互いに自己紹介するのも忘れてたな」
ここにきて、初めて二人はお互いの名前と簡単な履歴を紹介し合った。
そして、大人数がバラけて、各地で起こった戦いの結果についても。
「そうか……。 悪かったな、そっちに救援に行けなくて。 何かが起こってるのは分かってたんだけどよ」
「よい。 それならわらわだって、お主らに援軍を遣わすことができんかった。 お互い様じゃ……」
ヘクトルたちも、激しく鳴る遠雷と何時まで経っても援軍がこないことから、ブラッドたちの間でも何かが起こっているのは予測がついていた。
しかし、だからといってブラッドたちの所へ戻ろうとすると背中を見せた瞬間、ジャファルは襲い掛かってくるだろう。
戻りたくても戻れない事情があった。
イスラたちも、一人でも欠ければ危うい事態になっていたから援軍は送れなかった。
つくづく、神様の悪戯というものを呪いたくなる。
何の偶然か、十数人もの人間が一堂に会してしまったのだ。
不確定要素が多すぎるあまり、誰もこの結末を予想はできなかった。
誰かのせいではないと思ってはいても、やるせない思いが溢れる。
これで思い通りにいくことの方が珍しいだろう。
「そして、ブラッドもロザリーも、リンも死んだ……」
「ああ、俺たちの負けだな……」
こちらはブラッドとロザリーとリンいう、掛け替えのない仲間を失ってしまった。
しかし、襲ってきた相手は撃退こそできたものの、殺すことはできなかった。
ブラッドはその命を奉げてまで魔王を討とうとしていたのに、放送が行われた時点では健在であることが判明した。
こちら側の死者は三人。
襲ってきた側の死者はなし。
これ以上ないくらい、完璧な敗北だった。
「ブラッドはいい奴だったよな……ゴツい顔してる割になんかすっげー頭良くてよ。 オズインみてえに小言も言わなかったし」
「そんなの知っておるわ。 わらわとブラッドはお主より遥かに長い時間、仲間として戦っていたんじゃからな」
もうこれ以上、誰も死なせたくないといつも思っていたのに、死者の数は増えるばかり。
情けなさと無力な自分への怒りと憤懣やるかたない思いで、胸がいっぱいだった。
ニノとストレイボウの決闘を見守る二人に、重苦しい敗北感が漂う。
「けど、わらわたちはへこたれる訳にはいかん」
「ああ、俺たちはまだ生きているんだからな」
生きているなら、まだやるべきことが残っている。
共に生き残った仲間のため、全力で抗い続けねばならない。
それは、命ある者だけができる行為なのだから。
無念の内に散っていった仲間への、弔いでもあるのだから。
「今はアルマーズもある。 今度は負けねえ……」
規格外の大きさを誇る戦斧、アルマーズを強く掴んでヘクトルは今度こそ負けないと誓う。
古の火竜さえ倒したこの武器なら、決して誰にも負けはしない。
ジャファルをニノの下へ戻し、オディオさえ倒せるに違いない。
セッツァーは、ジャファルを追うと言い残して姿を眩ませた。
それ以前に、怪しいと思っていたセッツァーにそれとなく探りを入れたが、はぐらかされるばかり。
魔法を使えるセッツァーは、遠く離れたヘクトルたちに対してもいつでも合図ができたはずだ。
だが、セッツァーはそれをしなかった。
念のために辺り一帯を捜しまわったが、セッツァーもジャファルも影一つ見当たらない。
もはや、セッツァーへの疑惑は完全な黒に変わっていた。
思えばセッツァーは何かと理由をつけては、単独行動をしようとしていた。
それは、ケフカは安全だと言っていたように、誤報によって同士討ちさせるために違いない。
そして、今回は誤報が誤報であるとばれたため、逃げ出したという訳だ。
よもやセッツァーがジャファルと手を組んだとは、ヘクトルも気づいていない。
だが、いつか必ずその報いを受けさせねばならないと、ヘクトルは心に決める。
しかし、まだその時ではない。
ヘクトルはアルマーズをデイパックに収納し、代わりにゼブラアックスを手に握った。
「そのアルマーズは使わぬのか?」
「ああ、今は敵もいないからな。 あれは重いし切れ味がよすぎるから、持って歩くのも危険なんだよ」
かつて八神将が使いし、伝説の神将器は竜の皮膚をも紙のように易々と切り裂いたという。
特に、アルマーズは狂戦士テュルバンが使っていただけあって、触れるもの全てを切り落とすがごとき、危ういほどの切れ味を誇っていた。
興味本位に刃に触れようとすれば、指を落とすことさえ有りうる。
だからこそ、ヘクトルは非常時以外は仕舞うようにしているのだ。
「長くなったな。 わらわたちの伝えることはカエルは遺跡で待ってる、くらいでよい」
「ああ、それに俺たちはセッツァーとかのこと。 あっちが何ともないならこっちに連れてくるけど、お前らもほどほどにして切り上げて来いよ」
踵を返して、ヘクトルはニノたちの戦いを見届けることなくイスラたちの元へ行く。
マリアベルたちが見えなくなるほどまで進んだ頃に、ヘクトルは立ち止まった。
そして、もう一度アルマーズを手に取る。
アルマーズは暴れ足りないのか、血が欲しいと騒いでいるように見えた。
ヘクトルは、ざわざわと蠢く何かを感じる。
「大丈夫、だよな……?」
ヘクトル自身も驚きそうになるほど、弱気な言葉が漏れる。
それはイスラたちの身を案じたものなのか。
ニノとストレイボウの決闘が行き過ぎたものになることを心配したのか。
あるいは、虫の知らせのように別の何かへの危惧の言葉なのか。
それは、ヘクトルのみが知る。
【C-7 二日目 深夜】
【ヘクトル@
ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(大)、アルテマ、ミッシングによるダメージ、
[装備]:ゼブラアックス@
アークザラッドⅡ、アルマーズ@FE烈火の剣
[道具]:ビー玉@
サモンナイト3、 基本支給品一式×4
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒して、オスティアに戻り弱さや脆さを抱えた人間も安心して過ごせる国にする
0:先にイスラたちと合流。
1:ジャファルは絶対止めてニノと幸せにさせる
2:仲間を集める。
3:つるっぱげを倒す。
4:アナスタシアと
ちょこ(名前は知らない)、セッツァーを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※セッツァーを黒と断定しました。
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最終更新:2011年03月15日 20:55