さよならの行方-trinity in the past-(後編)◆wqJoVoH16Y
「……何故、いや、そもそもどうやってここに?」
呆然とする
ストレイボウの前で魔力が霧散し、抜剣覚醒が解除される。
息を荒げながら、ジョウイは横目でストレイボウを睨んだ。ストレイボウはたまらず息をのむ。
抜剣の変身を差し引いても、あの乱戦の中で別れてからジョウイの姿は一変していた。
魔王の外套こそ変わらないものの、その中の装束は青年のそれから明らかな軍服――士官級のそれへー―と変わっていた。
そしてもう一つ、布で縛られた右眼が視線を引く。まるで、何かを封じているかのように。
「あ、いや、いきなり俺の目の前にゲートが開いて、ああ、ゲートと言うのは……」
突然の質問に、ストレイボウは半ば反射的に答える。
杖を握らなかったのが自分でも不思議だった。状況に比べて、ジョウイの殺気がそれほど感じられなかったからか、あるいは。
「……真逆、な」
突然のゲート発生と暴走による転移について聞いたジョウイは目を細める。
だが、思考を切り替えるようにして再び凍った視線でストレイボウを射抜いた。
「いずれにせよ、丁重に帰す理由はないのですが」
ジョウイの一言で、外套が再びざわめく。
彼がここにいるということは、ここは遺跡の中、ジョウイの陣地ということか。
ならば、敵陣にノコノコと一人現れた間抜けを見逃す必要など無い。
じわりと香る戦闘の空気を前に、ストレイボウは言った。
・戦いになると言うなら容赦はしないッ!
・あのルクレチアはいったい何だ?
・そんなことより焼きそば食べたい。
→・あのルクレチアはいったい何だ?
その言葉に、ジョウイの目が見開かれる。
それは確かな動揺であったのか、今にも刃と化さんとしていた外套がジョウイへと収束する。
「一体、何の話を……」
「とぼけるな! あの町並み、城壁! 何もかもがあの時のままある癖に、何一つ残ってないあの死んだ町は、なんなんだ!!」
一瞬しらを切ろうとしたジョウイに食い下がり、ストレイボウが先ほどまでの動揺を塗りつぶすような剣幕で問いつめる。
明確な死の具現。何処までも熱のないあの地獄が、錯覚であるはずがない。
あれを問わずにいることは、ジョウイと戦うよりも恐ろしかった。
「……やはり、見たんですか。そうか、泥に沈めた僕の感応石と通じたのか……」
忘れてくれていれば良かったのに、そう顔に滲ませながらジョウイは唇を噛む。
「貴方が知る必要は、ありません」
だが、ジョウイは何も言わない。口を噤むジョウイに、ストレイボウは言った。
・……ラヴォス、なんだろう?
・答えろ、ジョウイ!
・下の口に聞いてやろうか?
→・……ラヴォス、なんだろう?
ジョウイの肩がびくりと震える。それはほんの一瞬であったが、ストレイボウに確信めいたものを抱かせるには十分だった。
「マリアベルは、この島の中心にラヴォスがいると考えていた。
ラヴォスは人を自然を喰らい、その情報を蓄積する。あのルクレチアは、蓄積されたモノそのものじゃないのか?」
思考を纏めながら、ストレイボウはその仮説をジョウイに提示する。
ルッカの記憶にあった、ラヴォスとの最終決戦。原始から未来に至る全てが集積したような空間の感覚を、あのルクレチアに覚えたのだ。
「ラヴォスについて……知っているのですか?」
ストレイボウの問いに、初めてジョウイは意外そうな表情を浮かべる。
ラヴォスについて知っているのは当然としても、ラヴォスそのものについてストレイボウが知っているはずが無いはずだからだ。
「お前は知らないんだろう、ラヴォスを。アレは、人の手で制御できるようなものじゃない。あれは……」
ジョウイがラヴォスに対する知識がないことを見て取ったストレイボウは、
自分が読み解けた限りのラヴォスの生態・性質をジョウイに伝える。
自分が如何に不味いモノを蘇らせようとしているのかを伝えるために。
「……そういうことですか。星を喰らうもの……やはり獣の紋章以上か」
説明を聞いたジョウイは漸く得心いったという様子を見せる。
唯一欠けていたピースをパズルにはめ込んだような様子だった。
ジョウイはしばし考え、やがて意を決したようにストレイボウへと向き直ると、その右手の紋章が輝き出す。
『マリアベルさんの仮説は概ね当たっています』
ストレイボウの脳裏に声ならぬ聲が伝わる。ストレイボウが握った首輪の感応石を経由して接続された思念が、ストレイボウに伝わる。
『ラヴォスの幼体――プチラヴォスの亡霊を憑依させたグラブ・ル・ガブルによる新生ラヴォス……
それが、死を喰らうもの。死せるルクレチアの夢を見るモノであり、僕が蘇らせようと、否、誕生させようとするモノです』
そうして、ジョウイは感応石を用いたオディオに届かぬ思念話にて死喰いについて語り出す。
ラヴォスについての情報の対価か、あるいは……目の前の人物ならば、仕方がないというかのように。
『そんなものが、この島に……そうか、だから墓標<エピタフ>……』
ジョウイの説明を聞いて、ストレイボウは理解と共に立ちくらみを覚えた。
首輪などを通じてこの島で生じた怒り、嘆き、憎しみ――想いを喰らったラヴォスの亡霊が、
星の命そのものであるグラブ・ル・ガブルを肉として再び誕生する。
正負問わず、どのような想いも生と死の刹那に最大の輝きを見せる。
この島で戦い、惑い、そして死んだ者たちは、並々ならぬ想いを抱いて死んだだろう。
その輝く想いを喰らいて生まれるが故に――――『死を喰らうもの』。
敗者の存在を世界に刻みつけるそのモニュメントの存在に、ストレイボウは改めてオルステッドの憎悪の深さに気が遠くなる。
その慟哭に比べれば、生前にストレイボウが抱いた憎悪など無に等しいではないか。
『その想いをこの泥の中に留めたのが、あのルクレチア……はは、意趣返しにしちゃ上出来すぎる』
泥が静かに流れる海に、笑いが漏れた。
そうとしか言いようが無く、そう振る舞うより無かった。
オディオが――オルステッドがやろうとしていることは、そう難しいことではない。
つまるところ、ストレイボウが閉じこめられたあの牢獄を8つの世界にまで拡張したということだ。
それを、勝者に見せつける。勝者に敗者の存在を刻みつける。
「変わらないな、俺も、お前も……」
その笑いは、果たして何が生じさせたものだったか。ストレイボウには理解できなかった。
『で、お前はそれを誕生させようとしているわけか』
『……ええ。僕の目的を達するために』
ひとしきり体内の不明確な感情が吐き出された後、ストレイボウは改めてジョウイに向かい合う。
乾いた血のように赤黒い外套と、真白い軍服。相反しながらも相似する衣を纏う少年の返事に、ストレイボウは意を決し、手の中の感応石を握りしめた。
『ここに――ここが分かっていた訳じゃないが――来たのは、お前とも話をしたかったからだ』
ジョウイは無言のまま、ストレイボウを見据える。
『ラヴォスがどんなものかはこれで分かったはずだ。お前の――いいや、誰の手にも収まるものじゃない。
だが、それでも死喰いを力にしようとするんだろう。そこまでして願うお前の意志を、改めて聞かせてほしい』
『……言ったはずです。理想の実現。そのために、オディオの力――憎悪を継承する。それが僕の願いです』
ストレイボウの問いに、ジョウイが答える。その眼には険こそ無いものの、目を逸らすことはなかった。
『そのために、勝者となるつもりだった、ってことか。いつからだ?』
『……いつからと言われれば、最初から。それこそ、この島に呼ばれる前から。
改めて名乗りましょう。僕の名はジョウイ=ブライト。ルカ=ブライトの義弟であり、
ビクトールさん達の敵です』
揺らめく泥の輝きの中で淡々と告げられたその真実に、ストレイボウは、ああと納得した。
ビッキーの違和感、ビクトールとジョウイのやりとりの真意。
ジョウイは、ジョウイ=ブライトはルカ側の人間――ビッキーや
ナナミ達の敵陣営だったのだ。
『なのに、義兄を、ルカを殺そうとしていたのか』
『彼女の記憶があるのなら分かるでしょう。アレは殺しすぎますから』
なるほど、とルッカ越しにルカの姿を垣間見たストレイボウは唸った。
この世全ての人類を鏖殺しても飽き足らないルカの殺意は、道具として用いるには劇薬過ぎる。
だからお前達の中に隠れていたのだと、ジョウイは言外にそう含めた。
ルカや魔王のような強大な殺戮者と相喰らわせて数を減らし、最後に勝つためにいたのだと。
『……その最後に勝つための力が、あの魔剣であり、死喰いか』
『ええ。その力を以て貴方たちを倒し、オディオの力を手に入れる。
世界を越えて通じるあの力、こんな無駄な催しなんかに使うのは宝の持ち腐れです。
アレに使わせる位なら、僕が貰う。あの力を以て、僕達の理想の楽園を創る』
そう言ってジョウイは右手の紋章を翳してその野望を示す。
それはジョウイ=ブライトがこの島に呼び出された時から抱いた祈り。
ルカ=ブライトよりブライト王家を簒奪し、ビッキー達のいた都市同盟に破れた国王が、
オディオの力に魅せられ、今一度理想を再興するべく暗躍していたのだと。
間違ってはいない、とストレイボウは思う。
ピサロの話に拠れば、ジョウイはセッツァー達と接触していたらしい。
形の上ではセッツァーに出し抜かれた格好であるが、ことが全て明るみになった今では、自身が裏舞台に潜み続けるために立てた役者に過ぎないのは明らかだ。
間違ってはいない。嘘はついてはいない。理解は出来る。
そんなジョウイの回答に、ストレイボウは再び口を開いた。
・そこまでして優勝したいのか?
・……何故死喰いを動かさない?
・ああ、うん。お前疲れてるんだよ。お薬飲もっか。黄色いの。
→・……何故死喰いを動かさない?
『……どういう、意味ですか?』
ストレイボウの再度の問いに、ジョウイは眉をひそめた。表情には明らかな警戒が浮かぶ。
『言葉通りの意味だ。此処までの話を考えると、お前は今にも死喰いを誕生させられるはずだ。何故しない?』
ジョウイが語ったその目的と行動。ストレイボウがいぶかしんだのは動機ではなく、その行動だった。
今までのストレイボウならば、その動機についてさらに尋ねていただろうが、脳裏の歯車を刻む砂粒の違和感が、それを翻した。
『簡単ですよ。言ったとおり、死喰いは死を喰らってより完全なものとなる。
ならば、より死を喰わせれば誕生したときにより強い力となる。
なら、先に僕が貴方たちをある程度殺した上で誕生させれば、より確実に優勝できるじゃないですか』
何のことはない、とジョウイは理由を語る。死喰いを完全なものに近づけて、より強大な力を得る為なのだと。
『……ああ、そういうことか』
ストレイボウは改めて納得したように頷き、そして理解した。
『――――完成させた死喰いで、オディオを殺すつもりか』
ジョウイの答えの、裏側の真実を。
『……なに、を』
『お前がただ力を盲信している奴なら、それでも納得できたさ。
だが、そう考えるには頭の回転を見せすぎた。なんというか、科学的じゃないんだよ』
そう、ストレイボウが感じたのは違和感――ジョウイの行動の整合性のなさだ。
『もうセッツァーも魔王もいない今、待っていてもお前より先に俺たちが死ぬ可能性は限りなく低い。
死喰いを成長させるには、お前が殺しに動くしかない。
だけど、俺たちを殺すための武器を鍛えるために、俺たちを殺しに来るってのは明らかにおかしい。目的と手段の順番が違う』
そう、この順番こそが違和感の正体。ジョウイが優勝を狙うのであれば、
とにかく自分以外の誰かを生き残りにけしかけ、自分が動くのは最後でなければおかしい。
ならばとにかく不完全だろうが、死喰いを誕生させてストレイボウ達にけしかけ、弱らせたところを襲えばいいのだ。
先に生き残りを殺せば、より死喰いは強くなるかもしれないが、
生き残りを殺せば殺すだけジョウイが有利になり、死喰いそのものが不要になる。
あの立ち回りを見せたジョウイならばその程度の計算が出来ないわけがない。
その計算を破棄してまで完成を優先させ、待ちかまえている理由。
それがあるとするならば、ストレイボウ達全員を殺してなお、
完全なる死喰いの力を使うべき相手が残っているということに他なら無い。
『お前が死喰いを誕生させようとしてるのは、俺たちに向けてじゃない。オディオとの戦いを見据えてだ』
順番が逆なのではなく、順番に続きがあった。
優勝した後のことまで含めてジョウイは状況を見据えている。
それこそが、矛盾しかけたように見えるジョウイのロジックの正体だ。
『……本当に、混じってるんですね。手厳しさが違う』
そこで観念したようにジョウイは額に頭を中てた。
『ここに来るまでは、最初の予定通り、すぐに起動させてけしかけるつもりでしたよ。
ですが、オディオと会話してこの墓標を知り、確信しました』
やはり当初の予定ではストレイボウの看破した通り、乱戦収束後に速やかに死喰いによる攻撃を仕掛ける腹積もりだったのだろう。
ジョウイ自身にも時間は無く、なにより彼の偉大なるオスティア候の死を奪ってまで得たものに報いることが出来ない故に。
だが、死喰いを知り、その本質を知り、ジョウイは方針を変えざるを得なかった。
『オディオは絶対に願いを叶えません。ことに、僕の願いだけは』
オディオが、ジョウイの願いだけは叶えないと知ってしまったが故に。
『どういうことだ?』
『僕の願いとオディオの願いは、本質的に相容れない。
今、優勝すれば願いを叶えると口では言えても、必ず最後には否定する。否、そうせざるを得ない。
それは絶対に絶対――“ユーリルが、救われぬものを救わないようなもの”なんですよ』
自嘲するように、ジョウイは細めて空洞の天井を見つめる。
それが、オディオを見つめていることはストレイボウにも理解できた。
『素直に渡して貰えるならば構わない。ですが、その備えを怠るほど莫迦にもなれない。
そう思わせるほど、僕の願いは奴と致命的に相容れない』
ストレイボウが知らない何かを知ったその瞳が、明らかな敵意を湛えていることも。
「……止めろ」
ストレイボウの言葉に、ジョウイはぴくりと眉を動かす。
「優勝したいというだけなら止めやしない。だけど、無駄死なら話は別だ。
オディオには、アイツには勝てない。お前がどれほど策を練り、力を得ても、ダメだ。
戦った俺だからわかる。アイツはそういうものじゃないんだよ」
自分が何を言っているのか、ストレイボウは言いながら気づいたが、言葉は止められなかった。
策を弄し、力を集め、どれほど絶望にたたき落としてもアイツは――オルステッドは立ち上がった。
その眩いばかりの光をどれだけ呪い、どれだけ疎んだか、ストレイボウは誰よりも知っている。
だからこそ、先駆者としてジョウイに諭す。
お前が今歩んでいる道は、紛れもなくかつて自分が歩んだ道なのだと。
だから往くな、その先には断崖しかないのだと。
「……なぜ分からないんだ……だからじゃないか……」
ぼそりと呟かれた言葉を最後に、会話が途切れる。
しばし、否、それなりの静寂の後、ジョウイがゆっくりと念を伝えた。
たっぷりの逡巡の後に、覚悟を決めたように“諸刃の剣を差し出す”。
『……貴方たちのいるC7の遙か上空。そこに隠れた八面体のモニュメントに、オディオは居ます』
「!?」
ストレイボウが驚くよりも早く、ジョウイは告げる。
『文化体系から見て恐らくは、
ちょこちゃんの世界の構造物――奇怪な作りではありますが、城でしょう。
ウィザードリィステルスか何かで位相をズラしてはいますが』
告げられたのは、オディオの居場所。ストレイボウが喉から手が出るほど知りたい情報だ。
そして、情報はそれだけではない。
『その空中の城には――最初から傷がありました。そして、其処に船があります。
銀色の翼を持った船が2つ……彼女は、この名を知っているんじゃないんですか?』
ジョウイが、核識を通じて観た映像をストレイボウの脳裏に送る。
「し……ッ!」
突然浮かんだ光景は、あまりに不鮮明。周囲は暗がりに包まれ、整った石畳と怪しげな赤い文様。
そしてその一部に腫瘍のように白い船がめり込んでいる。
このモニュメントに突撃したのだろう。飛行船として要となる骨が幾つも破砕しており
一目見ただけでこれが使用不可能であることは想像に難くない。
だが、そんなものなどたちまち脳裏からはじき出される。目の前に見えたそれに比べれば。
叫んでしまいそうな言葉を慌てて口元を塞いで止める。
問題は壊れた船ではない。その格納庫に収められた翼だ。
そこに映ったのは、白銀の鳥のような機械――それをストレイボウ<私>は知っていたのだから。
『シルバード、だとぉ……ッ!?』
操縦席も、装甲も、ジェット装置も、何一つ疑う余地もなく、彼女の知識がその存在を肯定する。
まるで方舟の代わりとばかりに置かれたのは、時を越える翼に他なら無かった。
『やはりですか。ですが、座標データがなければ航行もままなりません。それらはデータタブレットによって――』
『ちょ、ちょっと待て!』
続けて説明しようとするジョウイを、ストレイボウは手で制する。
『なんでそんなことを知っているか……はこの際置いておく。
この局面でそんな嘘をついてもお前にメリットがないのも分かる……何故そんな話をする?』
沈黙するジョウイに、ストレイボウは言葉を続けた。
『お前は、俺たちを殺すつもりじゃないのか?』
『……したいように、あってほしい。それが貴方の願いでしたね』
ストレイボウの問いに、ジョウイは顔を歪めてそう応じた。
『貴方たちを皆殺して死喰いを真に完成させてれば、五分の勝負に持ち込める……僕はそう観ています。
逆に言えば、そこまでいって漸く五分。今の不完全な状態で誕生させても、
そこに“僕がかき集めたもの”を足しても……ゼロが幾つ付くか分かったものじゃない』
死喰い、始まりの紋章、魔剣、蒼き門、核識、亡霊、そして魔法。全てを擲ってジョウイが背負う力は絶大だ。
それでもなお、ジョウイとオディオの差は開いている。残る6人の屍を積み上げて、漸く剣が届くかどうかの距離だ。
『――――ですが、ゼロではない。それは努力次第で無限に広がるということ』
そのジョウイの言葉に、ストレイボウは黒鉄の英雄の背中を錯覚した。
彼ならば言いそうな言葉で、彼のような無表情で淡々と告げた。
『貴方たちを殺さずに済むのなら、奇跡に賭けてもいい』
本当に、阿呆のような素直さで、ハッピーエンドを目指してもいいと告げた。
唖然とするストレイボウの無言を肯定と受け取ったか。ジョウイは話を続ける。
『貴方たちにとっても、決して悪い条件ではないはずだ。
……というよりも、そも前提として貴方たちがオディオと戦う意味がない』
二の句を継ぐことすらできず押し黙るストレイボウに、ジョウイは言葉を続ける。
『アキラはヒーローになりたい。ピサロは
ロザリーの意志を継ぎたい。
アナスタシアさんは生きたい。
カエルは闇の勇者として闇の中の者の標になりたい。
……これらの願いは、オディオの有無に関係がない。
オディオが王座にある時――日常<きのう>に帰れば出来ることです』
ジョウイは生き残った者達の願いを告げ、その共通性を語る。
これらは彼らの内側よりわき出た尊き祈り。オディオによって押しつけられたものではない、オディオと関係のない純粋な祈り。
故に“それは、オディオの統べる世界でも叶う祈りだ”。
『オディオに言わせれば、屍を積み上げた醜い祈りだというのでしょうが……そんなの言わせておけばいい。
オディオにとって醜かろうが、貴方たちが光と信じるならばそれで十分じゃないですか。
アシュレー=ウィンチェスターならば、恥じることなく言うでしょう。それこそが、自分が帰るべき場所なのだと』
そう、たとえこの世界がオディオの言うおぞましき争いの世界だとしても、
それが今まで彼らが生きてきた荒野であるならば、そこで咲き誇ることになんの咎があろうか。
オディオが闇と言うもの、彼らが光と仰ぐものは“同じ”なのだから。
『故に、オディオと彼らが相対することに意味はない。
彼らが言祝ぐモノも、オディオが呪うモノも同じなのだから』
故に無意味。道が同じで、進む方向も同じなのだ。
ただ、道が青く見えるか赤く見えるかという認識の違いだけでしかないのなら、衝突する道理がない。
「ならば、貴方たちがこれ以上戦う理由もないはずだ」
ジョウイは書物をそらんじるような平坦さで事実を告げる。
オルステッドが勝ってオディオを続けようが、ジョウイが勝ってオディオになろうが、世界は残る。
ジョウイの楽園か、オディオの地獄か――残った方の世界で生きていけと、ジョウイはにべもなく言っていた。
『ただ、シルバードで脱出するには、この世界の座標データが必要です。
そしてそのデータは、データタブレットを3つ揃える必要がある。
オディオなりの様式美でしょう。そしてそのうちの1つは――』
(何を、何を考えていやがる)
続くジョウイの言葉が、遠くなっていく。
もはや、ジョウイの言葉の整合性・信憑性を疑う気にすら起きない。
“なぜそこまで複数の世界の知識を掌握できているのか”
“なぜこの場にいながらそれを把握できるのか”
――そんな、本来ならば気にかけるべきことさえも、気にならなかった。
多分、ジョウイは本当のことを言っている。自分で調べ上げた情報を提供している。
だからこそ理解できない。それほどまでに、目の前の存在は真っ直ぐに歪んでいた。
ふつうに考えれば当然だろう。
ここまでの事をしておいて、戦うのを止めてもいい、などと言った人間を誰が信じられるか。
まだ、嘘をついてくれていた方がマシだ。
(なんでそんなに、甘くいられる)
だが、ストレイボウは分かってしまっていた。
こいつはは嘘をつけない。自分を偽れないから、こうなってしまっているのだから。
なにより、ジョウイが、本気でこちらの身を案じていることが否応にも分かってしまったから。
ジョウイは本気だ。本気で“妥協してもいい”と言っているのだ。
ストレイボウ達を逃がせばオディオ殺しが難しくなると承知して、現時点で最高のハッピーエンドを狙ってもいいと言っているのだ。
『貴方たちがオディオに向かわず、まっすぐシルバードに向かってくれるなら、僕はそちらにタブレットを転送しましょう』
(もし、もしもそれが出来るのなら……)
ジョウイから差し出された提案を、知らず脳内で弄んでいる自分がいたことに気づいた。
もし、ジョウイの提案を受け入れられるなら、話は早い。
ジョウイから送られた空中城の座標は脳内にある。アキラを介せばピサロに座標を送れるだろう。
つまり、ルーラかテレポートが使える。
次元をズラされているらしいが、聞くところによればアナスタシアのアガートラームは次元に干渉できる。
この2つを重ねれば空中城に行けるだろう。
後は真っ直ぐシルバードに逃げ込めば、ジョウイが最後のデータタブレットを渡してくれる。
それが手に入れば、後は俺<私>がシルバードを動かせる。脱出できるのだ。
脱出。生還。生きて、帰る。
言葉にすればこれほど容易いはずの言葉は、ここまでの死線を潜り抜けたものにとって甘美なる至上の福音にすら聞こえる。
その差し出された掌を拒む道理など、あるわけがない。
ピサロは生きなければならない。ロザリーより受けた心を、生きて謳うために。
アナスタシアは生きなければならない。ユーリルに、ちょこに、そしてマリアベルに、生きて欲しいと願われたのだから。
イスラは生きなければならない。その英雄達より受け継いだ明日の為に。
カエルは生きなければならない。死を罰とするのではなく、闇の勇者として生きることこそが償いであるが故に。
アキラは生きなければならない。伝わった心を取りこぼさぬ、真のヒーローになるために。
そうだ。死んでしまえば、やり直すことすら出来ないのだ。
もう帰れない奴らだってたくさんいる。その事実は否定できない。
だが、否、だからこそ、生きなければならないのだ。
だから――
・提案を受けて脱出を目指す
・みんなで、生きて帰ろう!
・――――――――どこに?
→・――――――――どこに?
生きねば。生きて、帰らなければ―――――――どこに?
(あ……)
気づいた。“気づいてしまった”。
ジョウイの祈りが、あまりに真っ直ぐ過ぎて、その裏側に気づいてしまった。
「オルステッドは、どうなる?」
生きてほしいと願うジョウイの祈りには、1人、含まれていないと言うことを。
俺が帰るべき場所――が、ジョウイの楽園にはないということを。
ジョウイは無言のまま、眼を細める。
つくづく隠すことも嘘も下手なのだと、常ならばストレイボウも苦笑の一つでも見せただろう。
だが、その無言の肯定に、ストレイボウの血の気が喪失した。
これだけ人の死を忌む奴が“そいつだけは必ず殺す”と言っていたのだから。
「……もし、ここに来たのが貴方じゃなければ、こんな話はしませんでした。
貴方が、ただ自分のことを願ってくれたなら、僕は迷わず踏みつぶせたのに」
ジョウイは、観念したように溜息をつき、膝を地面に下ろした。
念話ではなく、言葉で告げられたのは、紛れもない謝意。
ハイランドの白装束が蒼き泥に汚れる。死喰いは今は鳴りを収めているらしく、
グラブ=ル=ガブルの美しい輝きの泥だった。
『シルターンという場所では、これが最上級の請願法と聞きました。
細部は正式なものではないでしょうが、不作法は許してほしい』
何かの攻撃動作かとストレイボウはいぶかしんだが、殺意は感じられなかった。
そのままジョウイはそのまま尻を踵に下ろし、指を地面につけた。
『貴方の想像通りです。僕はオディオを、その玉座を奪う。
それ以外は譲っても良い。戦略的優位も、この後の筋書きも。
幸せも、勇気も、希望も、愛も、欲望も、未来だって投げ捨てても構わない。だから』
たゆたう泥が、鼻先にふれるかどうかというところまで頭が下げられた。
マント越しにも、その背中からわき上がるものが否応無く伝わる。
すまない。すまない。すまない。
『――――オディオを、譲って貰えませんか。貴方が傍らに立たんとするその場所は、僕が戴く』
貴方の願いだけは、僕の楽園では満たされない。
「なんだよ……なんだそれ……」
三つ指をつき額を泥にこすりつけて懇願するジョウイを見て、ストレイボウの唇がわなわなと震えた。
今から雌雄を決そう、あるいは殺そうとしている相手に頭を垂れられる性根に対する恐怖か、
オディオを――オルステッドを殺せると確信しているジョウイに対する怒りか、
あるいはその両方が彼を震わせていた。
胸から湧き出た衝動が言葉となって喉を逆流する。
許せなかった。許容ができなかった。こいつの願いにではない、その願いに対する姿勢にだ。
欲しい場所があって、どうしようもなく欲しくて、奪ってでも欲しい。
そんなジョウイの、持たざる者の渇きを、ストレイボウは理解できる。
だが、ストレイボウが最後まで言えなかった一言を、目の前の鏡は言い切ったのだ。
「……なあ、もうやめろ。お前1人でそこまでする必要なんて、どこにもない。
お前の狙いがオディオだというなら、なおのこと俺たちと戦う必要なんてない。一緒に、アイツを止めよう」
座礼を崩さないジョウイに、ストレイボウは利かん坊をあやすように手を差し伸べた。
だが、それは同時に親に駄々をこねるかのような児気に溢れていた。
「そりゃあ、あいつが悪くないなんて言わない。この墓場を作るのに、あいつは殺し過ぎた。
その中にはジョウイ、お前の大切な人がいたんだろう。それくらいは分かる。
でも、でも! お前は生きている。楽園じゃなくても生きていけるんだ!!」
死にに行くなと、ストレイボウはジョウイの裾を引いた。
ジョウイが往けば十中八九、ジョウイが死ぬからであった。
ストレイボウは自身を真に恐れさせているのが十中八九がはずれてしまった場合であることに気づいていない。
気づかぬまま、生を尊び生を勧める。ほかの皆がそうしたように。
それこそが光だと信じて。憎しみこそが人を魔王にすると信じて。
「生きているなら、何度だってやり直せるんだッ!!」
「だったら、豚と蔑まれて死んだ者にはその機会すらないということだッ!!」
だから、此処に来て初めての怒声に面食らう。
「貴方は間違っていない…………だけど、それでは足りないんだ」
ぞくり、と泥の海全てが震え上がる。死喰いが再び動いたのかと一瞬思いかけたが、直ぐに破却される。
この島が、震えているのだ。たった一人の想いによって。
「止めるだけでは、いずれ始まる。いずれオディオは蘇える。争いは再び始まる。
そしてまた死ぬ。大切なものが、守りたいものが、温かったものが、消えて果てる」
背中を覆い隠す魔王の外套が黒く戦慄く。ぎちぎちと蠅声のように立ち上がるのは、彼が背負った声なき声か。
そんな凶音と共に、ゆっくりと、ジョウイが立ち上がろうとする。
「止めるだけじゃ足らない。終わらせる。勇者も英雄も、番人なんて残さない。
全部終わらせて、暖かな平穏を、楽園を創る」
血と闇に満ちた外套の裏側で、闇が渦を巻く。
「欺瞞です。身勝手な理想だなんて、百も承知している!
悲劇を生まない理想の前提として、僕は無数の悲劇と犠牲を強いてきた!」
ジョウイが奪って来たもの、魔王が奪って来たものが形を作って狂っている。
「未来を夢見て、今を壊して、そうして実現した理想が賞賛される訳がないッ!
怨恨、憎悪、嫌悪、怨嗟、遺恨――あらゆる負の感情と悪意に満ちた視線に晒されるッ!」
この祈りのために、どれだけの血肉と怨嗟を捧げてしまったか。
憎悪と繋がってしまったジョウイはそれをハッキリと知ってしまった。
魔剣に集う想い出はイミテーションオディオと結びつき、若き魔王を責め苛む。
「当然だ。それだけ多くのものを、多くの人から奪ってきたんだから、当然だ」
その重みを耐えて背負い、その上体をゆっくりと押し上げていく。
押し潰されそうになりながら、泥に塗れながらそれでもギリギリのところで踏みとどまっている。
「だけど、この痛みの代わりに、理想が叶えられるのなら。
戦争による悲劇が、二度と生まれないのなら。
自分だけが傷つき怨まれ憎まれることで、他の誰も傷つかない世界が作れるのなら。
温かな平穏の中で―――――――“あの子が、泣かずに済むのなら”」
立ち上がったジョウイの端正に整った相貌は泥に塗れていた。
だが穢れなど構わず泥の隙間から見つめる左眼は強い意志を湛えてストレイボウを射抜く。
その視線を前に、ストレイボウは一歩下がる欲求に耐えた。
脳裏をよぎるのは亡候の闘気。あの亡骸を満たしていたものに近い『何か』。
ストレイボウたちと共にいた時には無かった『何か』が、
どれだけ穢れても輝く『何か』が今のジョウイを満たしている。
「この道を往くことを惧れはしない。どんな汚名も恥辱も背負う。
たとえもう一度敗北したとしても、後悔はしない。
たとえこの身を焼き尽くそうと、自分出した答えを信じて進む道の為なら、天になっても構わない」
ジョウイが、眼帯代わりに巻いていた布を解き顔を拭う。
そして泥に崩れた布を捨て、その右眼を見たストレイボウは、嗚呼と嘆息して理解した。
きっと、ジョウイはこの泥の底で『答え』を得たのだ。
二度と揺るがぬ『答え』を。ユーリルが『答え』を得たように。
「覚悟はできている。 アナベルさんを手にかけたときから。
自分が汚れ罵られる覚悟も、全てを背負う覚悟も、
そして――貴方たちを、貴方の親友を殺す以上のことをする覚悟も」
瞼を削り取ってしまったかのように、その眼は真円を描く。
その周囲は頬から額にかけて、ひび割れたように亀裂を生んでいた。
その、人間以外の何かに変貌してしまった黄金の瞳で、ジョウイ=ブライトは誓いを謳う。
絶望の黄金に呑み込まれながら、それでも忘れえぬ誓いをストレイボウに突きつける。
槍の向かう先は示した。それでもこの道の前に立ち塞がるのなら、容赦はしない、と。
「貴方たちを否定はしない。ただ進む道が違うだけだ。
それに、貴方たちではオディオを終わらせることはできない。
“まだオディオを魔王だと思っている”貴方たちでは。あの雷光に盲いた貴方たちでは」
「おい、それはどういう――――!?」
独り言のように呟かれたジョウイの言葉に、ストレイボウが聞き返そうとするが、
ストレイボウの上空に蒼き門の紋章が刻まれ、彼の身体を吸い込み始める。
「く、ジョウイ、お前……ッ!」
「じきに“始めます”。その時には、賢明な判断を望みます」
言葉を遮るようにジョウイが右手をかざすと、蒼き門は更なる輝きを放つ。
吸引力を強めたその送還に、ストレイボウもまた踏ん張ることもままならず、
持っていたデイバックすら手放し手近な岩を手でつかんだ。
だが、魔術師であるストレイボウの細腕ではそれも時間の問題だった。
・もう止められないのか……
・待ってくれ!
→・待ってくれ!
既に体を浮かせたストレイボウの両腕が、岩を握りしめる。
爪はひび割れ、唇を切るほどに歯を食いしばり、それでもその手を離さない。
ここまま去るわけにはいかない。絶対にそれだけは許されない。
「なんでだ、なんでそこまでアイツを、オルステッドを憎むんだッ!?」
喉を裂くほどの絶叫が、門の吸引を破ってジョウイを打つ。
ジョウイの殺意をそのままにはしておけなかった。何故オディオが、否、オルステッドが討たれなければならない。
「リオウが死んだからか? ナナミが殺されたからかッ!?
言っただろう、全ては俺が始まりだ! 俺のせいでこうなったんだ。憎まれるべきは俺なんだッ!!」
ああ、今ならば彼<彼女>は理解できる。
きっと、彼らがジョウイを愛していたように、ジョウイも彼らを愛していたのだろう。
それを引き裂いたのは、この墓場を作り上げたオディオ、オルステッドかもしれない。
だけど、それを言うならば、そもそもの始まりはこの自分のはずだ。
だから、償うべきは俺だ。悪いのは俺だ。死ぬべきは俺だ。
「なのに、なんで俺を助ける! さっきルクレチアから逃がしてくれたのはお前だろう!?
救われるべきは俺じゃない、あいつだ。あいつなんだッ!!」
だからどうか、どうか“オルステッドを”。
「――――友に自分を殺させることが罪ならば、僕たちは最初から咎人だ」
それでも、どれほどに懇願しても、目の前の魔王はただ一欠けらの憎悪も恵んでくれなかった。
代わりに与えられたのは、崩れ落ちてしまいそうなに柔い懐旧。
「ストレイボウさん。僕が貴方を本当に許せたのはね、貴方が羨ましかったからです」
ストレイボウを繋ぎとめていた最後の一欠けらが砕け、虚空へと再び吸い込まれる。
渦に呑まれながらストレイボウは、粒子と消えていくジョウイの左眼と視線を交えた。
「“僕達は、あの丘で殺し合うことしか選べなかった”。
でも貴方は、僕が本当に欲しかったものの名前を失う前に言えたんだから」
その虹彩に映ったのは、遥かなる過去。
憎悪に満たされた右眼の黄金よりも輝く、小さく、儚く、しかし確かに暖かな何か。
ついに宙に浮き、ゲートに吸い込まれるストレイボウは諦めずジョウイに手を伸ばす。
「貴方は楽園で生きて下さい、ストレイボウ。“たとえ『全て』を失っても”、そこでなら、もう何も失わない」
しかし、その手が何かと繋がることは無かった。
煌々と輝き続ける虹色の感応石の前で、ジョウイの意識がグラブ・ル・ガブルより浮上する。
ストレイボウと出会ったジョウイは、ジョウイが死喰いに干渉した時同様、感応石を介して送った精神体であった。
だが、ジョウイの肉体に全くの変化が無いわけではない。
体内ではちきれんばかりの憎悪はついにその右眼は黄金に染め上げ、先ほどストレイボウが見たそれと同じになっている。
形状も人間というよりは獣のそれに近い。ストレイボウを拾い上げて送還するのに、力を酷使した代償であった。
「づづづ~~~~~~っ。おっかえりー」
右眼を押さえながら声の方に振り向くと、其処にはいつもと変わらぬ占い師がいた。
いや、少しばかり様子が変わっている。顔の前に湯気が立ちこめ、眼鏡は真白に曇ってい。
手に持っていたのが杯ではなく椀であり、その中に入っているのは酒ではなく蕎麦であったか。
「……なにをしてるんですか?」
「見りゃわかんでしょーよ。八つ時よ八つ時。おやつの時間」
そう言いながらメイメイは目の前でぐつぐつ沸く鍋から箸で高く蕎麦を持ち上げ、
一度椀かけ汁にくぐらせてから喉で味わうようにずずいとすすり上げる。
蕎麦と唇の間をすり抜けられなかったかけ汁が飛沫とはねる。
「みんな休んでるし、私だけ水晶玉にらめっこしてるのも寂しいし。
幕間の内に食べておかないとねぇ。……別に上に対抗した訳じゃないからね。
地上も莫迦よねえ。米が余るならお酒つくればいいし、麺麭<パン>が余るなら麦酒<ビール>つくればいいのよ」
そう言いながら、眼鏡を曇らせたまま椀をおいてメイメイは酒を再び煽る。
「……」
「なに、欲しいの?。どぉーっしようかにゃー。支給品以外で食事させるのもルール違反っぽいしー。
でもまあ現地調達扱いだったらいいのっかなー。どーしても欲しいっていうなら~」
「いえ、いらないです」
「即答、ですって……!?」
まったく興味を示すことなく傍を通り過ぎたジョウイに、メイメイは唖然とする。
「あかなべ印の蕎麦断る人初めて見たわ……あ、らーめんもあるわよ」
このままでは出落ちになると焦ったか、メイメイは指で鍋を指す。
よく見れば円形の鍋は上下を波打つ金属板で仕切られており、
蕎麦を茹でていたのはその半分で、残りの半分は醤油の芳しい香りとともに黄色い麺が茹で上げられていた。
「リィンバウムじゃ最新の料理なんだけど。名も無き世界じゃ298何某でこれが食べられるらしいけど、すごいわよねえ」
「それは――――」
どこの世界のごちそうデスか、と言おうとしたジョウイの言葉が内側からせき止められる。
突然で強烈な嘔吐感がせり上がってくる。だが、碌に何も食していないジョウイの体内からは吐き出るものはなく、
血混じりの胃液が口の中を濯ぐだけだった。
「っ、っは、がぁ、はぁ…………」
「――――もうそこまで感じるようになってる、か。
せめて水だけでも飲んでおきなさい。そのうち、水のコトまで分かるようになったら、それもできなくなるわよ」
あきれたような表情で、メイメイは麺をもぐもぐと噛んで味わう。
蕎麦にしろらーめんにしろ、いや、干し肉にしろパンにしろ、
全ては加工されたものだ。茎を切り刻まれ種を鋤かれ、石臼ですり潰され、釜の湯で熱されるか猛熱で焼かれるか。
もしもそれが、自分の立場だったらどう思うか……それを人が理解することはできないし、してはならない。
だが、ジョウイはそれを識ることができてしまう。そういうものになってしまった。
犠牲とすら思われないもの達を、敗者にすらなれないもの達の想いまで、認識してしまう存在となった。
知ってしまえば、人間のままではいられないものを知ってしまったのだ。
「いえ、結構です。あの味を、忘れたくないんですよ……」
両手を押さえ、胃からわき出たものを無理矢理戻す。
何一つ吐き出したくなかった。僅かでも外に漏らしてしまえば、あの焼きそばパンすら、消え失せてしまいそうだったから。
「それで、メイメイさん、さっきのこと……」
「にゃは? なんのこっとかしら?」
メイメイはとぼけたようにジョウイに聞き返す。
ジョウイが言い掛けたのは、当然ストレイボウとの邂逅だ。
万一を考えて感応石を介してストレイボウと会話したから会話内容までは分からないだろうが、
彼処での邂逅はそうはいかないだろう。特に、この傍観者の千眼からは誰も逃れられない。
だからこそ、どこまで見たのかと確認しておきたかったのだが……
「今、地上が熱いのよ。もう青春ドラマもびっくりの青臭いのが乱れ飛んでるのよ。
そのくせ貴方、ずーっとそこに座って何もしてないじゃない。
そんな放送事故みたいなの観てるくらいならおもしろい方を観るに決まってるじゃない。
魔王(笑)なんて後回しよ後回し。にゃは、にゃははは」
らーめんをすすり終えたメイメイは再びぐいと酒を煽った。
そのわざとらしさにジョウイは少しだけ緊張を緩めた。
つまるところ、メイメイなりの気休めということだ。
オディオのこと、メイメイの眼に頼り切っている訳もないだろうが、多少の時間稼ぎにはなるかもしれない。
「ありがとうございます」
「……勘違いしないでよね。食べにくいものを後回しにしているだけよ。
英雄の故事に曰く『十割より二八の方が喉越しがいい』ってね」
ぷい、と顔を背けるメイメイに、ジョウイは苦笑する。
なるほど、ならばジョウイの理想はさぞ喉越しが悪そうだ。
ならばそれを食わせるのは、料理人の手腕ということだろう。
ずん、と空が揺れ、メイメイが上を仰ぐ。
当然、この地下71階で空の揺れが分かるはずもなく、それはつまり上の階層の振動ということだった。
「……もう少し調練を続けたかったけど、潮時だな。なら……」
当然のこととばかりに呟くと、ジョウイは蒼き門を開く。
そこから出てきたのは、騎兵に跨がったクルガンだった。
金眼白貌、モルフそのものの姿であったが、ジョウイは彼が役目を果たしていたことを識っている。
クルガンが持った布袋をみる。人一人収まりそうな大きさだった。
ジョウイはそれを名状しがたい表情で見つめた後、微かに頷いた。
クルガンは何もいわずにそれをしかるべき場所へ安置しに向かった。
彼が生命の泥と模倣の未練で創られた人形<モルフ>であることをジョウイは忘れてはいない。
「国交は上手くいった。徴発も、この短い時間を考えれば十分だろう。
この後の配備に時間を食うとしても……うん、ぎりぎり3時か。悪くない」
ジョウイは算盤を弾くような明瞭さで、己の状況をまとめ上げていく。
まるで牢屋から抜け出す悪戯を考えつくかのように、その計算機は駆動していた。
あれだけの葛藤が、嘘であるかのように。
「…………実際、なにやってたのよ、本当」
「いろいろしながら、いろいろ考えていました。
イスラ、カエル、アナスタシアさん、ピサロ、アキラ、そしてストレイボウさん。
誰一人として弱い人なんていない。僕がまともに勝つ絵がまるで浮かばない。
まともにぶつかったら、それこそ10分保たずに消し炭になるような気がします」
相手はこの死線を潜り抜けてきた強者6人、それぞれが一騎当千の英雄だ。
対してこちらはオディオより何枚も格落ちの新米魔王。勇者に討たれる存在だ。
しっぽも取れない赤子の蛙が、蛇を前に慢心などできるはずもない。
「だから、こっちのできることをします。
僕が一番したくないことだけど、僕ができることはこれしかないから」
憎悪に染まった右目が蠢き、ジョウイの唇が吊り上がる。
ストレイボウに逃げて欲しいと言っておきながら、こんな準備をできる自分の人間性を笑いたくなったのだ。
あの土下座に、彼らに逃げて欲しいと思ったことに偽りはない。
だが、それと同時に、彼らを殺す算段を冷徹に編み上げてしまっている自分がいる。
本当に彼らが逃げると信じられるならば、こんなことをする意味はない。
死んでほしくないと想いながら、凶器を手放せない。
殺さなければいけないと分かっていながら、その手を振り下ろせない。
この中途半端、この不完全。反吐が出るほど最低だ。
「それでも、歩みだけは止めはしない」
だが、その顔は自分をあざ笑う諧謔の笑みすら浮かべることを許さなかった。
その全てを傷つける甘さすら背負って進む以外に、ジョウイは術を知らないのだ。
究極的には、力で他人を傷つけることしかできないと知りてなお、
そんな自分だからできることがあると信じて進む以外に。
蕎麦とらーめんの太極鍋からわき上がる湯気で眼鏡を曇らせたまま、
傍観者は目の前の役者を見つめて、その一言だけ告げた。
「貴方って、最低のクズだわ」
その言葉に、遺跡の震えが止まる。
そして、三人でいられなかった少年は感謝するように応じた。
「もっと早くそう言ってくれる人がいたら、きっと救われたいと願えたよ」
【F7 アララトス遺跡ダンジョン地下71階 二日目 午後】
【ジョウイ=ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:クラス『伐剣王』 ダメージ:小 疲労:極 金色の獣眼(右眼)
首輪解除済み 腹部に傷跡 『魔王』としての覚悟
紋章部位 頭:蒼き門の紋章 右:不滅なる始まりの紋章
[スキル]:紋章術・蒼き門(Lv1~4)、不滅なる始まり(Lv1~3)
フォース・クレストソーサー(Lv1~4)
アビリティドレイン、亡霊召喚、モルフ召喚
返し刃のダブルアタック 盾の鼓動は紅く輝く
[装備]:キラーピアス@DQ4 絶望の棍 天命牙双:左 ハイランド士官服 魔王のマント
[道具]:賢者の石@DQ4 不明支給品×1 基本支給品
[思考]
基本:優勝してオディオを継承し、オディオと核識の力で理想の楽園を創り、オディオを終わらせる。
1:地下71階で準備を完了させる
2:参加者を可能な限り殲滅し、その後死喰いを完全な形で誕生させる
3:ストレイボウたちが脱出を優先するなら見逃す
4:優勝しても願いを叶えない場合、死喰いと共にオディオと一戦行う
5:メイメイに関してはしばらく様子見
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で
2主人公を待っているとき
[備考]
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※無色の憎悪の『始まり』を継承し、憎悪を限定的に制御できるようになりました。
ただし、毒性はそのままのため、日没までには憎悪に喰われます。
※マリアベルの欲望の残滓を魔剣に取り込んだことで、アビリティドレインが使用可能。
無色の憎悪を介して伐剣王が背負った(魔剣に想いを取り込んだ者)の能力を限定的に使用できます。
ただし、その為には死の痛みも含めた全てを背負う必要があります。
また、ロードブレイザーのようなジョウイの理想に全く繋がらない想いは背負えません。
※アビリティドレインにより『災いを招く者』の力と誓約しました。
その力とグラブ・ル・ガブルにより、亡霊騎士をモルフ化しました。
この2体のみ維持のための魔力コストがなくなりましたが、破壊されれば再召喚はできません。
※放送時の感応石の反応から、空中城の存在と位置を把握しました
※ロザリーが見たのは、死喰いに喰われたルクレチア@LALでした。
ルクレチア以外の場所(魔王山等)が死喰いの中にあるかは不明。
※召喚獣を使い、遺跡ダンジョンの地下1階~地下70階までを把握しました。
※メイメイが地下71階に待機し、オディオにも通じる状態でジョウイを観察しています
※死喰いの誕生とは、憎悪によって『災いを招く者の闇魔道』を起動させることで、
グラブ・ル・ガブルとプチラヴォスの亡霊をモルフとして再誕させることです。
ただし、現在は闇魔道の半分がジョウイの魔剣に封じられたため、
現時点ではジョウイにもオディオにも不完全な形でしか誕生できません。
「おい、大丈夫かストレイボウッ!!」
必死な叫び声に、ストレイボウは目を覚ました。
開いた瞼の向こうには、覆面越しに安堵の溜息をつくカエルがいた。
「叫び声がしたと思って来てみれば、寝こけやがって。悪いユメでも見ていたのか?」
こめかみを押さえながら上体を起こすストレイボウに、カエルは水筒を差し出す。
それを反射的に受け取りながら、ストレイボウは周囲を見渡した。
澄み渡った青空に乾いた大地。何一つ転移する前と変わらない光景があった。
「なあ、ストレイボウ。アナスタシアのところに言ったついでに装備を見繕っていたのだが、
俺の得物――天空の剣とブライオンがダブってしまった。
どちらも馴染むからいいのだが、ガルディア騎士団は盾を商うから二刀流はあまり経験がない。
お前はどっちが――おい、ストレイボウ?」
服の着こなしを確認するかのようなカエルの言葉もストレイボウには上の空だった。
空を見上げる。澄み渡ったはずの青空の上に、不可視の空中城が存在する。
大地に触れる。乾いた荒野の最下層に、死を喰らうものが存在する。
空から伝わる光は全てオディオの視線で、地面に感じる拍動はジョウイの心音。
「なあ、カエル。
クロノとマールとルッカって、仲が良かったのか?」
その天地の狭間に立ちながら、ストレイボウはカエルにぼそりと尋ねた。
カエルはその質問の意味を推し量ろうとしたが、すぐに無意味と判断したのか、数秒間考えて答えた。
「……そうだな。時代の違う俺にはあいつ等の関係はよくわからん。
だが、どれだけの時代を経ても、あいつ等が決別する光景は思い浮かばん」
たとえ、死でさえも、本当の意味であの『三人』を断ち切ることはできないのだろうと。
その答えにありがとうと言いながら、ストレイボウは右手を見つめた。
握り締めたゲートホルダーはひび割れて煙を吐いており、もはや修理の処方もないほどに機械としての命を終えていた。
壊れたそれを見て、あの世界での出来事が理想<ユメ>ではないということを思い知らされる。
散乱したバックから時計を取り出し、針をみる。
すでに、放送から2時間が経過していた。約束の時は確実に近づいている。
オディオの所在、脱出方法、死喰い、ジョウイの狙い、方針。
考えるべき、伝えるべきは山ほどある。だが、この瞬間何よりもストレイボウの頭を占めたのは。
(俺は、俺はどうする……?)
あのルクレチアで握られた両手の感触を思い出しながら、ストレイボウは手を摩る。
リオウとジョウイ。オルステッドとストレイボウ。
『三人』でいられなかった対極の2人を前に、己が為すべきコト。
決まったはずのストレイボウの『答え』は、未だ天地の間を揺蕩っていた。
【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 午後】
【ストレイボウ@
LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:中、心労:中 勇気:大
[スキル] ルッカの知識(ファイア、ファイガ、フレア、プロテクト)*完全復元は至難
[装備]:フォルブレイズ@FE烈火 天罰の杖@DQ4 マリアベルの手記@貴重品
[道具]:クレストグラフ@WA2(クイック、ハイパーウェポン)
[思考]
基本:“オルステッド”と向き合い、対等になる
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
2:とりあえずジョウイから得た情報を皆に伝える
3:俺はオルステッドを、どうすれば……
[参戦時期]:最終編
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※ルッカの記憶を分析し
【バトルロワイアル開催以降の記憶】と【千年祭(ゲーム本編開始)以降の記憶】を復元しました。
※ゲートホルダー及び感応石×4は過剰起動により破損しました
※ジョウイより空中城の位置情報と、シルバードの情報を得ました。
【カエル@
クロノ・トリガー】
[状態]:瀕死:最大HP90%消失 精神ダメージ:小 覆面 右手欠損 左腕に『罪の証』の刺傷
疲労:中 胸に小穴 勇気:真
[装備]:天空の剣(二段開放)@DQ4 パワーマフラー@クロノトリガー バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:ブライオン@武器:剣
[思考]
基本:幸せになれと、その言葉は刻み込んだ。ならば痛みにこの身を晒し、幸せを探して生きるのもひとつの道かもしれんな。
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)
<リザーブ支給品(全てC-7とD-7の境界(C-7側)に集められている)>
【ドラゴンクエスト4】
毒蛾のナイフ@武器:ナイフ
デーモンスピア@武器:槍
【クロノトリガー】
“勇者”と“英雄”バッジ@アクセサリ:クリティカル率50%アップ・消費MP半減
激怒の腕輪@アクセサリ
【ファイナルファンタジーⅥ】
ミラクルシューズ@アクセサリ
いかりのリング@アクセサリ
【幻想水滸伝Ⅱ】
点名牙双@武器:トンファー
【その他支給品・
現地調達品】
海水浴セット@貴重品
拡声器@貴重品
日記のようなもの@貴重品
双眼鏡@貴重品
不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
デイバック(基本支給品)×18*食品が現在アナスタシアが消費中
【用語解説:空中城と白銀の方舟】
空中城――技術大国ロマリアの技術の粋を結集して作り上げられた浮遊する城塞。
ロマリア国王ガイデルが世界征服のために建造した文字通りの切り札。
この世界において飛行技術は最先端の技術であり、そのほぼ全てはロマリアの掌中である。
その状況下で空対地攻撃が出来る機動城塞は、文字通り世界を一変させる兵器であった。
相手からの攻撃は届かず、こちらは一方的に攻撃可能という特性も、
ガイデル王の気質に見事合致した、まさにロマリアのための最終兵器と言えるだろう。
だが、その本質はロマリアを新世界に導く希望ではなく、
ガイデル王を通じてロマリアを操っていた闇黒の支配者が、文字通り世界を破滅に導くための絶望であった。
空中にそびえ立つ殺戮兵器は全世界の人間を絶望を一身に浴び、闇黒の支配者を封印から解き放ついわば負の象徴になる存在だったのだ。
だが、その奸計は新たなる七勇者達とその仲間達の手により打ち砕かれることとなる。
遙か上空に行かれてしまっては打つ手なしと判断した彼らは、彼らの母船【シルバーノア】による突撃を敢行。
多数のロマリア空軍の火砲をかいくぐりながら見事その城壁を貫き場内に進入。
場内のあらゆる罠や最後の将軍ザルバドを打ち破り、見事闇黒の支配者を封印した。
しかし、その結果として2人の勇者と聖母は命を落とし、墜落した空中城の二次災害によって大災害が引き起こされ、
さらに湖底に眠った空中城は異世界の魔王オディオの手によって再び殺戮の玉座として浮上したのだ。
“空中城に突撃したシルバーノア”とともに。
無論、勇者達を王城に送り届けた方舟は飛行船としての寿命を終えている。
だが、方舟の本質は絶望的な災害から、その船の中の希望を守ること。
船長以下乗組員を含め、人員に死傷者が確認されなかったことが、
シルバーノアが如何に堅牢であったかを物語っている。
そしてそれは人命に限らず、船内に格納された小型艇も同様である。
ゴッドハンター・エルクの所持するヒエンは空中城崩壊の際にシルバーノアから落ちてしまったが、
墜落後も修理すれば運用可能な程度の被害に留まっている。
ウェルマー博士の改修効果もさることながら、
それほどまでにシルバーノアの内部耐久性は高く、小型艇ドックは形状を維持しているのだ。
そしてオディオの手によって浮上した今、そこにはもう一つの翼が存在する。
ジール王国三賢者ガッシュの手によって作り上げられた、時を渡る翼【シルバード】である。
なぜそこにそれがあるのか、矮小なる人の身では魔王の思惑など推し量れないが、
朽ちた方舟に守られた銀の翼が、性能を維持しながら存在していることは確かである。
ただし、優れた船と操舵手がいたとしても海図とコンパスがなければ航海が出来ないように、
この催しが行われている場所の絶対次元座標<ディメンジョン・ポイント>が判別しなければ、航行は難しい。
そのデータは断章<フラグメント>として3つのデータタブレットに収められている。
現在所在が確定しているのは、元魔族の王ピサロの持つ2つだけである。
ジョウイ=ブライトは最後の1つを所持しているというが、それは所持している可能性を含め未だ確認されておらず、
それが某かの謀略に基づく詐称である可能性も否定できないのだ。
参加者所持の支給品の中にあったのか、あるいはどこかの施設に残されているのか。
最後の鍵は未だ闇黒の中にあると言って過言ではないだろう。
しかし、たとえどこにあろうともそれは確かに光への鍵だ。
その全てを揃えてシルバードに組み込むことで、銀の翼は真の方舟として帰りたいと願う者達を帰るべき場所へ送り届けるであろう。
異なる世界の二つの白銀は、王城の玉座よりもっとも遠い場所で、家に帰るべき命を待っているのだ。
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最終更新:2014年01月12日 15:27