イスラが泉にいた頃…◆wqJoVoH16Y



「あんたも水浴びかい?」

目の前に差し出された右手(の手拭い)は―――

(いやなにこの黒髪むっちゃ綺麗なんですけどっていうかえ?これナニ男性女
 性男女女ぽいってでも胸ゼロ?ステータスなのかしらてってか待ってまって
 OKOKBeCoolCoolCoolッ!ラジカセ片手に氷の計算機めいて整理しよわたしッ
 ようやく余りの首輪完全に改造できるようになって息ついたら背中も頭も髪も汗塗れのぐっちゃぐちゃであー黒髪きれーだなーって
 集中切れたら気持ち悪い汗がへばりついてて動きにくいし砂むっちゃ額にべたりんぐるんだもん
 そりゃ洗いたくなるっつーか顔の一つでも濯ぎたくなるでしょ空気読め?うっさいンなもん読めてたらこんなルートつっこんでないっつーの
 バカですかバーカバーカルシエドのオタンコナースアンタが先に周辺見てくれてたら
 こんなショボローグしなくてすんだよの気づいたら勝手に散歩なのかいないしどんだけ我が儘なのよ誰に似たのかしら
 飼い主見たら右ストレートでぶっ飛ばすと思わせて左ストレートでぶっ飛ばすから世界取れるからねわたしの左)

正確にアナスタシアの意識を捕らえ思考を揺さぶり典型的なテンパり状態を作り出した――――

(さすがにありったけボトルぶちまけてその場で洗うのもボトラーみたいで負けっぽいし
 ニートじゃないから、なんか誤解されてるみたいだけど生きたがりだけどニートじゃないからただいい男
 欲しいなあって思うだけで1000ギャラ貰える法律出来ないかなってちょっと思ってるだけだし
 肌白いなあマジ女の子みたいで地図見てたらここから北に泉があってしかも
 ギリ端っこが禁止エリアから抜けてるしこれは洗うしかないでしょマイハートッ!ってそりゃ
 行くわよあくまでも髪を洗いにあったりまえでしょいくら何でも野獣のような野獣が
 あと6匹もいるのよそりゃさすがの私だって自制無理でしたドッボーンッ!!)

「見栄切って時が来たらまた会おうって言っておきながら……? あれ……?」
そうだと予測した人物ではなさそうと気づいたイスラは
水に濡れて顔に張り付いた髪をかき分け――――

(ンギッモチイイイイイイイイッ!!!ってヌるってた汗が溶けてヘバりついてた砂が散って
 いいぞ私が純化されていくってくらい悦ってたこの身体がぁ!トロ顔でぇ!
 しかたないじゃん、女の子よ私!そりゃ男子は一週間くらい服も変えず垢まみれ汗塗れで
 ちょっとちびっても凍傷にならなければそれでいいんだろうけど無理、生理的に無理!
 半径20m以内に近づかないで!その臭気が肺胞<なか>に着床するとか耐えられないからッ!!
 でもまあかわいい女の子ならそれはそれでって、横向いたら柳のやうにひつそりと起つて居たのだ)

「あんた、カエルじゃない……?」
眼と眼が出会う瞬間、身体を濯いでいたイスラの怪訝な視線はアナスタシアをさらなる遠い世界に連れ去り――――

(濡れそぼつた髪は黒〃としながらも太陽に燦々輝き、肌は白磁のやうに艶やかなりけり
 数多の傷も霞けるいいぞ私はお前がうらやましいって女? 女の子? この島で?
 残り7人の中に女は私だけなのに? 未知の8人目だったら最高なんだけどそういうことにしたいんだけど、
 これ、やっぱ、つまり男でわたし今装備品フルリセットしちゃったんだけどえーあーうー、
 所謂一つのサムプライム演歌吽斗? ファイナル末法ワールド? サツバツ? っていうかやっぱモ)

「いやあああああああああああああああ!!!!!!!!!
 痴漢よぉぉぉぉおおおぉぉぉぉあおをぉおおぉおあおおそおおっっ!!!!」
「なんでだおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

(イスラの社会的人生の)全てを終わらせたッ!! その間実に2秒ッッ!!
乳房を腕で覆い、湖に勢いよく水没するアナスタシア。
異端技術を取り戻したベストコンディションの姿である。


「もぅマヂ無理……どぉせゥチゎ覗かれてたってコト……お嫁ィけなひ……入水しョ……」
「間違っても僕に責任はないし謝らないからな!」
湖の縁で湖面から赤らめた顔の上半分だけを出してうなっているアナスタシアは、
すでに水着に着替えていた。
心底面倒くさそうに応ずるイスラはすでに体を拭き、シャツを着ていた。
ただし、まだ熱が抜けていないのか、膝から下はズボンを捲り、湖に浸らせている。
「っていうか、なんで湖が元に戻ってるのよ……確かピザが枯らしてたでしょうが」
「略し方に悪意が籠もってない? ここはどうやら集いの泉らしいからね。
 4つの水源から集う泉だから。干上がっても、時間さえあれば集うさ」
そう説明するイスラもまた、それを見越してやってきたのだ。
ピサロとの訓練(?)の後、某かの踏ん切りをつけたイスラもまた、己に纏う汗の不快を感じ、この泉を求めたのだった。
カヴァーとはいえ帝国軍に属していた以上、我慢が出来ないほどではなかったが、
そのままでいることを良しと出来ぬほどに、雨上がりの真昼の太陽は彼らを照りつけていた。
(といっても、こんな早く溜まるものとは思ってなかったんだけど。
 せいぜい、その近くにある伏流が残ってるくらいしか期待してなかったのに)
何にせよ、大量の水があるのならばわざわざケチくさい真似をする理由はないとイスラは行水を選択した。
かつて心を閉ざしていたころならば、無意識にも出なかった選択肢を選んだのは、
ともすれば、ここに残る5人に対して知らず警戒心を薄めていたのかもしれない。
緩やかなる、しかして温かい変遷。

「へーん、やっぱデブピザロも大したことないのね」
(やっぱり警戒しておけよ僕ッ!)

それがこのざまである。
掌で鼻をかみながら臆面もなくこの場にいない者をけなす、この精神性。
イスラもまたカエル、そしてピサロと言葉を、刃を交え、少なくと分からない何かがあることを理解できたというのに。
やはりこいつだけは理解できないと思うには十分だった。

「そういえば、首輪はどうしたのさ。まさかあれだけ大見得切っておいて、できませんでしたとかいうんじゃないだろうね」
「わー、信じてないんだぁ。イスラ君に信じてもらえなくてしょっくだわぁ。しょっくすぎて手元が狂ってしまいそうだわぁ」
これ以上ないほどの棒読みで泣き言を言いながら、アナスタシアは首をすくめて湖面から手を出してやれやれと手を振る。
その小さな無数の傷を見てもなお悪態を言い返すほど、イスラはかつてと同じではない。
「……不思議なものね。貴方とまた話をするなんて思ってなかったわ」
イスラの微妙な変遷に気づいたか、皮肉げな瞳はそのままで、アナスタシアは指を絡めて腕を伸ばす。
「話が出来ると思わなかった、かな。早々死んじゃうと思ってたから」
「……ああ、そう思ってたよ僕も」
「そっか。今は違うか……うーん、そっちの予言は当たっちゃったわね」
青空に伸ばされた掌から零れた滴が、うなじを通り脇を伝い泉へと還っていく。
「“生き残るために足掻いて周りの人を苦しめて――殺してしまって本当に一人ぼっち”……どう、このペルフェクティっぷり」
「嘲笑ってほしいだけなら余所でやってくれよ」
「あら、それが君の生計(たっき)でしょう?」
コロコロと笑いながらアナスタシアは空を見上げていた。目を刺す陽光に瞼を絞りながら。
イスラはその様に言いようもない不快感を覚えながら、知らず言葉を紡ぐ。
「あんまり棘は見せないほうがいいんじゃない? もうちょこ…だっけ? も、マリアベルもいないんだ。誰も庇っちゃくれないよ」
「そうね。あの時は、ちょこちゃんがいたから」
どぷりと頭まで水につけた後、アナスタシアはゆっくりと浮かび、水の上で仰向けになる。
「もう、誰もいない。新しく手を伸ばしてくれた子も、まだ伸ばし続けてくれていた友達もいなくなって。
 それでも、私はこうして生きている。濁った未来、欠けた明日しか待ってなくても、私はこうして生きていく……君と同じね」
その結びに、今までのような険は無かった。どちらかと言えば、そうするのも億劫なほどに衰えていたと、イスラは感じた。
思考は、思想は、これほどに隔絶しているのに、境遇だけがやけに似通ってくる。
「そうでもないさ。僕には、今のアンタはくすんで見える」
「意外ね。私の値打ちなんて、君の中じゃ最安値だと思ってたわ」
「だって、アンタは言ってたじゃないか」
「何を?」
「かっこいいお姉さんになりたいって」

ちゃぷり、と波紋が揺蕩う。心臓の音まで波に変わってしまいそうな静寂だった。
「そういって、カエルに向かっていったときは、その、なんだろう。少しはマシに見えたよ。
 少なくともあの時アンタは、生きることに“上等さ”を求めていたように思った。僕が死に貴賤を求めたように。
「でも今のアンタは、ただ生きてる。前より酷い。“自棄になって生きている”違う?」
「……イスラ君、あなた一生に一度くらいはいいこと言うのね。死ぬの?」
「生憎と、今ここに生きているの意味を越えるくらいの死ぬ意味を探してるところさ」

ちゃぷちゃぷと足で水面を荒立たせながら、イスラもまた空を見る。
汗を落し小ざっぱりした形で見る空は、少し高いようにも思える。

「あぶ、足攣った!! アブアブアブアブアブアブゥゥゥゥゥ!!!!」
「アンタは空気読めよ本当にッ!!」

センチメンタルを弄んでいるうちに気づけば腕だけになっていたアナスタシアに、イスラは半ば反射的に手を差し伸べる。
だが、触れようとしたその瞬間、湖の中で頬が裂けそうなほどに笑っていたアナスタシアを見た。
まるで『待っていたわ……この瞬間<とき>をッ!!』と言わんばかりの悪魔もびっくりの笑顔だった。
気づいた時にはぐいと引っ張られ、全身が水の中に叩き落とされる。
如何な手際か、浮上したときには水着を脱ぎ捨ていつもの装束を纏ったアナスタシアが泉の淵で見下ろしていた。

「なーに偉そうなこと言ってんのよバーカバーカ水でもかぶって反省しなさい反省」
「こいつ本当に……ッ!」
「あ、そうだ。あの時の私がマシって言ったたけど、どこら辺がよ」
「……それは」

言いかけたイスラの言葉を、第三者の声が遮った。ストレイボウとカエルの声だ。
その息には感情が込められており、どうにも聞き流せるものではないらしい。
「ん、続きはまた後で聞かせて頂戴な。まあ、何よ。死にたがりよりはマシだと思うわよ、私も」
梳いた髪をまとめ上げたアナスタシアは聖剣を背中に、先に進む。昨日よりもほんの少しだけ歩調を速めながら。
その背中を、聖なる剣をイスラは見つめ続けていた。

死に価値を見出したイスラと生を渇望し続けるアナスタシアはどれだけ近づけど永遠の平行線だ。
なぜマシだと思ったのかは、自分でもよく分からない。
そう思ったのは後にも先にもあの一瞬だけだ。ただ。

生と死の境目に独り立ち、全ての災禍をそこより徹さぬと構えた女傑の姿は、
どこか、どこかあの紫を思わせたから。それはきっと、病床の小さな世界でも知っていた一番かっこいいものだったから。

交わらない平行線を貫くか細い共界線が、観えたような気がした。
例え交わらなくても、生きているのならば、いつか繋がるときがあるのかもしれない。
この空は2人だけでは広すぎるから。


【C-7 集いの泉湖畔 二日目 午後】

【イスラ=レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:びっしょり ダメージ:小、疲労:小
[スキル]:心眼 勇猛果敢 フォース・プリズナー№666(Lv1~4)
[装備]:魔界の剣@DQ4 ドーリーショット@アーク2 44マグナム@LAL*残弾無し
[道具]:召喚石『天使ロティエル』@SN3 召喚石『勇気の紋章』@RPGロワオリジナル
[思考]
基本:今はまだ、したいことはないけれど。“いつか”を望み、したいことを探し続けよう
1:『その時』は近い
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)


アナスタシア・ルン・ヴァレリアWILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:こざっぱり ダメージ:中  胸部に裂傷 左肩に銃創(いずれも処置済み) 精神疲労:小
[スキル]:せいけんルシエド 
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:ラストリゾート@FF6
[思考]
基本:生きて幸せになるの。ぜったいよ。それは、ぜったいに、ぜったいなのよ。そして。
1:『その時』は近い
[参戦時期]:ED後

 *海水浴セットはそのまま湖の淵に置き捨てました


<リザーブ支給品(全てC-7とD-7の境界(C-7側)に集められている)>

【ドラゴンクエスト4】
 毒蛾のナイフ@武器:ナイフ
 デーモンスピア@武器:槍

アークザラッドⅡ
 デスイリュージョン@武器:カード

【WILD ARMS 2nd IGNITION】
 データタブレット×2@貴重品

【クロノトリガー】
 “勇者”と“英雄”バッジ@アクセサリ:クリティカル率50%アップ・消費MP半減
 激怒の腕輪@アクセサリ

【ファイナルファンタジーⅥ】
 ミラクルシューズ@アクセサリ
 いかりのリング@アクセサリ

【幻想水滸伝Ⅱ】
 点名牙双@武器:トンファー


【その他支給品・現地調達品
 拡声器@貴重品
 日記のようなもの@貴重品
 双眼鏡@貴重品
 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
 デイバック(基本支給品)×18*食品が現在アナスタシアが消費中

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155:No.00「帝国軍諜報部式特別訓練」 イスラ 159-1:みんないっしょに大魔王決戦-魔王への序曲-
156:罪なる其の手に口づけを アナスタシア


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最終更新:2014年01月12日 15:26