天魁星の意志 ◆6XQgLQ9rNg
水の音が、聞こえてくる。でもそれは、清流が下る音とは、少し違う。
寄せては返すその水音は、遠ざかったり近づいたりを繰り返している。
その音をぼく――リオウは、桟橋の上で聞いていた。
小さな風が、肌を撫でて流れていく。
山村であるキャロで育ったぼくにとって、潮の香りを孕んだ海風は新鮮だ。
静かに響く波音は穏やかで、心地よささえ感じさせる。まるで、ついさっきの出来事が幻に思えた。
だけど、この見ず知らずの場所と、首に感じる冷たい金属の質感が、嘘などではないと訴えていた。
これが現実ならば、ぼくは、戦場に佇んでいるということになる。
互いに譲れないものを賭けて、傷つき傷つけあい、時に奪い取り時に奪われる、血生臭い世界。
ルルノイエで獣の紋章を倒し、戦争はもう終わったのに、戦場はぼくの前に広がっている。
戦場に立つのは、いつしか日常になっていた。
同盟軍のリーダーになって、多くの戦いを経験してきた。
戦いの中で、数え切れないほどの人たちと肩を並べ、剣を交えてきた。
だからこそ、分かる。
今ここに広がっている戦場は、これまで駆け抜けてきたどの戦場とも異なったものである、と。
ぼくが都市同盟のリーダーとして戦ってこれたのは、明確で強固な意志があったからだ。
皆で手を取り合って、戦争を終わらせたかった。争いのない、平和な世界を作りたかった。
そんな理想に共感してくれる人がいて、信じてくれる人がいて、力を貸してくれる人がいた。
彼らを守りたいと思った。みんなの信頼に答えたかった。
だから戦った。辛いことや悲しいことなんて、数え切れないほどあったけど、血反吐を吐きながらも戦った。
紛れもなく、ぼくの意志で選んだ戦いの道だった。
そうやって自分の意志で戦っていたのは、ぼくだけじゃない。
力を貸してくれた仲間たちも、ハイランド軍で剣を振るっていた敵たちも。
袂を分けてしまった、親友も。
みんな、自分の意志で戦っていた。自身の信念と正義と哲学に従い、誰かに強要されず戦い抜いていた。
互いに譲れない確固たるものを抱いているから、ぶつかり合う。
ぼくが潜り抜けた戦場とは、そういうものだった。
だけど、この戦場はそうじゃない。
この島に立っている人たちは、自分の意志で武器を取るんじゃない。
他人の意志によって、戦わされるのだ。
そんな戦いに、意味など存在しない。理想や信念の通わない戦いなんて、ただの奪い合いだ。
その果てに残るのは、悲しみに痛み、絶望や空虚さだけ。
憎しみと怨みと悪意に満ち満ちたあの魔王は、昏い瞳の奥でそれを望んでいるのだろう。
その望みは、ぼくが――ぼくらが願い欲しているものじゃない。
だから、もう一度戦おう。
大切なものを守るために、かけがえのないものを失わないために。
魔王を、倒す。
計り知れない闇を抱え、圧倒的な力を誇る、魔王オディオ。
その力の強大さを、先ほど名簿に目を通したときに再認識した。
この世にはいないはずの人の名が二つ、そこに記されていたからだ。
死者を呼び戻すなど、並大抵の力では実現できない。
その名前を、思い出す。
一つは、ぼくと親友を庇って命を落とした、大切な義姉の名。
彼女と再会できることだけは、魔王に感謝すべき唯一の点なのかもしれない。
もう一つは、かつてこの手で倒したはずの、凶悪な男の名。
憎悪に取り憑かれたその男は、魔王オディオとよく似ている。
疑うまでもない、最大級の危険人物だ。彼との戦いは、避けられない。
ぼく一人の力では、甦った狂皇子にも魔王にも歯が立たないだろう。
それに、首に巻きついた枷の対処も考えなければならない。
仲間が必要だ。信頼できる、ぼくを信頼してくれる、仲間が。
幸か不幸か、ぼくの仲間もこの島にいる。彼らとの合流は最優先だ。
ナナミ、
ビクトール、
ビッキー。
そして――ジョウイ。
崩れゆくルルノイエの城に、きみはいなかった。
きっときみは、ぼくらが再会を誓った場所にいたんだろう。始まりの場所で、ぼくを待っていたんだろう。
分かっていたから、きみを迎えに行こうとした。
決着を着けるためなんかじゃなく、再び同じ道を歩むために。
ぼくらの目指すものは同じはずだ。だから。
――もう一度、一緒に戦えるよね?
右手に、視線を向ける。手の甲に刻まれた紋章が、手袋越しに薄ぼんやりと輝いている。
輝く盾の紋章。
対となる黒き刃の紋章は、今もジョウイの手で輝いているだろう。
たとえ紋章が、ぼくらを傷つけ殺し合わせようとしても。
ぼくは、屈しない。抗い抜いてやる。
運命が定められたものだなんて、認めない。紋章に振り回され、宿命に従わされるなんて冗談じゃない。
ぼくの足で、正しいと信じた道を歩く。
それも全て、ぼくの意志だ。誰にも左右なんてされたくない。
「……ッ」
不意に、視界が揺らいだ。
波音が急激に遠ざかり、体から力が抜け落ちていく。
黒く広がる海に攫われるように、意識が遠のきそうになる。
崩れ落ちそうになる足腰に、力を込めた。
支給されていた槍――閃光の戦槍を両手で強く握り、その石突きで体重を支えると、なんとか倒れずに済む。
同じく支給されていた石が、木製の桟橋に落ちて、かつりと音を立てた。
意識を強く保ち、息を深く吸う。自分を繋ぎとめるために、大きく呼吸を繰り返す。
やがて、世界の揺らぎは止まり、潮騒が返ってくる。空気に交じる潮の匂いも、嗅ぎ取れた。
全身に力が戻ってきたところで、落とした石を拾い上げる。
その石は、幻獣と呼ばれる存在の力が結晶化されたものらしい。
使えるかどうか分からないけど、捨て置くわけにはいかない。
もう一度、深呼吸をする。
ぼくを蝕む輝く盾の紋章の呪いに、意志が破られないように。
所持者の命を削るこの呪いから解き放たれるには、黒き刃の紋章の主を殺す他にはない。
紋章は今も、この手で輝いている。
片割れの紋章の主を手に掛けろと命じるように。宿命に抗えるはずなどないと、嘲笑っているように。
ぼくに力を与えてくれる紋章が、命を奪っていく。
それでも、だとしても。
――ぼくは、負けない。負けて、たまるものか。
【D-1 港町 一日目 深夜】
【リオウ(
2主人公)@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:健康
[装備]:閃光の戦槍@サモンナイト3
[道具]:魔石『マディン』@ファイナルファンタジーⅥ、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルに乗らず、オディオ打倒。
1:信頼できる仲間を集める。ジョウイ、ナナミ、ビクトール、ビッキーを優先。
2:
ルカ・ブライトを倒す。
3:首輪をなんとかしたい。
[備考]:
※名簿を確認済み。
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所へジョウイに会いに行く前です。
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最終更新:2010年06月24日 20:10